| {"novel_id": "n0002ly", "chapter": 13, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0002ly/13/", "title": "成田レオ編②『湯上がりの密談、ハイエナへの照準』", "content": " 都市部にそびえる高級マンションの一室。\n 厳重な防音加工が施された成田レオの自宅兼スタジオに、下品な笑い声が響き渡っていた。\n\n「あひゃひゃひゃっ! うっめぇー! 過去最高のギフト額だぜ? あの勘違い世界王者様のおかげで、オレの口座はガッポガッポよぉ!」\n\n レオは安物のシャンパンをラッパ飲みしながら、モニターに表示された管理画面を凝視していた。\n そこには、元世界王者プロゲーマー・シュンを社会的に抹殺した成果として、匿名者たちから投げ込まれた莫大な金額が並んでいる。\n 画面をスクロールすれば、読み切れないほどの賞賛の嵐。\n\n『よくやった、レオ! スカッとした!』\n『お前の配信が一番面白い。これからもよろしく』\n『一回配信しただけでプロゲーマーより稼いでて草』\n\n「そうだろう、そうだろう……お前ら視聴者は、もう【ゲイズ】とオレの配信がないと生きられねぇ身体になってるんだよなぁ?」\n\n シュンというひとりの男の人生を破滅させ、その絶望を燃料にして燃え上がった炎。\n 炎が大きければ大きいほど、レオの銀行口座は肥え太っていくのだ。\n 噂では、シュンはチームを解雇されたショックで、今や抜け殻の廃人のようになっているらしい。\n\n「うへへへ……オレの天才的追い込みは、とうとう神の領域に達したみてぇだなぁ!」\n\n 配信中に一般ゲーマーにボロ負けし、精神的に荒れている状態のシュンを挑発し、暴力的な言動を引き出す。\n その部分を切り抜いて、少し編集するだけで、ひとりの人間の人生が終わる動画が出来上がる。\n レオはそれをばら撒いて、自分の手柄のように大声で叫ぶだけ。\n これで巨万の富が築けるのだから、レオにとって人生イージーモードである。\n\n「……だが、まだ足りねぇ。次の獲物が必要だぜ」\n\n レオの人生を豊かにするギフトだが、その勢いはピークを過ぎれば一気に衰える。\n 野次馬たちは、常に新鮮な生贄を求めているのだ。\n いざとなれば、脅迫でもヤラセでも捏造でも、数字を取るためなら手段は選ばない。\n 今回のシュンも、実は一般ゲーマーと称したプロ級の相手をわざとマッチングさせ、レオの配信前にボロ負けさせるように仕組んでいた。\n 全盛期をとっくに過ぎ、落ちぶれた今のシュンが彼らに勝てるはずもなく、想定通り、無様な負け姿を晒す結果となった。\n このように、レオは過去に何度も卑劣な手段で犠牲者を陥れてきたのだ。\n\n「……そういや、あの『羽住結愛』はどうなった?」\n\n レオは脂ぎった指先で顎をさする。\n 羽住結愛は「加工モンスター」として大炎上した、元美容系カリスマインフルエンサー。\n レオも以前から目をつけていたが、情報の入手速度において、本職の【週刊真実バースト】に先を越されてしまった。\n 結愛は大学も中退、特定された住所のマンションからも引き払っており、現在はどこにいるのか分からない。\n 現在の結愛を見つけ出し、突撃取材をすれば、なかなかのネタになるだろうとレオは思っていた。\n だが、それもおそらくは本職に先を越されるのがオチだろう。\n\n(チッ……やっぱり、あいつらプロの記者は嗅覚が違いすぎる。情報の裏取りじゃ、どうしても勝てねぇな……)\n\n レオは有名配信者ではあるが、所詮は一般人。\n 自力でターゲットを探すのには、限界がある。\n スキャンダル探しのプロ中のプロを相手に、スピード勝負を挑むのは分が悪い。\n\n「……そうだ。また、阿久津さんに聞いてみるか」\n\n レオには特別なルートがあった。\n かつて、何度か極上の炎上ネタを提供してもらった、闇のコンサルタント――【プロメテウス・アド】の社長、阿久津牙。\n ネットの風評被害対策やSNSブランディングを掲げるコンサル会社だが、裏の顔はマッチポンプ式の炎上請負人。\n マッチポンプで追い詰め、多額の借金を負わせて「救済」した人々を自らの「家畜」として扱うという、レオも真っ青になるほどの巨悪であった。\n\n(あの人なら、今の羽住結愛の情報とか、次の炎上ネタとか、いくらでも持ってるはずだ)\n\n レオの濁った瞳に、下卑た光が宿る。\n 阿久津から仕入れた爆弾を、自分の【ゲイズ】で起爆させる。\n それだけで、また数万人の視聴者が熱狂し、画面は高額ギフトの赤色に染まるだろう。\n\n「そうと決まれば、さっそく阿久津様に連絡っと……」\n\n レオは期待に胸を躍らせ、スマホの画面に指を走らせた。\n 虎の威を借る狐――いや、自称獅子の、それが日常であった。\n\n ◇◇◇◇◇\n\n 湿った熱気が、安アパートの狭い脱衣所に充満していた。\n シャワーを浴び終えた心音は、バスタオル一枚を腰に巻き、鏡に映る自分の死んだ魚のような目を、ぼうっと眺めている。\n そのすぐ隣では、濡れた金髪をバスタオルで器用に包んださとりちゃんが、上気した頬をさらに赤く染め、心音の筋肉質な腕の中で身をよじっていた。\n\n「もぉーっ♡ しおんちゃん、変なとこばっかり触らないでよー♡」\n「不可抗力です。離れたくても離れられない呪いに縛られているのですから」\n\n そう言って、心音はさとりちゃんの弱点の腋の下に指を滑り込ませる。\n 柔らかい腋肉を抉るようにくすぐってやると、さとりちゃんは「きゃあーっ♡」と可愛らしい悲鳴を上げた。\n 心音とさとりちゃんは、半径2メートル以上、離れようとすると命の危険を感じるほどの激痛に襲われる状態にある。\n 捕食に失敗し、憑依したという結果だけが残ってしまった――さとりちゃんはそう説明したが、理屈はどうであれ、心音はこうして彼女と密着して生活したり、仲良く一緒にシャワーに入ったりするのが、人生における最大の楽しみになっていたのだった。\n\n「こらーっ♡ 腋こちょは禁止、禁止ーっ♡」\n「さとりちゃんが可愛い反応をするからです」\n「んもぉ……シャワーしながら、あんだけいっぱいエッチしたでしょー♡ まだ足りないのー?」\n「足りません。さとりちゃん、大好きです」\n「くぁーっ♡ 私も大好きだよ、しおんちゃん♡」\n「さぁ、湯冷めするといけないので、早く服を着てくださいね」\n「むぅー……しおんちゃんのせいで、腰が抜けちゃってるんだけどー?」\n「仕方ありませんね」\n\n 心音は手慣れた手つきでさとりちゃんにパーカーを着せ、ショートパンツを履かせた。\n ここに、巨大な受話器型のポシェットを肩から提げれば、いつものさとりちゃんスタイルだ。\n もっとも、普段はツーサイドアップにしている長い髪は、ターバンのようにバスタオルで巻かれているが。\n\n「しおんちゃん、喉かわいた! メロンソーダ飲みたい!」\n「それでは、リビングにいきましょうね」\n「うんっ♡」\n\n 心音も服を着ると、さとりちゃんの小さな身体を軽々と持ち上げ、お姫様だっこをした。\n さとりちゃんは、歩行という些細な動作ですら魔力(度数)を消費してしまう。\n だから、こうして移動するときは極力、彼女をだっこしたり、おんぶしたりするのが日常的なルーチンとなっている。\n\n(まあ、ちょうどいい腕のトレーニングにもなりますし)\n\n さとりちゃんをリビングの使い古された安物ソファーに座らせ、冷蔵庫から彼女の好物のメロンソーダの缶を取り出す。\n その蓋を開けてあげてから、さとりちゃんに手渡した。\n\n「はい、どうぞ」\n「ありがと♡ キンキンに冷えたメロンソーダ、最高なんだよねー♡」\n\n 心音から渡されたメロンソーダをグビグビと飲んでいるさとりちゃんの隣に、腰を下ろす。\n すると、さとりちゃんは嬉しそうな顔をして、心音の膝の上にちょこんと乗ってきた。\n 洗い立ての少女の全身から立ちのぼる甘い香りが鼻腔いっぱいに満ちる。\n\n「可愛い。それに良い匂いです」\n「えへへー♡」\n「さて……」\n\n 心音は片手でさとりちゃんの細い腰を支えながら、もう片方の手でスマホを操作し、いつものようにSNSのトレンドをチェックする。\n\n「やはり、話題はこの件ですか」\n\n 画面には、元世界王者プロゲーマー・シュンの転落劇が、刺激的な見出しとともに躍っていた。\n 容赦なきチーム解雇、スポンサーの契約解除。\n そして、ショックのあまり精神を病み、抜け殻のような廃人と化してしまったという、ショッキングなニュースであった。\n\n「あー、この人か。なかなかドロッとした濃厚な絶望で、おいしかったよぉ」\n「羽住結愛のときのように、手加減はしなかったのですか?」\n「えっ、するわけないじゃん? 結愛ちゃんは友達だから例外。あと、しおんちゃんもねー♡」\n\n さとりちゃんは心音の分厚い胸板に顔を埋め、スリスリと頬を寄せてくる。\n 冷酷な妖怪でありながら、自分にだけは幼い子供のように無防備に甘えてくる。\n そんな少女の姿が、心音は可愛くて可愛くて仕方がない。\n 相思相愛というより、物理的にも精神的にも共依存のような状態。\n 今の心音には、その歪で不健全なパートナー関係が、とても心地が良い。\n\n「彼にトドメを刺したのは、確かにさとりちゃんですが……元凶は、どうやらこの男ですね」\n\n 画面の中で、自撮り棒を掲げて下品な笑い声を上げているオレンジ髪の男。\n ――成田レオ。\n 自らを「物申す系インフルエンサー」と称し、他人の不幸を高額ギフトに変える、現代のハイエナである。\n もっとも、やっていること自体は、スキャンダル担当記者の心音や、ライバル誌の【週刊真実バースト】のパパラッチ軍団と、そう大差はないのかもしれない。\n\n「しかし、こういう人物は、叩けばいくらでも埃は出ます」\n\n これだけ他人を不幸のどん底に落とすようなことを繰り返している男だ。\n 清廉潔白では、あり得ない。\n この軽薄な男に、そろそろ因果応報という言葉の意味を教えてやってもいい頃合いかもしれない。\n\n「あっ、しおんちゃん! もしかして、次のターゲット決まったのー?」\n\n さとりちゃんが虹色の瞳を期待に輝かせ、心音の顔を覗き込む。\n 心音が記者としてスキャンダルを暴き、獲物の絶望をさとりちゃんが喰う。\n 完璧な共犯関係であった。\n\n「そうですね。少し、探ってみましょうか」\n\n 心音は、その暗い瞳に鋭利な刃物のような光を宿し、レオの顔を眺めた。\n 冷徹な記者の顔に戻った心音の膝の上で、さとりちゃんは「楽しみー♡」と、次の食事を心待ちにするように、ぺろりと可愛らしく舌を出した。", "afterword": "ここまでお読みいただき、ありがとうございます。\nよろしければ☆☆☆☆☆ 評価・ブックマーク・リアクション等で応援していただけると幸いです!"} |
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