| {"novel_id": "n0002la", "chapter": 18, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0002la/18/", "title": "15.『エモとエロ』", "content": " 放課後の、たった5分の下校時間。夕日に照らされた通学路という名の田舎道で、俺はスマホを構える。特に構図にこだわったりせず、ありのままの風景をフレームに収め、無心でシャッターを切る。\n\n「うん」\n\n 満足がいく写真が撮れた俺は、玄人っぽくうなずいてみせる。隣を歩いていたかぐやが俺の手元を覗き込み、へえと感嘆の息を吐く。\n\n「よく撮れてるね。プロ並みじゃない?」\n「カメラが良いんだよ。今どきのスマホなら、素人でも簡単に映える写真が撮れるからすごいよな」\n\n 補正とかも勝手にやってくれるもんな。世界中みんながカメラマンって時代だ。\n 俺は撮った写真をさっそくSNSに上げる。ぽつぽつといいねがつき始めた。かぐやが目を丸くしている。\n\n「これ、インスタ?ってやつでしょ?」\n「ああ。インラン・スマタグラムだ。ちょっと前から撮った写真を上げてるんだよ」\n「すごいね。閑馬くん、インフルチンサーだね」\n「それは言い過ぎ。そこまでではない」\n\n ただ、元は家族と少数の友達しかフォロワーがいなかったのに、今では結構見てくれている人が増えた。ほどほどに承認欲求が満たされて気分が良い。\n\n「コメントもついてるな。『すごくエモい写真ですね!』だってさ」\n「えもい……ってなに?」\n「感情を揺さぶられるとか、そんな感じの意味」\n\n 昔だったら情緒があるとか、趣深いとか。まあそんな感じの意味合いなんだろうな。知らんけど。\n かぐやは不思議そうだ。\n\n「こんなありふれた景色が、えも?なの?」\n「まあな」\n\n 俺はぐるりと辺りを見回す。夕焼け色に包まれた寂れた田舎の風景。もうだいぶ見慣れてきたけど、都会に住むやつから見たらエモの塊みたいな情景だよなぁ。\n\n「都会に住んでるやつは、素材を加工してこねくり回して、どうにかエモを作り出そうと苦心してるんだけど、夜叉熊村なら素材をぽんと出すだけでクッソエモいからな」\n「そういうものなんだ。いまいちピンとこないけど」\n「例えるなら、整形港区女子がどうやっても天然美少女に勝てないのと一緒……みたいなもんかな」\n「よくわからないけど、そのたとえは的を射すぎてて敵を作るんじゃない?」\n\n そうかもしれんが、港区女子は俺なんか興味ないだろうからどうでもいいさ。俺も港区女子には欠片も興味がない。\n 俺はもう一枚写真を撮る。さっきとは構図を変えてみたが、こっちも違った味があって良いな。写真って都会に居たときはまったく撮らなかったけど、やってみると無限に味がする趣味だなと思った。\n\n「本格的に写真を教わってみるのも面白そうだけど、この村じゃ難しそうかな」\n\n 俺がぽつりと呟くと、かぐやがぽんと両手を打ち鳴らした。\n\n「それなら、那歩子ちゃんに訊いてみるのはどうかな?」\n「那歩子?」\n「うん。那歩子ちゃんなら絵を描いてるし、写真とも通ずるものがあるんじゃないかな」\n「なるほど」\n\n 言われてみればって感じだな。写真と絵、どちらも見る人を感動させる芸術って意味では同じか。通ずるものもあるかもしれないな。\n\n「じゃあ、明日あたりにでも美術部に顔を出してみるか」\n「いいと思うよ。那歩子ちゃん喜ぶだろうなぁ」\n「祐衣は……どうなんだろうな。二人の愛の巣に土足で踏み入るなんて!ってキレたりせんかな」\n「今の祐衣ちゃんなら、そんなこと言わないでしょ」\n\n かぐやは口元を手で隠してくすくすと上品に笑う。正妻の余裕を感じるな。\n\n ――かくして、翌日の放課後。俺は美術室を訪れた。2階の奥まりにある美術室の古びた扉を、俺はじっと見つめる。\n 前に行ったときはふたりして乳繰り合ってたけど、まさか毎回エロいことをしているわけじゃないよな? 俺は期待半分でノックした。\n\n「……誰?」\n\n 中から那歩子の声がする。祐衣はいないのか? 俺はドアを開ける。\n\n「俺だけど。いま大丈夫か?」\n「うん。いらっしゃい、かんまくん」\n\n 中に居たのは那歩子ひとりだった。木の椅子に腰掛け、イーゼルに立てかけられた白いカンバスに向き合っている。\n 那歩子はこちらに向き直り、こてんと小首をかしげる。\n\n「かんまくんが来るなんて珍しいね。なにかご用?」\n「ああ。ちょっと那歩子に聞きたいことがあってさ」\n「そう」\n\n 俺は那歩子の背後からカンバスを覗き込む。俺は息を呑んだ。あまりにも絵が上手い!\n そこに描かれていたのは、前にも訪れた櫓戊川だった。穏やかに流れる川面と深い翠の山々が、写真と見まごうばかりに切り取られ、描き出されている。\n\n「うまいなぁ」\n「そうかな」\n「まじで上手いって! プロじゃんこんなの」\n「……てれてれ」\n\n 那歩子は無表情で「てれてれ」と口に出して言った。表情は変わらないけど、けっこう照れてるってことなのかな。可愛いやつめ。\n\n「これ、コンテストに出すやつだろ? だいぶ仕上がってるな」\n「川に入ったおかげ。川と一体化することで川の気持ちを感じられたから」\n\n 大丈夫か。半分スピ入ってないかな。ちょっと心配になる。\n\n「それで、かんまくんはわたしに何を聞きたいの?」\n「それがだな」\n\n 俺は最近写真にハマっていることを伝え、なにかアドバイスをもらえないかと教えを請うた。\n 那歩子は両手を伸ばし、まっすぐに俺の目を見る。\n\n「写真。見せてくれる?」\n「ああ」\n\n 俺はポケットからスマホを取り出し、写真を表示して那歩子に見せた。那歩子は興味深そうに目を細め、カメラロールを確認する。これは結構好感触じゃないか?と俺が期待に満ちた眼差しで彼女を見ていると――\n\n「しろうとだね」\n「おぅふ」\n\n バッサリと切られてしまった。がっくりと肩を落とす。\n\n「構図が単調だし、色の補正もスマホの機能に頼りすぎ。素人の写真だなって思うよ」\n「那歩子さんっ、俺の心がバキバキに折れそうですっ」\n「でも」\n\n 那歩子は口元を緩め、こちらを見上げる。\n\n「かんまくんっぽくて。わたしは好き」\n「え。お、おう……」\n\n 自然と頬が熱くなる。なんだよ。那歩子ってば俺のこと好きすぎじゃん! 照れるなぁ!\n\n「そ、それで、どうすれば写真が上手くなるかなっ」\n\n 俺がどもりながら訊ねると、那歩子はあごに手をあてて考え込む。\n\n「写真の技術は、わたしじゃ教えられない。でも、絵描きとしての視点からなら教えられることがあるかも」\n「ぜひ教えてくれ。俺の写真に足りないものはなんなんだ!?」\n\n 俺が前のめりになると、那歩子はその深い色をした瞳で俺を見つめ、こう言った。\n\n「かんまくんの写真には、エロさが足りない」\n「え、エロ?」\n\n ふざけているのかと思ったが、那歩子は大真面目だった。\n\n「うん。魅力的な芸術家の創った作品って、その人特有のエロさがあるんだよ。芸術と性欲って切り離せないから」\n「そ、そういうものなのか」\n「逆説的に、エロさを感じない芸術に魅力はないとも言える」\n「そうなのか……?」\n\n 論理の飛躍を感じるが、優れた芸術家である那歩子の言葉には説得力があった。\n しかし、ただの風景写真にエロを盛り込むって無理がないか? そこにはおっぱいもおまんこもないんだからエロい気分にはならんだろ。俺がそう愚痴ると、那歩子はおもむろにセーラー服のスカーフをほどいた。\n\n「だったら、特訓しよ」\n「と、特訓?」\n「うん」\n\n 那歩子は、襟元を引っ張っておっぱいの谷間を見せてきた。\n\n「わたしを撮って、練習してみよ」\n「まじでー」\n\n そういうわけで、俺と那歩子のヒミツの特訓が始まったのだった――。"} |
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