| {"novel_id": "n0007ht", "chapter": 105, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0007ht/105/", "title": "慰めのもとへ", "content": " アスリはゆっくり転ばないように注意しながら立ち上がると、痺れの引かない足で洞窟の出口へと向かい、目を細めながら、午後の強烈な日差しを一度浴びた。牛たちがくつろぎ、犬もその横でひっくり返っている先では、思った通り、ユニスはもうアスリの位置からは見えないところに行ってしまったようで、かろうじて捉えた走るティサの後には、見ている側まで息が上がりそうなラリーヤの肩が続いている。\n おそらく3人は、すぐにはここまで戻ってこない。その認識と同時に、アスリの右手は腰布の結び目をほどいていた。黒い蝶とともに舞う滝へと向かう風は、アスリのところまで流れてぶつかり、それによってアスリがどうにか腰布の下で隠しきった水分は気化して、滝から上がる水しぶきと同化していく。\n\n 我慢がならない。アスリはまた洞窟の中に戻ると、まず1つ目の置きたいまつの前で腰布を広げ、何度か大きく風を送って火を消し、それが済むとたき火も消し、さらにもう1つの置きたいまつの火も消して回っていった。\n\n 洞窟は、初めてこの場を見つけた日のように、外から差し込む薄明かりだけの、真っ暗な空間に戻った。その弱い光からすら身を避けたアスリは、闇の中、一番奥の壁に背を当てて座り、腰布を両ひざの上へと掛けていった。\n かつて、家中でラダンが耽っていた時と同じ姿勢だ。アスリは右手を中央に置き、左手は上衣の中、右の小さな乳房へと這わせていく。\n\n 始まった。滝よりも水っぽい音がアスリの耳に届くよりも早く、慣れ親しんだ快感が、全身に広がる。約ひと月ぶりの大波が、アスリに向けて迫る。限界が目前に控える中、どうしても言いつけを守れずに禁忌を犯すアスリに残された、最後まで清らかであろうとする良心は、謝罪の言葉をつむごうとする。\n\n「っ…!!っ…、マッ…!んっ!ママ…、くっ…!ごっ、ごめん…っ!なさい…!」\n\n 直後、アスリの源泉から脳に向けて、波が滝登りするように激しく遡上していった。まだだ。これではユニスがいない。\n 耐え難い羞恥によって男の涙まで流した愛しき表情、引き締まった筋骨隆々の肉体、そこに不釣り合いな長い皮にくるまれた槍、不条理にも剥き出しにされてしまった赤みを帯びた核、そこから立ち上る香り高い狂気、そして勢いよくアスリに目がけて飛び出してきた、将来を作らんとする乳、これら全て、アスリは死ぬまで絶対に忘れてはならないし、死してなお、魂に刻み込まなければならない。情けなくて、意気地なしで、どうしようもない変態であるユニスの、どの一面を、どの瞬間を振り返っても、アスリにとって全てが全て、愛おしい。\n\n「あっ!ユニスユニスユニスユニスユニスユニス!んっ!ユニス!!!」\n\n アスリは火の消えた洞窟の中で、大きく煌めいた。今日はどれだけ待っても、引き波が来ない。地面に直接下ろしている尻はガクガクと激しく痙攣し、痛みが走る。それでも、それすら快楽となって、アスリの体中を駆け抜けていく。\n もう、アスリは手を動かさなかった。ほんの少し前までこの場にいた、ユニスの姿を思い浮かべ、そこにラリーヤから教わったばかりの男女の仕組みを1滴垂らしてやるだけで、何も動かしていない中央部がまた光り、波が引いていないのに、次々と新しい波がやってきては、アスリを沖へ沖へと流していった。\n\n「っ…!ユニス…!………んっ!ユニス…………!好き。」\n\n 終わりの見えない最高地点の海原の中、たった1人のアスリが愛を絞り出すと、優しい闇がアスリを包み込み始めた。無限に広がり続けていく知の洞窟の夜にあって、月となって燦然と輝くアスリは、切なくなるばかりの自らを、ユニスから授かり宿す未来に導くことも叶わず、ただただ慰めるようにその肉体を照らし出すほかなかった。\n\n アスリから時間の概念が失われて久しいが、無情にも時間は経過する。おそらくアスリは今日、これまでで最も長く最高地点に居座っている。もう全部何もわからないし、どこから何が染み出し、どれほどひどい状態になっているかも、どうでも良い。全身は不随意に動き、こわばり、刺激を与えていないというのに、次から次へと来る頂点が、何回あったかも定かではない。\n\n 薄っすらと開いた目に入りこんでくる、洞窟の入り口から差し込む真っ白な光は、アスリの長いまつ毛に遮られて、幻影となってアスリに届いている。甘美な時間であるが、やはり次にアスリが欲しくなるのは、本物のユニスだ。ちらちらと揺れるその影が、仮にもユニスとなるのであれば、ティサには本当に申し訳ないが、その初めてを少しだけ良いから、アスリは分けてもらいたい。\n\n「アスリ………。」\n\n 小さく、自分の名を呼ぶユニスの声が、アスリは聞こえた気がした。幻聴ではないあの声を、もっと近くで聞きたい。\n\n「アスリ…?」\n\n アスリの願いは、すぐに叶った。アスリが念じただけで、ユニスの声がもう一度聞こえてきた。\n ゆっくりとアスリが目を見開いていけば、そこにはアスリに向かって進んでくる、ユニスの背丈をした逆光の影があった。どうやら今日、アスリは強くイメージするだけで、好きな時に好きな相手の幻覚を、目の前に表すことができる能力を得たようである。しかし、馬鹿になった上に、馬鹿を重ねてしまうほどの快楽を受けて、その余韻どころか最中に近いほど高まっている時の考え事ほど、いい加減で不正確なものはない。\n\n「うわっ!熱っ!!!!!」\n\n 直後にこの影は、突然何かを熱がって後方に後ずさりすると、足を押さえるようにして、しゃがみこんでしまった。今日、特別にラリーヤが追加の置きたいまつを灯して配置していたのは、たしか、影のいるあたりの位置だ。もしかするとアスリが真っ暗にした後も、まだわずかに生き残っていた火が、輝くアスリを見て、負けずと再び燃え盛ろうとしていたのかもしれない。\n 無論、アスリはユニスが燃え残りを踏み抜くところなど、一切胸中に思い描いていない。すぐさまアスリの心中では理性による発言が許され、彼女らは幻聴と幻視に関わる説を、ことごとく否定していった。\n\n まもなく、物理を伴うユニスは立ち上がって、右足を持ち上げ履物の裏を払うようにすると、より慎重な足取りで再びアスリに向かって進みだした。途中からは逆光すら受けず、ユニスは闇と一体となり、近づいてくるのは息遣いだけだ。\n\n 何から何まで、あの時のラダンと同じだ。ここは一切言い逃れができない、最中の現場だ。これからアスリは、ユニスに逮捕される。アスリはユニスに、捕まえてもらえる。"} |
Xet Storage Details
- Size:
- 8.16 kB
- Xet hash:
- abd70efc992e6d23970225175b51c9ed3364131df7152d68587e6888ba40de65
·
Xet efficiently stores files, intelligently splitting them into unique chunks and accelerating uploads and downloads. More info.