| {"novel_id": "n0006ct", "chapter": 12, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0006ct/12/", "title": "第十一話(ディープキス)", "content": "「んっ……、ゃっ……、んんっ……」\n\n ベッドの上、壁際に追い込まれた希華は綱平に優しく頭を抱かれながら、無理やり唇を奪われていた。彼女は一応両手で男を押し返そうと、抵抗はしているがどこか弱々しい。\n\n「希華、教えてくれないか? リッシュモンとは何者なんだ? んんっ?」\n\n 綱平は希華の可愛らしい唇を解放すると、彼女の瞳を覗き込みながら心温かな様子で髪の毛を撫でる。\n\n「……し、知りません」\n\n 頬を紅く染めた希華は、困ったように顔を男から背けるとそう呟いた。\n\n「本当か? 奴は昨日から君を探して二つの組織を壊滅させたそうだぞ。しかも今回は複数のフルール達も協力したそうだ。知らないと言われても、はいそうですかと素直に信じることはできないな。お、そうだ新しい情報だとリッシュモンも相当負傷したらしいぞ」\n\n 綱平は目の前に来た耳元に囁く。\n\n「えっ――あっ」\n\n 婚約者の負傷を聞き、驚いて男の方を向いた希華は、唇を再び奪われてしまう。\n 綱平の長い舌が希華の舌の裏側に滑り込み、舌の付け根の筋、舌小帯を舌先で撫でるように舐めあげる。だが、女は抵抗することなく男を受け入れている。\n 少し横道にそれるが、綱平の舌にはツナラー砲に酷似したタトゥーのような模様が刻まれていた。希華から奪った力が彼に新たな能力を与えたのだ。\n その能力というのは、性交の過程で出る女性の体液から、僅かではあるが力を得るというもの。そして体液を効率的に採取するために、男の唾液には軽い興奮作用とちょっとした催淫効果が含まれるようになっていた。\n\n「んっ……、ぁっ……、ぁっ……」\n\n ゾクゾクとした快感が希華の体の芯を駆け上がる。\n\n「甘露、甘露」\n\n 綱平は希華を解放すると、彼女の唾液をそれは美味しそうに飲み込んだ。新たな能力の副産物なのだろう、女性の体液から芳醇な旨味を感じるようになったらしい。\n\n「もう一度聞くぞ? リッシュモンとは何者なのだ? 君とはどういう関係なのだ?」\n「……し、知りま――ああっ」\n\n しらを切る希華の唇をまたも綱平の唇が奪う。\n しかも、今度は両手で彼女の両耳を塞ぐようにして舌技を繰り出してくる。歯茎の裏側を舐め、そのまま舌を上に滑らせ口蓋ひだを舐める。\n\n「んっ、んんっ……あっ、あっ」\n\n 歯茎の裏や、特に口蓋ひだが隠れた性感帯であると知らされた希華は目を見開いて驚き、更に耳を塞がれることによる効果に震えた。\n 口内の音がはっきりと聞こえ、そしてその音が頭に響くのである。歯茎の裏や、口蓋ひだを這い回る男の舌の音や、思わず出てしまう自分の甘い声までもが。\n 綱平はニヤリと笑うと、希華が嫌がる、つまり悦ぶ責め方で彼女の口を蹂躙し始めた。苦手とする舌小帯を何度もじっくり舐めあげ、舌を吸い、情熱的に絡ませる。\n\n「んんっ――あっ、あっ、あっ――」\n\n ヌチャヌチャと舌と舌とが絡み合ういやらしい音が、頭で響く。吐息が、喘ぎ声が嫌というほどいやらしく響き渡る。\n 女の性欲に火を点けるような、肉体と精神に訴えかけるキス。\n まだ最後のところで健気な抵抗を見せているが、偽りの恋慕の情に支配されかけている希華には堪らないだろう。\n 男を押し返そうとしていた両手は、いつの間にか男の胸に縋りつくように置かれていた。\n\n「仲間は売れない、リッシュモンは知らない、困った頑固者だ。だが、それも今夜で終わりのようだな」\n\n 余裕の笑みを浮かべ、綱平はシャツのボタンを外し始める。\n ボタンを外す彼の両手の人差し指と中指には、性器や舌と同じようにタトゥーのような模様が甲にかけて刻まれていた。\n\n「い、嫌っ――」\n\n 希華は綱平の横をすり抜け、ベッドの外へと逃げ出す。\n 男の言う通り、もう彼女にも自信がなかったのだ。この状態で抱かれたら、体と心を完全に支配されてしまうかもしれない。そうなれば一体どうなってしまうのか、自分でもわからない。\n\n「くくくっ、何所に行こうというのだ」\n\n ここは完全に閉ざされた監禁部屋。少しの間逃げることは可能でも、その行為にどれだけの意味があるのか。男の征服欲を刺激するだけの徒労だ。\n 綱平は、鉄格子を開けようと無駄な努力を試みる希華を横目に、股間に集まる熱い血の流れを感じつつゆっくりとシャツとランニングを脱ぎ捨てる。\n\n「さあ、大人しくするんだ」\n『緊急事態発生、緊急事態発生、緊急事態発生……』\n\n 希華にゆっくりと迫る綱平のスマホから警告音が鳴り響く。\n\n(いいところで)\n\n 心の中で舌打ちをしながら、ソファーに脱ぎ捨てていた軍服の上着からスマホを取り出すと、画面に侵入者ありの文字とともに見覚えのある女性が映しだされていた。\n\n(この女、確か昼間もこの辺りを嗅ぎ回っていたフルールルージュだな)\n\n もう発見されてしまったのだろうか?一人か?どうやら他に仲間はいないようだ。くそ、希華をあと一押しで堕とせそうだというのに。どうする?こうなったら二人同時に堕とすしかないか?いや、危険性が高すぎる。しかし、放ってはおけない。\n\n「希華、残念だが尋問は一時中断だ。今夜は戻って来れないかもしれない。火照った体が静まらないようなら、自分で慰めておいてくれ」\n\n 綱平は服を片手で抱えながら、足早に部屋を出て行った。\n\n\n\n\n\n□■□■□■□■□■\n\n\n\n\n\n 梅花香澄は油断なくビルの一階の廊下を進んでいた。\n 一見するとただの雑居ビルである。中も変わったところはいまのところ見受けられない。だが、いまの彼女には確証めいた自信があった。この建物から確かに希華の気配を感じるのだ。\n 失敗だった、昼間訪れた時にもっと注意を払って探っていれば……。希華は無事でいてくれるだろうか?\n 香澄は焦っていた。昨夜は希華が助けを求めているのが痛いほど伝わってきていたのに、時間が経つごとにそれが弱くなっていくのを感じていたのだ。彼女の身に一体何が起こっているのか。\n 今日は仕事を休み、朝から希華への手がかりを求めて一日動きまわっていた。つい先程までも、洋輔が猟犬に単身乗り込んだと聞き、仲間達と応援に行っていたところだ。\n だが、結局猟犬のアジトから助け出した女性達の中に希華は居らず、藁をも掴む思いで昼間微かな違和感を覚えた雑居ビルの立ち並ぶ街中に一人戻ってきたところだった。\n\n(……悔やむのは後でも出来るわ、いまは希華を助けだすことだけに集中するのよ)\n\n 香澄は自分を責める時間も惜しいと気持ちを切り替え、バックからスマホを取り出し仲間達に連絡を入れようとする。仮にここに希華がいなくても、何かしらの手がかりは間違いなくあるはずだ。\n だが携帯電話を操作し始めると同時に、建物が異様な空間によって覆われたのを彼女は感知した。電波も一瞬で圏外となる。\n\n『おやおや、どんな鼠が入り込んだのかと思えば、随分と可愛らしい迷い猫のようだな』\n\n 廊下に設置してある、型の古いいかにもな監視カメラからそう声が流れてくる。\n\n『何者だ、何の目的があってここへやって来た』\n「……仲間を助けに来たと言えばわかってもらえるかしら?」\n\n 香澄は慌てる様子もなく、カメラに向かって堂々とそう返した。\n\n『んんっ? 仲間? 何のことだかわからないが、そう言っても納得はしないのだろう?』\n「そうね」\n『よろしい、では納得がいくまで話し合いをしようではないか。私はツナラー、このビルの責任者だ。突き当たりにあるエレベータで地下二階まで来たまえ、そこで待っている』\n\n そう告げると音声は途絶え、奥のエレベータがチーンと音を鳴らしてその扉を開ける。\n\n(……話し合いね)\n\n 十中八九罠であろう。しかし、それでも構わないと、香澄はエレベータに乗ってB2のボタンを押す。上は8階まで、下は二階までの建物のようだ。\n 再び音を鳴らし、扉が閉まる。そして、ゆっくりと地下に向かって降りていくと同時にシューッと即効性の睡眠作用のあるガスが噴出し、エレベータ内に充満し始めた。\n …………。\n ……。\n 広々とした空間の地下二階では、綱平が上半身裸にズボンを履いた状態でエレベータの到着を待っていた。\n\n「上手くいけばこれで終わりなのだが」\n\n エレベータが到着し、音を鳴らして扉が開く。\n するとコッコッと床を踏み鳴らし、蔓延し煙のようになったガスのなかから美しい女性闘士が姿を現す。\n\n「やはりそう簡単にはいかないか」\n\n 落ち着いた上品な赤を基調とし、黒のラインやフリルのついたドレス姿。本当に戦うための衣装なのだろうか?上質そうな生地は、胸や腰といった女性特有の美しい線を品良く強調している。同じ配色のフィンガーレスのロングドレスグローブ、そしてロングブーツ。赤い薔薇と、不思議な輝きを放つ宝石のようなもので装飾されたヘッドドレス。先程まで栗色だった髪の毛は、桃色へと変化している。\n\n「悪を焼き尽くす紅蓮の炎、フルールルージュ」\n\n 香澄は決めポーズをとることなく、淡々と名乗りをあげた。\n\n「貴方がツナラー? なるほど、随分と話し合いに相応しい歓迎と場所のようね」\n「地下2階は実験や戦闘訓練を行うための部屋だからな。殺風景だが、壁も床も天井もしっかりとした造りだろう?」\n\n 女の皮肉を聞き流し、ドンドンと床を力強く踏みつけながら綱平は続ける。\n\n「しかもいまこの階は、特に強い『ガマダス空間』に包まれている。どんなに暴れても上の階や周辺の建物に影響はないから安心して良いぞ」\n「ガマダス空間?」\n「市街地など人の多いところでの戦闘を想定した、被害を最小限に抑えるための閉鎖空間と考えてくれれば良い」\n\n 綱平は口にしなかったが、この空間にはメンゲレ姉妹が人体改造の際使用する細胞を活性化させ、通常の1.25倍の身体能力を発揮できる効果もある。\n\n「要するに私を特殊な空間に閉じ込めて、外部との連携を断ったのね」\n「可愛気のない女だな」\n「あら? これでも男性からはよく声を掛けられるわよ」\n(生意気な)\n\n 口の減らない女に苛立ちを覚える綱平だが、彼女が魅力的であるというのは否定しようのない事実だ。\n 資料で見た十数年前のルージュは、短髪で活発的な印象のボーイッシュな少女だったが、いま目の前にいるルージュは匂い立つような美しさと雰囲気をかもし出す大人の女性へと成長していた。\n 元々高かった身長は更に伸び、170cmはあるだろう。短髪だった髪も艶やかに伸び、動きやすさを優先しているのか、今日は後で結んで所謂ポニーテールになっている。高校へ進学してから大きくなったのか、推定Bカップくらいだったバストも、希華より1サイズ大きいEカップはありそうだ。そのくせ身体のラインは鍛えられた細さを保ち、洋服の上からでもウエストも細さを確認できる。手足もバランス良く長い。ドレスに隠れているので、ヒップの形や大きさは流石にまだわからないが、この分だとまず上玉と考えて間違いないだろう。日本人離れしたスタイルだ。希華といい、この女といい、シャルマンフルールは正義のヒロインというよりモデルかグラビアアイドルの事務所か何かなのではないだろうか?\n\n「……そんなことより、希っっブラン、フルールブランは無事なんでしょうね!」\n\n 男の不快な視線を受け流しながら、香澄は初めて不安そうな顔を見せて綱平に尋ねた。余程彼女のことが心配なのだろう。\n\n「ああ、無事だよ」\n\n どの道最後まで誤魔化しきれるものでもなし、腹の探りあいも面倒だと綱平は本当のことを話す。\n\n「やっぱり! 本当に無事なんでしょうね、もし少しでも怪我をさせていたら絶対に許さないわよ!」\n\n 女の激しい怒気を受け、それでもニヤリと男は笑みを浮かべてしまう。\n\n「何が可笑しいの!」\n「いやすまない、馬鹿にするつもりは全くないんだ。ただ発想が純粋で可愛いなと思って。安心しろ、本当に傷一つ、血の一滴も流させていない」\n「……本当ね」\n\n 敵の言うことを全て信じるわけではないが、最悪の事態は考えたくはない。どうしても信じたいと思ってしまう。\n\n「ああ、本当だとも。私を倒すことが出来れば彼女を解放してやろう」\n\n 綱平は余裕たっぷりに首や肩をまわしながら、そう言い放った。\n 男には自信があったのだ。まずフルールブランから力を奪ったことが大きい。目に見えて変わったのは目の周り、舌、指、に新しく刻まれた模様だ。男性器の模様もより禍々しさを増した。\n このことからわかるように、他にも自分でも把握しきれていないだけで、きっと身体能力は上がり戦闘の能力にも目覚めているはずだ。更にこの空間内なら1.25倍の力を発揮出来る。複数のフルールならともかく、一体一の戦いで負けるとは思えない。\n もう一つはフィジカルの差だ。ルージュのモデルのような体型は、確かに女性としては素晴らしいが、どう見ても戦闘に向いている体つきではない。体重だってきっと自分の半分もないだろう。彼女の細く美しい腕や脚から繰り出される打撃が、この脂肪と筋肉の壁を通るとは思えない。しかも投げや締めを警戒して上着は脱いだままにしている。対策は万全だ。\n\n「ただし、私が勝った場合は君にもブランと一緒に協力してもらいたいことがある。構わないね? もっとも君に拒否権などありはしないがね」\n「……貴方、見た目以上に頭の方が残念みたいね。私としても拒む理由がないし、その条件で構わないわ」\n「くくくっ、随分な自信家のようだ。すぐにその生意気な口から泣き声を出させてやる。せめてもの情けだ、開始の合図は君が決めたまえ」\n「ふふっ、貴方の薄い本性が透け始めたみたいね。では、早速始めましょう。正直これ以上貴方といるのは苦痛なの」", "preface": "舞台は最後の尋問から4時間後。\n食事と一時の休憩を与えられた希華の監禁部屋へ、綱平が訪れるところから始まります。\nどうやら彼は、リッシュモンとシャルマンフルール達が共闘し、猟犬を壊滅させたとの情報にかなり慌てている様子です。"} |
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