| {"novel_id": "n0006ct", "chapter": 5, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0006ct/5/", "title": "第四話", "content": " これといって特徴のない、何処にでもありそうな8階建ての雑居ビル。ここはその最上階にある悪の秘密結社『ガマダス』の司令室。\n\n「……お、お姉ちゃん、私怖い」\n「だ、大丈夫よ。お姉ちゃんが付いているから」\n\n その部屋で、二人の全く同じ顔をした美しい少女達が抱き合いながら震えている。\n 双子のハーフなのだろうか。明るめの色の頭髪と西洋的な優美な顔だちのなかに、どことなく東洋的な麗しさを感じさせる。\n 年齢は15~17歳くらいか?妖精のような顔つきに相応しく、体つきは少し幼い。二人とも、軍服の上に白衣という変わった格好をしている。\n 姉妹の視線の先には大きなモニターが設置されており、そのモニターには尋問室の様子が映し出されていた。尋問室には犯されて気を失った希華の姿しかないようだ。\n そこに司令室の二重の自動ドアが開き、醜い肥満体型の軍服姿の男が入ってきた。\n\n「おお、冴智様、冴慧様。御出ででしたか」\n\n 綱平は二人の少女の存在に気が付くと、片膝を着いて恭しく頭を下げる。\n\n「ツ、ツナラー、あなた何を考えているの?」\n\n 双子の姉、冴智がいきなり声を荒げて彼を叱責する。\n\n「確かにあなたには組織の運営を一任したけど、まずは組織の基盤をしっかりと作り上げることが第一でしょう? それは組織を任せてから七日目で、フルールを一人捕らえた功績は認めるけど、どうするのよ? 私達はまだ三人しかいないのよ? 戦闘員も怪人もいないこの状況で、大所帯のフルール相手にどう戦うつもりなの?」\n「……そ、それに、あ、あんな酷いことを。フ、フルールが、か、かわいそうです」\n\n 姉に便乗するように双子の妹、冴慧が冴智の背中に隠れながら非難めいた視線を送ってくる。\n\n「ご安心ください、フルール達と全面的に争うつもりは私にもありません。当然戦闘員や怪人の補充もちゃんと考えております。フルールブランには確かに可哀相なことをしましたが、私と組織の増強のためには必要な犠牲でした」\n\n 綱平は頭を下げたままそう答えた。\n\n「本当に考えてあるのね?」\n「はい。冴智様と冴慧様に研究に専念していただくためにも、問題を起こさず堅実な組織運営を図っていく所存です」\n「それなら、このまま任せるわ。精々励みなさい。だけど……」\n\n 冴智は腰から下げている乗馬用の鞭を取り出すと、綱平の肩を目掛けて打ち下ろした。\n\n「あなたの代わりは幾らでも見つかるんだからね。過ぎた夢は見ないように」\n「ははっ」\n\n 言いたいことを言って満足したのか、これ以上同じ空気を吸いたくないとばかりに、冴智はブーツで床を鳴らしながら部屋を出て行った。冴慧も慌てて姉の後ろへとついて行く。\n 綱平は二人が司令室から完全に出て行くまで、頭を下げたまま見送った。\n\n(希華を犯すとろこを見られて、嫌われてしまったかな。あれくらいの年頃の女の子って、性に対して変に潔癖なところがあるからな)\n\n 綱平は立ち上がり、肩と膝とをパッパッとで手で払う。\n\n(まあ、良いさ。実績を上げてさえいれば、流石に嫌いという理由だけで首にはしないだろう)\n\n 綱平に姉妹に対する不満は一切ない。\n 彼にとって、彼女達メンゲレ姉妹との出会いは奇跡的な幸運であった。\n 職安近くの公園で、『職を探しているのなら、改造手術を受けて怪人になってみない?』と声をかけられたのが始まりだ。おかしな娘達だなと思ったが、自暴自棄気味だったこともあり承諾。改造ごっこに付き合って、ちょっと悪戯でもしてやるかと思っていたのだが、本当に怪人にされてしまった。\n そのあと、『私達は研究が続けられればそれで良いのよね。ねえ、面倒だからあんたがボスをやってみない?』と組織の運営を持ちかけられたのだ。\n 簡単な説明しか受けなかったが、彼女達の所属していた前の組織は、二人を残して全滅したそうだ。一度は普通の学生生活に戻ることも考えたようだが、結局知識欲と探究心とを抑えることが出来なかったらしい。\n そこで彼女達は、研究室兼一支部として自分達に与えられていたこの雑居ビルと、研究費の資金を元に新たな組織の旗揚げを考えたそうだ。\n しかし、根っからの学者肌の二人にすれば、雑多な組織の運営に研究の時間を盗られるのが嫌だったのだろう。名目上のことだけだと思っていたが、まるで飴玉でも渡すかのように、簡単に綱平に強力な権限を与えてくれた。\n 組織名の『ガマダス』も、軍服を基調にした制服も、センスが悪いのなんのと言いながらも承認してくれた。\n 彼女達は彼にとって、行き詰った人生を救ってくてた恩人達である。\n 二人に救われた日から、二人を支え、守っていくと固く心に誓ったのだ。\n 借金を返し、娘を取り返すことと並んで、いまの綱平の大きな人生の目的である。\n だが、そんな綱平にも野心が無いわけではない。\n それは現状維持。\n 怪人になる際、遺伝子の操作や、骨格、筋肉、内臓にいたるまで改造手術を受け、最後に体内に『ロゴスの種子』と呼ばれるアボガドの種くらいの肉塊を埋め込まれた。そこで通常は戦闘用の能力に目覚めるらしいのだが、綱平の得た能力は性交で相手から力を奪うというものだった。\n 善悪を問わず力を持った女性さえ捕まえられれば、セックスをするだけで強くなれる能力。\n けれど、その他力本願な能力のせいか、元の力は極端に低かった。一応ボスクラスの怪人として改造を受けたのに、普通の怪人員並みの戦闘力しかなかったのだ。\n そこで綱平はこの能力を使い、まずは自分の力を増すことを第一に考えた。いまの力を持たない状態で組織を拡大し、能力のある者に現在の地位を奪われるのを嫌ったのだ。\n だからこそ、綱平は駄目元で希華を攫った。\n 組織も大きくしていくが、当面は個の力の強化を優先する。\n 組織内の地盤を揺ぎ無いものにするために。\n 雇われボスの地位を守るために。\n\n「『変身解除』」\n\n\n\n\n\n□■□■□■□■□■□■□■□■□■\n\n\n\n\n\n 見慣れない天井、光の強いLEDの照明。\n\n「…………」\n\n 眩しいと希華は思った。ベッドも少し硬いし、電気を消したい、……電気?\n\n「!」\n\n 希華は薄い羽毛布団を跳ね除け、勢いよく上半身を起こした。\n 下着はつけていないようだが、白い前開きの手術着のような服を着せらている。拘束されている気配はない。\n\n「目が覚めたようだな」\n\n 彼女が術着の胸の辺りを押さえながら声のした方へ目をやると、そこには黒い全身タイツに白いファントムマスクと軍服姿のやや細身で中背の男が立っていた。\n\n「俺はガマダス親衛隊情報部バッテン大佐だ。ツナラー総統からあんたの身の回りの世話を命じられた」\n\n 男はそう言うと軽く希華に向かって手を振った。\n\n「……」\n\n 女は警戒しているのか、それともまだ少し混乱しているのか、声を出さずに男をじっと力のない目で見つめている。\n\n「とは言え、今夜はもう遅い。風呂にでも入って寝ろ。……明日も辛い一日になるだろう。少しでも良いから体を休めておくんだな。ここが風呂、こっちがトイレ。化粧水や乳液等々、洗面道具は脱衣場にある。冷蔵庫の中の物は好きに飲食してくれ」\n\n 希華の視線を気にすることなく、男は淡々と説明を続ける。\n\n「テレビも好きに使ってくれ。ただ、電話は外部には繋がらない。内線の27番で俺を呼び出せる、何かあれば遠慮なく電話をしろ。一応断っておくが、脱走は考えるだけ無駄だ。詳しくはまた明日説明する。何か足りないものがあるならそのとき言ってくれ。すぐに用意する。何か質問はあるか?」\n「……」\n\n 男の問いに、希華は無言で顔を横に振って答えた。\n 彼女の大きな瞳には、涙が溜まっていまにも溢れ出しそうになっている。\n\n「そうか。薬を二つ置いていく。こちらが軽い睡眠導入剤、そしてこちらが緊急経口避妊薬だ」\n\n 男は気まずそうに希華に背を向け、扉の前の鉄格子を開け、通り抜けると鉄格子を閉め鍵をかける。そして分厚い扉を開け、彼女に振り返ることなく部屋を出ていった。\n 扉の閉まる音と、鍵をかける音が部屋に静かに響き渡る。\n\n「ぅぅぅっ」\n\n 希華は布団を顔に押し付け、ポロポロと我慢していた涙を零しながら、声を抑えた泣いた。\n この部屋に盗聴器がしかけれていることを考え、泣き声を聞かれるのを避けたのだ。\n これ以上あいつ等を喜ばせるようなことはしたくない。\n 頭の中をあの醜いツナラーの顔がちらつく。あんな品性下劣な男に、体を好きなように嬲られ、汚されてしまった。\n\n「うっ」\n\n 急に吐き気がやって来て、希華はトイレへ駆け込んだ。洋式の便器の蓋を開け、胃液を吐き出す。\n その間もツナラーの舌や、手が体中を這い回っているような気がして、気持ちが悪くて堪らない。\n やっと吐き終わったかと思えば、えづき、また胃液を吐き出す。\n 何度も胃液を吐き出し、もう何も出なくなっても、希華はトイレに体を預けて動かなかった。体を震わし、声を殺して泣いているようだ。\n\n「……体洗わなきゃ」\n\n そんな状態で20分くらい経ったころ、彼女はおもむろに立ち上がり、トイレの水を流すと、フラフラと風呂場の方へと歩いていく。\n 脱衣場でバサッと手術着のような服を脱ぎ捨てると、鏡に映る自分を避けるように浴室へと入る。\n そしてお湯を操作できる中で一番熱い43度に設定すると、シャワーの勢いを一番強くして、頭から浴びた。\n\n「あああああっ――」\n\n シャワーを浴びながら、希華はついに我慢できなくなり声をあげて泣き出し、浴室の壁を何度も叩いた。\n\n「……洋輔さん、ごめんなさい」\n\n 許せなかった。\n 体を、心まで弄んだツナラーが。\n 許せなかった。\n そんな卑怯で下劣で醜悪な悪党の責めに、感じてしまった自分が。\n\n「……ごめんなさい、……ごめんなさい」"} |
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