| {"novel_id": "n0002gf", "chapter": 25, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0002gf/25/", "title": "おまけ① エミリア・ピーターソンの日課(日常回)", "content": " ピリリリ、と電子音が響く。\n 時間は朝6時半、勉強机の目覚まし時計がピンクのベッドに向けて朝の訪れを告げている。\n\n 掛け布団の丸い膨らみとなっていたアタシにも、朝が訪れたようだ。\n\n「う、んぐぐぐう…… もう、朝ぁ……? く、あああぁぁ……」\n\n ちょっとだけはしたなく、アクビを一つ、それでアタシは目を覚ます。\n やや低血圧なアタシには早起きはいつだってツラいけど、それはレディが惰眠を貪っていい理由にはならない。\n\n 眠い目をこすりながら立ち上がって目覚まし時計にチョップを一つ、そのままドアを開いて階段を下れば、鼻に香ばしいベーコンの香り。\n 今朝も両親は自分より早起きなようだ。\n\n 冷たい廊下から暖かなリビングに繋がるドアを開ければ、あたたかな空気とコーヒーを飲むパパが出迎えてくれた。\n\n「おはようエミリア、今日も早起きだね」\n\n「おはよ、パパ。でもそれは私のほうが早起きした時にしてよね」\n\n こいつは失礼と笑うのはアタシのパパーー金髪碧眼の大柄なアメリカ人、トレヴァー・ピーターソン。\n アタシの美しい青い目や透き通るような白い肌は父譲りのものだ。\n\n ついでに言えばちょっと渋みのある結構なイケメンだ。\n まあアタシのパパなんだから当然ね。\n\n「あら、おはようエミリア。ご飯の準備はすぐだから、先に顔を洗ってきなさい」\n\n「おはようママ。それじゃちょっと準備してくるわね」\n\n 台所の奥から声をかけてきたママは、いかにも大和撫子という長い黒髪と楚々とした仕草の美しい、琴音・ピーターソン。\n\n 大柄なパパと違って150センチもない身長とーー本人は決して口にしないがーー慎ましやかな胸部のふくらみもあって、アタシと並べば美少女姉妹と間違われることも珍しくはない。\n\n 二人に挨拶を済ませたら洗面所で手早く顔を洗い、髪に櫛をいれて手早くツインテールへ編み上げる。\n 最後はワンポイントの髪留めをセット。\n\n 少し吊り上がった強い意志の目、すらりと通った鼻筋とフェイスライン、サファイアのような美しい碧眼に、栗色の可愛らしいツインテール。\n\n 我ながら完全無欠の美少女だ。身長と胸はきっとこれから成長するに違いない。\n\n「エミリアー、ご飯できたわよー」\n\n アタシの席にはベーコンと目玉焼き、それに白いご飯にお味噌汁。\n 向かいに座る両親はご飯の代わりにパンとジャム、ピーターソン家のいつもの朝の食卓だ。\n\n「「「いただきます」」」\n\n 三人で手を合わせてから朝食の時間。\n 目玉焼きはもちろん、ベーコンにも醤油は合う、ご飯との相性はバッチリだ。\n\n「エミリアは本当にご飯が好きねえ、パンも美味しいと思うんだけど」\n\n「そういうママはいつもパンよね、たまにはご飯にしないの?」\n\n「そうだね、琴音も昔はご飯を食べるほうが多かったのに」\n\n 生粋のアメリカ人であるパパがパンばかりなのはまあわかる。\n しかしママは日本人だし、晩御飯のメニューなどを考えるとむしろ和食派のようだ。\n\n そんな当然の疑問に対してママが少し頬を赤らめてーーアタシは自分の失敗を悟った。\n\n「その…… 夫と同じものを食べたいというのは、わがままでしょうか、あなた……」\n\n「oh…… my honey……」\n\n まーた始まった……\n 娘からの絶対零度の視線を送られても一切止まらないのはよくわかっている。\n\n 小学生の時は無邪気に両親の仲が良いことを喜んでいたが、思春期の娘の前でも一切憚らないのはもはや病気なのではないだろうか。\n 問題は治療法が無さそうなあたりだ。\n\n 14年と少しの人生で学んだ『ああなったバカップル(両親)は放置するに限る』という知恵に基づいて朝食をさっさと済ませてしまう。朝は短いのだ。\n\n「ごちそうさまでした。それじゃ、部屋で勉強してるから後で呼んでね」\n\n「ああ、わかってるよ。しかし毎晩必ず予習復習をやってるんだから、たまには休んでも良いんだよ?」\n\n「継続は力なり、でしょ。習慣化するのが大事なんだし。\n ちゃんと勉強しないとお医者さんになんてなれない、って言ったのパパでしょ」\n\n「なんて偉いんだmy angel…… ようし、パパがハグをしてあげ」\n\n「いらない、中学生の娘にそれはセクハラよ」\n\n 露骨にガッカリするパパをスルーして(隣で両手を広げてハグの体勢を取るママもスルーして)部屋へ向かう。\n\n 多くの人のためにと、様々な国を飛び回って働いているパパのことは尊敬しているけど、もうすぐ15になるレディへの扱いが子供のころとまるで変わらないのは如何なものかーー\n\n「パパもママも、アタシをもうちょっと一人前のレディとして扱うべきよ、そう思わない?」\n\n 自室のドアを閉めながらの独り言ーーだがそれは違う、その証拠に答える声がある。\n\n「この国では14歳は未成年として扱われる年齢だよ、エミリア。\n 加えて、成人後の子供に対する認識が未成年時と変わらない両親というのはこの国家では珍しくないようだ」\n\n「はあ、あの様子じゃウチの両親も珍しくない側になりそうね……」\n\n 私のベッドの上から言葉を返してきたのはリスのような小動物ーーアタシたちが「ミック」と名付けた、いわゆる『魔法少女のマスコット』だ。\n\n ちなみに正式名称は『AT039番』とかいうらしいが、いくらなんでも味気ないということであだ名がついた。\n\n こう見えて高性能で、ハリヤーにジャミングされない魔法少女同士の通信や魔力反応の探査、そして今朝の勉強分のテキストを机の上に運んでくれたりもするのだ。\n\n「今日は数学からね……」\n\n きっかり30分、短くとも必ず朝に勉強をする。\n\n お医者さんになるには勉強ができなきゃいけないし、それを抜きにしても学生が勉学をおろそかにして良い理由はない。\n 高校までエスカレーター式に上がれるから勉強しなくていいなんて理屈はないのだ。\n\n テキストを開いて問題を読み込む、スルリと頭が切り替わるように思考が純化する。\n 解法を求めて蓄えた知識が引き出されては繋がり、紙に刻まれる数字が問を解きほぐす。\n 一つまた一つと問題を解く瞬間、微かな達成感と積み重ねた努力の高さに満足を覚える。\n\n キッチリ5ページ、30分でテキストを片付けたのは、メールが届くのと同時だった。\n\n 差出人はカナデ、文面は『そちらに向かっている』のみ。\n 毎朝ながら素っ気ないメールだ、彼女らしいと言えば彼女らしいが、年頃のレディとしてはどうなのか--\n\n そんなことを思いながら、身支度を済ませてジャージに着替える。\n 赤を基調にしたこのジャージは、色だけでなく形も綺麗でお気に入りだ。\n 芋ジャージしか着ないカナデにも色違いを買わせようと目論んでいる。\n\n 制服や教科書をスポーツバッグに詰め込んだ辺りでインターホンの音。\n\n「エミリアー、カナデちゃんきたわよー」\n\n「はーい、今行くー」\n\n バッグを背負ってミックに目配せ。\n バッグにぬいぐるみのフリをして入り込むという魔法少女のマスコットとしてのノルマを果たさせてから玄関へと向かう。\n\n ちなみにミックは基本的に一般人には認識できないので、ぬいぐるみのフリをする意味はない。\n\n「車に気をつけなさいね? それから汗をかいたらちゃんと水分補給とあと日射病に注意して……」\n\n「もう、わかってるって。二ヶ月もやってるんだから…… じゃ、行ってきまーす」\n\n 履き慣れてきたランニングシューズの感覚を足に馴染ませながらドアを開けると、日差しが目に眩しく輝く。\n\n 今日もいい天気だ、絶好のランニング日和。\n それはアタシだけの感想じゃないだろう。\n\n「おはようエミリア、絶好のランニング日和だな」\n\n 庭先でストレッチをしている少女、鷹森 奏が声をかけてくる。\n\n 長い手足が伸ばされるのに合わせて背中のポニーテールが踊り、朝日を弾く。\n ここまでも走ってきたのだろう、ジャージの前は少し開いて汗ばんだ首元を露わにしている。\n\n 鋭く整った輪郭が軽く紅潮した肌で強調されて少し中性的な美しさを演出する。\n 彼女に熱を上げている女生徒が多いのも納得だ。\n\n だがそれなりに付き合いの長い私としては突っ込みの一つもいれたくなってしまう。\n\n「それ、雨の日でも構わずランニングする人間が言っていい言葉じゃないと思うわアタシ。と、おはよ、カナデ」\n\n「ははは、相変わらず手厳しいな。雨の日につき合わせたのは一度だけなんだし、いい加減許してくれよ」\n\n「そう簡単に許さないわよアレは! というかアタシが知るまでずっと雨の日も走ってたじゃないアンタ!」\n\n「いやあ、どうせ汗をかいてシャワーを浴びるわけだしかまわないかなと…… 室内トレーニングはどうにも味気がないし……」\n\n「カ・ナ・デ……?」\n\n「ああ、わかった悪かった悪かった。そう睨むな。\n ほら、早くストレッチをしよう」\n\n ストレッチは始めるけど、このことについてまだ言いたいことはたくさんあるぞ、という意味を込めて一つため息をついてから柔軟を始める。\n\n ちなみにつき合わされた日は小雨とかではなく普通に本降りの時だ。\n 今でこそ雨の日は室内トレーニングにするという習慣になっているが、カナデ一人でやっていた場合はと思うと恐ろしい。\n\n\n「よし、それじゃ行くか。\n 今日もいつものコースでいいな?」\n\n「ええ。今日こそ吠え面かかせてあげるわ」\n\n ランニングの最後はいつも競走だ。\n となれば、そろそろ一度ぐらいは勝たなきゃならない。\n\n\n はははと余裕面で笑うカナデにやいのやいの言いながら走り出す。\n\n いつもの朝。\n\n アタシの、エミリア・ピーターソンの幸福な朝。\n\n\n\n 確かにあった、幸福な日々。", "preface": "おまけ①\n本編に入れられなかったエミリアちゃんのいつもの朝です。"} |
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