Krixter/Repo / n0002la /25.json
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{"novel_id": "n0002la", "chapter": 25, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0002la/25/", "title": "幕間③『成長と性徴』", "content": "「夏だ! 川だ! 川遊びだー!!」\n「テンションたけーなぁ」\n\n 7月の中旬。俺はリスちゃんに誘われてまたしても櫓戊川を訪れていた。川岸に着くなり豪快に体操服を脱ぎ捨てたリスちゃんには度肝を抜かれたが、彼女はちゃんと中にスクール水着を着込んでいた。用意周到すぎるだろ。どんだけ川遊びが楽しみだったんだよ。\n\n「リスちゃん、パンツはちゃんと持ってきてるんだよな?」\n「パンツ? 水着の上から体操服着て帰れば良いでしょ?」\n\n わんぱくすぎるだろ。男子小学生か。まあ、おおらかな田舎だし、それでも良いのかもしれんが……。\n リスちゃんは俺の手をぐいぐいと引っ張り、川へ入ろうとする。\n\n「カンちゃん! 水のかけっこしよ!」\n「はいはい」\n\n と、軽い気持ちでビーチサンダルのまま川に足を踏み入れた俺は、ぎゃっと無様な悲鳴をあげた。\n\n「つめたっ! え? 海とかプールとぜんぜん違うんだけどっ」\n「あははっ。川の水は冷たいよ。当たり前でしょ?」\n「夏だから大丈夫だろって油断してたわ……キンキンに冷えてるじゃねーか」\n\n 考えてみたら今まで川遊びってしたことなかったな。しかも、都会と違って気温もそこまで高くないし、こんなところに入ってたらカラダ冷えちまうよ。俺が弱音を吐くと、リスちゃんはけらけら笑う。\n\n「もう、カンちゃんはなんじゃくだなー。あたしは慣れてるから全然へーきだよ?」\n「田舎育ちえぐいわ。俺は川辺でまったりしてるよ」\n\n 俺が川岸に戻ると、リスちゃんが煽るように水を手ですくってこちらに放り投げてくる。\n\n「それっ、それっ」\n「つめてー!」\n\n びしょびしょになったシャツが重たい。幸い今日は天気が良いからすぐ乾くだろうけど。リスちゃんはひとしきり俺を濡れ鼠にして満足したのか、川の中に飛び込んで気持ちよさそうに泳ぎだした。俺は苦笑しつつ、川辺の平べったい石に腰を下ろし、目を閉じる。\n 川のせせらぎとさわさわという葉擦れの音。録音してASMRにしたら売れそうだなとぼんやり考える。\n\n「癒やされるわー」\n\n これぞ夢にまで見た田舎暮らしってやつだな。スローライフ万歳。\n しばらくして、リスちゃんの騒がしい声が聞こえなくなったことに気づいた俺は目を開ける。彼女は前かがみになりながら、おぼつかない足取りでこちらへと歩み寄ってくる。\n\n「どうした? 大丈夫?」\n\n 俺が声をかけると、リスちゃんは青白い顔で言った。\n\n「……おなか痛い」\n「川の水で冷えちゃったんじゃないか」\n「そういう感じじゃなくて……なんか、ここが重いの」\n\n リスちゃんはお腹をさすりながら見たこともないくらい弱々しい声を出す。さすがに心配になった俺は彼女に駆け寄る。\n\n「リスちゃん、まじで大丈夫?」\n「ううー……むりかも」\n\n リスちゃんは呻きながら、すがるように俺の手を掴む。俺はぎょっとした。彼女の手は氷のように冷たかった。けど、俺が驚いたのはそこではなく、彼女の水着の裾から、幾筋もの水とともに赤いものが垂れていたからだ。\n 俺はリスちゃんをおぶって、急いで寮へと戻った。かぐやに事情を離すと、彼女は慣れた様子でリスちゃんを介抱し、服を着替えさせてベッドに寝かしつけた。\n\n「今夜はお赤飯だね」\n\n 薬を飲んでいくぶん安らいだ顔をしたリスちゃんの額を優しく撫で、かぐやはそう言った。\n 鈍い俺でもさすがに意味は理解できる。なんていうか、こういうとき男はどういう対応をしたら良いのかわからんよな。\n\n「リスちゃんはまだ子供だと思ってたけど……ちゃんと日々成長してるんだよな」\n\n この場合は性徴って言ったほうが正しいかな。うーん、センシティブすぎてさしもの俺も言葉を選ぶ。\n\n「もう小6だしね。早くもないし、遅くもない。平均的って感じじゃないかな」\n「そういうものか」\n\n 俺が小学校の頃は、女子のそういう事情には興味がなかったな。女子は男子よりひと足早く大人になる。誰だったかそんなことを言っていたが、その意味が理解できた。\n 俺がなんともいえない感慨に浸っていると、かぐやはこちらに向き直り、口を開いた。\n\n「閑馬くん。頼みごとをしてもいい?」\n「なんだ? 俺にできることならなんでも言ってくれ」\n\n 意気込む俺だったが、かぐやのお願いは予想外のものだった。\n\n「ルーシー先生のところに行って、このことを報告してほしいの」\n「先生の?」\n\n どういうことかと一瞬考え、俺はあっと息を呑む。そうか、初潮を迎えたということは、リスちゃんも\"あらにえ\"になるのか。\n\n「いやいや。リスちゃんはまだ小学生だぞ」\n「それが村の掟だから。例外はないよ」\n\n かぐやは固い表情で言った。有無を言わさぬといった感じだ。俺はがりがりと頭を掻く。\n\n「なあ。このこと、俺達だけの秘密にしないか? せめて今年の間だけでいいから」\n「だめだよ」\n\n かぐやはにべもなく俺の提案を却下する。\n\n「小さな村だから、噂はすぐに広まる。ううん、もう村中に広まってるかも」\n「マジかよ……」\n「アイちゃんを隠すようなことをしたら、寮生全員が連帯で処罰されちゃう。それは許容できないよ……寮長として」\n\n かぐやは唇を引き結び、膝の上で固く拳を握りしめる。辛い立場なんだな、こいつも。俺は覚悟を決めて立ち上がった。\n\n「わかった。……行ってくるわ」\n「うん。お願いね」\n\n かぐやは申し訳なさそうに目を伏せて、静かに俺を送り出した。\n 寮から学校までの5分足らずの道のり。こんなに足が重たいのは初めてだ。\n 俺は昇降口で靴を脱ぎ、職員室の前までやってきた。ドアをノックすると、中からルーシー先生の声がした。\n\n「どうぞ」\n「失礼します」\n\n ドアを開けて中に入ると、いつぞやのようにコーヒーのにおいがした。先生はカップを置いて振り返り、にこっと柔らかい笑みを見せる。\n\n「あの、先生。実はお話したいことが……」\n「事情は聞いています。じつにめでたいですね」\n\n やっぱりもう伝わっていたのか。背筋が冷える。もし俺の提案したように隠そうとしていたら――\n 先生は穏やかに微笑みながら、感慨深そうに頬を撫でる。\n\n「あんなに小さかったアイリスさんがもう。私も歳を取るわけですね」\n「先生って何歳なんですか?」\n\n 俺がデリカシーの欠片もない質問をすると、先生は気を悪くした様子もなく笑った。\n\n「24歳、学生です♡」\n「いや、先生でしょ……」\n\n よくわからないジョークに笑っていいものかと頭を悩ませていると、先生はこう打ち明けた。\n\n「私は、アイリスさんのお母さんと幼馴染だったんです」\n「歳も近いんですか?」\n「同い年ですよ」\n「へえ」\n\n …………。んん??\n 先生は24歳で、リスちゃんのお母さんと同い年。リスちゃんは今年12歳で……?\n\n「そうですよ」\n\n 俺の内心を読み取ったのか、ルーシー先生はあっさりとこう言った。\n\n「あの子は、小学生でアイリスさんを身ごもり、出産しました」\n「――――」\n\n 絶句する。いや、この村おかしすぎだろ。久々にカルチャーショックを受けた。世の中の常識はこの村では通用しないんだなと改めて理解する。\n\n「あの、前回のかもろしってどんなやつだったんですか?」\n\n 俺が訊ねると、先生はあごに手をあてて考え込み、こう言った。\n\n「粗野で粗暴で粗チン……どうしようもない男でしたね」\n\n いつも穏やかなルーシー先生が人をこんな悪しざまに言うのは初めて見るな。それほどまでに終わった男だったのだろう。\n\n「私もあの男に処女を捧げました。まあ、私は要領が良かったので、セックスにも順応しましたが……あの子はとてもつらそうでしたね」\n「あの、リスちゃんのお母さんは……いや、両親は今、どこに?」\n\n 俺がおずおずと訊ねると、先生は見たこともないくらい冷たい表情で答えた。\n\n「もういませんよ。……どちらも」\n\n …………。\n ……。\n\n それ以上のことを聞き出す空気ではなかった。俺は職員室を辞し、学校を出る。なんかどっと疲れたな……。\n 寮に戻ると、話を聞きつけた那歩子と祐衣が俺を出迎えた。\n\n「かんまくん、あいちゃんの傍にいてあげて」\n「あんたに会いたがってるわよ」\n「ああ」\n\n 俺は急いでリスちゃんの部屋へ向かう。ドアを開けると、かぐやは留守にしていた。ベッドに横になっていたリスちゃんが、俺を見て顔をほころばせる。\n\n「カンちゃん、おかえり」\n「ああ。ただいま」\n\n 俺が歩み寄ると、リスちゃんはふうと大きなため息をついた。\n\n「かぐやちゃんからもらったお薬で楽になったけど。これしんどいね」\n「ムリに動かなくていいから。……してほしいことあるか?」\n「手ぇ、握ってて」\n「うん」\n\n 俺がリスちゃんの手を握ると、彼女はへにゃっと笑った。\n\n「ふふー。カンちゃんをひとりじめだ」\n「そうだぞ。今日の俺はリスちゃん専用だ」\n「嬉しいな……ふう」\n\n まだしんどさは残っているのか、リスちゃんは目を閉じる。俺は、かぐやがしていたようにリスちゃんのおでこを優しく撫でた。リスちゃんはくすぐったそうに笑いながら、俺の手をぎゅっと握り返す。\n\n「カンちゃん。やっと、あたしもこいびとになれるね」\n「リスちゃん……」\n「嬉しいなぁ」\n\n やがてリスちゃんは穏やかに寝息を立て始めた。その寝顔はあどけなく、けれどもちゃんと女の子なのだとわかる。\n\n「ごめんな、リスちゃん」\n\n 俺は腹の中で煮えたぎる情欲を自覚した。まだ小学生であるリスちゃんを邪な目で見ている自分に気づき、俺は深い罪悪感と興奮を抱き、ひそやかに勃起したのだった――。"}

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