| {"novel_id": "n0002ly", "chapter": 30, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0002ly/30/", "title": "阿久津牙編③『陽だまりの背徳、家畜の叛逆』", "content": " 昼下がりの陽光が、都市部の片隅にある市民公園を静かに照らし出していた。\n 神無月心音は、錆びついたベンチに腰を下ろし、重いため息とともに空を見上げた。\n\n「はふぅ……」\n\n つい先ほどまで、ある中堅企業の横領疑惑を追って取材に奔走していたが、結果は惨敗。\n ガードマンに腕をつかまれ、ゴミのように社外へ放り出された後だ。\n\n「しおんちゃんでも、取材に失敗すること、あるんだねー! マジウケるー!」\n\n すぐ隣で、冷えたメロンソーダをグビグビと音を立てて飲んでいる金髪の少女――さとりちゃんが、虹色の瞳を細めて笑った。\n\n「しおんちゃん、落ち込んでるのー?」\n「いえ、慣れてます。こんなことは、この業界では日常茶飯事ですからね」\n「んふふ♡ 私が慰めてあげよっか?」\n\n 心音の腕にがしっと抱きつき、さとりちゃんは小柄な体格に見合わない豊満な乳房をむにゅっと押しつけてくる。\n 彼女なりに心音を励まそうとしているのは理解できたが、そもそも、心音の枯れ果てた心は、他人から罵倒された程度で揺れ動くものではない。\n\n「大丈夫ですよ。心配しないでください」\n「そーお?」\n「ええ、ありがとうございます。さとりちゃん、大好きですよ」\n「くぁーっ♡ 私も大好きだよっ♡ 好き好き好きっ♡」\n「よしよし」\n\n さとりちゃんの頭を優しく撫でながら、心音はふと、視線を公園の中央へと移した。\n そこでは、近所の小学生たちが元気にボールを蹴って遊んでいる。\n\n「んっ? しおんちゃん、どしたのー?」\n「ほら、あそこで小学生たちが遊んでいるでしょう?」\n「うん?」\n「あの中に、さとりちゃんが混じっても、まったく違和感がなさそうだな、と思いまして」\n「えーっ!? なにそれっ! 私が小学生に見えるってことーっ!?」\n\n さとりちゃんは、頬をぷくっと膨らませ、心音を不機嫌そうに見上げてくる。\n 実際、身長140センチ前後の彼女は、最近の小学校高学年の女子よりも小柄だろう。\n\n「せめて中学生でしょっ! 私、こう見えても大人なんだもーん!」\n「そうですか?」\n「そうだよぉーっ!」\n\n 腕を引っ張り、子犬のようにキャンキャンと吠えてくるさとりちゃん。\n 本人は抗議しているが、心音から見ると、さとりちゃんは外見も言動も、全てがお子様にしか見えない。\n そして、そんな幼くて愛らしい少女のことが、心音は愛しくて愛しくて、たまらないのだった。\n\n「失礼しました。さとりちゃんが小学生なはずがないですよね」\n「ふふーん♡ やっと分かったー?」\n「ええ、小学生にしては、この部分が発達しすぎです」\n「わきゃっ♡」\n\n 心音はおもむろにさとりちゃんの小さな身体を抱き寄せ、膝の上にちょこんと乗せると、その魅惑的な胸の膨らみを両手で包み込んだ。\n 空手で鍛え上げた武骨な手で、少女自身の頭部と同等か、それ以上にサイズの大きい乳房を、思う存分に揉みしだいた。\n\n「やぁーんっ♡ 白昼堂々、なにしてんのーっ♡ しおんちゃんのドスケベーっ♡」\n「では、小学生だと認めますかー?」\n「やだぁーっ♡ 私、大人だもんっ♡」\n「じゃあ、もっと揉みます」\n「あぁーんっ♡ どうしてーっ♡」\n\n 好き放題に胸を揉みながら、白い首すじに舌を這わせると、さとりちゃんは「ビクビクッ♡」と身体を跳ねさせ、うっとりと熱い吐息を漏らした。\n\n「はぅー……あっ……しおんちゃーん……♡」\n「気持ち良くなってきました?」\n「うん……♡ しおんちゃんのおっきな手で可愛がってもらうの、大好き……♡」\n「ああ……可愛い……!」\n\n 心音とさとりちゃんは、呪いによって半径2メートル以上、物理的に離れると死んでしまう。\n だから、こうして開放的な空間にいたとしても、ふたりにとっては世界から隔絶された密室の中にいるようなものだ。\n お互いに深く愛し合っていなければ……いや、仮に深く愛し合っていたとしても、普通の人間なら長期間、この状態では、とても精神がもたないだろう。\n だが、心音とさとりちゃんは呪いによって強制的に結ばれたにもかかわらず、魂が溶け合うほどドロドロに――もはや精神も肉体も共依存するようなレベルで、深く深く愛し合っているのだった。\n\n「さとりちゃん、もう我慢できません。今すぐ脱いでください」\n「ひゃあーっ♡ ちょっと、いくらみんなから見えないからって、ここで服を脱がすのは……♡」\n\n 心音が、さとりちゃんの着ているダボダボのパーカーをつかんで、無理やり脱がせようとしていると――。\n\n「ぎゃあーっ!?」\n「ゾンビが出たぁーっ!!」\n\n ボール遊びをしていた小学生たちが、突然、公園中に響き渡るほどの悲鳴を上げた。\n 明らかに、ただごとではない。\n\n「なんでしょう?」\n「あっ! しおんちゃん、あれっ!」\n\n さとりちゃんが指さした方向に、平和そのものだった公園にふさわしくない、異様な光景が広がっていた。\n\n「あれは……」\n\n 公園の入り口から、ふらふらとした足取りで歩いてくる一人の男。\n ボロボロに引き裂かれたビジネススーツ。\n どす黒い鮮血に染まったシャツ。\n 顔面は泥と血に汚れ、白目を剥きながら徘徊するその姿は、白昼夢に現れた亡霊そのものだった。\n\n「こっち来るよーっ!」\n「逃げろぉーっ!!」\n\n 蜘蛛の子を散らすように逃げていく小学生たち。\n 彼らに怪我人を救助しろというのは酷だろう。\n\n「あらら……これは大変ですね」\n\n 心音は他人事のようにつぶやき、さとりちゃんをひょいっと背負い上げると、男の方へ駆け寄った。\n 男はとうとう力尽き、砂場に足を取られて、前のめりに倒れ込んだ。\n ズサァッ、と男の身体が乾いた砂を舞い上げる。\n\n「とりあえず救急車ですかね」\n「わおっ! この人、むっちゃ濃厚な絶望を感じる……ねぇ、食べていい?」\n「さとりちゃん、待て、ですよ。食べる前に、事情ぐらいは聞いておきましょう」\n「わんわんっ♡」\n\n 無表情で淡々とスマホを取り出す心音。\n その背中で、犬の真似をしながら可愛らしく吠えるさとりちゃん。\n ふたりとも、目の前で死にかけているかもしれない男のことなど、本気で心配はしていない。\n 相変わらず、心音の枯れ果てた心は、愛する少女と関係のないことに関しては、ほとんど感情を揺さぶられることはないのだった。\n\n「待って……くれ……!」\n\n 砂場に倒れた男が手を伸ばし、縋るように心音の足首をつかんできた。\n\n「俺の話を……聞いてほしい。ある、男を……告発したいんだ……!」\n「告発……ですか?」\n\n 無関心だった心音の目に、鋭い記者の光が宿る。\n ちょうど、今日は取材に失敗したばかり。\n そんな心音のもとに、ネタの方から、こちらに転がり込んできたのかもしれなかった。\n\n ◇◇◇◇◇\n\n ――時間は、昨夜まで遡る。\n\n(どうして、こんなことになったんだ……?)\n\n 松前康平は、後頭部を金槌で叩かれたような鈍い痛みとともに、意識を取り戻した。\n 視界に入ってきたのは、カビ臭い湿り気を帯びたコンクリートの壁。\n 窓一つない、無機質で冷たい立方体の空間だった。\n 手首と足首には、肉に食い込むほどきつくロープが巻かれ、自由を完全に奪われている。\n\n(そうか……あのとき……)\n\n 記憶の断片が、徐々に浮き上がってくる。\n\n あの時――阿久津の社長室で、決定的な証拠となる録音アプリを起動させようとした、その瞬間だった。\n\n『おっと……虫が止まっているぞ?』\n\n 阿久津が、まるで羽虫を払うような無造作な動作で、松前の手からスマートフォンを奪い取った。\n 直後、「バキリッ!」という、電子機器が壊れる音とは思えない凄まじい破壊音が室内に響いた。\n ゴリラのような怪力で、阿久津が松前のスマホを、容易く真っ二つに割ってしまったのだ。\n\n『き、貴様……!』\n『失礼。虫は、お前だったな』\n\n 激昂して、阿久津につかみかかろうとした松前の視界に、巨大な岩石のような拳が迫った。\n そこで、意識は断絶している。\n\n「俺は……奴に……」\n\n 松前は乾いた唇を噛み締め、周囲を見渡した。\n 部屋の隅には、使い古されたベッドと、用途の分からない金属製の器具が並んでいる。\n 拷問部屋、としか思えない。\n これから、自分は拷問にかけられ、破壊されてしまうのか。\n そんなことを松前が漠然と考えていると、鉄の扉が重々しく開き、阿久津牙が姿を現した。\n\n「待たせたな、松前マネージャー」\n「……ひっ!?」\n\n 阿久津の傍らには、鎖に繋がれ、裸同然の下着姿で床を這わされている白鳥メルの姿があった。\n メルは松前の無惨な姿を認めると、喉の奥からひきつけのような悲鳴を漏らし、驚愕に顔を歪めた。\n\n「お前に面白いショーを見せてやる」\n「や、やめてくださいっ! お願いです、ご主人様……!」\n\n メルは阿久津の足首に縋りつき、泣きながら懇願した。\n\n「この人の前だけは……松前さんの前だけは、見られたくないんです……!」\n「なんだ? 家畜の分際で意見する気か?」\n\n 阿久津は冷酷な笑みを浮かべ、メルの細い首すじをつかむと、力任せにベッドの上へと放り投げた。\n 松前の目の前で、抵抗する術のないメルへの蹂躙が始まる。\n\n「あっ……や、やめ……いや……ぁ……!」\n\n 185センチの巨体でメルに覆い被さり、彼女の柔らかな肌を、隅から隅まで汚し尽くすかのように手を這わせる。\n 松前のスマホを小枝のように簡単にへし折った怪力で、華奢なメルの全身の肉を抉るように揉み込み、歪ませていく。\n\n「やめろ……やめろおおおお! メルを放せっ!!」\n\n 松前は芋虫のように床をのたうち回り、喉が裂けるほど絶叫した。\n だが、阿久津はその悲痛な叫びを楽しむように、さらに執拗に、メルの尊厳の奥深くまでその牙を突き立てた。\n 自身も裸になり、もはや声すら出せなくなっているメルを、押し潰すように荒々しく抱いた。\n\n「いいことを教えてやる、マネージャー。メルは、すでに俺のガキを孕んでいる」\n「――!?」\n「どちらにしろ、清楚なアイドルなんてもんは、時間の問題だったんだよ」\n\n 悪魔のような宣告に、松前の思考が停止した。\n それが真実か、自分を絶望させるための虚言か、判別ができない。\n ――だが、その言葉に誰よりも激しく反応したのは、メル自身だった。\n\n「う……うわあああああああ!!」\n\n 絶望が閾値を超えたのか。\n メルは信じられない力で阿久津を押し退けると、その鋭く伸びた親指の爪を、阿久津の右目に深々と突き立てた。\n\n「うっ……うおっ……!?」\n\n まさか、無力な家畜と蔑んでいた女から反撃を受けるとは、夢にも思っていなかったのだろう。\n 指の間から鮮血が噴き出し、阿久津は悶絶して顔を押さえた。\n\n「メル……今だっ!」\n\n 松前は、火のついたような焦燥感とともに立ち上がった。\n 阿久津がメルの反抗に気を取られている間に、部屋の隅に転がっていた拷問器具の鋭い金属部分で、足首のロープを切断していたのだ。\n\n「うおおっ!」\n\n そして、ベッドの上でうずくまる阿久津に向かって、全身の重みを乗せたタックルをぶちかました。\n 阿久津はベッドから転げ落ち、メルは自由の身となる。\n\n「逃げろ、メル! 俺のことはいい!」\n「松前……さん……!」\n「外へ逃げろ……逃げろおおおーーーっ!!」\n\n メルは涙に濡れた顔で一瞬だけ松前を振り返ると、開いたままの扉を抜け、闇の中へと走り去っていった。\n 残されたのは、右目から血を流し、悪鬼のような形相で立ち上がる阿久津だった。\n\n「ゴミどもが! この俺様に、傷をつけやがったな?」\n\n ――その後の記憶は、文字通りの地獄だった。\n 怒り狂った阿久津と、駆けつけた部下たちによる一方的な暴行。\n 気がつくと、松前は冷たい雨が降る、深夜のゴミ捨て場に転がされていた。\n 肋骨は数本折れ、内臓が焼けるように熱い。\n スマホは破壊されてしまったため、メルとも連絡が取れない。\n 彼女が無事なのかどうかさえ、今の松前には分からない。\n\n「メル……」\n\n 泥と血にまみれた指を、夜空に浮かぶ高層ビルの光へと伸ばす。\n 命以外は、何もかも奪われた。\n だが、その心の奥底には、決して消えない復讐の炎が、昏く、強く、灯っていた。\n\n「阿久津牙……このまま生かしては、おかんぞ……!」", "afterword": "ここまでお読みいただき、ありがとうございます。\nよろしければ☆☆☆☆☆ 評価・ブックマーク・リアクション等で応援していただけると幸いです!"} |
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