| {"novel_id": "n0002la", "chapter": 21, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0002la/21/", "title": "18.『父と娘』", "content": " 新たに増えた2人の恋人は、どちらも甲乙つけがたい美少女だ。そんな彼女らとのドキドキ同棲生活はバラ色である――と言いたいところだが、実のところあまり俺の生活に変化はないのだった。\n ただ、ひとつ変化があるとすると――\n\n「なあ。那歩子よ」\n「なに?」\n\n 那歩子の声が下から聞こえる。正確に言うと俺の股間から。俺はふうとため息をつく。\n\n「なんでいつも俺の部屋にくるんだよ」\n「迷惑?」\n「じゃないけどさぁ」\n\n 今の状況をありのまま話すと、俺は那歩子に膝枕している。いや、膝枕って言って良いのかこれ。ベッドの上であぐらをかいた俺の股ぐらを枕に、那歩子は部屋から持ってきた漫画を読みふけっている。膝枕というよりキンタマクラだなこれ。\n\n「かんまくんのお股、すごく落ち着くの。頭の収まりが良い」\n「俺のお股は安眠枕じゃねーのよ」\n\n アホな会話だ。シチュエーションもバカみたいである。\n 那歩子は、付き合うようになってからよりいっそうスキンシップが過剰になった。暇さえあれば部屋にきてくっついてきて、こうしてベタベタしてくる。健康な思春期男子としては嬉しい反面、ちょっと困るな。那歩子のさらさらな髪が俺の股間やら太ももやらをくすぐってくるものだから、うっかりすると変な気分になりそうだ。\n でも、那歩子は特段エロい気分にはなっていないらしい。純粋にスキンシップが好きなようだ。\n\n「んー。ふふ」\n\n 漫画のページをめくりながら、くすりと笑う那歩子。感情は薄いが、ないわけじゃないんだよな。一緒に過ごす時間が増えるとそれがわかってきて、俺はますます那歩子のことが好きになったのだった。\n\n「いまなに読んでるんだ?」\n「のだめカンタービレ」\n「エル・カンターレ?」\n「どう聞き間違えたらそうなるの」\n\n 那歩子はじとっとした目で俺を見上げる。だって聞いたことがない漫画なんだもんよ。手元のスマホで調べると、俺が生まれる前の漫画で、実写化やアニメ化もした人気作だそうだ。幸福を科学する漫画じゃないのか……。\n\n「どうしてそんな古い漫画を読んでるんだ?」\n「漫画に古いも新しいもないよ。面白い作品は色褪せないから」\n「ふぅん。まあ一理ある」\n\n 那歩子が言うには、村の本屋にはあまり新しい本がないらしい。つくづく旧時代に取り残された村だな。\n\n「ふう」\n\n 那歩子はぱたんと閉じた本を胸に抱き、目を閉じる。\n\n「ねえ、かんまくん。都会って楽しいところ?」\n「ん……どうだろ。刺激はあると思う」\n「そっか」\n「都会に行きたいのか?」\n「楽しそうだなとは思うけど」\n\n おおかた、漫画の舞台が都会だったから憧憬を抱いたってところか。田舎育ちあるあるなのかもしれない。\n 俺はぽんぽんと那歩子の頭を撫でる。\n\n「いつか連れてってやるよ」\n「本当?」\n「ああ」\n\n 期待に満ちたまなざしでこちらを見つめる那歩子に、俺は笑いかける。\n\n「那歩子に案内したいところ、いろいろあるから」\n「うん。楽しみにしてる」\n\n 珍しくはにかむように笑った那歩子は、正直めちゃくちゃ可愛かった。こんな子とお付き合いしているなんて、俺は幸せ者だなと思った。\n\n「そういえば、かんまくん」\n\n 何かを思い出したように、那歩子は口を開いた。\n\n「次の土曜は祐衣ちゃんの誕生日だよ」\n「まじで」\n\n 初耳だった。那歩子は起き上がり、ベッドに腰掛ける。\n\n「誕生日プレゼント、用意しておこうね」\n「そうだな……でも」\n\n 俺はあごに手をあてて考え込む。祐衣って何をあげたら喜んでくれるんだろう。俺はあまりあいつの嗜好に詳しくないことに気づいた。祐衣は学校から帰ってくると、ほとんど自分の部屋から出てこないから。\n 祐衣と一番親しい那歩子にアドバイスをもらおうと、俺は探りをいれる。\n\n「那歩子はなにをあげるんだ?」\n「ひみつ」\n\n 那歩子は口に人差し指をあてて、ぱちっとウインクする。珍しくテンション高いっすね、那歩子さん。\n\n「せっかくだから、祐衣ちゃんに直接訊いてみたら?」\n「あいつ、部屋に入れてくれるのか?」\n「恋人だから。入れてくれると思うよ」\n\n 那歩子が言うんだから間違いないな。ただ、あいつはパーソナルスペースが広そうだから、うっかり踏み込まれたくないところに踏み込んでしまうかもしれない。気に留めておこうと思う。\n 俺は部屋を出て、祐衣の部屋の前までやってきた。ドアをノックして「俺だけど」と呼びかけると、中から「どうぞ!」と、若干苛立ったような声が聞こえてきた。ドアノブをひねって中に入る。\n\n「あー! はいはい、トップ解決ね。ご都合ハンド! チート使ってるだろこいつ! でたでた負け番負け番! サ終しろイカサマゴミゲー!」\n「…………」\n\n 暗い部屋でPCモニターに向かって暴言を吐き散らかしている祐衣。彼女はヘッドセットを外すと、こちらに振り向いてぎょっと目を見開いた。\n\n「え? あ、閑馬……? なんで……っ」\n「ノックしたし、声もかけた。おまえも返事しただろ」\n「那歩子だと思った……うわー」\n\n 祐衣は頭を抱えてしまう。彼女は真っ赤な顔で、ちらちらとこちらの顔色をうかがう。\n\n「ひ、引いた……よね?」\n「いや、まあ……平均的なカードゲーマーだなって思ったよ」\n\n 祐衣のPCの画面に映っているのは、海外製のデジタルカードゲームだった。渋いゲームやってんなぁ。\n ていうか、目が慣れてくると、この部屋……すげえな。牧歌的な田舎の村とは思えないくらい電子機器まみれじゃないか。なんか無意味に光ってるし。典型的なオタクの部屋って感じだな。\n\n「な、なにしにきたのよ」\n「悪いな。ちょっと聞きたいことがあって」\n\n 俺が部屋を出たほうがいいか?と訊くと、祐衣は諦めたように「ここでいい」と許可をくれた。\n\n「それで、何が聞きたいの」\n「次の土曜、誕生日なんだって?」\n「那歩子に聞いたのね」\n「ああ」\n\n 祐衣はふうとため息をつき、やさぐれた顔をする。\n\n「誕生日なんてひとつ歳を取るだけじゃない。なんだったら一年老化しただけとも言えるわね」\n「その境地に至るのはアラサーになってからでも遅くないだろ。華のJKなんだから素直に喜んどけ」\n\n たぶんフェミに毒されてた頃なら、「女は40から輝き出す!」とか妄言をのたまいそうだなと思った。クロワッサン症候群ってやつか。\n\n「プレゼントを用意しようと思うんだけど、正直思いつかなくてな。本人の嗜好を知りたいって感じだ」\n「まあ、いらないものを渡されてタンスの肥やしになるよりそっちのほうがいいけど」\n\n 祐衣はリアリストだな。俺的には面倒がなくて好ましいけど。\n 俺は単刀直入に訊ねた。\n\n「なにか欲しいものあるか?」\n「じゃあ、ブラックロータス」\n「すまん。無理だわ」\n\n サラリーマンの生涯賃金くらいのカードじゃねーか。\n\n「冗談よ。もらえたら本気で嬉しいものだけど」\n「俺だって嬉しいよ。カード興味ないやつでも嬉しいだろ」\n\n 興味ないやつは売って即行金に替えるだろうが。コレクターズアイテムってそういうものだよな。\n\n「閑馬だったら何をもらったら嬉しいの? 参考までに聞いてあげる」\n\n 祐衣は尊大に腕組みし、けれども視線は妙に泳いでいる。こいつ、割と本気でリサーチしようとしてるな? ツンデレめ。\n\n「そうだな。オティンポコ・オメコニウムかな」\n「おてぃ……? なによそれ」\n「オティンポコ・オメコニウムは水素水とマコモ湯をまぜてテスラ缶で煮詰めると生成される夢の宇宙的物質なんだぞ」\n「頭にアルミホイル巻いてる?」\n\n そんな感じでお互いに腹のさぐりあいのような会話をしているうちに焦れてきた。\n 俺は祐衣の肩をぽんと叩く。\n\n「じゃあ、村で探そうぜ!」\n「え。やだ……」\n\n 祐衣はドン引きしている。\n\n「なんでだよ。村の中で選ぶんだからそれが一番手っ取り早いだろ」\n「お外こわい。だからやだ」\n\n 祐衣はカタカタ震えている。この引きこもりめ。\n 俺は祐衣の腕をなかば強引に引いた。\n\n「たまには外に出て日光浴しろ! 日光を浴びてビタミンDを生成しないと骨が脆くなるしアレルギーになるんだぞ!」\n「やだやだ! お外いやぁああ!」\n\n 祐衣の悲鳴が寮内にわんわんと響き渡った。\n\n …………。\n ……。\n\n 外に出て、村の中心に向けて歩を進める。祐衣は俺のシャツの裾を掴み、不安そうに視線を彷徨わせている。\n\n「何をそんなに怖がってるんだよ。学校に行くとき外出てるだろ」\n「だって……こっちまで来ることないしっ」\n\n 祐衣は涙目だ。\n\n「買い物はどうしてるんだよ」\n「アマゾンで頼んでるし」\n\n この村まで配達員来るのかよ。ご苦労さまだなぁ。\n 商店が立ち並ぶ村の中心地に来ると、祐衣はますますなにかに怯えたように身を縮こまらせた。俺が困り果てていると、小豆商店からご老人が出てきた。\n\n「おや、かもろし様かい」\n「明日吉爺さん。こんちわ」\n「はいはいこんにちは。なにか買っていくかい?」\n\n 明日吉爺さんは俺の後ろに目を移し、驚いたように眼を見開く。\n\n「おや。あなたは……」\n\n そのとき、明日吉爺さんはさらに驚いたように目を細めた。俺達の更に後ろに誰かがいるようだが――?\n 俺が振り返ると、そこには和服姿の恰幅良い壮年の男が立っていた。\n\n「宗次郎様! これはこれは!」\n\n 明日吉爺さんは膝をつく勢いでこうべを垂れる。この人がこんなにへりくだっているところを初めて見たぞ。\n\n「誰?」\n\n 俺が祐衣に訊ねると、彼女は青い顔で答えた。\n\n「干町宗次郎……この村を治めている干町家の当主」\n「干町家……村長ってこと?」\n「そして……私の、お父さん」\n「えっ」\n\n さすがにめっちゃ驚いた。祐衣って村長の娘だったのかよ。お嬢様じゃん! でも言われてみると、あの金のかかった私室は普通の女子高生には構築できないよな。\n\n「でも、名字が違うじゃん」\n\n 祐衣は苦虫を噛み潰したような顔をする。\n\n「私、お母さんの姓を名乗っているの」\n「山岡士郎かな」\n\n そうこうしている間に、干町宗次郎は静かにこちらに歩み寄ってきて、祐衣を見下ろすように――いや、見下すように睨んだ。\n\n「まだお前は引きこもっているのか」\n「が、学校には行ってるし……!」\n「だが、村に馴染めていないのだろう。話は聞いている」\n\n その鋭い眼光に射すくめられ、祐衣は震え上がった。今にも失禁しそうなくらい震えている。こいつが外に出てからやけに怯えていた理由がようやくわかった。この人に遭いたくなかったんだな。\n 宗次郎は冷え切った声で祐衣を叱責する。\n\n「引きこもりは人間の屑だ。生きている価値がない」\n「っ」\n\n 祐衣は泣きそうな顔をする。存在を否定されたんだから当たり前だ。俺は彼女をかばうように前に出る。\n\n「ちょっと。それは言い過ぎなんじゃ……」\n\n 宗次郎はじろりと俺を睨む。初対面なのに、その威圧感に俺は冷や汗をかいた。\n\n「おまえが今回のかもろしか。種付けに励んでいるのだろうな」\n「ああ、ええまあ」\n\n お宅の娘さんにもバッコンバッコン種付けしてますって言ったらどんな反応するかなって思った。さすがに怖すぎて自重したが。\n 代わりに、俺は祐衣のフォローに入る。\n\n「今は多様性の時代っすよ。引きこもりだってニートだって生きてるんだ。生きてるだけで丸儲けって言うじゃないっすか」\n「多様性? 弱者の常套句だな」\n\n 宗次郎は嘲笑う。\n\n「LGBTだのポリコレだのと戯言を抜かすな。『私には足がないからお前らも足を切り落とせ』と言っているようなものだ。バカバカしい。こういう連中が国を腐らせる」\n\n 都会の人権活動家が聞いたら卒倒しそうな暴言だな。俺は唖然とする。\n\n「社会的弱者の泣き言など捨て置けばいい。本来なら自然に淘汰されるべき存在だ。自分の足で立って歩ける人間だけがこの日本で生きていけばいいのだ」\n\n 言いたいことだけを言うと、宗次郎は使用人と思しき女性を引き連れて去って行った。\n 俺はぽりぽりと頬を掻く。\n\n「うーん。俺、あんまりあの人好きじゃないかも」\n「やっぱり男なんて最低……!」\n\n ようやくいつもの調子を取り戻した祐衣が、苛立ったように地面を蹴りつける。\n\n「あ。閑馬だけは別だからね」\n「フォローありがとよ」\n\n 祐衣が男嫌いになったわけ……嫌と言うほど察してしまった。あんな父親がいたら男嫌いにもなるわな。\n\n「お父さん……父親は昭和かってくらい典型的な男尊女卑で。昔から大嫌いだった」\n\n 祐衣は自嘲するように笑う。\n\n「でも、そんな男の庇護がないと生きていけない私が……一番キライ」\n「俺は祐衣のこと、大好きだよ」\n\n 俺はぽんぽんと祐衣の頭を撫でる。祐衣はこちらを見つめ、ぽっと頬を染める。\n\n「とりあえず、なにか良いものないか探そうぜ」\n「うん」\n\n 俺は機嫌を取り戻した祐衣をエスコートして、小豆商店へ入るのだった――。"} |
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