Krixter/Repo / n0007ht /132.json
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{"novel_id": "n0007ht", "chapter": 132, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0007ht/132/", "title": "贈る相手", "content": " 知性は常に、他者に対して振り向ける優しさと親和性が高い。肩を落とし、静かに洞窟前の階段を下りたアスリに、真っ先に近寄ってきたのは、ラリーヤでも犬でもなく、牛たちの中で最も賢い一頭だった。牛からかけられた思いやりを汲み取ったアスリも、自らそちらに進み、先日ユニスが設けた囲いの柵越しに手を伸ばし、大きな黒い背中を撫でてやれば、牛の方も足元の草を食べずに、アスリに横目で何かを語りかけていた。\n\n「アスリー、2人は?」\n\n 牛からの癒しを得始めてすぐ、やや離れたところから、アスリに向けてラリーヤの声がかかった。アスリが牛からそちらに目を移せば、ラリーヤは上衣の腹のあたりを前に軽くたくしあげた中に、何かをいくつか入れて運んでいるようである。その奥、すでに場の中央には、大きな葉にくるまれた燻し肉の塊が置かれており、あとは各自が本来の昼食の弁当を携えて、揃って座るのを待つばかりだ。\n\n「まだー。あん中にいるー。」\n「まだ来んの?もうなかよし始めちゃった?」\n\n 爽やかさを基調としたところに、わずかに変態を混ぜた笑みをラリーヤが浮かべた。今のアスリに、返す言葉は特に見当たらない。\n 無言で牛と対話を続けるアスリの様子を目にして、ラリーヤも服の中に何かを入れたまま、アスリの方へと進んでくる。ラリーヤは動物的な変態だが、こちらは知性だけでなく、変態を除いてアスリの理想像だ。牛がアスリを放っておかないのに、ラリーヤもアスリを放置するわけがない。\n\n「ねぇ、アスリ?」\n「何?」\n\n 何となく、言語化できない理由で気が乗らないアスリは、1歩先のところに来たラリーヤからの呼びかけに応じはすれど、目は合わせられなかった。代わりに、アスリが目をやったのは、上衣の裾からのぞくラリーヤのかわいらしいへそと、引き締まったくびれに乗る、カインタに由来するのであろう、鮮やかなビーズを通す腰飾りの革ひもだ。当然、今日その腰飾りに、昨日のような何らかの意味を持つ花の印は結び付けられていない。\n\n「アスリ、ユニスのこと、好きなんでしょ?」\n「えっ?」\n\n 突然、アスリは言葉で殴られた。しかし、その通りだ。さすがにアスリも、ラリーヤの顔を見ない訳にはいかない。\n\n ラリーヤの表情に、変態がいなかった。からかいの道化も、いなかった。今、そこにいるのは、慈悲に満ちた、アスリを受け止め支えようとする、人としての愛だった。\n\n「……でしょ?わかるよ、見てたら。ティサほどじゃなくても。」\n\n 傍から見ていて、明らかであったと聞かされては、アスリも一層言葉に詰まる。いつの、どこの、どの場面で、ラリーヤはアスリの思いを判断したのか。たじろぐアスリが問うよりも早く、柔らかな笑みを伴って、足早にラリーヤがアスリに展開していく。\n\n「やなん?ユニスが初めて、ティサとしちゃうの。」\n「…………別に。」\n\n かろうじて、アスリが一言だけ絞り出した。述べた事柄は、理性的には正しい。ただし、本能でどうかを判断するのなら、アスリはわからないし、なぜか鼻の奥が徐々に湿り気を帯びていく。\n\n「素直になんなよ。」\n「………………バカ。ティサがあんなにバレバレで、ユニスのこと好きなんに。ラリーヤがお兄ちゃんのこと好きなんと、一緒っしょ?取り上げるわけにいかん。」\n\n もはやアスリに否定の余地もないが、好意を指摘され、そこを起点として話をされては、せっかくのラリーヤの気遣いに対するアスリの返答も、ティサがユニスへの思いに触れる時のように、ぶっきらぼうだ。ただ、ラリーヤには、それすら受け止める釜がある。\n\n「優しいね、アスリ。でもそしたら、アスリは?」\n「いいんだよ。私なんか。だってティサにはもう、ユニスしかいないんだよ?私がどう思うかより、ティサがユニスの初めてほしいって気持ちの方が大事。」\n「アスリ……、じゃあさ。」\n\n ここで、ラリーヤは抱えている服の裾の中から、1つを取ってアスリに向かって放り投げた。思わずアスリが掴んだそれは、昨日、ラリーヤがイケメンに口移ししたものと同じ、濃い黄色をした、あの果物であった。基調となる母性の上に、からりと晴れ渡る空のような笑顔を乗せて、ラリーヤがアスリに続ける。\n\n「ティサのことは置いといて。アスリの初めては、ユニスにあげたら?」\n\n ラリーヤが、正しいことを言った。アスリの視界が、一気に開けていく。\n 今、改めてアスリが振り返れば、ユニスの初回を請うティサに、アスリは引きずられすぎていた。そのために、アスリはユニスから初めてを得たティサが羨ましかったし、こっそりとユニスから2回目の初めてを取り付ける約束まで交わしてしまった。\n しかし、そもそもそれ以前に、アスリは自分自身にとっても初めてであるという確定的予測を、考慮の範疇から外していたのだ。では、アスリの初めての相手は、誰になるべきであって、アスリは誰に初めてを与えたいのか。\n\n ユニスだ。ユニス以外にいない。ユニスにこの身の全てを捧げて、さらけ出して、ユニスの思いのままに扱われ、受け取ってもらうのだ。\n 滝の水で冷やしていたのであろう、手中に広がりゆく、ひんやりとした果物に触れている感覚とは対照的に、アスリの腹の奥底と、心が、熱くたぎって上気する。ユニスの2番目であっても、アスリにとっては1番最初だ。\n\n「じゃあ、決まりね。まぁ、ティサがダメって言ったら、そん時はー……、また考えよっか。」\n\n 果物を握ったまま、ぴくりとも動かずラリーヤを見つめたままのアスリを、ラリーヤが決めた。これでラリーヤが知るはずもない、アスリとユニスの2番目の約束と、ラリーヤからの支援という2本立てがアスリの陣営の構成となり、あとはラリーヤも述べた通り、ティサ次第だ。昨日のラリーヤとイケメンのように、ユニスと1つの肉体としてつながりたいアスリにとって、ラリーヤのアシストは非常にありがたい。\n\n「……なんか、ありがとう。」\n「なんそれ?なんかって、なんなんー?」\n\n ラリーヤが笑い、アスリも晴れた。ティサがユニスと終えた後に、アスリはどうにかして、ユニスを寸借し、ユニスに全てを貸し出すだけだ。\n ただ、晴れ渡るアスリの思考には、1点、まだ雲が残っている。目の前に機会があるうちに、この余計な雲は解消しておくべきだろう。\n\n「…………ってかラリーヤ、ティサにもそうだけど、なんでここまで、いろいろしてくれるん?」\n「アスリだって、私にいろいろしてくれてるし、してくれたじゃん?」\n「少しはそうかもだけど、その……、ラリーヤ、特になかよしはさ、気合い入ってるってか、ティサにも私にも、ユニスにも、すっごい勧めてくんじゃん。あっ、ヘンタイだからか。」\n「変態って言われんのは良いけど。」\n「良いんだ。」\n「いや、この流れで変態はないっしょ?あと、私がえっちなこと、大好きなんはあるけど……。」\n\n ラリーヤの表情に、アスリの雲が、ほんのわずかな間だけ移った。柔らかさに真面目さが加えられたラリーヤは、雲を助言へと換えて、アスリへと送り返していく。\n\n「さっきティサにも言ったけど、絶対良い思い出にしてほしいから。じゃないと初めてなんて、あっという間に持ってかれる。」\n\n 経験だ。ただ、重量のある言葉に、ラリーヤの過去がずっしりと敷き詰められていることだけが、大きな音が体中に響くように、アスリにも伝わってくる。問いたい事柄がアスリの脳裏をいくつかよぎる一方で、アスリが続けるべき言葉はどこにもない。だが、ユニスとの初回は、ティサには申し訳ないとは言えども、アスリが精一杯楽しまなければ、ラリーヤに顔を向けられないことは十分に理解できる。\n\n「だから、ユニスが好きなら、ユニスにあげなよ。」\n\n 素晴らしい笑顔だ。話しぶりからして、後悔の残る形となってしまったのであろう、ラリーヤのこの笑顔を初めて受け取った人物は、果たして誰なのか。受け取った言葉をアスリが咀嚼する中、ふいにラリーヤはアスリから視線を外した。\n\n「あ!出てきた!」"}

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