Krixter/Repo / n0007ht /112.json
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{"novel_id": "n0007ht", "chapter": 112, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0007ht/112/", "title": "ラリーヤの下ごしらえ", "content": " 翌朝、いつも通りアスリの家の前にやって来たのは、なぜか動物の皮を丸めたものと、小さ目の釜を1つずつ持参する、ティサとラリーヤの2人だけだった。持ち物の説明よりも先に、来なかった1人についてティサが語ったところによると、ユニスは高熱を出し、とても長く歩けるような状態ではなく、起きてすぐに寝床に引き戻されてしまって、ユニスが来なければ、犬もついてこなかったとのことである。昨日、終盤はアスリの名前を出す失態をして、結局馬鹿のままではあったが、洞窟の中で相当量の知識を得た分、ユニスも風邪ぐらいは引くようになったのだろうか。または、あまりに中身が空っぽのところに一気にいろいろと流し込んだせいで、知恵熱が出てしまったのだろうか。\n 何にせよ、今日牛たちに同行できるのは、女子が3人だけとなる。もう父とダカクは出発し、最強の弓矢であり盾であるユニスと、その忠実な従者たる犬がいない以上、何らかの急な危険によるリスクを最低限に抑えるためにも、今日の行先とすべき場所は東の草原であり、3人分の牛乳を器に注ぐアスリには、まもなく母からその旨の一言が伝えられることとなるはずであった。\n\n ところが、牛乳を受け取って一口飲んだラリーヤが切り出したのは、今日は肌のつやがよくなる薬液を作るという計画である。朝の忙しい時間だというのに、長年の苦労が顔に刻まれつつある母は、ラリーヤの話を小耳にはさむと、直ちに目先の仕事を取りやめて傍らでキセルをふかし始め、ラリーヤがそのために今日はわざわざティサと1人1つずつ、釜を持ってきたと続ければ、勝手に裏手に回って、アスリの座る横にも古い大きな釜を無言で置きやったのであった。当然ラリーヤは、うまく完成すれば毎朝の牛乳のお返しに、母にもたっぷり持ってくると先回りして伝えて、あとは母からの無理をするなと言いつつ出てくる礼とともに、3人と牛たちは快く送り出されていった。\n もちろん、肌のつやが良くなるのなら、今日はあの煌めく遺品の腰飾りを身に着けていないが、意思は確かであろうティサに続くユニスの2回目に備えて、アスリも一刻も早くその薬液を作って全身に塗りこみたいし、先に初めてをいただくティサも同じように考えているはずである。そうなると、朝の道中の話題は美容に関するものになるし、それに回答ができるラリーヤに全体の主導権も次第に移行して、誰も何も言わずとも、牛たちと釜を持つ3人の行き先は、いつもの場所に定まっていった。\n\n アスリは正直に言って、昨日あれほどいろいろとあった後、帰宅直後から性に対する欲求以上に、4人との関係がおかしなものとならないか、不安で仕方なかった。無論、性的欲求も厳しかった。\n しかし、そもそもいやらしい皮の槍をぶらさげる本人は今日はいないし、ラリーヤもこうして普段通りの様相を見せている。やはりあえて今日、ラリーヤが釜を手に美容の話を持ち出してきたのは、昨日自らをさらけ出しすぎたことへの反省だけでなく、ティサとアスリと、本来同行するはずだったユニスに対しての配慮もあるのだろう。ラリーヤはとんでもない変態であることに変わりはないのかもしれないが、誰に言われずとも率先して気を配ろうとするラリーヤの姿勢には、アスリは感服するばかりだ。\n\n さて、滝の横に到着して、アスリが今日優先すべきは、字よりも薬液である。狩りの後処理がないティサとともに、アスリがラリーヤに何か手伝えることはないか尋ねれば、ラリーヤからは牛が口にするものよりももっと柔らかい枯れ草をできるだけ多く、あの洞窟に集めてほしいという依頼がかけられたのであった。早速アスリは、あまり牛たちから遠く離れないようにしながら滝の周辺を、ティサは池から流れる川に沿って、もっと先の方を、それぞれ手分けをして、ラリーヤの指示通りに枯れ草を拾っては、置きたいまつに引火しないよう注意しながら、洞窟の字の壁と反対の壁側の一角に集めていった。\n\n 昼食を挟んで日も傾く頃には、洞窟の中の一面が、アスリの腰の高さほどの量の、ふかふかの枯草で埋まった。3つのうち、小さい方の2つの釜にたっぷりと水を張って、川の中州で火にかけたきり、枯れ草の代わりに別の何かを集めに行ったようであったラリーヤが洞窟に戻ってくれば、その手にあったのは、長いツタに手のひらほどの大きさの葉のついた植物と、濃い黄色の果物がいくつかであった。植物の方はアスリも見識がなかったが、果物については元々ロマドウでは出回っていなかった種類のもので、アスリも初めて口にしたのは、この洞窟に来る日々が始まって、ラリーヤとティサが滝の近くの豊かな緑の中で採集してくるようになってからである。\n この、意味ありげな果物をラリーヤはどう使うのか、アスリはしばし注目していたが、果物はただ帰りの荷物の方に果物をまとめられただけであった。一方、積みあがった草は薬液に関係があったようで、ラリーヤはどこかで拾ってきた木の棒で軽く枯草をたたいて、膝丈ほどの高さまで全体を潰し、あとは香りの良い別な草をその上に散りばめ、上から持参した動物の毛皮を広げて、覆いかぶせていった。これからどうやって薬液ができるのか、アスリは一切想像できなかったが、せかせかと動き回るラリーヤにのんびり質問するわけにもいかず、ここはラリーヤについて回って、手伝えるところに手を貸すしかない。\n ここまでが済むと、ラリーヤは洞窟から出て、ティサとアスリを従えて中州に向かって行って釜の火を消し、最後に煮え立ったお湯の中に、先ほど果物と一緒に採集してきたと植物をちぎって放り込んでいった。ラリーヤ曰く、これで今日の薬液作りの作業は完了だそうで、このあと夕方にかけては、村に帰って別件をこなすため、今日はもう引き上げたいとのことであった。そう言われては、アスリもこの場に残る理由もなく、早上がりに不機嫌な鼻息を鳴らす牛たちをなだめた後、昨日の帰りのように自分に矛先が向かないように注意しつつ、腰飾りをつけてこなかったティサを、ラリーヤとともに丁寧にからかいながら村へと戻って、3人は解散した。\n\n 牛たちを所定の位置に戻した後、昨日の出来事を思い返したアスリが企てるのは、悪事以外にありえない。夕方のひと時の過ごし方を難なく定めたアスリが、母も出かけて誰もいなくなった自宅に一旦帰り、水浴びの支度を整えて、再び家を出て少し進んだ時だった。アスリの家の裏手から、誰かが駆けてくる足音が近づいてきた。\n\n「わっ!!」\n「ごめん!アスリ!」\n「びっくりした!どしたんラリーヤ?用事あったんしょ?」\n「そう!ちょっとその前に、さっき1個聞き忘れて。このあたり、あんま人来なくて、水浴びできるとこってない?」\n「えっ……?」\n\n 応じるアスリが、今のラリーヤの意図を見破るまでに時間はかからなかった。もうラリーヤがいかに変態であるのか、アスリは十分知り尽くしている。今日はユニスもおらず、女子だけの時間に登場する性の話題の威力は極めて小さかったが、結局ラリーヤは昨日1人で慰めただけでは足りず、きっと今、急を要していて、これからアスリが成したいことと同じことを成そうとしているのだろう。それでいて、ティサと別れた後にあえてこうやって聞いてくるのだから、堂々としているように見えるラリーヤにも、隠せるだけのところは隠したいという思いが意外とあるのだろうし、どうしてもロマドウの地の利がないから、こうして恥を忍んでアスリにどこか良い場所はないか、聞きに来たに違いない。\n\n つまり、ラリーヤが今日早く帰ってまでしてやらねばならなかった用件とは、自慰だ。そうであるなら、さすがに今日のアスリは全てをさらけ出して見てもらうおうと思うほど気分は高まっていないが、水辺に布の三角柱を立てて、ラリーヤが真横で自慰をする様子に聞き耳を立ててみるのは、おもしろい試みだ。または、羞恥に負けてすっきりできずに水浴びだけして、もじもじしながら帰るラリーヤを眺めるにしても、意地悪であることは分かりつつも、後々アスリの小さな糧として、火を入れていく時の導入ぐらいには使えそうである。\n\n「……あぁ、今日早く戻って来ちゃったから、あっちで水浴びできなかったもんね。前は、いっつもどしてたん?」\n「この前まで井戸の水だよ。あと、うちからちょっと行ったとこの、水出てくるとこ。あそこも教えてもらったけど、全部脱ごうとしてたら、近くにいたおばちゃんに滅茶苦茶怒られてさ。その割、朝とか夕方、布張って誰か水浴びしてるし、意味わからん。」\n「いや、適当に裸になったら超怒られるって。あとあそこは1番近いから、おじいちゃんおばあちゃんたちがよく使うんよ。私もちょうど今から行くけど、一緒に行く?」\n\n 2つ返事で同行したラリーヤに、道すがらアスリが聞けば、カインタではロマドウにように水浴びの時に布を張る風習はないそうで、男女を問わず、大人も子どもも森の中を流れる川で、気ままに素っ裸になって水浴びをしていたそうである。ただ、カインタの奥を流れる川は木々がかなり茂って、藪のようであったそうで、誰かから覗かれる心配をする以前に、木の枝やトゲで体を引っかかないようにする方が、気を遣うのだそうだ。\n 加えて、未だにラリーヤは誰からもロマドウでの一般的な入浴方法を教えてもらっておらず、むやみに全裸になろうとした経緯も手伝って、勝手に布を張るのも控えて、村内で体を洗う時は人目を見計らい、井戸の水で少しずつしか流せなかったそうである。アスリからすれば、それぐらいはいつでも聞いてもらえれば答えたのだが、最近はもっと自由の効いて水も豊富な滝に通うのだから、ラリーヤとしても我慢の限界には到達しなかったのだろう。\n ただし、ラリーヤの村での水浴びの不便は、アスリの配慮不足によるところもある。この機会にラリーヤに伝えることを、後日改めてティサとユニスにも教えることを心に留めながら、アスリはラリーヤを連れて、村から少し出てすぐの、数本の枯れ木と大き目の岩がいくつかある、枯れ川に沸いた水場まで案内すると、そのまま槍と枯れ木と布を使った三角柱の立て方を伝授していった。\n\n「……で、こんなかんじ。あとはこの中で体洗ってくんよ。」\n「なるほどねぇ。あんま近くでじろじろ見れんかったから、どうしてんかなって思ってたけど、まぁ結局、普通に3枚布張ってるだけってことか。アスリ、ありがと!この布とか紐とか、族長さんとこにもある?」\n「どこの家にもあるよ。とりあえず、せっかくできたしラリーヤ、先に入ってったら?」\n\n アスリはつい、笑みを浮かべてしまった。これからラリーヤが本当に体を洗うだけなのか、しっかりと耳を澄ませておかなければならない。\n ところが、ラリーヤはアスリの術中にはまらなかった。\n\n「大丈夫、ありがとう!やばい、早くしないと暗くなっちゃう!私急がなきゃだから、アスリはゆっくりしてってよ。じゃ、また明日!」\n\n あまりの急な反応に呆気にとられるアスリを尻目に、ラリーヤはアスリの悪だくみを見抜いた素振りすら一切見せず、爽やかに一度手をあげて、踵を返して村の方へと走り去っていってしまった。アスリが自らの行動を振り返る限り、自身に不自然な変態性が出ていた個所は、先ほどラリーヤが声をかけてきて以来、皆無であったはずである。\n ラリーヤの意図が見いだせず、思わず両手を腰に当てたアスリは、揺れる胸を押さえるためであろう、両脇を締めながら駆け、徐々に小さくなっていくラリーヤを、ただ無言で見送るしかなかった。そして、その背が見えなくなったところで、アスリは自ら作ったばかりの三角柱の中へと入って脱衣し、おかしな後味を水で洗い流してから、心を上書きするように昨日の出来事を思い出して、母への謝罪を始めていった。"}

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