| {"novel_id": "n0007ht", "chapter": 151, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0007ht/151/", "title": "綺麗な言葉", "content": "「いやっ……!!いやっ……!!」\n\n 背中の中ほどまでを草に横たえ、左右のアスリとラリーヤに肩を支えられながら、首を起こすティサの顔の上では、しかめた眉と歪んだ唇が、ティサの今が何たるかを代弁している。そこに涙はないものの、うるみゆくある2つの瞳に、もはやユニスを飲んだ直後の余裕は、どこにも残されていない。\n アスリも見ていていたたまれないが、急な展開を伴ったのだから、しかるべきだ。ラダンもこうして嫌だとしか言えなくなって、赤子のようだと母に揶揄されていたのだし、アスリが同じように無様な体勢を取らされたのならば、これほど優良な糧はない。\n むしろティサは、まだ両手で最も重要なところを隠しているのだから、卑怯だ。もう守る手の横から、茶色い毛がところどころがはみ出てしまっているのだし、いつまでも隠しきろうとするべきではないだろう。刻一刻と、ティサの自殺が迫っている。\n\n「ティサ?がんばろ?」\n「やぁああだ!!!」\n\n ティサがラダンなら、あの罰の時、姉と妹の立場を逆転させたように、アスリも姉になる。励まされるティサは、大人の証を伴ったまま、幼く退行する。\n\n「んふふふふ……、ティサ、やーやーしちゃダメでしょー?ほら、ユニスも、もっと近くおいで?」\n\n 拒むティサに、ラリーヤも一切動じず笑ったのだから、やはりこちらは相当な変態の手練れだ。草の上で何もかもをさらけ出す膝立ちの男子も、ラリーヤの勧めに伏し目をやめて、ティサを直視する。\n\n「ティサ……。」\n「だめぇえええええ!!!だめぇえええええ!!!ユニスだめぇえええええ!!!!!」\n\n ティサが声を張り上げる。拒否を貫くティサの声に、なぜか甘く上ずった女子が滲む。アスリもこうして、悲鳴とも歓声ともつかない声を上げて狂ってしまいたい。\n\n「ティサ。」\n\n もう一度、ユニスがティサを呼んだ。ユニスの喉骨が、上下する。ごくわずかに、ユニスの肩も力む。アスリが、ユニスの決意を直感する。\n\n 膝立ちの確固たるユニスが、草の上に両手をつけた。ユニスの顔が、前に進む。\n 固く目を閉じ口も結んだティサは、ラリーヤの方へ頭を倒して、最後の逃亡を試みる。しかし、その先で待つのもまた、ラリーヤの乳の袋小路だ。\n\n「ティサ、ユニス嫌い?」\n「違っ!!!」\n「じゃあ好き?」\n「………………バカ。」\n\n 意固地なティサが、達者なラリーヤに誘導されて、閉ざしていた瞼をほんの少し開いた。ティサが斜めに見つめる先、ユニスは首筋をぴくりと動かす。\n 覚悟はできているはずであるのに、ユニスははにかんでいる。どんなに鈍い人物でも、今のティサの反応は、自身に向けた想いの告白だと受け取るだろう。これまでに数度、ティサのユニスへの好意はラリーヤによって暴露されていたが、全裸で耳にする今回は、同じ情報でも量が多いに違いない。\n\n「んふふふ……、ユニス、お口。」\n\n ぎこちない2人の間に巧みに割って入るラリーヤが、ユニスに口を助言した。ユニスもさらに上体を近づければ、後ろで束ねる長髪は左肩へと流れ、アスリにもユニスの風を小さく送る。ユニスを見られないティサが、また目をつぶった。\n まもなく、ユニスの口は、ティサが手でひた隠しにする真下、茶髪の合間に待つ女と口づけするだろう。ユニスが口で、ティサに押し入るのだ。\n\n ユニスの右手が、ティサの左頬に置かれた。ティサが驚くように目を大きく見開いて、正面から目を合わせる。ごく間近な2人の距離に、瞳と瞳を結び付けあう、アスリの目にすることのできない線が張り詰める。\n\n 外れた。珍しくアスリが、見誤った。\n ユニスが口づけしたのは、ティサの唇だった。その瞬間、ぴたりと洞窟の時間が止まった。口を、ユニスはこうして解釈したのだ。\n\n 直後にユニスは後ろに下がって、伏し目に戻り、時間は再度流れ出した。同時に、アスリが触れるティサの足から、内側に向く隠れようとした力も気配を消した。\n 最後の貞淑を、ティサが失っている。とうとうユニスが唇で、ティサを吸い上げた。\n\n「…………ユニス、ホントにするん?」\n\n とろけたような半開きの目で、ティサがユニスに、とうに決まったことを、繰り返すように問う。早すぎず、かつ遅すぎず、最適な間を置いて、いしおらしいユニスが黙って頷いた。等しい間を挟んで、ティサが続ける。\n\n「…………ホントに?汚いよ?」\n「ティサ…………。」\n\n 次のユニスは、すぐにティサを呼んで、斜め下に向けていた視線をティサの瞳に戻した。あわせて、ティサの頬に置かれたままだったユニスの右手の親指が、ティサの左の目元を穏やかに撫でた。\n\n「綺麗だよ。」\n\n アスリの視界の隅で、いくつか星が瞬いた。一度も耳にしたことのない、極めて高い耳鳴りが、アスリの右耳から左耳へと抜けていく。\n\n なんと、完璧な一言だろう。なんと、羨ましい一言だろう。なんと、美しい言葉だろう。なんと、綺麗な言葉なのだろう。\n\n たしかに今のユニスの一言を、普段の延長線上にあるシンプルなユニスによるものとして捉えれば、綺麗という言葉は、ティサの発した汚いという発言の打ち消しでしかないのかもしれない。だが、凛々しさと恥ずかしさ、またはティサの想いを受ける嬉しさ、さまざまな感情で揺れ動いているであろうユニスの、奥ゆかしい眼差しとぬくもりを得ながら、面と向かって綺麗だと囁かれれば、どう考えようとユニスの言葉の意味は深い。\n 叶うならばこれからの一生の中で、ユニスからかけられる綺麗という言葉を、一度はアスリも聞きたい。そしてその前には、優しい口づけを1つ、ティサと同じように分けてもらいたい。\n\n「……………………バカ。」\n\n ティサも、星を見たのだろうか。せっかくのユニスに、ティサが突き返したのは弱い罵倒だ。その本心は、確かに愛である。\n\n「…………知らないよ?ホントに。」\n\n ティサの理性も、観念した。もうこれ以上ティサは、ユニスに顔を向けられないのか、ユニスに触れられていない右側、アスリの方へと頭を軽く倒し、ユニスとの視線を終えると、狩りの時のように完璧なユニスもティサを察して、ゆっくりとティサの頬から手を引いた。そうしてユニスは、両手を草につき腰は落として、ティサ全体を俯瞰する体勢を取っていった。\n たたまれたユニスの両太ももの奥には、やや角度を戻しつつある皮が控え、袋もせりあがりつつあるようである。今、ユニスの余計なところまで凝視すると、アスリは発狂してしまう。正しい目のやり場は、別な1点だ。\n\n アスリに限らず、ユニスとラリーヤの視線も、自然とティサの両手に集まっていく。この手が諦めた時、やはりアスリは発狂するしかないのかもしれない。\n\n「…………やだ、恥ずかしい……。」\n\n 心を落ち着けるように空気を吸いこみながら、アスリが上がってきた苦しい言葉の出元にも一度顔を向ければ、勇気をもらったはずのティサの唇は、前歯で甘噛みするように織り込まれている。眉も歪ませ、大きな瞬きを続けるティサが、自身の理性と闘っている。\n\n「ティサ、がんばろ?」\n「大丈夫、もうちょっと!」\n\n 思わずアスリも、友人として声援を送る。悪に包まれていたはずのラリーヤも良心に満ち、心を込めてティサを励まし、ティサの背に回す手を動かす。ティサを、撫でているのだろう。アスリの左手も、ラリーヤに歩調を合わせる。\n\n 動いた。ティサの手が、動いた。\n まず最も後ろを守っていた右手が、上方へと後退した。今の姿勢のアスリからほとんど景色が変わらないが、ユニスにはティサの尻の穴が見えてしまっただろうか。\n そのユニスは、ティサの手が断念した個所を、当然直視している。肛門を晒すことも重要だが、この先がさらに重要だ。手は、ティサをここで躊躇させる。\n\n「頑張って!ティサ!」\n\n 再度、アスリはティサを応援しながら、裏をかくようにティサの膝裏に回す腕の力を強める。高く切り立った崖の真上のティサが、まだためらう。\n しかし、後ずさりしない。少しずつ、少しずつ、前へ前へと進んでいく。\n\n ほんの一瞬、ティサの指が、水面に広がった布をすくい上げた時のように、真上に上がった。ティサが、崖の上から身を乗り出して、真下を見たのだ。\n 何かを、アスリは見た。ラリーヤも、ユニスも見たはずだ。だが、布は水面でまたすぐに広がる。\n\n またティサが、崖の淵から下を見る。もう一度、アスリが見た。肛門と泉と思しき個所の間に、皮膚の空間が見えた。少し褐色もあった。まだアスリは、詳細を掴めない。\n\n「恥ずかしい…………。」\n\n おかしくなる言葉だ。ユニスの狂気を受け止めた口からは、狂気が言葉となって、アスリの頭の中でこだまする。\n\n「ティサ。」\n\n 強いユニスが、ティサの名とともに、瞳を送る。満潮のティサが、眉間にしわをよせながら両目をしっかりと閉じ、顎を手前に倒すようにしながら、頭と上体全体をアスリの方へと傾ける。\n\n「やだ……、見ないで…………!」\n\n 願いと相反するように、ティサが広げていた両手を、干した布を取り込む時のように、へその前へと引きあげて、その形をこぶしへと変えていく。出来たばかりのこぶしもせり上がって、手首だけが少し前に出る。\n\n ティサの髪と同じ、茶色の台形だ。まだ色がある。ティサの色が、アスリを駆け抜ける。褐色と、潤った桃色だ。とうとう、ティサが全てを明らかにした。"} |
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