| {"novel_id": "n0005ha", "chapter": 4, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0005ha/4/", "title": "幸福の始まり", "content": " 街道をしばらく進んでから脇に逸れて、大きな木に登る。いつも静かな隣村だが、今日は街の一角がお祭りみたいに騒がしいのが見えた。\n\n「おいランド、見ろよあれ、侯爵様の旗だ」\n\n「はぁ、はぁ、ちょっと待てって、お前のが足速いんだからさあ…」\n\n「魔法でも使えば良いだろ、ほら急ぐぞ」\n\n「お、お前みたいに上手く出来るわけ無いだろ~!」\n\n ランドに合わせながら走って、隣村に着いたのは丁度昼を過ぎて太陽が斜めになった頃だった。\n 騎士団はまだ街の入り口にいて、何やら人集りが出来ている。\n\n「何か揉めてるのか?」\n\n「おい、アゼル担いでやるからお前見てみろよ」\n\n「よし……、良いぞ」\n\n ランドに肩車されて、頭だけ何とか大人たちの肩から出した。\n 人集りの中央で一番大きな鎧の騎士と隣村の村長が話していた。\n\n「すまないが、我々は領主の命令を伝えにきただけだ、この土地から立ち退いてもらう」\n\n「無理です、私たち村民の生活はどうなるんですか!」\n\n「キンドルの街へ受け入れる準備がある、戦争で農夫が足りんのでな」\n\n「ご、ご再考頂きたい騎士団長様、この土地に先祖代々暮らしているのです。領主様もご存知のはず…」\n\n「心情を軽んじる訳ではないが、領主の命令ではどのみち我々にはどうしようも出来んのでな、どうしてもと言うなら領都で領主に直接交渉しなさい」\n\n「そんなご無体な…領都までいったい馬で何日かかるか分かっておられるでしょうに」\n\n 騎士団長と呼ばれた騎士は、兜の間からくぐもった声を出し、泣きすがる村民たちを突っぱねていた。\n あまり高圧的な様に見えなかったけど、頑なに話に取り合わない姿勢は徹底していた。\n\n\n「そんな…それじゃあうちの村も…」\n\n「おいアゼル、何やってるか教えてくれよつーか交代してって」\n\n「お、おい危ないって!」\n\n「ん?」\n\n ランドが騒いだせいで、バランスが取れずぐらぐらと揺れる、物音を立てたせか、静まり返っていたその場の大人たちが皆こっちを見てきた。\n\n「あぁ、あの子たちは近くにあるエルフたちの村の子供でございます」\n\n「ほう、この領内にエルフの村があるとは知らなかった、我が領主は中々他人種に嫌われているからな。だがこの近くにあるということは残念だな、立ち退き命令の対象だ」\n\n 俺とランドが何も言えないでいると、騎士団長は視線を外した。\n さっきはこっちを向いてたのに、最初から視界にも入ってなかったように感じる。\n\n その後、すぐまた隣街の村長と騎士団たちの間で言葉が飛び交い始めた。\n ランドは「もう諦めて帰るか~」と呑気な事を言っていたが、俺はすっかり気を落とし重い足取りで帰路についた。\n\n\n\n◇◆◇◆\n\n\n ベルトールは森に来てから一か月ほど体の静養に充てた。\n その間ベルトールはリナリアの仕事を手伝いながら魔法の研究をして過ごした。\n ベルトールが研究テーマにしたのは、エルフの操霊術とそれに伴う精霊魔法だった。\n\n「リナリアから聞いたエルフの魂を操る術、というのを研究し始めたんだか、上手くいかないな」\n\n 魂を体から離して幽体離脱しようとしたり、魂だけの状態、アストラル体を作ろうとしたり、試行錯誤を重ねたが中々思う通りの結果が出ない。\n\n「だが精霊魔法の方は少し分かってきたぞ、ここの環境も良い」\n\n そちらの方も最初、ベルトールは自分はエルフではないので精霊を操れないと考えていた。\n しかし実際にやってみると、意外なことにあっさり精霊たちは言うことを聞いてくれる。\n\n「学説通り個体差もあるみたいだが、私に魔力を貸してくれるのは、受け入れてくれる精霊たちのおかげか」\n(それともリナリアのおかげで精霊が受け入れてくれたのだろうか)\n\n 精霊とは魔力の残滓などに意志が宿ったものである。大気中や色々な物、場所いる精霊から魔力を借りて、魔法を発現させるのを精霊魔法と言った。\n\n「しかし魂を操る方法に関してはさっぱりだ、大昔は研究員でも研究されていたそうだが、現代には禁止されている研究だからな、資料も無いリナリアに教われればいいんだが…」\n\n 使用者に聞くのが一番手っ取り早いので、ベルトールもリナリアに研究の相談をしたことがある。\n しかしリナリアの説明では「まず魂を感じるんですよ」から始まり、感覚的な部分でついて行けなかった。\n おそらくエルフとヒューマンの人種の差だろうとベルトールは結論付け、リナリアのエルフ方式は諦めた。\n\n「まぁ魂の方は良いか、そもそも私には難しすぎるんだ。しばらくは精霊を研究しよう」\n\n そうやってベルトールが、机の前でふわふわしていた精霊と遊んでいるとリナリアの呼ぶ声がした。\n\n「ベルトールさんご飯ですよ~!」\n\n「ありがとう、すぐ行くよ」\n\n\n リナリアは明るくベルトールによく話かけてくれた。\n リナリアはいつも法衣を着て生活しているのだが、その法衣といのが体のラインがわかるような白いワンピースのような服なので、ベルトールは毎日目のやり場に困っていた。\n おまけに足元はシースルーで白い生足が透けていて、シルエットがまぶしかった。\n\n(研究が詰まった日はリナリア背中やお尻を見て活力を得るのだ)\n\n「どうかしましたか?」\n\n 視線を感じたリナリアが、ベルトールに振り返ってくる。\n\n「い、いや 何でもないよ」\n\n「そうですか? 今日はお魚料理ですよ!」\n\n「ありがとう、いつもおいしいよ」\n\n「まだ食べてないじゃないですか~」\n\n そう言って隣に座り、リナリアは体を寄せる、もう遠慮もなしにベルトールの腕に抱き着いてくるようになっていた。大きくてふにゅりとした感触が何度も当たる。\n ベルトールはそんな風に甘えてくるリナリアに嬉しく思っていた。\n\n「ベルトールさんって大人の男性って感じがしますね、頼りになるというか」\n\n(私のが生きた年数は下だが、まぁそんな事を言うのは野暮だろうな)\n\n ベルトールは女性経験は無かったが、孤児の面倒を見たり、後輩の面倒を見たり、面倒見が良いところがあった。\n リナリアはそんなベルトールに父性を感じたようで、よく懐いていた。\n\n「あ、そうだ この前のお姫様と王子様の話、続きを聞かせてください」\n\n 多感な子供時代に同じ年頃が居なかったのと、元々の性格なのかリナリアは恋の話が好きだった。\n それもベルトールでは流石に苦笑してしまうような、絵本のようなベタな恋のロマンスが好きだった。\n\n だがその割に男には疎いので、ベルトールに接触するのを何とも思ってないところがあった。\n\n\n(まあ役得なのであえて思春期みたいな知識を吹き込んだりもしないが、男としてはそう見られたい部分もあるな)\n\n\n\n◇◆◇◆◇\n\n\n\n 太陽が山に隠れて、辺りが暗くなる。そんな中、俺とランドは村への帰路を歩いていた。\n\n「おいアゼル、もう暗くなるぞ」\n\n「おいおいもう村はすぐそこだろ、何が怖いんだよ」\n\n「だってよ、最近領内で人攫いが出るらしいぜ、兄ちゃんが言ってたんだよ」\n\n「ば~か、俺らみたいな田舎の貧乏人拐ってどうすんだよ、女でもないし」\n\n 狼にビビってるのかと思ったら、ランドはどうやら噂になっている人攫いが怖いらしい。\n 縮こまるような足取りで背中に掴まってくる。\n\n「で、でも俺らってエルフじゃん…? きっと高く売られるぜ、そんで心臓を取られるんだ」\n\n「あのなぁ、エルフなんて今時珍しくないんだよ。 そういや俺たち皆隣の領にある何とかってエルフの街に逃げるんだよな」\n\n「エルランド公爵様ってすげ~優しいんだって、うちの侯爵様はさ、俺らとかドワーフとかを亜人種って呼んで嫌ってるから、うちの領地から追い出された難民を受け入れてくれてるんだって」\n\n「へ~…」\n\n 引っ付いて来て鬱陶しいので、ランドの頭をべしべしと叩くと、ランドが痛い痛いと言って離れた。\n\n「もう真っ暗になってきた…こんな怖い思いするなら、領主様の兵団とか見に行かなきゃ良かったよ」\n\n「でもさ、凄かったよな!騎士の着てる鎧なんかみんなピカピカでさ」\n\n「アゼルは騎士になりたいんだったね、それも絵本に憧れて」\n\n 子供の頃、母親に読み聞かされた異国の王子様とお姫様の物語が好きだった。\n その時に、たまたま前に住んでた村に騎士団がやってきた事があり、俺はその鎧姿に憧れた。\n だが今日見た騎士たちはどこか、そんな憧れからは遠く、華やかな鎧で着飾っているのに冷たく感じた。\n\n「僕もお姫様と結婚したいな~。 ていうかアゼルはお姫様の話は全然しないよな」\n\n「だって見たことあるか?お姫様なんて」\n\n「無いけどきっと凄い綺麗で美人だぞ、良いよなぁ~」\n\n そんな事を話していると、村と村を繋ぐ街道にある林を抜けた。西陽も無くなり本格的に夜の帳が降りてくる時間になっている。\n\n「もう疲れたよ、僕朝は畑の手伝いしてたんだぞ」\n\n「もうすぐ帰れるんだから頑張れって…」\n\n すると、街道脇から何処と無く気配を感じた、近くの岩影からも感じる。\n\n「お、狼か?囲まれてる」\n\n「おいアゼル…」\n\n「大丈夫だって、狼なら火を見せれば逃げるって父さんが」\n\n 俺が木の枝を拾って魔法で火を付ける、ぼやっとした灯りに照らされて草木の影が不気味に伸びると、闇の中から顎に傷のある大男の顔が、ぬっと涌き出てくるように浮かび上がった。\n\n「残念ながら狼じゃねぇなあ坊主」\n\n あとから髭面の男たちがワラワラと辺りから出てくる。身なりもあまり綺麗じゃない、どう見てもまともな奴らじゃなかった。腰に剣を差し、手には武器を持っている奴もいる。\n\n「うわぁ山賊だっ!人攫いだぁぁぁぁ!うわっ!」\n\n「ランド!? あっ!は、放せよ!」\n\n 先に騒いだランドが後ろにいた男たちに縛られて布袋を被せられていた。\n 俺がそいつらに掴みかかろうとすると、他の大人の男たちに取り押さえられる。\n それでも暴れようとすると、何か固い物で頭を殴られた。\n\n「おい、あんま傷付けんなよ、売りもんにするんだからな」\n\n「へいへい、でもこんな貧乏そうなガキども何処に売るんです?」\n\n「奴隷娼館だ、こんぐれーのガキャ売れるぜ、なんせ軍人様やお貴族様たちゃ男色家も多いからな、エルフは見た目が良いから需要がある」\n\n「ここの領主様は亜人嫌いなのにですかい?」\n\n「ウード領主ってのはむしろ亜人偏愛家だって噂だ、獣人がここの領から流れてくんのは追い出されてんじゃねぇ、逃げてんのさ特にエルフなんて高値が付きそうだ」\n\n「偉い人らってよく分かりませんねぇ」\n\n 殴られて地面に倒れ、意識が薄れてきた。俺を盗賊たちは物みたいに縛って、木箱に詰められる。\n\n「騎士団様もこんな近くにいんのに咎めに来ないんだから良い国だよな、ウード侯爵にはぜひ西国の王様になってもらいたいってもんよ」\n\n 山賊の頭領が言ったその言葉を聞いたのを最後に、俺は意識が途切れた"} |
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