| {"novel_id": "n0002gf", "chapter": 26, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0002gf/26/", "title": "おまけ② 剣術少女カナデの告白(IFルート・日常回)", "content": "「カナデさん、好きです」\n\n ーーーー告白された\n\n 目の前の男の子は私よりも背が低いのに、今だけは少し大人びて見える。\n 真っ直ぐな視線はいつもよりも澄んでいて、どうしてか胸が熱くなる。\n\n その目を見ていられなくて視線が泳いで、でも目を離せなくて。\n 何か言おうと開いた口は何も言えなくて閉じてしまう。\n\n\n ーー落ち着け、まずは状況を整理しろ。\n\n 鷹森の剣士は平常心を失ってはいけない。\n\n 私の名前は鷹森カナデ、鷹森流剣術奥伝の剣士で次期師範代。\n 私立陵北学園高等部2年生で、部活には入っていない。\n 同じクラスのエミリア・ピーターソンとは親友で、今日は彼女が恋人とデートだと言うから一人で帰ることにした。\n\n よし、問題ない。次は相手だ。\n\n 目の前にいるのは杉崎シュウト、私立陵北学園高等部1年生。\n 私よりも少し背が低くて色白の、男らしさよりも可愛らしさを感じるような後輩だ。\n\n 剣道部に所属しているが、ぱっと見では図書室にいる方が似合いそうだし、実際私が彼と話すようになったのも図書室での貸し借りだ。\n\n 彼とはここ半年ぐらい前に図書室で話すようになってから、なにかと馬があって話すようになった。\n\n 廊下で会えば少し世間話をするし、エミリアが捕まらなければ一緒にお昼ご飯を食べたり、たまに彼が自主練しているところを見かければ指導してあげた。\n 彼も補修を受けるハメになった私に差し入れを持ってきてくれたりと、良好な先輩後輩関係を築いていたと思う。\n\n\n そんな彼と帰り道にたまたま出会って、暇だったら少しだけ寄り道でもどうかと誘われて、雑談を楽しみながら河川敷を歩いていた。\n\n そして、その時にエミリアの話になって、彼氏彼女とか恋人がどうとかそんな話をしていた。\n そういう流れだった。\n\n うん、思い出せる、冷静だ。\n 私は冷静だ。\n\n そう、冷静になった今なら気づける、これはいわゆるラブではなくライク、後輩として先輩への敬意を含む好きという可能性もあるわけで\n\n「僕は、カナデさんが、好きです。\n 恋人になりたい、です」\n\n そんな可能性はなかった。\n\n 完璧な告白、愛の告白というやつだった。\n\n 逃げ場はないぞとばかりの追撃は見事なまでで、私に選択を叩きつけてくる。\n\n\n いや待て、まずは考えろ。\n\n そう、考えてみれば告白されるのは初めてではない。\n 今まで何度も後輩の女子や隣の席の女の子、果ては先輩の女子に告白されては断ってきた私じゃないか。\n 全員女子じゃないか、どういうことだ。\n\n\n だが自分でツッコミを入れている場合ではない、なんせ告白されてしまったのだ。\n\n すでに最初の告白からたっぷり2秒は経っているだろう、真剣勝負であれば4回は相手を斬殺できる致命的な猶予、こうも長く隙をさらすなど笑止千万、剣士たるものいついかなる時も即断即決即斬たれというのになんたる体たらくかええいままよ\n\n「し、シュウ、ト……」\n\n「……はい」\n\n\n ぐるぐるする、目が離れてない、身体が熱い、どうする、口を開きはしたが正直なにも考えてない、どうしようホントにどうしよう\n\n 目と目が合っていて全然離れなくてシュウトも顔が真っ赤になっていてええとええと落ち着け、私の剣士としての目を信じろ、人間である以上目と目が合っていようとも必ず揺らぎがあってほんの一瞬の意識と視線の隙間はあるわけでそこを見逃さず\n\n\n ここだ!!\n\n\n 右の地面を押し出す、身体の線を通る様に肩から一気に跳ね上がる運動エネルギーをスカートの陰に隠れた右手へと連動して振り子のように弾き飛ばす。\n\n 右手の中指を中心に、人差し指と薬指を締める。\n 親指で蓋をするように、小指で締め上げるように、そして中指を硬く、突き立てるように拳を握る。\n\n 一本拳、猫拳、中高一本拳、様々な呼び名を持つその握りの最大の利点は、力を一点に集約して突き刺す打撃とできることだ。\n\n 通常の正拳突きのように身体の捻りを運動エネルギーとしない、片足の踏み込みだけの力であっても十分。必要なのは速度と最短距離を走る正確さ、そしてタイミングだ。\n\n 袴の陰から、垂らした腕を一歩の槍として穿つその一撃はシュウトの脇腹、骨と骨の隙間に過たず突き刺さる。\n\n ーー鷹森流『襖槍』が崩し『袴槍』\n\n「あ、明日まで待て!!!」\n\n シュウトが悶絶しながらうずくまるのを手応えだけで確認して反転、叫びながら全力疾走。\n\n\n『即断即決即斬、それが無理なら即撤退』\n\n 鷹森流の剣士として間違いない振る舞いだったということにしておきたい。\n 無理だろうけれど。\n\n\n ===========================\n\n『……カナデ、とりあえず明日シュウトくんに謝りなさいよ』\n\n 電話越しのエミリアが恐ろしく長くて深いため息をついた後、至極真っ当な一言をくれた。\n\n 河川敷から家まで全速力で走り抜いて、まずしたことはエミリアに電話をかけることだった。\n\n デート中の彼女に電話をするのは正直心苦しかったが『カナデがかけてくるってことは急用でしょ』とすぐに応えてくれる彼女は本当に頼れる親友だ。\n\n もっとも、その親友が電話の向こうで今どんな顔をしているかはあまり考えたくないが。\n\n『うんまあ、明日まで待てとは言えたのね?\n なら明日までに落ち着きなさい。まずはそこから。\n 暴力行為については誠心誠意謝って許してもらうこととしましょう。\n 私からもそっちはフォロー入れとくから』\n\n いかん、ちょっと泣きそうだ。\n 頼れすぎるし優しすぎるぞエミリア。\n\n「ありがとう…… 本当に助かる……」\n\n『ま、シュウトくんもそこまで怒ったりはしないでしょ。\n だからそこは一旦ここまで。\n で、何を相談したいの?』\n\n そう、私が本当に相談したいのはシュウトに見舞った一撃についてではない。\n\n 私が逃げてしまった、告白についてだ。\n\n「……なあ、告白ってなんだ……?\n どう答える物なんだ、いや、どうならどう答えていいんだ……?」\n\n 何を言っているんだと自分でも思う。\n\n でも、わからない。何と答えれば良いのか、何を答えればいいのかわからない。\n\n『んー……?\n ……まず最初に確認するけど、カナデはシュウトくんには好感を持ってるのは間違いないわよね?』\n\n「ああ、それは間違いない」\n\n シュウトは大事な後輩だ。\n 学校の先輩としても剣士としても彼に良くしてあげたいと思うし、彼も私に敬意を持ってくれていることがよくわかる。\n\n 私は部活にも入っていないからシュウト以外に年下の知り合いはいないし、先輩風を吹かせるのは正直言って結構楽しい。\n\n『うんうん、それで?』\n\n 促されて考える。\n はじめはそんな理由だったのは間違いない。\n\n でも、今はそれだけじゃないとはわかっている。\n\n 楽しかった。彼と話していると、欲しい時に反応があって、わかって欲しいことをわかってくれて、知らないことを知れて、知りたいことが増えていた。\n\n ふとした時に、彼の気遣いを感じた。\n 彼が頑張っているのを目にしてきた。\n 同じ物を見て笑って驚いた。\n\n だから、たぶん私は彼に対しては好感を抱いているはずだ。\n\n ……その、有り体に言って、好いていると思う。\n\n『……うん、そこまでは自覚があるわけね。\n で、何が怖いの?』\n\n「……怖い?」\n\n『うん、その先、わからないというより、わかる前に何かを避けてる感じ。\n 怖いのとはちょっと違うのかもだけど、なんか引っかかってる』\n\n ……なんだか、こんなふうに断言されるのは珍しい。\n でもそこまで言うってことは、何かあるんだろうか。\n\n 私が、怖がってるなんて。\n\n 私が怖いと思ったことなんて、ほとんどない。\n\n いやーーなくなった、という方が正しいのかもしれない。\n 一度、本当に怖い思いをしたから大抵のことは怖くなくなったんだろう。\n\n\n アレはそう、三年前。\n 私は死にかけた、いや、殺されかけた。\n\n ーーハリヤー、異世界からの侵略者。\n その侵略者に立ち向かう魔法少女として、私は戦った。\n\n 三年前のあの日、ハリヤーが全戦力を投入してきた決戦の日。\n 私は本当にあと少しで死ぬところだったのを今でも覚えている。\n\n あと少しで死ぬというところまで追い詰められて、私はーー戦えないと、戦うのではなく、命乞いをしてでも助かりたいと、ほんの一瞬、そう思ってしまった。\n\n その時は助けが間に合ったけれども、きっとあのままでいれば私は惨めに命乞いをして殺されていただろう。\n\n\n 戦いが終わって、ハリヤーを全て追い返して。\n 私たちは魔法少女じゃなくなっても、それを忘れたことはなかった。\n\n 私は、弱い。\n 魔法少女の契約という反則で力を手に入れて、それで心はそのままで。\n\n まだ私は弱くって、どうすればいいかわからなくて、私は私が嫌いで。\n\n『でもさ、今でもカナデは自分のことが嫌い?』\n\n 今は、どうだろう。\n\n きっかけなんて何もない。\n\n たぶん、エミリアと食べたお菓子をおいしいと感じたとか、いつか見た桜並木が綺麗だったとか、そんな小さい積み重ね。\n\n それでも確かに、私は楽しくて嬉しくて、友達がいて。\n それでいつの間にか、自分を少しは好きになっていたんだと思う。\n\n まだ、私は弱いけど。\n インチキで剣士になって、それを隠したままだけれども。\n\n それでも、私は私で、弱くてもいいから強くなりたいし、強くなれるはずだって信じられるようになったと思う。\n\n「あ、そうか」\n\n なんとなくわかった。\n\n あやふやだけど、言葉にできるかわからないけれど、なんとなくわかった気がする。\n\n『方針は決まった?\n それじゃ、シャワーでも浴びて汗を流したら、トレーニングと予習復習をしてから早めに寝なさい。\n 予習復習はサボっちゃダメよ?』\n\n「ああ、ありがとう。エミリア」\n\n もう、呼吸は落ち着いている。\n\n きっと大丈夫だ。\n 私はきっと、大丈夫。\n\n\n ==============================\n\n「なあエミリア、私は少しトイレに」\n\n「ダメ。ここまで来て逃げないの」\n\n ダメだった。\n 全然大丈夫じゃない。\n\n ここは学校の裏庭の一角、周囲からは死角になっている上に教師もこない絶好の告白スポットとして一部の生徒たちの聖地と化している場所だ。\n\n 普通の学校なら不良が居つきそうだが、あいにくこの学校は非常に素行が良くて不良などいない。\n\n つまり今ここにいる私はシュウトを呼び出して到着を待っており、エミリアは私が逃げ出さないように監視しているという状況だ。\n\n「いやほら、1日待たせたら2日待たせるのも差はないというかだな……」\n\n「それでも最低限、昨日の暴力行為は直接謝るべきね。\n あと、1日待たせるのと2日待たせるのは大違いよ」\n\n ぐうの音も出ない返しだ。\n でもそれをケンジに告白されてから一週間待たせたエミリアに言われるのはかなり納得がいかない。\n\n ちなみにエミリアは一歩で踏み込める間合いを絶妙に外して私を見張っている。\n エミリアはそこらの有段者よりもよほど腕が立つ、竹刀も無しに彼女を一瞬で突破するのは困難を極めるだろう。\n いや、流石にやるつもりはないが。\n\n「えーと、カナデさん、エミリア先輩」\n\n き、来た。\n\n 来てしまった。\n\n「ああうん、呼び立てて悪かったわね。\n とりあえず、昨日のカナデの暴力行為についての謝罪ね。\n はいカナデ」\n\n「えあ、う、うむ。\n す、すまなかった。混乱していたとは言え、本当に申し訳ない……」\n\n 促されるままに頭を下げる。\n というかそれについては本当に申し訳ないとしか言えない。\n\n「あ、いや、全然気にしてないです!\n 僕が突然だったのもあるし、気にしないでください!」\n\n あまりにあっさり許してくれて、逆に申し訳ない。\n 歩き方からしてまだ痛みが残ってるみたいだし、いやもう本当に申し訳ない。\n\n「アタシからも謝るわ、ゴメンなさいシュウトくん。\n ……うん、じゃあアタシはここまでね。\n 校門のところで待ってるから、頑張りなさいよカナデ」\n\n エミリアは手早く謝罪を済ませるとササっと立ち去ってしまう。\n 待ってくれ、もう少しいてくれても良いんだぞ。\n そんな早く歩かなくても誰も困らないというか私が困ってるんだがああもうあんな遠く。\n\n\n「それで、カナデさん。\n 返事、ください」\n\n\n ……うん、もう、ちゃんと向き合おう。\n\n「なあ、私は実はーー」\n\n\n =========================================================\n\n『それで、はじめての下校デートはどうだった?』\n\n「いや、下校デートも何も一緒に帰っただけであって…… 寄り道もしなかったし……」\n\n『でも、告白にOKだして、二人で一緒に帰ったんでしょ?\n ならデートよ。そういうもの』\n\n「そういうものなのか……\n うん、まあ、その、楽しかった…… うん」\n\n『よしよし、なら諸々の貸しはデメフのザッハトルテで勘弁してあげましょう』\n\n「わかった…… 校門で待ってなかった件については?」\n\n『気を利かせたんだからノーカンよ。\n それじゃ、また明日ね』\n\n「ああ、また明日」\n\n\n エミリアへの報告を兼ねた通話を切る。\n\n 晩御飯もトレーニングも、復習も終わった。\n でも、まだスマホを手放す気にはならない。\n\n\n ……それでは、生まれて初めて、恋人との通話という物をしてみようか\n\n\n ================================\n\n これはあり得た未来。\n\n 当たり前の幸福な未来。\n\n 決して届かない、奪われた未来。", "preface": "おまけ②\nハリヤーを撃退することができたifルートで、本編の3年後の世界です"} |
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