| {"novel_id": "n0005cn", "chapter": 152, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0005cn/152/", "title": "152 幕間 海賊船の上で", "content": " マトヴィたちがダンジョンの入口へと戻った時、そこにはもう全員が揃っていた。\n 一度目の終着がアイテムだったため、思った以上に先行していたようだった。\n\n「皆さん揃ったようですね」\n\n マトヴィの帰りを待って、ユウカがボスについて語り始める。\n\n ボスの場所は一番上の部屋。\n 姿形は東洋の龍。\n 全長がわからないほどに大きい。\n その龍の姿がはっきりしたと同時、入り口から大量の水が流れ込んでくる。\n\n「……それで、私たちは水に巻き込まれて壁に叩きつけられ、全滅してしまいました。おそらくですが、【水泳】スキルと【潜水】スキルのレベルが高くないといけないのではないでしょうか」\n\n 思ったよりも情報は少なかった。\n 残念ながら、ボスの大きさもいまいち伝わらないし、どのような攻撃をしてくるのかは全くの不明だ。\n ただしユウカを責めるようなことはない。\n ボスの居場所を確認できた事自体が手柄だし、死ぬのは予め分かっていたからだ。\n\n「わかった。あとはゆっくり休んでてくれ」\n\n「私たちがボスにリベンジしてあげるよ」\n\n「あまり無理はしないでくださいね」\n\n ユウカを励ますように告げたマトヴィだったが、ユウカは思った以上に落ち込んではいない様子だった。\n\n\n そしてボスの部屋の前。\n 全員が少し緊張した表情を浮かべている。\n 【水泳】スキルと【潜水】スキルについては全員ができるかぎりポイントを振った。\n いろんなスキルに手を伸ばしすぎている場合を除き、基本的にはスキルポイントは余る場合が多いため、ここに集まった大抵のプレイヤーは【水泳】スキル、【潜水】スキル共にカンスト出来た人が多いようだった。\n\n「まずは散開だ。まとまって水に飲み込まれたほうが危険そうだからな。そのあとは各自なんとかして、流れ込んでくる水が溜まりきった時に一旦集合だ」\n\n「……洞窟を埋め尽くすぐらいに溜まったらどうするんだ?」\n\n「そうだな……水が流れ込み続ける時、水かさが増し続ける時、その時は各自の判断で自由に動いていい。足場が落ち着かなきゃ連携なんてできないだろしな。窒息までのタイムリミット付きなんてことにはならないと思うがね」\n\n 海漢がリーダーを、エストがサブリーダーを務めることになっている。\n 海漢は普段から集団戦を行っているし、エストもクランのリーダーを普段から務めているからだ。\n\n「あとは弱点なんかがわかるといいんだがな」\n\n「そりゃあアレだろ。龍と言えば逆鱗だ。あとはツノなんかも弱点だったりするよな」\n\n「逆鱗はダメだろ。あれは触れられたら怒る場所だろ?」\n\n「マジ?」\n\n 最初の行動を決める以外、特に話はまとまらなかった。\n そもそもが情報不足なのだ。\n とてつもなく大きい龍ということしか分かっておらず、その大きさもユウカの話よりも幾分か小さく見積もっていたりする。\n 結局話はまとまらず、とりあえず挑むということで落ち着いた。\n\n 先行するのは盗賊パーティーであるマトヴィ、紫桜、嵐丸の3名。\n もしもの場合は全力で逃げる役割だ。\n あとから入ってきた海漢とエストそれぞれのパーティーは少し離れた場所に位置する。\n マッドだけは自由行動だ。\n\n そうしてマトヴィたちが部屋の中央近くまで来た時、部屋全体に霧が立ち込める。\n それらはすぐにモンスターの、巨大な龍の形となった。\n\n「あ……デカイわ」\n\n 誰かの声が響いてくる。\n それも当然だ。\n 現れた龍はマトヴィのすぐ目の前で、顔を上に上げてもまだ見えなかったのだ。\n 離れていた位置にいたエストたちでやっとという大きさだったのだ。\n\n そして姿が見えると同時、大量の水が流れ込んできた。\n\n「おらっ! 必死になって泳げよっ!」\n\n 全員の身体が一瞬で水に飲み込まれた。\n 入り口の大きさからは考えられないぐらいに水に勢いがある。\n\n 水中の中でマトヴィは必死になって水をかき分けた。\n 装備品は身に付けたままだったが、スキルレベルを上げた今では行動の邪魔にはならない。\n それでも身体は思うようには移動せず、水の中をがむしゃらに暴れるだけで精一杯だった。\n\n そうしてなんとか泳ぎ続け、水面へと辿り着く。\n 同時に水の流れも落ち着いたのか、周りからも続々と水面にのぼってくる身体が見えた。\n どうやら死人はいなさそうだった。\n\n 目の前には大きな龍がいる。\n まだ動き出すような気配はない。\n ならばと今のうちに相談しようとした時だった。\n\n 龍の尻尾が大きく動き、水面を激しく叩くのだった。\n\n 尻尾によって発生した波がマトヴィたちにまるで壁となって襲ってくる。\n それを乗り越えても、次から次へと波は現れる。\n 龍はバシャバシャと水面を叩き続け、波が止まる気配はない。\n\n「これじゃ動けないっ!」\n\n マトヴィも紫桜も嵐丸も、ゆっくりと龍から離れる格好になった。\n 流されているのだ。\n そんな中、海漢たちはしっかりと泳いで龍へと近づいていっているのだった。\n\n\n「泳げ泳げっ! こんな波ぐらいで遅れるんじゃないぞ!」\n\n 海漢は必死になって声をあげる。\n ひとつ波を超えるたびに仲間たちはバラバラにされるが、それでも脱落するものはいないし、確実に龍へと近づいている。\n\n 龍は未だに水面を叩き続けている。\n それは海漢たちが近づいても、それこそ攻撃できるような位置まで近づいても変わらなかった。\n\n 尻尾には決して近づかず、龍の胴体部分への攻撃が始まった。\n 大体は胴体へと取り付いて武器を振り、一部は遠くから魔法を使っている。\n しかし……。\n\n「駄目だっ! ダメージが通んねえ!」\n\n「魔法も効かないぞ!」\n\n「硬すぎだろこいつ」\n\n 全員で龍に攻撃をした。\n しかし、ダメージは全くと言っていいほど受けていなかった。\n\n「マジかよ……」\n\n 龍は攻撃されていることに気付いていないかのように、ひたすら尻尾だけを水面に叩きつけている。\n しだいに取り付いていたプレイヤーも流されていく。\n このまま攻撃し続けてもダメージが通るようには見えなかったし、波は常に激しく、少しでも攻撃する気力を失ったものから波に囚われていった。\n\n 気付けば、全員が壁まで流されているのだった。\n\n\n「どうしたもんかね」\n\n マッドだけはまだ気力を失っていなかった。\n しかし手立てはなく、皆と一緒に壁際に集まっていた。\n\n「そもそも、あれって倒していいのか? お前らのクエストだろ? あいつが助けてくれるっていうのなら、倒すのはおかしいんじゃないか?」\n\n「……あいつが、つまりは海馬ってことか」\n\n「どちらにしろ倒せないんだけどな」\n\n「いや、言われるとたしかにその通りだ。だとすると、倒すのはまずいのか」\n\n「それは分かったけど、じゃあどうするんだい? 倒す以外にどうしろっていうんだい」\n\n マトヴィの言う通りだった。\n 今までのモンスターはボスも含め、ただ倒すだけのものだった。\n それ以外の手段なんてなかった。\n\n「……暴れてる理由があるんじゃないのか」\n\n「理由……?」\n\n「出会うだけならクエストとして簡単過ぎる。だから、あいつに協力してもらうためには何かが必要だ。その何かが、暴れてる理由にあるんじゃないのか」\n\n 皆が龍を眺める。\n 未だに暴れ、尻尾を水面へと叩きつけている。\n まるでそこに何かがあるように……。\n\n「──尻尾か」\n\n「かもしれない。あとは逆鱗か。そこに触れられると怒り狂うというのなら、そこに常に触れられてるから暴れ続けてるとも考えられる」\n\n「じゃあ俺達は、あいつに取り付けばいいんだな。取り付いて身体を調べ、そして何らかの原因を見つけること」\n\n「ああ、そりゃあいい。無意味な攻撃を続けるよりもよっぽどいいな」\n\n 各々が武器を構え始める\n 龍に取り付いてその身体を調べる。\n それは未だ暴れ続ける姿からも、とても大変なことに見えた。\n しかし唯一の光明でもあった。\n\n\n 全員が龍に取り付いた。\n その身体を駆け上っていく。\n 半分は龍の上半身へ、そして半分は下半身へ。\n\n 上半身へは、その水面から垂直に立っている身体を登るということで、身軽な人物が選ばれた。\n マトヴィたちもそちらだ。\n\n 下半身へは力のあるものが。\n 暴れる下半身に掴んで、飛ばされないようにするためだ。\n エストはこちらだった。\n\n 龍の身体は遠くから見る分には滑らかだが、さすがに近づくとウロコが目立つ。\n ゴツゴツとしてて、掴んで登る分にはなんとかできそうだ。\n\n マトヴィの目の前でまた一人脱落している。\n 上半身は暴れていないとはいえ、全く微動だにしないというわけではない。\n それにウロコがあっても垂直な壁を登っているようなものだ。\n 一人、また一人と足を踏み外し、ウロコを掴み損ね、水面へと脱落していった。\n\n エストの目の前でもまた一人、吹き飛ばされていく。\n 尻尾は激しく動き、ウロコを掴んでいるだけで精一杯だ。\n それに進む方向を間違えると、尻尾と水面のサンドイッチが待っている。\n ゆっくりと、そして確実に一歩一歩進んでいった。\n\n そして──。\n\n\n「あった」\n\n 龍の顔のすぐ下。\n 首辺り。\n そこにナイフが突き刺さっていた。\n\n ──間違いなくコレが原因ね。\n\n 周囲に残っているものはもう数人しかいない。\n その数人が龍の顔近くまで登れた全てだ。\n そしてマトヴィは、そのナイフをためらいなく引き抜いた。\n\n\n「こいつか」\n\n 何故尻尾を叩きつけるのか。\n それはつまり、なにか異物を取り除こうとしているのではないのか。\n それがエストの考えたことだった。\n\n 頻繁に尻尾を叩きつけている場所。\n そこに確かにナイフが刺さっていた。\n\n こうして見る限りだと、一度水面に叩きつけるだけで簡単に抜けそうなナイフだ。\n それが抜けてないということは、逆にそれがイベントだと言っているようなものだった。\n\n「これで静まってくれよ……!」\n\n 暴れる中、そのナイフをしっかりと掴んで引き抜いた。\n\n\n------\n\n\n『よく、我から異物を取り除いてくれた』\n\n 気付いたら水面は落ち着いている。\n 龍が暴れることはもうない。\n 集まったメンバーの半数以上は満身創痍だ。\n 龍の身体から脱落したメンバーは、死んでこそいないが勢い良く水面に叩きつけられたことでHPを減らしていた。\n\n 目の前の龍が喋っている。\n 龍の大きな顔が目の前にある。\n 厳かな声が全員へと響き渡る\n\n『何か礼を……ふむ。どうやら遠くの海で何やら暴れている者がいるようだな』\n\n 目の前の龍が不意に違うところを向いた。\n その方向は北。\n 海賊のことを示しているのは疑いようのないことだ。\n\n「人魚から、あなたに助けてもらえるように聞きました」\n\n『それが望みか。よろしい、それでは我の背中に乗るがいい』\n\n 水面に浮かぶ背に乗れと目の前の龍は言う。\n 海漢たちは互いに目を合わせる。\n\n 背に乗ること自体は問題ない。\n しかし乗るということは、そのまま海賊たちのところへ向かうということだろう。\n 龍が海賊を倒してくれるのならそれでもいい。\n しかし違ったら?\n 龍は海漢たちを海賊の場所へ運ぶだけ。\n 海漢たちが海賊と戦う羽目になったら?\n\n 半数以上は未だ回復できていない。\n 回復アイテムはあるが、それは時間を掛けて回復するものだ。\n 今しばらくの時間がほしかった。\n\n「おお、いい感じだな」\n\n その逡巡を気にせずに動く姿があった。\n マッドだ。\n マッドは龍の身体に登っても無傷なままで、元気なうちの一人だった。\n そして戦闘狂でもある。\n 戦いがあると知ったら、それはもう龍の背中だろうと躊躇わずに登るだろう。\n\n「くそっ。全員乗るぞっ!」\n\n マッドが龍の背に乗ってしまった。\n これではイベントが進んでしまう。\n ヘタしたらマッドだけで海賊のところへ進んでしまうだろう。\n それはいけない。\n 未だ半数が回復できていなくても、マッド一人よりはだいぶマシというものだった。\n\n 全員が龍の背に乗ると、その周囲が水の膜で覆われた。\n 龍は水中へと沈んでいくが、海漢たちが水の飲まれることはない。\n\n「綺麗……」\n\n 龍は水中の中を進んでいく。\n 洞窟を一瞬で抜け、今はおそらく海中を。\n\n 海底が勢い良く流れていく。\n 綺麗な景色は一瞬にして背後の彼方へ、すぐに新しい景色が現れてくる。\n それを龍の背中という特等席で眺めることができた。\n\n「これはすごいな。自力で泳いでもこうはいかないだろ」\n\n「速さが違うよ! さすがドラゴン!」\n\n みな一様にはしゃいでいた。\n 海漢たちは海底都市まで行ったことがあるからこの風景も知っているのだが、それでも速度が違うために新鮮に感じることが出来た。\n\n\n そしてすぐに海面へと上がる。\n 目の前には遠くから見た海賊船だ。\n 気付けば海漢たちは龍の身体の上から海賊船を見下ろしていた。\n\n その海賊はこちらを見上げている。\n みな呆然としているようだ。\n それもそうだ。\n いきなり巨体な龍が現れたのだ。\n いつ海賊船が壊されるのか気が気ではないだろう。\n\n『我の役目はここまでだ。あとは自力で何とかするがよい』\n\n 龍が大きな声で囁き、乗っていたマトヴィたちを放り出す。\n 全員が海賊船の甲板へと転がされた。\n それを海賊はただ見ているだけだ。\n\n マトヴィたちを下ろしたあとは、龍はすぐに海底へと沈んでいった。\n これ以上手助けはしてくれないようだった。\n\n「──くるぞっ!」\n\n 残ったのは甲板に放り出されたマトヴィたちと、それを取り囲む海賊たちだ。\n 戦闘が起こるのは当然だった。\n\n\n「あいつは俺がやるっ!」\n\n マッドが勢い良く飛び出していった際には、いかにも海賊という風体の男がいた。\n いかにもな海賊帽に、いかにもなコート、そしていかにもという感じに眼帯で固めを覆っている。\n 間違いなく、この海賊たちのボスであろう人物だった。\n\n「俺たちは周りから倒していくぞっ! どうせ殲滅させなきゃなんねえんだ! 無理はするなよ!」\n\n エストの掛け声でマトヴィたちもやっと武器を構える。\n 同時に迫ってくる海賊たち。\n 甲板はいっきに混戦へと様相を変えた。\n\n\n「ひゃはっ」\n\n マッドは一人突出していた。\n 実力もそうだが、それ以上に位置が飛び出ていた。\n 海賊の頭とマッドが対面している。\n しかしそれは一対一を意味しない。\n マッドは海賊の頭を含め、10名の海賊によって囲われていた。\n\n「つまんねぇクエストだと思ったが、どうして楽しいじゃねえか!」\n\n マッドは頭だけに攻撃していく。\n そいつが一番強いからだ。\n 他の雑魚には目もくれない。\n\n しかし10名に囲われているのだ。\n 無傷でやり過ごすということはとうてい無理な話だ。\n 片手間で雑魚を倒し、そして海賊の頭に攻撃して。\n その間にも反撃は受け続ける。\n\n「やるじゃねえかっ!」\n\n「ぬうっ! 俺様の剣技を捌くとはやるじゃねえか小僧っ!」\n\n マッドと海賊の頭の斬り合いは続いていく。\n\n\n その光景を全員が見ていた。\n 甲板の海賊たちの殆どは蹴散らした。\n 残るはマッドを取り囲んでいる数名だけだった。\n\n マッドと海賊の頭が激しく斬り合っている。\n このままいけばマッドが勝ちそうだった。\n そう思っていた瞬間、マッドを取り囲んでいた海賊たちが同時に動き出す。\n\n 全員が剣を突き立てるようにマッドへと突撃したのだ。\n その時、マッドは海賊の頭と鍔迫り合いをしていた。\n\n 動けないマッド。\n 何本もの剣がマッドの身体に突き刺さる。\n\n ──致命傷だ。\n\n 誰もがそう思った。\n 事実、マッドはその場へと倒れこんだ。\n 明らかに即死だった。\n\n ただし残りの海賊は10名もいない。\n これならば甲板に残ったマトヴィたちだけでも十分に全滅されられる数だった。\n そして、残りの海賊たちに突撃しようとした瞬間。\n その光景を全員が見た。\n\n\n 一瞬、天使が現れたかと思った。\n マッドが倒れたかと思ったら、マッドを照らすように光が指し、小さな身体の白い羽根を持ったペットが現れたのだ。\n 掲示板をよく見るエストは聞いたことがあった。\n 確かマッドは、意味不明な天使っぽいやつをペットにしていたと。\n\n そのペットが姿を現した。\n 効果は不明で、それどころか姿を見せることも稀だというペットが。\n\n『まだ殺していない\n また死んだ\n まだ倒していない\n また倒れた\n 力が足りない\n 命が足りない\n まだ敵は残っている\n 死が倒すことを邪魔してくる\n ならばその死を超越しよう\n これであなたも黄泉の住人\n ──ネザーライフ』\n\n 天使が悪魔のように囁いた。\n 倒れているマッドが立ち上がる。\n\n ──即死だったはずだ。\n\n それは眺めていた皆が思ったことだった。\n 残りのHPが幾つだったかなんて関係ない。\n 致命傷のはずだった。\n それなのに、マッドは立ち上がった。\n\n ──復活魔法。\n\n プレイヤーが覚えられない魔法。\n 誰もがそう思った。\n\n そしてマッドはまた暴れだす。\n 今度はもう倒されない。\n\n「死んどけ」\n\n そして全ての海賊は身体を散らせることになった。\n マッドの頭上に浮かんでいる天使の姿をしたペットがフンと鳴いた。"} |
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