Krixter/Repo / n0002ly /14.json
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{"novel_id": "n0002ly", "chapter": 14, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0002ly/14/", "title": "成田レオ編③『巨悪の玉座、這いずる家畜と野良犬』", "content": " 地上200メートル。\n 超高層ビルの最上階に位置する株式会社【プロメテウス・アド】の社長室は、成功者の虚栄心を煮詰めたような、悪趣味な空間だった。\n 壁には気味の悪い動物の剥製や、金箔を多用した宗教画めいた絵画が並び、床には毛足の長い、血のように赤い絨毯が敷き詰められている。\n その中央に置かれた、最高級の革張りソファーの上に「巨悪」が深く腰を下ろしていた。\n\n「今さら、あの加工モンスター……羽住だったか? あんなガキを探して、どうすんだ?」\n\n 低く、地鳴りのような重厚な声。\n 阿久津牙、48歳。\n 色黒で、身長185センチの頑強な体躯は、特注の高級スーツを内側から引き裂かんばかりに盛り上がっている。\n その威圧感に満ちた姿は、リングで暴れ回る悪役レスラーの方が、よほどしっくりくるだろう。\n\n(相変わらず、おっかねぇな、このオッサン……)\n\n 成田レオは、脇に抱えた仰々しい木箱を、壊れ物を扱うようにテーブルの上に置いた。\n 有名百貨店の包装紙に包まれた、一玉1万円以上もするマスクメロン。\n 非常識を売りにするレオという男でも、この怪物の時間を削る代償は理解していた。\n\n「なんだ、そりゃ?」\n「高級メロンですよぉ! 阿久津さんのお口に合うかと思って……」\n「ふぅん……」\n\n 阿久津は、さして興味もなさそうに鼻を鳴らすと、手元のクリスタルグラスに注がれた琥珀色の液体を喉に流し込む。\n\n(マジか、反応が薄すぎるだろ……マズったか?)\n\n レオは、自分の背中に嫌な汗が流れるのを感じた。\n とにかく、この阿久津という人間の機嫌を損ねることだけは、してはいけない。\n 持参した手土産は、阿久津にとってゴミ同然だったかもしれないが、それでも手ぶらで来るよりはマシだったに違いない、とレオは自分を鼓舞した。\n\n「……で、阿久津さん。羽住結愛なんですけどぉ、あいつ、アカウントを消して逃げ回ってるじゃないっスか。オレの勘では、世間様は今のあいつがどんなブザマなツラで生きてるのか、知りたがってると思うんスよねぇ!」\n\n 普段の傲岸不遜な態度からは一変し、強者に対して低姿勢で必死に媚びへつらう。\n ネット上では王者のように振る舞うレオも、この目の前の大男からすれば、小さな駒の一つに過ぎない。\n レオはフォロワー20万人という、その集客力が評価され、過去に阿久津の「仕事」を手伝ったことが何度かある。\n\n(チクショウ……見てろよ、利用価値がなくなったら、アンタのことも【ゲイズ】のネタにしてやるからよぉ……)\n\n 阿久津は表向きには紳士的な顔を見せているが、中身はレオも真っ青になるほどのどす黒い、醜悪な化け物だ。\n この怪物を、自分の【ゲイズ】が倒す――。\n いつか阿久津がレオを見放して、相手にしなくなったとき、最後の逆襲として彼の悪行の数々を暴露する動画を拡散しようと考えていた。\n\n(そうなりゃあ、オレこそが真の王者になれる。この豪華なオフィスもオレのものにしてやる。だが、まだだ。まだ足りねぇ……もっと力が必要だ)\n\n そのためにも、今はこの男に従い、その情報と影響力を存分に利用させてもらう。\n 獅子がその首に食らいつくときを、楽しみにしていろ――。\n\n「それで、その羽住の現在の居場所が知りたいと?」\n「は、は、はいっ! よろしければ、教えていただけると、ありがたいですぅーっ!」\n\n 心の奥底で抱いた反抗心とは裏腹に、レオは揉み手をしながら媚びるような笑みを浮かべる。\n 阿久津がレオを見る目は、心底、どうでもよさそうで、何か別のことでも考えているかのようだった。\n\n「まあ、いい。特別に教えてやる。ちょっと待ってろ」\n「へ、へぇっ! ありがとうございますっ!」\n\n 阿久津は面倒そうにスマホを弄りながら、太い脚を組みかえた。\n その脚の動きに釣られ、レオは彼の足元へと視線を落とす。\n\n「……んっ!?」\n\n そこには、信じられない光景があった。\n ひとりの若い女が、首輪を嵌められ、下着同然の姿で床にうつ伏せに転がっている。\n 彼女の瞳には光がなく、ただ阿久津の足置きとして機能することだけを許されているようだった。\n\n(な、なんじゃ、こりゃあ……!?)\n\n 阿久津は無造作に女の背中や頭に靴の裏を乗せ、嬲るようにゆっくりと体重をかけている。\n\n「……っ!」\n\n 女は苦悶の表情を浮かべ、押し潰される痛みに耐えながら、かすかに喉を鳴らしていた。\n レオはその女の正体を知らなかったが、阿久津の巧妙な罠に嵌まり、多額の借金という鎖で繋がれた「家畜」のひとりなのだろう。\n 一歩間違えば、レオもこの女と同じ立場に置かれる可能性すらある。\n\n(や、やっぱ……暴露動画とか、やめっか?)\n\n レオは、自分自身がどちらかというと「悪」や「闇」の側に属する人間だと自覚していたが、この阿久津という男は、やはり格が違う。\n 巨大要塞【プロメテウス・アド】を支配する阿久津に比べ、所詮は【ゲイズ】という肥溜めのようなプラットフォームに依存する配信者のひとりに過ぎない、成田レオ。\n そもそも、同じ土俵にすら立っていなかった。\n\n「おい、レオ。聞いてんのか?」\n「は、はいっ! もちろんですっ!」\n「羽住の現住所だ。今、お前のスマホに送ってやった」\n\n 阿久津がスマホを操作すると、レオのポケットが短く震えた。\n\n「や、やった! ありがとうございますぅっ! さすがは阿久津様、情報のプロだっ!」\n「まあ、賞味期限切れの残飯だ。好きなように食え」\n\n 阿久津にとって、羽住結愛は利用価値のない廃棄物にすぎないかもしれない。\n だが、今のレオにとっては、喉から手が出るほど欲しい次のネタである。\n かつての「加工モンスター」という仮面を捨てた女には、レオ自身の承認欲求を、そして銀行口座を満たすための生贄になるのがふさわしい末路だ。\n\n「へへへ……バッチリ、最高のエンタメに仕上げてみせますよぉ!」\n\n 阿久津の冷徹な視線から逃れるように、レオは深々と頭を下げて部屋を退出した。\n ハイエナはハイエナらしく、強者の食べ残した腐肉に貪欲に食らいついていくだけなのである。\n\n ◇◇◇◇◇\n\n レオが這いずるようにして去った後、静まり返った社長室には、重厚な葉巻の香りだけが漂っていた。\n\n「メロンねぇ……どんな味だったか、忘れたな」\n\n 阿久津は、レオが置いていった仰々しいメロンの木箱を一瞥し、鼻で笑った。\n レオという男は、阿久津からすれば飼い慣らした野良犬のようなもの。\n 雑兵だ。\n 一応、元世界王者プロゲーマーとやらを一晩で破滅させる程度の影響力はあるようなので、多少の利用価値はある。\n ペットとして繋いでおくために、餌として元「加工モンスター」の少女の情報くらいは、くれてやった。\n マッチポンプで炎上させるという阿久津の手法と、レオのスタイルは相性が良いので、利用するだけして使えなくなったら廃棄処分する。\n それだけのことだ。\n\n「おい、起きろ」\n\n 阿久津は、足元で丸まっていた女の首輪を無造作につかみ、強引に引きずり起こした。\n 女――白鳥メル、21歳。\n 地下アイドルグループ『ルミナス・ティア』のセンターを務める、清楚系の歌姫だ。\n 清潔感のある、愛くるしいルックスが魅力で、身長154センチとやや小柄ながらスタイルも良い。\n 今、この瞬間にも熱烈なファンたちは、清らかな彼女の笑顔を夢に見ていることだろう。\n\n「さっきのハイエナが、変なものを置いていったぞ。お前にやるから、自分で開けろ」\n「は、はい……ご主人様……」\n\n メルは震える指先を、テーブルの上に置かれた木箱に伸ばす。\n その背後から、彼女の華奢な肩や背中のラインを品定めするように、阿久津は大きな手の平でなぞり、弄んだ。\n\n「あっ……!」\n\n 武骨な太い指が敏感な部分に触れ、メルはか細い声を漏らす。\n 彼女を崇敬するファンたちの誰もが触れることの許されない聖域を、阿久津は当然のように無遠慮に汚していった。\n\n「ほら、どうした? 手が止まってんぞ?」\n「うっ……うぅ……も、申し訳、ありません……」\n\n その瞳には、もはや一筋の光も宿っていない。\n ただ、阿久津の機嫌を損ねないこと――その一点だけに全神経を注ぎ、機械的に包装紙を剥ぎ取っていく。\n\n「ご主人様、開けました……」\n\n 木箱の中から現れた、網目の美しいマスクメロン。\n レオが阿久津のご機嫌を伺うためだけに持参した、安っぽい果実だ。\n\n「マズそうだな……」\n\n 冷たい視線でそれを見下ろし、阿久津は丸太のような太い腕を振り上げた。\n\n ――ドォォン!!\n\n 凄まじい衝撃音が室内に轟く。\n 阿久津が握りしめた巨大な拳が、テーブルの上のメロンに容赦なく叩きつけられたのだ。\n\n「ヒ、ヒィッ!? あ、あぁ……あっ……!」\n\n メロンは一撃で粉砕され、瑞々しい果肉と果汁がメルの顔に飛び散った。\n 拳についた汁をメルの髪で拭うと、阿久津は満足げに口角を吊り上げる。\n\n「ほれ、食いやすいようにしてやったぞ。俺様が戻るまでに、ここをキレイにしておけ」\n「か、かしこまりました……! すぐに、掃除いたしますっ!」\n\n メルは恐怖に顔を引きつらせながら、テーブルの上に散乱したメロンの残骸へと、這いつくばって食らいついた。\n 手と舌を使い、高級なテーブルを汚すゴミを、残らず自分の体内に収めていく。\n もし、阿久津が戻るまでに一滴の汁でも残っていれば、待っているのは調教という名の、想像を絶するお仕置きだ。\n\n(この女に比べれば、さっさと逃げ出した羽住の方が、まだ利口だったかもしれんな)\n\n 無様に這いつくばってメロンを啜るメルを見下ろし、阿久津は冷徹に分析する。\n メルは、阿久津が仕掛けた罠によって多額の借金を背負わされたが、それでも輝かしいアイドルとして活動するという夢を捨てることができなかった。\n 逃げ場のない執着こそが、人間を最も効率的に「家畜」へと落とすのだ。\n\n(白鳥メル……俺様が飽きるまでは可愛がってやるよ)\n\n 阿久津は背を向け、悠然と部屋を後にした。\n 後に残されたのは、甘いメロンの香りと、それを必死に貪る、地に落ちたアイドルの啜り泣きのような音だけだった。", "afterword": "ここまでお読みいただき、ありがとうございます。\nよろしければ☆☆☆☆☆ 評価・ブックマーク・リアクション等で応援していただけると幸いです!"}

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