| {"novel_id": "n0002la", "chapter": 2, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0002la/2/", "title": "2.『さくら寮』", "content": " リスちゃんと並んで村道を歩いていると、いろんな人から声をかけられる。\n\n「アイリスちゃん! 今日も可愛いね!」\n「ありがとー!」\n「愛ちゃん! 今日はデートかい?」\n「そうなの! えへへ~」\n\n リスちゃんは笑顔で愛嬌を振りまきながら応対している。手慣れてるなぁ。\n\n「リスちゃんは村のアイドルだな」\n「ふふふ。ゆくゆくは国民的アイドルになるんだよ♪」\n\n と冗談をこぼしながら、リスちゃんは軽やかにステップを踏む。\n\n「あたしね、いつか都会に行ってみたいなって思ってるんだー」\n「リスちゃんならきっと都会でもモテモテだよ」\n\n 元気で可愛い女の子は都会でももちろん大人気だ。どこに行ってもリスちゃんはアイドルなんだろうなと思った。\n\n「それにしても……」\n\n 俺は村道から辺りを見回す。都会と比べるのはナンセンスだとわかっているが、マジで人がいねえ。たまに声をかけてくるのもお年を召したご老人だし、若い人はいないのか?\n 俺が言わんとしていることを察したのか、リスちゃんは憂いを帯びた表情でほうと息をつく。\n\n「うちの村は深刻な\"かそ\"?ってやつらしくてね」\n「そりゃ切実な問題だな」\n\n まあ、若い人がいっぱいいて活気があったら田舎とは言わん気がする。田舎と聞くと牧歌的なイメージがあるけど、田舎には田舎の苦労がたくさんあるんだろうな。\n\n「そんで、俺達はどこに向かってるんだ?」\n「寮だよー」\n「寮?」\n「うんっ」\n\n リスちゃんは元気よくうなずく。\n\n「うちの村では、学生は全員寮で生活することになってるんだよ」\n「え。小学生も?」\n「うん。分校に入学したらみんな寮に入るんだよ」\n「マジかよ。すげーな」\n\n 同じ村に住んでいるとはいえ、小学生の頃から親元を離れて暮らすなんて。自立心を養うためなんだろうが、結構なスパルタだな。\n\n「だから、年の近い子はみんな家族みたいなものなんだよね」\n「へえ~」\n\n 俺は素直に尊敬した。リスちゃんが小学生にしてはしっかりしてるのも、幼い頃から共同生活をしていたからなのかもしれない。\n\n「じゃあ、リスちゃんは俺の先輩だな」\n「えへへ。センパイかぁ。んふふ~♪」\n\n リスちゃんは上機嫌になり、鼻歌なんて歌い出すと、得意げな顔でぐっと親指を立てる。\n\n「わからないことがあったらなんでも聞いてね! センパイに♪」\n「あはは」\n\n ほのぼのとした会話を楽しみながら歩いているうちに、村の外れの方までやってきた。目の前に茅葺き屋根の二階建て木造家屋が立っている。門柱には『さくら寮』と書かれた表札がかかっている。\n\n「あ。アイちゃん、おかえり!」\n\n 門の前を竹ぼうきで掃いていた女の子が、こちらを見て上品な笑みを浮かべる。\n\n「ただいま、かぐやちゃん!」\n\n リスちゃんが笑顔でぶんぶんと手を振り、こちらに振り返る。\n\n「さくら寮の寮長のかぐやちゃんだよ」\n「似鳥かぐやです」\n\n ぺこりと折り目正しく腰を折ると、女の子は上目遣いにこちらを見る。\n\n「留学生の奥村閑馬くん……でいいかな?」\n「あ、ああ」\n\n 俺はどぎまぎした。目の前にいる女の子がめちゃくちゃ可愛かったから。\n 姫カットの艷やかな黒髪。整った目鼻立ちは都会でもなかなかお目にかかれないレベルだ。\n 正統派美少女といった面立ちの彼女――似鳥かぐやは微笑むと、こちらに歩み寄ってくる。\n\n「今日から一緒に生活することになるけど、嫌じゃないかな?」\n「い、いや! むしろすげえ嬉しいっていうか!」\n「ふふ。わたしも嬉しいよ」\n\n 似鳥さんは俺の手をぎゅっと握ってくる。思わず心臓が飛び出そうになった。\n\n「なにもない村だけど、1年間楽しんでいってね」\n「う、うん。似鳥さん」\n「わたしのことは『かぐや』って呼んでくれていいからね。同い年だし」\n「じゃあ……かぐや」\n「ふふ。ちょっと照れちゃうね」\n「――――」\n\n ――うう、カワイイ! なんだこの男の理想を詰め込んだような女の子は! 童貞には殺傷力が高すぎるぜ!\n 単純な俺は、留学して良かった!と内心ガッツポーズした。\n\n「わからないことがあったら何でも訊いてね?」\n「ええと、じゃあさっそくひとつ」\n「なに?」\n「なんで体操服着てるの?」\n\n そう、かぐやは体操服を着ている。襟と袖口がえんじ色で縁取られた厚ぼったい白シャツと紺色のブルマ。\n ――そう、ブルマである。はるか昔に絶滅したと言われるいにしえのコスチュームが目の前にある。俺がドギマギするのも当然だろ? パンツとそう変わらない布面積のブルマから伸びる健康的な太ももの眩しさときたら。童貞をメッタメタに殺害する破壊力だぜ!\n\n かぐやは口を手で隠してくすくすと笑う。\n\n「体操服を着用するのは寮則だから。学校では制服、寮内では体操着を着用すること。これは閑馬くんも守ってもらうからね」\n「え。俺もブルマ穿くの?」\n\n 俺が戸惑いながら訊ねると、かぐやはぷっと吹き出した。\n\n「男の子はハーフパンツがあるよ。ふふ。閑馬くん面白いね」\n「あ、ああ。都会ではオモシロ番長として有名だったんだ」\n「カンちゃんってオモシロ番長だったんだ。よっ、オモシロ番長」\n「やめてくれ……」\n\n リスちゃんに囃し立てられ、羞恥心で死にそうになった。うう、大阪の親戚の家に行くと「おまえの冗談おもんないわ」とダメ出しされるんだよ。トラウマスイッチが入っちまうぜ……!\n 俺が恥ずかしさに身悶えてると、かぐやとリスちゃんが顔を見合わせて笑った。\n\n「どんな人が来るんだろって思ってたけど、面白い人で良かったよ」\n「ねー」\n「はは……どうも」\n\n いらぬ恥をかいたが、かぐやもリスちゃんも歓迎ムードで安心した。担任教師から「田舎は排他的なやつが多いから気をつけなよ」と釘を差されてたんだよな。なんだよ、めっちゃフレンドリーじゃん。これならうまくやっていけそうだ――\n\n ――そう思ってたんだが。\n\n「聞いてない!」\n\n 寮内に案内され、説明を受けているとドスドスと荒い足音が響き、気の強そうな女の子が姿を見せた。俺の姿を認めると、彼女はまなじりをつりあげた。\n\n「留学生が来るって聞いてたけど、男なんて聞いてないんだけど!」\n「ええと、言ってなかったっけ?」\n「聞いてないってば!」\n\n 困り顔のかぐやとバチバチに口論しているセミロングの女の子。こちらも相当可愛いのだが、かなり性格がきつそうだ。彼女は俺を指さして語気を強めた。\n\n「知ってるよね? 私は男が大嫌いなの! 男と共同生活なんて絶対にイヤ!」\n「そう言われても……もう決まった話だし」\n「今からでも追い出してよ!」\n「それはちょっと……」\n\n かぐやが困っているな。俺は彼女をかばうように前に出る。\n\n「ええと、俺なんかやっちゃいました?」\n「はぁ?」\n\n ものすごい眼光で射すくめられ、俺はすごすごと引き下がった。リスちゃんにぽんぽんと背中を撫でられ「どんまいどんまい」と慰められた。情けねえ……!\n\n「ほら、男手があったほうが何かと助かるんじゃない?」\n\n かぐやがフォローするが、セミロングの子は納得がいかなそうに腕組みし、仁王立ちした。\n\n「私は絶対に反対。この寮は女だけで回ってるんだから、男なんて存在自体必要ないの」\n\n なんだこいつ、黙って聞いてれば好き勝手言いやがって。俺が内心いきり立っていると、小柄なボブカットの女の子がセミロングの子のシャツの裾を引っ張った。\n\n「わたしはいいよ。男の子でも」\n「那歩子……! でも!」\n「祐衣ちゃん。めっ」\n\n ボブカットの子がたしなめると、セミロングの子がきゅっと唇を引き結んだ。そしてこちらを睨むと踵を返し、荒い足音を立てて部屋へと戻っていった。\n\n「ええと、さっきの怒ってた子が樫名祐衣ちゃんで、仲裁してくれた子が池谷那歩子ちゃん……なんだけど」\n\n かぐやが困りながら紹介してくれるが、本人たちはすでにおらず。\n ものすごい気まずい空気の中、リスちゃんがぽんぽんと背中を叩いてきた。\n\n「どんまい!」\n\n 俺は天を仰いだ。\n\n ――前途多難すぎだろ!"} |
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