| {"novel_id": "n0006mm", "chapter": 20, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0006mm/20/", "title": "第四話(2)", "content": "「そういや、お前もオヤジが残した家族みたいなもんなのかね…」\n\n屋根付き駐車スペースに置かれた1台の自動車。\n車に詳しくない僕でも、古い型式なのは見てわかる。そして、ちゃんと手入れされていたであろうことも。\n\n「オヤジってこういう趣味だったのか?」\n\nこの家自体も古民家をリフォームしたものだ、アンティーク趣味というかレトロ趣味というか。\n『お兄ちゃんはパパのこと嫌っていたかもしれないけど…』\n春香ちゃんの言葉を思い出す。\n嫌いだったというより、接点がなさすぎて関心すらもっていなかった、という方が正しいかもしれない。\nだから、こうやって生前のオヤジの人となりの残滓に触れると戸惑いがある。\n\n僕は玄関からキーを持ってきて、エンジンをかける。\n心地よい振動が車内に響き渡る。オイル交換もきちんとされており、動作も良好だ。\n免許こそ持っているが、東京ではほとんど運転する機会がなかった。\n今後、妹たちを乗せるためにもすこしは練習しておくべきだろう。\n\nアクセルを踏み込みながら思う。\n僕とオヤジは血は繋がっているのかもしれないが、その絆は薄く希薄なものがようやく繋がっているだけのものだ。\nしかし妹たちは違う。血縁もないが、それでも一緒に暮らすことになった新しい家族。\nオヤジの代わりになるつもりはないが、彼女たちを大切にしたいと思う気持ちは本物だ。\nそしてその感情が僕の新たな人生の軸となることは間違いない。\n\nそんなことを考えながら、駅近くの職安によったりしつつ、近くのスーパーに到着した。\n食品売り場を歩いていると、後ろから声をかけられた。\n\n「ゆー兄!」\n\n振り返るまでもなくその明るい大声でわかる。\n\n「やぁ、夏帆ちゃんもお買い物?」\n\n夏帆ちゃんが手をぶんぶん振りながら走ってくる。\nスーパーの室内だけど、まだ汗が引いていないのか、肌に浮かんだ汗の雫や水分で変色したTシャツが艶めかしい。\n\n「そうなんだけどさぁ…足りないモノで重いのが多くて、自転車とりに戻るか迷ってたんだよね」\n\nランドセル姿の夏帆ちゃんは学校帰りに直接買い物にきたのだろう。\n\n「ご苦労さま。今日は車で来てるから、飲み物でもなんでもいけるよ?」\n「やった!ゆー兄、神!」\n\nそう言うなり、夏帆ちゃんはランドセルを床に降ろして中をゴソゴソと探る。\n\n「じゃじゃーん」\n\n手にしたのは『食費』と書かれた茶封筒…本当にしっかりしてるな、この子は。\n\n「学校にもってくから、あまり多めにはいれないようにしてるんだけどね…ゆー兄は持ってる?」\n「まぁ、スーパーでの買い物分ぐらいなら…最悪カードもあるし」\n「おー、車も運転できるし、カードも持ってるし大人〜!」\n\n夏帆ちゃんが尊敬まじりの目で見てくるけど、たいしたことじゃない気がする。\n\n「それじゃ、買い出し部隊レッツゴー」\n「はいはい、夏帆隊長についていきます」\n\n結局、ショッピングカートには米袋まで積まれてけっこうな量になってしまった。\n\n「お兄ちゃんは好きな食べものとかある?」\n「うーん……オムライスとか好きかな?」\n「へぇ、意外と子供っぽいんだ?」\n「じゃあ、大人な夏帆ちゃんはオムライス好きじゃないの?」\n「…好き」\n\n顔を赤らめる夏帆ちゃん。この子のコロコロ変わる表情は見ていて本当に飽きない。\n\n「じゃあ、今日はオムライスにしようかな〜卵をフワトロにしちゃうよ?」\n「すごいね、僕はできないんだよなぁ。だいたい崩れちゃう」\n「コツさえわかれば簡単だよ?」\n\nそんな会話をしながらの買い物はとても楽しい。\nまるで新婚家庭のようだ…って、奥さんにしてはずいぶん若いけど。\n\n「お、夏帆ちゃん。今日も偉いねぇ…そっちは彼氏かい?」\n\nスーパーの店員のおじさんに話しかけられるあたり、フレンドリーな夏帆ちゃんらしい。\n\n「そんなわけないでしょ。一緒に住むことになったお兄ちゃんだよ」\n「あ、どうも夏帆の兄の裕太です…」\n「なるほどね…正直、風間さんちのことは心配してたから安心したよ」\n「はい。よろしくお願いします」\n\n夏帆ちゃんがいつも通っているスーパーだからか、僕の知らないところで僕の存在が広まっていくようだ。\n\n「そうだ、夏帆ちゃん。これ持っていきなよ」\n\nおじさんが出したのは50cmぐらいの小さい笹の枝。\n\n「あ、そうか…今日は7月7日ですね」\n「そうか、七夕だ!」\n\nすっかりそういう季節イベントと縁のない生活をしていたけど、そういうのも大事にしなくちゃなぁ。\n\n「そうそう。うちで家族連れにサービスしてるんだよ。もってきな」\n「ありがとう、おじちゃん!」\n\nこういう粋なサービスもなんか地方スーパーらしいな、と思う。\n\n大量の食材と笹を車に積み込んで、夏帆ちゃんが助手席に座る。\n\n「こうすると、ゆー兄とのドライブデートみたいだね」\n「ちょっと寄り道する?」\n「いいの?」\n\n夏帆ちゃんが期待に満ちた目でこちらを見る。\n\n「じぁあね、行きたいところがあるんだ…遠くないよ?」\n\n夏帆ちゃんの言う通り、近所の丘を登るとそこは簡単な展望台になっていた。\n\n「いやー、自転車でここまで登るとキツいけど、車だとあっというまだねー」\n\nそろそろ初夏の香りをまとった風で夏帆ちゃんのポニーテールが揺れる。\n\n健康的な肌に汗が浮かび、ほのかに香る汗の匂いが不思議と心地よい。夏の青空に溶け込みそうなその姿は絵画のように美しい。\n\n「ここは、パパと来たことがあるんだ」\n「オヤジと?」\n「うん、パパはこの風景が好きって言ってた…あたしもこの街が好きだな」\n\n夏帆ちゃんの隣に立って街を見下ろす。\n駅周りやロードサイドには大きめの建物もあるけど、全体的にのんびりとした印象の風景だ。\n\n「夏帆ちゃんのお気に入りの場所なんだね」\n「うん、だからゆー兄とこれてよかった」\n\n夏帆ちゃんが手すりに寄りかかりながら呟く。\n\n「ゆー兄もこの街好きになれそう?」\n「うん、まだまだ慣れないけど…僕の大事な家族が育った街だからね。好きになれるよ」\n「だよねー。あたしのことも好きでしょ?」\n「もちろん」\n\n即答してしまった僕に、夏帆ちゃんも微笑み返す。\n\n「ねぇ?」\n「なんだい?」\n「朝…あたしにチューしようとしてなかった?」\n「なっ……」\n\nいきなりの言葉に刺されて動きが止まる。\n\n「まさか、夏帆ちゃんにそんなことするわけないじゃないか……」\n\n誤魔化そうとしたけど、夏帆ちゃんの目は明らかに疑っている。\n\n「ふーん……まぁいいけどさ。あたしもゆー兄とチューしたいかなって思ったんだもん」\n「いや、兄妹でそれはダメでしょ…」\n「アメリカだと家族でもするって聞いたよ?」\n\nそれは文化の違いだよ、といいかけて、目を閉じた夏帆ちゃんを見て固まる。\n長いまつ毛が震えて、すこし緊張しているのが伝わる。\n\n「そうだね…欧米では家族の親愛の…」\n\n言い訳をするように喋りながら、夏帆ちゃんの肩を抱き寄せる。\nそして、唇をつけるだけの軽いキス。\n\n「…へへへ、ゆー兄とキス、しちゃった」\n「これは家族としてのキスだからね…」\n「んー、今はそれでいいや」\n\n夏帆ちゃんの嬉しそうな声が耳に残る。\n\n「じゃあ、帰って美味しいオムライス作っちゃうよ!」\n「七夕の飾りも作らなくちゃね」\n\n帰り道の夏帆ちゃんは助手席で鼻歌まじりのご機嫌だった。\nまぁ、これぐらいはいいよね…?\n\nそんな言い訳をしながら、僕の鼓動はまだ落ち着かなかった。"} |
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