Krixter/Repo / n0002fv /16.json
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{"novel_id": "n0002fv", "chapter": 16, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0002fv/16/", "title": "16話 脈動", "content": "昔、エルドゥーラの国には二人の勇者候補がいた。\n一人は当然、今も勇者の肩書きを持つアルス。\nそしてもう一人は──今では戦士として同行しているグレイス。\n\n二人には戦闘の才能だけでなく『聖痕』と呼ばれる、それこそ勇者の証とも呼べる痣があった。\n遥か昔から。他所の国でも。勇者と呼ばれてきた人々には聖痕があり、聖痕そのものには特別な力もないが聖剣を始めとした聖具と呼ばれる特別な武具を使用でにるのも聖痕を持った勇者達だけ。\n\n\nしかしグレイスは生まれた頃にはあったはずの聖痕が少年の頃に何故か消失してしまっていた。\n聖痕については不明な点も多く詳しい研究成果も上がっていないが、アルスと出会い挫折を味わった事で勇者としての資質を無くしてしまったのではと言われている。\n\n\nグレイスはアルスに勝てない。\n剣の腕でも、人として出来た性格でも。\n周囲の誰もがそう評価するし、一番実感しているのがグレイス本人だ。\n\n\n──けれども。\nリリーナが好きになったのはアルスではなくグレイスだった。\n小さい頃に父から「将来は勇者と結婚して国民に希望を与えよ」と言われた時も、幼い女心でもグレイスと結婚するんだ!と勝手に思い込んでいたほどだ。\n\n思い込んだ分、グレイスの体から聖痕が消え勇者としての資質が無くなった時は──。\n喪失感のような、怒りのような、悲しみのような。\n複雑な気持ちに囚われたのを覚えている。\n\n本人は気持ちを圧し殺しているつもりでも酷い時は癇癪を起こして暴れ、泣き、ネイナを初めとした侍女達にも沢山迷惑をかけた。\nそんな事情を知っているからこそネイナも荒療治にグレイスと向き合わせてくれたのだろう。\n結ばれるかどうかは別として。\n一人の女として好きな男を選ぶか、王女として勇者を選ぶかの結論は別として。\n\n\n──結果、好きな人を選んでしまったリリーナであったが。\n女として好きな男に抱かれる悦びを知らされて、それを捨てるなんて難しいハナシだった。\n\nグレイスに「オレなんかの何処が好きになったんだ?」と聞かれて「格好いい所、優しい所、匂いも好きだし、逞しい所も。抱きしめられると心まで包まれる感じがして幸せになれるし、顔も好きだし、目元の力強さとかも……」なんて答えてしまうくらい彼の事が好きなのだから。\nなんとなく好きあって、なんとなく付き合い始めたグレイスとイーリスはリリーナの純粋すぎるグレイス好きっぷりに眩さまで覚えたとか何とか。\n\n\n──とにかく、王女としての責務で勇者アルスの結婚を視野に入れ一度グレイスの事を諦めようとしたせいか逆に想いを募らせたリリーナ。\nそんなリリーナをずっと側で見ていて彼女と同じかそれ以上に鬱憤が溜まっていたのがネイナだ。\n結果はどうなるかは分からないが、こんなにも強い想いなのだからしっかりと向き合わせるのが良いと思った。\n\n\nそして遂に──王女の責務を捨てたいという身勝手な一人の女の決意が行動に移る。\n\n\n「私──グレイスの事が好きなの。貴方との許嫁を解消したいと思うのだけど、貴方はどう考えているかしら」\n「……」\n\n\nまずはアルスに打ち明けた。\n王女と勇者の親睦を深めるために周囲がセッティングした時間の中で。\nリリーナの私室にアルスを呼んで、打ち明けた。\n\nしかしアルスは──穏やかな表情で何も言わない。\n誰にでも向ける、優しい顔を崩さないまま考えをまとめているのだろうか。\nリリーナは、この穏やかさの鉄面皮が不気味に感じて彼を好きになりきれないでいる。\n\n\n「──正直、驚いたな。君がグレイスの事を好いていたのは知っていたけども、このまま僕と結婚してくれると思っていた」\n「私も、一人で考えていたならこのまま貴方と結婚していたと──」\n「あぁ。もう君の意見なんてどうでも良いよ。──力付くで奪うだけだから」\n\n\nその急変っぷりはあまりにも突然で、リリーナは反応ができなかった。\nリリーナはいきなり腕を引っ張られ、力任せにベッドへ放り投げられてしまったのだ。\n\n\n「きゃっ!?」\n\n\nいつも穏やかな勇者アルスが、こんな乱暴な事をしてくるとは全く考えていなかった。\nリリーナも護身術を習い、暴漢にも対応できるよう訓練を受けているが不意を突かれては何も出来ない。\n戦闘のエキスパートである勇者に抗えたかどうかは別としても、一方的。\n\n挙げ句、アルスまでもがベッドに乗り込んでリリーナの両手首を掴んで抑えつけられる。\n\n\n「ははっ。笑うしかないな!グレイスは何処までも『ワタシ』の邪魔をする!!!」\n「あ、アルス……?」\n\n\nアルスがマウントを取り、リリーナを抑えつけながら高笑いしていた。\nこんな強引な行動をとるのもそうだが、その高笑いはアルスらしい穏やかさが消え去り違和感が沸き上がる。\n\n──恐い。\nリリーナは単純にそれだけを思った。\n\n\n「んんっ!?んっ、ぐぅっ!?」\n「ちゅっ、ちゅぅっ!れろっ、ちゅぅっ…!」\n\n\n押さえつけられたリリーナはアルスに唇を奪われた。\nただ奪われただけでなく舌を捩じ込まれ、口の中を掻き回され、唾液を流し込まれる。\n\nそれはリリーナの知っているキスとは似ても似つかぬ最悪のキスだった。\n好きでもない男に強引にされて嫌悪感が沸き、吐き出したいと思っても無理やり唾液まで飲まされる。\n\n相手がグレイスならいくらでも受け入れられただろう。\nむしろ乱暴にキスされても、それだけ求められていると実感し喜んだかもしれない。\n\n体が火照り、熱が全身を回るが──。\nそれは高揚感などではなく、怒りに震える行き場のない憤りだった。\nグレイスとの経験がなければされるがまま受け入れてしまったのかしれないが、今のリリーナでは不快としか感じられない。\n\n\n「ワタシの体液には媚薬効果がある。精液が一番なんだが唾液でも多少は含まれる。キミをイかせ続け、脳まで蕩けさせてやったら──」\n\n──パァン!!!\n\n\n洗脳してやる、という危険極まりない言葉が出かけたのだが遮られた。\n唾液を流し込んだキスだけで勝利を決したと思い込んだアルスはリリーナの手首にかける力を若干抜いてしまい、その隙を突いて彼の頬を全力で叩いたのだ。\n\n怯んだアルスに対しリリーナは容赦しない。\n体を丸め、力を蓄えると両足でアルスを蹴り飛ばしベッドから追い出す。\n護身術をしっかり学んだが故の、ただの箱入り王女様では見られないような軽快な動きだった。\n\n\n「何故──だ?」\n「いきなり、何するのよ!!!」\n\n\nアルスとしてはリタやアイシャにした時と同じような行動を取っていたため、リリーナだけが違う反応をするのが理解できなかった。\nこのままなし崩し的に行為に及んで女性の意識を奪い、洗脳する。それが彼の常套手段だったのだが。\n\n\nとはいえ当事者の二人が知り得ないだけで、この状況は単純な結果だ。\nアルスの唾液には精液程ではないが媚薬効果がある。\n媚薬といえば相手をエッチな気持ちにして、思考を単純化させる都合の良い薬。\n\n言い換えれば『興奮剤』。\n洗脳に直接作用しない程度の媚薬だと、服用者にとっては体が火照り思考が若干単純化する程度のモノ。\n\nアルスに好意を持つ相手なら媚薬として効果が出るのだろうが、好かれていない相手では意味がない。\nましてや、グレイスへの好意をハッキリさせた女性の前では官能的な気持ちより怒りや憤りが増すばかり。\n\n\n「フーッ!フーッ!!!」\n「……まるで、獣じゃないか」\n\n\n息を荒げ睨み付けるリリーナの姿はアルスの言う通り、人に警戒心を向ける獣そのものだった。\n決してアルスの媚薬が……興奮剤が効いていないワケではない。\nアルスにとって予想もしていなかった方向へと効果が出ているに過ぎなかった。\n\nこの後、隣の部屋で待機していたネイナを始めとする侍女や警護の兵が只ならぬ雰囲気を察して乗り込んでくる事になる──。\n\n\n◇◇◇\n\n王城で大変な事が起きてるとも知らず女をナンパし会ったばかりの女性を逢い引き宿に連れ込んで満喫しているグレイスだったが──。\n不意に、虫の知らせのような者を感じとって適当に服を着込むと宿から飛び出した。\n\nクリスには自分が元勇者候補だったという説明もしていない。\nそれどころかいてもたってもいられない、焦燥感のようなものを感じたグレイスは装備を取りに行くのもままならずクリスの聖剣アスカロンを手に感じるがまま王城に向かってしまったのだ。\n\nとはいえ盗んだワケでもなく、クリスも困惑しながらついてくる。\n説明している暇がない──気がする!とだけ口にして走っているのだ。\n\n\n「グレイス様、このまま王城に入るんですか!?」\n「警備が鬱陶しい!裏道から入る!!!」\n\n\n虫の知らせ感じるまま走ると自分の体が王城に向かっているのに気がついたグレイスは、なんとなくリリーナに危険が迫っているのにも気がついた。\nそれを意識してからはいてもたってもいられない。\n\n王城へは子供の頃に発見し使用した、城壁の小さな穴を使う事にする。\n大人の身体ではまともに通れない小さな穴だが、脆くはなっているので聖剣アスカロンで凪ぎ払うと大人でも通れる──グレイスの巨体でも通れる大きな穴ができた。\n\n\n「凄い──」\n\n\nその光景を見てクリスは純粋に驚嘆した。\n城壁は脆くなっていたとはいえ、剣の一撃で崩れる程の柔な造りには見えなかった。\n焦燥で意識していないのかもしれないが、聖剣アスカロンに魔力を流し破壊力が増している。\n\n大剣である聖剣アスカロンを難なく振り回せる体格もそうだが、アドレナリンが出て細かい事が気にならないだけかもしれないが剣の力を引き出しても疲労感や消耗を全く感じさせないグレイスの魔力容量はどう見てもクリスの上を行く。\n\n勇者の資質、と見ても実力差を実感せざるを得なかった。\n先程まではまともな打ち合いではまだ分からないけど──と言い訳じみた考えがあったけれども、今の一撃を見ただけで。\nもしアスカロンが二本あり打ち合ったとすれば負けるのは自分だと思わされてしまった。\n\n\n──まぁ、恋で盲目になったクリスは「流石はグレイス様!」と内心思うだけだったが。\n下手な洗脳何かよりよっぽど崇拝しつつある。\n生真面目すぎる女勇者が一度男に抱かれただけでこれだ。\n\n\n王城に入ると回りは知った顔ばかり。\n門の外では警備があるので形だけでもグレイスを足止めするかもしれないが、一度中に入ってしまえば何か急ぎのようでもあるんだろうと兵士も侍女も彼等を遮らない。\n\n\n「リリーナ!!!」\n\n\n城の上部にある一室。\nリリーナの私室まで難なくたどり着けた。\nしかし扉に鍵がかかっていたのか開けられなかったので、再び聖剣アスカロンで凪ぎ払う。\n\nズドォン!!!と大きな音と共に扉が崩れ、部屋に入るが──。\nそこで見たのは、異様。という言葉では済まされない異常すぎる光景だった。\n\n\n「ぐっ……!ぎぃ……っ!!!」\n「あっ♡やっ、熱いぃっ♡膣でビクビクいってるのぉ♡」\n「なっ!?」\n\n\n一人で使うには広すぎる私室の中で。\n明らかに正常な意識を失っている兵士達がメイド服を着た侍女達を犯している。\n侍女達は快楽に溺れ目に光を灯していないように見えるが、それ以上に異様だったのは男の兵士達だった。\n身体中から血管が浮き出て最悪モンスターのようにすら見える。\n\nそんなおかしな状況ではあったがリリーナは床に眠るように倒れ、ネイナも──何故かアルスと対峙する形ではあるが正常を保っており二人は犯されていない。\n最悪な光景ではあるが、それがせめもの救い。\n\n\n「やぁグレイス。キミまで来たのか」\n「アルス──この状況は一体?」\n「見て分かるだろう?僕が魔性を召喚し、兵士や侍女達にとり憑かせて肉宴を開催しているんだ。二人ばかり抵抗しているけど良い光景だろう?」\n「──そうだな。ただの乱交パーティーなら大歓迎だったかもしれないけどな」\n\n\nアルスが魔性を召喚した。\n─意味が分からない。\n目の前にいるのはいつも通り穏やかなアルスそのものだが、手にした剣──。\n聖剣グラムがネイナのメイド服を切り裂いているようにも見える。\n\nネイナの服装はコスプレ用の露出が多いメイド服なんかとは違い機能性を重視した丈の長い黒のロングスカートや長袖等で露出が少ない。\nけれども胸元は強調するかのように白を基調とした服でありながらそこだけ押さえ込むように黒色の服飾が纏っており、何処が色っぽい。\nいつかはこの服を着た彼女とも着衣エッチしたいと思っていたが、今やその服もズタボロで嬉しくない露出が目立つ。\n大きな怪我はしていないようだが、多少は血も滲んでいるのが痛々しい。\n\n彼女の装備は格闘用のピッタリとした黒の皮グローブのみ。\nどう見ても聖剣グラムとは不釣り合いの装備だ。\n\n\n「グレイス君、早くリリアンヌ様を連れて逃げてください……!」\n「……ネイナだけ置いていく、なんて事はしないからな」\n\n\n事情は分からない。\n状況も分からない。\n何故こんな事になっているのか。\n何故アルスが魔性なんて召喚しているのか。\n──意味が、分からない。\n\n\n「ん……?グレイス。君が持っているのは──もしかして聖剣かい?」\n「らしいな。あまり詳しくは聞いてないんだが、このクリスの持ち物らしい」\n「……どうも。サティアラの勇者クリスです」\n「あぁ、キミが……。グレイスだけならともかく、まだ力を蓄えきれていない『魔剣』グラムでは聖剣の相手はちょっと厳しいかな」\n\n\nアルスは手にした聖剣グラムを自ら魔剣と称した。\n今まで聖剣と周囲に言っていたはずなのに、どうして突然。\n魔性の召喚といい、まるで──悪者みたいじゃないか。\n\n\n「今回は物量で攻めさせてもらって僕は退かせてもらうよ。──できればもう少し、グレイスと一緒に冒険したかったけども」\n「アルス!!!」\n\n\n話し合いの余地すらなかった。\nどうしてこんな状況になっているのかとか、何も教えてくれないままアルスは単独で転移魔法を使用して部屋から消えた。\n──転移魔法は、本来なら地面に陣を書くなどして最低限の準備が必要。\nだというのに今のアルスは石床に転移魔法の陣を魔力か何かで浮かび上がらせるといとも簡単に消え去ってしまった。\n長年連れ添ってきたが、アルスにそんな事ができるなんてグレイスは知らない。\n\n挙げ句、アルスのいた場所からは代わりと言わんばかりに大量の触手が生えて襲いかかってくる始末。\nピンク色をした、長い肉の芽のような。\nそんな物が部屋中びっしりと床から、壁からと生えている。\n\n\n「グレイス君!!!」\n「逃げるならネイナとクリスが、倒れたリリーナを連れて逃げろ!オレが触手を足止めする!あと聖剣も返す!」\n「グレイス様、武器は!?」\n「この部屋にはリリーナの長剣があるから問題ない!」\n\n\nグレイスがリリーナの部屋に入るのは凄く久しぶりだった。\n何年ぶりかもグレイスは覚えていないほど。\nしかし箪笥の中にはちゃんと整備された長剣があるのは知っている。\n\n護身用なので使われる機会が全くないのが勿体無いからくれ、と子供喧嘩した記憶のままだ。\n聖剣程ではないにしろ、一級の鍛治師が作り上げた業物がある。\nそれを手に、襲いかかる触手を斬り払っていくが──。\n\n\n「──クリスさん。初対面の人に頼むのも悔しいのですが、リリアンヌ様を。王女様をお願いします。」\n「けど──」\n「話してる暇はない、数が多いぞ!時間稼ぎだけして無茶はしないから先に行ってくれ!!!」\n\n\n斬っても斬ってもキリがない。\n倒した端から再生、もしくは別の場所から生えて襲いかかってくる。\nしかも兵士や他の侍女達は──助ける余裕がなかったとはいえ触手の山に埋もれてしまい、今も無事なのか確認できなかった。\n\n\n「……ネイナも行って良かったんだぞ?リリーナを知らないヤツに任せるなんてらしくない」\n「……私ではアルスに襲われたら敵わないので。それに私の大切な人はリリアンヌ様だけでなくグレイス君もですから」\n\n\n恐らく今のアルスとまともに対峙できるのは同じ勇者のクリスだけだろう。\n聖痕のないグレイスでも何故か聖剣を振るえるとはいえ、使いなれていない武器では何処まで抗えるか分からない。\nクリスとしてはグレイスに敵わないと思っているようだが、グレイス本人の自己評価はまだ低いままだ。\n\n──まぁ、そんな細かい事情はともあれ。\n好いた女性にグレイスも大切だと言われて嬉しくないはずもなかったが。\n\n\n「──無茶はするなよ!ネイナもオレの女なんだから守られてれば良いんだ!!!」\n「えぇ──!」\n\n\n荒っぽい言い分になってしまったが。\n自分なりに自分にとってもネイナは大切な人だと伝えて。\n今も増え続ける触手の群れへと戦いを挑んだ。", 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