| {"novel_id": "n0002la", "chapter": 22, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0002la/22/", "title": "19.『誕生日パーティ』", "content": " 都会のスーパーに行くと、だいたい売り場で呼び込みくんの機械的なメロディが無限ループしていて、働いている人、これ絶対ノイローゼになるだろってうんざりするんだけど……小豆商店では、店主の明日吉爺さんの趣味なのか、いつもチルいクラシック曲がかかっているから、落ち着いて買い物ができて気に入っている。\n\n(あ。この曲知ってる)\n\n なんて曲だったっけな。月の光とかそんな感じだった気がする。作曲者は――\n\n「――あれ? ドビュッシー? ドピュッシー? どっちだっけ。まあいいや。どっちにしろなんかエロい名前だよな」\n「閑馬ってけっこう自己完結型よね」\n\n 祐衣は呆れ気味に言って、商品棚のお菓子を手に取った。俺は彼女の手元を覗き込む。\n\n「それが欲しいのか?」\n「好きなお菓子だけど。さすがに誕プレにお菓子はね」\n\n 祐衣はお菓子を買い物カゴに入れる。俺だって200円で買えるお菓子をプレゼントにするつもりはない。ただ、恋人の好みはリサーチしておきたいと思ったのだ。\n\n「祐衣ってどういうものが好きなんだ?」\n「漠然とした質問ね」\n\n 祐衣はアンニュイなため息をつく。\n\n「好きなのはゲーム……くらいしかないけど」\n「部屋でカードゲームやってたよな。カード好きなん?」\n「短い時間でサクッとできるから気に入ってるの。それに、酔いやすいから動きが激しいゲームできなくて」\n「そっか」\n\n 祐衣と店内を巡りながら他愛のない話をする。さっきの親父さんとの一件にはお互い触れない。祐衣は触れてほしくなさそうだし、俺だって思い出すと嫌な気分になるからな。\n\n「閑馬は……」\n「うん?」\n\n 言い淀んだ祐衣は、気まずそうに視線をそらす。俺は辛抱強く続く言葉を待つ。\n\n「この店、よく来るの?」\n\n 祐衣はうつむきながらそう訊ねてきた。たぶん、訊きたかったのは別のことだったんじゃないかと思ったが、追及はしなかった。\n 俺は商品棚に置いてあったカードパックを手に取る。\n\n「かぐやの買い物に付き合ったり。あとは、リスちゃんとカード剥きにくるな」\n「性戯王?」\n「ああ。おまえもやってんの?」\n「現物にはあまり興味ないけど。いちおう集めてはいるかな」\n\n 性戯王、人気だからな。カードゲーマーなら興味はあるか。\n\n「俺、めっちゃレアなカード持ってるぜ!」\n\n 俺が得意げに言うと、祐衣は肩を竦める。\n\n「なんか閑馬、小学生みたいよ」\n「男はいつだって少年心を忘れないものなんだよ」\n「子供っぽい。これだから男は」\n\n さっき父親を腐すときにも似たセリフを吐いたが、今の祐衣には毒気がなかった。\n\n「ちなみに、なんてカード? 私もそれなりに集めてるけど」\n「【黒き剛直の白濁液】のシークレットレアだ」\n\n 祐衣は目をまんまるにする。\n\n「うそ……初版のカードじゃない。絶版になってるのにどうやって……」\n「この店に1パックだけ残っててな。試しに剥いたら出たんだ」\n「豪運すぎでしょ」\n\n 祐衣はあからさまに羨ましそうだ。\n\n「欲しかったらやろうか? 誕生日プレゼントだ」\n「えっ!? でも……すごいレアじゃない」\n「俺は使わんし。価値がわかるやつの手に渡ったほうがいいだろ」\n\n 俺が歯を見せて笑うと、祐衣はもじもじする。\n\n「じゃ、じゃあ……もらってあげる」\n「おう。……そうだ、カードにサイン書いてやろうか。マジックペンで。世界に一枚だけの宝物だな!」\n「あはは。殺すよ?」\n\n 冗談だということはわかっているはずだが、祐衣のこめかみには青筋が立っていた。コレクター怖すぎだろ。\n\n ◯\n\n ――かくして、迎えた次の土曜日の夜。祐衣の誕生パーティが開催された!\n\n『お誕生日おめでとー!』\n「あ、ありがと……」\n\n クラッカーの紙テープを浴びて、祐衣は気恥ずかしそうだ。こういう雰囲気、苦手ではないようだけど慣れてないんだろうな。\n 飾り付けられた居間のテーブルの上には、かぐやお手製のいつもより豪華な飯が並んでいる。テーマパークにきたみたいだぜ。テンションあがるな~!\n\n「まずプレゼントを渡そうか」\n\n かぐやがぽんと両手を打ち鳴らす。\n\n「まずは閑馬くんからどうぞ!」\n「おう」\n\n 俺はローダーに入れたレアカードを祐衣に手渡す。\n\n「誕生日おめでとう!」\n「あ、ありがとう……。どうしたのこれ?」\n「自分で作った」\n\n 作り方はようつべで見た。材料自体はありふれたものだから村の中で揃った。結構楽しかったぜ。\n 祐衣は大事そうにカードを胸に抱く。\n\n「ありがとう。大切にするね」\n「おう」\n\n なんか照れくさいな。俺はぽりぽりと頬を掻く。\n\n「次はあたしね!」\n\n そう言ってリスちゃんが手渡した小さな紙袋。祐衣は穏やかな笑みを浮かべて受け取る。\n\n「ありがと、アイ。中身見てもいい?」\n「うんっ」\n\n 紙袋を開けると、中からシックな色合いのヘアピンが出てきた。\n\n「祐衣ちゃんに似合うと思って買ってきた!」\n「嬉しい……アイ、大好き」\n「きゃー」\n\n 祐衣がリスちゃんをぎゅっと抱きしめると、リスちゃんは照れくさそうに笑った。\n 俺は隣にいたかぐやに囁く。\n\n「リスちゃん、けっこう女子力高いな」\n「小学生でも立派な女の子だからね」\n\n 女の子は早熟っていうもんな。とてもじゃないが川でおしっこ飛ばして遊んでた子と同一人物とは思えない。将来は立派なレディになるんだろうな。\n\n「次はわたしと那歩子ちゃんね。祐衣ちゃん、お誕生日おめでとう!」\n「おめでとう」\n「わあ。ありがとう……!」\n\n かぐやと那歩子が渡したものは、アロマキャンドルのセットだった。ふたりで選んだものらしい。女子が喜びそうなチョイスだな。\n\n「みんな、ありがとう。すごく嬉しい」\n\n 祐衣は少し涙ぐんでいた。湿っぽくなった空気を変えるのは俺の役目だな。\n\n「腹減った! 飯食おうぜ!」\n「そうだね」\n\n かぐやが同調し、一同は食卓につく。テーブルに用意された16本のローソクが刺さったショートケーキに火をともし、祐衣が一息でかき消す。\n\n「いただきます!」\n\n 俺はチキンレッグにかぶりついた。\n\n「うめうめ。うめうめ」\n「かんまくん。いい食べっぷり」\n「那歩子も食え。おまえの好きなコロッケあるぞ」\n「うん」\n「ふふっ」\n\n いつもより賑やかな食事。パーティということでみんなテンションが上がってるみたいだ。\n\n それから俺達は、居間のテレビで劇場版名探偵コマン『黒光りの潜望鏡』を観た。\n\n『淫ラーーーン!!』\n『チン壱……!?』\n\n「パイ原の人工呼吸シーン、中国人がブチギレまくったらしいぞ」\n「あっちは『チン✕ラン』の幼馴染原理主義者が多いからね」\n\n みんなでツッコミを入れながら観るコマンは格別だな。めちゃくちゃ盛り上がった。\n パーティがお開きとなり、各々部屋に戻る。俺は風呂に入ってベッドでまったりしていたのだが、夜半に部屋の扉をコンコンとノックされた。\n\n「誰だ?」\n\n 俺が扉を開けると、そこにはパジャマ姿の祐衣が立っていた。\n\n「祐衣? どうしたんだ」\n「あ、あのね。閑馬」\n\n 祐衣はもじもじと指先を擦り合わせ、所在なさげに視線を彷徨わせていたが、やがて意を決した表情で言った。\n\n「今夜、一緒に寝ちゃだめ?」\n「えっ」\n\n 一緒に寝る……リスちゃんのときは言葉通りの意味だったが、俺と祐衣は恋人で、お年頃の男女だ。当然意味も変わってくる。\n\n「いいのか?」――口から出かかった言葉を飲み込み、俺は祐衣の腰に腕を回す。\n\n「ほら。入れよ」\n「……うん」\n\n ――今夜は長い夜になりそうだなと思った。"} |
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