| {"novel_id": "n0002ly", "chapter": 17, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0002ly/17/", "title": "成田レオ編⑥『死神の取材、ゴミは自ら燃え上がる・上』", "content": "「へぇ……【実話深層】ねぇ。聞いたことはあるが」\n\n 成田レオは、自慢の高級ソファーに深く腰掛け、目の前に座る無気力そうな男を品定めするように眺めた。\n レオが常に警戒し、強敵と認めているのは【週刊真実バースト】のような、ターゲットを地の果てまでも追い回す恐怖のパパラッチ軍団だ。\n それに対し、この男――神無月心音が所属する【実話深層】は、スキャンダル以外にも、政治経済、ビジネス、最新の医療テクノロジー、B級グルメや週末の観光地特集まで、手広く扱う総合週刊誌である。\n レオからすれば、自分のような天才的インフルエンサーを特集するには、やや硬派すぎる媒体のようにも思えた。\n\n(まあ、オレ様くらい有名になりゃあ、おカタい雑誌も放っておけねぇってことか)\n\n 神無月と名乗った記者は、使い古されたスーツに身を包み、死んだ魚のような目で手帳を広げている。\n これから意気揚々と取材を始めようとする記者の姿には見えないが、レオの警戒するパパラッチのような雰囲気も感じられない。\n\n「成田様、本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。これ、お近づきの印に……ほんの心ばかりですが」\n\n 差し出されたのは、レオでも知っている老舗の和菓子店の菓子折りだった。\n その包みを受け取りながら、記者の表情をうかがう。\n 相変わらず、何を考えているのか分からない顔だが、口元には友好的な笑みが浮かんでいる。\n\n「こりゃ、ご丁寧にどうも」\n\n 最初は、スキャンダルでも暴きに来たのかと身構えていたが、どうやらこの記者は、本気で自分を現代の成功者として注目し、インタビューに来たようだ。\n\n「成田様の【ゲイズ】でのご活躍は、編集部内でも話題になっておりましてね。あのプロゲーマーを引退に追い込んだ手際……まさに、大衆の心理を掌握する天才の所業だと、感銘を受けました」\n「あー、あれな! まぁ、オレにかかりゃ、あんなの朝飯前よ!」\n\n 神無月の言葉に、レオの自尊心はこれ以上ないほど満たされていった。\n\n(やっぱりな。こいつはオレのファンなんだ。話の分かる奴が来たぜ)\n\n すっかり毒気を抜かれたレオは、自分の手柄を披露するかのように、成功の秘訣を語り始めた。\n\n「今の時代、ただ動画を上げるだけじゃ三流なんだよ。人間を熱狂させ、憎しみを煽り、爆発させる。その導火線に火をつけるのが、オレというエンターテイナーの役割なのさ。分かるかい、神無月さんよぉ?」\n「ええ、実に見事な分析です。人々は成田様の指先一つで、踊らされているわけですね」\n\n 神無月は淡々とメモを取り続けている。\n どうやら、レオのあまりの凄さに圧倒されているようだ。\n 気分の良くなったレオは、自分を悩ませていた羽住結愛への突撃インタビューの失敗や、視聴者からの低評価の嵐すら、どうでもよくなりつつあった。\n どんな天才でも、運が悪くて失敗することはある。\n 長くやっていれば、そういうこともあるだろう。\n\n「今回は特別大サービスだ。オレの今後の戦略についても、少し教えてやってもいいぜ?」\n「ありがとうございます。ぜひ、成田様の先見の明を、読者に知らしめたいと思います」\n\n ――1時間ほどの取材を終え、神無月は「貴重なお話をありがとうございました」と深々と頭を下げて部屋を後にした。\n\n「あひゃひゃひゃっ! アイツ、マジでオレのファンだったなぁ!」\n\n レオはソファーにひっくり返ると、先ほど貰った菓子折りの袋を乱暴に引きちぎった。\n 箱の中から出てきた高級な和菓子を、包装を剥がすのももどかしく口に放り込み、貪り食う。\n\n「さぁて……オレの知名度がさらに上がったところで、次はあの羽住結愛へのリベンジだな。どう料理してやるか……住所もバイト先も把握してんだからなぁ?」\n\n レオは甘い蜜に酔いしれるように、歪んだ笑みを浮かべた。\n 羽住結愛への突撃失敗で【ゲイズ】の登録者が2000人ぐらい減った気がするが、それも自分の才能があれば、簡単に挽回できるはずだ。\n\n ◇◇◇◇◇\n\n「ふぅ、ようやく終わりましたね」\n「しおんちゃん、おつかれさまー♡」\n\n 高級マンションの地下駐車場に停めた社用車の運転席に乗り込み、心音はネクタイを緩めた。\n 助手席には、最愛のパートナーが得意げな顔をして座っている。\n\n「見事なヒーローインタビューだったねー! しおんちゃん、さすがプロだよ!」\n「ありがとうございます」\n「それにしても、あいつ……今度は自分が燃え上がる番だっていうのに、危機感の欠片もなかったね。ああいうのをピエロっていうのかな?」\n「さとりちゃん、それはピエロに失礼でしょう」\n「アハッ! 言えてるー!」\n「さて……」\n\n 心音は、取材中に淡々と書き込んでいた手帳を開いた。\n そこには、レオが豪語していた「成功の秘訣」や「今後の戦略」といった言葉は、一文字も記されていない。\n\n『さとりちゃん、今日の髪のハネ方が最高に可愛い』\n『ぷにぷにしたほっぺたの柔らかさは、もはや芸術的』\n『真っ白な腋のラインの曲線美がたまらない。舐めたい』\n『意外とむっちりした太もも最高。膝枕してもらいたい』\n『小柄な体格にアンバランスな巨乳の破壊力は底知れない。揉みたい』\n『プリプリした小さなお尻も可愛い。桃みたい。食べたい』\n『全身から漂ってくる甘い香りで肺を満たしたい。どこを嗅いでも良い匂い』\n『絶世の美少女なのに目の下に不健康そうなクマがあるのが逆にチャームポイント』\n\n そこに並んでいたのは、さとりちゃんへの愛の賛歌と魅力の箇条書きだけだった。\n 自称インフルエンサーのどうでもいい話など、心音は最初から最後までまったく聞いていなかった。\n そんなものは、ただの雑音に過ぎない。\n\n「それで、さとりちゃん――仕込みは、うまくいきましたか?」\n\n 心音の問いに、さとりちゃんは「んふふー♡」と、妖怪らしい妖艶で邪悪な笑みを浮かべた。\n\n「ばっちり! あいつがペチャクチャ喋りまくってる間に、分身を張りつかせてやったよ!」\n「よくできました」\n「むふふー♡ 褒めて褒めてー♡」\n\n 嬉しそうに身を寄せてくるさとりちゃんを抱き寄せ、優しく頭を撫でてあげる。\n 今回の取材の真の目的――それは、レオの悪事を暴くことでも、情報を引き出すことでもなかった。\n\n(さとりちゃんの分身の憑依……これで彼も終わりです)\n\n 通常、さとりちゃんという怪異は、SNSのアカウントを通じて呼び出されない限り、対象に干渉することはできないというルールがある。\n だから、いくら魔力が枯渇して空腹になったとしても、さとりちゃん側から能動的に獲物の所に分身を飛ばして捕食する、というような無法はできない仕組みなのだ。\n だが、例外は存在する。\n 本体が物理的に対象の目の前まで行き、直接、その魔力を行使することは可能だという。\n よって、SNSで呼び出されなくても本体が自ら【絶望喰い】を行ったり、生み出した分身を対象に憑依させたりということはできる。\n もっとも、さとりちゃんは本体が少し移動するだけでも大量の魔力を消費するので、餌となる濃厚な絶望を抱えた人間をSNSで募集し、そこに分身を派遣するというスタイルが、もっとも効率的だったということだ。\n\n(成田レオに憑依した、さとりちゃんの分身は、いわば生きたスパイウェアですね)\n\n 植えつけられた分身は、さとりちゃん本体とリアルタイムで感覚を共有し、レオの行動の一部始終を監視し続ける。\n 彼の大切なSNSや【ゲイズ】のログインパスワード、銀行口座の預金残高に至るまで、すべてのプライバシーを筒抜けにするのである。\n\n「これで、成田レオはまな板の鯉……というところですか」\n「しおんちゃん、それは鯉に失礼だよー!」\n「言えてます」\n\n 成田レオという材料が、自ら点火した導火線によって木っ端微塵に弾ける瞬間は、もうすぐそこまで迫っている。\n 心音は愛するさとりちゃんの食事を用意するため。\n そして、自らのスキャンダル担当記者としての職務を全うするため。\n 一方、さとりちゃんは大切な親友の羽住結愛をハイエナの牙から守るため。\n ついでに、その空腹をドロリとした濃厚な絶望で満たすため。\n 一石四鳥――社会のゴミを掃除するのに、手加減は不要だ。\n\n「いきましょう、さとりちゃん。あとは、彼が動くのを待つだけです」\n「了解ー♡」\n\n 心音は静かにエンジンをかけ、車を発進させる。\n 偽りの獅子が燃え上がる最高のステージの開幕は、間もなくだ。", "afterword": "ここまでお読みいただき、ありがとうございます。\nよろしければ☆☆☆☆☆ 評価・ブックマーク・リアクション等で応援していただけると幸いです!"} |
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