| {"novel_id": "n0007ht", "chapter": 1, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0007ht/1/", "title": "孤独な旅路と1つの楽しみ", "content": " 朝まで和らいでいた暑さが、徐々に高くなる太陽によって再び昨日の勢いを取り戻そうというひと時、サバンナの乾いた熱気を帯びた風がそよぐ中、少女アスリは数頭の黒い牛たちとともに、黙々と歩を進めていた。\n 大きな二重の目元にかかる前髪を残し、背中の中ほどまでに伸びるストレートの黒髪を頭の後ろで1つに結び留め、整った面影にあどけなさを残すアスリは今、牛としては歩みが早いが、所詮牛たる速度の仲間たちを引き連れ、まもなく到着しようかというサバンナの希少な牧草地へと向かっている。アスリは今朝、ロマドウ族の村にある自宅を出発して以来、サバンナで獲物を狙う獣に気を配りつつ、ここまで牛たちの許す限りの早足で進んできた。\n\n 額に汗を浮かべ、時折いつになく強い風が吹き上げる砂埃に顔をしかめるアスリの任は、少女1人には重労働ではあったが、この地で暮らす牛を飼う家庭にとって、牛の世話は子供かを問わず概して若い女性の仕事であり、アスリ自身も当然のように今日もまた、牛たちを統率している。\n アスリの日々繰り返されるこの道中も、最初から1人というわけではなく、今こうして勤めをこなせているのも、幼い頃から姉たちとともに、日によって方々に点在する草原まで、幾ばくとなく牛と出かけ、遊牧や野生動物への対処を学んできた成果によるものであった。ただ、それも十分なサポートがあったわけでもなく、アスリがまだ遊牧に出かけるようになってほどなくして、少し年の離れた2人の姉たちは、次々「半女」となり家を離れることが多くなり融通が効かなくなって、この行軍からは外れてしまい、最も年齢が近い、2歳年上の姉のラダンだけが、最後までこの毎日の小さな旅路に同行してくれていたのである。\n ところがそれも、2年前にラダンまで半女となって以来、弟を除けば最も年下となるアスリ1人が、牛を先導する役目を負っているのである。\n\n 日常の、慣れたいつもの歩みであったとは言え、1人で牛を引き連れ、背丈ほどの長さの槍を片手に危険な動物に警戒しながらの道程は易くなく、アスリはこの1人きりの日々が始まった当初、しばらくは疲労にまみれ、覇気を失った日々が続いた。そして毎晩、今日の一時の安堵を噛みしめるも、常に誰かかしらが近くにいる中で育ってきて、初めて感じる日中の孤独感を思い返し、こっそりと床で涙していたのであった。\n\n だが、利発で忍耐強いアスリは挫けなかった。長く退屈な行軍中、アスリはなぜ今この寂しさを感じなければいけないのか、自分が納得できるまで考え、ある日その答えを見出した。それは半女となったラダンや、半女からさらに成人した姉たちもそうしてきたし、他の家の少女たちもそうしてきたから、というシンプルなものであった、一見、諦めに近い考えにも思えるが、この日々を乗り越えた少女たちは皆、必ず半女になったことにアスリは気づいたのである。\n 実際、半女と子どもがどう違うのか、どうやったらなれるのかアスリは知らなかったし、母に聞いても一生懸命働いていればなれるという、全く的を得ない回答しか得られていなかった。その上、アスリも家を出るようになると牛の世話が大変だから、そんなに急いで半女にならなくて良いとまで言われる始末である。\n しかし、先行する半女たちが半女になる以前に辿った経緯を見れば、アスリの考えは事実として正しかった。半女になるということは、大人の女に近づけるということにあたる。普通の思春期の感性を持つアスリは、村で希に見かける上品に着飾った美しい巫女のように立派な大人の女になる希望を胸にして、まずその前段の半女になる日を待ち焦がれているのであった。この日々は終わりなきものでなく、近い将来にゴールを迎え、加えてその果実として半女になれるという論理は、アスリの描く将来への道筋にも合致し、痛めつけられた心を元の状態へと近づけた。\n 以来、孤独であることに変わりはなかったが、ラダンと過ごした頃と同じく、この日々をある程度は楽しむ余裕をアスリは保てているのである。\n\n もう1つ、実のところアスリには、この辛い道のりを毎日歩き続けるための、誰にも話せない大きな支えがあった。乾燥したサバンナで牧草地となりうる場所は、水の恩恵を受ける小川や泉が近くにあることが多く、中でも危険な野生動物が少ない牛たちが安全に水を飲める所にあたる。こういう場まで来てしまえば、牛たちがたっぷりと草を食んでいる間、アスリもある程度緊張を解いて、のんびり昼食を摂って水浴びができる。\n アスリはこの場所であれば、「特別な休息」もとれること、そしてそれは寂しさを十分に吹き飛ばすだけでなく、孤独であるからこそなしえることであることに、ある日ふと気づいた。そして今日もまた、飽き飽きするような延々と続く牛たちとの道のりの中に見出した、誰にも伝えたことのないやすらぎを目指し、高まる胸をはやらせているのである。\n アスリは成長によってひざ丈よりかなり短くなってしまった腰布から、スラリと伸びる足を急がせた。\n\n 半刻ほど後、アスリの一行は目的地の小川へと到着した。アスリの暮らす村からはるか離れた位置にあるこの小川の近辺は、赤土色の風景の続くサバンナのすぐ近くとは思えないほど緑も多く、アスリが向かってきた側では草原が広がり、小川を挟んだもう一方には、ところどころ背の高い草木が茂るほどであった。牛たちはワニがいないことが明白なほど澄み渡った小川に近づくと、一斉に喉を鳴らし小川の水を飲み始めた。アスリの村のまわりにも水場はあるにはあったが、人間が飲めるほどの水質の水は、村の中に点在する古い井戸から汲み上げるしかなかった。\n 別世界のようなこのポイントは、アスリのお気に入りの場所の1つであった。牛たちは満足するまで給水すると、今度はまわりの草原で贅沢な食事を開始した。\n\n アスリもまず少しぬるい川の水で喉を潤し、牛たちの身勝手な動きの遠くに不穏な脅威がないことを確認すると、ここまで手放さずに持ち続けてきた長槍を柄の方から、小川のすぐ近くに生えた木の下の陰の柔らかい地面に、勢いよく突き立てた。\n\n 次はアスリの番だ。"} |
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