Krixter/Repo / n0007ht /142.json
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{"novel_id": "n0007ht", "chapter": 142, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0007ht/142/", "title": "自主", "content": " この果物は、性から遠いように振る舞うティサを、昨日のラリーヤへと変えてしまう、第一歩ならぬ第一口なのだろうか。ただ、ティサの一挙手一投足は、疑義を基礎としている。\n\n「……これ、何もついてないよね?」\n「あぁ、昨日みたく、おまんこスッてしてあげよっか?」\n「バカ!!そういうんないかって聞いてんじゃん!!」\n「はいはい、今切ったんだから、なーんもないから。」\n\n 今日は先にティサであったから警戒が間に入ったが、昨日と同じくユニスが先であれば、何も考えずに一生懸命食べたであろう。簡単なやり取りでラリーヤにかわされたティサは、もう食べる以外に選択肢はない。\n\n「大丈夫だから、ちゃんともぐもぐしてね?うん、おいちおいちーだねー?」\n\n ティサを見つめる、どう見てもいやらしいはずのラリーヤは、ここでは母性を伴った、柔和な実直さを表情の中心に据えている。対するティサは、アスリからは後頭部と側面の髪しか見えないが、顎は動いているようであって、授受は正しく成し遂げられた模様である。赤子に向き合うような笑みを挟んだラリーヤは、今度は自らユニスまで産み落としたがごとく、緩んだ頬とともに、次の一口をユニスへも送る。\n\n「はい、次はユニスね?あーーん?もぐもぐだよー?」\n「ん、っ……………………。」\n\n ティサと同じく、ラリーヤの方に顔を向けるユニスが頭の後ろで束ねる髪も、咀嚼の度に上下左右する。その最中、下方でだぶついている皮槍をアスリが見やれば、こちらはやや角度を取り戻しており、ティサの腰のあたりに触れそうな高さである。どうしようもない女の変態がいるせいで、洞窟は全て支配されてしまっているが、やはりこの意気地なしも変態だ。\n\n「おいちねー?さっきまでお水で冷やしといたんだから、さっぱりっしょ?ほら、アスリも食べなよ!いくよ?」\n「いや、ちょっと!!」\n\n 母性から、一気に世代を少女に巻き戻しつつ、ラリーヤは果物の供給を続ける。ユニスとティサの体の壁を飛び越して、切り出した果物をの真上に投げてよこそうとしたラリーヤをアスリは止め、右手をユニスの背後へと回せば、滝の水の冷涼さがアスリの指先に載った。\n 受け取るままに、口の中へと放り込んだラリーヤからの一口分は、たしかにアスリが過去に食したどの果物よりもよく冷えている。だが、目の前で手をつなぎあったまま、まだ口を動かしている2人は熱く、残念ながら味に関して、アスリに酸っぱいほかの感想はない。熱源の奥では、やっとラリーヤも同じく果物を口に入れたようだ。\n\n 直後にティサの喉元が、ごくりと一度動いた。同じくユニスの喉元も、より男子らしい明確さを伴って動作する。慌てたアスリも、冷たい塊を一気に飲み込む。\n ティサも、ユニスも、アスリも、まだ噛んでいるままのラリーヤを見つめるしかない。ゆっくり、じっくりと果物を味わうように噛む動きをするラリーヤの口元以外、洞窟は、現状のまま止まった。\n\n「…………何?みんな?」\n「は?いや、そんなん……。」\n\n 刃を手にしたまま、口元を覆って問うラリーヤが、意地悪な笑みを追加した。声をかけたにも関わず、ティサは言葉に詰まって、ユニスの左手とつなげるその右手も、力をこめるように握りしめる。ラリーヤもやっと、果物を飲み込む。\n\n「……で、ティサ、次できそ?」\n「えっ、それって……?」\n\n ラリーヤが一足飛びに進んで、一度立ち止まった洞窟を、再び勢いよく加速させた。刃に刺された次の一口分が、ティサの口元へと進んでいく。\n\n「ほら、昨日の私みたく。もぐもぐして、ユニスのお口に、あーんしてあげようよ?」\n「え、ちょっ…んんっ!!」\n\n ティサが拒否するよりも早く、その口中には、新たに切り出された果物が押し込まれてしまった。果物を刺しているのが刃であることもあって、こうされてはティサも怪我をしないよう、出された果物を唇で受け取るしかない。\n\n「んー!んっ!」\n「大丈夫、大丈夫。お目めは閉じようね?」\n\n 残る果物と刃を足元に置きやったラリーヤは、すぐさま立ち上がると、ティサに優しいトーンで声をかけながら背後に回って、その目元を右手で撫でていった。そうしてラリーヤは、ティサのまぶたが確実に閉じたことを視認してから、ゆっくりとティサの頭を後ろ側から両手で支えるようにして、ユニスの方へとティサの顔全体を向けさせたのであった。\n\n「はい、もぐ、もぐ。まだごっくんしちゃダメだよー?」\n\n ラリーヤの言葉に合わせて、ティサの口元も2回動いた。同時にアスリに向けて、ラリーヤの目元から新たな要請がかかった。ユニスまでもラリーヤを見てから、アスリに目を向ける。果物を抜きにして、ユニスにもティサと同様のことをしろということだろう。念のため、アスリが一度ユニスの目元を指さし、ラリーヤに目で交信をかけると、アスリの認識通り、ラリーヤが連続して小さく頷いた。\n それをアスリが、ユニスに瞳で送り返す。ユニスも目を閉じたティサの表情を、一度真正面で受けとってから、自ら視界を閉ざす。すぐさま、アスリもユニスの背後へと回って、ユニスの両肩に両手を載せていく。\n\n「ティサ、ちょっとだけ背伸びできる?」\n\n ラリーヤがティサの頭を傾けさせながら、2人の口元の高さを合わせた。ユニスとティサの身長差は、ユニスの方が少し高い程度であるが、ティサから口移しするのであれば、用いるのは重力だ。アスリも無言でユニスの肩を上から押さえ、上からくるティサを、ユニスが受け止められるよう頭部の位置と傾きを調整する。\n\n「ユニス、頭、ちょっと横に傾けて?そうそう。」\n\n 固く目を閉じたユニスの顔を、斜め後ろから覗き込むアスリも、ユニスに誘導する声をかける。極めて慎重な作業だ。先ほど、アスリは極大の羞恥の指摘を頂戴したが、今はそれより目の前のひと時に全てを捧げなければ、ティサは前に進めないし、ユニスも中に入れない。\n\n ユニスを強く感じる空気の中に、ティサに由来する新しい汗の匂いが、ふわりと加わってアスリに届く。アスリの補助する、ユニスのこわばった首筋にも、小さな汗の粒が浮かんでいる。2人が、緊張に包まれている。準備は整った。\n\n「じゃ、ゆっくりね?」\n\n 始まりを告げたラリーヤが、そっとティサの肩を押してから、アスリにもまた目で合図した。アスリもユニスの肩を、柔らかく押し出す。\n\n 両手をつなぎあう2人が、口元の距離も詰めていく。斜め上からアスリが目視する中、唇と唇が、近づいていく。\n\n「…………っ!!」\n\n 次の瞬間、2つの唇同士が、接触した。口づけをしたまま、2人が動きを止めた。2人の表情は、いずれも眉間にしわを寄せていて、閉じたまぶたに強く力をこめている。ティサもユニスも、自身の唇の感覚にだけ、全身の意識を集合させているのだろう。\n\n「よしよーし。そしたら、お手てはこっちにしよっかー?」\n\n アスリもまだ気が抜けない。今のラリーヤの言葉は、次の指示だ。向かい側でラリーヤが、せっかくつながったはずの両手をほどいて、その手をそれぞれの背中にまわしかけてやれば、アスリも同じようにティサの手をユニスの背に、ユニスの手をティサの背に流していった。\n 先にラリーヤによって、ユニスの手がティサの背に触れた瞬間、ティサがびくりと背中を震わせる。目を閉じて、唇は愛する人とつながって、何がどう転がるかわからないこの状況下、ティサも1つ1つの触れ合いに過敏になっているのだろう。\n\n 抱きしめあおうとする2人の影が、洞窟の壁に広がっていく。文字通り、2人の体の間には、\nまだわずかな空間が残されており、抱きしめあってはいない。当然、性に真の意味で厳格なラリーヤは、中途半端を許さない。\n\n「ほら!2人とも!ちゃんとくっついて!」\n\n ラリーヤが2人の尻をはたいた音が、空間に小さく響いた。それによってわずかに後ろに引かれた2人の腰を、ラリーヤは両腕で強く中央に向けて挟み込むようにして、2人の全身を密着させた。\n 驚いたように大きく動いた2人が、とうとうお互いをきつく抱きしめあった。その衝撃によってか、ティサの唇の端からは、ティサと果物の混ぜ物が一筋あふれ出す。\n\n しかし、この衝撃は、ラリーヤとアスリの成すがままであったユニスをも変化させた。刻々と変化する光景を見定めるアスリが、続くユニスの行動から見出した真意は、自主であった。\n いよいよ何らかの発火があったのであろうユニスは、ラリーヤの指示もないうちに、ティサをこぼさぬよう、頬の形を変化させた。それを受けてティサも、ユニスに全てを委ねて、閉ざしていた口元を緩ませていく。\n\n ユニスが、ティサを飲んでいる。2人の眉間にこめられていた力も、弱くなって、とけていく。\n\n 今度はティサも自らの意思で、ユニスの背中に回す両腕に力をこめて、密着の中にさらにユニスに近づこうとすれば、ティサを飲み干したユニスも、背をのけぞらせた中腰をやめて、元の身長に戻りながら、ティサの唇を独占する。触れ合う唇の様子を追いかけようと、アスリがユニスの背後から、さらに2人の顔を覗き込めば、そこに広がっていたのは男女の煌めきだった。\n\n 美しかった。2人はやっと、羞恥の壁を乗り越えて、その奥に何らかを見出したのだろう。これが、森で長い時間をかけて育まれた、愛だ。\n\n アスリは、羨ましくて仕方なかった。2人がともに育ちながら分かち合ってきた時間に、アスリが割り込む余地など、あるはずがない。美しい2人の時間に、アスリは嫉妬してはならないし、こうしてこれから、初めてと初めてが結ばれていくのだ。\n ここまで逐一指導していたラリーヤも、抱きしめあう2人を優先する。唾液が、唾液と絡み合う小さな音が、洞窟中にこだまするかのように、アスリの鼓膜を強く殴打する。切ないアスリの瞳の奥が、より一層寂しくなる。\n\n ふと、ティサの長いまつげが、ほんの少しだけ上方に持ち上がった。最も近くでユニスを見つめるティサは、今、ユニスに何を思うのだろうか。ほどなくして、ユニスの瞼もティサに続く。\n\n 薄く開かれた4つの目が、見つめあった。目があって、次に2人にもたらされたのは、おそらく少年と少女としての、普段通りの2人の関係性に違いない。吹き出すようにして、ようやく2人は唇と体の密着を外すと、ユニスはアスリから見て右に、ティサは文字の壁の方へと顔を背けたのであった。\n\n「……頭おかしくなりそう。」\n\n ティサがはにかんで、小さくつぶやいた。未だ左手はユニスの背に回したまま、右手の甲を口元にやって、こぼれてしまった果物をぬぐいながら、赤らむティサの頬に広がっていたのは、言葉に反して、明らかな幸福だった。"}

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