Krixter/Repo / n0002ly /18.json
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{"novel_id": "n0002ly", "chapter": 18, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0002ly/18/", "title": "成田レオ編⑦『死神の取材、ゴミは自ら燃え上がる・下』", "content": "「あひゃひゃひゃっ! 待ってろよ、羽住結愛! オレをコケにした代償はきっちり払ってもらうぜぇー!」\n\n 夕暮れ時の静かな街を、成田レオは足早に、浮かれたような足取りで進んでいた。\n 阿久津から提供された、羽住結愛の住所。\n さすがに、この短期間で逃げ出してはいないだろう。\n 築30年の古臭いアパートに住んでいるらしいが、留守だった場合は、バイト先のケーキ屋にまだいると考えられる。\n 無論、そちらも特定済みだ。\n 閉店間際、客のいなくなった店内に突撃し、かつての「加工モンスター」がエプロン姿で媚を売る無様な姿を全世界に晒してやるまでだ。\n\n「作戦は完璧……奴が泣いて謝る姿を切り抜けば、この前のマイナスなんて一瞬で取り返せるぜぇ!」\n\n レオは自撮り棒を握り直し、スマホの画面に目を落とした。\n まだ目的地までは距離がある。\n 現場に着く直前に緊急生配信のボタンを押し、視聴者の期待感を煽るつもりだった。\n ――だが、スマホの画面を見た瞬間、レオの思考は凍りついた。\n\n「あ、あれっ!? なんだこれ……配信中になってる!?」\n\n 配信開始のアイコンをタップした覚えはない。\n だが、画面の右上には赤々と『LIVE』の文字が点灯し、接続数はすでに三万を超えて爆発的に増え続けている。\n そして、何より恐ろしいのは、画面に映し出されているのは、紛れもなく現在の歩きながらニヤけて独り言を吐いている、レオ自身の顔だということだ。\n\n『うわぁ、マジで粘着してるよ。キモすぎ!』\n『ただのストーカーで草。さっさと逮捕されろ』\n『最近のレオ、言い訳ばっかりで配信者としてもキレがなくなったよな』\n『登録解除しました。もう二度と見ません』\n\n「ど、どうして勝手に……!? やめろ、やめろよぉっ!!」\n\n レオはパニックになりながら、終了ボタンを連打した。\n だが、画面は全く反応しない。\n それどころか、スマホはレオの指を拒絶するように熱を帯び、勝手に次のフェーズへと移行していく。\n\n「あっ……これ、オレのアカウントが乗っ取られてるのか!?」\n\n ようやく事態を理解し、レオの背筋に氷のような冷気が走った。\n アカウントハッキング――だが、ただの乗っ取りではない。\n 何者かが完全に操作を奪い、レオを燃え上がるための材料として強制的にステージに立たせている。\n\n「おい、コラぁっ! これは違うぞ! アカウントが乗っ取られてるんだ!」\n\n 必死に画面に向かって釈明するが、視聴者はもはや耳を貸さない。\n 先日の強引な羽住結愛への突撃取材の失敗といい、醜態を晒し続けている現在といい、レオは視聴者たちを満足させる一流のエンターテイナーでは、すでになくなっていた。\n レオがこれまで散々、痛めつけてきた犠牲者たちと同じように、石を投げる標的、叩き潰して楽しむための生贄に過ぎないのである。\n\n「……これは!?」\n\n さらに、追い打ちをかけるように配信画面が切り替わった。\n レオの顔が消え、代わりに次々と意味深な文書や画像が、スライドショーのように表示され始める。\n それは、レオが裏のアカウントで送っていた女性への卑劣なセクハラDM。\n ヤラセ配信の打ち合わせメール。\n 捏造したスキャンダルの証拠。\n 極めつけは、脱税が疑われる数々の資料。\n どこから漏れたのか不明だが、それらが全て事実なのは、レオ自身が一番よく分かっていた。\n\n「ち、違う! これは捏造だ! セクハラとかヤラセとか、したことねぇから!」\n\n『まさかの自爆配信?』\n『笑えるっていうのと、笑いものにされるっていうのは違うんだよ、レオくん』\n『これは、さすがに運営に通報だわ。弁護の余地がねぇ……』\n『ただの犯罪者で草。次は裁判所で物申してろよ』\n\n「やめろ……やめろぉーーーっ!!」\n\n レオの悲痛な声が虚しく響き渡る。\n 視聴者のコメント欄は、怒りと嘲笑の弾幕で埋め尽くされていく。\n 彼らは、もう羽住結愛のことなど忘れていた。\n 目の前で、かつて獅子を自称した男が、自らの悪事という業火に焼かれ、無様にのたうち回る様を最高の見世物として消費し始めていたのだ。\n\n『運営に通報完了。さらばゴミ箱』\n『因果応報で草』\n『往生際が悪いよ、お前。見てて悲しくなってくるわ』\n『お前さ、物申す系じゃなくて、ただの迷惑系だろ。さっさと消えろ』\n\n ――そして、その瞬間は訪れた。\n 画面中央に、無機質な警告文が表示される。\n\n ――【利用規約違反により、このアカウントは永久停止(BAN)されました】\n\n スマホの画面が真っ暗になる。\n 成田レオという獅子を名乗った小バエ配信者の命は、一通の通知とともに、完全に絶たれたのだった。\n\n ◇◇◇◇◇\n\n 前代未聞の自爆配信から数日が経過した、成田レオの自宅兼スタジオ。\n 偉そうにふんぞり返っていた高級ソファーは、空き缶と吸い殻、そして吐瀉物の臭いが染み込み、ゴミ捨て場のようになっていた。\n\n「……おう、アンタか」\n「お邪魔します」\n\n 唯一の拠り所だった【ゲイズ】を永久追放されたレオの姿は、見るも無残なものであった。\n 焦点の合わない濁った眼球、頬はげっそりと痩せこけ、伸び放題のヒゲには白髪が混じっている。\n 栄光の象徴だった高価な配信機材も、今はただ、暗い部屋の隅で沈黙していた。\n\n「なんか土産でも持ってきたんか、あぁん?」\n「ええ、持参しました」\n\n 心音がテーブルに放り出したのは、数枚のゲラ刷りだった。\n そこには、レオがこれまで秘匿してきた、女性へのセクハラや強喝、ヤラセ、捏造、脱税などの疑惑の数々が並べられている。\n それを見て、ただでさえ青白かったレオの顔色が、ますます悪化していく。\n\n「この記事は、まもなく一般公開されます。終わりですね」\n\n 心音の言葉は、氷のように冷たく、重い。\n 以前、ヒーローインタビューをしに来たときとは、まるで雰囲気が違う。\n 憔悴しきった今のレオでも、その変化には、さすがに気がついたようだ。\n\n「テメェ……まさか、オレをハメたのか!?」\n\n レオは絶叫し、手近な酒瓶を壁に叩きつけて割ると、その鋭い先端を心音に突き出した。\n\n「ブッ殺してやる!」\n「おや、いけませんね。殺害予告も罪状に追加です」\n「ほざきやがって……うっ!?」\n\n レオの手が透明な何かに「パチンッ!」と叩かれ、酒瓶が床に落ちた。\n 突然のことに困惑し、レオは自分の震える手をじっと見つめている。\n それは、彼の背後にずっと潜んでいた、さとりちゃんの分身の仕業だった。\n 以前、レオを取材した際に植えつけられた、生きたスパイウェア。\n この分身が、レオのアカウントをハックし、心音が収集した情報を全世界に垂れ流したのだ。\n\n「なんだってんだ……チクショウ……!」\n「ミイラ取りがミイラになりましたね」\n「おい……オレは、これからどうすりゃいいんだ……?」\n「最初に言いましたよね? 終わりです。どうしようもありません。詰みです」\n「う、うあぁぁぁ……!」\n\n 心音の冷徹な言葉が、レオの心にトドメを刺した。\n レオはガクッと膝をつき、涙と鼻水を垂れ流しながら、床に這いつくばる。\n 圧縮された絶望はマグマのように煮えたぎり、噴火するときを待っている。\n ――食べ頃だ。\n\n「さとりちゃん、そろそろ食べていいですよ」\n「わぁーい♡」\n\n 心音の背中にずっと張りついていた、さとりちゃん(本体)の姿が消え、レオの背後に瞬間移動する。\n\n「アナタの絶望、頂きます……マズそうだけどね」\n\n 待機していた分身と重なってひとつになると、さとりちゃんは妖艶な笑みを浮かべながら、うずくまるレオの背中に小さな手を添えた。\n\n ――ジリリリリリ!\n\n 古風な電話の着信音が、不気味に響き渡る。\n レオの目から光が消え、彼の濃厚な絶望は心を巻き込んでガリガリ削りながら、さとりちゃんへと吸い取られていく。\n ――【絶望喰い】。\n SNSで「絶望を食べてほしい」と依頼をした者の所に、さとりちゃんが現れて、その絶望ごと獲物の心まで喰らい尽くし、廃人にしてしまう。\n 普段はSNSアカウントを通して分身を派遣しているが、依頼をされていない場合でも、こうして本体が直接、現場に出向くことで【絶望喰い】を行使することが可能だ。\n 羽住結愛の絶望を喰らうときは例外的に手加減をしたが、普段のさとりちゃんは情け容赦ない冷酷な妖怪。\n まして、レオのような外道を相手に手を抜く理由など、皆無であった。\n\n「ふぅー……ごちそうさま。クソマズかったけど、ドロドロ加減は過去最高だったよ」\n\n さとりちゃんは満足げに唇を舐めると、放心して置物のようになっているレオの抜け殻を「ゲシッ!」と蹴飛ばした。\n 床に転がり、白目を剥いて涎を垂らす廃人。\n これで、この男がさとりちゃんの親友に魔の手を伸ばし、その平穏を脅かすこともなくなっただろう。\n\n「お、おぉーっ! 魔力が満ちてきたぁーっ!」\n\n さとりちゃんの頬が可愛らしく紅潮し、その虹色の瞳もギラギラと輝き出す。\n そして、テレホンカード型の髪飾りに空いた大きな穴に向かって、ザラザラしたデジタルノイズのような光の粒が集まってきた。\n\n ――ガッ!!\n\n 光が収まると同時に、大きな衝撃音が鳴り響き、空いていた穴は瞬時に平坦な磁気面へと修復される。\n【絶望喰い】による魔力(度数)の回復が成功した証拠だ。\n さとりちゃんは、食欲、性欲、睡眠欲など欲求を満たすことでも魔力を回復できるが、その回復量は微々たるもの。\n こうして【絶望喰い】をしないと、いずれは魔力の消耗の速度が上回り、さとりちゃんは消滅してしまう。\n\n「さとりちゃん、度数はどうなりました?」\n「んみゅ……245だね。ここまで魔力が満ちてるのは久しぶりー♡」\n「よかった、しばらくは余裕がありそうです」\n「うんっ♡」\n\n 倒れているレオの背中を踏みつけ、さとりちゃんは嬉しそうに心音の腰に抱きついてきた。\n 自分の胸下くらいまでしか身長のない少女の背中に腕を回し、心音は優しく抱きしめる。\n\n「さて、用は済みましたね。帰りましょうか」\n「えへへー♡ 帰ったら、悶絶大サービスだよ♡」\n「それは楽しみです」\n「しおんちゃん、だっこー♡」\n「よしよし」\n\n 甘えてくる少女の小さな身体を抱き上げ、レオの抜け殻に背を向ける。\n それは獅子でもハイエナでも、小バエでもない。\n 心音たちからすれば、もはや使い道のない、用済みのゴミであった。", "afterword": "ここまでお読みいただき、ありがとうございます。\nよろしければ☆☆☆☆☆ 評価・ブックマーク・リアクション等で応援していただけると幸いです!"}

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