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{"novel_id": "n0002hp", "chapter": 6, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0002hp/6/", "title": "第6話 狩人と猪", "content": "「なんだ、いるじゃないの。天然物が」\n「はい?」\n\n アウラは少女の視線の先を追うと、馬車の上で手を振る王女の姿があった。\n\n「え、天然物ってまさか……、王女様のことですか!?」\n\n アウラは素っ頓狂な声を上げた。少女が口元を引き上げて怪しい笑みを浮かべたので、本気なのだと思った。\n\n「アルドリッヒ様、それは流石にマズいですって……! 一国の王女様なんかさらったら、国を丸ごと敵に回すことに……」\n「金犬、あなた何か勘違いしているわね。旅の途中で食べる物がなくなって空腹なときに、猪の群れが目の前を通ったとする。猪のうちの一匹を狩ったら群れ全体に襲われるかもしれない。そんな時はどうするの?」\n「……群れを全員始末してでも狩ります」\n「そうでしょう? 価値ある”天然物”が手に入るなら、国のひとつやふたつ滅ぼしても構わないわ」\n\n アウラは唖然とした。少女にとってはこのアルカディアという都市ですら、脅威として認知されないらしい。この少女はどれだけの暴力を持っているのだろう。底の知れなさにアウラは思わず身震いした。\n\n「金犬、さあ行くわよ。楽しい狩りの時間の始まりよ?」\n\n 少女はそう言って唇を舐めた。\n\n\n※\n\n\n アルカディアを都とするエンゼルス王国。この国の第3王女”アルフォンソ・セリーヌ”は幸福の絶頂の最中にいた。セリーヌは本日、傍らにいるこの男性、カルパッニャ領侯爵”セベリーノ・グリトフ”と婚姻を果たした。今は民衆へのお披露目のため、こうして馬車に乗りながら街中を練り歩いているのだ。\n\n セリーヌはグリトフと共に、馬車の上から民衆に手を振る。すると、その先々で歓声が沸き起こった。どうやら民衆は皆、結婚を歓迎してくれているようだ。\n\n グリトフは元々、幼少から時を共に過ごした幼馴染であった。幼い頃はアルカディア近郊のオアシスまで出向き、ふたりして裸になって水遊びをした仲だ。その頃はただの親友だったグリトフだが、体が大人になっていくにつれてグリトフのことを意識するようになった。\n\n 一方的に恋心を抱いていると思っていたセリーヌだったが、ある日グリトフにその思いの丈を告げられ、お互いに好意を抱いていることを知った。\n\n しかし、いくらグリトフが侯爵の地位を受けようと、王族の結婚は自らの意思で決めることはできない。案の定、セリーヌの婚約は他国の王子との間で結ばれていた。\n\n そこに一石を投じたのは他ならぬグリトフだった。グリトフは見事な外交手腕をみせ、婚約相手の王子の方から婚約破棄するように仕向けた。そして、あろうことか、自らがその空いた席に収まってみせたのだ。\n\n 相思相愛のふたりは、王女が20歳を迎えるこのタイミングで結婚する運びとなった。政略結婚をさせられる姉妹を見てきたセリーヌからすれば、愛する男性と結婚できるそれはまさに奇跡のように幸せなことであった。\n\n 民衆へ手を振るのをやめ、隣のグリトフへと視線を移す。すると、グリトフと目が合い、お互い微笑みあった。この幸せな時間が永遠に続けばいい、そう思った。\n\n「おい、そこの女! 危ないぞ!」\n\n 突如飛んできた怒声。馬車の前方に目をやると、ふたりの女が馬車の行く手を阻んでいた。\n\n ひとりはアルカディアでよく見かけるフード付きの外套を羽織った女。フードを目深に被り、その表情を見て取ることはできない。そして、もうひとりは、この辺りでは見かけない深紅のドレスを纏った少女。\n\n 少女と目が合った。すると、少女は赤い唇を引き上げてニヤリと笑った。王女のことを凝視する深紅の瞳は、まるで肉食獣のそれであり異様そのものであった。\n\n「どけっ! 王族の婚姻パレードに水を差すつもりかっ!」\n\n 先行していた騎馬兵が剣を抜き放った。それを見たグリトフが怒鳴る。\n\n「やめろっ! 女子供に剣を向けるなど何事――」\n\n 次の瞬間、騎馬兵の頭部が宙に舞った。そして、ドスッとまるでメロンでも落としたかのような生々しい音と共に、頭部が地面に転がる。\n\n『きゃあああああああ!!』\n\n 首の断面から血が噴き出し、辺りに降り注ぐ。相次いで悲鳴が上がり、民衆たちは大混乱に陥った。\n\n「……まったく騒々しいわねえ。『静まりなさい』」\n\n 少女がそう呟くのが聞こえた。すると、少女の声が脳内でこだまし、眩暈を起こしそうになる。倒れそうになるのを何とかこらえたところで、異変に気づいた。\n\n 辺りが奇妙なほどに静まり返っているのだ。人々は皆、しゃべろうとしているにもかかわらず、口をぱくぱくさせるだけで口からは空気しか出てこない。それはセリーヌも同じだった。\n\n 焦った歩兵が無言で少女を取り囲み、槍を突きつける。\n\n「ゴミクズがわたくしの前に立たないでいただける? 『ひれ伏しなさい』」\n\n すると歩兵たちは突然、その場でうずくまり地面に頭をこすりつけた。少女は肉の絨毯と化した歩兵を踏みつけにしながら、セリーヌの方へと近づいてくる。\n\n この少女は人間ではない。魔物の類か何かだろうか。セリーヌは恐怖で体が硬直して動けなくなっていた。そんなセリーヌの前に、グリトフが立ちはだかって剣を構える。\n\n 会話はできない。しかし、グリトフの大きな背中を眺めていると、こんな状況下でも安堵できた。一瞬グリトフが振り向き、「安心しろ」とでもいうかのように微笑んだ。\n\n しかし次の瞬間。\n\n「?」\n\n 王女の頬に生暖かい液体が付着する。視線を下げると、グリトフの腹部を何かが貫通していた。ズルリと音を立ててその何かが引き抜かれ、グリトフはその場にバタリと倒れ込んだ。\n\n「!!!!!」\n\n 声にならぬ絶叫。セリーヌは叫びながらグリトフに駆け寄り、背中にぽっかりと開いた穴を手で押さえようとする。今ならまだ助かるかもしれない。誰か人を呼ぼうと顔を上げた。するとそこには返り血に塗られた少女が佇んでいた。\n\n 少女は王女の全身を舐めるように眺めてから、こう言った。\n\n「あなた、私の犬になりなさい」\n\n すると、セリーヌの意識はそこで途絶えた。", "afterword": "新婚さん、ダンジョンにいらっしゃい!"}

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