| {"novel_id": "n0007ht", "chapter": 114, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0007ht/114/", "title": "馬上の人", "content": " 水場の近くまでやってきて、真っ先にアスリが目にしたものは、昨日アスリが組み上げたものよりも少し大き目の三角柱である。アスリが近くに寄ってみれば、いくら後で片づけるものとは言え、枯れ木に結ばれた布の紐にしても、地面に突き立てられた槍側の留め具にしても、随分といい加減な組み方で、もう少し強く風が吹けば、三角柱はいとも簡単に崩壊してしまいそうであった。また、槍のそばには、ラリーヤが染め物の実験に使ったと思われる、土気色のたたまれた布と、ユニスが先日捕まえてティサが捌いたものを干したのであろう、頭のところまでが残る肉食獣の毛皮1枚が、それぞれ丸められた上に、石を載せられて置かれていた。\n\n「はー。これなら大丈夫だわ。ファラール、この槍で。」\n\n アスリからすれば、何がこれで大丈夫であるのか一切理解が及ばなかったが、先ほど東の草原でユニスと一緒にラリーヤの説明を聞いていた犬は、これで十分なのだろう。犬はユニスの指した槍の柄の匂いを少し嗅いでから、水場でガブガブと喉を潤し、その間にユニスは犬の体に置かれていた毛皮を被せて、落ちていた枯草で、犬に毛皮を巻きつけていった。それが終われば、着ぐるみとなった犬は、ユニスが次に指した離れた場所の岩の方へと駆けて行って、その岩陰と一体となったのであった。当然、これではアスリとティサは置いてけぼりである。\n\n「で…?私とアスリ、全然何もわかってないんだけど?」\n「俺らはー、そこでいっか?ちょうど木の影で、くぼんでるし。」\n「は?どうすんの?」\n「ティサ、ラリーヤすぐ来るかもしれんからさ。それまでにこっちは準備しとかんと。アスリも来てよ。あそこにうつ伏せで、そっちの見えるようにさ。」\n「えっ?うつ伏せ?」\n「仰向けでも横でも見えんしょ?ラリーヤがそこに立ってるやつ、見えるようにって言ってたんだから。」\n\n そろそろしっかりとした説明がなければ、アスリの心中はいら立ちで溢れ返すこととなる。だが、ラリーヤも先ほど自ら語ったように、もうすぐこの場に見えるようであって、それまでにどういう訳か、うつ伏せになって待機しなければならないようだ。ユニスに急かされ、言われるがまま、アスリとティサは指示された木陰まで行って、頭を三角柱に向けるようにして地面にうつ伏せになると、ユニスはラリーヤが置いていった地味な布を広げて、2人の上に覆いかけていった。\n\n「えっ!?それ、うちらに掛けんの!?」\n「そうそう。俺も今から入るから、アスリ、もっとティサの方に詰めて。やっぱアスリ、背高いわ、足はみ出そう。俺、端っこね?ファラールが見えんし。」\n「えっ、ちょっと、うわっ!次は何?これ、上から砂かけてるよね?」\n「あっ!ティサ、動かんでよ。だから俺も入るから、大丈夫だって。埋めないから。」\n\n そうして、ユニスは近くに落ちていた枯れ草の塊を拾ってほぐし、アスリとティサの背中に載せられた布越しの砂の上に、さらにわずかな重さを加わえたところで、申告通りに布と地面の間に身を潜り込ませたのであった。これでアスリを中心にした、左手にはティサ、右手にはユニスの、カモフラージュされた大地が仕上がった。\n\n「よし、できたわ。暑っ…。これ、ファラールもしんどいな。早くラリーヤ来いよ。」\n\n 一息ついているのであろうユニスは、仕事を片付けて煙草をふかす時の大人のような口ぶりだ。そうであるなら、たまりにたまった説明不足は、今のうちにはっきりさせておかなければならない。同じ思いであるはずのティサから先に、真ん中のアスリを飛び越えて、ユニスに厳しい口調の問いが飛んでいく。\n\n「これで準備できたん?で?ってか何なんこれ?全然意味わからん。」\n\n ところがこれに続くユニスは、やはりただのユニスであった。悪気もなければ、さも当然とでも言うように、ユニスは続けた。\n\n「いや、俺もラリーヤからは、こうしとけって言われただけだし。意味は知らん。」\n「はっ!?意味わからんのに、こんなんやってるってこと?」\n「えっ!?ちょっとさ、なんでやるかぐらいは聞いとこうよ?私もティサも、こんなとこで布被って、砂かけられてんだよ?ってか、何したいか聞いとかなきゃ、なんかあった時、私らも何もできんじゃん?」\n「そうだよ、ホント信じられん。ユニス、アホでしょ。さすがにないわ。」\n「うっさい!だったら2人とも、ラリーヤに自分で聞けば良かったじゃん。」\n「そんな雰囲気じゃなかったってか、ダカクとパパ来ちゃって、聞く時なかったし。ってかラリーヤから地面に何か描いて説明してもらってたんだから、普通、あとでユニスから聞こって思うじゃん。」\n「いや、でも、絵に描いてもらった通りにはできてるからさ。」\n「どうするアスリ?帰る?あっ!ユニスのこと、このまま埋めちゃう?」\n「は!?やめろよ!」\n\n たしかに今はうつ伏せの姿勢だが、ユニスを仰向けにして一部を除いて砂の中に埋めてしまって、ティサと2人で地面に生えているところをいじめて、一昨日のように種なのか乳なのかを、ユニスに排出させれば、ユニスも少しは賢くなるかもしれない。アスリがふと、呆れるユニスに一筋の希望を見出した時であった。\n\n「あっ、来たわ…。」\n\n 小さく、ユニスがつぶやいた。アスリが見渡す限り、まだサバンナに目立った気配はない。\n\n「えっ?何?何もいないじゃん。」\n「嘘つきか。やっぱ帰る前に埋めてこ。」\n「いや、本当だって!ほら!俺らが来た方!あと声、もう静かにして。ラリーヤにこうした後は黙っとけって言われてるから。」\n「またラリーヤに言われたから?アスリはいつでもお願いできるからいいけど、私の言うことも聞いてくれんだよね?」\n「いいからティサ、黙って!」\n\n ユニスがティサに沈黙を要請した直後、赤い砂の土の広がりの奥、ロマドウの方角からごく小さな点が水場に向かって近づいてくるのが、アスリの目にも入った。\n\n 来る。来るという事前情報が入っている以上、この点は確定的と言えるほどに、ラリーヤである可能性が高い。\n しかし、あちらは思った以上に速い。時折吹く弱い風に揺れる木の葉が擦り合う音以外、静寂に包まれていたサバンナに、少しずつ大きくなる蹄の音が鳴り響いていく。\n\n 馬だ。馬に乗って、来る。押し黙って1点を見つめるアスリの隣で、ユニスが唾を飲み込む音がした。少し遅れて目を凝らすアスリも、彼方から来る馬上の者たちが誰であるか、認識した。\n\n イケメンだ。ラリーヤと、イケメンだ。茶色に白まだらの模様の馬を駆り、背後からラリーヤに両手を回されている相手は、ロマドウで唯一、イケメンだけで名の通る、あの若者だ。", "afterword": "※ 補足\n文中終盤の「イケメン」とは、31エピソード「すぐに帰ろう」に登場した、イケメンと呼ばれていた彼に当たります。"} |
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