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{"novel_id": "n0001ho", "chapter": 2, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0001ho/2/", "title": "海乃はデートに誘う", "content": "「おはよ。葛木クン」\n「ん」\n\n いつものように軽い挨拶を交わす二人。\n あの日から、何だかギクシャクした関係が続いていた。お互いにあの時握りあった手の感触が忘れられない。お互いにあの時交わした言葉の数々が胸に焼き付いている。一言一句覚えているほどには。気まずい雰囲気が二人を包む。\n\n「おはよ、海乃」\n「美依ちゃんおはよー!」\n\n 海乃はクラスの友人達に話しかけられる。\n 葛木ともっと話したかったのに。\n 海乃は少し残念に思うが、せっかく話しかけてくれた友人達を無下にもできない。持ち前の明るい笑顔で対応する。\n\n「おはよーみんな。いい朝だねー」\n「いい天気だよね。予報では雨降るとか言ってたのに」\n「万が一にも備えて折り畳み傘持ってきたよ。美依ちゃんは?」\n「私は持ってきてないかなー。ごめん」\n「そっかー。もし雨降ったら入れてあげるね!」\n「折り畳み傘じゃ1人分しか入れないでしょ」\n「あ、そっかー。てへへ、残念……」\n\n てへへと恥ずかしそうに照れるのは海乃の友人のひとりの空原千夏。いわゆるロリかわ系のゆるふわ低身長女子で、よく学校内にお菓子を持ち込んでは教師に叱られる天然キャラだ。\n\n「もぉ、空原ってばほんと天然なんだから」\n「てへへ、凛華ちゃんにはいつもお世話になってます」\n\n そんな千夏にツッコむのはこれまた海乃の友人の陸西凛華。細身の海乃とは少し違い、引き締まった身体付きをしている。凛華は陸上部の期待の星で、彼女の今後に期待する教師も多い。\n\n その時、クラスの男子生徒がヒソヒソと小声で話し始める。\n\n「やっぱあの陸海空美女三人衆はいいよなぁ。眼福だよ……」\n「ああ、百合百合した関係が堪らねぇよなぁ」\n\n 陸海空美女三人衆とは、海乃や友人の空原と陸西を合わせた名称である。クラスの男子達の憧れでもあり、アイドル的存在の三人にお近付きになりたい男子は後を絶たない。\n\n 空原は甘えるように海乃にこう言う。\n\n「ねーねー美依ちゃん。放課後って空いてる?」\n「放課後か。うん、空いてるよ」\n「やたー! じゃあ久し振りにカフェ行こーよ。私いちごパフェたべたーい」\n「うん。いいよ。凛華は部活?」\n「私今日は休み。だから一緒に行けるよ」\n「じゃあ三人でれっつごー! 楽しみだねー!」\n\n 海乃はチラリと葛木のほうを見る。\n ……机に突っ伏して寝ているではないか。\n 海乃と葛木は学校での身分が違いすぎてあまり一緒にいられない。隙を見て話しかけたり会ったりしているが、学校でのほとんどを空原や陸西と過ごしている海乃だ。\n\n(たまには一緒に帰ったりしたいなぁ)\n\n ぼんやりとそう思う海乃だった。\n\n※※※\n\n「──でさー、その時先生が来て、私のお菓子没収したんだよねー。酷くなーい?」\n「学校にお菓子持ってくるほうが悪いでしょ」\n「えー? 酷いよ凛華ちゃん」\n\n 放課後にて。\n 学校近くのカフェで会話をする陸海空美女三人衆。空原はいちごパフェをほっぺたに付けながら楽しげに話していた。そんな彼女に対して冷静にツッコむ陸西である。\n\n(葛木クン、今何してるかなぁ)\n\n ぽけーっと考え事をする海乃。\n 最近彼のことしか考えていない。\n この先どうやって話していいのか。\n どうすれば葛木とエッチなことができるのか。\n そんなことをグルグル頭の中で繰り返し考える。\n\n「でも先生も酷いよー。私のお小遣いで買ったお菓子なのに、没収するのは人の心がないと思う!」\n「そのお菓子、先生のおやつになってたりしてね」\n「えー?! そんなのやだよー! ねぇ美依ちゃん、そんなことないよね?!」\n「…………っ、え? な、なに?」\n「話聞いてなかったの? もぉ」\n\n ずーっと上の空で空原達の会話を聞いていなかった海乃だ。すると陸西が心配そうに。\n\n「海乃、さっきからぼんやりしてる。悩み事?」\n「え、っと……」\n「なんかあるならいいなよ。ウチら友達じゃん」\n「そーだよっ。なにかあったら一緒に悩んであげるのがともだちっ」\n「ありがとう。凛華、千夏」\n\n 悩みを聞いてもらうとはいえ。\n なんと説明すればいいのか。\n クラスのさえない男子のことが好きになっただなんて言ったら、この二人はどんな反応をするか。\n 猛烈に反対するだろうか。あるいは無理やりくっ付けさせるように葛木を脅すだろうか。そのどちらも最悪のパターンだ。\n\n「えっと……なんていうか」\n「うん」\n「なになに?」\n「…………」\n\n 悩んだ末に出た言葉はこんなものだった。\n\n「恋……しちゃって」\n「……海乃が?」\n「……うん、まあ。あ、でも相手は言いたくないかも……その子に迷惑かけると悪いし」\n「美依ちゃんが恋?! その男子めっちゃ羨ましいね!」\n\n 陸西はふーーんと静かに頷き。\n 空原はキャッキャとはしゃぎ出した。\n そんな二人の様子にドキドキする海乃。\n すると陸西が微かに表情を緩めて言う。\n\n「良かったじゃん。おめでとう」\n「うん、ありがとう凛華」\n「もう告白したの?」\n「いや、まだ……ってか、相手が私のこと好きかも分かんないし」\n\n すると空原がピッと小さな手で挙手をして。\n\n「はいっ。美依ちゃんに告白されて嫌な男子はいないと思いますっ」\n「そ、そかな……」\n「そーだよっ。だから自信持ちなよ」\n「うん。ありがとう」\n\n そう言われて少し安堵する海乃。\n そうだ。自分は可愛いのだ。だから葛木も少なからず自分に惚れているはず。そうであって欲しい。\n\n「……でも、どんな感じで接していいのか分からなくて……」\n「海乃はその子と何したいの?」\n「何って……えっと」\n\n 陸西の何気ない言葉に。\n つい海乃の脳内はピンク色に染まった。\n 顔が赤くなり、唇がキュッと結ばれる。\n その様子に何かを察した陸西(空原はいちごパフェに夢中)は、ふふっと微かに笑い。\n\n「海乃も女の子だね」\n「えっ?」\n「まあ思うよね、普通。好きな男子とエロいことしたいって」\n「ちょ、別にそんなこと……」\n「顔見れば分かるよ。それに、海乃がそういうの興味あるのは知ってるから」\n「……っ」\n\n まさか友人のひとりにバレてるだなんて。\n 海乃は恥ずかしくなった。\n\n「うぅ、でもどーやって誘っていいか分かんなくて。前までなら軽い気持ちで誘惑できたんだけど、色々あってそーゆーの恥ずくなってきて……」\n「意識しちゃったんだ。海乃は可愛いねぇ」\n「かわっ、いや……そんなことはないけど」\n「もぐもぐっ、美依ひゃんはかわいいよぉ〜?」\n\n 公園での件があってから。\n 何だか意識してしまって。いつもなら「えっちしよっか♡」なんて簡単に言えたのに。今は恥ずかしくて言えなくなっている。\n\n そんな海乃に対して、陸西は言う。\n\n「じゃさ、まずはその子とデートしてみたら?」\n「で、でーとっ?!」\n「そそ。エロいことは抜きにしてさ、フツーのデートするの。もしかしたら相手もそのうちそーゆー気分になるかもよ。そしたら誘えばいいじゃん」\n「なるほど。そっか」\n「美依ちゃんの恋、応援するねー!」\n\n 陸西のアイディアによって。\n 海乃は葛木とデートを誘うのだった。\n\n※※※\n\n 葛木は図書館で本を読んでいた。\n 誰にも邪魔されずに、静かに読書をする。\n この時間は葛木にとって至福の一時だ。\n 周りには知り合いもいない。室内の温度も良好。\n すると、すぐ横から聞き馴染みのある声がする。\n\n「くずきクン」\n「……よぉ」\n「うん。こんにちは」\n\n 海乃美依の登場だ。\n 少しぎこちない笑顔で葛木の隣に腰掛けると。\n モジモジと身体を揺らし、何か言いたげな顔をする。葛木はそんな彼女の乙女らしい行動を珍しいなと思った。\n\n「葛木クン」\n「ん?」\n「……えへへ」\n「何かあったのか?」\n「えっと……」\n\n ただデートに誘うだけ。\n それだけなのに、どうしてこんなにも勇気が必要なのか。海乃にはよく分からなかった。だけど何か言わなくてはと思い。\n\n「……今日はいい天気だね」\n「曇りだけど」\n「白くて綺麗じゃない」\n「そういうことか」\n「そそ。そういうこと」\n\n 葛木は海乃の様子が明らかにおかしいことに疑問を持った。いつもならもっと自分をおちょくるようなことを言うのに。\n\n「海乃、何かあったのか?」\n「えっ?」\n「いや、様子が変だから」\n「えっと…………えへへ」\n「ん? 熱でもあるのか?」\n\n 顔を覗き込んでくる葛木。\n とっさに立ち上がる海乃。\n\n「だ、大丈夫だから……っ」\n「どうしたんだよ。なんか変だぞ」\n「変なんかじゃ、ないもん」\n\n プクッと頬を膨らませる海乃。\n ますます頭上に疑問符が並ぶ葛木。\n 海乃は座り直し。\n\n「……コホン。えっとさ、葛木クン」\n「うん」\n「なんていうか……この前はありがとね」\n「この前? ……ああ、気にすんなって」\n「気にするよ。男の子の前で泣いちゃったんだもん」\n「そういうもんか」\n「うん。そういうもん」\n\n 海乃は「えへへ」と力なく笑い。\n\n「葛木クンにお礼言いたくて」\n「別に礼なんて要らない。感謝される理由もない」\n「そんなことないって。もぉ、捻くれてるんだから」\n「お前のことぶったんだぞ。逆に恨まれても文句言えない」\n「……私、マゾなのかな」\n「はぁ?」\n「いや、えっとね。確かにビンタされた時は痛かったけど、でも……嬉しくもあったんだ」\n\n 海乃は自身の胸に手を置き。\n\n「ああ、本当にこの人は私のことを想ってくれてるんだなって。そう思ったから。だから、全然嫌じゃなかったよ」\n「そういうもんか」\n「そういうもんだよ」\n\n しばらく無言の時間が続き。\n\n「葛木クン」\n「ん?」\n「お礼、させてよ」\n「礼なんて別に」\n「私がしたいの。しなきゃ、気が済まない」\n「海乃がしたいなら、別にいいけどさ」\n「うん。ありがとね」\n\n 海乃はニコリと微笑み。\n そして遂に、こう言って葛木をデートに誘うのだった。\n\n「葛木クン」\n「ん?」\n「私とデートしてください」\n「突然だな」\n「私はずっと思ってたよ」\n「そういうもんか」\n「そういうもんです」\n\n 遂に言ってしまった。\n 出た言葉はもう後には引けない。\n 緊張しながら葛木の反応をうかがう海乃。\n\n「……俺でいいのか」\n「いいよ。葛木クンと、デートしたい」\n「そうかよ」\n「ダメ、かな。ダメならいいけど」\n「不安か?」\n「そりゃあ。だって、男の子をデートに誘うなんて初めてだから」\n「モテそうなのに」\n「誘われたことはあるよ。でも、誘うのは初めて。葛木クンが最初の相手だよ」\n「そっか」\n\n 海乃のいつになく緊張した口調に。\n 何だか笑えてくる葛木。\n いつもは散々自分をからかって遊ぶくせに。\n こういう時はキチンと乙女になる海乃を少し可愛らしく思う。\n\n「明日は土曜だな」\n「うん」\n「学校、休みだもんな。バイトは?」\n「うん……! 明日はおやすみだよ」\n「どこ行くか決めてる?」\n「どこでも……! 葛木クンが行きたいところで」\n「俺が行きたいところだと、まじで図書館とか本屋とかになるけど」\n「大丈夫。葛木クンと一緒ならどこでも」\n「それだとお前がつまらないだろ。いいよ、海乃が行きたいところで」\n「じゃあ遊園地はどうかな。行っちゃ、だめ?」\n「いいよ。海乃が行きたいところなら別に」\n\n ぱあっと。\n 花が開いたように綺麗な笑顔を見せる海乃。\n そんな彼女の表情につい葛木は本音がこぼれる。\n\n「かわいい」\n「……え?」\n「なんでもねぇよ」\n「ねね、今なんて言ったの? 葛木クン」\n「忘れろバカっ」\n「葛木クンってば。ねぇねぇ」\n\n いつものように葛木をからかう海乃だった。\n 二人っきりのデートが明日始まる。"}

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