| {"novel_id": "n0007ht", "chapter": 113, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0007ht/113/", "title": "水場の計画", "content": " あくる朝は、優秀な犬と意気地なしの変態も顔を見せ、1日ぶりにいつもの面々が全て揃った。昨日のうちに女子3人は、インパクトの後に生じた気まずさを、薬液作りを通してほとんど消化しきっているが、ユニスに関しては、今朝がアスリにとっての昨日の朝と同じ状況にあたることとなる。普段と同じ、アスリの家の軒先であるのにも関わらず、居心地悪そうに座るユニスは、アスリから実に素晴らしい伏し目で牛乳の入った器を受け取って、手にしたそばからその場で立ち上がり、一気に飲み干してしまった。そして、口元をひと拭いしてから、犬とともに離れた場所まで走って行って、弓をあちらこちらに向けながら、何やら練習するような素振りを見せていた。\n 一方、アスリだけでなく、ティサもラリーヤもすっかり平常運転に戻っており、こちらはのんびりとおしゃべりである。朝食を摂り終えて、ようやくアスリが牛たちの準備にかかろうとすれば、ペースの合わないユニスは早くも犬を従えて、いつもの方向を目指そうとしていた。一気飲みしたばかりの牛乳を、漏らしそうなのだろうか。\n だが、その逃げるような背は、ラリーヤによって大きく呼び止められた。\n\n「ユニス!!今日違うよ!?」\n「はっ?」\n「今日、いつものとこじゃなくて、この前まで行ってたとこ!」\n\n このラリーヤの声かけは、アスリにとっても予想外であった。直前まで薬液についても話題に上ったのだから、昨日に続いて今日も当然、草を集めるなり、湯に漬け込んだツタの様子を見るなり、滝の横で何らかの作業をするものとばかりアスリは考えていた。それが今日は、この前の場所、すなわち東の草原に行くのだそうだ。これはティサも頭になかったようで、アスリよりも先に、抱いた感情を声に出していった。\n\n「えっ?今日、滝じゃないん?」\n「今日はね、午後からまた別だから。あ、みんな一緒だけどね。場所が別。」\n\n ふいにアスリの中で、何らかの勘が走っていく。ここまで薬液が煙幕としてアスリたちの前に張られていたが、一昨日、ラリーヤはロマドウの中に食したい人物がいると言った上で、その目途を明日、ないし明後日でつけると述べていた。明日とは穏やかに流れた昨日で、明後日が今日だ。加えて、安定していたかのように思える昨日でさえ、アスリがのん気に耽る直前、ラリーヤの行動は極めて不自然であった。\n 現時点で、点在する各要素をラリーヤがどのようにつなげようとしているのか、まだアスリは見通すことができない。しかし、ラリーヤほどの強い行動力を持つ女が、明後日までと指定した今日、何かを引き起こそうとしている可能性は高い。\n\n「えっ、ラリーヤ、今日ってさ……?」\n\n 思わず傍らのラリーヤに一声かけたアスリが目にしたのは、ラリーヤの悪い笑顔だった。確信犯だ。\n\n「いいじゃん?あとでね?あっ…!アスリママ!今日はね、東の方だから、お昼にはみんな1回戻ってくると思うから。」\n「そう、お昼から何かするの?」\n「ちょっといろいろしなきゃでさ。お肌のお薬、上手にできてれば明日の夕方には持ってこれるかな?」\n「ホント!?アスリ、牛さん終わったら、ラリーヤのことしっかり手伝ってあげて!」\n\n 恐ろしい女だ。ラリーヤは完全にアスリの母の信頼を勝ち得ているし、母との会話も、すり替えていないように見えて、核心からは逸らしている。\n\n まもなく、牛たちも加わった一行は、大いなる導き手の意思に従うがまま、東の草原に向けて出発した。ユニスと犬だけが勝手に先へと進む道中、ラリーヤは昨日の朝と同じ調子で、まだラリーヤの何らかの思惑に気づいていないであろう純粋なティサと、ただただ楽しそうにいつものような会話を繰り広げるばかりである。それに合わせてはいるアスリに、この場で何らかの問いを挟み込むスキルはない。\n\n 東の草原に着くと、相変わらず女子たちを避けるようにしているユニスは、またすぐさまどこか遠くに行こうとしたが、ここでもラリーヤがどうにか再びユニスを呼び止めていった。ラリーヤはユニスのもとに駆けていくと、落ちていた木の棒で地面に何かの図を書きながら、いつになく真面目な表情で何かを語り始めている。久々の場所に、牛たちもそこまで不満なく広がるところを見届けたアスリも、ティサとともにユニスとラリーヤの輪に加わるべき時である。\n ただ、ここでタイミング悪く、どこに潜んでいたのか、ダカクが猛然とアスリに向かって走り寄ってきて、後には息の上がった父も続いてきたのであった。最近も東の草原が、2人の主要な狩場なのだろう。父もダカクも、アスリたちが今日この場に来るとは思っていなかったようで、そこからどうしてそういう話にしたいのかは不明であるが、とにかく特訓して改善した腕前を見せると言い始め、優しいティサがそれに応じてしまえば、結局ユニスとラリーヤの会話は謎に包まれたまま、先に2人の話し合いの方が終わってしまった。あとはユニスとラリーヤの方がアスリとティサへと加わって、そのまま4人で父とダカクの狩りの見学会と相なった。\n\n 父とダカクは傍から見ても大層難儀しているようであったが、昼時を迎える前になって、どうにかウサギを1匹捕らえることに成功した。残念なことに、父とダカクが意気揚々としていられたのは、6人で広げた弁当を食べ終えるまでであった。\n このあと病み上がりのユニスは、どこからか迷い込んできた、真っすぐ生えた立派な角のガゼルのような動物を、華麗に射貫いた。ユニスの鮮やかな一射は相変わらず見事であり、これだけでアスリの中でくすぶっていたラリーヤの悪い笑顔と、ユニスと話し合われていた何らかなど、何事もなかったかのように吹き飛んでしまって、アスリの最優先は照れるユニスを褒め称えることだけとなった。ほどなくして、父から一方的に元気を吸い上げてハイテンションになってしまったダカクと、一気に干からびてしまった父に後の処理を任せると、4人と犬と牛たちは、予定通り昼過ぎの草原から引き上げていった。\n\n 復路、女子3人から続く惜しみない賞賛を受けるユニスは、今日の狩りの手ごたえによって一昨日のことなど忘れてしまったのか、朝のように犬と先行することもなく、村に到着する頃には、4人の間の空気も、いつものものへと戻っていた。愛するユニスの超一級のエンターテイメントを目にして、アスリの意識の中心は、完全にユニスと過ごす楽しいひと時に向けられていた。\n それでも、アスリがユニスに気を取られているかどうかに関わらず、ラリーヤの策は先へ先へと進んでいく。\n\n「じゃあユニス、さっき説明した通りで?さっきもすごかったし、熱は大丈夫そだね。私は1回、戻って荷物取ってくるから。」\n「分かった。じゃあアスリ、案内して?」\n「え?」\n\n 牛を戻し終えてから、ラリーヤとユニスが簡単に会話を交わした後だった。突然ユニスから、アスリに依頼がかかった。\n\n「あ、えっとさアスリ、昨日の夕方のあそこまで、ユニスとティサ連れてってもらえん?今朝、暗いうちに準備しといたからさ。私もすぐ行くから、待っといてね。」\n「何?どゆこと?」\n「急がないとだから、いろいろあとで!じゃ!」\n\n そこまで言うと、ラリーヤは村の中央の方に向けて、走り去っていってしまった。全くもって要領を得ない話である。\n\n「え?ユニス、さっきラリーヤから何か聞いたんよね?」\n\n すかさず、怪訝な顔のティサからユニスに声がかかった。だが、あれほど弓の腕は立つというのに、ユニスは背中をかきながら、暇そうな山羊のような表情を浮かべている。\n\n「そうだけど、見ないとわからんて。とりあえずアスリ、そこ連れてってよ。ラリーヤが言ってた通りか、まず見ないと。」\n\n こういう時に無理にユニスに話を聞いても、ユニスを背負って運んだ時と同じく、どうせうまい説明が返ってこないことは、アスリも容易に想像がついている。ひとまずここは、ラリーヤとユニスの言う通りあの水場に行って、ラリーヤが今朝暗いうちに準備したというものと合わせて、現場の状況から午後の意図を汲み取る方が、アスリも遠回りをせずに済むだろう。ティサと犬にも目で合図を送ったアスリは、早速2人と1匹を連れ立って、昨日ラリーヤに紹介したばかりの水場へと向かっていった。"} |
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