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{"novel_id": "n0002ly", "chapter": 3, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0002ly/3/", "title": "プロローグ③『捕食失敗、からの強制密着』", "content": "「キミ、僕のことを知っているのですか?」\n\n 背後に現れた、明らかに人間ではないモノに、心音は淡々と問いただした。\n 背すじを凍らせるような不気味さを纏った、人間離れした美少女。\n 金髪のツーサイドアップに、虹色に妖しく光る瞳。\n ダボダボのパーカーから覗く肌は、血の気を感じさせないほどに白い。\n 髪を留めている髪飾りは、古めかしい度数表示のある大きなテレホンカードのデザインだ。\n 気になったのは、非の打ち所がない美少女なのに、目の下にくっきりと不健康そうなクマが刻まれているところ。\n 常に疲れきった、寝不足気味に見える心音の目に、そこだけ少し雰囲気が似ていた。\n\n「アハッ! もちろん知ってるよ。いつも、私においしい餌を用意してくれる、素敵なお兄さんだ」\n「餌……とは?」\n「人間の絶望した心だよ。私は人間の絶望を食べて生きてるの。もっとも、絶望だけを器用には食べれないから、心もガリガリ削られて廃人になっちゃうけどねー」\n「なるほど……」\n\n 目の前に立っている小柄な少女がSNSの闇に潜む、噂のさとりちゃん本人だと心音は確信した。\n 彼女の言っていることは、心音の暴露記事によって人生が破壊され、廃人のようになって警察に連行されたという元銀行員の猪瀬のケースと完全に合致している。\n だが、そうと決めつける前に、一応、確認は必要だろう。\n\n「キミがさとりちゃんで間違いありませんか? つい先日、元銀行員の猪瀬忠次という男性の心を食べてしまったのですか?」\n「おっ、記者らしくインタビュー? 今から私に喰われて、心が空っぽの抜け殻になっちゃうのに、仕事熱心だねー」\n\n 少女――さとりちゃんが不敵に微笑むのを眺めつつ、心音はジリジリと距離を詰めようとしていた。\n 心音は身長175センチで格闘技経験もある。\n 一方、さとりちゃんは妖怪とはいえ、身長140センチ前後の華奢な体躯だった。\n 取っ組み合いに持ち込めば、どうにか制圧できるかもしれない。\n\n(とりあえず、廃人になるのは楽しくなさそうなんで……抵抗ぐらいはしてみましょうか)\n\n さとりちゃんは、まさか人間に反撃されるとは予想していないのか、どう見ても油断している。\n その隙を見逃さず、心音は一気に間合いを詰めるべく、床を蹴った。\n\n「やーん! しおんちゃん、こわーい!」\n「……うっ!?」\n\n さとりちゃんの細い身体を拘束しようと伸ばした手が、スカッと空を切る。\n 回避された……というより、姿が瞬時に消えてしまったという感触。\n\n ――ジリリリリリ!\n\n 突如、耳元で古風な電話の着信音が鳴る。\n 同時に、背後にふわっと現れる気配。\n\n「これ、因果応報ってやつ? しおんちゃんの絶望、味見させてね」\n\n 心音の全身が金縛りにあったかのように、動かなくなる。\n そして、忍び寄ってきたさとりちゃんの小さな手が、背中に触れた。\n ――やられる。\n\n「アナタの絶望、頂きます……って、え゛っ!? ヴォぇっ!!」\n\n 背後で少女が激しく嘔吐し、床に崩れ落ちるような音がした。\n それと同時に、身体を縛っていた重みが消え、心音は素早く背後を振り返る。\n そこには、苦しそうに喉を押さえ、涙目で悶絶するさとりちゃんの姿があった。\n\n「 マッッッッッズ! なにこれ!? 腐った泥水?  砂? 魚の骨? しおんちゃんの心、カスみたいでなんの味も栄養もないんだけどっ!?」\n「はぁ……そう言われましても」\n「うぁぁー……ぐ、ぐるじいよぅー……!」\n\n さとりちゃんは喉を押さえながら、床を転がり回っている。\n 誤って、グロテスクな虫でも飲み込んでしまったかのような苦しみようだ。\n 心を喰われ、廃人にされるのは避けられたようだが、これはこれで心音としては気分が悪い。\n\n「さて、どう始末をつけましょうか……んっ?」\n\n とりあえず、苦しんでいるさとりちゃんの証拠写真でも撮ろうかとスマホカメラを構えたところで、心音は彼女に起こっている変化に気がつく。\n さとりちゃんの特徴的なカードの形をした髪飾りが淡く発光しており、しばらくすると「ガッ!」という、耳をつんざくような不快な磁気音が響いた。\n\n「う、嘘っ!? せっかく塞がった穴が……私の大事な魔力が……!」\n\n さとりちゃんの慌てようは、尋常ではなかった。\n 心音は冷徹な記者らしく、今、目の前で起こっている現象を心の中で整理する。\n\n(さとりちゃんは、僕の絶望……心を食べようとして失敗した。そして、彼女のカードの髪飾りに穴が空き、大事な魔力が失われた)\n\n つまり、今のさとりちゃんはピンチということ。\n 一方的に捕食されそうだった心音に、逆転のチャンスが訪れている。\n\n「とりあえず、紐かなにかで縛っておきましょうか」\n\n そう思い、心音が苦しんでいるさとりちゃんに背を向け、その場から離れようとした瞬間――。\n\n「……ぐぇっ!?」\n「うっ……うぎゃあーっ!!」\n\n 心音とさとりちゃん――ふたりの間に、目に見えない鎖が爆ぜるような衝撃が走った。\n\n「な、なんですか、これは……く、苦しい……!」\n「痛い痛い痛い痛い痛いっ! ヤ、ヤバっ! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅーっ!!」\n\n 心臓を素手で握り潰されるような激痛。\n たまらず心音は胸を押さえ、その場にうずくまった。\n 一方、さとりちゃんも全身の輪郭がデジタルノイズのように乱れ、その愛らしい顔を苦痛に歪めている。\n\n「こ、これは、キミの仕業ですか!?」\n「わかんないっ! マジ無理、死ぬ死ぬっ! あ゛ぁ゛ーっ! やめてやめてやめてぇーっ!!」\n「いい加減に……しなさいっ!」\n\n 忍耐力には自信のある心音でも、この激痛にはとても耐えられない。\n 力を振り絞り、元凶と思われるさとりちゃんに近づき、問い詰めようとした。\n ――その瞬間。\n\n「……あれっ?」\n「うっ……はぁはぁ……お、収まった?」\n\n 心音がさとりちゃんに近づいた途端、先ほどまでの苦痛が嘘のように消えた。\n さとりちゃんもホッとしたように胸を押さえている。\n その様子を見るに、この耐え難い苦痛の原因は、さとりちゃん自身にも分からないらしい。\n\n「キミ、これはどういうことですか? なにか心当たりは?」\n「多分……だけど、私がしおんちゃんの捕食に失敗したせいだよ」\n「捕食に失敗すると、どうなるんですか?」\n「ん……私も初めてだから、よく分かんない。でも……」\n\n さとりちゃんはふらふらと立ち上がり、心音から距離を取るように後退りをした。\n すると――。\n\n「……うっ!?」\n「んぎゃあーっ!!」\n\n 距離にして、約2メートル。\n それ以上、ふたりが離れようとすると、お互いに信じられないほどの激痛が走る。\n しかも、さとりちゃんのカード型の髪飾りが再び発光したかと思うと「ガッ!」と耳障りな音がして、またもや大きな穴が空いた。\n\n「やっぱり……私、しおんちゃんに憑依しちゃったんだ」\n「憑依?」\n「うん。私が捕食する瞬間、相手に憑依しなくちゃいけないの。だから、捕食に失敗して、憑依したっていう結果だけが残っちゃったんだ……きっと」\n「そうですか。だから、僕たちは離れたくても離れられない状態になってしまったと」\n「ヤ、ヤバい……このままだと、私は消えちゃう! どうしようどうしようどうしよう!?」\n「落ち着きなさい、さとりちゃん」\n\n 先ほどまでの不遜な態度が嘘のように弱気になり、小さな身体をブルブル震わせているさとりちゃんの横に、心音は屈み込んだ。\n\n「いろいろと納得できない点はありますが、ひとまず、生き残るために状況整理をしましょう」\n「う、うん……」\n「まず、僕とさとりちゃんは、おそらく2メートル以上、離れようとすると激痛が走ります」\n「そうみたい……だね」\n「そして、その影響でさとりちゃんの魔力が削られる。その髪飾りに穴が空くほど、魔力が減るってことでしょう?」\n「その通りだよ。しかも、さっき捕食に失敗したせいで、かなり減っちゃってる」\n「魔力が尽きたら、さとりちゃんは存在が消えてしまう……合ってますか?」\n\n 心音の冷静な言葉に、さとりちゃんは冷や汗を浮かべながらも、ブンブンと首を縦に振った。\n\n「確認ですが、他に魔力が減るとしたら、どんな状況です?」\n「えっとぉ……基本的に、私が能力を使ったとき。相手の心を読んだり、自分の分身を作って操作したり、捕食――【絶望喰い】の力を使うときとか……」\n「他には?」\n「実は、私自身の存在を維持するだけでも魔力は減っていくの。だから、私はSNSを使って獲物を探して、空腹を満たさないと生きていけないんだよ」\n「なるほど。正直に話していただいて、ありがとうございます」\n\n さとりちゃんの説明を聞いて、心音は勝利を確信した。\n 彼女は能力を使うとき以外に、存在を維持するだけでも魔力を減らしていく。\n まるで、人間が長期間、何も食べなかったら、いつかは餓死してしまうように。\n 要するに、このままさとりちゃんが餓死して消えるのを待てばよい。\n それで、心音の身体は自由を取り戻せるわけだ。\n\n「……しおんちゃん?」\n「なんです?」\n「今、ものすっごい不穏なこと、考えてたでしょ?」\n「心を読んだんですか?」\n「あ、あのぅ……できれば、私を見捨てないでほしいんだけども……ダメ?」\n「ダメと言ったら?」\n「マジ? 信じらんない! こんな可愛い女の子が目の前で苦しんでるのに!」\n「でも妖怪でしょ? しかも、さっき僕のことを廃人にしようとした」\n「し、しおんちゃん、お願いっ!」\n\n さとりちゃんは縋るような目で心音を見上げ、ひしっと腕に抱きついてきた。\n\n「私のこと、助けてくれたら、絶対に役に立つよ! しおんちゃんのお仕事、手伝ってあげる!」\n「ほう?」\n「あ、あとさ……私の魔力を回復させる方法が、捕食以外にも、あるんだけど……」\n「ほうほう?」\n「【絶望喰い】に比べたら、微々たる回復量なんだけどさ……」\n\n その白い頬を少し恥ずかしそうに紅潮させ、さとりちゃんは言葉を続けた。\n\n「憑依した相手とね、そのぉ……エッチなことを、しちゃうの」", "afterword": "ここまでお読みいただき、ありがとうございます。\nよろしければ☆☆☆☆☆ 評価・ブックマーク・リアクション等で応援していただけると幸いです!"}

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