| {"novel_id": "n0002gf", "chapter": 6, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0002gf/6/", "title": "四話 〜魔法少女達の混戦〜", "content": "「つ、強すぎる……」\n\n 瓦礫の下から呻くような声が漏れる。\n まだ無事だ、ダメージはあるが戦闘に支障があるほどではない。\n だがーーそもそも、アレに勝てるのか?\n\n 炎が吹き上がる。砕けたコンクリの破片が赤熱して溶け出す。瓦礫の砂を巻き上げて熱風が吹き上げる。\n 炎の中心には、熱風になびく一条の長髪。燃えるような赤い髪をなびかせ、全てを睥睨するような視線。\n 暴力的なほどの濃密な魔力を纏った一人の魔法少女。\n\n「なるほどな…… お前らの計画はよーくわかったよ。\n 確かに、そんなことになれば魔法少女は一網打尽…… 本当にマズい……」\n\n 一歩、ゆっくりと歩きだす。踏み出すだけで巨象が歩くような圧迫感が辺りを包む。ビリビリと空気が痺れるようだ。\n コスチュームの裾が揺れる。橙色のセーラー服にアームカバー、ミニスカートとスパッツを合わせたような、可愛らしささえ感じるコスチューム。\n だがそれが竜の鱗に等しいことをこの場にいる全員が理解している。\n\n 瓦礫から熊の怪人が立ち上がる。最重量クラスの怪人を吹き飛ばしたのは裏拳の一撃だった。\n 体重を乗せたわけでもない打ち払うような一打で紙のように吹き飛んだ。咄嗟のガードが間に合わなければそのまま消滅していたかもしれない。\n 少女も無傷ではない、左腕が大きく抉られている。だが、傷口から炎が吹き出すと同時に一瞬で治癒。\n 怪人クラスが全力でを打ち込んだ一撃、それも隙をついて負わせたその傷が、一瞬で無に帰る。\n 両の拳から炎が吹き上がる。怪人であろうとも一撃で焼き尽くす超高温の魔力の炎。\n\n「でも、それさ。アタシを倒せたらの話だよな?\n 本気のアタシが、負けるってのが前提だよな?」\n\n ハリヤーや魔法少女が街を破壊した場合、結界が解除されると同時にほとんどは修復される。\n だが、あくまでも『ほとんど』だ。すべてではない以上、可能であれば破壊を抑えたいというのが魔法少女側のスタンスで、そして何もかもを焼き尽くしてしまうような炎などは、真っ先に力を抑える必要があった。\n\n「ナメんなよ、アタシを。たかが五体の怪人でアタシが負けるかよ!!」\n\n 爆音と共に焔の矢となった少女が駆ける。\n\n 幻想種最上種・炎竜の魔法少女、最強の魔法少女・リュウコが初めてのーーそして最期のーー全力戦闘を開始した。\n\n ====================\n\n\n リュウコの戦闘開始30分前、A市北端 廃工場\n\n\n「クリスタルの反応が二つ? それの何がおかしいの?」\n\n 首をかしげながらミック(総合補助端末リス型39号)に尋ねる。ツインテールが顎にかかるから普段はやらないのだが、いくらなんでも不可解だったのだ。\n 実際、周りの魔法少女達も多かれ少なかれ同じ疑問を感じているだろう。\n アタシと相棒のカナデ、カナデが以前共闘したというヒマリ、チエリーーはっきり言って相当に強力なメンバーだ。\n\n 異常事態のため、ブリーフィングの上で緊急対応をーーそんなふうに言われて集まったというのに、ミックは開口一番「クリスタルの反応が2つある」なんて言ったのだ。\n クリスタルが複数同時に現れることは珍しくもなんともない。A市の中だけでもままあるというのに、隣町のB市やC市まで含めればなおさらだ。\n\n「ああ、異常なのはその反応の詳細だ。一つの反応はかなり詳細に位置が特定できているが、恐ろしく反応が大きい。\n 少なくとも40センチ級と確定している」\n\n 40センチ級ーー最小でも?\n\n はっきり言って、ミックのクリスタルのサイズ予想はあまり当てにならない。\n 場所の感知と即応性は高いが、サイズに関しては小石ぐらいのサイズとソフトボールぐらいのサイズも区別できないぐらいにガバガバだ。\n\n だが、ミックは今、わざわざ確定していると言った、つまり、40センチ級を小石程度とするような巨大なクリスタルが出現している可能性があるのだ。\n\n ーーハリヤーの出現規模やクラスは、出現したクリスタルのサイズによって上限が決まる。\n であれば、そこにどれほどの強敵がどれだけ現れるのかーー\n\n「が、君たちにお願いしたいのはもう一つの反応のほうだ。いや、反応群と言うのが正しい」\n「え、ボクらその大きいの行かないの!?」\n\n よく言ったわヒマリさん。アタシもすごくそれ思ったーーけど、わざわざこう言うということは明確な理由があるんだろう。\n\n「ああ、そちらは心配ないよ。そっちにはリュウコが行っている。B市担当のマスコットもついて通信は常設しているしね」\n「リュウコさんが!? あー…… こほん。そ、それなら心配はないわね」\n\n ついつい過剰に反応してしまい、誤魔化すための咳ばらいを一つ。\n\n 魔法少女・リュウコーーアタシにとっては、ハリヤーに襲われた夜に助けてくれた命の恩人。\n だが、その名は通常は他の意味で語られる。曰く、現役最強の魔法少女。最強の幻想種・炎竜の宿し手。街への被害額№1、全ての敵を焼き尽くす炎の化身。\n\n 敵からだけでなく、味方からさえ恐れられる彼女の力は圧倒的だ。\n 戦闘員など多少強化されたところで触れることすらできまい。\n そして、怪人とて二体だけでは相手にもならない。\n\n 前提として、怪人は二体までしか現れない。\n 厳密には三体以上が現れることも可能らしいが、そのためには最低でも三日前に座標指定を含めた準備が必要であり、敵味方共にクリスタルが出現するまで感知ができない現状では絵空事だそうだ。\n\n\n「納得してもらえたようだし、説明させてもらうよ?\n もう一つの方は人数と機動力が必要でね。15ものクリスタル反応が特定エリア内に発生している。いままでも2つや3つぐらいならあったが、10以上というのは異常だ」\n「なるほど、広範囲を移動するための高機動力、異常事態に想定される戦闘に備えての戦闘能力。それらを考えてこの4人、ということか」\n「ああ、それにB市の方からもう一人魔法少女を呼んである。オオカミの魔法少女・ミオ…… 君たち二人は知っているだろう? 戦力的には申し分ないはずだ」\n\n うっ、と声が出るのをかろうじてこらえる。\n 魔法少女・ミオーーB市を中心としながらもA市にも度々出撃するため、アタシ達とも共闘したことがある。\n だがーー\n\n「エミリア、苦手意識を持つなとは言わないがまた顔に出ているぞ」\n「うっ…… 仕方ないじゃない、というかカナデだって微妙な顔してるわよ」\n「むっ…… いかんな……」\n\n「あの…… その、ミオさんというのは、どんな人なんですか……? その、もしかして怖い人なんですか……?」\n\n おずおずと聞いてきたのはチエリさん、\n\n「あー、いや、別に悪い奴ってわけじゃないのよ。ただちょっと独特というか、テンポがつかめないというか……」\n\n ====================\n\n 思い出すーーどこか遠くを見ているような、眠たげに伏せられたアメジストのような瞳。\n\n 美しい女性だった。オオカミというよりも黒猫のような、しなやかで静かで、どこかミステリアスな女性だった。\n 背丈は160と少し、しなやかな手足と音のしない歩き方、ほんの少し波打った肩までのウルフカットは艶やかな黒髪で、サテンのように滑らかな黒猫の毛皮を思わせる。\n\n 黒猫ーーあるいはそれは豹であったかもしれない。たっぷりと実ったEカップの双丘に、きゅっとしまったウェストから続くヒップラインは官能的で、女性であるエミリアでさえハッとするほどの色気を感じさせる。\n 灰色を基調としたチャイナドレスのようなコスチュームは、飾り気なく身体を薄く包むことでかえってその美しさをひきたてている。丈は太腿の半ばほどで、下に履いた黒いスパッツがひざ下までを覆い、悩ましい肢体を隠していた。\n\n たぶん女子高生ーーアタシもあと三年もしたらこれぐらいのスタイルになれるかしらーー初めての戦闘を行ったその時、苦戦するエミリアの援軍として颯爽と現れたのが彼女だった。\n 当時はエミリアもカナデもまだ魔法少女の力を使いこなせておらず、手こずっているところに現れて鮮やかに敵を一掃してみせたのだ。\n\n 初対面であっても尊敬の念を覚えるには十分、できれば戦闘のコツなどの教えを乞いたいところだ。\n とはいえまずは礼を述べるべきだろう。\n\n「あ、ありがとうござーー」\n「ミオ」\n「え?」\n\n 礼を言おうとした瞬間に差し込まれる言葉。一拍遅れて、それが彼女の名前なのだろうと推測する。\n\n「ミオさん、で良いですか? アタシはエミリアで、こっちはカナデです、さっきは助けていた」\n「エミリア、あなた…… 昨日の、晩御飯は何だった?」\n「……え? えっと、肉じゃがですけど……?」\n「ミオで良いわよ、呼び方」\n\n どういう流れ? え、晩御飯の質問はなんだったの? 怒らせでもした?\n 頭にいくつもの疑問符が浮かぶ。いきなり訳が分からない、アタシの14年の人生でこんな会話をした覚えはない。\n\n「えーと、私からもありがとうございます、ミオ」\n「貴方はカナデね…… お昼ご飯はそうめんかしら」\n「……いえ、かつ丼です……」\n\n すごい困惑してる…… そもそもカナデは初対面の相手とぺらぺら喋るタイプでもないし……\n こ、ここはアタシが頑張って意思疎通を!\n\n「え、えーと、ミオ……」\n「翼は飛行用でなく、基本は、移動の補助として使った方がいいと思う…… 走り出す時と、止まる時。あとは躱す時」\n「え?」\n「長時間飛行は向いていないけど、出力は高いタイプ…… 吸血姫タイプは、怪力と自己回復ができるから。高度を維持するより、近接戦を主体にした方が強い……」\n「あ、ありがとう、ございます……?」\n\n 混乱する。めっちゃくちゃ混乱する。なんで唐突にやたら的確なアドバイスが出てきたの!?\n いや、ベテランっぽいしアドバイスが出てくるのはわかるけどこの流れで!?\n\n「カナデは、五感の強化、視覚に振りすぎ。聴覚をもっと使う、敵の呼吸音に、焦点を合わせる」\n「え、あ、はい。ありがとう、ございます」\n\n\n そのあとも一通りアドバイスをされたけれども、どれも理にかなっていてためになるアドバイスだった。\n ベテランで腕利きの魔法少女だとは聞いていたけれど、それにしてもかなりの腕利きなんじゃないだろうか?\n 合間合間に「枕はそば殻?」とか「マカロニサラダは、サラダじゃないと思う」とかいう発言が何の脈絡も無く差し込まれてさえなければ、先輩魔法少女による後輩魔法少女へのレクチャーとしては完璧だった。\n\n「じゃあ、私は、帰るね」\n「あ、はい、ありがとうございました、ミオさーーミオ」\n「ん、いい。ああ、それから、最後に。\n 私の朝ご飯は、カツカレーだった」\n\n 最後に、まったく意味のわからない情報を伝えてからミオが去っていくのをアタシ達は見送ったーー\n\n\n ====================\n\n「と、まあそんな感じで…… その後も何回か共闘したけど、毎回その調子よ……」\n「な、なんというか…… 個性的な方なんですね……?」\n「でも、すごい名コーチですごい魔法少女なんだね! ボクも会ってみたいな!」\n\n クリスタルの発生場所に向かいながらミオの話をする。\n まあ、すごい魔法少女なのは間違いない。遅れるとはいえ援軍にきてくれるのは頼もしい限りだ。\n\n「と、着くぞ。全員、手はず通りで良いな?\n「オッケーよ。問題ないわ」「まっかせて、カナデさん!」「が、がんばります!」\n\n 結界をくぐると同時、住宅街を我が物顔で歩き回る戦闘員が視界に入る。\n 突入の勢いそのままに大鎌を振るい、二体をまとめて切断。同時、左にいた戦闘員は日本刀、右にいた敵は白球で打ち抜かれて霧に変わる。\n\n「ハリヤーはもうクリスタルを探し始めてるみたいね…… じゃ、手はず通りにアタシとカナデはこっちね」\n「うん、ボクとチエリはこっちだね!\n ミックでの通信を維持して、怪人に接敵次第もう片方が飛んで合流! 4対1でボッコボコにする!」\n「万が一同時に接敵した場合、ヒマリさんとチエリさんは即座に撤退、私達と合流してくれ」\n\n 細かい作戦はいろいろとあるが、基本は今確認したので全てだ。\n\n たとえここに怪人が二体いたとしても、この四人がちゃんと戦えばまず負けることはない。\n ただ、そんなことは敵もわかっているはずだ。\n\n「懸念は改造戦闘員だな…… 私が先行する、エミリアはカバーを頼む」\n「オッケー、背後は任せなさい」\n\n 武器を構えてクリスタルを求めて進む。\n 鬼が出るか蛇が出るかーーどちらであろうと叩き伏せてやる。アタシは魔法少女、理不尽な侵略者を打倒すと決めたんだ。\n 今、もう一つのクリスタルの場所で戦っているであろうあの人のように。\n\n ====================\n\n\n リュウコの戦闘開始15分前、B市 赤羽リュウコの家\n\n\n「それじゃあ行ってくるけどーーちゃんと戸締りをするのよ? 帰ってくるのが遅かったら先に寝てていいからね?」\n「母さん、どっちも三回目だよ…… 母さんこそ気を付けなよ。また去年みたく倒れたりしないでよ?」\n「う、痛いところつくわねリュウコは…… 大丈夫よ、今の職場は仕事も楽だし。私も無理はしないわ。\n それじゃあ、行ってきます」\n「うん、いってらっしゃい」\n\n 母を送り出す。\n 母には、本当に感謝している。\n\n アタシの名前は赤羽リュウコーー赤羽は母の苗字だ。クソ親父はアタシが幼いころに、若い女と一緒に貯金を持って蒸発した。\n\n 当然のようにアタシは荒れた。\n 元から喧嘩っ早い性格も、恵まれた体格も腕力もあって、気が付けば「一匹狼の狂犬・喧嘩屋リュウコ」なんて言われるようになっていた。\n\n グダグダと絡んでくるクラスの女子をぶん殴った。そいつの彼氏とやらが出てきた時も取り巻きごとぶっ飛ばした。\n そのうち、アホとバカを煮詰めた上で性欲で固めたような不良どもがわらわらと寄ってきた。\n 喧嘩が強くて乳がデカくて顔が良い女がいるーー力づくでモノにしてやろう、とかそういう話。\n\n 当然、全員ぶちのめした。\n 狂犬だのと呼ばれだしたのもその辺りだ。バカな不良を散らす虫よけになるーーそんな風に嘯きながらも、実際はそう呼ばれる自分を誇らしげに掲げていたのだ。\n アタシは、ぶちのめした奴らと何も変わらないバカの一人で、周りの迷惑なんて考えもしなかった。\n\n そんなアタシのせいで、母さんには負担をかけていることにバカなアタシは気づきもしなかったんだ。\n\n 気が付いたのは母さんが倒れてから。\n 運ばれた病院で、過労だけでなく心労を抱えて、色んな所に頭を下げて回りながらも一人で働いていて。\n ボロボロになった身体はもう現代医療では治らないって言われてようやく、自分がどれだけバカだったか知ったんだ。\n\n\n「だからまあ、アンタ等マスコットには結構感謝してるんだけどーーいきなり人の背後に現れるのはどうかと思うよ、ニャーゴ」\n「僕の名称はネコ型25号なんだけどね…… まあそこは次回以降考慮するよ。\n ちなみに、音はたてなかったはずなんだけど何で振り向きもしないで僕に気が付いたんだい?」\n「なんとなく。気配ってか、空気というか。\n それより、わざわざアタシを呼ぶってことは緊急事態なんだろ?」\n「ああ、移動しながら事態を説明するよ。実はーー」\n\n さて、お仕事だ。\n 母さんの病気を治してもらった分、しっかりきっかり、クソの怪人共をぶっ飛ばしてやる。\n\n\n ====================\n\n B市、とある廃工場\n\n\n「おいおい、なんの冗談だよこれは……」\n\n 馬鹿みたいに空いた口がふさがらない。\n 目の前にあるのはクリスタル。それも巨大なーー人間よりも大きなクリスタルだ。\n\n あり得ないーーそう思う。クリスタルのほとんどは精々野球ボール程度のサイズ、小さいものなどビー玉と大差ない。\n 今まではどれだけ大きくても、バスケットボール程度のサイズだった。\n\n それがこんな、二メートルはあるサイズだなんてあり得ない。明らかに異常事態だ。\n\n「おいニャーゴ、こりゃ一体ーーニャーゴ?」\n\n 反応が無い。うるさいくらいに饒舌なマスコットが一言も返さない。\n なんだか嫌な予感がして振り返れば、電池が切れたように動かなくなったニャーゴの姿があった。\n\n「は? なん…… !?」\n\n 全身の産毛が逆立つような悪寒。右前方へ身を躍らせる。\n 風切り音がアタシの頭があった位置で鳴り、地面に巨大な針が突き刺さる。\n\n「やれやれ、噂通り常識外れの直感ですね、ミス・リュウコ。完全に死角からの不意打ちだったはずなのですが……」\n「テメエは、A市に出てるジェネラルって奴か…… こりゃテメエの仕業かよ」\n「ふむふむ? それはどのことですかな? 通常ありえない巨大なクリスタル? 突如機能を停止したマスコット? 死角から飛来した凶弾? それとも、これから訪れる貴方の敗北のことですかな?」\n「前二つだけ答えろよ。\n 針はサソリ怪人のだろ、コソコソ隠れて撃ってくるしか能のねえザコなんざどうでもいい。\n 最後のはテメエの誇大妄想だ、聞くまでもねえよ」\n「はははは! これは手厳しい!」\n\n 喋りながら針が飛んできた方向を確認する。\n 撃ってきたのは風向きからして背後よりやや右、躱された以上は既に移動しているだろう。\n ジェネラルがわざわざ姿を見せて喋っているのは移動の時間稼ぎか。\n\n 情報を吐かないならば付き合う義理はない、少し身を屈めてみせる。\n 『一秒以内に情報を吐かないなら今すぐ戦闘再開だ』という姿勢。\n\n「ああ、答えはイエスですよ。ですからそう物騒な魔力を満たさないでください」\n\n 剣呑剣呑とおどけてみせるジェネラルに苛立ちが募る。\n\n 見ればわかる、コイツはアタシに怯えている。そのくせ、余裕がある。\n\n 自分より強い相手の前に立っていると理解している者特有の怯え、どれだけうまく隠してもアタシはそれを感じられる。\n だが同時に、コイツの余裕も本物だ。勝利への確信ーーいや、違う。勝ち誇っているのだ。\n コイツは『既にハリヤーは勝利した』と、そう確信してやがる。\n\n「クリスタルはある種の裏技ですよ。私たちが確保したクリスタルを、あえてこの世界にまとまった数放つことで巨大なクリスタルを発現させる……\n これを得れば、我々が仮想体ではなく実体でこちらに来ることができるようになるほどの、ね」\n「そらどーも。つまりアタシらに奪われたら終わりの乾坤一擲と。\n で、ニャーゴの方が本命だろ」\n\n とっとと吐けーー喋りたくて喋りたくて仕方が無いという様子のジェネラルを促してやる。\n とうにサソリ怪人は移動を終えている。つまりこの質問に答えるかは微妙なところだったがーー\n ニヤリとジェネラルは笑う。\n\n「その通り! いやいや、聞いていた以上に聡明な方ですな! ミス・リュウコ!\n 貴方達のマスコット、いや、通信連絡の要! それを無力化するのみならず、欺瞞さえ可能としたーーその意味がわかりますかな!?」\n\n つまり、こう言っているのだ。貴様らの首根っこは押さえたぞ、と。\n\n 戦略において情報は最重要だ。\n 特にこの戦いでは双方が兵站をほとんど気にしない以上、情報こそが最大の戦略資源だ。\n\n 例えば、敵戦力の見積もりを誤らせることができれば。\n 例えば、被害状況を把握させないことができれば。\n 例えば、連絡を遮断して孤立させることができれば。\n\n 馬鹿でもわかる。全滅だ。\n 魔法少女はどうしようもなく全滅する。\n 情報を完全に押さえられた状態で、挙句に怪人は力を増す。勝てるはずがない。\n\n「それでいい気になってベラベラと喋ってくれるなんて、案外人が良いんだなオマエ」\n「ははは、その通りですとも。私はこれでも博愛主義でして、特に今から滅びゆく者には思いやりを示すのですよ」\n\n 指摘する気も起きないほどに下らない戯言だ、だがまだだ。まだピースが足りない。\n 確かに情報という首根っこを押さえられた。だがーーなぜそれを、今実行した?\n\n 巨大なクリスタルーーこれをハリヤーが奪えば怪人が実体顕現できるということは、逆に魔法少女が確保した場合、ハリヤーはこの次元には留まれないだろう。\n 情報を押さえた後ならこのクリスタルを得ることは簡単だったはずだ。\n 何か技術的な限界か、制約。だがそれは問題ではない。\n\n それを推して行った。最強の魔法少女が来ると予想できる状況で行ったこのタイミングで。\n それはつまり、今この瞬間であれば最強の魔法少女を狩れると判断したということーー\n\n 身体を右に捻る。左脇腹があった位置を超高速で飛来した針が撃ち抜く。\n 同時、リュウコが立っていた地面が爆発する。\n\n モグラの怪人が下から強襲をかける。\n あり得ないーー三人目の怪人、間違いなく異常事態。\n だが、何かあることは分かっていた。\n 慌てずに右に飛んでーー死ぬ、とそう思った。\n\n わけもわからず左手で首を庇う。衝撃。\n 左腕が抉れている。下手人ーー恐らくは未知の怪人ーー姿は見えないが思考を中断。\n 上から降ってくる超重量の凶手ーー熊の怪人に気がついたからだ。\n\n 不意をつかれて左腕を損傷したところへのトドメの一撃。\n 本来二人までの怪人の五人目。完全に想定を上回った数の暴力。\n\n だからーー本気を出しても構わない\n\n 右の拳は中途半端に前方に浮いている。\n 上に突き出すには体重が乗らず、今から体勢を変える時間はない。\n 打ち払うのでは腕の力のみ、あまりに不十分な力。\n\n そんな物はザコの理屈だ\n\n 魔力が走る。肩の指先まで炎が走る。\n 猛り狂う衝動を抑制する理由はもうそこにない。\n 同時、身体が火を噴いた。\n\n 肩に炎が宿る。爆発的な勢いで跳ね上がる腕が肘を駆動させる。同時、肘に炎が宿り前腕部を再加速、増大した運動エネルギーを手首が捕らえる。\n 裏拳の最高速ーー手首の返し、インパクトの瞬間。それは、怪人の身体と同時に音の壁を撃ち抜いた。\n\n 爆音と共に吹き飛ぶ熊に目もくれず、炎を纏った水面蹴りをモグラへと放ち、そのまま何もないはずの背後に鉤突きを放つ。\n\n「ご、うがッッ!?」\n\n 悲鳴は虚空から。咄嗟に回避したモグラではなく、姿を隠していたカメレオンの怪人の物。\n かすっただけの竜の爪はその左肩をごっそりとえぐり取っている。後退は回避ではなく逃走に等しい必死さだ。\n\n ーー浅かったかーー\n 水面蹴りで空気を熱して、蜃気楼の要領で不可視の敵をあぶりだすというのは悪くないアイディアだったはずだがーーまあいい。\n\n ケンカはビビらせたら勝ちだ。\n\n 魔力を全身に通す、炎が燃え上がり、足元の破片が赤熱する。\n 熱風が髪を巻き上げる。ギラリと、竜のような鋭い牙が口元から覗く。\n\n 吹き飛んだ先の瓦礫から熊が這い出してこちらを見る。\n まだ浅いが恐怖は刻んだ。この場における強者を知れ。\n\n「なるほどな…… お前らの計画はよーくわかったよ。\n 確かに、そんなことになれば魔法少女は一網打尽…… 本当にマズい……」\n\n 一歩踏み出す。揺れるコスチュームの裾まで知覚できる。\n 左腕を治癒。魔力消費はそれなりにあるが、あと6回は行使可能だろう。\n 出し惜しみはナシだ、遠慮もできない。\n\n「でも、それさ。アタシを倒せたらの話だよな?\n 本気のアタシが、負けるってのが前提だよな?」\n\n 実際のところ、5対1は厳しい。普通なら一度仕切りなおすところだがあんなクリスタルがあっちゃそうもいかない。\n ならば、悩むまでもない。この場で全員ぶっ飛ばす。\n それになにより、アタシはナメられるのが嫌いだ。\n\n「ナメんなよ、アタシを。たかが五体の怪人でアタシが負けるかよ!!」\n\n\n ====================\n\n\n「カナデ、あれって……」\n「ああ、待ち構えて準備万端、というところか。初めて見る怪人だが…… 見覚えはあるな」\n\n アタシ達が見つけたのは、クリスタルの前に立つ人と豚を合わせたようなオークの怪人。\n\n そう、怪人だ。以前遭遇した改造戦闘員とは違う。\n まず身体が違う。体躯は2メートルをゆうに超えているだろう。簡素な貫頭衣に包まれた身体は巌のようで、筋骨隆々なんて形容が貧弱に思える。\n 右手には長大な剣をゆらりと下げている。どのような仕組みか、刀身は薄らと赤熱しているように見える。\n だが、何より違うのはその立ち姿。脱力しながらも中心に一本柱が通ったような、達人の立ち姿。\n\n 間違いなく、あのオークは武術を修めている。\n それもかなりの高レベルだ。\n\n「来たか、魔法少女よ…… ふむ、当ては外れたようだ」\n「当て?」\n「ヒマリ、と言ったか。あの娘は良い。母体として最良だ。\n お前たちはどちらも幼過ぎる。\n ……まあ、ジェネラルはやけに貴様を気に入っているようだが」\n「最っ低、聞いて損したわ……\n しかも何、ジェネラルの奴もきてるわけ?」\n「さて、それはわからぬな。我は先鋒としてここに来たのでな」\n\n 先鋒ってことはやっぱり、もう一体怪人がいるわね……\n となると不意打ちを警戒しーー\n\n「エミリア!」\n\n カナデの声を認識した瞬間、考えるより先に身体が跳ねる。\n 前方へ飛び込むと同時、アタシの背後でカナデの刀が凶刃を受け止める鈍い音が響く。\n\n「チッ、しくじったか」\n\n ティガールの声だ。背後に潜んで不意打ちを狙っていたことを理解したら思考を放棄。直感に従い上へ飛ぶ。\n\n 見なくてもわかる、今アタシの脚があった場所には既に長剣が差し込まれている。\n 一瞬遅ければ足を切られて地を這っていただろう。\n\n だが身震いなどする暇はない。間髪入れずに切り上げによる追撃が襲い来る。\n 咄嗟に空中で身体を捻る。躱したはずの刃がうねり、微かに翼が切り裂かれたが構わない。\n そのまま鎌に乗せた魔力弾で前方を爆破、反動を捉えて間合いを離す。\n\n「ふむ、基地で見た通りだな。反応速度、戦闘思考、三次元機動……\n 変身時の基本スペックのみならず、元の戦闘センスが高いタイプか。強敵だ」\n\n 案の定と言うべきか、魔力弾を浴びせられたはずのオークはほとんど無傷ーー自身に当たる魔力弾を長剣で迎撃したらしい。\n 多少のダメージはあったようだが、腹が立つほどに冷静だ。\n\n 今の交錯で理解した。このオークは強い。\n\n スペックはそこまででもない。力もスピードもエミリアには劣るだろう。\n 指揮官タイプのジェネラルと大差ない程度、ティガールとは比較するまでもない。\n だが、動作の精密さ、剣の鋭さ、呼吸の捉え方ーー戦闘技術という面において、間違いなくこいつは超一流だ。\n\n 背後からは鋭い音が何度も響く。\n ティガールはカナデが食い止めてくれている。\n ヒマリとチエリは既にこちらに向かっている。\n であればこのオーク相手にリスクを取って接近戦などする必要はない。\n\n(魔力弾で遠距離から攻めるーー!)\n\n\n 膠着状態になればこちらのものだ。\n 可能であればカナデと共に一度退いて、四人がかりで挑めばいい。\n\n\n 触れれば破裂する魔力弾を放つ。当然のように切り払われるが、迎撃しても衝撃までは防げないはず、その場に釘付けにするには十分な攻撃。\n\n だが、一歩。\n ずるりと、すり足で距離を詰めてきた。\n\n 構えは下段。地摺り正眼ーーそう呼ばれる構えだ。\n 剣先でアタシの膝を刺すように圧力をかけつつ、切り上げと突き、そして足元を狙う構え。\n そしてこちらの攻撃に対しては下から切り払うも良し、剣を引いて受けても良し、地を這うように躱しても良しーー\n 守勢に長けたその構えは、時として亀の構えなどと嘲られることさえある。だがーー\n\n(何がカメよ、要塞かなんかじゃないーー)\n\n もう一度、今度は狙いを絞って三発の魔力弾を放ちながら、再び翼で距離を取る。\n また切り払われて、それと同時に距離が詰まる。\n 一歩。だが、翼で稼いだ距離よりもさらに一歩だ。\n\n 間違いない、このオークに遠距離戦は通じない。\n 飛び道具への対処に慣れすぎている。\n いや、おそらくはそれ以上に何かある。\n\n「ほう…… やはり強者か」\n\n オークの言葉を受けるアタシは、構えを変えていた。\n 鎌は右へ、翼を広げるように。腰は低く、足は地を掴み、爆発しそうな力を踵に溜める。\n 翼は左右に広げつつ、身体を下に押し付けるようにやや上に構える。\n\n 隠すことない突進姿勢。ひたすらにスピードと威力だけを追求したそれは、通常の戦闘であればまずありえない選択だ。\n\n 戦闘ーー特に近接戦闘というのはタイミングの奪い合いだ。\n 敵が対応できないタイミングに攻撃を差し込んだ方が勝者であり、『先の先』だの『後の先』だのいう物はそれを理屈立てしているだけだ。\n\n だから、見え見えの突進など本来は愚の骨頂。普通はあり得ない。\n でもあたしは違う、魔法少女。普通なんかではありえない。\n\n(あのオークは強い。遠距離戦は対処済、斬り合いの形になれば勝てる保証はない。\n でもーーそれは技巧によるもの)\n\n 契約の日、アタシは力を願った。理不尽に抗うための力を。\n\n 吸血鬼タイプーーアタシの変身。\n 幻想種は魔法少女全体でも一割に満たない。A市やB市はハリヤーの出現頻度が高く、優先的に幻想種の魔法少女が集められているそうだが、それでも二割が良いところだろう。\n\n 吸血姫タイプはその中でも特に、単独戦闘に優れている。\n 翼による飛行能力、ある程度の自己回復能力、武器の生成能力ーーそして、圧倒的な怪力とスピード。\n\n\n 踵から踏み込む、翼が羽搏く。\n パン、という音を立てて空気がはじけて、激突した。\n\n「ぐ、ぬううううううう!!!?」\n\n オークが唸る。\n アタシの鎌を長剣で防いでいる。一瞬で片手を剣の柄から離して、刀身を支えての全力の防御姿勢を取っている。\n 恐ろしい程の即応力。だがーー軽い。\n\n「う、らあああああああああ!!!!」\n\n 振りぬく。長剣ごとオークの巨体を地面から引きはがして吹き飛ばす。\n 体重差なんて関係ない。魔力と翼がアタシの身体を支えている。\n\n ボールのように吹き飛んだオークはビルに叩きつけられて地に膝をつく。\n 受け身を取ろうが関係ない、純粋な物理エネルギーを全て技巧で受け止められるなんて漫画の中だけの話だ。\n\n オークの怪人はもはや満身創痍、それは事実だ。\n だがーー剣を支えに立ち上がった。\n\n「力づく、かーー 正解だ。貴様の力であればそれこそが正答」\n\n ゆらり、と下段を構える。気迫が立ち昇る。\n まだだーー言葉にせずともそう言っている。\n きっと、さっきのような突進は通じない。\n\n だから何だ、アタシは勝つ。\n 次なる一手のために鎌を構えてーー\n\n オークの首が切り裂かれた。\n\n\n「ぬ、がーー」\n「……えいっ」\n\n 襲撃者を見ようと振り返ったオークは、気の抜けた声だけを耳にしてトドメを刺された。\n\n\n「エミリアに集中しすぎで、不意打ちし放題…… ほぼ告白」\n\n たぶん『隙だらけだった』と言いたいのだろう……\n\n その瞬間まで、戦っていたアタシさえ一切気づくことのできない不意打ちを鮮やかに成功させたのはオオカミの魔法少女・ミオ。\n いくらアタシに意識を持っていかれていたとはいえ、達人に全く気付かれないで背後を取れるものではない。\n 相変わらずとんでもなく腕が立つ。そして発言がわけわかんない。\n\n「あー、うん…… とりあえず、ありがとう。助かったわ」\n「ん、いい。カナデは?」\n\n あまりに呆気ない幕切れにちょっと拍子抜けだが、別にアタシはバトルジャンキーじゃない。\n ここは素直にお礼をしておこう。\n\n「おーい! エミリア―! そっちは無事―!?」\n「お、応援に来ました!」\n「ん、もう済んでるようだな」\n\n タイミングよくカナデがやってくる。ヒマリさんとチエリさんも一緒だ。\n どうやらカナデも戦っているところに応援が来て、ティガールを撃破したようだ。\n\n「これで怪人は倒しきったしーーあとは戦闘員を片付けつつ、急いでクリスタルを回収ね」\n\n もちろん油断をする気はないが、ひと段落ではあるだろう。\n 異常事態である以上、怪人がもう一体出る可能性ぐらいは考慮すべきだろうがこの五人が揃っていればそうそう遅れは取らない。\n\n「と、そういえばミック、リュウコさんの方はどうなってるの?」\n「ん、ちょうど今終わったようだね。大量の戦闘員と二体の未確認の怪人が出たようだけど、問題なく倒したそうだ。\n クリスタルも回収済。60センチはあるサイズだそうで、こんなサイズが出現した理由を調査する必要があるね」\n\n ミックの通信からは予想通りの答えが返ってくる。\n まあ、リュウコさんが行った以上そちらは当然だろう。\n\n「ヒマリ、布団は、オレンジ色……?」\n「うん? あ、はい」\n\n とりあえずもう一度編成してクリスタルの探索を再開すべきだろう。\n 初対面の二人を困惑させているミオと、その三人から微妙に距離を取っているカナデに声をかけ、探索再開を呼びかける。\n\n\n 結局、その後の探索で特筆すべきことはなかった。\n 戦闘員がいて、問題なく倒し、クリスタルを回収した。\n\n 予想通りの展開。いつもの通り、何の問題も無くて。\n それが何故だか、この日はやけに胸騒ぎがしたーー\n\n\n ====================\n\n\n「あとは、テメエだけか」\n\n 顔に拳を受けた熊の怪人は、首の断面からプスプスと黒煙を上げながらその場で崩れ落ちた。\n サソリの怪人は足裏を叩きつけるような蹴りで半身を爆発させられた。\n カメレオンの怪人は貫手で心臓を貫かれた。\n モグラの怪人はコンクリートごと焼かれて耐えかねて地上に上がった瞬間に踏みつぶされた。\n\n「ば、馬鹿な……」\n\n 残っているのはジェネラルだけ。それもーー\n\n「10体だぞ! 怪人10体だ!! なぜ、なぜっ……!!」\n\n その周りにはさらに5体の怪人たちが身体を炭にされて転がっていた。\n ジェネラルの秘中の秘、一つの世界につき一度しか使えない切り札。条件を満たした時のみ、戦闘員を怪人に変化させることができるスキル。\n むろん、本来の怪人と比べれば戦力は落ちるとはいえ、あまりに強力なスキルだ。\n\n ジェネラルはこれまで幾度もこのスキルを用いて侵攻を成功させてきた。\n なんせ10対1、圧倒的な戦力差だ。負けるはずがない。\n\n 戦闘において、人数差というものは絶対に近い。\n 確かに魔法少女の戦闘においては質が数を覆すことは決して珍しくない。実際、単なる戦闘員は徒党を組んで初めて魔法少女と戦闘の体をなす。\n 相手がエミリアのような戦闘向けの幻想種の場合、下級戦闘員ではどれだけの数がいても相手にならないことも珍しくはない。\n\n だが、怪人は違う。\n 怪人は強い。平均的な魔法少女相手であれば、一対一では勝ち目がない。\n 魔法少女がコンビを組む理由の一つがそれだ。本来は怪人の方が魔法少女よりも強いからこそ、数でもってその力を覆す。\n\n そう、数だ。\n 二体一であれば、単純に与えられる攻撃は倍に、受ける攻撃は半分になる。\n 連携すれば攻撃の選択肢も飛躍的に広がるし、逆に防ぎ方は恐ろしく狭まる。\n 故に魔法少女という物は、多勢を以て怪人という質を打倒するのが常道なのだ。\n\n そして、それを覆すのがジェネラルーー多勢を以て魔法少女を蹂躙する怪人。\n\n 数という物はそれだけで脅威ではある。\n だが真にそれが脅威足り得るのは十分な連携の元、暴力が統制されて間断なくそして変化を伴って行使された時だ。\n\n 完全な連携という物は非常に難しい。だがそれを可能とするのがジェネラルという怪人の能力。\n ジェネラルの指揮の下で怪人たちが力を振るえば、それは単純な暴力を越えた一個の『軍団』だ。\n 単独の力では決して対抗不能。如何なる強者であろうと『個』である限りは踏み潰し、蹂躙するからこそのジェネラルの名。\n\n だというのにこれは何だ。\n なぜ10体もの怪人がたった一人の魔法少女に負ける。\n なぜ完全なはずの連携も不意打ちも全て失敗する、なぜ必殺の布陣が破られている。\n なぜだ、何故だ、なぜだーーー!!!?\n\n「ちっ、流石に…… しんどいな……」\n\n 無論、リュウコとて無傷ではない。\n 左腕は肘の上からねじ曲がり使い物にならない。\n 背中にはナイフのような鋭い爪が刺さったままで血を流している。\n コスチュームはあちこちが破れ、その下の白い素肌と赤い傷跡を覗かせている。\n\n 7体目の怪人を倒したあたりで自己回復は打ち止めになった。\n 完全に満身創痍、正にあと一撃でも喰らったら倒れるという有様だったが……\n ジェネラルは、自分がその一撃を入れられるとはとても思えない。\n\n「テメエを、倒して、全部終わりだ」\n\n 一歩、リュウコの足が踏み出す。\n ジェネラルに敗北を与えるために。\n\n 戦闘が専門ではないジェネラルにはリュウコの拳を躱すことなどできないだろう。\n 受け止めるなどもってのほかだ。だが、逃げ道などはあらゆる意味で存在しない。\n\n ーーであれば、進むまで。\n ジェネラルは軍刀の握りを確かめる。\n 守りは考えない。構えは大上段。狙うは逆胴、捻じれた左腕では守れぬ急所。\n\n 呼吸の変化にリュウコも気づく。一足一刀にはまだ遠い、だがほど近いその距離に右の拳を固める。\n\n そして、一気に飛び込んだ。\n\n 軍刀が空気を切り裂き殺意を吼える。胴を二つに分かたんと風を斬る。\n\n そして、拳がジェネラルの胴を貫いていた。\n\n 軍刀は風だけを斬って宙にとどまり、その腕の内側に踏み込んだリュウコによってジェネラルの腹部は見事に貫かれていた。\n 完全なる致命傷、ジェネラルの仮想体が消滅を免れる術はない。\n\n 当然の結末だ。\n ジェネラルの刀が当たるようならリュウコは既に倒されている。\n あと一撃で倒れる状態であろうが、疲労で動きが精彩を欠いていようが、自慢の超直感が鈍っていようが、並の怪人など歯牙にも掛けない圧倒的強者、それが魔法少女リュウコだ。\n\n だが、ジェネラルは挑んだ。\n この世界への侵攻の成否がかかっていること。\n この作戦を立案したのが自分であること。\n 成功を信じて自分に従った同僚達のこと。\n それら全てがジェネラルに撤退を許さなかった。\n\n\n なにより、これで、ジェネラルの勝利は決まった。\n\n\n 腹部を深々と貫いたその腕を、掴む。\n ジェネラル自身の身体に仕込んだ爆弾から逃げられないように。\n\n リュウコの顔に驚愕とーー敗北を確信した絶望が、浮かんだ。"} |
Xet Storage Details
- Size:
- 47.2 kB
- Xet hash:
- 28ee49f62c2c17141eca8a3944c9ad659b0f41f610c0fbc3d0603adbc451218a
·
Xet efficiently stores files, intelligently splitting them into unique chunks and accelerating uploads and downloads. More info.