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{"novel_id": "n0002hs", "chapter": 1, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0002hs/", "title": "【常識改変:兄妹で種付けセックスする】のが当たり前になった夏、出会ったばかりの儚い義妹が孕んでくれる", "content": "あなたに来て欲しいそうよ、と着替えの入った手提げを渡してきた義母は、それ以外にもなにかを言いたげで、けれど結局なにも言わなかった。\n\nなにを言われたとしても、おかしくはなかったように思う。\n\nそれなのに義母は口をつぐみ、困ったように笑ってみせた。\n\nどうしようもないことだと悟っていたのかもしれないし、あるいは諦めてしまっていたのかもしれない。\n\nただ、見守ろうとしてくれているように見えた。\n\n病室のベッドは全て埋まっていた。\n入り口に立った瞬間、ベッドの上の全員がこちらを振り向く。\n\n何人かには見覚えがあった。\nきっと学校の廊下なんかですれ違ったことがあるんだろう。\n\n今この病棟に入院しているのは、僕と同じ高校の女生徒なんだから。\n\n「ジロジロ見ないでください。……早くこっち来て」\n\n愛嬌の足りない、けれど聞き慣れた甘い声。見慣れた少女。\n\n「まったく。あんまり見ないであげてください。\n……みんな、被害者……、なんだから。」\n\n恨めしそうに呟いた少女の真っ赤な顔と、見慣れたとろけ顔が重なり、顔が熱くなる。\n\n「その理屈だと、僕は加害者になるわけだけど」\n\n「何言ってるんですか。あなたも被害者の側でしょうが」\n\n『被害』、の内容を想像したのか、恥ずかしそうにシーツを引き上げ、真っ赤に染まった顔を隠す。\n\n……処女を散らしたあとも、そうやっていたっけ。\n\n「なに、おっきくしてるんですか。……バレバレなんですが」\n\nじっとりとした目が僕をにらむ。\n軽い非難と、熱のこもった視線。\n\n「義妹に欲情するとは。とんだ変態お兄ちゃん、ですね」\n\n罵倒じみた言葉のわりに、やわらかな声はまるみを帯びていた。\n差し出された手を握りかえすと、くすり、と小さく笑う。\n\n「まったく……。ちゃんと、解けてるんですか?」\n\n「舞桜のが解けてるなら、僕のも解けてるんじゃない?」\n\n握る手の力が、強くなる。\n\n「……舞桜って、呼んでくれるのね。」\n\n言われて気付く。\n\nこの義妹のことを名前で呼ぶようになったのは、そういう関係になってからで。\n\nこの義妹が敬語を使わなくなったのも、そういう関係になってからだった。\n\n「ねぇ。……これから、どうしようか……?」\n\n僕の手を自分の頬に添えて、笑みを浮かべる。\n幾度となく撫でてきた義妹の頬は、しっとりしていて、なによりもやわらかい。\n\n昨日までとなにも変わらない。\nこのくらい当たり前のことだったのに、どうしてか胸が高鳴る。\n\n\n「お兄ちゃんは、どうしたい?」\n\n\nどうして、こんなことになったんだろう?\n\n出会ったばかりの義妹と。\n妹になったばかりの女の子と、こんな関係になるなんて。\n\n「わたしはもう、決めてるの」\n\n\n────すべては常識改変のせいだった。\n\n\n\n「応えて、くれる?」\n\n\n\n一度抱いてしまった感情は、解けて失くなったりしないのだ。\n\n\n△▽△▽△\n\n父の再婚相手の連れ子、つまり義妹になる女の子の名前を初めて聞いたときは、春生まれなんだろうな、くらいにしか思わなかった。\n\n僕の名前も似たような付け方だったからだ。\n\n名は体を表すとか言うけれど、名前通りに育つ子どもなんて、なかなかいない。\n\n桐也、なんて名前をもらった僕が、桐の木みたいに真っ直ぐに育ったかと言われると微妙なところだし。\n\nそれでも彼女と初めて会ったとき、この子が『舞桜』なんだってすぐに分かった。\n\n舞桜はその名の通り、舞い散る桜の中に佇んでいた。\n\n高校一年生にしては小さめな体躯に、薄い白磁のようにするりと透き通るような肌。\n\n春の陽気になびく黒髪は肩に掛かるくらいで揃えていて、女子高校生らしい、大人未満の色香が漂う。\n\n色素の薄い唇は、それこそ桜のように淡い色彩で、今にも散ってしまいそうな程に儚い。\n\n桜と言えば、美しさと、儚さを兼ね備えた可憐な花だ。\n\nその名に相応しい、優しげで、清純な雰囲気の少女だった。\n\n\n\n……横から見ている分には。\n\n\n\n振り向いた彼女は、『桜』の名とは裏腹に、切れ長で、冷ややかな眼をしていた。\n\n見詰める瞳は薄い茶色で、今にも雫が落ちてきそうな程に潤んでいて、\n\nそして、\n\n\n蔑みの色を帯びていた。\n\n\n\n「……なんですか?ジロジロ見ないでください」\n\n「えっ」\n\n\n彼女が立っているのは我が家の庭で、一方僕の方はと言えば、疲れ果てて縁側に座り込んでいたところ。\n\nうちに引っ越してくる、新しい『母親』と新しい『妹』の荷物運びを全て片付け終わった後のことだった。\n\n\nひとりでやったんだもの。そりゃ、疲れる。\n\n\nなんでこんなコトになったのかと言えば、慌てる理由があったから。\n\n具体的には、義妹の入学式が迫っていたからだ。\n\n義母たちの住むアパートはこの家から電車で一時間はかかる遠方にあるのだと言う。\n再婚を見越した義妹は、我が家の近くの高校を受験し、見事合格した。\n\n\nらしい。\n\n\nで、その事実がどちらの親のアタマからもすっぽり抜け落ちていた。\n\nなんでそんなことになるんだと言われても困る。僕だって驚いた。\n\n父に『その子、どこの高校行くの?』と尋ねてからの、ドタバタの前倒しで引っ越し作業。\n\n急なことだったから引越し業者が対応可能な日取りはド平日に限られ、どちらの親も当然のように仕事で不在。\n\n労働力は義兄と義妹のみ。\n\n高校二年の春休みなんてヒマだろ?って言われたらぐうの音もでないけれど、なんでこんなことになった?と思わないでもない。\n\n\nこんなにもぶちぶち文句ばかり垂れているのにも当然理由がある。\n\n\n\n\n\nこの義妹が到着したのが、すべての荷物が運び込まれたあとだったのだ。\n\n\n\n\n「いやいや!引っ越しの手伝いさせておいて何その言い草!?\nて言うか、なんで今頃来るの!?夕方だよ!?」\n\n「……わたしの都合も聞かずにこの日を決めたのは、そちらでしょうが」\n\n「キミの入学式、明日でしょうが……」\n\n苦虫を噛み潰したような顔をしているだろう僕の精一杯の嫌味に鼻を鳴らし、\n\n「ご迷惑をお掛けしたのは、申し訳なく思っています。\nでも……。\nわたしは別に、前の家から通ってもよかったんです。\n……本当なら、ココにも来たくなかった。」\n\n名は体を表すと言うが、名前通りに育つ子供なんてなかなかいない。\nやっぱりそういうものらしい。\n\n「構っていただかなくて、結構ですから。わたし、こんななので。」\n\n取り繕いを隠しもしない冷たい笑みには、儚さの欠片もない。\n\n舞桜だなんて名前、よく付けたもんだ。\n\n「お互い、適切な関係を築いていきましょう?」\n\n……どうもこの無愛想な義妹とは仲良くなれそうにもない。\n\nそう思ったんだ。\n\nこの時は。\n\n\n\n△▽△▽▲\n\n『年頃のこどもを一緒に住まわせるのは、やっぱり良くなかったかしら……?』\n\n寝る前に水でも飲もうかと二階から降りていったところで、寝室に入っていく父と義母と行き合いそうになった。\n\nドアが閉まるまで、じっと身を隠す。\n\nため息が出そうになったけど、飲み込んだ。\n\n心配をかけてる側の僕に、そんな権利はないのだ。\n\n一軒家とは言えそこまで広くはないし、僕も舞桜も学生だから、生活リズムがどうしても近くなり、自然と顔を合わせる機会も多くなる。\n\nそれでもあの出会い以来、僕らの間に会話は一切無かった。\n\n義妹の朝は早い。\n\n僕が起き出す頃には洗顔も髪の手入れも終えて、食卓に座っている。\n\n寝癖一つない澄まし顔を見るに、狭い洗面所で鉢合わせしたりするのが嫌なんだろう。\n\n向かい合った席で朝食を無言でとる。目線が交わることはない。\n\n我が家の近くの高校、と聞いた時点で気づくべきだったけど、舞桜が袖を通しているのは僕が通ってる高校の制服だ。\n\n食事を終えると、義妹はさっさと家を出ていってしまう。\n\nわざわざ登校時間までずらすんだから、徹底していやがる。\n\n\nそれにしても。\n\n\nいってきます、くらい、言えばいいのに。\n\n\n学校から帰ってからも似たような感じだ。\n義妹と同じ空間にいると、とにかく気まずくて仕方がない。\n\n夕食を外で済ませてしまう手もあったけれど、流石に一緒に暮らすようになったばかりの家族(特になにも悪くない義母)に対してそんな暴挙に出るのは気が引けた。\n僕だって、火種をばらまきたいわけではないのだ。\n\nせめてもの抵抗として、部室で暇を潰してから帰宅すると、美味しそうな夕ごはんの香りと、きちんと揃えられた真新しいローファーが出迎える。\n\n一年生の部活はゴールデンウィーク明けからだから、まぁ、舞桜の方が帰りが早いのは道理だ。\n\n夕食を義妹と黙々と片付け、さっさと風呂に入って、部屋に引っ込む。\n\nそんな毎日を繰り返して、一週間が過ぎた。\n\n正直なところ、もうウンザリだった。\n\n朝、食卓で目があった瞬間、冷めた顔で視線を逸らされるのも。\n\n僕の席の近くに置かれたソースをチラリと見たあと、何の味付けもされていない目玉焼きをちびちび食べ始めるのを見させられるのも。\n\n自分の家に居るにも関わらず、ずっと余所行きみたいな、隙の無い格好で過ごされるのも。\n\n舞桜のやることなすことひとつひとつが、僕の心の中に後悔を募らせていく。\n\nこれから妹になる女の子と初対面でケンカするなんて、どうかしてる。\n\nどうにか仲直り出来ないものかと思ってはいたけれど、隣の部屋のドアを叩く勇気が、僕には無かった。\n\nおかげで最近はよく眠れない。\n\n目をつむると、桜を見上げる義妹の横顔を思い出す。\n\n花びらの雨の中に佇む舞桜に、なんて言葉をかけていれば仲良くできていたんだろう……?\n\n今の僕には、わからなかった。\n\n自然と足は縁側に向いていた。\n\n月明かりの中、満開を過ぎた桜が迎えてくれる。\n\nそして。\n\n「……なにしに、来たんですか……?」\n\n待っていたのは、桜だけじゃなかった。\n\n「……そっちこそ、なにしてんの?」\n\n座布団もクッションも敷かずぺったりと座り込んだ義妹は、質問に答えることなく、視線を桜に戻した。\n\nはらはらと音をたてそうなほどに散っていく花びらを、ちょっと距離を置いたままの兄妹ふたり、並んで見つめる。\n\n「……眠れない、だけです」\n\n遅れた応えは小さかった。\n\nしょんぼりうつむく舞桜の隣に腰を下ろして、桜を見上げる。\n\n花はもうだいぶ落ちてしまっていて、明日の雨で全て散ってしまうだろう。\n\n「……ひとと関わるの。あんまり得意じゃ、無いんですよ」\n\nぽそぽそ呟く義妹は、やっぱり僕の方を見ない。\n\n「新しい家族も、新しい学校も。上手くやっていける気が、全然、しなくて」\n\n今思えば、初めて会ったときの舞桜の態度はビビリなわんこみたいだった。\n\n威勢よく威嚇するわりには、しぼんだしっぽは見せないようにしまいこんで。\n\n来るのが遅かったのも、初めて会う義兄とふたりっきりになるのが怖かったんだろうか。\n\n「その……。一緒に生活してわかったと思うんですけど。\nわたし、あんまり愛想良くできないし。おしゃべりも得意じゃなくって。\n中学のときも全然友達できなかったんですけど、高校でもやっぱりダメで……。」\n\nそれはなんとなく感じてた。\n\n玄関に揃えられたローファーはピカピカのままで、友達との寄り道なんて、しているようには見えなかった。\n\n「だから、放っておいてください。\nこんなわたしのことなんて、気にしなくて、いいですから。」\n\nそんなに言うなら、放っておいてあげたほうが良いのかもしれない。\n\n「わたしなんかに、構わないで」\n\nけれど。\n\n「うーん……、ヤダ。構う」\n\n──そんな寂しいこと、言わないで欲しかった。\n\n「……なんで、そんなこと、言うんですか」\n\nなんでそんなに不安そうにこっちを見上げてくるのか、逆にわからなかった。\n\nだってそうだろう?\n\n「僕はわりと、お兄ちゃんしたい方だからな。」\n\n自分で言っておきながら、よくわからない理屈だなと思う。\n\nでも、そうとしか言いようがなかった。\n\nせっかく家族になったんだから。\n\nゆっくりで全然構わない。\n\n少しずつでも、仲良くなりたかった。\n\n「……なんですか、それ?」\n\nあんまり上手いこと言えてる気がしない僕の言葉が、どれだけ伝わったんだろう。\n\n初めて見た彼女の本当の笑顔は、いかにも苦笑いって感じで、ひどくぎこちなくて。\n\n「後悔しても、知らないですよ」\n\nでも、心にしっとり染み渡るようにあどけない。\n\n心の中に、なんだかあったかい感情があふれてくる。\n\n気がつけば、思ったことをそのまま口に出していた。\n\n「実は目が冴えちゃったんだよね。……眠くなるまで、おしゃべりしようよ」\n\nちょっと驚いたように見開かれた目は月明かりで煌めいて。\n\n次の瞬間には、三日月みたく、きゅっ、と笑ってみせて。\n\n「……もう……。仕方ない、お兄ちゃん、ですね」\n\nちょっとだけ舞桜の方にお尻をずらすと、義妹もちょっとだけ寄ってくる。\n\n「ほんの少しの間だけ、付き合ってあげますよ。」\n\nその日僕らは、一緒に夜ふかしした。\n\n手を伸ばせば、互いの肩に触れられるくらい。\n\nこのくらいの距離が、今の僕らの適切な関係だった。\n\n\n\n\n\n\n▲▽△▽▲\n\n五月の連休明けともなれば、もう夏の気配が感じられる頃合いだ。\n\n夜はまだ肌寒いけれど、庭の木々は深緑を深め、ソメイヨシノも葉桜になって久しい。\n\n一緒に夜ふかしするようになって、一月が経った。\n\n義妹はあの日から、ちょっとだけ変わった。\n\n家の中ではゆったりとくつろいだ服を着るようになった。\n\n朝、顔を合わせると、『おはよう』って、ちゃんと言ってくれるようになった。\n\n『ソースください』って、ちゃんと言ってくれるようになった。\n\n『行ってきます』って、ちゃんと言ってくれるようになった。\n\n『一緒に学校行くのは、さすがに恥ずかしいです』とか言って先に家を出るわりに、学校ですれ違ったら、こっそり手を振ってくるようになった。\n\n学校で見かけたときは、長身の女の子といつも一緒だった。\n\nなんだ。友だち、ちゃんと出来たじゃないか。\n\n\nそして、\n\n\n「今日も、いいですか?」\n\n\n親が寝静まったころに、僕の部屋にやってくるようになった。\n\n\n「だって、眠れないんですもの。……一緒に夜ふかし、してくれますよね?」\n\n\nたまにだけれど、笑ってくれるようになった。\n\n\n眠くなるまでおしゃべりする夜を僕は楽しみ始めていて、それは多分、舞桜の方も同じだった。\n\n僕らはちゃんと、『兄妹』を育んでいた。\n\nぎこちなかった関係も、きっかけさえあればどこかで噛み合い、回り始める。\n\nちょっとずつでも、深まっていく。\n\n「来年の桜が待ち遠しいですね」\n\n「気が早すぎるだろ」\n\n「結局、一回しか一緒に見られなかったんですもの」\n\nなにかを確認するように見つめられる。\n\nいたずらっ子のように細められた瞳。\n\n「どうせ同じ家に住んでるんだ。何回でも一緒に見れるだろ」\n\n淡い色をした長いまつげが上下に揺れて、笑みのかたちをゆっくりと縁どる。\n\n「えぇ、そうですね。……楽しみ、です」\n\nこうやって僕は舞桜の兄になっていき、舞桜は僕の妹になっていくんだろう。\n\nそう、思っていた。\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n────そんな日常も、あっけなく崩れ去ってしまった。\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\nそれを残酷と言うのなら、そうなのだろう。\n\n\n\n\n「わたしたち、『書き換え』られてしまいましたね」\n\n\n\n\nぼくらが目指した兄妹のかたちは、どこかのだれかに『改変』されてしまった。\n\n\n\n\n☆☆☆☆☆\n\n\n\nニュースでよく見る『常識改変』被害なんてこれまで他人事でしかなかったけれど、いざ自分に降りかかってみても実感が湧かなかった。\n\nこの世界には、ありとあらゆるルールを改変出来る能力者が時折現れ、『常識』を書き換えていく。\n\n「なんだか、今までの常識の方が間違っていたみたいですね」\n\n義妹の言うとおりだ。\n\n常識改変なんてされてしまったら、『こんなの常識じゃないか』って強い暗示に塗り替えられるもんだと思っていたけど、実際は全然違った。\n\n書き換えられた『常識』は、意識に音も無くなじみ、無意識に違和感なく溶け込む。\n\nついさっきまでそこにあったはずの『常識』との落差で書き換えられた感覚は残っているけれど、それもいつまで持つだろう。\n\nふたつに割って食べる、赤いパッケージのチョコレート菓子を思い出す。\n\n価格高騰の煽りを受けて小さくなったそれに、最初は違和感があったけど、時が経つにつれ、だんだんとそれが当たり前になっていく。\n\nじわじわと『常識』が侵食されていく。\nいつの間にか『当たり前』になってしまったことに、言われてみないと気づかない。\n\n『常識』になるって、たぶんそういうことなんだ。\n\nこの常識改変も、そうやって違和感を喪っていくんだろう。\n\nそう思うと、洗脳されるよりもよっぽど生々しかった。\n\n\n\n『兄妹でキスをするのは当たり前』。\n\n\n\nそれが今の僕らの『常識』。\n\n適切な関係を築いていきましょう?と、初対面の義妹が言ったのを思い出す。\n\n今の僕には、舞桜とのキスが、秘密の夜ふかしと同じくらいには自然なことに思われしまう。\n\nこれが彼女が望んだ『適切な関係』?\n\nきっと違うんだろうな、と思いながらも、僕らは改変に逆らえない。\n\n\n\n\n「さて、困りました。わたし、キスなんてしたことありません。」\n\n落ち着かない様子で、ベッドの上でぱたぱたと脚を振ってみせる。\n\n確かにキスデビューって、一個大人になった証明みたいなものだ。\n\nそわそわする気持ちもわからないではない。\n\n「桐也さん、キスのご経験は?」\n\n「……ない」\n\n「……童貞さんですか?」\n\n「…………童貞さんですね」\n\n「じゃあ、リード、してください」\n\n……なんでそうなる。\n\n「『困ったときのお兄ちゃん』。そうでしょう?」\n\nちょっぴり緊張した様子で笑いかけられると、もう何も言えない。\n\nそんなコト、言った覚えは全然無いんだけれど……。\n\nそれでも妹のお願いに逆らえないのは、やっぱり、お兄ちゃんしたいからなんだろう。\n\n細い腰に手を回す。\n\n居場所を見つけたみたいに、小さな身体がぴったりと腕の中に収まる。\n\n「そんなに驚かなくても。今日からコレが、当たり前になっていくんです。」\n\n僕に向けられた言葉のはずなのに、自分自身に言い聞かせているみたいな言い方だった。\n\n誰が書き換えたか知らないが、ろくでもないことをしてくれたもんだ。\n\nふたりの火照りで蒸れた部屋はちょっぴり暑く、縁側で夜ふかししていたあの頃よりも薄地になった義妹のパジャマの胸元からは、細い鎖骨が覗く。\n\n洗いたての髪はほんのりと湿っていて、僕のとは違うシャンプーの、甘い香り。\n\n羞恥に染まった瞳が、零れ落ちてしまいそうなほどに濡れている。\n\n知り合って一ヶ月しか経っていない義妹の肌の赤みが、心臓に悪い。\n\n常識になったからって、女の子との初めてのキスに緊張しないはずがない。\n\n興奮しないほうがおかしい。\n\n\n唇を重ねてきたのは、義妹の方からだった。\n\n\nリードするとはなんだったのか。\n\n\nそんな驚きは一瞬で揮発した。\n\nあとに残ったのは、しっとりとしたやわらかさ。\n\n心にじんわりと広がるような喜びと、すべてを奪い去るような安心感。\n\n「気持ち、いい、です……」\n\n透明な声音で、腕の中の少女が呟く。\n\n切れ長の瞳がたたえた潤みが、恍惚と揺らぐ。\n\n「兄妹なのに……。なんて言っても、もう、遅いのでしょうけど……」\n\n小さな唇から漏れ出た甘い吐息を、誰にも奪われないように乱暴に吸う。\n\n舞桜の口からあふれた喘ぎは、悦び以外の何ものでもない。\n\n兄妹でこんなことするだなんて、明らかに間違っていたはずなのに、もう間違っていないだなんて。\n\n「もっとしてください……っ、もっと……っ」\n\n狂ってしまった常識のなかで飲み込んだ義妹の唾液が、眠れない夜のホットミルクみたいに、心の奥深くをじんわりとあたためる。\n\n罪悪感も、背徳感も無い。\n\n染み渡るような安らぎと、すべてを見失うような快楽しか感じないことだけが、ほんの少し恐ろしい。\n\n誰が書き換えたか知らないが、ろくでもないことをしてくれたもんだ。\n\nほんとうに。\n\n\n\n\n\n\n\n「おはようございます。\nわたしたち、もっと『兄妹』になってしまいましたね」\n\nキスに疲れてふたり並んで眠ってしまった翌朝。\n\nいつもより早く目を覚ました僕に、ちょっと疲れた笑みを浮かべた義妹が囁いた。\n\n「……ものすごい、皮肉だ」\n\n「それでも、もうどうしようもないことでしょう?」\n\nぎこちなく笑う妹が、なんだか無性に愛おしくなった。\n\n細い腕を引いたら、反抗もせずコテンと倒れる。\n\n当たり前みたいに兄の身体に覆い被さって、頬を擦り付け、キスを落とす。\n\nそんな行為に、もうなんの違和感もなかった。\n\n常識改変は完結していた。\n\n妹とのキスにこみ上げてくるのは、あたたかな幸せと、安心感だけだった。\n\n\n\n\n\n\n\n\n「みんな、怖くないんでしょうか?」\n\n僕に覆い被さったまま、不意に舞桜が呟いた。\n\n「ひとと関わっても、喪ってばかりなのに」\n\n絶望している様子ではなかった。強いて言えば、諦めに近い。\n\n「こんなにも簡単に書き換えられてしまう関係に、意味なんてあるんでしょうか?」\n\n口元は相変わらず笑みのかたちを取ってはいた。\n\nけれど、見つめる舞桜の瞳にはいろんな感情が揺らいでいて、あふれた想いが頬を伝い、僕の頬に落ちる。\n\n舞桜が恐れていたのはひととの関わりじゃなくて、この残酷だったのかもしれない。\n\n関係さえ結ばなければ、改変されることもなかった。\n\n関わったばかりに、植え付けられる偽りの感情。\n\n関わったばかりに、喪われる本当の想い。\n\n義妹の問いに、僕は百点満点の答えを持っていなかった。\n\nでも、思うに。\n\n「書き換えられても変わらない関係を築くしか、ないんじゃないかな」\n\nあいまいに笑う。\n正直どんな顔をしたらいいのかわからなかった。\n\n「変わらない関係なんて、ありませんよ」\n\nこの子も同じ気持ちなんだろう。\nあいまいな笑みを返される。\n\n\n書き換えられてしまった今、もはやどうにかなるものでもなくて。\n\n\n「それでもわたしと、『兄妹』になってくれますか?」\n\n\n\n────── 変わらないで、いてくれますか?\n\n\n\nそう言われているみたいだった。\n\n\n\n証明したいと思った。\n\nひとり寂しく笑う妹のために。\n\n例え血が繋がっていなくても。\n\n僕は舞桜の兄で、舞桜は僕の妹なんだって。\n\n\n前にもこんなやり取りをした気がする。\n\n僕の答えは変わらない。\n\n何度『書き換え』られたとしても、この気持ちだけは変わらないで欲しい。\n\nそう心に祈りながら。\n\n\n「……僕はわりと、お兄ちゃんしたい方だからな。」\n\n\n困ったような笑みが、微かにほころぶ。\n\nやっぱりこの子は笑顔が似合う。\n心の中に、なんだかあったかい感情があふれてくる。\n\n僕がお兄ちゃんでいたいのは、君に寂しそうにしてほしくないから。\n\nずっと笑っていてほしいから、なのかもしれない。\n\n\n「……後悔しても、知らないですよ」\n\n「後悔させないように、努力するよ」\n\n\n見つめ合って、唇を重ね合う。\n\n元はと言えば、僕が始めた関係だ。\n\n妹と一緒におかしくなることくらい、どうってことない。\n\nそうだろう?\n\n差し出された舌を迎えながら、そう思った。\n\n\n\n★★★★★\n\n\n\n\n\n\n常識は改変されて、そのたびに少しずつ『兄妹』はかたちを変えていく。\n\n僕らも『兄妹』のかたちに沿って変わっていく。\n\nそれはとてもさり気なく、そして当たり前のことだった。\n\n\n\nなんの抵抗も無く。なんの違和感も無く。\n\n\n\n\n\n\n\n音も、気配もなく。緩慢に。\n\n\n\n\n\n侵食されていく。\n\n\n\n\n\n\n\n▲▽▲▽▲\n\n\n六月には、『兄妹で手を繋いで通勤通学デートする』のが常識になった。\n\n雨に濡れる街に、手と手を繋いだ男女があふれた。\n\n制服姿の兄妹も、スーツ姿の兄妹も、腰の曲がった兄妹も、みんな手を握り合って。\n\n「こうして見ると、『兄妹』ってたくさんいるんですね」\n\nふつうの兄妹。僕らみたいな義兄妹。結婚して、義兄義妹になった関係もある。\n\n世間には、僕らが想像している以上に兄と妹が溢れている。\n\n「『兄妹』にも、色々あるんだな」\n\n手を繋ぐのが『常識』になっても、感情にまでは影響を与えないんだろう。\n\nランドセルを背負った男の子と女の子が楽しそうに笑い合う一方で、無言でそっぽを向きながら、手だけは離さない詰め襟とセーラー服もいる。\n\nなんだか無性に可笑しかった。\n\n「わたしたちも、ちゃんと『兄妹』に見えているでしょうか」\n\n手を繋いでいないといけないから、傘一本にふたりで身体を寄せ合って。\n\n僕の肩にコテンと舞桜の頭がのる。\n\n女の子の香りが、ふわりと傘の中に広がった。\n\n「ねぇ。……キス、しませんか?」\n\nさすがに他人前でするのは恥ずかしい。\n\nちょっと傾けた傘の内側で、くちびるを、そして舌を重ねる。\n\n「よかったですね。」\n\n「……なにが?」\n\n「こんなことさせてくれる女の子、妹以外じゃ、なかなかいませんよ?」\n\n差し出された真っ赤な舌は肉厚な果実のようで、トロリと甘そうな果汁で濡れていて。\n\n雨が傘を叩く音の中に混じった、くちゅり、という水音は、僕ら以外誰も聞いていない。\n\n聞いたとしても、誰も不思議に思わない。\n\n咎めてくれる者は、いない。\n\n\n▲▼△▼▲\n\n七月には、『兄妹は一緒にお風呂に入る』のが常識になった。\n\n大して広くもない脱衣所で、真っ赤な顔で立つ舞桜と向き合う。\n\n「見られていないと脱げないのは、さすがにおかしくないですか?」\n\nそんなこと僕に言われても困る。\n\n「あんまり、見ないで。……おねがいですから」\n\n不馴れなストリップショーみたいに、のろのろとした動きでスカートのホックをはずし、ゆっくりと下ろす。\n\n覗く太ももは真っ白で、傷一つなくて、剥きたての白桃のように潤いがある。\n\nじっとうつむいたままセーラー服のファスナーを引き上げ、頭を抜く。\n\n「妹の裸をじっくり鑑賞するのは、さすがに非常識です」\n\nお腹と肩を隠すようにして、モジモジ身体をゆらしながら、そんないじらしいことを言う。\n\nスポーツブランドのロゴの入ったインナーは、義妹の清楚と、性への無知を思わせた。\n\nそんな少女を裸に剥いて立たせてると思うと、ゾクゾクと背筋を駆け上るモノがある。\n\n「お兄ちゃんも、脱いで」\n\nありのままの義妹は、服と一緒に敬語も脱いでしまったらしかった。\n\n誘惑するみたいな言葉に従い、手早く制服を脱ぎ捨てる。\n\nボクサーパンツからはじけ出たモノに、舞桜は何も言わなかった。\n\nやっぱりうつむき加減のまま、じんわりと熱のこもった視線で、ただじっと、見つめていた。\n\nちらりと舞桜に視線をおくると、無言のまま、スポブラを脱ぐ。\n\n流れるようにつま先からショーツを抜いて、脱衣カゴに、さり気なく、けれどそそくさと隠す。\n\n赤く染まったデコルテに、潤んだ瞳、小さく開いたくちびる。\n\n想像より大きな胸の先の、薄い色素のぽっちが示す義妹の非常識を、僕はさすがに咎めなかった。\n\n「じっくり見るだけ見ておいて、『理解あるお兄ちゃん』ぶっても許してあげないんだから……。いじわる」\n\n浴室に移動し、掛け湯をする。\n当然のように、互いの身体を洗い合う。\n\n『兄妹が一緒にお風呂に入る』のは、常識だから。\n\nされるがままに腕を洗われ、背中を洗われ、お腹を洗われる。\n舞桜はやっぱりうつむき加減で、絶対目線は合わさない。\n\nけれど義妹は、どこまでも従順だった。\n\n腋を洗われるときは頭の後ろで腕を組み、胸に手が伸びたとしても、ふるえながらジッと耐える。\n\n「はぁ……っ、あぁ……っ」\n\nあふれた吐息の熱さから、決して嫌がっているわけじゃないことが手に取るようにわかった。\n\n初めて触れる義妹の胸は、張りがあって、いつまでも揉んでいられそうなほどに柔らかい。\n\nけれど僕は、おっぱいの手触りそのものよりも、その広さに驚いていた。\n\n横乳から下乳、胸の谷間まで、女性の象徴は男性のどんな部位よりも、どこまでも広がっている。\n\n女の子の『豊かさ』は、こんなところにも現れるんだ。\n\n触れてわかる妹の身体のいいところは、あまりにも多い。\n\nお互いの身体を観察しながら、丁寧に探り合い、洗い合う。\n付き合っているわけでもない男女がやるには不適切なこんな行為も、兄妹なら当たり前で、自然な行いだ。\n\n太ももの裏も、脚の付け根も、おしりの間も晒し合う。\n股の奥まりだって洗い合う。\n\n「そ、そこは……、あんまり……。……、んぅ、うぅん……っ」\n\nボディソープとはちょっと違うぬめり気が義妹の奥に隠されていても、何も言わない。\n\nぴんとそそり立った僕の先端から先走りがあふれ出していても、何も言わない。\n\n互いを洗い合うと言っても、性器に触れ続けるのは兄妹の非常識。\n\nむず痒さを覆い隠すみたいに深いキスを交わしながら、互いの身体をよくすすいぎ、湯船に浸かる。\n\n「とろけちゃいそう……」\n\n脚の間に座り身体を預けてくる義妹の薄い背中を抱え込む。\n\n裸で抱き合うお風呂の中は密着感が半端じゃなくて、ちょっと怖いくらいに安心する。\n\nふぅ、と息をつくと、硬さが和らぎ、妹の熱がさらに身体に染みるようだ。\n\nテレビの微かな音と、両親の話し声が聞こえる。\n\n舞桜とふたり、連れだって脱衣所に入って行くところを見ても、両親はなにも言わなかった。\n\n兄妹でお風呂に入るのは、当たり前のことだから。\n\nいけないことをしているのに、誰も止めてくれない。拒絶してくれない。\n\nだってこれは、悪いことでもなんでもないんだから。\n\n……この想いに、なんて名前を付ければいいのかわからない。\n\n舌を伸ばしておねだりしてくる舞桜も、同じ気持ち、なんだろうか。\n\nとがった舌を唇で挟み、軽く吸う。\n\nいたわるように肩を撫でると、安心したようにチカラが抜けて、もっと身を預けてくる。もっとされるがままになってくれる。\n\n体の芯まで温まっているからか、真っ赤な舌はやけどしてしまいそうなほどに熱かった。\n\n\n\n▲▼▲▼▲\n\n薄暗い部屋の中、ベッドの上に衣服を滑り落とす気配がした。\n\n真夏の夜は、窓を開けておけば気持ちのいい風が入ってくる。\n\n揺れるカーテンの隙間に差し込む月明かりが、義妹の白い肌を、黒い髪を煌めかせる。\n\nシーツと肌が擦れるさらさらとした音に続くように、しっとりとした重みが僕の腰に重なった。\n\n対面座位のかたちで、抱き合う。\n\nもう何度目かもわからない夜だった。\n\n熱い膣内が僕のペニスをギュッと締め付けてくれるお返しに、義妹の薄い身体を抱きしめると、舞桜は小さな喘ぎでそれに応える。\n\n「……ん……。……わたしのなか、いっぱいになってる……」\n\n馴染むのを待つようにゆっくりと息をつくと、うわ言みたいに呟いた。\n\n「常識改変してるの。妹、なんでしょうね。たぶん」\n\nその『妹』のことを責めているようには聞こえなかった。\n\n逆にこの義妹は、世界を改変するしかなかった『妹』にシンパシーさえ感じているみたいだった。\n\n「なんでそう思うの?」\n\n冷たい義妹の身体が少しずつ温かくなっていく。\n\n繋がってるところから、熱が伝わっていくみたいだ。\n\n「だって、そうでしょう?」\n\nはぁっ……っ、と、欲情のこもった息を吐く。\n\n「兄妹じゃできないはずの、キスをして。」\n\nやわらかい唇が頬に触れる。\n\n「兄妹じゃできないはずの、相合い傘をして。」\n\n細い腕が、僕の背中に絡みつく。\n\n「兄妹じゃできないはずの、洗いっこをして。」\n\n僕の存在を受け入れるみたいに、彼女の膣内が優しくほどける。\n\n「……どうしようもないくらい、『女の子』だもの。そうでしょう?」\n\n気持ちよさにうめく僕をじっと見つめて、くすりと笑った。\n\n「全部、前戯なの」\n\n「……前戯?」\n\nゆっくりと上下に動き出した。\n弾む身体に合わせるように腰を送ると、繋がっている部分から、じんわりと甘い熱が広がる。\n\n強すぎる快楽に耐えるように立てられた爪が背中に刺さり、その無遠慮がなんだか心地良い。\n\n「女の子が感じるためにはね。前戯がすっごく、大切みたい。\n少しずつ高めていって、少しずつ馴染んでいくの。\n違和感がどこにも無くなって、全部が全部、自分のモノになったら。\n安心して身を任せて、気持ち良さに夢中になれるみたいなの。」\n\n確かめながら言ってるみたいな台詞は、義妹の実感そのものに違いなかった。\n\n「ホッとする関係だから、気持ちいいんだよ。\n……『兄妹』だから、気持ちいいの。」\n\n舞桜が腰を前後に揺するたびに、兄妹の繋がりから溢れた愛液が香り立つ。\n\n「きっと経験豊富なんだな。その『妹』は」\n\n「ええ。……そのうえで、どうしても『お兄ちゃん』が欲しかったのね」\n\n下の口だけじゃなく、上の口でも繋がりを求められ、それに応えるように貪る。\n\n初めてのキスのときより義妹は上手になっていて、きっとそれは僕も同じだった。\n\n撫でるたびにピリリと震える薄い背中が、義妹のなかに募る悦楽を知らしめる。\n\n抑えきれない熱が、口の中に直接吹き込まれ、頭の奥をジンと痺れさせた。\n\n「きっと、もう戻れない」\n\nどの『兄妹』のことを言っているのか知っているのは義妹だけで、もしかしたら舞桜自身もわかっていなかったかもしれない。\n\n何でも良かった。\n\n書き換えられてしまったこの世界で、兄妹がセックスするのは当たり前のことだ。\n\n繰り返せば繰り返すほどに良くなっていく行為に、僕らは夢中になった。\n\n互いの身体を悦ばせ合って、互いの思考を絆し合って、何も考えられなくなるくらい夢中になる。\n\nそれが『兄妹』の常識だから。\n\n\n下の階では親が眠っているから、僕らのセックスはいつだって静かだった。\n\n恋人同士のセックスが誰かに見せるものでないように、兄妹セックスだって親に知られるのは恥ずかしい。\n\n例え、兄妹セックスのどこにも間違いがなかったとしても。\n\nだからいつだって、処女を散らす時でさえ、義妹は口から漏れ出る熱い息を噛み締めていた。\n\n「でも、それがいいみたいなの」\n\n快楽を声と一緒に飲み込むほうが悦びを感じられることも『妹』に理解させられた義妹は、涙を流しながら感じ入っていた。\n\n理性があるようで、それは本能がそう見せかけているだけだ。\n\n腰に手を回してやれば、義妹はいつだって簡単に理性を手放す。\n\nそれが妹の役目だとでも言いたげに、愛おしそうに兄の股間に手を添える。\n\nこのほうがホッとするの、と言って身を任せてきて、その小さな身体とぴったり重なるだけで、僕も安らぎ、思う間もなく思考を手放してしまう。\n\n舞桜は耐え切れなくなると、僕の首筋に噛み付いて、無言で絶頂する。\n\n「セックスって、愛し合う行為だと思ってた。\nでも、違うのね。\nあなたのかたちを変えていいのはわたしだけだって、確かめるための儀式なのね」\n\n自分がつけた痕跡に、舞桜はいつも嬉しそうな顔をして、歯型を強調するようにキスを繰り返す。\n\n耐え切れなくなって、義妹の身体を強く抱きしめながら射精した。\n\n「あったかい……」\n\n放たれた精液を感じているのか、舞桜が耳元で小さく唸る。\n\n「かわいい妹のカラダに、なんてことするの」\n\n非難するような言葉選びなのに、夜風のように爽やかな声は夏の夜に軽やかに響いた。\n\n「なーんて、ね」\n\n柔らかな脇腹に残った、内出血の手形。\n\n僕の手そのままの痕跡が、妹の身体に刻まれている。\n\n「わたしのかたちを変えていいのは、お兄ちゃんだけなの」\n\n指の一本一本まではっきり残った赤い痣に、真っ白な手が重なる。\n\n「だからぜんぶ、ゆるしてあげるね」\n\n嬉しそう、と言うよりも、安心しているみたいだった。\n\n「これからも、もっと上書きして」\n\n\n\n\n『新しい関係』を、わたしの中に植え付けて。\n\n\n\n\n蕩けた目が、そう訴えかけているみたいだった。\n\n\n改変される前の『兄妹』がどんなだったか、僕にはもう思い出せない。\n\n僕らの間に残った関係は、かつて『兄妹』だったなにかに過ぎない。\n\n移りゆく関係に歪んだ『兄妹』からは、なにかがゆるゆるにじみ出していて。\n\nそれが良いものか、悪いものなのかもわからない。\n\nにじんだものが兄妹にまとわりついて、関係を上書きしていく。\n\nもっと戻れなくなる。\n\nなにも考えられなくなる。\n\n大丈夫な『なにか』を失っているはずなのに、それが何かも思い出せない。\n\n\n\n昼間は茹だるように暑く、夜は肌が恋しくなるくらいに涼しい八月。\n\n『兄妹は種付けセックスをする』のが常識になった。\n\n\n\n舞桜はいつか、僕の子どもを身ごもる。\n\n義妹の子宮に、僕の子どもを宿らせる。\n\n妊娠したがってる妹を孕ませるは、兄として当然のこと。\n\n兄との子どもを産むのは、妹として当然のこと。\n\nそして『兄妹』は『夫婦』に変わる。\n\n関係がまたひとつ、変質して、喪われていく。\n\nそれを「幸せ」だと思ってしまう。\n\n\n\nかつて舞桜の言ったとおり、変わらない関係なんてどこにもないのかもしれない。\n\n少なくとも僕たち兄妹の関係は、取り返しがつかないくらいに上書きされ、塗り替えられ、変化せずにはいられない。\n\n\n\n微かな寝息を立てながら身体を寄せてくる義妹の髪を、やさしく撫でる。\n\n「おにいちゃん……」\n\n切れ長の瞳から、涙が零れた。\n\n\n\n▲▼▲▼▲\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n九月。\n\n僕らにかかっていた常識改変が、全て解除された。\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n✿✿✿✿✿\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\nずっと、『舞桜』って名前が嫌いだった。\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n✿✿✿✿✿\n\n\n小学生の頃、自分の名前の由来を調べる宿題があった。\n\n『実穂』ちゃんは、たわわに実ったの稲穂のようにひとの恵みとなる人生を。\n\n『翔』くんは、大きな翼の渡り鳥のように世界に羽ばたく将来を。\n\nじゃあ、『舞桜』は?\n\n父は言った。\n\n『みんな桜が好きだから。\n大切なひとに見守ってもらえる、綺麗な『桜』になれるように、ね』\n\nクラスメイトたちは皆、口をそろえて言った。\n\n『舞桜ちゃんは、桜みたいに綺麗だよね』\n\nあいまいに笑う。\n\n『ありがとう』\n\nからっぽな言葉ほど、綺麗に響く。\n\nわたしの名前とおんなじだ。\n\nかたちだけで、なかにはなんにも詰まっていない、虚ろ。\n\n\nクラスメイトのみんながうらやましかった。\n\nわたしもみんなみたいな『呪い』が欲しかった。\n\n人生を身勝手に決めつけるような『呪い』を。\n\n名付けた責を問えるような『呪い』を。\n\n\nそうしてくれていたのなら、わたしは置いて行かれなかったんじゃないか。\n\n捨てられなかったんじゃないか。\n\n本当に『桜』を好きだと言うのなら、わたしのことをなによりも好きでいてくれなきゃ、全部嘘だ。\n\nずっとそう思っていた。\n\n\n\n名前の由来を教えてくれたその日の夜に、父は『運命の相手』と蒸発した。\n\nそのとき、父の職場では【上司と部下が不倫する】のが常識だったから。\n\n『みんな桜が好きだから』と言いながら、父はわたしを『好き』じゃなかった。\n\nお母さんに申し訳なかった。\n\n父を繋ぎ留める縁に、わたしはなり得なかった。\n\n\n\nわたしは自分の名前が嫌いになり、桜が嫌いになり、他人との関わりを避けるようになった。\n\n関係が深くなればなるほど、また喪われるのが怖かった。\n\n愛情とか、信頼とか。曖昧なものに囚われるのが怖かった。\n\n\n\n(それなのに、わたしを諦めてくれないから……。)\n\n『僕はわりと、お兄ちゃんしたい方だからな。』\n\nこちらから避けていたとはいえ、関係がうまくいっていなかったことに、気後れを覚えていなかったかといえば嘘になる。\n\n……不都合も、色々あったし。これ以上、お母さんに迷惑かけたくないし。\n\n\n\nほんの気まぐれのつもりだった。\n\n「後悔しても、知らないですよ」\n\nあなたはわたしの『兄』になった。\n\nわたしに『妹』って『呪い』をかけてくれるのなら、それもいいかと思った。\n\n\n\nそれでもまだ、かたちだけのことだと頭のどこかでは考えていた。\n\n所詮わたしたちは、血も繋がっていない。\n\n血の繋がった父にさえ愛されなかったわたしが、血の繋がらない『義兄』に愛されるとは思わない。\n\nこの関係も、いずれ砕け散るのだと思っていた。\n\nわたしから父を奪った、あの『改変』みたいに。\n\n\n\n\n\n\n\n\n「桐也さんは、自分の名前の由来をご存知ですか?」\n\nそんなつまらないことを聞いたのは、はじめて一緒に夜ふかししたあの日のことだ。\n\n『兄』との断絶を確認したかった。\n\n深い溝はいつだってわたしをおびえさせ、暗い安堵を与えてくれる。\n\n隔絶とした関係ならば、喪われたときにわたしが傷つくことはないのだから。\n\n取るに足らないものだった、なんて、簡単に諦められるから。\n\n\n今思えば、甘い考えだ。\n\n何もしなければ、何も変わることは無い。\n\nけれどわたしたちは、関係に名前をつけた。\n\n名前をつけたら、そこには『かたち』が生まれる。\n\n『かたち』に沿って、流れはじめる想いがある。\n\n始めてしまえば、動き出すものがあるんだと知った。\n\n\n「うちの裏山に桐の木があってさ。それから取ったらしいんだ」\n\n「……?」\n\nよく、わからなかった。\n\n「母さんの妊娠がわかったときに、桐の花が満開だったらしいんだよね」\n\n「それで、桐を……?」\n\nやっぱり、わけがわからなかった。\n\nそんな、取るに足らない名付け方。\n\n何の『願い』もかけられず。\n\n何の『呪い』もかけられず。\n\nわたしと同じだ。\n\n『舞桜』と同じ、からっぽな名前。\n\n\n\nそれなのに。\n\n\n\n\n家族を繋ぎ留められなかったわたしと『同じ』、あなたが。\n\nわたしと『同じ』あなたが、なぜわたしと繋がろうとするの?\n\n\n\n無意識に、声が震えた。\n\n「桐也さんは、それで、よかったんですか」\n\nくすりと笑いかけられた。\n\nそのとき、やっと気づいた。\n\n一歳しか変わらないくせに、あなたはわたしなんかより、ずっと大人びている。\n\n\n\nずっとふさぎこんでいたわたしより、もっとずっと、多くのことを知っているんだ。\n\n\n\n\n「いいも何も、名前通りに育つ子供なんていないだろ。\n親の想いなんて気にせずに、自分の思ったように生きろってことだよ。」\n\n\n\nたぶんね、だなんて言うわりに、桐也さんは思い付きで喋っているようには見えなかった。\n\n\n\n寝る前に、枕に顔をうずめて泣いた。ちょっとだけだ。\n\n涙はすぐにとまって、かわりに母と、いなくなった父のことを想った。\n\n「じぶんの、おもったように。」\n\n小さくて、でも、なかみの詰まった言葉だった。\n\n\n\n次の休みに、桐の花を見に行った。\n\nふたりで見上げた花は、やさしい色をしていた。\n\n桐也さんの名前には、ちゃんと『祈り』が込められているように思えた。\n\n『祈り』に沿って、かたちをつくっていったんだ、桐也さんは。\n\nわたしは、どうしようか。\n\nどうしたらいいか、なんて、わかり切ったことのように思えた。\n\n\n\n何年もブランクがあると、コミュニケーションって、うまく取れない。\n\n友だちはなかなか出来なかった。\nそれが『寂しい』と思えるようになったことが、ちょっとだけくすぐったい。\n\n寂しさを覚えたときには、兄を頼るようになった。\n\nわたしはやっぱり関係を築くのに不慣れで、不器用で、それでも『お兄ちゃん』は振り返ってくれて、わたしのことを待っていてくれる。\n\nそれが嬉しかった。\n\n「友だち、出来たんです」\n\n移動教室のときとかに、お話しする女の子。\n\n彼女も妹で、お兄ちゃんが鬱陶しいって、よくボヤいてる。\n\n「よかったじゃん」\n\nわたしもお兄ちゃんのこと、鬱陶しい、とか言うようになるんだろうか?\n\nそんな日が来るのも、楽しみかもしれない。\n\nちょっとだけ。\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n少しずつ、『兄妹』のかたちに沿っていくんだと思っていた。\n\n『桐也』がやさしいお兄ちゃんなように、『舞桜』も見守ってもらえる妹になっていくんだと。\n\n時の流れに満たされて、日々を取り巻くやさしさに、少しずつ『兄妹』らしくなっていくんだと。\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n変化は唐突だった。\n\nわたしたちの日常は、いつだって誰かの身勝手によって、かんたんに塗り替えられる。\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n「わたしたち、『書き換え』られてしまいましたね」\n\n\n変わってしまった世界で、昨日までと同じなはずなのにどこか異なる関係に陥ったわたしたちは、当たり前のようにキスをした。\n\nくちびるを重ねるごとに薄れていく違和感と、にじみ出る安堵の虜になった。\n\n誘うように突き出した舌を吸われて脳裏を駆け巡った痺れは、致命的なまでに心地良い。\n\nわたしたちがたどり着きたかった関係はこんなものじゃなかった、なんて口惜しささえ、常識改変の前ではあっさりとほどけていく。\n\nすっかり変わってしまったわたしの中に、書き換えられる前の心は残っていなかった。\n\n「こんなにも簡単に『書き換え』られてしまう関係に、意味なんてあるんでしょうか?」\n\n名残り雪のように湿った感情さえ、口にしたそばから、溶けて、揮発して、乾いていくようだった。\n\nあとに残ったものは諦めに似ていた。\n\nでも、わたしはいったいなにを諦めたんだろう?\n\n自然と涙が零れた。\n\n『兄妹』が意味を喪ってしまったみたいで、悲しかった。\n\n「書き換えられても変わらない関係を築くしか、ないんじゃないかな」\n\nそんなもの、あるんだろうか?\n\n「変わらない関係なんて、ありませんよ」\n\n自分で言っておきながら、悲しい気持ちになる。\n\n……なんでこんなに切ないんだろう。\n\n変わらない関係が無いことなんて、ずっと前から知っていたはずなのに。\n\nずっと前から諦めていたはずないのに。\n\n『自分の思ったように生きろってことだよ』\n\n『舞桜』を『祈り』に変えたことばが、不意に浮かぶ。\n\nすとん、と腑に落ちた。\n\n諦めたくないんだ。\n\n変わらない関係が無いとしても。\n\n変わらない関係があってほしい、と祈ることは、間違いじゃないはずだから。\n\n「わたしと、『兄妹』になってくれますか?」\n\nわたしたちの関係は、まだ完全には喪われていない。\n\nかたちが残ればまた築いていけると、今のわたしには信じられた。\n\nわたしがあなたの妹だという事実は、まだ書き換えられてはいない。\n\n\n✿✿❀✿✿\n\n\n\n常識は改変されて、そのたびに少しずつ『兄妹』はかたちを変えていく。\n\nわたしたちも『兄妹』のかたちに沿って変わっていく。\n\nそれはとてもさり気なく、そして当たり前のことだった。\n\n\n\nでも、それだけじゃない。\n\n\n\nかたちが変われば、気持ちも変わる。\n\n\n\n変化した流れに身を任せたら、それが最期。\n\n\n\n変化は留められない。\n\n\n\nゆったりと、ひどく緩慢に。\n\n\n\n\n侵食されていく。\n\n\n\n\n\n\n✿❀✿❀✿\n\n六月。兄と手を繋いで通学路を歩いた。\n\n帰りにはいつも寄り道をした。\n\n兄はやさしくわたしの手をひく。兄の隣が妹の居場所だった。\n\n本屋さん。CD屋さん。クレープ屋さんに、たいやき屋さん。\n\n知らない街を、わたしたちの街にしていく。\n\n知っていったのは、街だけじゃない。\n\nわたしは兄の本の趣味を知り、お兄ちゃんは妹の音楽の趣味を知って。\n\n夜ふかしのたびに兄の本棚から一冊拝借し、妹のプレイリストをシャッフルした。\n\n最小限に音量を絞ったスピーカーを間において、一冊の本をふたりで眺める。\n\n選ぶ本は、写真集だったり、画集だったり、絵本だったりした。\n\n小説は読まなかった。ふたりで並んで読める本じゃなきゃいけなかったから。\n\n結局それは、距離を縮める口実に過ぎなかった。\n\n肩がときおりぶつかって、いつの間にかすき間が無くなる。\n\n男のひとの体温に、あ、と声が漏れた。\n\n同じボディーソープを使っているはずなのに、違って感じる不思議な香り。\n\nどうしようもなく、惹かれた。\n\nさり気なく視線をおくる。無意識に顔を寄せた。\n\n離れられなかった。離れがたいと言っても良かった。\n\n\n気がついたときには朝になっていて、わたしはひとり、自分のベッドで丸くなっていた。\n\nいつ眠ってしまったのか、いつだって憶えていない。運んでもらった記憶さえ。\n\nどうやって、寝かしてくれたんだろう。\n\nどこに、触れてくれたんだろう。\n\nそう思いながら、全身をゆっくり撫でる。\n\n兄の熱が残っているはずもないのに、どうしてか、探してしまう。\n\nカラダが離れるほどに、ココロも離れていくのだと聞いたことがある。\n\n不倫や浮気の言い訳だと思っていた。\n\nでも……。\n\nカラダが近づくほどに、ココロが近づいていく気がした。\n\nココロもカラダも、繋がりたがっている気さえ。\n\n「だめ。……兄妹だから」\n\n小さく呟く。\n\n悪さをしようとしていた手が、脚の付け根にたどり着く前にピクリと震えて止まった。\n\nわたしは妹でいたい。\n\n気持ちはそのままの、はずだった。\n\n\n\n\n❀✿❀✿❀\n\n七月。一緒にお風呂に入って、裸を見せ合った。\n\n\n「小さい頃は一緒に入ってたわけだし、別に」\n\n血の繋がった兄のいる友だちは、何でもなさそうにそう言った。\n\n別に、のあとになにが続くのかは聞かなかった。\n\n先月よりも艶ののった黒髪。今月から変わったシャンプーの香り。\n\nセーラー服に透ける桃色の下着は、細かな刺繍を纏っていて。\n\nなにも変わらない、わけじゃないのは明らかで。\n\n\n\n「仕方ないよ。常識改変されてるんだもん」\n\n姉の旦那さんと同居している先輩は、何でもなさそうにそう言った。\n\n「なんではじめからこうしていなかったんだろうって、そんな気がしてこない?」\n\nくすりと笑った口を隠す左手の薬指には、銀色の指輪が嵌められていて。\n\n変わっていく関係に、呑まれているのは明らかで。\n\n\n\nその日の晩も、当然のように一緒にお風呂に入った。\n\nお風呂あがり、タオルの上からわたしの身体にそっと触れてくる。\n\n一緒に湯船に浸かっていたのに、義兄の体温は義妹のそれよりやっぱり少しだけ高い。\n\nお風呂の中であれだけ蕩けておきながら、やさしく拭かれていくだけで、カラダの内側が溶けていくのがわかった。\n\n鏡に映った自分と見つめ合う。\n\n太ももを流れていく愛液をそのままに、ぼんやりとされるがままにされている少女。\n\nあなたはそれでいいの?と心の中で問う。\n\n目の前の女の子は、酔ったように潤んだ瞳で、小さく頷いた。\n\n「うらぎりもの……」\n\n変わらない関係を望んだはずなのに。\n\n変わっていく関係に、期待している自分がいる。\n\n「舞桜」\n\n呼ばれて、はっとする。\n\nいつから名前で呼ばれることが当たり前になったんだろう。\n\n改変されていないはずの変化に、また内側が緩む。にじみでる。\n\n変わっていく関係に、身体が火照る。\n\n「拭き終わったから、はやくパジャマ着なよ」\n\n「はぁい。」\n\nありがとう、お兄ちゃん。\n\n\n\n\n\n\n❀❀✿❀❀\n\n\n\n八月。\n\n\n今月の改変が為されたのは、母と料理をしているときだった。\n\nそんな予感はしていたから、わたしはあっさりと改変を受け入れた。\n\n『兄妹は種付けセックスをする』。\n\nそれはとても自然なこと。なんの抵抗感もなかった。\n\n今夜、わたしはお兄ちゃんに抱かれて、種付けされる。\n\nわたしはお兄ちゃんの子どもを孕む。\n\nお兄ちゃんの子どものママになる。\n\n産まれた子どもを一緒に育てるんだ。\n\nカラダの奥がゆるんでいくのがわかる。\n\nはやく夜になって欲しかった。\n\n『兄妹でセックスするなんてありえない』って間違った常識が薄れていく中、母が不意に呟いた。\n\n「離婚したいって言ったら、どうする?」\n\nそのまま困ったように笑う。\n\n改変が始まった五月から、母はたまにこんなふうに笑うようになった。\n\n申し訳なさそうな、どこか諦めたような、あいまいな笑み。\n\n義父と母がそういう準備をしていたことは知っていた。\n\nふたりが別れれば、わたしとお兄ちゃんは兄妹じゃなくなる。\n\n改変の条件から、除外される。\n\n今夜抱かれる必要も、お兄ちゃんの子どもを妊娠する必要も、無くなる。\n\n後戻り出来なくなる前に、わたしたちを守るための、離婚届。\n\n「わたし、大丈夫だから」\n\nなんの憂いも無いみたいに、笑顔で返す。\n\n『自分の思ったように』。\n\n母には幸せになって欲しかった。\n\nせっかく築いた新しい家族を、また失って欲しくなかった。\n\nけれど、それだけじゃない。\n\n『妹』ではない母にはわからないんだろう。\n\n少なくともわたしは、後戻り出来ないくらいに『妹』に染められてしまった。\n\nわたしの名前を呼ぶ声の響きと、身体の熱を想う。\n\n兄のいない日々は、わたしにはもう、考えられない。\n\n母には『妹』としてのわたしを、見守っていて欲しかった。\n\nだから。\n\n「妹がお兄ちゃんとセックスするなんて、当たり前のことでしょう?」\n\n娘の言葉に、母は戸惑ったように動きを止める。\n\nわたしによく似た切れ長の瞳の焦点が揺れる。\n\nけれどそれも、一瞬のことだった。\n\n「……そうね、そうよね」\n\n全くなにを言っているの?、とおどけたわたしを、母は穏やかに笑った。\n\n「はやく孫の顔見せなさいね?」\n\n「うん。ありがとう、お母さん」\n\nその日の晩、妹は兄に処女を捧げた。\n\n\n\n「これからも、もっと上書きしてください」\n\n\n\n綺麗な手形に、指を添える。\n\n\n変わっていく自分を自覚しながら、妹は変化を受け入れていく。\n\n自分を満たしていく熱に、溺れていく。\n\nもう、変わらない関係なんて、要らない。\n\nそう思った。\n\n\n\n\n\n\n❀❀❀❀❀\n\n\n\n\nそして、九月。\n\n\nわたしたちにかかっていた常識改変が、全て解除された。\n\n\n\n\n\n\n❀❀❀❀❀\n\n\n\n\n緩く流れる夜風はほんのりと冷たくて、秋の香りがした。\n\n縁側から臨む景色の変化に、季節の流れを感じる。\n\n二週間ぶりの我が家の庭には、コスモスが咲き始めていた。\n\n秋の桜は春の桜より色が濃くて、病院のやさしい色彩に慣れた目には少し刺激が強い。\n\nギザギザとした花びらが風に揺れるのを見て、ドキリとする。\n\n秋桜への思い入れなんてなかったはずなのに、お腹の奥がきゅっ、と切なくなった。\n\n\n\n検査入院も終わり、わたしは今日、退院した。\n\n\n\n病院には、お兄ちゃんが迎えに来てくれた。\n\n帰り道に会話はなかった。\n\n梅雨の長雨の中、ひとつの傘の下で手を繋いで歩いた街。\n\n夕陽に照らされて紅く染まった街並を、兄から一歩遅れて歩いていく。\n\n手は繋がなかった。\n\nいい歳した兄妹が町中で手を繋ぐ、なんて、おかしなことだから。\n\nよく知っているはずなのに、知らない街みたいだった。\n\n\n\nお風呂には、ひとりで入った。\n\n久しぶりの家のお風呂は、病院のそれより小さいはずなのに、虚しいくらいに広く感じた。\n\n湯船のなかで、ふぅ、とひとつ、息をつく。\n\n自分で自分を抱き締める。\n\nどんなにチカラを抜いても支えてくれた背中も、抱き寄せてくれる腕もここにはなかった。\n\nいい歳した兄妹が一緒にお風呂に入る、だなんて、おかしなことだから。\n\nいつもより長く浸かったくらいなのに、温まる気がしなかった。\n\n\n\n担当していた医師は言った。\n\n心身ともに異常無し。常識改変による影響は皆無だと。\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\nそんなわけ、無いのに。\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n\n常識改変が解けたにも関わらず、お兄ちゃんの近くにいるだけで、わたしの身体は染み渡るように火照った。\n\n\nお兄ちゃんの香りに自分の残り香が感じられないことが、どうしようもなく寂しかった。\n\n\n\n影響は残っていなくても、変化はあった。もう、戻れない。\n\n\n一度抱いてしまった感情は、解けて失くなったりしないのだ。\n\n\n自然と涙がこぼれた。\n\n\n『兄妹』を望んでおいて。\n\n\n『変わらない関係』を望んでおいて。\n\n\nまたやり直せるはずなのに。どうしてだろう。\n\n\n『上書きされた関係』を、望んでしまうのは。\n\n\n妹でいたかった、はずなのに。\n\n\n両親も寝静まった夜遅く。\n\n古い敷板の軋みに、また切なさがこみ上げて来る。\n\nずっと一緒だったから、歩みでわかってしまう。\n\n「……なにしに、来たんですか……?」\n\n「……そっちこそ、なにしてんの?」\n\n座布団もクッションも敷かずぺったりと座り込んだわたしの隣に、兄であるべきひとが座る。\n\n「……眠れない、だけです」\n\n遅れて呟いた返事は小さかった。\n\nあの夜みたいに、わたしたちの間には距離があった。\n\n手を伸ばせば、互いの肩に触れられるくらい。\n\nこのくらいの距離が、今のわたしたちの適切な関係だった。\n\n古い畳の香り。桜の葉が散らす月の煌めき。わたしの、心臓の音。\n\nここには、感じたい香りも、触れたい熱も、聴きたい音も、無い。\n\nひどく、遠い。\n\nきゅうっ、と、また切なさがこみ上げて来る。\n\nわたしが、わたしでいられない。\n\n秋の桜を見つめる。春の桜はどこにもない。\n\n揺れるギザギザ。切ない。\n\nわたしが残したもの。\n\n「……ねぇ。」\n\nそっと近づき、のぞき見る。\n\n「まだ、残っていますか?」\n\nなにが、とは言わなかった。\n\nふたりの距離が、一瞬で詰まる。\n\n「……あ……」\n\nお兄ちゃんの首筋には、ギザギザとした小さな歯型と、キスの痕がまだ残っていた。\n\n付けてから二週間も経っているのに。……嬉しかった。\n\n込めた想いが、幻じゃなかったみたいで。\n\n迷いはなかった。\n\nくちびるを寄せ、痕に重ねる。\n\nしばらくぶりの、兄の香りに満たされる。\n\nもっと消えなくなった痕跡に、やっぱり切なさがこみ上げてくる。\n\n\n「変わらない関係なんて、なかったね」\n\nふいに、お兄ちゃんが呟いた。\n\nわたしも、小さくうなずく。あたたかい腕の中で。\n\n「でも、想いは、変わらず残るんです」\n\n書き換えられても変わらない関係なんて、どこにも無かった。\n\nわたしも、お兄ちゃんも、こんなにも変わってしまった。\n\n失われた関係は、取り戻せない。\n\n書き換えられた関係は、もとには戻らない。\n\n\n\nけれど。\n\n\n\n\n\n書き換えられたとしても、心に残るものは確かにあるから。\n\n\n\n\n\n\n\n『みんなに見守ってもらえる、綺麗な『桜』になれるように』。\n\n名前通りに育つ子どもはいなくても、『舞桜』をもらった事実は残る。\n\n父が残した『祈り』は、わたしの心の中にある。\n\n\n\n\n常識改変が解けたあとにも、わたしが募らせた想いは残ったから。\n\nこんなにも、深い『祈り』が。\n\n変わらないままで。\n\n\n\nくちびるを寄せる。\n\n義兄妹がしてはいけない、禁断の口づけ。\n\nどんなにいやらしくくちびるを、舌を合わせても、背徳感なんてどこにもなかった。\n\n染み渡るような安らぎと、すべてを見失うような快楽しか感じない。\n\n嬉しすぎて、涙がこぼれる。\n\nわたしたちはやっぱり兄妹だった。\n\n心を満たすのは、愛とか恋とか、そんな曖昧な感情じゃない。\n\nわたしたちには互いが必要だった。\n\n出会った時はそうじゃなかった。\n\nわたしたちはただの連れ子同士でしかなかった。\n\nそれなのに、今は違う。\n\nわたしたちの関係に『兄妹』と名前をつけた。\n\n互いを知った。互いを教えあった。\n\n互いの心に、相手のための居場所をつくった。\n\nこのひとのココロとカラダが無ければ耐えられないように、わたしはわたしを上書きしてしまった。\n\n常識改変をしていた『妹』も、だから世界をもとに戻したんだ。\n\n改変の解けた妹たちも、みんな兄の腕の中にいるに違いなかった。\n\n\n常識改変が解かれた今、やっと『兄妹』として抱き合えるのだから。\n\n\n「お兄ちゃんがくれたものも、残ってるから」\n\n脱ぎ捨てた服の下。\n\nまだくっきりとした痣が残っていた。\n\nわたしが誰のための妹なのか、刻む手形。\n\n兄妹の証明。\n\n兄が黒ずんだ痕跡に手を沿わせる。ぴったりと重なる。\n\nなににも代えがたい、喜び。\n\n\n抱きついたまま、またがる。\n\n避妊なんてしなかった。\n\nだって、必要ないから。\n\n検査ではわからなかったけれど、自分の中に宿った存在を、わたしは感じていたから。\n\n\n受け入れていくあたたかさに、ゆったりと、満たされていく。\n\nはやく、奥まで欲しかった。\n\n\n変わらない関係なんて、どこにも無い。\n\nでも、それを怖いことだとはもう思わない。\n\nあなたに変えられていく喜びを、あなたと変わっていく喜びを、わたしは知ってしまったから。\n\n\nこの想いをなんと呼べばいいのかわからない。\n\n今、わたしの中にあるだけの、変わらない想い。\n\n愛ではなかった。ましてや恋でもなかった。\n\nあたたかな感情が、とろとろと溢れ出て来る。\n\nいつか、名前を付けられればいい。\n\nきっとそれは、わたしたちにとっての『祈り』になるから。\n\n「大好き、お兄ちゃん」\n\n妹として、ちゃんと笑えた気がした。", "afterword": "常識改変されてもされてなくてもたぶんお兄ちゃんのこと好きになっちゃってた義妹、めっちゃえっちですよね。\n\nというわけで、最後までお付き合い頂きありがとうございました。\n\n長くてほんとスミマセン。楽しんで頂けていたら幸いです。\n\nもしよろしかったら、\n\n『義妹がとっても悪い子だった』\n\nhttps://novel18.syosetu.com/n9107hj/\n\n『清楚な優等生が悪い子だった』\n\nhttps://novel18.syosetu.com/n1026hn/\n\n『専属淫習デリヘル嬢な同級生が愛あるセックスに堕ちるまで』\n\nhttps://novel18.syosetu.com/n7757hp/\n\nなんかも是非お楽しみください。\n\nページ直上、タイトル上のリンクからもお読みいただけます。\n\n評価、感想などなどお待ちしています。\n\n作風を気に入っていただけましたら、\n是非お気に入りXユーザー登録をして次回作をお待ちください。\n\nXホームに更新が反映されて大変便利です。\n\nTwitterもやってるので、そちらもどうぞ!\n\n読んでいただきありがとうございました!", "single_page": true}

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