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{"novel_id": "n0005ha", "chapter": 3, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0005ha/3/", "title": "リナリア", "content": "「こ、こんなに小さいものなのか…」\n\n そう言ってベルトールが神樹に近づこうとしたとき、ぐるるるるる~~~っと大きく腹が鳴った。\n 恥ずかしそうにベルトールがリナリアの方を向く。\n\n「…リナリア、その」\n\n「はい、何か食べましょうね」\n\n リナリアがくすくすと笑ってまた肩を貸し、ベルトールは彼女との密着を楽しむために、半分は本当に弱った体をいたわる為にゆっくりと歩いた。\n\n\n◇◆◇◆\n\n\n\n「はい、あ~んしてください♪」\n\n「い、いや…待ってくれないか、流石にそれは恥ずかしい」\n\n「だめですよ? ベルトールさんのお体、とても弱ってるんですから」\n\n「なんとこの年であ~んされるとは…」\n\n しかし相手は絶世の美少女なので、特にベルトールに不満は無い。\n さっきまでは運命尽きたと思っていたが、やはり俺は恵まれていると調子か良くなっていた。\n\n「年と言っても、ベルトールさんはお幾つなのですか?」\n\n「え? ああ、私は今年で30になるかな、いつまでも若いつもりだったが、最近体力の衰えを感じてね」\n\n そう言うと、リナリアは少し複雑そうな顔をする。\n それを見てからベルトールは、彼女が自分より年上の可能性があることに気が付いた。\n\n「私の年の頃は100より上を数えていますけどね、もちろんエルフなのも有りますが」\n\n「す、すまない女性に年齢の話など…」\n\n「あ、お気になさらずに、私から見てもベルトールさんは年を重ねた大人に見えますよ」\n\n ベルトールは失礼になったかと思ったが、年齢の話など種族が変わればほとんど意味をなさない。\n 特に長命種ほどその傾向が強いので、リナリアも気にしていなかった。\n\n むしろベルトールに子供扱いしたと勘違いされたと考えたようで、遠回しにちゃんと老けて見えると言う。\n\n(それはそれで少し複雑だが…まぁ私からもリナリアは10代の少女にしか見えないか…)\n\n それからもリナリアは甲斐甲斐しく食べ物を口に運んで世話をしてくれる。\n\n「はい、ゆっくり噛んでくださいね、柔らかい果物ばかりなので」\n\n「ありがとう、おいしいよ」\n\n「それは良かったです♪」\n\n そうして、まるでイチャイチャしているように食べ終わると、大分体に力が入るようになってきたと感じる。\n 魔力の通っている果物のようで、果物だけでなく家の材木なんかにも魔力を感じる。王室でも考えられないような贅沢な空間にベルトールは疑問を感じる。\n\n「ふぅ、ありがとう。生き返ったよ」\n\n 食事を終えて、改めてベルトールがリナリアに感謝を伝える。\n\n「凄いな、この場所は。細部にまで魔力を感じる、いくらエルフと言ってもここまでの事が出来るものなのか?」\n\n「この家や家具はこの地の木を使って作られているからですね、神樹の側で育ったからか、食べ物や動物たちも魔力を帯びているんです」\n\n 魔法使いだがベルトールのようなただの人間は自分で魔力を作れない、ベルトールだけでなく他の種族の者も大半がそうだ。\n そのため魔法石を埋め込んだ杖などを利用するが、ベルトールは自分の杖よりここの椅子のが高価だと感じる。\n\n 唯一エルフ族だけは自分で魔力を産み出すことが出来るが、それも近年では出来なくなっている者が多い。\n 事実ベルトールも研究院にエルフの知人がいるが、自分で魔力を産み出すのは無理だったと記憶している。\n\n「リナリア改めてありがとう。そして不躾で申し訳ないが君やここの事、神樹のことを聞かせてくれないか」\n\n 聞いてはいけない事だと分かっていた、さっき彼女もここは立ち入り禁止だと言っていたし。\n だが気になって仕方がない、それにベルトールは彼女にどうしても惹かれるものがあった。\n\n「………」\n\n やはり悩んでいるようだったが、少しの沈黙の後、リナリアが口を開いてくれる。\n\n「ど、どうお話したらいいでしょう?」\n\n「じゃあまず、君のことを聞かせてくれ」\n\n「はい、私は申し上げた通り、ここで神樹を守るエルフ族最後の一人なのです」\n\n「それは君の一族の使命なのか?それとも家?」\n\n「いいえ、エルフという種族の使命です」\n\n 「エルフという種族?じゃあエルフはみんなここで神樹を守ってるってことか?」\n\n しかし森の外にも普通にエルフという種族はいるし、一般的に暮らしていた。\n ベルトールにも知り合いが居るし、北国では珍しいが、西国や東国なんかでは大きな街に入れば大概は見かける。\n\n「その方々も元はここのエルフだったんですよ。ただ彼らは森の外での生活を求めたのです」\n\n「じゃあ生まれはみんなここなのか?」\n\n「いいえ、もう500年以上前のことですから今外にいる方々の中にはこの森を知らず、この地の外で産まれた者も多いでしょう」\n\n「じゃあ彼らの先祖はなぜ出て行ったんだ?こんなに良い場所なのに」\n\n ここの環境は神樹の影響があるのか、世界のどこにもこんな恵まれた場所はないほど整っている。\n ベルトールから見ると出ていく理由がわからない。\n\n「実はかつて、神樹が死にかけたことがあるのです。」\n\n リナリアは何百年も昔、神樹が枯れて死んでしまいそうになった事があると言った。\n そこで一部のエルフは神樹に見捨てられたとか、自分たちに天罰がくだるとか、様々な理由でこの森から出て行き、リナリアの先祖はこの地に留まって献身的に神樹の世話を続け何とか蘇生させた。\n\n ベルトールは自分の知らない、興味深い民族学に唸る。\n\n「うぅむ、なら外の世界にいるエルフは髪や肌が黒いのだがそれは環境の変化なんだろうか」\n\n「おそらく神樹の加護が代々薄まったのでしょうか、本来のエルフは私のような見た目ですし、寿命も長く、老いる事もありません」\n\n 外の世界、いや世間では、エルフはみんな肌髪瞳が黒いことからダークエルフとも呼ばれる。\n 魔力を自ら作れるので魔族の一種に数えられているが、リナリアに聞く限りどうやら本来はもっとぶっとんだ神造種族らしい事が分かった。\n\n「それでその、こんなふうに聞いて失礼かもいれないが何故君は一人なんだ」\n\n「…私が幼いころにまた神樹が弱ったことがあるんです」\n\n リナリアが知ってる話では、最初に死にかけた時は神樹が転生するためだったようで、避けた大木の枯れ木から今の神樹の芽が生えてきたらしい。\n しかしその芽が若木になるとき、また弱ってしまった。\n もうその頃にはエルフも数が減り、リナリアが久しぶりの子供だったらしい。両親や大人だったエルフたちは幼い彼女を残して神樹に魔力を捧げ続けて衰弱死したらしい。\n\n「それからは幸いもう神樹も手がかからなくて、ただ残念ながら、残された数十人のエルフたちは、神樹に身を捧げたせいか、弱っていました」\n\n それからは失った両親の代わりに、幼いリナリアを残ったエルフたちが育てたという。\n しかしそんな者たちも一人、また一人と寿命を迎え、リナリアを一人残す事に謝罪をしながらも、天に旅立って行った。\n\n「エルフに寿命での死は有りません、天寿を全うした者たちは魂を昇華し、神樹の魔力に帰るのです」\n\n\n「えっと君は、それから何年くらい過ごしているんだ?」\n\n「最後の一人になってからは、30年くらいでしょうか、それからはこの場所と神樹の維持に努めています」\n\n エルフの時間はヒューマンとは違う、30年という時間をリナリアはさらっと告げた。\n しかし辛さを紛らわせるためにその時間では短いのか、それとも長いのかベルトールには分からなかった。\n 神樹の世話という仕事があったので彼女も気丈に生きてこれたのだろうとベルトールは思う。\n\n「そうか、それは随分と大変な事だったろうな」\n\n「はい、両親たちが亡くなった時は幼すぎて理解が及ばなかったというか、悲しいことだと理解したのは大分あとでしたが」\n\n 「でも」っとリナリアはくるくると舞う。そよ風が彼女の周りを通り抜けていった。\n\n「精霊や森の動物たちが孤独を紛らわせてくれましたし、私を育ててくれた村の人たちはとても優しかったので、辛いことは有りませんでした」\n「それに、今日はベルトールさんがいらっしゃるので」\n\n 久しぶりの話相手にテンションがあがっているらしく、リナリアは楽しそうだった。\n\n「助けてもらったのは私なのに、そう言って貰えると嬉しいよ。リナリア、良ければ私もここに居させてはくれないか?」\n\n「本当ですか!?でも、ベルトールさんには故郷があるのに」\n\n「もう死んだと思われているさ、育ての親は嫌いだし産みの親は事故で亡くしてしまったしな、はっきり言ってもはや故郷に帰る理由はない」\n\n ベルトールか今回の危険な調査を受けたのも、そういう理由だったからだ。\n\n(それにあんなむさ苦しい職についてたら一生独身だ。\nここは好きな魔法の研究にはうってつけだし、何よりリナリアのような美少女がいる)\n\n リナリアほど綺麗な女性は、世界中探しても見つからないだろう、一人でこの廃村に居続けるなんて辛すぎる。\n ベルトールはリナリアの手を取って、優しく語りかけた。\n\n「リナリア、ここで私に君の手伝いをさせてくれ、君を支えたい」\n\n「は、はい! よろしくお願いします」\n\n それからお互いに握りあった手を見て、少し照れ臭くい雰囲気になった。\n\n\n◇◆◇◆\n\n\n「そかい?」\n\n「そうよ、疎開」\n\n「…って、何?」\n\n ここは西国のオード侯爵が治める領内にある小さな村。エルフ、ダークエルフと呼ばれる人種の者が集まって出来た村だった。\n\n「領主様がね、もうすぐ戦争になるんじゃないかって噂があるの、だから村の皆でエルランド公爵様の領地にあるエルフの街へ引っ越すのよ」\n\n「え~、だって侯爵様ってすっごい強い騎士団持ってるんでしょ?戦争になっても平気だよ」\n\n「そうじゃないのよアゼル」\n\n アゼルと呼ばれたダークエルフの少年は10歳になったばりだった。\n 産まれてから村を出たのはせいぜい隣村へのおつかいぐらい、世間や戦争というものを知らなかった。\n\n「例え領主様が勝ってもね、私たちの村は滅茶苦茶になってしまうんだ」\n\n「侯爵様が守ってくれるって!父さんも見たことあるでしょ、侯爵様のカッコいい騎士団!」\n\n 両親は目を輝かせるアゼルに、やれやれといった感じで肩をすくめる。\n\n「その侯爵様、領主様がね、ここいらの村一帯に立ち退き命令を出してるんだ、前線基地にするからってね」\n\n「ここらは山ばかりで領主様への納め物も毎年多く無いから、あまりに大事に思われてないのよ」\n\n まだ現実というものを理解してなかったアゼルは、その両親の言葉に酷くショックを受けた。\n なにせ数年前にも一度、内戦になろうとした時にオード侯爵は騎士団をこの村に派遣した事があったからだ。\n あどけない少年は、重い鎧兜に身を包む騎士たちの姿に憧れを抱いていた。\n\n「そ、そんな…」\n\n アゼルが何も言い返せないでいると、玄関のドアを開けて仲の良いランドが大声で入ってきた。\n\n「お~い!アゼル!隣村に侯爵様の騎士団が来てるんだってよ!うちの兄ちゃんが見たんだって!」\n\n アゼルはそれを聞いて恰幅の良い母親の横をすり抜けて、制止を聞かずに飛び出して行った。\n\n「アゼル、待ちなさい!もうすぐ出発するんですよ!」\n\n「だいじょーぶ俺が侯爵様を説得してきてやるって!暗くなる前に帰ってくるよ!」\n\n そう言ってランドとアゼルは走り去ってしまった。両親は心配しながらも、隣村なら大丈夫だろうと追いはしなかった。\n 結局これが別れの挨拶になってしまうとは知らずに。"}

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