| {"novel_id": "n0005ha", "chapter": 8, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0005ha/8/", "title": "侵入者", "content": " ベルトールとリナリアは娘にアリシアと名付けた。\n エルフは出産が速く半年ほどで出産し、エルフ同士でもうけた子ならばもっと早い。\n しかし速いと言っても、ヒューマンと比べてと言うだけで一週間で出産できるゴブリンやトロールなような亜人種に比べるとヒューマンの感覚とはあまり変わらないのはお互いにとって良いことだった。\n\n だが困った事にベルトールはお産の知識など無かったので、リナリアの出産を手伝うにあたってゴーレムを作った。\n\n「ゴーレムと言っても、土塊や石で作っては意味がないから、こんな感じになってしまったが許してくれ」\n\n「そんな、可愛くてとっても素敵です、それにとてもお利口さんですよ」\n\n ベルトールが作ったゴーレムは、神樹の魔力を受けているこの森の木材で作ったカカシのような物だった。\n リナリアが動けない間掃除、洗濯のような家事や畑仕事などを担当した。\n 素材のおかげがベルトールが今までに作ったゴーレムよりも遥かに高性能、高精度になり。\n ブリキで作った手先は人間と変わらないほど器用になった。\n\n「大丈夫か? 何か手伝えることは?」\n\n「もう、慌てすぎですよ。産むのは私なんですから」\n\n\n 出産の時、ベルトールは慌てふためいていたがリナリアは落ち着いていた。\n 物言わぬゴーレムたちにも、どかとなく厄介払いされるように部屋から追い出される。\n\n(ま、まぁエルフは体が物凄く強いしリナリアなら回復魔法なんかも使える。私が横でバタバタしていた方が邪魔か)\n\n リナリアが水の精霊たちを操り、ゴーレムたちがインプットされた知識に基づいて出産補助と赤子の取り上げをやってのけた。\n ベルトールは心配してずっとうろうろしていたが、エルフのそれは非常にスムーズで失敗することも無く、リナリア自身もあっさり終わり過ぎて少々拍子抜けしていた。\n\n そうして無事に娘アリシアは誕生し、ベルトールは産後のリナリアを助けるために忙しい日々を送った。\n アリシアはベルトールがあやせば泣き、オシメを変えれば泣き、兎に角泣き止まなかった。\n\n「はいはい、お父さんよりお母さんが好きなんですよね~♪」\n\n リナリアは四苦八苦してるベルトールを楽しそうに見ながら、アリシアをあやすのが上手かった。\n そして手のかかる0歳が終わったと思えば1歳はもっと、2歳になれば更に手がかかり目が離せず、リナリアために作られた二体のゴーレムも、次はアリシアのために三体、四体と増産された。\n\n\n\n「……まむ~」\n\n「お、おおおお!?アリシアが喋ったぞ!」\n\n「えぇ~!?」\n\n リナリアが急いで洗濯物を置いて戻ってくる。ベルトールは歩けるようになったばかりのアリシアを抱き上げ、偉い偉いと高い高いをした。\n\n 4歳になるとアリシアは一人で寝付けるようになった。一人で寝れると言うより昼間活発に動きすぎて夜はパタンと眠るのだ。\n\n おかげで夜はリナリアとベルトールは夫婦の時間を持つことが出来た。\n 子供は期待出来ないが夜中にこっそりイチャイチャする時間を作った。\n アリシアに振り回されつつ、リナリアと時々イチャつきベルトールは幸せな生活に浸っていた。\n\n\n しかしある日、そんな日々も唐突に終わりを告げられる。\n\n「ベルトールさん、森に何か不穏な気配を感じます。」\n\n「え、この森の中に?」\n\n 朝方から暴れまわってたアリシアを寝かしつけると、リナリアが真面目な顔つきでベルトールそう言ってきた。\n\n「ここって強力な結界があるんだろ?私には知覚出来ないけど」\n\n「はい、入ってきた者を永遠に迷わせ、またこの森そのものにも人が忌避したり恐れを無自覚に覚えるような魔法がかかっています」\n\n「そうなのか、人の無意識下に干渉するなんてとんてもない大魔法だ。この森に近い東国なんかは特に祟りだ呪いだと手を入れなかったのはそれで」\n\n 南北国は遠いが、東と西の国では子供を脅かす怪談に森の名前が出てくるほどに恐れられている。\n\n\n「エルフの結界ですから、間違いは無いと思いますが…何処かに綻びがあるのかもしれません、思えばベルトールさんが入ってこれたのも不思議でしたし」\n\n「私が森に入って見てくるよ、何か異常があったら戻ってくる」\n\n「で、でもこれは恐らく神樹からの警告なんです。今ここでじっとしていれば危険は去って行くかもしれませんし、どうしてもと言うならゴーレムさんたちを行かせてみてはどうでしょう」\n\n「そういう用途のためには作ってないから、難しい。大丈夫、私もここに来て随分と魔法も色んな知識も増えたし私のように行き倒れでもいたら大変だ」\n\n「それでも不安なんです、嫌な予感がするというか…」\n\n「でも放置も出来ないだろう、今夜見てくるよ」\n\n リナリアは不安なようでずっと「でも、でも…」と食い下がった。ベルトールは安心させるためにリナリアのおでこにそっとキスする。\n\n「心配ないさ、それに私も君にこうやって出会ったんだからまた良い出会いかもしれないしまゃないか、少しの間アイリスを頼むよ」\n\n「……はい」\n\n\n そうしてベルトールは次の日、リナリアがアリシアを寝かし付けてる間に静かに家を出た。この神樹の周りにあるエルフの土地から出るのは数年ぶり、ここに来た時以来だった。\n ベルトール森の木で作った杖にミスリルの剣を持ち、この装備なら戦争に行っても大丈夫だな、とかつての経験をおぼろ気に思い出す。\n そして光が一切射し込まない夜の暗い森に踏み込んだ。\n\n◇◆◇◆\n\n\n「どういう事だグリンダ!アゼルが逃亡したと聞いたぞ!、まだベルモンドの奴との戦争は終わっていないと言うのに!」\n\n 凄い剣幕でグリンダの天幕に怒鳴り込んで来た壮齢の男は、この領地を西国の王から預かるウード侯爵だった。\n グリンダと呼ばれたのは背が高く、ウード侯爵よりも深い皺を額に刻む鷲鼻の老人。不気味な雰囲気の魔法使いだった。\n\n「申し訳ありません。正気を失ったまま馬を千切るほどの速さで駆けていくとは思いませんでした」\n\n「犬猫を逃がしたんじゃないんだぞ!我が軍の一番手だ!貴重なマナ使いだったのに…」\n\n「ご心配無く。最早『仮面の騎士』が居なくとも、大勢は決しております」\n\n 娼館でこの二人に見つかり捕らえられたアゼルは、グリンダによって兵器として訓練され、ウードによって戦争の道具にされた。\n 昨今は魔道に優れたエルフ…ダークエルフであっても自らのマナを操る事が出来ず、杖や道具の力で大気中のオドを行使する魔法使いが多い。\n\n しかしアゼルは先祖返りをしたのかマナを操り自ら魔力を作り出して魔法を放てる才能があった。\n グリンダに付けられた呪いの仮面で、自我をコントロールされたアゼルは痛みも危険も省みずに敵陣に突撃し、エルフの魔力で暴威を奮った。\n その姿から敵のベルモンド伯爵陣営から仮面の騎士と\n呼ばれ、恐れられていた。\n\n「何年も準備してやっと開戦したのだ、ここでベルモンドを討たねば今度はこちらが危ない、そのためにもアゼルの突出した戦闘力は必要なのだ」\n\n「ふむ、アゼルには反魔力の鎧など金もかかっておりますからな。ワシとしても回収したいのですが…先に戦争を終わらせた方が良いですかな?」\n\n そう言って、グリンダは侯爵を前にしてどっかりと座って椅子からゆっくりと立ち上がる。\n\n「お、おお…グリンダ、まさかお前が戦いに出る気になったのか?」\n\n「えぇ…まぁ、たまには侯爵様に恩を返さねばという気分になりました。どこまでやれば宜しいですか」\n\n 先ほどまでの怒髪が天を付く勢いを忘れ、グリンダの言葉を聞いてウード侯爵は頼もしさに思わず笑みがこぼれた。\n\n「奴の領地で欲しいのは穀倉地帯の平野だ、城と砦はいくつ吹き飛ばしても構わん」\n\n「では…年内のうちには片付けると致しましょう」\n\n 勝ったとばかりにはしゃぐ侯爵をグリンダは横目で見ながら内心で小馬鹿にしていた。\n\n(ま、ほどほどに付き合ってやるとするか、くっく…久しぶりに待つのが楽しいよ、アゼルくん)"} |
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