| {"novel_id": "n0006ct", "chapter": 1, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0006ct/1/", "title": "序幕", "content": "(人生、いつどこでどんな転機が訪れるかわからなものだな)\n\n 20××年6月某日、関東某県の県庁所在地にある雑居ビルの一室。\n 薄い灰色の肌、違う意味で薄い白髪を七三分けにした肥満体型の男は、自らに起きた奇跡的な幸運に素直に感謝した。\n\n(まさか雇われとはいえ、俺が悪の秘密結社のボスになるなんてな)\n\n 16年間連れ添った妻に不貞を働かれたうえ捨てられ、保証人になっていた友人からも裏切られ、追い討ちをかける様に勤め先が倒産。ローンだけを残して家を失い、経済的な理由から愛娘の親権も奪われてしまった。\n 失意の底で、それでも生きていくために職を探したが、特に学歴が高いわけでもなく、専門的な知識や技術を持っているわけでもない37歳の男を雇ってくれる会社などなかなかなく、何とか面接まで持ち込めても不採用。職安と新たな住居となった安アパートを何の希望もなく往復していた、つい先日までの生活が嘘のようだ。\n\n(命の危険はあるみたいだけど、その分高給だしな。頑張って借金を返して、娘を取り戻すぞ。……しかもこんな役得まであるのだから。この仕事は石に齧りついてでも結果を出して、続けていかないと。由香、お父さん頑張るからな)\n\n 男は離れた愛娘の顔を思い浮かべながら、決意を新たに固く持ち、いまから始まる尋問に下半身の愚息が硬くなっていくのを感じた。\n\n「…………っ。……えっ? こ、ここは? あっ! な、何?」\n\n 橘花希華は目を覚ますと、自分の置かれている状況に軽い混乱状態へと陥った。\n 気が付くと無機質なコンクリート剥き出しの広い部屋で、婦人科に置いてあるような分娩台のような物の上に乗せられ、下着姿で手足を拘束されていたのだから無理もない。\n\n「目が覚めたようだな、橘花希華。それとも、4代目シャルマンフルール、フルールブランと呼んだ方が良いかな?」\n\n 希華の混乱に拍車をかけるように、男は尋問台の後ろからわざとらしく上げ底のブーツで床を踏み鳴らしながら近寄り、彼女の前へと回った。\n 仕事熱心と言うべきなのだろうか、喋り方も役作りでボス感を出そうと、彼なりに意識をしているようだ。\n\n「な、何故そのことを知っているの? あなたは一体何者? 何が目的で……い、いや、そんなことよりこの拘束をはずしなさい!」\n\n 希華は自分の体を舐めまわすように視線を送る男に、嫌悪感を隠せず声を荒げた。\n とても不快な男だ。一重の丸く小さな瞳はどこか配置がおかしく、頭髪は薄いくせに不揃いの形の眉は濃い。鼻は大きいうえに低く潰れ、唇は厚く、そこから覗く歯は並びが悪い。その上だらしのない体型をしていて、わざわざそれを強調するようにサイズの合っていない軍服を着ている。脂ぎった肌は灰色に輝き、鼻息は荒い。まだ距離があるにも関わらず、体臭か口臭かはわからないが気持ちの悪い匂いが漂ってくる。\n そんな男に下着姿のはしたない体勢を晒しているかと思うと、希華はそれだけで目眩がしてどうにかなりそうだった。何とかこの無防備な格好を変えようと試みるが、彼女を台へ縛り付けている拘束は思った以上に強く、変身前の生身の力ではとても解けそうにない。\n\n「そうか、そうか。いや、良かったよ。実は攫ってはみたものの、君が本当にフルールブランだという確証はなかったんだ」\n\n 男は逃げようともがく彼女を横目に、手を叩いて喜ぶ。それを見て希華は、いくら動揺していたとはいえあっさりとフルールであることを認めてしまったことを後悔した。\n\n「さてと、では尋問を始める前に応じられる範囲で先程の質問に答えてあげよう。まず最初の質問、何故君のことをフルールブランではないかと目星をつけれたかについてだが、残念。その問には答えられないんだ」\n\n 男はマントを外しながら話を続ける。\n 変に勿体ぶってはいるが、答えは実に簡単だ。数ある悪の組織間で共有している情報データのなかにヒーロー&ヒロイン一覧というものがあり、その中のフルールブランの画像や動画が、娘の通う高校の教師に面影が似ていたので、個人的に好意を抱いていたこともあって駄目元で拉致ってみたというだけだ。\n 男の邪な欲望が引き寄せた、単なる偶然と幸運の賜物。だがそれを正直に女に教えるつもりはないようだ。\n\n「次は私が何者かだったかな? 私はね、秘密結社『ガマダス』のツナラー総統だ」\n\n 男は軍服の上着を脱ぎながら、キリッと得意顔で決めてみせた。\n 男の本名は富藤綱平という。ツナラーは彼の小学生のときのあだ名である。何故小学生時代のあだ名を怪人名に使っているかといえば、彼が無邪気に人生を一番楽しんでいた時代の呼び名だからだ。もう一度人生を楽しみたいとの願いを込めているのだろう。\n 余談だが、組織名につけたガマダスとは、綱平出身の九州地方の方言で精を出す、頑張るという意味である。\n\n「ち、ちょっと、何故質問に答えるのに服を脱ぐ必要があるの?」\n\n 希華は体中から血の気の引く思いを味わいながら尋ねた。何となくの予感はある。敵に捕まった正義のヒロインがどの様な目に合わされるか……。この分娩台、この格好……。動悸が激しくなり、呼吸が少し乱れる。\n\n「ふふっ。何をそんなに怯えているのだ、フルールブラン。可哀相だが拘束は解かないぞ。暴れられたら面倒だからな」\n\n 綱平はネクタイを外し、脇と背中がぐっしょりと濡れたシャツを脱ぐ。服の下から出てきたのは脂肪の塊。本当に締まりのない体をしている。白いランニングから覗く胸毛や、腕の毛、腋毛といった体毛は頭髪と対照的に無駄に剛毛で毛深かった。\n 希華の瞳の端に涙が溜まり始める。\n\n「光栄に思いたまえ、総統である私自ら捕虜の尋問をしようというのだ」\n\n 綱平は椅子に座り、ブーツを脱ぎ始めた。どうやら立ったまま靴や靴下を脱げないらしい。たったそれだけの動作で顔を真っ赤にし、新たに全身からうっすらと汗を流している。\n\n「ま、待って」\n\n 希華はガタガタと震えながら、これから訪れる悲劇を拒絶するように弱々しく首を振った。\n\n「くっくっくっ、安心したまえ。私はこう見えて紳士でね。女性に暴力を振るうような野蛮な真似はしない」\n\n やっと靴下を脱いだ綱平は立ち上がると、ズボンのベルトを外し始めた。\n\n「種族や性別を超えてお互いの距離を縮めるには、裸でぶつかり合うのが一番だ。なあフルールブラン? 君もそう思うだろう?」\n\n 横幅の大きさに比べ、丈の短いズボンが落ちて、やはり毛深く、太く短い足が現れる。\n\n「――ひっ!」\n\n 希華の小さな悲鳴が部屋に響く。見たくはない、決して見たくはないのだが、視線が男の大きなトランクスの中央の突起している部分にいってしまったのだ。\n\n「何も怯えることはない。これは鍵だ。君の心の扉を開き、私と君とを繋げてくれる有難い道具だよ。きっと気に入ってくれるはずだ」\n\n 綱平は下卑た笑みを浮かべ、長い舌でベロリと自分の唇を舐める。そして、わざとゆっくりとした歩みで希華へと近付いて行く。\n\n「い、嫌っ、来ないで! それ以上近寄らないで! い、嫌、嫌っ! は、話を聞いて! お願い、あっ! ちょっ、ちょっと待って……」\n\n 希華は必死に身を捩って逃げ出そうと暴れるが、その行為は綱平を喜ばせるだけの効果しか生まない。綱平は時間をかけてお互いの息がかかる距離まで間を詰めると、にやりと笑ってブラジャーに手をかけ、彼女の願いごと無造作に引き千切った。\n\n「い、嫌あああああーーーーっ!」\n\n ガマダス本部にある尋問部屋に、希華の悲痛な叫び声が響いた。"} |
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