Krixter/Repo / n0002la /13.json
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{"novel_id": "n0002la", "chapter": 13, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0002la/13/", "title": "12.『スローなライフ』", "content": " 5月。ゴールデンウィークに突入し、俺は生ける屍となっていた。\n\n「うぁ~……ぁ~……」\n\n ベッドに腹ばいになって、意味もなくゾンビみたいな声で呻く。益体もない時間だ。ゾンビと呼んで遜色ないくらい、完全に脳が腐ってる。それもこれも、すべてかぐやとの一件のせいだ。\n 人生初のカノジョができるかと思ったのに、お互いに好意を確かめあったというのに、なんかフラれたみたいになってるこの現状。意味がわからなすぎてモヤモヤが止まらねえ!\n\n「掟ってなんだよ……くそ」\n\n 悪態をついても虚しいだけだ。わかってるんだよ。でも愚痴らずにはいられない。かぐやもかぐやだ。あれからなんかよそよそしくなっちまって。朝起こしにくることもなくなった。相変わらず優しくて人当たりは良いけど、会ったばかりのときのように一線を引かれている感じが余計距離を感じてつらい。\n\n(いや……それは俺も同じか)\n\n 無意識のうちにかぐやを避けてしまっている。同じ寮で暮らしているから毎日顔を合わせるし、相変わらず彼女の作った飯を食っているわけだが、なんとなくぎくしゃくしている。もちろん、セックスに誘う空気にもならない。\n ――そう、俺はあの日からずっと射精をしていないのだ。他の子とヤる気分でもないし、ましてや一人でする気にもならない。そのせいでもやもやしているのかもしれない。\n\n「はあ。なんだかなー」\n\n 俺はのそりとベッドから起き上がり、部屋を出た。階下に降りると、テレビの音が聞こえてきた。\n\n「あはははっ!」\n\n リスちゃんの笑い声。そんな面白い番組やってんのかな? 俺は居間へと通ずる扉を開く。\n\n「あっ。カンちゃん!」\n\n リスちゃんはこちらに振り返り、屈託のない笑みを浮かべる。彼女はソファに一人で腰掛け、バラエティ番組を観ているようだ。\n\n「カンちゃんも見ようよ!」\n「ああ」\n\n リスちゃんに手招きされ、俺はソファに腰を下ろし、ぼんやりと画面を見つめる。この番組のこの回、都会で見た覚えがあるぞ。夜叉熊村では、都会でやってる番組を1か月遅れで放送しているからな。俺からすれば再放送だが、リスちゃんは実に楽しそうで、おめめが画面に釘付けだ。\n\n『なんやそれ! ファー!』\n\n「アカシア・サマーだ!」\n「……好きなの?」\n「うん! 芸人で一番すき!」\n「意外過ぎるチョイスだな」\n\n 言わずとしれた大物司会者だけど、あんまり芸人ってイメージないんだよな。昔はお笑いのカリスマだったらしいけど。\n\n「ファーって声が面白いよね! つられて笑っちゃう」\n「笑いの沸点が低いなぁ」\n\n まあ、俺もどぴゅろっくの下ネタソングでゲラゲラ笑っちまうから人のこと言えないけど。\n\n『ファー! ファーファーファー!』\n\n「あはははっ!」\n「…………」\n\n 客観的に見たら面白いのかもしれないが、俺はいまいち番組にのめり込めない。今はお笑いって気分じゃないんだよな……。\n\n 俺はよっこいせと立ち上がる。\n\n「ごめん。ちょっと外出てくるわ」\n「うん! 行ってらっしゃい♪」\n\n ぺかーっと邪気のない笑みを向けられると、心が浄化されるな。リスちゃんの癒やしパワー半端ねえぜ。俺はちょっとだけ元気が出た。\n\n 寮を出て、なんとはなしに村の中心に向かって歩く。寂れた村だが、中心のほうは住宅もちらほらあり、商店なんかも立ち並んでいて、かろうじて活気を感じる。\n\n「おお、かもろし様じゃ!」\n「かもろし様!」\n「今日もなんと凛々しいお姿!」\n\n 俺が通ると道行く人が駆け寄ってきて、一斉にかしずく。王族になったようでここまでは気分が良いんだが……。\n\n「ありがたや。ありがたや!」\n「あやかりたい」\n\n みんなチンポを拝みだすんだよな。さすがにやめてほしい。\n 俺がげんなりしていると、ひとりの村人がこちらに進み出た。\n\n「ねえ、かもろし様。うちのお義母さん知らない? また家を抜け出してどっか行っちゃって」\n\n 買い物に行くとよく会う御婦人だ。無類の話好きで、俺にも気さくに話しかけてくれるから、よく話し相手になっている。この人の言うお義母さんはどぎつい認知症を患っており、目を離すとすぐどこかへ行ってしまうから、おばさんもほとほと手を焼いているようだ。\n 俺は鷹揚にうなずく。\n\n「わかりました。探しておきますよ。見つけたら報せます」\n「お願いね~」\n\n この村の少子高齢化は想像よりだいぶ深刻だな。だから俺が呼ばれたわけだけど。\n 村の少子化解消は俺のチンポに懸かっている。バカみてえな話だなと思った。\n\n …………。\n ……。\n\n 俺は気の向くまま、山の手にある神社へやってきた。名前を神室神社という。リスちゃんから聞いた昔話に出てきた夜叉熊様の遺骨が御神体として祀られた、村にとって神聖な場所だ。\n 境内に入ると、冷たく清浄な空気が頬を撫でる。深呼吸すると肺腑が洗われる感じがした。パワースポットとか信じてないけど、人から大切にされたものや場所って特別な空気感をまとっているよな。\n\n せっかくだしお参りをしていこう。拝殿で二礼二拍手一礼をキメ、特に願い事もなく無心で祈る。心地よい満足感を得ながら振り返ると、鳥居の隅に老人が座り込んで空を見上げていた。\n\n「おや」\n\n くだんの認知症のおばあさんが座っている。いちおう顔見知りだから、俺は近づいてラフに声をかけた。\n\n「おばあちゃん。また徘徊してんだって? 家族が心配してるよ」\n\n おばあちゃんは不思議そうに俺を見て、「あんた誰じゃ?」と首を捻った。この前会ったのにもう忘れられてる。認知症って怖えな。長生きはしたいけど、ボケるのは絶対嫌だなと切実に思う。\n\n「腹が減った。飯はまだか?」\n「たぶんもう食ったんじゃない?」\n\n ベタすぎる会話をしながら、この人も若い頃はキラキラの女の子だったんだよなぁと、少々失礼なことを考えていた。そのとき、おばあちゃんは突然目をかっ開き、彼方を指さした。\n\n「あっちじゃあ! おまんこはあっちじゃあ!」\n「性器露?」\n\n 俺が目を丸くしていると、おばあちゃんは勢いよく立ち上がり、想像以上にしっかりとした足取りで石段を降りていった。ボケてるけど足腰はしっかりしてるんだよな。だからこそ厄介なんだが。\n\n 俺は肩をすくめ、おばあちゃんの指さしていた方を見た。\n ……あっちって川の方だよな。なにかあるんだろうか。\n\n「行ってみるか」\n\n どうせあてのない散歩だしな。俺は浮ついた足取りで川へと向かうのだった。\n\n「これもスローライフって言うのかねぇ」"}

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