Krixter/Repo / n0005cn /131.json
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{"novel_id": "n0005cn", "chapter": 131, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0005cn/131/", "title": "131 短剣術", "content": " 翌朝、すぐに出かける準備を整えます。\n これから私、ヨウ、それにエジアで大きな街へと向かいます。\n エジアは道案内として、そしてヨウは私と同じようなステータスで速く移動できるから。\n さすがに私とエジアだけではなにか起こったら危ないから、という皆さんの意見がありました。\n\n ここから南に向かって街道へ、そこから西に行くと大きな街があるそうです。\n\n「ユウカちゃん、出る前に転移水晶を設置していったほうがいいんじゃないかな」\n\n「えっと、でもそれは……」\n\n「アテルダムに行くってわけじゃなくて、ユウカちゃんたちが向こうから戻ってくるのに使ったら時間短縮になるんじゃないかってね」\n\n そう言われたら確かにそうでした。\n 急ぎではないとはいえ、わざわざ時間を掛ける必要はありませんからね。\n\n 中央にある拠点水晶に並べるように転移水晶を設置します。\n これで万が一があってもすぐに戻ってこられます。\n 今まで使う機会のなかったこの『転移のイヤリング』も使えるでしょう。\n むしろ普段の狩りから使えるので、この場に残る夕凪さんたちにこそ役に立つのかもしれません。\n\n「おや、ユウカはもう行くんだね」\n\n 水晶を設置したところでマトヴィさん。\n 彼女は今週はここで過ごし、来週から街に向かうのだそうです。\n\n「ええ、やっぱり急ぎたいですからね」\n\n「そうかい。ついでにひとつアドバイスでも聞いていかないか」\n\n「アドバイスですか?」\n\n「ああ。ここに拠点を作るってことは、この周辺で狩りをすることもあるだろう。多分だけど、この先の街にならセイレーンの歌に対抗するアクセサリーなんかが売ってあるんじゃないかと思ってね」\n\n なるほど、いやらしいですが苦労した後に対策案があると売れる、ということですね。\n これより前の街に売ってないのは当然としても、確かにこの先にはあるのかもしれません。\n それ以外にも余裕があったら色んなアクセサリーを買ったほうがいいかもしれません。\n\n「わかりました。それでは行ってきますので、皆さんをよろしくお願いしますね」\n\n「任されたよ。ユウカちゃんも気をつけてね」\n\n「運がよければ向こうで会おうね」\n\n さて、それでは出掛けましょう。\n エジアを背負って、ヨウと一緒に駆け出します。\n\n\n------\n\n\n 南へ1時間ほど向かうと、どこか見知った街道へと辿り着きました。\n 以前に嵐の森を抜けてすぐの街道、あそこをずっと進むとここへ辿り着いたのでしょう。\n\n「エジア、この道で合ってますか?」\n\n「大丈夫なの。あとはここをまっすぐ進むと辿り着くの」\n\n エジアの指差す方向は西、更に西へと進みましょう。\n\n「ユウカさん。代わります」\n\n「あら、そうですか? エジアもそれでいいですか?」\n\n「おねえちゃんのほうがいいけど分かったの」\n\n ヨウの配慮によってエジアの背負う役を代わります。\n 別に疲れてはいないのですけれどね。\n\n 街道を西へ西へと駆けていきます。\n そういえば、全力で走り続けるというのは初めてでした。\n 周囲の風景は目にも留まらぬほどで、形が確認できる前にはるか後方へと流れていきます。\n こんな速度で走れるのが不思議でなりませんでした。\n\n それからも、エジアを交代で背負いながら順調に西へ、と思ったのですけれど……。\n\n「おねえちゃん、大丈夫なの?」\n\n「ユウカさん、大丈夫ですか?」\n\n「はあっ、はあっ……」\n\n 街道に出てすぐでした。\n 私は急激に、身動きがとれないほどに疲れきってしまいました。\n\n「ちょ、ちょっと休めば、大丈夫ですから……」\n\n どうしてこれほど、しかもいきなり疲れたのでしょう。\n 本当に突然でした。\n 何も疲労を感じずに走っていたはずなのに、突然動けなくなって転んでしまったのです。\n それも顔から。\n\n おかげでHPがちょっとだけ減ってしまいました。\n ……こんなのでもダメージになるのですね。\n\n 街道の外れで呼吸を整えます。\n\n さて、考えなければなりません。\n いえ、わかっています。\n 疲れたということは、体力がないということで、つまりはステータスが足りていないということでしょう。\n 幸いにしてポイントは十分に余っています。\n ステータスを開いてぱぱっと振り分けたのでした。\n\n────────────────────\nSTR:340\nVIT:320 (↑200)\nAGI:975\nDEX:745\nINT:350\nポイント:300 (↓200)\n────────────────────\n\n VITが増えたことで、劇的な変化がありました。\n 一瞬で呼吸が整ってくれたのです。\n これなら大丈夫そうですね。\n\n「2人とも迷惑をかけましたね。もう大丈夫なので向かいましょう」\n\n 時間を無駄にはできません。\n 休憩はもうおしまい、再び街道を駆け始めます。\n\n\n その後の道程は順調でした。\n ただ道なりに走ればいいだけですし、すれ違う人は全くいません。\n 何も気にせずに駆け続けることができました。\n\n「エジア、疲れたりしませんか?」\n\n「大丈夫なの。ヨウの背中も快適なの」\n\n その答えはどうなのでしょうか。\n ヨウは気にしていないようですけれど。\n\n「そろそろお昼の時間ですね」\n\n あれ以降疲れることもなく、お昼の時間がやってきます。\n 順調なのは間違いありませんが、到着予定は明日です。\n まだまだ先は長いですね。\n\n 道外れで食事の用意を始めます。\n とは言ってもいつもの簡単な料理ですけれど。\n ああそうです、立派なキッチンもほしいですね。\n\n「おねえちゃんのご飯は美味しいから好きなの」\n\n エジアは嬉しいことを言ってくれます。\n 反してヨウは中々喋ってくれないのですが、じっと見つめていると口を開けてくれます。\n\n「……私も好きです」\n\n うふふ、それだけだとご飯のことじゃないみたい。\n 勘違いして襲ってしまいそう。\n でもいけません、さすがにこんな場所では無理でしょう。\n\n 食事の後も移動を続けます。\n 今度は私がエジアを背負い、先頭はヨウが走ります。\n\n しかしこんなに長い距離、エジアはどうやって移動してきたのでしょうか。\n まさかずっと歩いたのでしょうか。\n 定期的に食事を取らなきゃ動けなくなってしまうNPCです、おそらく集団での移動だったとは思うのですけれど。\n\n ああ、だから誰ともすれ違わないのかもしれませんね。\n 集団で移動する必要がありますから、それこそ週に1回とか、月に1回に集まって移動しているのかもしれませんね。\n ……以前に商人とすれ違ったこともありますけれど。\n\n「ユウカさん。何かあります」\n\n なんて考え事をしていると、ヨウが何かを見つけたようです。\n\n「あれは……」\n\n なぜか街道を塞ぐように、大きな岩がありました。\n もちろん周囲は林なので、どこからもこんな岩は転がってこないはずです。\n 見覚えがあります。\n\n まだ近づいていないので見えてきませんが、間違いなく中には人が入っているのでしょう。\n それも、危ない人達が。\n\n でも気になるのは、私たちに先行してPKがやってくるのか、という疑問です。\n しかもこんなところに陣取っても、殆ど人は通らないと思うのです。\n\n「……あ、思い出したの。ここは昔から野盗が多くて、大勢じゃなきゃ通っちゃダメだって言われてたの」\n\n エジアが大切なことを思い出してくれました。\n さて、野盗ですか。\n 昔から出ていたということは、目の前に隠れている彼らはNPCのPK集団ということなのでしょうか。\n まぁ、どちらにしろそのような面倒な相手とは何もしたくありません。\n\n「ここから林に入って迂回しましょう。相手が何人か分かりませんから、見つからないように行きますよ」\n\n 相手が何人かは分かりませんが、少なくとも1人2人ではないでしょう。\n 戦っても勝てるのか分かりません。\n ここは避けるのが最善でした。\n\n 街道の岩へと近づかないように、出来る限り見つからないように離れて迂回します。\n 追われないように一旦離れてから林の中へ入り、そこからはゆっくりと進んでいきます。\n\n それにしても、NPCのPK集団ですか。\n 今まで考えもしませんでしたが、もしかしてNPCだけのクランとかもあるのでしょうか。\n ……あるのかもしれません。\n 今度探してみてもいいかもしれませんね。\n\n(……足音を立ててはいけませんよ)\n\n エジアを背負うのは一旦やめて、3人で周囲を警戒しながらゆっくりと歩きます。\n 周囲は草が茂っていて、ちょっとでも気を抜くとすぐに音がしてしまいます。\n 私は眼と耳を駆使し、ひたすらに周りに気を張りながら歩きます。\n エジアだけはそのようなスキルがないため、ただ足跡を立てないことに集中してもらいます。\n\n(おねえちゃん、おねえちゃん)\n\n 静かに歩いているとエジアから声がかかります。\n なにか見つけたのでしょうか。\n\n(どうしましたか?)\n\n(こういうのも楽しいの)\n\n がっくりです。\n まあエジアはまだ小さいですからね。\n 危険なことをしているという気持ちもないのでしょう。\n\n その後もしばらく林の中を進みます。\n 恐らくもう岩のあたりは過ぎたことでしょう。\n まったく、思ったよりも時間を食ってしまったものです。\n\n\n そろそろ街道に戻ろうとした時です。\n ガサリ、私達以外の物音を捕らえます。\n こっそりと様子をうかがうと、大きな人型の影を見つけました。\n\n その場に伏せて、さらに様子をうかがいます。\n 相手がこちらを見つけているのか、そしてどのような姿形なのか。\n NPCなのか、それともモンスターなのか。\n\n 少しだけ荒くなる呼吸を必死に抑えます。\n できるかぎり戦わず、急いで先へと進みたいのです。\n\n 木の向こうから身体が現れます。\n 思ったよりも大きく、そして太い身体です。\n 身長は……明らかに人よりも高いものでした。\n そして顔は……ブタ、でしょうか。\n\n それは人の形をしたブタでした。\n 非常に筋肉質で、明らかに力のありそうなモンスターです。\n 避けようとした盗賊でないのは一安心ですが、モンスターだからいいという話でもありません。\n\n 人型のブタは何やら鼻をヒクヒクさせています。\n ブタですし、イメージには合っています。\n どうやらこのまま、そう思ったのですが、視線を彷徨わせていたブタはいきなりこちらに焦点を当ててきたのでした。\n\n ──匂い!\n 最悪です、私達の居場所をずっと探っていたのでしょう。\n\n どうしましょう。\n 逃げるか、それとも戦うべきか。\n 逃げて、追いかけられて、逃げ切れるのでしょうか。\n 戦ったとして、倒せるのでしょうか。\n\n ブタはゆっくりとこちらに近づいてきます。\n まだ姿は見られていませんが、匂いで居場所はバレているようです。\n\n ──戦いましょう。\n もしもこいつが強いのなら、逃げてもどうせ追いつかれます。\n 弱いのなら逃げる必要もないのです。\n\n(私が正面から、ヨウは隙を突いてください。エジアは出来る限り隠れているのですよ)\n\n 小さな声で意思疎通。\n 有無を言わせずに命令します。\n\n 私だけ立ち上がり、ブタの前に姿を晒します。\n それで私の姿も確認できたのか、ブタがよだれを垂らしました。\n\n なんで醜いのでしょう。\n ゆっくりとヨウが動いていくのを確認してから、ブタ目掛けて駆け出しました。\n\n「ブアアアアアッ!」\n\n ブタもこちらへと駆け出します。\n 脚は思ったよりも速くないのですが、一歩一歩が重そうで、力はとても強そうです。\n\n ブタがそこらの木を拾って振り回します。\n 私は一瞬短刀を構えますが、あれでは短刀をぶつけたところで抑えられるものではありません。\n 避けるしかありませんでした。\n\n 目の前で丸太が風を起こします。\n これほどの大きな丸太です、振り終えた後なら隙があるかと思ったのですが、ブタは多少体勢を崩したままでも構わず丸太を振り続けます。\n これが力のあるモンスターなのでしょうか。\n 一人では避けることが精一杯で、攻撃する機会がつかめませんでした。\n\n ただ、私にはヨウがいます。\n 私は時間を稼げばいいだけ。\n ほんの一瞬、ブタの後ろに回ったヨウの姿が映りました。\n\n ブンブンと空を切る音が響き渡ります。\n あと少し、あと少し……。\n そしてヨウが音もなくブタの背後に回った時です。\n\n ブタは鼻がいいので、もしかしたら最初から気付いていたのでしょうか。\n 開いていたもう片方の手でも丸太を掴み、背後をも、いえ、背中を向けないように体を捻り、私のヨウの両側に向けて丸太を振り回したのでした。\n\n ああ、最悪です。\n これでは私もヨウも近づけません。\n ヨウも分かっているのか、丸太を避けるだけでその丸太に短刀を当てるようなことはしていません。\n\n どうしましょうか。\n この場から逃げますか?\n でも後ろから丸太を投げられたりしたら、避ける自信はありません。\n\n 無理をしてでも。\n そう、無理をしてでもこの丸太を壊す必要がありました。\n\n 縦横無尽に動く丸太に目を集中させます。\n その軌道に合わせるように両の短刀をぶつけます。\n ふっと浮かぶ私の身体。\n 丸太を切断なんて全くできなくて、私の身体は吹き飛ばされてしまいました。\n\n「くうっ」\n\n 身体をくるっと回して綺麗に着地。\n これもステータスの恩恵なのでしょう。\n あの丸太を壊せないのもステータスのせい。\n 私の活かすのは、やはりスピードみたいです。\n\n それではあの丸太の嵐をかいくぐって直接ブタを?\n まさか、できるわけがありません。\n 目では追えても、身体が追従してくれるとは限らないのです。\n\n 吹き飛ばされたからといってただ呆然としているわけにも行きません。\n ヨウに負担をかけるわけにもいかず、すぐにブタのすぐ傍まで戻って回避に専念します。\n\n なんとかしなくては。\n 回避し続けながら考えますが、何もいい案は浮かびません。\n\n 鼻先を丸太が勢い良くかすめていきます。\n このままブタが疲労して……そんなことは望めないでしょう。\n\n ピコンと無機質な音が響きます。\n タイミングを図りますが、どうも近寄れる気がしません。\n\n 一瞬だけウィンドウが表示された気がしました。\n そこに映っている文字は……。\n\n「首斬りっ!」\n\n 思わずその名を叫びました。\n その瞬間、私の身体は勝手に意思を持ったように動き始めます。\n 丸太の嵐に足を踏み入れ、小さな一歩で確実に避け、そのブタへと近寄っていったのです。\n\n 私が身体の自由を取り戻した時、ブタは私に後ろ姿を晒していて、私の両手は短刀を持ったままブタの首へと回されていたのでした。\n\n 驚く前にやることがあります。\n 私は両腕に力を込めて、その首を短刀で切断したのでした。\n\n\n ステータスを見て分かりました。\n 私の【短剣】スキルが、【短剣術】へと進化しています。\n そして先程の動き。\n 『首斬り』という技を使えるようになっていたのです。\n\n 夕凪さんから聞いたことを思い出します。\n 確か、戦闘中に同じ戦闘スタイルのNPCと信頼関係になるとスキルが進化するのだとか。\n そういえば以前に、戦闘中に信頼が増えていた気もします。\n あとはヨウと一緒に戦うだけで、スキルは進化する条件が整っていたのかもしれません。\n\n「『首斬り』、対象の背後に、首に短剣を当てた状態で回りこむ、ですか」\n\n そういえば、最後に首に刃を通すのは自分で行いました。\n どうせなら最後までやってくれたらよかったのに。\n いえ、その前に。\n\n「ヨウは、【短剣術】というのを知っていますか?」\n\n「……。つい先ほど、私も使えるようになりました」\n\n あら、そうなの?\n 返事はないかと思っていたのでちょっとびっくりです。\n\n しかしそうですか、どうやら私と同じタイミングで使えるようになったみたいです。\n それ自体はとてもありがたいことなのですが。\n\n「とても疲れました……」\n\n「おねえちゃん、とってもかっこよかったの」\n\n 私の疲労なんか無視して、さっきからエジアは私に抱きついています。\n それ自体はとても嬉しいのですが、もう動く気はしません。\n\n しかも今思い出したのですが、今日は週末のはずでした。\n つまりはログアウトの日、野宿は許されない日だったのです。\n\n「まずは、休める場所を探さなければなりませんね……」\n\n まだ夕方なのですが、これ以上移動する気はありません。\n いつか休んだスポットがあればいいのですけれど。\n\n「ユウカさん……」\n\n ヨウにくいっと袖を引かれます。\n 指差す方を見つめると、林の中なのにそこだけ刈り取られたような空間がありました。\n\n ああ、こんなすぐ傍にあったのだなんて。\n あんなブタと戦わずに逃げ込めばよかった。\n\n スポットまで歩いて地面に寝転びます。\n 短く切り揃えられた雑草はいい具合にクッションになってくれました。\n 私の上にエジアが倒れてきたので、思わずギュッと抱きしめます。\n\n「しばらく休むので、あとはお願いします……」\n\n ヨウも疲れているはずなのですが、私は誘惑に逆らえずに眠ってしまいました。", "afterword": "名前:ユウカ\n種族:人間Lv84 (↑2)\n職業:隠密Lv20 (↑2), 復讐者Lv45\nクラン:Crystal Vespa\n-\nHP:3900/4300 (↑100)\nMP:4200/4300 (↑100)\n-\nSTR:340\nVIT:320 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