| {"novel_id": "n0006mm", "chapter": 33, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0006mm/33/", "title": "第六話(2)", "content": "「…ちゃん、ゆーちゃん、起きて!」\n\nリビングで転がっていた僕が目を覚ますと、そこには春香ちゃんと秋花ちゃんがいた。\n心配そうに顔を覗き込んでいる。\n\n「おかえり、二人とも」\n「もう、帰ってきたらお兄ちゃんが床に転がっているからびっくりしちゃった…」\n\nまぁ、確かにリビングで倒れていたら事件っぽさはあるかもしれない。\n\n「ごめんね…でも、見てよこれ。風が通るようになったら気持ちよくてさ」\n「わ、おにわがきれい!」\n「これ、お兄ちゃんがやったの?」\n「まぁね」\n\n僕が照れくさそうに返事をすると、二人は顔を見合わせてからニヤリと笑った。\n\n「ゆーちゃん、すごい!」\n\n秋花ちゃんが僕に抱き着いてくると、塩素の香りがふわっと立ちあがる。\nそういえば今日は幼稚園でプールって言ってたっけ。\n\n「ふふ、ありがとうお兄ちゃん。庭、気になってたのよね…」\n\n春香ちゃんが僕の頭を撫でてくれる。\n\n「う、うん……お役に立てたなら……」\n\n中学生に頭を撫でられるってなかなかいない気がするけど、春香ちゃんの手つきは本当に優しくて気持ちがいい。\n\n「えらいねー、ゆーちゃんえらいねー」\n\n秋花ちゃんも僕の頭をなでる。\nこんな可愛い二人に褒められて悪い気はしない。\n\n「ふふ…ねぇ、お兄ちゃんもこの家を好きになれた?」\n「うん、だからこうやって手をいれられるところはやってみようかな、って」\n\nその言葉に春香ちゃんが笑顔を作る。\n\n「じゃあね、面白いこと教えてあげる…お兄ちゃんの部屋に額縁あるでしょ?あれ外してみて」\n「え?」\n「あきもみてみたい!」\n「はいはい、秋花も」\n\n言われた通りに僕の部屋に戻ってみる。\n僕に続いて入ってきた二人の見守る中、壁に飾った額縁に手をかける。\n\n「なんだこりゃ…」\n\nそこにはスイッチのようなものがあった。\n\n「パパの渾身の遊び…なのかな?押してみて」\n\nまさか自分の部屋にこんな仕掛けがあるなんて、ちょっとワクワクしながらボタンを押す。\nそのとたん、部屋に備え付けの本棚がガコンと音を立ててすこし動く。\n\n「こんな凝った仕掛け…よく作るなぁ」\n\nなにをすればいいのかは想像がつく。動いた本棚の隙間に手をかけて横に引いてみる。\n\n「何?親父は忍者かなにかだったの?」\n「ううん、ただの建築士…だったと思うけど」\n\n春香ちゃんも苦笑している。\n本棚の奥には細くて急な階段がある。\n\n「ちょっとこれは凝りすぎじゃないか?」\n\nでも、これは確かに楽しい。これを作ってみたかったロマンはちょっと理解できてしまう。\n\n「私もここを登るのはひさびさね」\n\n春香ちゃんが先に階段を登っていく。\n\n「あきははじめて!」\n「そうね、この階段危ないから秋花はダメって言われたもんね」\n\n確かに強引に作ったであろう隠し階段はかなり急で登りづらい。\nどれぐらい急かというと、先に登る春香ちゃんのセーラー服のスカートの中身が見えてしまうぐらいだ。\n今日はピンクなのか…と思いながら春香ちゃんの後に続く。\n秋花ちゃんをエスコートしながら登るのはちょっと不安もあるけど、まぁなんとかなるだろう。\n\n階段を登りきるとそこは屋根裏の空間だった。\n僕の身長だとすこしかがまないといけない高さだけど、広さは意外とある。\nしっかりと窓まで設けられていて、昼なら明りの必要がないぐらいだ。\n\n「ここ、屋根の下だから熱気がこもるのよね…ちょっと待ってね」\n\n春香ちゃんが窓に直付け式のエアコンのスイッチを入れると涼しい風が吹いてくる。\n\n「で、ここは?」\n「パパの書斎、みたいなものなのかな……?」\n\n確かに机と座椅子。そして図面と本が雑然と詰め込まれた本棚。\nそこは親父が仕事に使っていた痕跡がありありと残っている場所だった。\n\n「お兄ちゃんはパパに対していろいろとあるから…内緒にしておこうと思ったんだけど」\n\n春香ちゃんがすこし気まずそうにしている間にも、秋花ちゃんは窓から外を眺めたり、あちこち興味深そうに探検している。\n子どもにとってこういった空間は特別なのだろう。\n\n「うん……ごめんね、気を使わせて」\n「ううん……やっぱりパパのこと、知ってほしいと思ったの」\n\nこの家も、この部屋も、この家具も……結局この家と家族を受け継ぐということは、嫌でもオヤジという存在と対面しなくちゃいけないってことなんだろう。\nそして、それは春香ちゃんがそれだけ僕を信頼してくれた、ということだ。\n本棚を見ると、本職だろう設計関係以外にもDIYやら機械関係やらの本が並んでいる。\n\n「親父はこういうの、本当に好きだったんだなぁ」\n「そうね、しょっちゅう家のあちこちをリフォームしたり、車をいじったり…」\n「親父ってそんなに器用だったんだ……」\n\n机にうっすら積もった埃をなぞる。\n\n「お兄ちゃんもこの部屋を使って?」\n「でも、思い出の場所なんじゃない?」\n\n正直、オヤジの痕跡がこれだけ色濃く残っている場所を僕がいじっていいのか踏ん切りがつかない。\nでも、春香ちゃんは首を振る。\n\n「ううん。多分、この家の全部をちゃんと使った方が喜ぶんじゃないかな…」\n\n少なくとも僕よりはオヤジのことを深く知っている春香ちゃんが言うならそうなんだろう。\n\n「まぁ、今のところ自分の部屋でも充分だから…おいおい考えるよ」\n「ねーねー、このベッド、ちょっとかたいね」\n\n秋花ちゃんが部屋の隅にある簡易っぽいベッドで転がって遊んでいる。\n\n「そうなのよねぇ…あれ、背中痛くなるのよね」\n\nその言い方は、春香ちゃんもここで寝たことがあるというわけで。\n\n「お兄ちゃん。私とパパが、なんで夏帆たちにバレなかったと思う?」\n\n秋花ちゃんに聞こえないように耳元とで囁かれた。\nオヤジと春香ちゃんがそういう関係だったことは何度か聞いている。\nしかし、改めて『現場』だったと言われると、急にいろいろと生々しく感じてしまう。\n\n「だから、お兄ちゃんも…この部屋を使っていいよ?」\n「う、うん……」\n\nなんとも気まずい空気を感じる。\n\n「はるちゃん、ゆーちゃん、なんのお話してるのー?」\n「秋花が一人でこの階段上れるようになったら、お兄ちゃんがここで遊んでくれるって」\n「ちょっと!?」\n「…私はなにして遊ぶ、って言ってないけどなー」\n\n春香ちゃんがクスクス笑ってる。\nちょっと悔しい。一本取られたという感じだ。\n\n「おーい、みんなー!そこにいるの?」\n\n階段の下から夏帆ちゃんの声が聞こえる。\n\n「あら、夏帆が帰って来たのね…降りましょうか」\n\n春香ちゃんが屋根裏から階段を降りていく。\n僕もそのあとをついて、秋花ちゃんを抱えるようにして後ろ向きに階段を降りる。\n\n「お、はる姉、パンツ丸見えだよ?」\n「あなたが見ても楽しくないでしょ…」\n「そうだねー、見せるならゆー兄に見せないとね」\n\n足元で姉妹のやりとりを聞きながら、さっきしっかり拝見しましたとは言えない。\n階段を降りると、僕の部屋に家族大集合という形になって、流石に手狭だ。\n\n「よいしょっと」\n\n本棚兼隠し扉を閉めるて、額縁を元に戻す。\n\n「そういや、この額縁、なんか位置が高いなって思ってたんだよね」\n\n小さい子がイタズラできないような配慮だったのだろう。よく考えられてるな。\nこういう細かい気遣いもできる人だったのか。\n\n「で、お兄ちゃん。秘密基地の感想は?」\n「…オヤジが変人だったてのはよくわかった」\n「うーん、確かにすこしヘンな人だったかもしれない」\n「夏帆、それは流石に言いすぎ…でものめりこむタイプだったわね…」\n「パパはやさしかったよ?」\n\n三姉妹の証言をまとめても、まだオヤジと言う人をつかみ切れない。\nだけど、今までぼんやりとしすぎた影に少しづつ形ができていくような感覚はある。"} |
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