| {"novel_id": "n0002fv", "chapter": 28, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0002fv/28/", "title": "28話 戦士であり、魔王であり、勇者だった。", "content": "──魔王グレイス。\n見た目は人間そのものだが、女を抱き次々に崩落させる悪魔のような男。\n男には嫉妬を駆られそうだが、人当たりは良いので何処か憎めない印象すらあるのが厄介だった。\n本人に自覚があるかは別として。\n\nともあれ、日に日に噂だけは増して独り歩きしていく魔王説。\n\n\n魔王、というならお宝の一つでも持っているはずだととある野盗の一味が動き出した。\n勇者や王女を抱えている事もあり冒険者や騎士団が手をこまねいている間に、最初に動き出すのが野盗というのが何とも言えない話しだが。\n\n\n野盗は10人組。\n誉められる事ではないが、野盗家業にも馴れて実力のある連中だった。\n時には冒険者が護衛に付いた商隊を襲って難なく生還する事もある。\n10代半ばの若い男もいれば40代の男もいる野盗達。\n男だけのむさ苦しい集まりだったが今回魔王に目をつけた理由には、魔王の囲う女達も味わえるだろうと下衆た狙いがあった。\n\n\nそれに魔王と言っても下調べした限り噂が独り歩きしただけの、ただの戦士。\n魔法も使えずただ剣を振り回すだけの男だ。\n更に言えば女遊びがすぎるので夜襲をかければ披露した所を狙えて楽に終わらせられる。\n──そう思っていた。\n\n\n「あぁー……やっぱりきたか。アイツ等を抱いた後だから疲れてるが……まぁ、なんとかなるだろ」\n\n\n魔王が、待ち伏せしていた。\n拠点としているオンボロな家の前で、上半身裸でズボンだけの格好で。\n夜襲、奇襲と完全だと思っていた所に待ち伏せされて野盗達は面を喰らうが、魔王の囲う女達の姿は見えない。\n\n\n「勇者一向ってさ、魔物だけでなくお前らみたいな野盗に狙われる事も少なくないんだよな。\nそこらの冒険者より良い装備とか持ってるし有名だから行動も読みやすいし。\n狙うならもうちょっと上手く下準備してた方が良いぞ?」\n\n\n夜襲は見抜かれていた。\nその事に驚きを隠せなかったが、相手は男一人だと野盗達はしっかり確認する。\n周囲に隠れている様子もないし、相手はどう見ても魔王と呼ばれる男一人。\n\nむしろ好機だと野盗達は考える。\nこれなら手違いで女を傷つける心配もないし、何より魔王よりも女達の方が厄介だからだ。\n\n女勇者に賢者。それに王族として隠し玉を持っていてもおかしくない王女相手よりはただの戦士一人の方が楽にも程がある。\n\n\nこりゃ楽勝だなと野盗達は笑顔が零れはじめ──。\n\n\n「オレはともかくウチの女に手ぇ出したら──容赦しねぇぞ?」\n\n\nその一言で、魔王の回りに漂う空気が変わった。\nだらしのない。女に弱いろくでなしだと思っていた男が。\nとてつもない殺気を放ち野盗達を見据える。\n\n野盗達もそれなりに場数を踏んだ連中だった。\n睨み付けられただけで、男が只者ではないと悟らされてしまう。\n若い野盗に至っては足が震える始末だ。\n\n\n──何だ。\n魔法も使えない只の戦士に何でこんなに気圧される……!?\n野盗達は誰もがそう感じ始めた所で魔王は武器を構える。\n\n右手には彼の銘はないが慣れ親しんだ武器である片手持ちもできる大剣バスタードソード。\n左手には聖剣アスカロン。こちらは普通の大剣だが聖剣という事もあり使いこなせば軽々と振り回せる魔法補助が剣にかかっており、こちらも片手て難なく持っていた。\n\n大剣二刀流。\nふざけた光景だが190cmを超える長身と鍛えられた肉体で思ったほどの違和感はない。\n\n──パワータイプの戦士だ。\n野盗の誰もがそう思い身構えようとしたところで。\n\n\n「ぎゃぁぁっ!」\n「はっ?」\n\n\n野盗の一人が魔王に蹴り飛ばされていた。\n素早さが売り手の盗賊職ですら反応できない俊敏さで距離を詰められて、一瞬の出来事だった。\n近くにいた野盗が斧を振りかざすが、振りかぶっている間にバスタードソードで斬り捨てられた。\n\n圧倒的な速さだった。\n目で追えない程ではないが一つ一つのアクションが一手二手早く対応しきれない。\n何とか長剣を交えた野盗がいたが、片手で携えたアスカロンにあっさりと弾かれてこれまた斬りつけられる。\n\nパワー。スピード。\nどちらかに片寄っているのではなく、どちらも最高峰だった。\nそして魔法を唱えようとすればその野盗に一瞬で詰め寄る空間把握能力。\n\n\n戦いに『慣れた』程度の実力じゃ話しにならない。\n『ベテランで最低限』な実力の世界。\nせめて騎士団長や冒険者のトップクラス。野盗でも大集団のビックボスじゃないと話しにならないだろう。\n\n目の前の戦士──いや、魔王は。\n勇者でないと敵うはずがない。\n\n\n「うわぁぁぁ!!!?」\n\n\n野盗は逃げ出した。\n一番の年配だった、リーダー格の男だ。\n野盗とはいえ仲間意識はそれなりにあるし見捨てたくなかったが、『そんな事は』は些細に思えた。\n世の中、自分の身を守るのもままならないのだから。\n\n\n「ちょっと待てや」\n「ひいいっ!?」\n\n\nいつの間にか魔王が先回りしていた。\n武器も捨て身軽になった男に、どんなスピードをしていたら大剣二本携えながら回り込めるんだとパニックになる。\n\n野盗の頭に浮かぶのはもはや命乞いだけ。\n土下座すれば良いのか、靴でも舐めれば良いのか、いや逆に自分の唾液で汚してしまうだけじゃないのか。\n年配だとかリーダーとか、そんなプライドは魔王の戦いを遠目に見てるだけで消え去った。\nせめて漏らして地面を汚さないようにするのが精一杯。\n\nそれだけの圧倒的な戦闘能力を魔王に見せつけられた。\nその気になればその身一つで村や街を滅ぼせそうな圧倒的力。\nそんな力ある魔王の口が開き──。\n\n\n「まだ全員生きてるから治療してやんな。ウチの女集は寝てるから力を貸せないがポーションくらいならある」\n「……へっ!?」\n\n\n野盗が後ろを振り返れば全員が痛みに悶えながらも、生きていた。\n死んでいては、痛みに悶える事もできない。\n斬り伏せられているヤツもいるが、傷は深くないようだ。\n実力差がありすぎたため、加減されていたらしい。\n\n\n「な、なんで……」\n\n\n襲ってきた野盗なんかを何故見逃すのか。\nしかも傷を癒すためにポーションまでくれるという。\n全く理解できなかったが魔王は居心地悪そうに後ろ頭を掻きながら。\n\n\n「一応、勇者一行だからな。無益な殺生はできねぇよ」\n\n\nそれは彼にとって言い慣れた言葉だった。\n先も言ったが勇者一行は魔物だけでなく人間にも狙われやすい。\nそれでいて自分の身よりも相手を気遣う、お人好しな行動をしてしまうのが──勇者一行だ。\n\nどれだけ一方的な悪意等を向けられようと。\n殺すためではなく人々を守るため戦うのが勇者。\n騎士であれば同じ被害が出ないように野盗を捕まえるか殺すかしてしまうかもしれない。\nけれど勇者にはそんな責務はなく、人々に手を差し伸べるのがあり方だ。\n\n勇者の資質は『聖痕』よりも、こういった──お人好しさにあるのかもしれなかった。\n\n\n今のグレイスは勇者アルスの一行ではない。\nアルスが謎の力を使うと同時に離れ離れになったから。\n一応勇者クリスもいるが──最近の彼女はグレイスに従うばかりで勇者らしい行動はしていない。\n\nグレイスに勇者一行を名乗る資格も義理も無かったが、慣れ親しんだ生き方を変える事はできなかった。\nそんな彼の生き様を見て野盗は──。\n\n\n「俺達、心を入れ換えます勇者様っ!!!」\n「いや勇者じゃねぇよオレは」\n\n\n野盗は頭を地面に付けるほど下げて心の底から言葉を発する。\n圧倒的な力を持ちながら底知れない優しさと懐の大きさを感じとり、素直な言葉を口にした。\n\n勇者と呼ばれ困るような呆れるような顔をする戦士だったが。\nバスタードソードと、聖剣アスカロンを携えるグレイスは。\n野盗の目には凛々しい勇者のようにしか映らなかった。\n\n\nグレイスは戦士であり、魔王であり、勇者だった。"} |
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