| {"novel_id": "n0006mm", "chapter": 3, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0006mm/3/", "title": "第一話(1)", "content": "「はぁ……」\n\n車の助手席で僕は重い溜息を吐いた。窓の外の梅雨空も僕の心を映しているようだ。\n\n「大丈夫ですか? 風間さん」\n\n運転席の若い女性弁護士——佐伯さんがバックミラー越しに心配そうに声をかけてきた。短めの黒髪をきっちりとまとめたキャリアウーマンといった感じだが、優しい眼差しが印象的だ。\n\n「まぁ……なんとか」\n僕は額を押さえながら答えた。\n「まさかこんな事になるとは思いませんでしたから」\n\n後部座席で僕は事の経緯を整理する。\n\n僕の遺伝上の父親は、母さん、つまり僕の母親と別れてしばらくして再婚したらしい。\nオヤジの後妻には連れ子が二人いて、それと父親と後妻の後に出来た娘が一人。つまり、僕には血がまったく繋がらない妹が2人と、半分だけ血のつながった妹が一人いるということだ。\nそして、その後妻さんも事故で亡くなり、オヤジもつい先日病気で死んだ。\n後に残されたのは幾ばくかの財産と持ち家、そして身寄りない女の子が三人。\n死を覚悟したオヤジが、自分のもうひとりの子供…つまり、僕のことを思い出して後を託したというわけだ。\nまったく、勝手なもんだ。\n\nしかし、僕だって遺産云々はともかく、そんな事情を聞いて女の子三人…しかも一人は俺と半分血がつながっている、を放っておくこともできない。\nとりあえず、顔合わせだけでもしましょう、という佐伯さんの提案で今からその家に向かっているところだ。\n\n「ここに住むなら仕事も変えないと…大丈夫かなぁ」\n\n引っ越すなら母が遺したマンションを処分して、オヤジの遺産も合わせて、相続税を払って、仕事もがんばれば女の子三人合わせて大学までやって…でもギリギリなんとかなりそうかもしれない。\nしかし、まだ童貞の僕がいきなりこんな子育ての心配をしているのは不条理すら感じてしまう。\nそしてこれから会う姉妹と上手くやっていけるのかと考えると胃が痛くなってくる。\nそれに加えて、僕が年頃の女の子たちと暮らす、というのは重大な問題がある…その点に関しても自分がうまくやっていけるかどうかは不安がある。\n\n「まぁ、なんとかなりますよ…風間さん、優しそうな人ですから」\n「そんなもんですかねぇ」\n「何事もまずは、です」\n\n佐伯さんは力強く頷く。弁護士として修羅場も見てきたんだろうなぁという貫禄のある笑みだった。\n\n「さて、このあたりですね……」\n\n車は地方都市の駅から少し離れた住宅地を進んでいく。\n佐伯さんの言葉に改めて外を見れば、すでにオヤジの家のある地区に到着していたようだ。\nそして目の前の住宅街の一軒がどうやら件の建物のようだった。\n古いけれど手入れが行き届いていることが窺える、一目でわかった。\n古い二階建ての日本家屋……大きな木造建築というほどではなく、一般の住宅と比べてもやや大きめ程度だろう。\nただ、やはり年季を感じさせる佇まいではある。\n\n「これ……本当に人が住めるんですか?」\n思わず素直な感想が漏れた。\n\n「築50年ですからね……」\n\n佐伯さんは苦笑しながら言う。\n\n「リフォームはいくつかしていますよ。内部は割と新しくてキレイだと思います。後で案内しますね」\n\nなるほど。リフォーム済みならそこまで酷くはないのかもしれない。\n\n「そうですか……」\n\nとはいえ不安は拭えない。本当に大丈夫なのかな?そんな疑問を抱きながら、僕は車から降りた。\n玄関までのアプローチには小さな庭があり、いくつかの草花が植えられている。手入れされた小さな庭は、どことなく温かみがあって、確かに生活の痕跡を感じさせた。"} |
Xet Storage Details
- Size:
- 4.48 kB
- Xet hash:
- 12a3c4c4054c1424f171b45a3deb66cf0c48f1c53474a7ce73b37ae40d94588e
·
Xet efficiently stores files, intelligently splitting them into unique chunks and accelerating uploads and downloads. More info.