| {"novel_id": "n0002gf", "chapter": 17, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0002gf/17/", "title": "十二話 〜魔法少女チエリの犠牲〜 (リョナエロ有り)", "content": "・魔法少女ヒマリ(三話にて初登場)\n クラス:オオワシ(飛行能力特化クラス。反面、他の能力は高くない)\n ランク:A(非常に高い戦力)\n スキル:肉体強化(C)、飛行(A)、投擲術(S)、魔力付与:野球ボール、バック(特殊発現スキルのためランク無し)\n 備考 :ボクっ娘、日焼け\n\n バスト:D\n ヒップ:83\n 身長 :166センチ\n 髪色 :赤(変身前は黒)\n 髪型 :耳の下ぐらいまでのショートカット\n\n コスチューム:白を中心としたベースボールシャツと、濃紺のホットパンツのようなコスチューム。シャツの肩から先は赤基調のカラーリング。\n 膝を守るプロテクター付きのニーハイソックス。\n 背中には大きな茶色の翼(収納可能)\n\n 特筆事項:私立三日月学園 女子野球部ピッチャー 野球特待生\n\n・魔法少女チエリ(三話にて初登場)\n クラス:天使(幻想種。回復、遠距離攻撃、飛行が可能な強力なクラス)\n ランク:S(非常に高い戦力評価と、最高ランクの戦略評価を持つ)\n スキル:肉体強化(B+)、飛行(A)、自己回復(S)、他者治癒(S)、武器生成:弓矢、命中補正(C)\n 備考 :大人しいが芯が強い、ヒマリの親友\n\n バスト:E\n ヒップ:83\n 身長 :153センチ\n 髪色 :茶色\n 髪型 :ふんわりしたボブカット\n\n コスチューム:少しピンクの入った白いワンピース。襟のところにハートがあしらわれている。\n 背中には大きな白い翼(収納可能)\n\n 特筆事項:現役魔法少女中、潜在魔力量だけなら最大のポテンシャル\n\n\n====================\n\n\n 指先を擦って白球が空気を切り裂く。\n 足から始まった回転運動のエネルギーを吸い込んだボールは、ボクの腕を離れて抉るようにストライクゾーンを貫く。\n\n 慌てて振られたバットなんてかすりもしない、キャッチャーミットに突き刺さる快音が勝利を告げた。\n\n「ストライク! バッターアウト! ゲームセット!」\n\n 同時にマウンドが歓声と勝鬨に埋め尽くされる。\n スコアは1−0、相手のチームは全国最強と名高い黒岳女学園野球部で、それを相手に勝てるとは、正直ボクも思っていなかった。\n\n「すごいよヒマリ!!」「やったな! ヒマリのおかげで勝てたよ!」「ヒマリちゃん!! わた、わたし……!」「1点取ったアタシも褒めてくれー!」\n\n 腕はちぎれそうなくらいに疲れている。\n 脚は立っているのもやっとなくらい辛くて、今すぐ寝転んでしまいたい。\n\n でも、今はそれよりもーー\n\n「やったーーーー!!!! 勝ったよーーーー!!!!」\n\n チームメイトに派手に飛びつく。\n 慌てながらも抱き止めてくれるみんな大好き!!\n\n「勝った! 勝ったよ!! ていうか1点もとられてないよボクすごくない!!?」「ああすごいすごい!」「やったよヒマリ! 流石はエース!」「ちょ、力強い! 腕痛いってヒマリ!」「ヒマリは最高のピッチャーだよ!!」「私にも抱きついて!」\n\n わやくちゃでめちゃくちゃでぐっちゃぐちゃ、みんな何を言っているのかもわからないぐらいにはしゃいで、千切れそうなくらいヘトヘトな身体もすっかり忘れて大はしゃぎ。\n\n ボクは野球が好きだ。\n チームメイトと一緒に汗を流して練習して、マウンドに立つのも、バットが白球を捉えて快音を鳴らすのも、隙をついて塁に走り込むのも好きだ。\n\n でも何よりもピッチャーとして、自分の腕から放たれた白球が空気を切り裂いて打者を打ち取る瞬間、長い長い練習の結実のような美しい軌跡がミットに収まる時ーー\n ボクは本当に、自分はピッチャーをするために生まれてきたんじゃないかなって、本当に思うんだ。\n\n\n ああ、でも、こんな風に思えることに理由があるのなら、きっとそれはーー\n\n「おめでとう、ヒマリちゃん……!」\n\n 野球部でもないのにわざわざ県外までやってきてボクを応援しにきてくれた、この親友ーーチエリのおかげかなって、ボクは思うんだ。\n\n ====================\n\n ボクは元々、ボール遊びが好きだった。\n 野球を選んだのは本当になんとなく。\n たしか、家のすぐそばの公園で女子チームが活動していたとかそんな理由だ。\n\n 運動神経の良いボクはすぐにピッチャーとしてチームの中心になった。\n 走るのも早かったし、チエリが言うには見た目も良いらしいボクは文句なしのみんなの中心で、ボクもそういう自分を当然だと自信もあった。\n\n そんなボクがチエリと仲良くなったのはまあ不名誉なことに、ボクの成績が大変よろしくなかったのが理由だったりする。\n\n 小学生の時分、漢字という概念に憎しみを燃やしていたボクは当然のようにテストの成績が悪く、宿題をどっさりと出されてしまったのだ。\n そんなボクを見かねて声をかけてくれたクラスメートがチエリーークラスで一番勉強ができて、よく窓際で本を読んでいる子、それ以上のことは何も知らない相手だった。\n\n それでも当時のボクにはまさに救いの天使様、図々しくも家にまで上がり込んでどうにか宿題をやっつけたのだ。\n\n チエリは本当によく勉強ができたーー特に漢字なんてどう考えても小学校で習っていないような物までスラスラと読めるから、聞いたんだ。\n どうしてそんな漢字まで読めるのかって。\n\n そうしたらチエリは、少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうに笑って一冊の本を見せてくれた。\n\n それはいわゆる、医学書だった。\n 今思えばかなり内容は簡単なもので、たぶん中学生ぐらいに読ませることを想定していたんだろう。\n\n でも、小学校も半ばのボクやチエリが読むものとしてはとんでもなく難しくって、でも、本当に人を治すための技術が書いてある、学校の張り紙なんかとはわけが違う『医学書』だった。\n ボクには半分も読めなかったけど、これがそういう、本気のものだって言うのはすぐにわかった。\n\n「私、お医者さんになりたいの。\n 風邪を引くとツラいし、ケガって痛いから、それを治せるお医者さんって、すごいなって思うの」\n\n ーーそれで、今から勉強してるの? 私たち、まだ子供だよ?\n\n「お父さんもお母さんも立派な夢だって言ってくれたんだけど、とっても勉強ができないとなれないよって言ってて。\n だからね、今からこうやって勉強してるんだ。\n 私はそんなに頭が良くないけど、今からやっていればそのうちなれるかなって」\n\n ーーでも、そんなの大変じゃない?\n\n「うん、大変。\n でも、なるって決めたから。\n お医者さんになるのが大変でも、それで誰かのケガを治せて、治すって決めたから、頑張ろうかなって」\n\n\n きっとその時、ボクははじめて尊敬するってことを理解した。\n\n こんなすごい子と一緒にいるのが、本当に誇らしくなった。\n いつも一緒に遊ようになって、友達と呼べるようになって。\n\n ボクが本格的に野球に打ち込み始めたのもそれからだった。\n\n チエリの友達なんだから、チエリに負けないぐらい頑張っている自分でいたかったのかもしれない。\n 練習で挫けそうな時に、チエリのことを思い出せば頑張れたからかもしれない。\n\n\n いずれにせよ、ボクは頑張った。\n 頑張れば頑張るほど成果も出て、いつの間にか野球は好きなスポーツってだけじゃなくて、ボクの一部になっていた。\n\n 今では三日月学園のヒマリといえば押しも押されぬスター選手だ。\n マウンドでは一人残らずボクの腕が投げるボールに釘付けだ。\n\n それでも、ボクが一番その姿を見せたいのはいつだってボクの誇らしい親友ーーボクの勝利にはしゃぎ過ぎて派手にすっ転んだ、目の前のチエリにだ。\n\n\n =================\n\n 空はすっかりと茜色に染まっている。\n 試合の熱狂も冷めて、チエリと二人でゆっくりと歩く帰り道はとても穏やかだ。\n\n「ヒマリちゃん、あれから腕の調子はどう?」\n\n「バッチリだよ! 事故みたいな外的要因でもなければ、多少オーバーワークしたって大丈夫だってミックも言ってたしね!」\n\n「もう…… それでもオーバーワークなんてしちゃだめだよ。\n ヒマリちゃんは頑張りすぎるんだから……」\n\n「あー、うん、えーと、ゴメン……\n あ、そ、そういえば! 最近はミックから全然連絡が来ないよね!\n もう魔法少女の任務は終わりなのかな?」\n\n チエリに追及される前に慌てて話題を変える。\n\n ボクは一度、腕を壊しかけた。\n 単純に練習のし過ぎ、いわゆるオーバーワークだ。\n\n 流石にヤバいと思って練習を減らしたりと色々したし、一応は治ると言われたんだけど、今後ずっと爆弾を抱えて行かなきゃならないと、ボクはそう言われた…… らしい。\n\n チエリは魔法少女になった時に叶えてもらえる『願い』でボクの腕を完全に治した。\n でも、その辺の辻褄合わせというか、不整合が出ないようにボクや周囲の人間の認識は「ちょっとだけ腕が調子悪くなったけど、休んだらすぐ治った」みたいになっている。\n\n でもまあ、チエリがボクに嘘をつくはずも無ければ隠し事ができるわけもないとボクは知っている。\n だからそれを聞き出して、信用しているし、チエリに怒られるとボクとしては逃げるしかないってわけだ。\n\n『魔法少女チエリ、ヒマリ、出撃要請だ。\n 場所はそこから南西B−22、怪人が一体、戦闘員はなしだ。可能かい?』\n\n「……噂をすれば、なんとやら……」\n\n「あはは…… それで、ヒマリちゃんどうする?」\n\n「行く気満々って顔で言うの良くないと思うなー。\n チエリが行くならボクが行かないはずないじゃん」\n\n 認識阻害の展開は済んでいる。\n\n 腕を伸ばす。制服が解けるようにして身体から離れ、同時にコスチュームが編み上げられていく。\n 少しダボッとしたベースボールシャツが腕を覆うのと同時に、制服のスカートが短めのズボンに変わり、ニーソックスにはプロテクターが生成される。\n これ以上ないほどに動きやすい格好、ヒラヒラしたスカートなんかよりもずっとボクらしくて、このコスチュームは結構気に入っている。\n\n 最後に背中から大きな翼が生える。\n 自由に、どこまでも空を駆けることのできるオオワシの翼。\n\n そして、隣ではチエリが変身を終えている。\n ふんわりした女の子らしいワンピースに、天使の輪。純白の弓矢。\n チエリ自身の可愛らしさもあって、まさしく天使と呼ぶに相応しい風貌だろう。\n\n でも、ボクが一番良いと思うのはその背中に生える大きな白い翼だ。\n\n「チエリ、座標は大丈夫?」\n\n「うん、大丈夫。行こう!」\n\n 言葉と同時に二人で並んで空に飛び立つ。\n ボク達はいつでもこうだ。\n 二人で飛べる、二人で戦える、二人でいける。\n\n チエリがくれた右手をぎゅっと握る。\n 今日もボクは絶好調。\n\n さあ、怪人を倒しに行こう。\n\n\n ====================\n\n「……来たか。待ち侘びたぞ、魔法少女ヒマリ」\n\n クリスタルの前に陣取っていたオークの怪人ーーエミリアが戦ったと言っていた、近接が超強いオークの剣士だーーは、手に下げた赤い長剣をゆらしながらそう声をかけてきた。\n\n「え、ボクを名指し?\n 初対面だよね? 因縁とかあった?」\n\n なんかあったっけ? とチエリの方を見るけど、チエリも訝しげな顔をしている。\n\n「いや、初対面だとも。\n ただ基地の映像記録で見てな、気にいっていたのだよ。\n 貴様は新しい母胎として良さそうだとな、頑丈な子を産めそうだ」\n\n 最悪、本当に再悪。\n ハリヤーってどいつもこいつもこんなんだ。\n\n 乳がデカいだの尻がデカいだの太腿が太いだの、人のことを見ればいちいちそんなこと言ってくる。\n\n 挙句に子供だのなんだのもう本当に最悪。\n こんな奴らの子供を産んだりするわけないじゃん。\n\n「セクハラにも程があるね、とっとと…… 出てけ!!」\n\n 言葉と同時に身体を半回転させる。\n 左足を地面に突き刺しながら、右足に置いていた体重を全て回転運動へと変換。\n コンパクトに畳んだ右腕が伸び上がると同時に指先で握った白球をリリース。\n 弧を描いて横っ面を貫くコースだ。\n\n 魔力を通した白球はハリヤーの身体を砕く必殺の一球だ。\n でも、エミリアからコイツが魔力弾を切り払ったことは聞いている。\n\n なら、切り払えないように持ち込んでやる。\n\n ボクの投擲の直後にチエリが矢を放つ。タイミングはバッチリ、矢の着弾は白球の直後になる。\n でもこれで終わらせるつもりはない。\n\n 投擲直後の運動エネルギーを失った身体は完全に泳いでいる。\n 再度投擲するには身体を構え直すのが本来は必須。\n\n でも、ボクの背中には翼がある。\n\n グルンと音がしそうな勢いで身体が更に半回転。\n 翼の羽ばたきでピッチングポジションに戻った身体を腸腰筋と背筋で制御。\n 構えはアンダースロー。\n 地面を抉るほど低く、腰よりもさらに低く落とした肩は、エネルギーを変換する滑車のイメージ。\n\n 抉りあげる、地面から跳ね上がるとっておきの変化球。\n\n 一発目の投擲とチエリの矢の後でこれが襲えば、怪人であろうとも反応は不可能。\n 以前追い詰められたティガールが相手でも確実に仕留められるコンビネーションだ。\n もちろん白球には魔力がたっぷりと込めてある。\n 急所に直撃すればそれだけでゲームセット、ダメ押しにチエリが第二射を構えている。\n\n\n オークが握った長剣が閃く。\n 第一投が着弾する瞬間を正確に捉えて、剣閃がこめかみに迫るボールを切り落とす。\n 同時に、脇腹を狙う矢を剣の柄が叩き落とす。\n\n 剣技なんて知らないボクにもわかる、神業のような手捌き。\n 人外の存在である怪人だからといって、あんなことができるのは只者じゃない。\n\n でも、こちらはそれも織り込み済み。\n 地面を這うように迫った白球に剣先が向けられると同時、白球は唸りを上げて跳ね上がる。\n\n 要するに野球と同じだ、相手の想定していないコース、予想を裏切るボールを投げれば良い。\n いくつものバットをかいくぐったボールが剣をくぐり抜けられないはずがない。\n\n 挙句にチエリがダメ押しの一射を放つ。\n\n これを回避するのは不可能だ。\n もちろん被弾を前提として進むことは耐久力によっては不可能ではない。\n\n でも、それならこちらには翼がある。\n 相手が近づくよりも早く、遠くへいける。\n 向こうに遠距離攻撃手段が無いのはわかっている。\n つまりは向こうがどうやって防ごうともこちらに攻撃が届くことはない。\n\n 威力は落ちるけれども一方的に空から攻撃を繰り返す持久戦を挑んでもいい。\n クリスタルの防衛からすると時間をかけ過ぎるのは若干のリスクはあるけれど、撃破が最優先だ。\n\n\n 負けるはずのない戦い。\n\n --なのに背筋が冷えて、咄嗟に飛び立とうとして\n\n 左の翼が、斬り落とされた。\n\n「へ……?」\n\n「ヒマリちゃん!!」\n\n 飛ぼうとしたのに飛べなくて、無様に泳いだボクの身体がチエリに突き飛ばされる。\n\n そして、さっきまでボクがいた場所にあったチエリの背中が、ザックリと、斬れて、いて\n\n「仕損じたか。\n だがまあ、十分」\n\n「あ、ああああああああああああああ!!!」\n\n よくも、よくも!!\n\n 頭が白熱する。\n 翼なんてどうでもいい、痛みなんて感じない。\n\n チエリをよくも、コイツ、絶対に許さない!!!\n\n 振りかざした左腕に魔力を纏う。\n オオワシの魔法少女本来の武装、近接戦闘用の爪を激情のままに叩きつけようとして\n\n「ヒマリちゃん!!!」\n\n チエリの声に弾かれて、跳びすさる。\n 一瞬で頭が冷える。\n\n そうだ、こいつは近接戦闘のエキスパート、ボクがやるべきはそうじゃない。\n ボールを投げる、コイツを打ち取る。\n それしかない。\n\n チエリは大丈夫だ。\n なんせ、ボクの後ろに控えたチエリの傷はテープの逆再生のように治りつつある。\n しかも同時進行でボクの翼も治療されている。何度見てもとんでもない能力だ。\n\n 天使タイプの魔法少女は、全魔法少女の中でも最大級の治癒能力を持っている。\n 直後に治療を行えば、たとえ手足を落とされてもくっつけることができるというとんでもない治癒力。\n チエリがいる限り持久戦なら圧倒的に有利なのはこちらだ。\n\n なら、ボクがするべきはコイツを徹底的に足止めすること。\n\n 幸い、このオークは反撃を警戒してか積極的に攻めてはこないようだ。\n チエリが体制を整えればーー\n\n\n「ツカ、マエ、タ」\n\n\n べちゃりという音と同時に、その声は聞こえた。\n 音がしたのは、ボクの後ろ。\n チエリの右腕に、真っ白な糸が絡み付いている。\n\n「え…… あ、きゃああああああぁ!!?」\n\n\n チエリが右に吹き飛ぶ、違う、引き寄せられているんだ。\n\n その先には視界一面に広がる巨大な蜘蛛の巣ーーなんだ、いったいいつの間に、こんな物はなかったはず。ほんの数メートル先にあったのに今の今まで見えていなかった。\n\n 引き寄せているのは巨大な蜘蛛、いや、蜘蛛と人を合わせて捻ったような異形、間違いなく怪人だ。\n 怪人が二体、そんな、ミックは一体だけだって。\n\n いや、それよりもーー\n\n「チエリ!!」\n\n 腕を伸ばしても届かない。\n もうすでに遠すぎる。\n\n でも、それなら、ボクの投球を糸の根元ーー蜘蛛の怪人に叩き込んでやれば!!\n\n 腰を落とす、右足の軸を固定して、ボールを持った右腕を一瞬で限界まで引き絞る。\n リリースまでは一瞬だ、間に合う、いや、間に合わせる!!\n\n 身体の回転に合わせて、腰から肩へ連動するエネルギーが引き絞った右腕に繋がって、右手に握ったボールをーー\n\n ーーすっぽ抜けた、そう、感じた\n\n「へーー?」\n\n バカな、こんな時に、あり得ない、ボールがすっぽ抜けるなんて、ボクがそんな、\n\n いや、今は、次のボールを、早くしないと、チエリが捕まってしまう\n 早く、ボールを、次のボールを掴まないと、なのに、手が届かない、なんで、チエリが、ああ、チエリの悲鳴が聞こえる、早くボールを掴まないといけないのに、なんでーー\n\n 視界に、赤熱した長剣が映る。\n べちゃりという、なにか重くて、柔らかい物が落ちる音がする。\n\n 地面に落ちたそれは、とてもよく見慣れた形をしていて。\n\n\n\n そっか、ボクの右腕、斬られちゃったんだ\n\n\n\n「あーー あ\"あ\"あ\"あ\"あ\"あ\"あ\"あ\"あ\"あ\"あ\"あ\"あぁぁぁぁ!!!?!!!?!!?!?!!」\n\n 無い!! 腕が!!! 腕がない!!!!!!!!!\n\n 痛い熱い痛いいやでもそんな、腕が、右腕が無い\n\n ボクの腕が、ボールをつかめない、何も持てない、腕がない\n\n「あ\"あ\"あ\"あ\"あ\"あ\"あぁぁぁぁ!!!」\n\n 左手で右腕をつかもうとする、ない、何もない、腕がない\n\n できない、ボールをつかめない、ボールを投げられない\n\n 感覚がない、肩の先、肘がない、前腕がない、手首がない、指がない\n\n 何度も何度も何度も何度も、毎日一日も欠かさずに振るい続けた腕がない。\n 授業が終わればグラウンドに行って、ボールを掴んで、投げて、肘も手首も指も毎日毎日確認して鍛えて手入れもしたし誰よりもボクは右腕を\n\n「ふむ、飛ばれると厄介か」\n\n「いぎっ!! あ\"、ゔあ、うで、ボク、うで、が、」\n\n 翼が斬り落とされる。\n\n いい、翼が斬り落とされても構わない、地面に這いつくばってどこにも行けなくたって構わない\n\n でも、腕が、ボクの大事な腕が、チエリが治してくれた腕が、無い\n\n\n「あ\"ーー あ、ボク、う、おげ、う、う“ぇぇ……」\n\n 出血は無い。\n 代わりに肉の焼ける嫌な匂いと、激痛が頭をかき混ぜる。\n\n 吐き戻す。\n チエリと食べたお昼ご飯。\n\n そう、だ、チエリ、チエリを、助けないと。\n\n そうだ、チエリが危ないんだ、ボクは、助け\n\n「動くな」\n\n「ごぎゅっ!!?」\n\n 身体が潰れた。\n 背骨を踏みつけられて、肺から悲鳴が溢れる。\n\n「貴様を孕ませるのは連れ帰ってからだ。\n 転送の準備が出来るまでは大人しくしていろ」\n\n「か…… はっ……」\n\n 動けない。\n 上から大きな万力でギリギリと締め付けられているようだ。\n 全身に力を入れて身体が潰れないようにしているのに、それでもギリギリと圧迫されて締め付けられて潰れている。\n\n 両脚がコンクリートの上で無様なバタ脚を披露している。動けない。\n 左手がガリガリと地面を掻き毟って爪が割れているのに何も動かない。\n\n 右腕は、無い。抵抗の手段も、足掻くことも、助けを求めることも、何かを掴むことも、もうできない。\n\n「あ\"、ぎーー」\n\n「ヒマリちゃん!! ヒマリちゃん!!?」\n\n 腕を斬られてから、少しだけ移動していたのだろう。\n チエリはほんの数メートル先にいて、その手足も翼も蜘蛛の巣に絡め取られている。\n 蜘蛛の巣に囚われた蝶のようだ、さもなくばーー磔にされた聖者のようだ。\n\n(チエリ……)\n\n 磔にされたチエリに、声をかけることもできない。\n\n チエリはうるさいぐらいにボクの名前を呼んでいるのに、肺がそれに応えさせてくれない。\n 蜘蛛の巣からのがれようと力を込め過ぎた腕は、糸が食い込んで血が流れ始めている。\n\n(なんとか、逃げてーーくれないんだろうなあ、やっぱり\n そもそも、どうすれば、逃げられるんだろう)\n\n 救援要請を出したいのに、ミックにテレパシーガ繋がらない。\n\n 助けが、来ないなら、ボク達は。\n ああ、でも、ボクはもう、腕が。\n\n チエリのーー天使タイプの治癒能力は破格だ。\n 直後であれば手足でさえ問題なく治療できる。\n でもそれは、直後ならだ。\n\n 時間が経てば治療は難しくなる。\n 単に形を整えるだけならともかく、繊細な神経まで癒すとなれば話は別だ。\n\n この状況で、それまでに脱出ができるとは思えない。\n 救援も届いている様子がない。\n\n\n もう、ボクの腕は、野球は、いままでの頑張りは、チエリの願いも、全部全部全部全部ーー\n\n\n「む、潰し過ぎたか」\n\n ほんの少し、一呼吸だけ踏み付けが緩む。\n 潰れた乳房も肋骨も悲鳴をあげているけど、構わない。\n\n「チエ、リ」\n\n 逃げてと言おうとしたのか、助けてと言おうとしたのかは自分でもわからなかった。\n\n ただ、今のボクにとって大事な物はもう目の前の親友しか無くて\n\n その親友に、大蜘蛛が覆い被さった。\n\n「ヒマリちゃ、ひっーー がっ、あっ!! あっ、や、あ、ぁ…… か……」\n\n「チエリ!! チエリ!!!!」\n\n 名前を呼んでも反応がない。\n ガクガクと震えて、チエリの手足から力が抜けていく。\n\n チエリの肩に刺さった蜘蛛の牙からドクドクと何かが注ぎ込まれているのが見える。\n\n 毒ーーいや、それとも、消化ーー\n\n「姦しい」\n\n「ぶげっ、ぎゅ……」\n\n 背中がまた押し潰される。\n 何もできないで、親友が目の前で、嫌だ、嫌だ\n\n「あ、あ…… う……」\n\n チエリの口から呻き声が洩れる。\n 少なくとも、まだ生きている。\n\n でも、ほんの少し見えた顔は恐怖に歪んでいる。\n これから何をされるのかはわからなくても、どうなるかなんて薄々わかっている。\n\n「ボタ、イ、ギ、ハラメ」\n\n チエリに覆い被さった蜘蛛の怪人が、悍しい言葉を告げる。\n\n やめて、やめてよ\n\n チエリを離してよ。\n もうボクはいいから、腕もなくしたボクなんか良いから、せめてチエリを助けてよ。\n\n\n ぐちゃりと音を立てて、蜘蛛の怪人の股間からペニスが姿を表す。\n いやーーそれは、さっきの言葉が無ければペニスだとは思わなかったかもしれない。\n\n 捩じくれた矢のようなそれは、ペニスと言うよりは管のようだった。\n 数センチの太さに対して、ゆうに50センチを超える肉の管がビキビキと震えて天使の白いワンピースにーーいや、その下にある子宮に向けてーー押し付けられている。\n\n 先端は膨らんで、蕾か、さもなくば矢じりのようだ。\n\n「…………! っ!! ……っ!!」\n\n 動けないチエリにもそれが見えたのだろう。\n 悲鳴にならない恐怖の叫びだけが伝わってくる。\n\n(イヤだ! 動け! 動け! 動いてよ!!)\n\n なんとかしたいのに何もできない。\n 右腕もなく、無様に地面に縫いとめられたボクにはただそれを見るしかできない。\n\n「ギシ…… ウマ、ソウダ」\n\n 蜘蛛怪人の腕が振るわれる。\n チエリのワンピースが正面から切り裂かれて、水色のブラジャーで押さえられた乳房が露わになる。\n\n「ほう、大きいな。\n うむ、確かに良い母胎として使えそうだ」\n\n ボクの背中を踏み潰すオークが愉快気に呟く。\n\n ふざけるな、チエリを、ボクの親友をなんだと思っている。\n お前らが、お前らなんかが、ああ、やめろ、やめてくれ。\n\n ブラジャーもパンツも、無造作にはぎとられる。\n 可愛らしい装飾も何もかも不要だというように、肉としての機能だけを求めて貶めるように、磔にされたままで裸に剥かれていく。\n\n 乳首も秘所も、隠すことなんてできない。\n 手足を広げるように磔られた上に毒を注がれて声もーー\n\n「ぐ…… げほっ! がっ、えほえほっ!! あーーす、はーー」\n\n いや、そうか、チエリは治癒能力がある。\n 解毒だってその範囲だ、なら、少なくとも毒は\n\n「まあ、致し方あるまい。\n 戦闘訓練を受けたわけでもないのだからな」\n\n 言葉の意味はすぐにわかった。\n チエリの乳房に、毒の牙が突き刺さったから。\n\n「ひーーや、あ! が、か…………」\n\n 一瞬だけ腕がもがいて、また動かなくなる。\n 拘束されたままである限り、解毒だけできても意味はない。\n\n そして、拘束をほどく手段はない。\n\n(ああ、つまり、もうどうしようもーー)\n\n 理解してしまう、もう無理だと。\n\n「ギシシ……」\n\n チエリの乳房から牙を抜いた蜘蛛怪人が、いやらしく笑いながらチエリの乳房を舐める。\n 悪辣なことに、チエリは動けなくても意識ははっきりとしている。\n どのように扱われるのかも何をされるのかも、もうどうしようもないとわかってしまう。\n\n ゆっくりと、ペニスの先端が下腹部を下になぞっていく。\n 股間の付け根に向かって、チエリの秘所に向かって。\n\n(やめて、やめてよ)\n\n 手を伸ばそうとして、右腕がないことを突きつけられる。\n 駆けよりたいのに、踏みつぶされて何もできない。\n\n チエリと視線が絡む。\n ごめん、ごめんチエリ。\n\n なのに、チエリは笑った。\n 心配ないと、耐えてみせるというように、声も出せないのに顔だけで笑った。\n\n\n いよいよ、チエリの割れ目にペニスが突きつけられる。\n ソコを隠す陰毛なんて、何の意味も無いとわかっている。\n\n「ジャマ、ダ……」\n\n でも、蜘蛛怪人には違ったのだろうか。\n そう呟いてーー\n\n ペニスの先が、開いた\n\n「ーーー!?! っ……!」\n\n ペニスの先端、膨らんでいた肉のつぼみがグぱあと音を立てて四つの花弁になって開いた。\n\n それは、あまりにもグロテスクだった。\n\n ハエトリソウを肉と爪で作ったようなーー肉の花弁にびっしりと爪のような硬質なトゲが並んで、そしてそれは腐臭を放つ粘液でヌラヌラと濡れていた。\n\n クリーチャーの口のようなそれが、チエリの秘部に近づいて、噛みついた\n\n「!!!?!! ---!!! っ!! ……!」\n\n ブチブチと音を立てて、チエリの陰毛が噛みつかれて、力ずくでむしられていく。\n\n「~~~!!!! っ!! ぁ……!!! !!」\n\n 時間にすればあっという間だっただろう。\n でも、それはひどく長い拷問のように思えた。\n\n あまりにも無残に、そこはむき出しにされた。\n 乱暴に引きちぎられたそこは赤く腫れて、血さえ滲んでいた。\n 毛の剥げたむき出しの秘肉は酷く痛々しくて、それなのに、本当に蹂躙されるのはこれからなんだ。\n\n「ぁ…… は……」\n\n ぐったりと首を落としたチエリのソコに、口を閉じた蜘蛛のペニスの先端が、槍のように近づく。\n\n 嫌だ、見たくない、そう思うのに視線を外すこともできなくてただ涙だけがこぼれ落ちる。\n\n バチンッと、鈍い音がして、滲んだ視界の向こうで、醜い蜘蛛の怪人が天使を貫いた。\n\n「!!?! っ!! ぁっ……!! ご、あ……!!!!!」\n\n チエリの頭がガクガクと揺れる。\n 麻痺した喉から咳き込むように悲鳴の破片が漏れる。\n\n ポトリと、涙が溢れるのが見えた。\n ほんの一滴、チエリが涙を零した。\n\n ああ、チエリが泣いたのを見るなんて、いつぶりだろう。\n ボクは結構よく泣くのに、チエリは階段から落ちて大怪我した時だってずっと涙をこらえていたっけ。\n\n だから、そんな物、見たくないのに。\n\n「ギギ、ギ…… グアイガ、イイ\n ボタイ、ツカウ」\n\n グチリと音がした、ような気がした。\n\n 外から見れば、蜘蛛の怪人が八本の手足でチエリの身体にしがみついただけだった。\n\n「ガッ!!!? あ、か……!! がが、あ、ご……!!!!!!」\n\n でもチエリは違った。\n 目を見開いて、電流でも流されたみたいにビクンビクンと身体を震わせて、口から唾を飛ばして暴れ出している。\n\n「ああ、始めたか。\n アラクネーーあの蜘蛛はな、突き刺した生殖器をさらに伸ばすことができる。\n 使い方は色々あるそうだが、基本は一つだ。\n 母胎の子宮口を貫いて、力づくで子宮にねじ込む。まあ合理的だな」\n\n はーーー?\n\n 何を言っている? コイツは何を言っているんだ?\n アイツのペニスが細長いと言っても、それは全体の長さに比しての話だ。\n それも先端部は膨らんでいた。\n それこそ通常のペニスと大差はない太さだろう。\n\n それを入れる? 力づくで?\n\n ふざけるな、そんなのはありえない。\n 喉に腕を突っ込まれるよりも致命的だ。\n 死んでしまう、破れて千切れて死んでしまう。\n\n「無論、貴様ら魔法少女や魔法戦士にしかにしか使えんがな。\n 通常の人体では突っ込まれた時点で死んでしまう。\n ……まあ、たまに魔法少女でもここで死ぬことがあるが。天使タイプなら心配はなかろう」\n\n 淡々と、どうでもいい世間話のように悍ましく残酷な言葉が降りかかってくる。\n それはつまり、処刑されているに等しいということだ。\n\n 天使が、チエリが磔のまま股間から、肉の槍で千切るように貫かれて処刑されている。\n\n 麻痺した身体がほとんど反射だけで暴れまわって、でも全身を蜘蛛の巣に絡め取られて大蜘蛛に押さえつけられていて、逃げ出すことなんてできるはずがなくて。\n\n\n ぶちんっ、と音が明確に聞こえた。\n\n この距離でも、効き間違えがないぐらいにハッキリと。\n チエリが壊された音がした。\n\n\n「あーー ごぼっ!!? お、ごっっ!!!! がっ、あ…… ごぶっ!!!!!」\n\n 嘔吐していた。\n 悲鳴さえあげることのできない毒のまわった身体が、唯一出せたサインはそれだったのだろう。\n\n 股間を、大事な場所を引きちぎられて壊されて、それでも逃げることも叫ぶことも許されない雁字搦めの身体が限界を訴えたサイン。\n\n でもそんなのは、絶望にはまだ遠いんだってボクもチエリも知らなかったんだ。\n\n\n「アラクネは、獲物を母胎にするときはまずああやって子宮を貫く。\n その後で孕ませる訳だが、やつの射精は我らのようなやり方とは違う」\n\n ボクを踏みつけにしたまま、オークが話し続ける。\n これは本当に、このオークにとっては待っている間の時間潰しに過ぎないんだろう。\n 独り言と同じ、してもしなくてもなんでもいい。\n 淡々と、どうでも良さげに、チエリがこれから受ける暴虐ーーいや、想像さえできない程の異常で陰惨な処刑が解説される。\n\n「やつのペニスは先端が開いて、牙が露わになる。\n それで子宮から卵管に噛み付いて、卵巣を手繰り寄せる。\n 手繰り寄せた卵巣に、全ての牙で噛みつきーー直接、精液を注入する」\n\n\n なんだそれは、なんだそれは、なんだそれは\n\n\n「精液には排卵剤や成長促進剤ーー様々な薬液が含まれているからな、受精から着床まで全て、その場で即座に完了する。\n つまり即座に妊娠させるということだ」\n\n ありえない、あっちゃいけない。\n そんなこと、人間が受けていい仕打ちじゃない。\n\n ホラー映画だってもう少しマシだ、惨殺死体だってまだ人間らしい。\n だってそんなこと、人間の身体にあっていいはずがない。\n\n 子宮の内側から、牙のついた口で卵管を手繰り寄せる?\n 身体の内側で、肉を引きちぎって噛み付いてズタズタにして奥にあるべき物を無理矢理に引きずり出すなんて、どんな拷問だってしていないだろう。\n\n チエリが、磔にされたまま、首を逸らしてビクンビクンと震えている。\n 股間からはダラダラと血が流れて、蜘蛛の巣を赤く染めている。\n 身体は麻痺して動かないのに、痛みだけは鮮明で、胎内に噛みつかれてブチブチと肉を千切られながら内奥を引き摺り出されて声さえなく絶叫している。\n\n 卵巣に、牙で噛み付いて精液を注入する?\n あり得ない、人間にあっていいことじゃない。\n 動物に犯されるのですらあり得ない、完全に異なる生物による蹂躙、尊厳を徹底的に汚し尽くす異種陵辱だ。\n\n「がっ……!!!! あ“…… !!?!! 〜〜〜〜!!!?!!?!!?!!!!」\n\n 終わったと、お腹の奥を、全部踏み躙られたと\n 声にならない絶叫で、チエリが哭いた。\n\n 今、チエリのお腹の中ではあの悍ましい蜘蛛の子供が出来上がっていると、否応なしに理解させられた。\n\n こんな、こんなこと、なんで、ボクは、チエリは\n\n「見ているだけ、というのは暇な物だな……\n まだ片方だけか」\n\n\n はーーー?\n\n ビクンビクンと、チエリの身体が震え始める。\n チエリの下腹部が、ぐちゃぐちゃと内側から蠢きはじめる。\n 股間の穴からぶしゃぶしゃと、小便と血液と肉片が撒き散らされる。\n\n やめて、死んじゃう、死んじゃう、チエリが死んじゃう\n\n\n「片方の卵巣を使うまでに死ぬ雌よりも、二つ目を使う時に死ぬ方が多いからな、普段はあまりやらないと言っていたが。\n まあ幻想種の中でも回復能力に長けた天使タイプだ、使わない理由はなかろう。\n ……しかし、退屈だな」\n\n\n チエリが股間から流す血は、既に血溜まりとなっている。\n きっと普通の人間ーーいや、魔法少女であっても死んでいる量だ。\n\n それでもチエリは、自らを治療することができる。できてしまう。\n\n 幻想種でもなんでもない魔法少女ですら、ある程度の生命維持はオートで発動する機能になっている。\n 天使タイプともなれば、致命傷でもない傷は何もせずとも塞がれ、血は作られ、その命を守る。\n\n チエリは致命傷となる傷が無ければーー魔力が尽きない内はーー実質、不死身に近いのだ。\n\n\n その特性が今、最悪の形で発揮されている。\n\n\n「がっ……!! あ“、ぁ……!!!! 〜〜〜ご、ぼっ …………!!!!!!!」\n\n 痙攣して、口から泡を吐いて、股間からは血と尿が垂れ流しで、縛られた腕は力が入り過ぎて肌が切れて出血しているのに。\n\n お腹は内側からボコボコと膨らんで蠢いてぐちゃぐちゃと咀嚼されていて、チエリの女の子の部分が食べられながら好き勝手につかわれて踏み躙られて。\n\n もう既に、妊娠させられているのに、また妊娠させられる。\n ぐちゃぐちゃにされたお胎の中に悍ましい蜘蛛の子を植え付けられる。\n\n\n ぐちっ、と音を立てて、チエリのお腹の蠢きが止まった。\n 大蜘蛛が、チエリの身体を押さえつけたまま、ほんの少し震えて、チエリが白目を剥いて大きく痙攣して、がっくりと首を落とした。\n\n(チエリ……? チエリ!! 動いて!! チエリ!! お願い!! チエリ!!!)\n\n チエリの身体の奥深くから、ずるりと肉の槍が引き抜かれる。\n 血と肉とあらゆる液体で濡れたそれは余りにも残酷で、容易に死を連想させる。\n\n\n「ふむーー死んだか?\n いや、呼吸はしているようだな。\n 二つ目の卵巣を使い切られた際のショックで気をやっただけか」\n\n オークの言葉に、ほんのすこしの安心とそれ以上の怒りが湧いてくる。\n ふざけるな、こんな、こんなことをしておいて、コイツら、許さない、絶対に、なんとしてでも\n\n\n「まあ、すぐ起きるだろう。\n 出産の痛みは気絶などしていられんからな」\n\n 殺意は、簡単に霧散した。\n\n あまりに異常なのに、あまりに簡単にも理解できてしまって。\n そうなると確信できてしまったから。\n\n だって、孕まされたのだ。こんなにも早く、こんなにも異常なやり方で。\n なら、出産が同じように、早くて、そして異常であることはーー自然すぎて、疑いようがない。\n\n 大蜘蛛が、チエリの身体から降りた。\n それと同時に、チエリの下腹部がーー子宮のあたりが、ボコリと、膨らんだのが見えた。\n\n ぼこん、ぼこんと、内側から殴りつけるように、お胎が膨らんでいく。\n\n 青い血管が肌に浮かんで、おへそが裏返って無くなって、今にも内側からはち切れそうで、それなのにボコボコと蠢いている。\n\n「……ごほっ!! ご、ぎゃっ!!? あ“ーーな、にーーひっ!!?! い”ぎゃっ!! いだ、いや、い“やぁっ!!!!!」\n\n チエリが目を覚ます、覚ましてしまう。\n\n ほんの少しの失神で麻痺毒は全て抜けて、でも拘束から逃れる手段なんて無くて、ましてや腹の中で蠢く蜘蛛の子供から逃れる術なんてあるはずがなくて。\n 覚醒と同時に叩きつけられる激痛と絶望に取り乱して悲鳴をあげるしかできない。\n\n「やだ、いや“あ”っ!!!! あ“ーー ぐ、ぎっーー」\n\n ぐぽっ、ぐじゅ、ずじゅ\n\n 湿った音がする。\n チエリのお腹から、チエリの股間から。\n\n 何かが蠢く音、何かが押し広げようとされる音。\n いや、それが何かなんてとっくにわかっている。\n\n「が、あ”ーー や“、だ…… あ”ーー ひっーー」\n\n チエリの目に涙が浮かぶ。\n 自分に今から何が起こるのかーー自分の身体が今から何をするのか、理解してしまった顔。\n\n「ひーー や\"、わた、しーー うみ、たく、ないーー」\n\n お腹が蠢く。下に向かって。\n アンバランスに膨れたチエリの下腹部がボコボコと蠢いて、でもその方向は明らかに下にーーチエリの膣、いや、産道へと向かっている。\n\n\n「やだ、やだーー あ”っ!!? ぎゃっ!?! ひぎ、やべっ!! ばべっ、て、う“っ!!!」\n\n ぼきん、と鈍く硬質な音が響く。\n\n それが骨盤が外れた音だということは、磔にされて晒された身体が目に見える形で教えてくれた。\n\n「あ”ーー で、え“ーー」\n\n チエリの股間が、開いていく。\n 内側からこじ開けられて、べきべきと音をたてて、ほんの少し前までピッタリと閉じていたはずのそこが、グロテスクなほどに大きく開いて、内側を晒しはじめる。\n\n\n いや、本当にグロテスクなのは、その中から覗く真っ黒な蠢きで、それが狭い入り口を破って産まれ落ちようとしていることか。\n\n 骨盤は開き切っている。\n チエリの女の子らしく愛らしい身体は既に恐ろしいほどにボコボコのアンバランスな体型に変わっている。\n 出産のために、少女でも女性でもない、化け物を産み落とす母胎としての役割を果たすために醜く膨れ上がっている。\n\n「ご、あ”ーー え“っ!!?! ぎゃっ、あ”!!!」\n\n\n 悲鳴と同時に、チエリの出産口から脚が出た。\n\n 毛むくじゃらの、おぞましい、見間違えようもない異形の脚が、人間のお腹から、出ている。\n\n\n「い“ーー ぎぎぎぎぎ、ひ、ぎ……!!!」\n\n びち、びちと、二本目が、三本目が、蜘蛛の脚がチエリの産道をこじ開けて、羊水に濡れた爪を踊らせる。\n\n 五本も飛び出てくれば、限界以上に拡がったはずのチエリの膣穴はもういっぱいなのに、それでも、六本目が、八本目が飛び出ようと中から突き上げている。\n\n 鋭い爪はおおよそ人間が産み落としていいはずもない代物で、産道をズタズタに切り裂いて無理矢理拡げて出てきたのは明白だった。\n\n「あっ!!! がぁーー づ、ぎゃっーー が、びーー!!!」\n\n チエリの太腿に、爪が突き刺さる。\n\n ああ、アレはアンカーだ。\n 突き刺して、引っ張るためのアンカー。\n\n 何を引っ張るためかなんて考えるまでもない。\n どこから引っ張り出すかなんて言うまでもない。\n\n みちみちと、チエリの股間が引き裂かれていく。\n 限界をとうに越えているそれは、当然のこととして肉が破れはじめている。\n\n 傷口が治癒されて出血が止まっても、すぐにまた引き裂かれてしまえば肉が繋がる時間もない。\n 広がった亀裂は更に千切られて、黒い毛が、複眼の鈍い光が、異形の姿が段々と露わになっていく。\n\n チエリは動かない。\n 磔にされたまま、全身に恐ろしいほどの力を込めて激痛に踏みつけられて。\n 首が折れそうなぐらいに反り返ったまま、意識を失うこともできないで。\n\n\n「あ“ーー だす、け、でーー ヒマ、」\n\n チエリが、ボクに、助けを、求めて\n\n\n 言い終わる前に、チエリの股間がやぶけた\n\n\n「ぎゃあああ”あ“あ”あ“あ”あああああアアアアアァァア”ア“ア”!!!!!?!!!?!!!?!!!」\n\n\n それは、恐ろしい光景だった。\n\n もうボクの頭はバカになって、まともに反応することもできなくなっていたけれど、それだけはわかった。わかってしまった。\n\n チエリの股が、膣からおへその下辺りまで、乱暴に破いた袋とじみたいに、ビリビリと破れている。\n 中から、赤い血や肉よりも先に、黒い毛むくじゃらの大きな蜘蛛が二匹、我先にと飛び出てくるーーいやーーアレは、蜘蛛、なの?\n\n\n 形は、蜘蛛だ。サイズは胴部だけでもラグビーボールぐらいはある。\n ザワザワと蠢く毛むくじゃらの脚も、どこをみているかわからない複眼も、ねちゃねちゃとした粘液に塗れた牙もなにもかも生理的嫌悪を催す。\n\n ああ、でも、それよりも、もっと悍ましいのはそこじゃなくて、蜘蛛らしい部分じゃなくて、一番悍ましいのは。\n\n「マ、マ」「マー マ」\n\n 子蜘蛛の、背中についた口が産声をあげる\n\n「う“、あ”ーー」\n\n ダメだ、チエリ、見ちゃいけない。\n そのまま、上だけを見て、決して見下ろしちゃいけない。\n\n でも、チエリは、下を、向いてしまって\n\n 自分が産み落とした、蜘蛛のーー背中に張り付いた、チエリによく似た顔と、目があった。\n\n「えーー」\n\n 一瞬、チエリの瞳に、理性の光が戻った。\n\n あまりにもよく見知った顔、毎朝鏡で見ていた顔と同じようなものが視界に映っている。\n\n そして、それが何かを理解してーー絶叫した\n\n「いやあああああアアアアアァァア”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“ア”ア“ア”ア“ア”!!!!!?!!!?!!!?!!!」\n\n\n 絶叫は途絶えない。\n\n 身体ではなく、心が切り裂かれる痛みに叫んでいる。\n 自分の遺伝子が使われていると、自分の胎で産んだ化け物だと余りにも明確に突きつけられて、女としてーー人間として、全ての尊厳を蹂躙されていると理解させられて泣いている。\n\n「マ、マ」「マーマ」\n\n 子蜘蛛が、主張する。自分達が誰から産まれたのかを。\n 繋がった臍の緒を引っ張りながら、チエリを呼んでいる。\n\n もう、限界だった。\n ボクは吐いた。\n 涙でぐしゃぐしゃになって何も見えなくなった視界をそのままに、胃液もなにもかも吐いた。\n\n チエリの絶叫が哄笑に変わっていくのを聞きながら、子蜘蛛がカサカサと音を立てながらチエリの身体に這い上がっていく音を聞きながら吐き続けた。\n\n\n「ふむ、終わってみればなかなかの見世物だったな。\n とーーようやくゲートが開いたか。\n アラクネ、基地に戻るぞ」\n\n 蜘蛛怪人は、いつの間にか近くにいたらしい。\n\n ボクの背中からようやく足がどけられたけれど、もうなにもできない、だってもう手遅れだ。何もかも遅すぎる。\n\n「しかし、天使タイプとは凄まじいな、すでに出産時の傷が半ばまで塞がっている。\n おいアラクネ、あれは放置していいのか?\n 回復持ちは万一に備えて『潰しきる』よう言われていたろう」\n\n「モンダイ、ナイ\n ホラ、モウ、クイハジメタ」\n\n\n それは、湿った音だった。\n 初めて聞くはずなのに、ひどく聞き慣れた音。がぶり\n じゅうじゅうと、高速で肉体を治癒する時の音がするのに。ぞぶり\n\n それよりも早く、ナニカを喰らう音がする。\n\n\n「あーー はは、はひ、アハ、あ、ははははーーー ひーー\n やめ、てーー わたしの、おっぱい、たべ、ない、でーー はーー あはははははははあはははははははははあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあは」\n\n 食べられてる、食べられてる、食べられてるーー!!!!\n\n「チエリいいいいいいいいぃぃ!!!!!!!」\n\n 跳ね起きる、駆け出す、今すぐ、はやく、早く!!!\n\n チエリが、乳房から、蜘蛛に、食われて、やめ、助けないと!!!\n\n\n「ふん」\n\n\n ぶつん、と音がして、ボクの視界には地面が映った。\n\n 転んだ、というのは正確じゃない。\n ボクの両足が、膝のあたりで切り落とされたんだ。\n\n 駆け寄ることなんてできない、起き上がることすらままならない。\n 転がったボクの上で、がぶりがぶりと鈍い音と、壊れたようなチエリの笑い声だけが響く。\n\n\n「さて、基地へ行くぞ、魔法少女・ヒマリ。\n 貴様には我の子を産ませる」\n\n もう、ボクには右腕がない。\n 足もない。\n\n チエリが、目の前で壊れていて、食べられている。\n\n「あーー」\n\n\n だから、ボクは残った左手で、オークに頭を向けた。\n\n そしてそのまま、地面に這いつくばって、お尻を掲げるようにして、頭を下げた。\n\n「……なんの真似だ?」\n\n 土下座って、ハリヤーに、わかるのかな\n でも、他に、思いつかないし、いいよね\n\n「--おねがい、します。\n ゆるして、ください」\n\n 返されるのは沈黙だけだ、でも、やめることはできない。\n 他になにもできないんだから、やめられない\n\n「ころさないで、ください\n ボク、なんでもします、たくさん産みます」\n\n「下らんな、貴様なにをーー」\n\n「ボクを、食べても、いいです\n ボクを、殺しても、なにしても、いいです、から\n\n おねがい、します、チエリを、殺さないで、ください」\n\n\n 時間が、止まった。\n いつのまにかボクは失禁していた。\n\n 恐ろしい、怖い、嫌だ、今の言葉を取り消したい。\n\n だって本当に殺される。\n 死ぬより辛い目に遭って殺される。\n イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ。\n\n でも、ボクは、チエリに、死なないで欲しくて\n\n\n「素晴らしいーー 貴様は、素晴らしい戦士を産むであろう」\n\n\n 左腕が、切り落とされた。\n\n バランスも取れなくなって無様に転がるボクを、オークの掌が髪を鷲掴みにして吊るしあげる。\n\n「良い、良い収穫だ。\n 気分がいい。\n せめて友の最期を見届けさせてやろう」\n\n「ちえ、り」\n\n 全部、全部無駄だってことを理解した。\n\n 見せつけられたチエリは、オッパイがあったところには蜘蛛が潜り込んでいて、黄色い断面のそれを一心不乱に喰らっていた。\n\n 声さえ出せなくなって、牙が肉を抉るたびにひゅーひゅーと呼吸のような悲鳴のような音だけが口から漏れていて、もうどう見ても、助からない。\n\n\n「ち、えり」\n\n ああ、なんで、こんなことに\n\n ボクの腕なんて、どうでも良かったのに。\n ボクは、チエリが大事だったのに。\n\n チエリの家が、借金で首が回らなくなったと聞いた時も、迷ったりなんてしなかった。\n 魔法少女になれば死ぬかもしれないと聞いても、構わなかった。\n\n ああ、なのに、どうして、こんな\n\n\n 一瞬ーーほんの一瞬、チエリと目が合った。\n\n その時、チエリはいつもと同じような顔で、ボクに微笑んでーー\n\n\n それきり、動かなくなった。\n\n\n ====================\n\n\n 魔法少女チエリ 死亡:心臓を食い破られたことによる出血性心肺停止。胸部を食われた時点で治癒が追いついておらず、出産時の腹部裂傷を治癒した時点で魔力は尽きていたと思われる。\n 死亡後も人面蜘蛛に食い荒らされ、近隣の魔法少女に発見された時点で原型を留めていたのは頭部のみであった。\n なお、死体発見後に蜘蛛型のAランク魔獣が魔法少女を襲撃する事例が頻発。\n 彼女と酷似した顔が背中に張り付いていることから、魔法少女チエリ本人の遺伝情報を用いて出産させられた物と思われる。\n 危険度が非常に高いため、近隣の魔法少女には魔獣の外見情報を含めた警告を周知するものとする。\n\n 魔法少女ヒマリ 生死不明:パートナーでもある魔法少女チエリの遺体と同エリアに、彼女の物と思われる四肢のみが発見された。\n 状況から四肢を切断された上でハリヤーに拉致された可能性が最も高く、生存していた場合も救出および復帰は絶望的と判断。捜索は行わず、事実上死亡として扱う物とする。", "afterword": "全17話に決定しました。\n次話で本編は一区切りとなり、以降四話はエピローグのような短めの話になる見込みです。"} |
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