| {"novel_id": "n0007ly", "chapter": 1, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0007ly/", "title": "陰キャオタクなモブ男の俺は、毒舌ツンデレの負けヒロインに恋をしている。(この世界の負けヒロインとモブ男の俺が結ばれるまでのお話)", "content": " 鳳凰飛雅という男は、俺が暮らしている世界の主人公的存在だ。\n\n 成績優秀、スポーツ万能、おまけに容姿端麗。\n ラノベや漫画では根暗な陰キャが主人公だと相場が決まっているが、彼の場合は本当の意味で『主人公属性』を持っていると言えるだろう。\n\n「はわわ、鳳凰様……今日もビジュ良すぎっ」\n「ホント格好いいわぁ。仕草の一つ一つがメロい……」\n「この大学入って良かった〜。マジ神だよ〜」\n「私、一度でいいからお話してみたいなぁ」\n「いやいや、ウチらみたいなモブに興味ないっしょ」\n\n 周囲の女子学生が熱っぽい瞳で鳳凰を見つめる。\n その表情は酒を飲んだようにとろけていた。\n こういうタイプの人達は推し活で散財しそうだから、少し危なっかしいと思う。\n\n「飛雅〜、おはよう〜! グッモーニングっ」\n\n 覇王的なオーラをまとっている鳳凰に、なんの躊躇いもなく近付く女子学生が一人いた。\n 一之瀬美奈萌。彼女は俺が暮らしている世界のメインヒロインだ。\n\n まるで一流芸能人のように美し過ぎる容姿をしている一之瀬は、創立100年の伝統ある我が大学の歴史上初めて推薦入試でこの地に降り立った圧倒的な実力者だ。誰もが彼女を尊敬しているし、好意を寄せている。\n\n 自らの研究以外に一切の興味を示さなかった変わり者の教授が一之瀬の会話テクニックにより数分で骨抜きにされたというエピソードはあまりにも有名だ。同期生の間では飲み屋の鉄板ネタとして今でも語られているらしい。\n\n 完璧超人、一之瀬美奈萌。\n 彼女こそが鳳凰飛雅と結ばれるべき相手だ。\n\n ……と、周りの学生は口を揃えてそう言う。\n\n「おはよう、美奈萌。今日もキミは元気だね」\n「うんっ。絶好調だよ。飛雅も、元気そうで良かった」\n「ははっ、気遣ってくれて嬉しいな」\n\n 和気あいあいと楽しそうに話す鳳凰と一之瀬。\n まるで絶対的な権力を持っている神同士が聖なる泉で羽休めをしながら歓談しているようで、俺達のような凡人には踏み越えてはいけない一線が見えるような気がした。\n\n 世間ではこれを『尊い』と呼ぶのだろう。\n 仲睦まじそうに話す二人の関係性があまりにも美しすぎて、学内でもヤバい奴認定されている距離感のおかしいストーカー気質の学生が近付くことすらおこがましいと自重するほどだ。\n この事実だけでも彼らが俺達のような一般人とは全くの別世界から来訪した神聖な上位存在だという可能性に確固たる信ぴょう性を持たせるだろう。\n\n「あ、飛鳥ちゃんだ〜。おはよう〜」\n\n 一之瀬が一人の女子学生を見つけて、駆け出す。\n 絶対的なヒロイン属性を持っている一之瀬に声をかけられるだなんて、並大抵の人間なら恐れ多くてその場で平伏するだろう。しかし、話しかけられた女子は恐れるどころか柔和な笑みを浮かべる。\n\n「おはよう、美奈萌。今日も相変わらず元気ね」\n「うんっ。飛鳥ちゃんもね」\n\n 一之瀬美奈萌の一番の親友にして、この世界のもう一人のメインヒロインである女子学生の名を、雨城飛鳥という。\n\n 背中まで伸びているストロベリーピンクのロングヘアーは毛先がウェーブがかっており、身体付きも華奢で女性的な魅力がある。\n スラリと高い170センチ程度の長身は、職人がその生涯の全てをかけて作り出した美し過ぎるドール人形のようだ。\n プラスして黒を基調としたシックな印象を受ける涼しげなワンピースの組み合わせは、まるで仏国はパリの街に住むご令嬢をイメージさせる。\n\n「飛鳥、おはよう」\n\n 鳳凰が雨城に笑顔を向ける。\n 並大抵の女子なら嬉しさのあまり卒倒するだろう。\n けど、彼女は眉間にシワを寄せて嫌悪感をあらわにする。\n\n「気安く話しかけないで頂戴。主人公気取りの大馬鹿者さん」\n\n 猛禽類のように鋭い眼差しが突き刺すように鳳凰に向けられる。\n 気の強い女子特有の低音ボイスは、地の底に響き渡りそうなほど身の毛のよだつ声色をしていた。\n 大抵の人間なら恐怖のあまりその場でチビっているだろう。\n\n「ははっ、相変わらず飛鳥は厳しいな」\n「もぉ、飛鳥ちゃん怖い顔し過ぎだよ〜。せっかくお人形さんみたいに可愛いのに」\n\n だが、鳳凰と一之瀬にはまるで効いていない。\n そればかりか、軽くいなされるだけだ。\n 不服そうな表情をする雨城だが、プイッと鳳凰から目を逸らして彼の隣に並ぶのだった。その頬は若干赤く染まっている。\n\n「いこっ、飛雅、飛鳥ちゃん」\n「そうだな。今日の講義内容はなんだっただろうか」\n「西洋文化と宗教の関係性でしょ。先週の終わりに教授が話していたじゃない。ホント、アナタって顔だけが取り柄のヌケサクなのね」\n\n 俺達を取り巻く世界の主人公である鳳凰飛雅と、彼の両隣りを歩く二人のメインヒロイン。彼らが仲睦まじく歓談する光景はあまりにも美し過ぎて、気付けば咳ひとつ聞こえないほど厳かな静寂が周囲に広がっていた。\n きっと、彼らが踏み入れた地に咲く草木は急速に成長して、二度と枯れることのない不死の力を得るだろう。そのくらい簡単にやってのけそうな凄みがあった。\n\n「一之瀬さんと雨城さん、マジでお美しいぜ……」\n「けど、勝ちヒロインはやっぱ一之瀬さんだよな」\n「だよな〜、雨城さんも素直になれたら逆転出来るんだけどね」\n「いやいや、あの人はツンデレだからいいんだよ。あ〜、オレもあのキツイ目で睨み付けられてぇ〜」\n\n 二人のヒロインは、最終的にどちらか一方が主人公と結ばれる。ラブコメなどの創作物において唯一決まっている結末だ。\n\n 令和を生きる神様は一夫多妻制などという俗な道は選ばない。たった一人をそばに置き、片方の女神は悲運の最期を迎える。物語では定番のストーリーだ。\n\n 多くの人間は、雨城飛鳥を負けヒロインと呼んでいた。\n 素直になれないツンデレキャラなど、自ら負けたいと宣言しているようなものだ。彼女が気持ちを素直に伝えない限り、この恋が実ることはないだろう。\n\n「……雨城、好きだ」\n\n 俺、小塚陽斗は恋をしている。\n 負けヒロインに片思いしている。\n ──我ながら惨めだと思う。けど、恋心というものはいくら理屈で雁字搦めにしても止められない本能的な感情だ。俺もまた、そんな有象無象な人間と同じく分不相応な恋に苦しんでいる。\n\n 温い風が、頬を撫でる。\n 夏が来る。茹だるような、あの灼熱の日々が迫っている。\n\n それが理由か、あるいは別の事柄がそうさせるのか。\n 俺の心臓は、眉間にシワが寄るほど締め付けられていた。\n\n※※※\n\n 半年前に俺は大学図書館のアルバイトに受かった。\n 採用が決まった日、家の中でガラにもなくガッツポーズをしたのは今振り返ると少し恥ずかしい。\n\n 昔から読書が趣味だった俺にとって、この場所で働くことは幼い頃からの夢だった。\n 司書という仕事に憧れるようになったのは、少なくとも小学生低学年の頃からだったと記憶している。\n\n 主な仕事は書物の整理とカウンター前での受付作業だ。\n 簡単な内容の割に、時給は割といい。業務中はずっと本に囲まれた生活をすることになるので人によっては嫌気がさすかもしれないが、俺のような本の虫にとってはむしろ天国である。\n\n アルバイトの募集人数は二人だった。\n けど、こんな芋っぽい場所の求人に飛びつく学生なんて、どうせ俺と同じく陰キャのオタクだろう。根暗同士、案外仲良くなれるかも? だなんて思っていたのだけど……。\n\n「あら、小塚君。もう来ていたのね。随分と早いじゃない」\n\n 深海に浮遊するクラゲの触手みたいにストロベリーピンクのロングヘアーを優雅に舞わせながら目の前に現れたのは雨城飛鳥。そう、彼女も俺と同じく図書館のアルバイトに応募していたのだ。\n\n「……雨城」\n「今日もお仕事頑張りましょうね」\n\n あどけなく微笑む雨城に、胸がチクリと痛む。\n 鳳凰にはあれほど当たりがキツイのに、俺に対しては毒を吐いてくれないようだ。\n 恐らく鳳凰には好意の裏返しで反発しているのだろう。そう考えると、雨城の笑顔は誰に対しても向けられるありふれたものなのだと思い、彼女にとって俺はモブの一人でしかないのだと悲しくなる。\n\n「……今日は本の整理からだ」\n「ええ、分かったわ。倉庫で作業しましょ?」\n「ああ……」\n\n 雨城にとって俺とのやり取りは、物語に描かれないシーンのひとつだ。\n 漫画や小説では当たり前のようにカットされるし、そもそも彼女がメインヒロインの物語に俺の存在は一行だって書かれることはないだろう。\n\n「ええと、この本はこっちで……傷付けないように丁寧に運ばなきゃね」\n\n 古本の匂いを嗅ぎながら、真面目に仕事をしている雨城を横目で見る。ホント、コイツは楽しそうに業務をこなすよな。バイト中の暇な時間も読書をしているし、相当本が好きなんだろう。\n\n 俺と似ている──ふと、そう考えてしまう。\n けど、自分がどれほど分不相応なことを想像しているのかを理解して、恥ずかしくなった。\n\n 雨城は俺みたいなモブとは違う。\n 彼女は物語のメインヒロインで、美人で成績優秀な才女だ。住んでいる世界が違い過ぎる。親近感がわいてしまうのは、俺が恥知らずだからだ。考えを改めなければならない。\n\n ──私、絶対にこの大学に入らなきゃいけないの。\n\n 高校三年生の冬、大学の受験会場で雨城に言われた言葉が脳裏を過ぎる。視線の先には鳳凰がいて、その日に俺は初恋と失恋を同時に経験したんだ。\n\n ……主人公と結ばれたくて、同じ大学を目指す雨城。\n 鳳凰の隣には既に一之瀬美奈の姿があり、周囲からの評判も良かった。雨城が当時から『負けヒロイン』と呼ばれている事実だって、本人の耳に届いていたハズだ。\n\n なのに、雨城は決して諦めていなかった。\n 彼女が俺の前で見せた、透き通るような真っ直ぐな瞳が今でも忘れられない。初めて知った恋心。彼女が俺に教えてくれた友愛とは違う新しい感情。ただひたすらに、そばにいたい。そんな気持ちに駆り立てられたんだ。\n\n「あっ」\n「っ、どうした……?!」\n\n 雨城が声を上げたので、思わず俺は駆け寄る。\n まさか本のページで指を切ったのではないか。\n 絆創膏はカバンの中に入っている。もし怪我をしたのなら、早く応急手当をしなければいけない。\n\n「見て、小塚君……すごいわ、『モルグ街の殺人』の原語版よ。いつか読んでみたいわね」\n「……」\n「小塚君? どうしたのかしら」\n\n 気が抜けて、俺はその場にへたり込んでしまう。\n すると雨城は困惑した様子で俺に言う。\n\n「大丈夫? 具合悪い……? この倉庫もずっと換気していないし、一度外に出て休憩したほうがいいかしらね」\n「……いや、その。大丈夫」\n「具合悪いワケじゃないの……?」\n「うん……」\n\n 雨城は不思議そうに小首を傾げる。\n\n「じゃあ、どうしてそんなに慌てていたのかしら」\n「それは……」\n\n じーっと、宝石みたいに綺麗な瞳で俺を見つめてくる雨城だった。止めろ、そんな純粋無垢な瞳で俺を見るな。\n\n「……もしかして、小塚君」\n「な、なに……?」\n\n 雨城は目を細め、イタズラそうにクスクスと笑う。\n\n「ありがとうね」\n「え……?」\n「ほら、立てる? お仕事しましょ? 給料分の労働はしなきゃだし」\n「……」\n「小塚君?」\n\n 差し出された手には触れず、俺は立ち上がる。\n せめてもの反抗だった。手を取ったら、気持ちに歯止めが利かなくなりそうだったから。\n\n「……仕事、するか」\n「ええ、そうしましょ」\n\n 焦げ臭い古本の匂いに混じって、ストロベリー系の甘い香りがふわりと鼻腔をくすぐる。これを毎日のように近くで嗅いでいる鳳凰に嫉妬する。心底自分がモブであることが腹立たしい。\n\n「ええと、この本はこっちの棚で……まぁ、素敵な本ね。いつか読んでみたいわ……」\n\n 俺の視線の先には、珈琲カップの表面みたいにゆらゆらと揺れているように映る雨城の姿がある。どこか幻想的で、夢心地な気分になって。だからこそ、決して俺のようなモブには触れられない次元の相手なんだと理解させられる。\n\n 俺には決して干渉できない世界の住人だからこそ、せめて彼女を取り巻くストーリーが幸せな結末を迎えて欲しい。そう思ってしまうのは、間違いだろうか。\n\n※※※\n\n「だり〜、なんで大学入ってまでンなことしなきゃなんだよ〜」\n「マジだるいよな〜。この時間を研究に当てたほうが、よっぽど生産的だぜ〜?」\n\n 俺が所属している大学には、少し変わったルールがある。それは、大学三年生になると一度は『ボランティア活動』をしなければいけないということだ。\n\n なんでも、地域の有難みを忘れないようにだとか、奉仕活動を通して自己犠牲の精神を磨くためだとか……。\n\n まあ、要は都合のいいように地域の学生が利用されているだけだ。\n けど、たまには人助けの奉仕活動も気持ちいいものだ。誰かの助けになれるなら、やらない理由はないだろう。\n\n「イベントの受付とか言うけどよ〜、人なんか全然来ないじゃん〜」\n「学校って『してる風』なの好きだよな〜。ウチの学生はカリキュラムの中にボランティアするのを義務付けてるんですよ〜とか言って、実際は二時間座りっぱなしで駄べって終了〜だもんな」\n\n 俺達が任されたのは、野外フェスティバルの受付だった。来場者に対して入場特典のティッシュを渡したり、軽く挨拶をしたり、面白みのない半ば雑用みたいなことばかりさせられている。実際、同じ班の男子学生二人は不平不満を漏らしてイラついている様子だ。\n\n「あ〜、もういいや。遊びに行こうぜ?」\n「だな〜。じゃあ、オレ達行くから。お前ら二人よろしくな〜?」\n「……え?」\n\n 声をかける暇もなく、二人の男子学生達はその場を去っていった。残ったのは俺と、気の弱そうな同学年の女の子のみだ。\n\n「……っ」\n\n うつむいて、俺のほうを向こうとしない女の子だった。\n まあ、俺みたいな陰キャオタク二人きりになるのは嫌だよな。そっとしておいてやろう。\n\n チラリと女の子を見ると、苦しそうな表情をしていることに気付く。決して恥ずかしいワケではないだろう。明らかに体調が悪そうだ。\n\n「……具合、悪い?」\n「……え?」\n「違ったか?」\n\n 俺に話しかけられて、ビクリと身体を跳ねさせる女の子。けど、敵意がないと思ったのか、恐る恐る首を横に振る。\n\n「……どんな感じで、体調悪いの?」\n「……えっと」\n\n 目線を泳がせて、消え入りそうな声で女の子は言う。\n\n「お腹、痛い……かも」\n「座ってても辛い感じか?」\n「……うん」\n\n ハッキリ言わないところを見ると、あまり言い出しづらい問題から来る症状なのかもしれない。さて、どうしたものか。考えて、ふと近くに自販機を見つける。\n\n「ちょっと待ってて」\n「……え?」\n\n 俺は自販機まで駆け出して、温かいお茶を購入する。\n なるべく飲みやすいように小さめのボトルを選んだ。\n カフェインが入っていないやつのほうがいいよな。\n 御手洗とか近くなると悪いし……。\n\n 俺は女の子のところに戻り、彼女に渡すのだった。\n\n「……良かったら、これ」\n「いいの……?」\n「うん。来場者は俺が対応しとくから、座ってていいよ」\n「……」\n「放っておかれたほうがいいだろうし、なるべく話しかけないでおくね。なんかあったら言ってね」\n\n 一瞬目を丸くさせて、次に女の子はふにゃりと表情を緩めて笑う。\n\n「ありがとう……」\n\n こういう時に、学校側が体調不良の学生のために休憩スペースを設置しておいてくれたらなと思う。\n 今まで何も問題は起きなかったのだろうか。不思議で堪らない。\n\n その日は何とか無事にボランティア活動を終えられた俺だった。\n\n※※※\n\n 恋心というものは、自分では止められない本能的な感情だ。\n 理屈的ではなく、相手がどこの誰だとかは関係ない。\n\n ──例え、一方通行だとしても……だ。\n\n(……なんで素直になれないんだろう)\n\n 私、雨城飛鳥には好きな男子がいる。\n 鳳凰飛雅──あのいけ好かない色男に、私は片思いしているんだ。\n\n けど、接しているとなんとなく分かる。\n 彼が好きなのは、私じゃない。友人の美奈萌だ。\n だから、私にチャンスなんて訪れないだろう。\n そんなことは理解している。──けど、恋は理屈ではないのだ。彼の気持ちが99パーセント自分に向いていないとしても、1パーセントの確率に縋ってしまう。\n\n 私という女は、本当に弱くてみっともない。\n 飛雅と接していると、そんな負の感情を痛感する。\n 恋というものは、本当に恐ろしいものだ。\n\n「飛鳥、体調悪い? 大丈夫?」\n\n 大学内の食堂で友人数名とランチを食べていると、心配そうに声をかけられる。いけない、こんな時まで彼のことを考えてしまう。私は問題ないことを表すために微笑むのだった。\n\n「いえ、大丈夫よ。心配かけてしまってごめんなさい」\n「そう? マジで無理してない? 今日は一之瀬さんも鳳凰さんもいないから、飛鳥も元気ないんじゃないかって心配だよ。無理すんなよな〜?」\n「ありがとう。ごめんなさいね……?」\n\n 今は友人達とランチを楽しむ時間だ。\n 余計なことを考えてはいけない。\n 恋も友情も、勉学だって全部上手くこなさないと。\n\n「……ふふ」\n「どうしたん咲江。最近嬉しそうじゃん」\n\n 友人のひとり、只野咲江が表情を緩ませている。\n 彼女は内気な性格で、あまり人前で笑顔を見せることはないほうなのだけど。何か嬉しいことでもあったのだろうか。\n\n「うんとね、この前……優しい人に出会って。それを思い出してたの」\n「優しい人? それって女子?」\n\n 咲江は首を横に振る。\n 質問をしたほうの友人は驚いた表情をした。\n\n「マジ? あの男が苦手な咲江が男子のこと考えるなんて……それって恋じゃん」\n「いやっ、違うよ……! ただ、素敵な人だったなって思っただけだから……」\n\n モジモジと身体を擦らせて、消え入りそうな声で咲江は言う。この仕草はどう考えても恋だと思うのだけど、本人は一切気付いてなさそうだ。\n\n「ね、どこで出会った人なん? なんて名前?」\n「ちょっと、止めなさいよ。咲江も根掘り葉掘り聞かれたくないでしょ?」\n「いやいや飛鳥、これは咲江の初恋かもしれんのですよ? 友人としては根掘り葉掘り聞かざるを得ないでしょうが!」\n\n まあ、確かに気になるけれど。\n けれど、せっかく無垢な女子の心に初恋の芽が顔を出したかもしれないのだ。下手に詮索して花が咲く機会を失わせるのは心苦しいと思う。\n\n「いや、別に話しても大丈夫。この前さ、学内のボランティア活動があったでしょ。その時に、一緒になった人がいたんだよ」\n「ほうほう、ロマンチックですな。それで、何があったの? 詳しく聞かせて〜」\n\n 咲江は目を細めて、心底幸せそうに語り始める。\n\n「私ね、あの時体調悪くて……でも、他のメンバーの人達は男性ばかりで……言い出すのが怖くて黙ってたんだ。昔、からかわれた経験があったからさ」\n「あー、男子のガキってほんとノンデリだからね〜。理解ない的な?」\n「うん、けどね……あの人は、昔出会った男の子と違って、からかってこなかったんだ。自販機で温かい飲み物を買ってきてくれたし……過度に心配するんじゃなくて、良い意味で放っておいてくれて。それがなんか、純粋な善意なんだろうなって、嬉しかったんだよね」\n「へぇ、それは優しいね。ナイスじゃんその男子」\n\n 確かに聞く限りでは優しい男だが、私には少し気になることがあった。咲江は美人だ。妙な下心があって優しくしたのではないか? そんな疑念を抱いてしまう。\n\n「ねぇ、咲江……その男子に、その。連絡先とか聞かれなかったのかしら?」\n「ううん、ボランティア活動が終わって解散してからも、特に聞かれることはなかったよ」\n「マジか〜。普通の男子ならここぞとばかりに下心ガンガン向けて近付こうとするのにね」\n「うん、すごくクールっていうか。物静かなんだけど……心配してくれたのは伝わってきたよ。ふふ、少しぶっきらぼうで可愛かったな……」\n\n その世界には相当なお人好しがいるらしい。\n なんの計算もなく優しくして、無愛想で不器用な男子。\n どこかで見覚えがあるような気がする。\n さて、誰だっただろうか。\n\n「……小塚君、またお話出来ないかな」\n「へぇ、小塚って言うんだ。また会えるといいね〜」\n\n ……ああ、納得だ。\n 確かに、小塚君ならそうするだろう。\n\n 下手っぴな優しさを向ける彼を、私は前々から少しだけ愛おしいと感じている。この前も、私が本で指を切ったと勘違いして慌てていたし。\n\n たまたま私が勘のいい女だったから良かったけど、大抵の人間は何事かと不信感を抱くだろう。なんなら、彼の何気ない優しさにちゃんと気付けるのは私ぐらいじゃないかとさえ思う。\n\n「……不器用な子よね」\n「え、飛鳥? 何か言った〜?」\n「いえ、なんでもないわ。気にしないで頂戴」\n\n なぜだろうか。小塚君が褒められていると、私自身も嬉しくなる。\n 世間一般的には格好いいとされる容姿ではないからこそ、正当に評価されている場面を目撃するのが嬉しいのかもしれない。\n\n ──これ、アンタのだろう。もう落とすなよ。\n\n 大学の入学試験会場で、小塚君は私が落としたキーホルダーを拾ってくれた。\n 自分で言うのもなんだが、私はモテるほうだ。鳳凰は私に振り向いてくれないけど、その気になれば並の男子を夢中にさせて一生の愛を誓わせるくらい容易いと思う。そのくらい、私には女として魅力がある。\n\n けど、小塚君はそれ以降私に話しかけてこなかった。\n 大学に入学してからも「あの時のこと覚えてる?」と、落し物を拾った件をネタに近付こうとすることはなかったし、偶然同じバイト先になっても──彼はこう言ったのだ。「覚えていない」と。\n\n 表情を見れば、そんなワケないのは明らかだった。\n 恐らく私に気を使ってくれたんだろう。なんだか愛らしい人だなと、そんな印象を受けたのは今でもハッキリ記憶している。\n\n(……本当に、不器用な子)\n\n 心配になるほど不器用で、無愛想で。\n そして、勘違いされやすい性格の男の子。\n 少し気になる……けど、恋仲になりたいワケじゃない。\n\n 食堂の涼しげな風が、私の頬を撫でる。\n 夏が来る。茹だるような、あの灼熱の日々が迫っている。\n\n それが理由か、あるいは別の事柄がそうさせるのか。\n 私の瞳は、これから訪れる青春に対する期待で優しく細まるのだった。\n\n※※※\n\n(……今日はバイト休みか)\n\n さて、何をしようか。\n 駅前のカフェに行って読書をするか、書店で面白そうな本を探すか。あるいは……行きつけの定食屋で新メニューを注文してみるか。\n\n 友達がいないから一人で遊ぶことが前提なのが少し悲しいが仕方がない。ボッチライフを存分に楽しもうじゃないか。\n\n「最低……本当に、酷い男ね」\n\n 大学の廊下の角を曲がろうとすると、聞き覚えのある声が耳に入る。見ると、そこには鳳凰と一之瀬、それから怒りをあらわにしている雨城が立っていた。\n\n「すまなかった飛鳥。まさか、今日が誕生日だったなんて……今から何か買いに行こうか?」\n「そういう問題じゃないわよ。私、直前になってもアナタが何も言わないから当日にサプライズがあるのかもってドキドキしてたのに」\n「飛鳥ちゃん……飛雅も悪気があったワケじゃないの。ほら、私はちゃんと誕生日プレゼント買ってきたよ。これで許してくれないかな」\n\n 雨城は鋭い目つきで二人を睨みつける。\n\n「なんで許すかどうかをアナタ達に決められなきゃいけないのよ……」\n「飛鳥……」\n「でも、美奈萌も仕方ないわよね。とっくの昔に飛雅とデキてるんだから。大好きなパートナーには無条件で味方したくなる気持ちも分かるわ」\n「あ、飛鳥ちゃん……わたしはそんなつもり」\n「じゃあなんで……ッ、二人して私が悪者みたいに扱うのよッ」\n\n 雨城がこんなに憤っている姿を俺は初めて見た。\n 鳳凰に誕生日を祝ってくれなかったのが相当ショックだったんだろうな。気持ちを想像すると、チクリと胸が痛む。\n\n「……小塚、君」\n「え……?」\n\n 雨城と目が合う。\n 根暗な陰キャに半泣きしているところを見られるのは、さぞ屈辱的だろう。一刻も早くこの場を去らねばならない。\n\n「飛鳥の知り合いか? 見ない顔だが」\n\n おい鳳凰、よりにもよって俺みたいなモブに興味を示すな。雨城は気まずそうに目線を泳がせて、それから吐き捨てるように言う。\n\n「……同じバイト先の……友達よ」\n「ほう、飛鳥のバイト仲間か」\n「アナタには関係ないでしょ……」\n\n いよいよ険悪なムードになってきた。\n 鳳凰はこの空気をまるで察していないのか、あっけらかんとした様子だ。おいおい主人公、お前は鈍感属性まで持っているのか……頼むから空気を読んでくれ。\n\n「なら、彼と一緒に帰ったらどうだ?」\n「……ぇ?」\n「飛鳥も頭を冷やす時間が必要だろう。なに、俺達のことは気にするな。たまには普段深く関わりのない相手と交流するのも、良いリフレッシュになるんじゃないか?」\n\n すごいよな、一切の悪意なく言ってるんだもんな。\n 顔がいいから見逃されているけど、そうじゃなかったら人間関係のトラブルも多発していたタイプなんだろうな。鳳凰、お前神様に感謝だぞ。\n\n「……もういい」\n\n 雨城は声を震わせる。\n\n「もういいわよ。小塚君、行きましょ……?」\n「え、でも……」\n「小塚君と言ったかな。しばらく飛鳥をよろしく頼むよ。気難しい性格だが、悪い奴じゃないんだ。キミの悪いようにはならないハズだよ。でさ、サラバだ。いこう、美奈萌」\n「あ、待ってよ飛雅っ。……飛鳥ちゃん、その。ごめんね……?」\n\n 鳳凰はそう言って、気まずそうにしている一之瀬を連れてその場を去るのだった。\n 雨城は眉間にシワを寄せていたが、二人が視界から消えると、無理やり笑って見せる。\n\n「ごめんなさいね、小塚君……帰りましょ?」\n\n 好きな子と一緒に下校出来る。\n 事実としてそれは変わらないハズなのに、これっぽっちも嬉しくなんてなかった。\n だって、雨城は心底辛そうで、苦しそうで。この苦痛を取り払えるのは、今現在の時点で鳳凰しかいないのだから。俺ではあまりにも力不足だ。自分の無力さが心底腹立たしい。\n\n 大学の玄関を抜けると、初夏の温い風が頬を撫でる。\n 雨城は何も言わずに下を向いて俺の隣を歩くだけだ。\n こういう時、どんな言葉をかけていいのか分からない。\n\n 気にするなよ……?\n アイツってクズだよな……?\n\n いや、どれも適切ではない気がする。\n 考えながら、駅までの道のりを歩く。\n ふと、目の前にコンビニが一軒立っていた。\n 俺はふと思いつき、雨城に言う。\n\n「……コンビニ、寄っていいか?」\n「え……?」\n\n 不審そうな表情をする雨城だった。\n まあ、そうだよな。傷心中の女の子を放っておいて買い物をしたいと言うのだから。こんな顔になるのも納得出来る。\n\n 雨城をコンビニの外で待たせて、俺はレジ横に置いてある肉まんを二つ注文する。シンプルなやつと、カレー肉まんを選んだ。急いで俺は雨城のところに戻る。\n\n「……どっちが、いい?」\n「……え?」\n「普通のやつと、カレーのやつ」\n「……」\n\n 恐る恐るカレー肉まんを指さす雨城。\n 俺が手渡してやると、彼女は不思議そうに小首を傾げる。\n\n「どうして、買ってきてくれたの……?」\n「……それは」\n\n 瑠璃の宝石みたいな瞳で見つめられると、思わず目線を逸らしてしまう。だから止めろ、そんな純粋無垢な瞳で俺を見るな。\n\n「……肉まん、食べたかったから」\n「……」\n「あと、ついでに……誕生日おめでとう的な……?」\n\n 本当は雨城を慰めたくて買ったんだけどな。\n 二つ買ったのも、自分が食べたかっただけだと言い訳出来るからだ。それに、雨城の分だけ買っても気を使わせるだろうしな。\n\n「……ふふ」\n「な、なに……?」\n\n 吹き出したように、雨城は笑い始める。\n\n「ふふ、あははっ。おっかし……ふふふ」\n「ほ、本当に俺が食べたかっただけだから……」\n「はいはい、分かってますよ。ふふ、アナタって本当に不器用な男ね……」\n\n 眉をひそめて、クスクスと鈴の音みたいな綺麗な声で笑う雨城。けれど、その表情からは確かな信頼を感じた。\n\n「ん、美味しい……」\n\n カレー肉まんを一口食べて、幸せそうに目を細める雨城だった。少しは落ち着いてきたみたいだな。\n\n「……雨城は、鳳凰のことが好きなのか?」\n\n 気になったので、俺は問いかけてみる。\n すると雨城はコクリと頷いた。\n\n「……中学生の頃からの幼馴染なの。その頃から、ずっと片思い」\n「……どうして、好きなんだ?」\n「最初は、意地を張ってたんだと思う。多くの男子は私に夢中になるのに、鳳凰だけは一切なびかなくて。絶対に振り向かせてやるって追いかけてる間に、彼が頭から離れなくなったのよね……」\n\n 雨城は自虐的に眉をひそめる。\n\n「おかしいのかしら……私って」\n\n 彼女の言葉に、胸がきゅうと締め付けられる。\n あの日に見た透き通るような真っ直ぐな瞳が、今は少し濁っている。見ていられないほど痛々しい。\n\n 今、ここで俺が好意を伝えたら……。\n そんなことを考えてしまう。\n 鳳凰に対する気持ちが揺らいでいるこのタイミングで告白をすれば、雨城と付き合えるかもしれない。\n\n(……けど、俺の好きな雨城は……)\n\n 鳳凰のそばにいたくて、彼と同じ難関大学に入学するほど強い意志のある雨城に俺は惚れたんだ。たとえ、今が絶好のチャンスだとしても、俺は彼女に自信を取り戻して欲しかった。\n\n「……おかしくなんて、ない」\n「……え?」\n\n 俺は雨城のほうを向いて、気持ちを伝える。\n\n「大学の受験会場で、俺が雨城の落し物を拾った時。お前は言っただろう。絶対にこの大学に入らなきゃいけないって」\n「……」\n「ずっと鳳凰のことが好きだったんだろう? ずっと追いかけてきたんだろう? 俺は、あの時の雨城の真っ直ぐな瞳がずっと記憶に残ってるんだ。だから……」\n\n 息を飲み込み、次に俺は言葉を続ける。\n\n「──だから、雨城には、雨城でいて欲しい」\n「……小塚君」\n「俺が伝えたいことは以上だ。じゃあ、食ったら帰るぞ……」\n\n 弱っている時につけ込んで、言い寄るだなんて下衆な真似はしたくなかった。\n 好きな異性と付き合える人生最後のチャンスが今だとしても、こんな状況下で結ばれた相手と長続きするとは到底思えなかった。\n\n「……優しいのね、小塚君は」\n「別に、優しくなんかない」\n「いいえ、アナタは優しいわ。とってもね……」\n\n ずいっと、俺に身を寄せる雨城。\n ストロベリーピンクの長い髪が初夏の温い微風に吹かれる度に、イチゴに似た上品な甘さのある香りが鼻腔をくすぐってくる。\n 思わず後ずさりしてしまうほど整い過ぎた容姿は理にかなったメイクでより美しく仕上がっており、陰キャで童貞の俺は回遊魚のように目線を泳がせてしまう。\n\n「小塚君は、とっても素敵な子よ……?」\n「ぁ、う。えと……」\n「私が保証する。だから、心配しないでね」\n\n 真っ直ぐ俺を見つめる雨城は、俺が惚れた瞳と同じで。やっぱりこの人が好きだと思った。\n\n ……役に立ちたい。雨城が幸せになれるように、彼女が望んだ道を歩かせてあげたい。純粋な善意なのか、恋愛感情によるものなのか。もはや自分では分からなかったが、俺は雨城に言う。\n\n「……協力、させて欲しい」\n「え……?」\n「鳳凰が、雨城に振り向いてくれるように……もし、俺に何か出来ることがあるならだけど」\n「……小塚君」\n「ダメか……?」\n\n 困惑した様子の雨城は、切なそうに眉をひそめる。\n 俺をじっと見つめて、彼女は恐る恐る言う。\n\n「でも、小塚君は。私のことが……」\n「な、なに……?」\n\n 雨城は言い淀み、最後まで言うことはなかった。\n まさか好意がバレているワケないだろうし、何を言おうとしたのだろうか。\n\n 初夏の温い風が吹く中、雨城は言う。\n\n「本当に、アナタはそれでいいの……?」\n「……ああ、構わない」\n\n こくん、と。雨城は息を飲み込む。\n 俺に向ける瞳は、どこか悲しそうで。\n それから憐れむようなものがあった。\n\n「……ありがとうね。小塚君」\n「構わない」\n\n 目を細めて、笑顔を俺に見せる雨城だった。\n ストロベリーピンクのロングヘアーが風に舞い、湿気のある初夏の香りが鼻腔をくすぐる。\n\n「……本当に、アナタは損をするタイプなのね」\n「な、なに……?」\n\n 小さな声で雨城が何か言った。\n 俺が聞き返すと、彼女は首を横に振る。\n 時刻は夕暮れ時だった。茜色の光が、雨城の背中を照らす。神々しい空の色を背景にして、雨城はあどけなく微笑んだ。\n\n「なんでもないわ、小塚君……」\n「雨城……」\n「帰りましょ……? ね、家まで送り届けて頂戴」\n「……アンタがそれでいいなら、いいよ」\n「ふふ、じゃあそれまで二人でお話しましょ?」\n\n 俺達は並んで歩を進める。\n 雨城はもう暗い顔をしていなかった。\n そうだ、これでいいんだ。彼女の幸せを、俺は何よりも優先したい。結ばれることなんて、考えるべきじゃない。\n\n その日から、俺と雨城はアルバイトの休憩時間にどうしたら鳳凰が振り向いてくれるかの作戦会議をするようになった。\n\n 変な話だが、そんな日々は意外と楽しかった。\n 理由はどうあれ、雨城と話す機会が増えたからかもしれない。それに、俺に対して作り笑顔ではない自然な表情を向けてくれる雨城が本当に楽しそうだったから。\n\n ──時は過ぎて、本格的な夏が始まる。\n\n※※※\n\n「やはり、プレゼントなどがいいんじゃないか? 男子は異性が自分のために考えて買ってきてくれたものは、たとえ友人だとしても嬉しいハズだ」\n\n 夏休みが数週間後に迫った、ある日の午後。\n 俺と雨城は図書館の席に並んで腰掛けて、いつものように作戦会議をしていた。\n 今はアルバイトの休憩時間だ。館内は冷房が効いている。それが理由なのかは不明だが、いつまでもここにいたいと思った。\n\n「……ええ、そうね」\n「雨城……?」\n\n 最近、雨城の表情が暗い気がする。\n 俺を見る目が、どこか熱っぽいというか。\n 風邪でも引いているのかもしれない。\n 俺は心配になり、彼女に声をかける。\n\n「体調悪いか……?」\n「え……?」\n「いや、なんか目が虚ろというか……」\n「……」\n\n ぽうっと、熱に浮かされたように俺を見つめる雨城だった。その表情はどこか陶酔的で、まるで目の前に白馬の王子様がいるかのようだ。\n けど、実際にいるのはさえない陰キャのオタクだ。まさか俺に惚れているワケでもあるまいし。一体どうしたのだろうか。\n\n「……最近ね、変なの」\n「変……?」\n「ええ、ここ最近は飛雅じゃない別のことを考えるようになって、そのことで頭がいっぱいなの」\n\n もうすぐ期末試験だし、真面目な雨城は色恋にうつつを抜かしている場合じゃないと考えているのだろう。俺は思わずクスッと笑う。\n\n「……いいんじゃないか?」\n「……え?」\n「いや、ずっと好きな男子のことばかり考えていると心が病むからな。しかも、相手はあの鳳凰だ。攻略難易度はSランクを軽く超えている。たまには別のことを考える時間も必要だろう」\n「……」\n\n じーっと、雨城は俺を見つめてくる。\n なんだろう。俺の顔に何か付いているだろうか。\n 改めて見ると、本当に綺麗な顔をしているな。\n キメ細やかな白い肌は陶器のように綺麗だし、日本人離れした高い鼻や潤んだ唇。それから鋭利に尖ったツリ目は、自立した強い女性をイメージさせる。鳳凰はどうしてこんな美人に惹かれないのだろうか。\n\n「……小塚君は、どのくらいなのかしら」\n「え……?」\n\n ずいっと、俺に身を寄せてくる雨城。\n ふわりと香る、イチゴのような甘い香り。\n ストロベリーピンクのロングヘアーは毛先がウェーブがかっており、その柔らかさを表すようにふわふわと揺れている。\n\n「小塚君の攻略難易度は、どのくらいなの?」\n「え……?」\n「私にも、アナタを攻略出来るかしら……?」\n「な、な……」\n\n イキナリの発言に、俺は慌ててしまう。\n ずいずいと整い過ぎた容姿を俺に近付けてくる雨城。\n ツン……と、ピンク色のネイルで装飾された細長い指先で俺の肩をつつくなどしてからかうのも忘れてはいない。\n 何が目的なのか分からずに、俺は目線を回遊魚のように泳がせてしまう。\n\n「あ、あの……えと」\n\n 雨城が俺を真っ直ぐ見つめてくる。\n 思わず目線を逸らすと、勝ち誇ったように笑われる。\n\n「ふふ、小塚君は分かりやすいわね」\n「お、俺を攻略してどうする……」\n「あはは、ごめんなさい。アナタってからかいたくなるのよね。可愛らしいし……」\n\n 可愛らしいって、ソレ絶対に異性として見られていないヤツじゃないか。\n 分かりきっていたことだけど、改めて言われるとショックだな。俺は落ち込んでしまう。\n\n「……ふふ」\n\n 雨城は頬杖をついて、クスクスとイタズラそうに笑う。\n 完全にからかわれているな。悔しい……。\n\n「そろそろ休憩時間も終わりね。お仕事、再開しましょ?」\n「……ああ、そうだな」\n\n アルバイトの休憩時間も残りわずかだ。\n 俺は立ち上がろうとして、雨城に静止される。\n 見上げると、雨城は目を細めて愛おしそうに笑う。\n\n「アルバイトが終わったら、玄関先で待ってて?」\n「え……?」\n「一緒に駅前の商店街でお買い物しましょ? ダメかしら……」\n\n 普通の男子なら、これがデートのお誘いだと歓喜するだろう。しかし、俺は即座に察した。雨城が買おうとしているのは鳳凰に渡すプレゼントだ。恐らく男子である俺の意見を聞きたいのだろう。\n\n「……いいよ。買い物な?」\n「ええ、ありがとうね」\n\n 俺が了承すると、幸せそうに微笑む雨城だった。\n 鳳凰に渡すプレゼントを買うのがそんなに嬉しいのだろうか。この笑顔も彼に向けているんだろうな。\n\n 少しだけソワソワしながら、この日のアルバイトを終わらせる俺だった。\n\n※※※\n\n「見て、このキーホルダー可愛くない……?」\n\n アルバイトが終わり、俺と雨城は駅前の商店街に来ていた。周辺は飲食店の他に雑貨屋や化粧品屋など豊富な店舗が立ち並んでおり、雨城は目を輝かせて周囲を見渡していた。\n\n「可愛い……ワンコのキーホルダーよ。犬種は何かしら」\n「このキリッとした顔立ちは、柴犬じゃないか……?」\n「なるほど……柴犬ね。可愛いわ」\n\n 確かに可愛いが、俺は少し気になったことがあった。\n\n「なぁ、雨城……」\n「何かしら」\n「いや、鳳凰に渡すプレゼントを買いに来たんだろ? 可愛いのじゃなくて、別のにしたほうがいいんじゃないか」\n\n じーっと、俺を見つめてくる雨城。\n な、なんだよ。別に変なことは言っていないハズだ。\n\n「……ホント、損な性格してるわね」\n「な、なに……?」\n「いえ、普通の男子ならこの状況をもっと楽しむだろうにって思っただけよ」\n\n 言っている意味が分からない。\n 俺が首を傾げると、雨城は別の店の前で俺に手招きをする。\n\n「見て、たい焼き屋やさんよ。食べ歩きしましょ?」\n「……自由かよ」\n「悪いかしら」\n\n なんだかおかしくて、俺は吹き出してしまう。\n 雨城の心の中心には鳳凰がいて、それは変わらないハズなのに。彼女が楽しそうにしていると、俺自身も嬉しくなる。\n\n「走ってコケないようにな」\n「ええ、ご心配ありがとう……」\n\n 茜色の空が、俺達を見下ろす。\n 時間は誰に対しても平等だ。この幸せな日々も、いつか終わりが来るのだろう。雨城が鳳凰と結ばれたら、彼女の頭には俺との日々なんて片隅にも残らないんだろうな。\n\n(……雨城の幸せを、優先するべきだ)\n\n 雨城が幸せなら、俺も幸せだ。\n それが本音だと──言い聞かせるしかなかった。\n 俺はこの世界のモブで、下らない存在で。\n 彼女の心の中心に俺はいないのだから。\n\n「ふふ、たい焼き美味しいわね」\n\n 幸せそうな表情をする雨城。\n どうしてこんなに楽しそうなのか。\n 決して、俺と二人で出かけているからじゃないだろう。\n\n 雨城はアクセサリーショップや化粧品屋など、およそ男子にプレゼントするようなものが売っていない場所にばかり足を運ぶ。\n 辺りも暗くなり、そろそろ帰らなくてはいけない時間だ。雨城もこんな遅くに俺と二人きりになるのは嫌だろう。\n\n「あのさ、雨城」\n「何かしら。わっ、見て見て。ネイルショップまであるわよ。綺麗ね」\n「いや、鳳凰はネイルしないだろ……」\n「あら、知らないの? 今の時代は男子もネイルをするのよ……?」\n「ここは女性向けのお店じゃないか。よく分からんが、そういう場合はメンズメイクの専門店とかのほうがいいだろう。って、そういう話じゃなくて……」\n\n 俺は恐る恐る、雨城に言う。\n\n「暗くなるし、帰ろうよ。家までは送るからさ」\n「……」\n「鳳凰に渡すプレゼントは、また別の機会に買おう。今月誕生日とかでもないんだろ……? 急ぐ必要はないハズだ」\n\n 時刻は夜の9時を過ぎている。\n 早く帰らせないと、ガラの悪い不良が活発に活動を始めるかもしれない。もちろん事が起きたら精一杯やるつもりだが、俺一人で雨城を守り切れるか不安だ。危険を未然に防げるなら、それに越したことはないだろう。\n\n「……少し、座れるところに行かない?」\n「え……?」\n「静かなところで二人になりたいの。ダメ……?」\n\n 俺だけに聞かせたい話があるのかもしれない。\n この辺で人気が少なくて座れるところといえば、近くの公園に置いているベンチくらいだろうか。\n\n「じゃあ、静かなところ……行こうか」\n「……うん」\n\n どこか熱を帯びた表情でこくんと頷く雨城を連れて、俺は公園に向かうのだった。\n\n※※※\n\n「ここなら、人も少ないだろう」\n\n 小塚君が一人の男だという可能性にかけて誘ってみたものの、連れてこられたのは私達以外誰もいない公園の一角だった。彼は古びたベンチに腰掛けて、私を隣の席に誘導する。\n\n「……つれない男」\n「な、なんだよ」\n「いいえ、すごくアナタらしくて素敵だわ」\n\n まあ、ここで剥き出しの性欲を向けられるほうが解釈違いで萎えるというものだ。\n 小塚君は自分より他人を優先するお人好しの大馬鹿者さん。そんなこと、少なくとも周囲の人間の誰よりも理解しているつもりだ。\n\n ──そんな彼のことが、堪らなく愛おしいと思う。\n\n 今はもう、なぜあんなにも鳳凰飛雅という男に強く惹かれていたのか分からない。\n\n 意地を張るのに疲れたのかもしれない。\n そもそも恋愛感情を抱いていたのかすら不明だ。\n とにかく、私と飛雅をくっつけようと必死にアシストしてくれる健気な小塚君の姿を見ていたら、急に熱が冷めてしまった。それだけは何となく分かる。\n\n どうやら私という女は実る可能性の低い恋に燃え上がり、逆に応援されると一気に気持ちが萎えるという相当な捻くれ者だったらしい。\n\n 最初は、単なる親切心だった。\n この子はあまりにも危なっかしい。他人のことを優先し過ぎだ。今のままでは悪い人間に騙されてしまう。そう考えたら、私がキチンと教育して世に送り出してあげなければならない。そんな親心に似た感情を抱いたのが始まりだった。\n\n 彼の何気ない優しさに触れ合ううちに、少しずつ……少しずつ心の距離が近付いていった。\n 一度でも露骨に下心を向けられたら私も警戒しただろう。\n 小塚陽斗という男は、そういう素振りを一切見せないのだ。徹底的に私に都合のいいような行動をして、自分より赤の他人である私の幸せを優先する。そんな健気な姿に──気付けば私は魅了されたのだ。\n\n 私の心の中にずっと根を張っていたコンプレックスが、小塚君がくれる純粋な善意によって肯定されたような気持ちになったのはハッキリと覚えている。\n\n 恐ろしい男だ。\n 主に、天然のたらしだという理由で。\n\n「鳳凰に渡すプレゼント、いいものが見つかるといいな」\n\n 星空を見上げながらそう言う小塚君の表情は、少し切なそうに見えた。\n 本当は好意を抱いているクセに、それを必死に隠している彼が、堪らなく愛おしい。\n これほど自分の感情よりも私自身の幸せを優先してくれる男子はいなかった。何だかんだで結局は交際を迫ってくる人達ばかりだったから。\n\n「……ええ、そうね」\n\n 小塚君のことが──好きだ。\n けど、彼が好きなのは『鳳凰飛雅と結ばれるのを決して諦めない雨城飛鳥』だ。\n 他に好きな人が出来たからという理由でずっと片思いしていた相手へのアプローチを止める私を見たら、小塚君は失望するかもしれない。\n\n それに、彼は私の目から見ても素敵だ男子だ。友人の咲江だって、本人は気付いていないけど小塚君に対して限りなく恋愛感情に近い好意を抱いているのは明白だ。私のような女ではなく、別の相手と結ばれるべきだろう。\n\n 小塚君の信頼を裏切りたくない。\n だから私には、こうして明確な理由を告げずに曖昧な関係性を保ったままデートをするのが精一杯だった。それで満足だった。──そのハズなのに。\n\n「……っ」\n「雨城……? 大丈夫か。具合悪い……?」\n\n 苦しくて、私は思わず眉をひそめてしまう。\n 小塚君は心配そうに駆け寄ってくれる。\n ああ、優しいな。純粋にそう思った。\n\n「……ごめんなさい、小塚君」\n「どうして、雨城が謝るんだ……?」\n「……それは」\n\n 私のほうを向き直して、小塚君は私に言う。\n\n「鳳凰のことは、心配するな。俺も全力でアシストするから。ずっと片思いしてたんだろう?」\n「……」\n「大丈夫、きっと上手くいく。俺を信じろ」\n\n 本当に、嘘偽りなく言ってくれているんだろうな。\n 小塚君はいつもそうだ。私の幸せを優先してくれる。\n 今ここで少しでも好意を寄せてくれれば、私は頷くのに。\n\n ほら、好きな女が弱っているよ。今がチャンスなのよ。\n\n ……けど、アナタはこんなタイミングで告白するような卑怯者じゃないのよね。\n\n 神様は残酷だ。\n だって、彼に独占欲という生きる上で必要不可欠な感情を与えなかったのだから。彼が本当の意味で幸せになれる日は来るのだろうか。考えると、苦しくなる自分がいる。\n\n「……小塚君」\n「ん……?」\n\n 自分が何を言い出そうとしたのか、分からなくなった。\n ただ、彼とまだお話していたくて。会話が終わるのが嫌で。何となく、名前を呼んでみたくて。そうすれば、何か変わるんじゃないかって、そう思ったのだけど。\n\n「……暗くなるし、帰ろうよ」\n「……」\n「あ、けど家の場所知られたくないか。駅までだったら大丈夫そうか?」\n\n 胸がきゅうと締め付けられる。\n こんなにも自分から異性に触れたいと思ったのは初めての経験だ。\n 今、手を握ったら彼はどんな表情をするだろうか。\n きっとすごく驚いて、困らせてしまうんでしょうね。\n\n「ええ、帰りましょう」\n「話したいことは、もうないのか……?」\n「……うん。大丈夫」\n\n こくりと私が頷くと、小塚君は優しそうな表情を浮かべる。\n\n「何かあったら言うんだぞ……?」\n\n 温かな風が頬を撫でる。\n 普段より体温が高い気がするのは、きっと夏の妖精がイタズラしているせいだ。\n\n その日は何事もなく、小塚君に駅まで送ってもらうのだった。\n\n※※※\n\n(……やっと期末試験も終わりか)\n\n 俺は大きく背伸びをした。\n 明日から夏休みが始まる。好きなだけ本を読んだり、興味のある分野の勉強が出来るなんて夢のようだ。さてさて、何をして過ごそうかな。\n\n「だり〜、マジか。図書館やってないのかよ」\n「しかも一週間も休館日が続くってマジ?」\n\n 廊下の角で、男子学生二人組が話していた。\n 図書館前の掲示板を見ると、確かに今日の午後から一週間ほど蔵書点検のために休館日が続くと書かれている。司書の先生め、俺も一応ここでアルバイトとして働いているのだから事前に教えて欲しいものだ。\n\n そうなると、雨城にもしばらく会えなくなるんだな。\n 俺から遊びに誘うだなんて、出来るワケがない。\n 雨城は鳳凰のことが好きなのだ。俺が好意を向けたら困惑させてしまうだろう。彼女を悲しませる真似だけはしたくない。\n\n「小塚君。こんにちは」\n\n 雨城がやってきたので、掲示板を見るように促す。\n 驚くかと思った彼女だったが、まるで既に把握していたかのような表情を浮かべる。\n\n「図書館、今日から一週間は休館日なのよね」\n「知っていたのか?」\n「ええ、司書の先生に朝聞いたのよ」\n「じゃあなんで……?」\n\n 図書館が閉まっているなら、当然アルバイトもないだろう。なぜ雨城はここに来たのだろうか。疑問に思っていると、彼女はクスッと笑う。\n\n「だって、小塚君にしばらく会えないじゃないの」\n「……え?」\n「今日もお話しましょ? ……ダメ、かしら」\n\n 小悪魔的な仕草でオネダリされれば、断れる男子などいるワケがない。俺は首を横に振るのだった。\n\n「嫌じゃ……ない」\n「んふふ。ありがとうね、小塚君」\n\n 雨城飛鳥は、鳳凰飛雅のことが好き。\n 誰もがそう信じている。俺だって、今日までそう思っていた。\n\n けど──もしかして? があるのだろうか。\n そんなひとつの可能性を考える。けど、冷静に考えればありえないのだ。\n\n 俺達を取り巻く世界のメインヒロインと、モブ男の俺。\n 身分違いの恋も甚だしい。結ばれる可能性は皆無だ。\n 変に期待するべきではないだろう。危ない、勘違いするところだった。\n\n「行ってみたい喫茶店があるの。けど、一人じゃ入りづらくて……だから、その」\n\n 恐る恐るといった感じに、雨城が俺に問いかける。\n\n「一緒に、行こ……?」\n\n こんな表情を向けられて、断ることの出来る男などいるだろうか。俺も例外ではなく、首を縦に振るのだった。\n\n 喫茶店までの道のりを、他愛ない話をしながら歩く。\n そういえば、最近雨城が鳳凰と話している姿を見る機会が少なくなった。ツンデレの程度もいよいよ佳境に入り、溜め込んだ『ツン』の反動で特大の『デレ』が来るのかもしれない。さては雨城、鳳凰にアタックする気だな?\n\n ──そうしたら、いよいよ雨城が俺を頼る必要性もなくなるんだな。\n\n そう考えると、きゅうと胸が傷んだ。\n けど、仕方ない。雨城のような美人はこの世界の主人公と結ばれて、幸せになったほうがいいんだ。俺のようなモブ男が恋心を抱くだなんて、本来あってはならないことだから。\n\n「わっ、メニューも豊富ね。何がいいかしら……」\n\n 喫茶店のメニュー表を眺めながら、雨城が悩んでいた。\n これも鳳凰とデートする時の下見なんだろうな。\n 楽しそうな表情を浮かべている雨城に、つい見惚れてしまう。鳳凰に向けられている笑顔のハズなのに、本能の部分が『違う』と言っているような気がして。心の根っこまで勘違いしているのかと驚いてしまう。\n\n「小塚君」\n「ぁ、えと」\n\n 俺の目線に気付き、じーっと見つめてくる雨城。\n 好意を抱いているのがバレただろうか。\n もしそうなら嫌がられて関係を絶たれるかもしれない。\n 内心ドキドキしていると、雨城はクスッと吹き出すように笑う。そして俺にメニュー表を見せてくるのだった。\n\n「選んで……?」\n「え……?」\n「小塚君は、私に何飲んで欲しい……?」\n\n 曇りなき真っ直ぐな瞳で俺を見つめてくる雨城。\n どこか既視感のある眼差しだった。\n 強い意志が込められた色気のある瞳は、確かに俺を捉えている。\n\n「……これ、とか?」\n「抹茶ラテ……? どうして?」\n\n 俺は目線を泳がせながら、恐る恐る言う。\n\n「雨城に、似合ってるかなって……思ったから」\n「……」\n「す、すまん。変な理想像を押し付けるの嫌だよな……」\n\n なんとなく雨城は和風のものが似合いそうだと思った。\n 決して奥ゆかしいワケではないのだけど、和服を身につけて唐傘などを手に持っている姿がありありと想像出来る。その光景は非常に美しいだろう。\n\n「……注文、するわね」\n「え……?」\n「だって、小塚君が選んでくれたんですもの。きっと、美味しいわ……」\n\n なぜ雨城は俺をそこまで信頼しているのだろうか。\n けど、雨城はすごく楽しそうで。嬉しそうで。\n 難しいことは分からないけど、彼女が幸せならそれでいいと思える自分がいた。\n\n「……ふふ、美味しいわ。流石は小塚君ね」\n\n 注文した抹茶ラテが運ばれて、それを飲みながらクスクスと雨城はあどけなく笑う。俺は思わず見惚れてしまい、物も言えずに黙ってしまった。\n\n こんな日々がいつ終わるのか分からないけど、その時まで存分に楽しもう。\n\n しばらく喫茶店で語らう俺達だった。\n\n※※※\n\n「もう、すっかり暗くなっちゃったな」\n「ええ、本当に……」\n\n 時刻は夜の7時過ぎ。\n 俺と雨城は喫茶店を出て、夜の街を歩いていた。\n 好きな小説家が一致しているという理由で話が盛り上がり、時間も忘れて話をしているうちにこんな時間だ。早く雨城を駅前まで送り届けないといけない。\n\n 都会の夏の夜には、スズムシの声なんて聴こえない。\n その代わりに遠くの方で車のタイヤがアスファルトを切り裂く音が耳を打つ。あるいは、疲れ果てた表情で歩いている通行人の会社員がふらつく足取りで革靴をカツカツと鳴らしていた。\n\n「ギャハハwマジかよーーww」\n「マジマジ〜! 嘘じゃないって〜!」\n\n ふと、男子大学生らしき二人組が目の前を通る。\n 居酒屋から出てきたところを見ると、随分と酔っ払っているらしい。危なっかしいので俺は避けようとして……。\n\n「ギャハハw美女と野獣カップルやんけーーw」\n「この後セックスするんすか〜? 美女の濡れ濡れオマンコに野獣チンポコはめ込むんスか〜? 無責任中出ししちゃう野獣フェイス系男子ですか〜?」\n\n イキナリ俺達に絡んでくる二人組。\n コイツら……相当酔っ払っているな。\n けど、こういう奴らの扱いは雨城のほうが慣れているだろう。さぞ怖い顔で睨みつけているんだろうな。\n\n「……っ」\n\n 見ると、雨城は顔面蒼白で怯えていた。\n ハッとした。俺は何をしているんだ。今彼女を助けられるのは俺しかいないだろう。相手に頼ろうとするなんて、最低だ。\n\n「行こうっ」\n「ぁ」\n\n 俺は雨城の手を取り、二人で駆け出す。\n 繋がれた手は震えており、どこか静かな場所で落ち着かせる必要があると思った。駆け出して、駆け出して。先日二人で過ごした公園のベンチに到着する。ここなら人も滅多に来ないし、落ち着くまで安心して過ごせるハズだ。\n\n「……ごめんなさい、小塚君」\n「いいよ。ビックリしたよな……」\n\n ベンチに腰掛けながら胸に手を当てて呼吸を整える雨城。\n しばらくすると、彼女はゆっくりと口を開く。\n\n「……高校生の頃、親戚の集まりがあったの。その時、酔っ払っている親戚のオジサンに絡まれたことがあって……」\n「だから、酔っている人が苦手なのか」\n「ええ、少しトラウマでね。……ごめんなさい、心配かけちゃった」\n「心配って、俺は別にそんな……」\n\n 居心地悪そうに、雨城は声を震わせる。\n\n「小塚君に、迷惑かけたくないの……それだけは、嫌なのよ」\n「雨城……」\n「ごめんなさい、こんな姿見せられても迷惑よね……」\n\n きゅうと、胸がキツく締め付けられた。\n 雨城には笑っていて欲しい。悲しんでいる姿なんて、見たくない。\n 雨城のそばにいるべきなのは鳳凰だ。けど、今コイツに寄り添ってあげられるのは俺しかいない。そう思うと、彼女の手を取ることに抵抗などなかった。\n\n「迷惑なんかじゃ、ないよ」\n「こづか、くん……?」\n「……雨城は俺に迷惑かけたくないって言うけどさ。俺は、雨城が頼ってくれるのが嬉しいんだよ」\n\n 好きだから。雨城のことが、堪らなく。\n 好きな子が自分を頼ってくれるのは、何よりも嬉しいだろう。俺だって例外ではない。たとえその理由が鳳凰と結ばれるためでも、雨城が幸せになるための道を一緒に探せることが何よりの喜びで、それ以外は何も要らなかった。\n\n「雨城になら、どんな迷惑だってかけられていい。雨城になら、何をされたって気にしない。だから……」\n「こづかくん」\n「だから……雨城には、幸せになって欲しい。ほら、笑ってよ。大丈夫だから……」\n\n 俺が微笑みかけると、雨城は切なそうな表情をする。\n\n「……馬鹿」\n「え……?」\n\n 雨城は心底苦しそうな表情で、俺を睨みつける。\n 純然たる怒りではなく、どちらかというと『説教』に近い感情が読み取れた。彼女は俺に言葉を続ける。\n\n「小塚君は……大馬鹿者よ」\n「な、なんで……?」\n「私にとって都合が良すぎる。もっと、自分の気持ちに正直になってよ。そんなんじゃ……私も、一歩踏み出せないじゃない」\n\n 理由は分からないが、雨城を怒らせてしまった。\n 俺は頭を下げて、ひたすらに謝罪をする。\n\n「すまん……俺、怒らせるようなことしちゃったかな」\n「……」\n「雨城には、幸せになって欲しいんだよ。だから、俺も必死になって……って、ぁ」\n\n 触れ合う指先が絡み合う。\n 雨城のほうから俺の手に触れてくれたことが驚きで、目を丸くさせてしまう。\n 目と目が合い、熱に浮かされたように雨城が俺を見つめてくる。その表情はまるで恋する乙女で。そんなワケがないのに、心の内が『もしかして』の可能性を考えて心臓の鼓動が早まる。\n\n「……好き」\n\n 雨城が呟いて、それからもう一度言う。\n\n「好きよ、小塚君」\n「え……?」\n「今さらそんな顔されても困るわよ。本当は分かっていたんじゃないの……?」\n「いや、けど……雨城は、鳳凰のことが」\n\n 雨城は鳳凰のことが好き。\n 誰もがそんな当たり前の事実を疑わない。\n なのに、今は俺のことが好き……? にわかには信じられない。\n\n「小塚君って、本当に女のこと知らないのね」\n「えと、いや」\n「普通、好きでもない相手と二人きりで遊んだりしないわよ。ましてや、こうして他に誰もいない場所で話すなんて論外だから」\n「……雨城」\n\n 心臓の鼓動が早まる、俺は思わず雨城から目線を逸らしてうつむいてしまう。すると、彼女は心配そうに俺の背中を擦ってくれるのだった。\n\n「大丈夫……? 具合、悪い?」\n「すまん……気持ちの整理が、上手く出来なくて」\n「いいの、大丈夫。小塚君がちゃんと分かってくれるまで、私待つから……」\n\n この世界のメインヒロインは、俺のことが好き。\n 飲み込もうとすると、つい吐き出してしまいそうになって。\n 俺は何度も何度も咀嚼しながら、何とか情報を流し込む。\n\n「……どうして、俺なんだ?」\n\n 純粋な疑問だった。\n 情けない話だが、雨城ほどの美人が俺を好きになる理由が分からなかった。容姿だって平均以下だし、陰キャのオタクだし、話だって得意ではない。こんな男に好意を抱く理由はなんだろうか。\n\n「……そういうところ、かしらね」\n「え……?」\n\n 雨城は俺の手に自身の細長い指先を絡めながら言う。\n\n「すごく魅力的で、良いところが沢山あるのに……それに自分では気付いてないウブなところが、愛らしいなって思うわよ」\n「……それって、褒めてるのか?」\n「あら、知らないの? 女が好きな男に言う『愛らしい』は、時として『好き』よりも上位の愛情表現なのよ?」\n\n てっきり恋愛対象として見られていないんだと思っていたが、実際はそんなワケでもなかったようだ。\n\n「小塚君……」\n\n 潤んだ瞳を俺に向けてくる雨城。\n その表情は酒に酔ったように陶酔的で、俺は思わず息を飲んだ。\n\n「一つだけ言わせて頂戴。私は別に飛雅のことを諦めて、身近な相手に乗り換えたとか、そういうワケじゃないの」\n「……!」\n「今一番好きなのは、小塚君だから。飛雅よりも、アナタなの。それだけは、分かって欲しいわ」\n\n ──鳳凰飛雅には、全ての分野において勝てないと思っていた。\n 成績優秀、スポーツ万能。そして容姿端麗。\n 誰もが彼に憧れて、羨んでいる。一方で俺は何の長所もないモブ男だ。この世界の主人公に勝る要素なんて、何一つない。そう確信していたんだ。だからこそ、初恋相手が鳳凰を好きだと知った時は思いを伝えるの諦めていたのだけど。\n\n「……雨城」\n「なに、小塚君」\n\n 好きな子に告白されて、黙っているようじゃダメだ。\n 俺は雨城の瞳を真っ直ぐ見つめた。\n 俺が好きな眼差しをしていた。ああ、この目に俺は惚れたんだ。やっぱり雨城が好きだ。この土壇場で、それは確信に変わった。\n\n「雨城のことが……好きだ」\n「うん」\n「俺と、付き合って欲しい」\n「……」\n「ダメか……?」\n\n 不安になって尋ねると、雨城は吹き出すように笑うのだった。\n\n「ふふ、あははっ。おっかし……」\n「な、なんだよ」\n「いえ? すごく真剣な表情をしているから。たかが学生同士の交際なのに……ふふ、まるで結婚のプロポーズみたいで。あははっ」\n「雨城っ」\n\n 恥ずかしくて顔を真っ赤にさせていると。\n 笑いすぎて涙目を浮かべている雨城が、幸せそうな表情で目を細める。\n\n「でも、嫌いじゃないわ。誠実で、真面目な男子は。この歳で、すごく立派な子なのね」\n「俺は、その」\n「そういうの、女としては嬉しいから。大切にされてる感じがするし、もし……すぐに別れるとしても。きっと、アナタとの思い出は宝物になる気がする。なんとなくだけどね?」\n\n 俺の手を改めて握り直し、雨城が熱っぽい声色で言う。\n\n「小塚君……恋人になった証、私に頂戴……?」\n「っ」\n「ん……早く」\n\n 長いまつ毛を重ねて目を閉じて、潤んだ唇を突き出す雨城。キスをして欲しいという意思があるのは明白だ。\n\n「雨城……」\n「……ん」\n\n 雨城の華奢な肩に触れる。\n 一瞬だけ驚いたように身体を跳ねさせるが、それも少しの間で抵抗するのを止める。それが『許された』ようで、心臓の鼓動が割れんばかりに高鳴る。\n\n「……綺麗だ」\n「うん」\n「すごく、綺麗だよ」\n「ありがとう」\n「……キス、するね」\n\n こくんと頷く雨城の唇に、俺は顔を寄せる。\n 柔らかそうで、湿っていて。ファーストキスが初恋相手だなんて、夢みたいだと思った。\n\n「ちゅ……こづか、くん」\n「痛くなかったか……?」\n「ええ、痛くなかったわ……」\n\n 真夏の夜は蒸し暑く、汗ばんだ身体を心臓の鼓動が包み込む。空の上から満月が俺達を見下ろしていて、目の前には幸せそうな表情で俺を見つめる雨城がいた。\n\n 刹那、バンッ、と爆発音に似た音がする。\n 空高く花火が打ち上げられたのだ。そういえば、近所で花火大会があると聞いた。色とりどりの光が俺達を照らす。\n\n「……ねぇ、小塚君」\n「なんだ、雨城」\n\n 俺の手をギュッと握り、肩に頭を乗せてくる雨城だった。\n そして、甘えるように彼女は言う。\n\n「花火の音で掻き消されているうちに、私のこと……さらって?」\n「……ッ」\n「二人きりになりたいの。私、小塚君の男らしい部分……見たいな」\n\n 指先が絡み合う、あっという間に恋人繋ぎになる。\n ゴクリと生唾を飲み込み、恐る恐る肩に乗せられた雨城の頭を撫でる。ストロベリーピンクの柔らかいロングヘアーが俺の身体に寄りかかり、イチゴに似た甘い香りが備考をくすぐる。\n\n 俺は感情的にならないように理性を引き締めながら、なるべく優しい口調で雨城に言う。\n\n「じゃあ……二人きりになれるところ、行こうか」\n\n こくんと、雨城が頷く。\n 何だか今が愛おしくて、しばらく席を立たずに身を寄せ合う俺達だった。\n\n 花火の爆発音が止まぬうちに、二人きりの夜に溶けていく。\n\n※※※\n\n「……俺、すげぇ緊張してる」\n\n ラブホテルの一室で、俺はうなだれていた。\n あまりの緊張でペニスは萎み、固くなる気配はない。\n\n 爛々と室内を照らしているピンク色の照明に、シャワールームから漏れ出てくる甘い香り。今、数メートル先では初恋相手が俺とセックスするために身体を洗っているんだ。想像すると、いささかの興奮も抑えられない。\n\n「小塚君……」\n「っ、雨城……」\n\n シャワールームからバスローブ姿の雨城が現れた。\n 湯気と共に、甘い香りがダイレクトに鼻腔をくすぐる。\n 身体付きは華奢で、高身長に似合う程よく大きな乳房が特徴的だった。衣服越しからも分かるスタイルの良さに、俺は思わず息を飲んだ。\n\n「隣……いい?」\n「っ、うん。どうぞ……」\n\n 雨城が隣に腰掛けると、ベッドのシーツにシワが寄る。\n 至近距離で嗅ぐ彼女の甘い香りは普段とは異なり、男女が交合う際にムードを高めることを期待して置かれただろうラブホテルのシャンプーの香りは、童貞の俺にとっては効果抜群だった。\n\n どうする、手でも繋いだほうがいいのだろうか。\n 焦りながら雨城のほうを向くと、彼女の身体は震えていた。俺とセックスするのが嫌なのか……一瞬だけそう思ったが、即座に理解する。雨城も俺と同じく緊張しているんだ。\n\n「……ぁ」\n\n 雨城の手に、そっと自身のものを重ねる。\n こちらを向いて、頬を赤らめて。それから繋がれた手に指先を絡ませてくる雨城だった。しばらく俺達はうつむきながら二人きりの時を過ごす。\n\n「……ねぇ、小塚君」\n「な、なに……?」\n\n 桜色の唇を擦らせながら、雨城は消え入るような声で恐る恐る言う。\n\n「このあと……私達、しちゃうのよね……?」\n「っ、うん」\n\n こくんと俺が頷くと、雨城は目線を泳がせる。\n 彼女ほどの美人なら、ある程度の男性経験はあるハズだ。\n まるでウブな処女みたいな反応に、俺は戸惑ってしまう。\n\n「ね、小塚君……」\n\n 雨城は俺の耳に桜色の唇を寄せて、甘く囁いた。\n\n「キス……いっぱいして?」\n「っ」\n\n むくむくむくぅぅ♡♡ と、勢いよく俺のペニスが固くなる。あまりに甘美な誘惑に、流石の俺も緊張より興奮が勝ったらしい。\n\n「んふふ……かったい」\n「ぁっ」\n\n バスローブから飛び出ている俺の勃起したペニスに細い指先を絡ませてくる雨城だった。くにくにと輪っか上にした細長い指で甘コキして、より固くなるように促してくる。\n\n「男の人のチンチンって、こんな感じなのね」\n「……え?」\n\n 雨城は俺のペニスをシゴきながら、心底楽しそうに目を細める。\n\n「……初めて触ったチンチンが、小塚君ので嬉しい」\n「ッ」\n\n 美人で、スタイルのいい学園のアイドルが処女だった。\n そして、目の前で初めて俺のペニスに触れている。そんな事実が男の独占欲を刺激してくる。今まで必死に抑えていた分、感情が溢れ返る。思わずペニスを跳ねさせてしまうのも仕方のないことだった。\n\n「きゃっ」\n「す、すまんっ」\n「……ふふ。今、チンチン跳ねたわね。どうして?」\n「それは……」\n\n 恥ずかしくてうつむいていると、雨城は俺の耳元で糖度の高いセリフを囁いた。\n\n「嬉しかったんでしょ。私が処女なの」\n「っ」\n「自分のモノだけにしたいって、思ってくれた? いいわよ、アナタだけの女になってあげても」\n「う、うじょう……」\n\n トドメとばかりに俺の耳たぶを八重歯でチクリと甘噛みして、雨城は熱っぽく俺を誘惑する。\n\n「女のこと、今日で全部教えてあげる。だから、私にも男のこと教えて?」\n「ッ」\n「いっぱい、セックスしましょ……?」\n「出っ。で、ぅッ」\n\n 童貞には刺激が強すぎる。あまりに激しい色仕掛けに、ペニスを握られただけなのに射精寸前まで追い込まれる。もうダメだ、イク。イってしまう。ダメだ出ッ。\n\n ぎゅううううッッッ♡♡\n\n「あが、あぁッ」\n「もぉ、まだイクの禁止。入れてもいないでしょ? 我慢なさい」\n\n 玉袋の根元を細長い指先を輪っか状にして締め付けてくる雨城。キンタマから尿道までの道が塞がれて、精液が一ミリリットルも出ない。なのに激しい快楽だけが押し寄せてきて、頭が壊れそうな気分に陥る。\n\n「んふふ、情けない顔しちゃってる」\n「うじょ、う……ッ」\n「さっきからチンチン、何回も跳ねちゃってる。精液、出したかったの……?」\n\n こくこくと首がもげそうなくらい何度も頷くと、雨城は愛おしそうに瞳を緩ませるのだった。\n\n「……可愛い。今のアナタ、本当に愛おしいわ」\n「出したい……っ、シゴいて、くれぇ」\n「んふふ、手コキってヤツね。知ってる。輪っか状にした指でチンチン擦ると、オマンコに入れてるって身体が勘違いして射精しちゃうのよね。……ふふ、言葉にしてみると、何だか滑稽よね」\n\n 「ねぇ」と俺を呼びかけて、俺に端正な顔立ちを寄せてくる雨城だった。\n あまりに整い過ぎた容姿が眼前に迫り、思わず目線を下げる。するとバスローブ越しに柔らかそうなお乳の谷間が目に入る。少し下品の色合いの焦げ茶色をした乳首がチラリと見えて、俺の射精欲を煽ってくるのも忘れてはいない。オマケに鼻腔いっばいに広がる発情した女子のフェロモン臭に、少しの興奮も抑えられなくなった。\n\n「……キス、して? まだ少し、緊張してるから」\n「ッ」\n「私、アナタの男らしい部分が見たいわ。激しくしても大丈夫だから……レイプするみたいに、いっぱいキスして?」\n\n 上目遣いでエロ可愛くオネダリされたら、もう堪らない。\n 俺は思わず生唾を飲み込んだ。あまりにもエロ過ぎて、ドクンドクンと心音がより一層激しくなるのが分かる。\n\n「……するぞ」\n「ええ、お願い……」\n\n 雨城の華奢な肩に手を添える。\n その姿はまるで、職人が生涯全ての技術を駆使して作り上げた理想的な造形をしている女性のドール人形のようだ。\n 美し過ぎる身体付きをしている雨城に、物も言えないくらい見惚れてしまう。こんな美人が俺をハジメテの相手に選んでくれただなんて信じられない。けど、彼女が望むなら──男としては今出来る全てをぶつけるしかないだろう。\n\n「ちゅ、う、ちゅ」\n「っ、雨城……」\n「んふ、いいわよ……そんなおっかなびっくりじゃなくても。舌いっぱい絡ませて頂戴。激しくてもアナタなら嫌じゃないから……ほら、ちゅ、ふ、ちゅちゅっ。ん、ちゅ。上手ね」\n\n 次第に激しさを増していくキス。\n 舌と舌が絡み合い、ネチャネチャとした淫猥な水音が二人きりの狭い室内に響く。\n 羞恥心が、溢れ返るような性欲の波で覆い尽くされる。もういささかの恥もなかった。雨城が好きで、沢山愛したくて。何よりも優先して愛したい。それ以外は何も分からなかった。\n\n「ちゅ、ふ、ちゅぅ。ちゅ。こづか、くん」\n「雨城……ッ」\n「んふふ、すごい顔。性欲に塗れてる。男の顔してる」\n「すまん、嫌だよな……」\n\n 「んふふ」と目を細めて笑う雨城だった。\n 俺の手を取り、恋人繋ぎをして。それから透き通った瞳でじっと見つめてくる。あまりに綺麗な眼差しに、物も言えないほど魅了されてしまう。\n\n「小塚君は、女に性欲を向けるのに抵抗感があるタイプよね」\n「それは……」\n「隠さなくても大丈夫。繊細な性格をしてる子って、意外とそういうタイプが多いから。なんとなく分かるわよ」\n\n 女性目線からすると、女々しくて嫌だろうか。\n 我ながら情けないと思う。俺は落ち込んでしまう。\n\n「……そういうの、私は嬉しいわよ?」\n「え……?」\n「大切にされてる感じがするし、ちゃんと一人の人間として扱ってくれてるんだろうなって思うから。まあ、感じ方は千差万別でしょうけどね」\n\n 雨城の高鳴る鼓動が、今なら聴こえる気がした。\n そのくらい距離が近くて、彼女の存在を身近に感じる。\n 全部は無理かもしれないけと、今彼女について知れる全てを把握したい。知らない部分があるのが不安で堪らない。この気持ちはなんだろうか。\n\n「……小塚君。んっ」\n「っ、雨城」\n\n 雨城が唇を突き出す。\n 自分の方からキスをして欲しいらしい。\n 俺は恐る恐る彼女の華奢な肩に手を添えて、唇を寄せる。\n 何度口付けをしたって、緊張してしまう。\n この瞬間に慣れるタイミングは、今後の人生で訪れるのだろうか。\n\n「ちゅ、ちゅぅ、ふ、ちゅ……んっ、小塚くん」\n「雨城……すごく、可愛いよ」\n「ありがとう。嬉しい……」\n\n あどけなく幸せそうに目を細める雨城に、俺はドキリとする。目の前で好きな人が自分のために笑ってくれているのだ。こんなの、男としての生物的な優越感を感じざるを得ないだろう。\n\n「……ね、小塚君」\n「なんだ、雨城……」\n\n 軽く握られた手を口元に宛てがい、上目遣いで雨城は甘く囁いた。\n\n「……引っ掻いて?」\n\n※※※\n\n「じゃあ、するぞ……?」\n「ええ、お願い……」\n\n バスローブを脱いだ雨城が、恥ずかしそうにうつむいていた。ミルクのように色白な乳房はEカップ程度のサイズで、形も綺麗だ。いわゆる『美巨乳』というやつだろうか。スラリと高い長身に華奢な身体付きの組み合わせは抜群で、絵画に描かれている女神のような美しさがあった。\n\n「んっ……ゃあ」\n\n 先端の固くそそり勃った乳首を指先で引っ掻く。\n 少し下品な焦げ茶色の勃起乳首を周辺には、珈琲をこぼしたみたいに広がっているデカ乳輪があり、まるで高級娼婦みたいな男ウケする乳房をしている。\n 学園のアイドルで、この世界のメインヒロインが、ドスケベなボディをしている。そんな事実を知っている男は世界で俺だけ。生物的な優越感を感じざるを得なかった。\n\n「やぁ、あんっ。爪の先っ、で……カリカリ、やぁ♡」\n\n どうやら雨城は爪の先っぽで勃起している敏感に乳首を引っ掻かれるのが好きらしい。\n 気の強い女は隠れマゾだと世間では囁かれているが、まさにその通りだったらしい。ゴクリと生唾を飲み込む俺だった。\n\n「イッ、イッ。クるッ。乳首で、イクッ」\n「イクのか……? このまま続けたほうがいい?」\n「引っ掻くの止めないでっ。イクまで引っ掻いて……イってもしばらく引っ掻き続けて……オナニーの時、いつもそうやってるから……」\n「分かった。イクの終わるまで、乳首引っ掻き続けるな……?」\n\n それを雨城が望んでいるなら、喜んでやるしかない。\n 俺はたわわに実った乳房の先端部分を爪の先っぽで「カリッカリっ」と何度も引っ掻いた。ムクムクムクぅぅ♡♡と、より固さを増して勃起していく乳首。まるで「もっと引っ掻いて」とオネダリしているようで、非常に愛らしいと思った。\n\n「あぁッ、あんっ♡クるッ。乳首でクるッ。イクッ」\n「いいよ、このままイケよ」\n「てぇ、手ぇ繋いでぇ。人前でイクの初めてだからっ。怖いのぉ……恋人繋ぎしてぇ」\n「ッ、分かった。恋人繋ぎな……?」\n\n 片方の手で雨城と恋人繋ぎをして、もう片方の手で乳首を引っ掻く。雨城は身体を仰け反らせて愉悦に浸っている。バルンッ♡とデカ乳が大きくバウンドして、細い腰が反り返る。その光景は大手美術大学で優秀な成績を収めた学生のアート作品のようにミリ単位のズレもない理想的な美しさをしていた。\n\n「イクッ。イクイクッ。キちゃ、んんんん〜〜〜ッッッ!!!!♡♡」\n\n ビクビクビクッ♡と、身体を痙攣させながら、雨城が乳首だけでオーガズムに達した。\n 女子は安心出来る環境下じゃないと絶頂出来ないタイプも多いと聞く。美人でスタイルのいい学園のアイドルが俺に心を許してくれている。そう考えると、やはり男としての優越感を感じてしまうのは俺の性格が悪いからだろうか。\n\n「はぁはぁ、乳首……乳首引っ掻くの止めないで。イクの終わるまで乳首引っ掻いて……!」\n「ああっ、分かった。手も繋いでるからな……」\n「あぁぁ! だめイクッ! イってる最中に乳首引っ掻かれてイクッ! 一番気持ちいいトコ引っ掻かれながらオマンコ締め付けてイクッ! イクッ!」\n\n 上品な低音ボイスで淫語を叫びながら、雨城が綺麗な身体を反り返らせる。細い腕、長い首。それからミルクのように白い肌。何もかもが最高過ぎた。\n アンアンと男の射精欲を掻き立てる嬌声は、一度耳に入れればすぐに優れた教育を受けてきた上質な女の子だと理解出来る。猛獣のような荒っぽさの中に時より含まれている魅惑的な上品さもある雨城の喘ぎ声。この人を俺の遺伝子で妊娠させたい。赤ちゃんを産ませたい。そんなことを強く思ってしまうのは当然の話だった。\n\n「イクっ、イクぅ! あっあっ。こづかくん、チュー! チューしてぇ!!」\n\n エロ可愛いオネダリにまんまと誘惑されて、俺は雨城と本能的な激しい口付けをする。舌と舌がナメクジのレイプみたいに絡み合い、唾液に混じったお互いの遺伝子がぐちゅぐちゅにこねくり回される。\n\n「っ、あっ」\n「ちゅ、ちゅっ。んふふ、こっちも乳首引っ掻いてあげる……同時に引っ掻き合いましょ……?」\n\n 雨城が俺の乳首をネイルで装飾されたピンク色の指先でカリカリと引っ掻いてくる。\n 俺達はしばらく片方の手で恋人繋ぎをして、もう片方の手でお互いの乳首を引っ掻き合い、濃厚なキスを続ける。\n もうペニスは先走り汁でベタベタで、今にも破裂しそうなほど限界まで固くなっている。好きな子と乳首の引っ掻き合いをしながらキスをするのがこんなにも幸せだなんて、今まで知らなかったことが悔やまれる。\n\n「ちゅ、ふっ。んちゅ。……んんっ、乳首固くなってきた。興奮してくれてるの……? 可愛い」\n「ぁあッ。うじょうッ」\n「声可愛い。ほら、もっと乳首イジメ合いましょ……? カリカリいっぱいしたげるから……」\n\n 乳首の引っ掻き合いを続けながら、粘着質なキスもする。\n ピンク色のネイルで装飾された指先で乳首をカリカリされたり乳輪の周りを焦らすようになぞられたりすると、堪らない気持ちになる。お返しに俺も雨城の乳首をイジってやる。すると彼女は魅惑的な低音ボイスをワントーン高くして喘ぐのだった。\n\n「ぁんッ。ああっ。やぁ、んっ。そこっ、そこ弱いっ。そこダメッ。ん、んんっ」\n「うじょうッ」\n「やぁんっ、キス……キスもしてぇ。乳首イジめながらキスしてぇ。激しいのしてぇ」\n\n しばらく俺達はキスと乳首責めで愛し合うのだった。\n\n※※※\n\n「……すごい、濡れちゃってるな」\n「ええ、ショーツもぐしょぐしょね」\n\n 俺とのセックスを期待してくれていたのか、雨城のショーツは愛液でヌルヌルに濡れていた。\n フサフサと生え揃った陰毛は、ある一定の長さにカットされている。毎日のようにアンダーヘアの手入れをしているのだろう。本当の美人は見えない箇所まで綺麗にしているのかと驚いてしまう俺だった。\n\n「……あの、小塚君」\n「な、なんだ……?」\n\n 雨城が俺の肩に頭を乗せてくる。\n ストロベリーピンクのロングヘアーが俺の身体にしなだれかかる。シャンプーだかヘアオイルだかの甘い香りも鼻腔をくすぐる。俺は夢見心地な気分になり、思わず目を細める。\n\n「なんだか、信じられないわ。アナタと、今こうして二人きりで過ごしているのが」\n「俺も、信じられない……」\n「ふふ、今振り返ると変な関係性だったわよね。小塚君は私のことが好きで、なのに私は別の男が好きで……なのに、アナタはそんな私の幸せを優先してくれた」\n\n 雨城の細い指先が俺に絡む。\n 見ると、雨城が熱っぽい表情で俺を見つめていた。\n 手と手は繋がれたまま、二人で語らう。\n\n「他人の幸せを優先するアナタが、ずっと危なっかしいって思ってたの。私がちゃんと正しい方向に導いてあげなきゃって、そんな使命感に駆られるようになって……」\n「雨城」\n「ねぇ、今こうしてアナタに抱かれている私は……正しい方向に進んでいるのかな」\n\n 不安そうに眉をひそめる雨城に、俺はハッとした。\n 今すぐ否定しなければならない。それが今出来る最優先のことだ。\n\n「俺は、雨城のことが好きだ」\n「……小塚君」\n「雨城の選んだ道が間違っていたって後悔させたくない。俺で良かったって、雨城がそう思ってくれるように頑張るから……だから」\n\n 繋がれた手を引いて、雨城を抱き寄せる。\n 一瞬目を丸くさせる彼女だったが、俺の胸の中に居心地の良さを覚えたのか、飼い猫みたいに目を細めて幸せそうにする。\n\n「雨城が正しい道を選んだんだって証明出来るように、俺は出来る全ての労力を惜しまない。だから、安心して欲しい」\n「こづか、くん」\n「大丈夫。大丈夫だからね……」\n\n 優しく頭を撫でてやると、俺の胸に顔をグイグイ埋めてくる雨城だった。可愛い。この人を一生かけて守り抜きたい。そう固く誓う俺だった。\n\n「小塚君……」\n「なんだ、雨城」\n\n 甘えるように、上目遣いで雨城は言う。\n\n「セックス、しよ……?」\n\n その言葉に誘われて、俺はペニスに避妊具を装着する。\n 雨城に覆い被さり、正常位の体勢で繋がることにした。\n 不安そうに眉をひそめる雨城。当たり前だ。今から処女膜を破るのだから。泣き叫びたくなるほど痛いだろう。\n\n「ぁ……小塚くん」\n\n 俺は雨城の手に自身の手を重ねる。\n とにかく安心して欲しかった。大丈夫だと伝えたかった。\n 今から起こることは決して怖くて辛いことなんかじゃなくて、幸せになるための通過点なんだと教えてあげたかったんだ。\n\n「大丈夫……ここに、ちゃんといるからな」\n「……っ。うん。こづかくん」\n\n 雨城はこくんと頷き、俺に身体を預ける。\n 俺自身も緊張している。女の子のバージンを奪うのだ。男側としては当然責任を負わなければならない。ヤるだけヤってサヨナラなんてクズムーブが出来るほど、俺の心は腐っていないのだから。\n\n「入れるよ……」\n「っ、うん」\n\n 雨城の陰裂に自身の肉先を宛てがい、最後に確認する。\n こくんと頷き、固く目を閉じる雨城。俺は彼女の手を握る。大丈夫、絶対に嫌な思い出にはさせないから。口に出さなくても、視線で俺はそれを語った。\n\n「んんんっ、ぁっッ!」\n「っ、く……うじょ、う」\n\n 俺のペニスが雨城の処女膜を破る。\n 学園のアイドル的美少女のバージンを、俺が奪った。\n ゾクリとした快感に襲われる。責任重大だ。\n 俺も男だ。この重荷を背負っていかなければならない。\n 雨城の手をぎゅっと握り、彼女が安心できるように優しく言葉をかける。\n\n「大丈夫……大丈夫だからな?」\n「はぁ、うううっ。こづかくん……」\n「痛いか……? 一回抜いたほうがいい?」\n\n 首を横に振る雨城。その代わり、俺にお願いをする。\n\n「キス……キスして。痛いの、消して欲しい……ッ」\n「……分かった。それで雨城が安心してくれるなら」\n\n 俺は挿入したまま、雨城に口付けをする。\n 柔らかい唇が擦れて、朱色が禿げそうなほど激しく唾液の交換をする。子孫を残すための本能的なキスだった。お互いが愛おしくて、堪らなく好きで。この子を大切にしたいという気持ち以外分からなかった。\n\n「ちゅ、ちゅぅ。ふ、ちゅっ。ちゅ──こづか、くん」\n「雨城っ、キス……気持ちいいな」\n「うんっ、キス……もっと、もっと頂戴っ」\n\n 可愛いオネダリに誘惑されて、俺はキスを続ける。\n 雨城の瞳は熱っぽく溶けており、俺に夢中でキスしている。そんな健気な姿が非常に男の庇護欲をくすぐり、接合部にハメられたペニスがキュンキュンと脈打つ。この子を妊娠させたい。一切の曇りなくそう思った瞬間だった。\n\n「はぁ、あんっ。チンチンずぽずぽっ。やぁん♡ずぽずぽキたぁ♡もっとしてぇ。ずぽずぽでいっぱい膣奥突いてぇ♡」\n\n 丁寧に丁寧にキスを続けると、雨城が処女膜を破った痛みに慣れてくる。俺は少しずつ腰の抽挿を開始させる。雨城のマシュマロみたいなEカップ巨乳がたわわに揺れて、珈琲をこぼしたみたいなデカ乳輪が残像になって焦げ茶色の線を描く。魅惑的な低音ボイスがワントーン高くなって、何とも射精欲を煽るエロ可愛い声で鳴くのも忘れてはいないらしい。\n\n「はぁんっ、ずぽずぽ好きっ。チンチンでずぽずぽされるのすきっ。あっ、あんっ♡」\n「雨城っ、うじょうッ」\n「腰もっと突いてぇ。ずぽずぽしてぇ。奥いっぱいずぽずぽしてぇぇッ♡♡」\n\n そんなエロ可愛いことを言われたら、もう堪らない。\n 俺は雨城の膣奥をチン先でずぽずぽと突いた。\n 何度も何度も腰の抽挿と共に肉棒で膣壁を擦ってやると、目の前の初恋相手はヤンヤンと心底気持ち良さそうな声で喘ぐ。こんなの最高過ぎた。最アンド高だった。俺は雨城のデカ乳を揉みしだきながら、彼女の弱点である敏感乳首を二本指でくにくにと挟んで刺激を与えるのだった。\n\n「やぁぁんッ。それダメッ。それされるとすぐイクッ。もっと乳首イジめてッ! おっぱいも揉んでいいから……ッ」\n「くっ、雨城エロ過ぎるッ。ごめん揉みしだく手止まらない……ッ。チンコも膣壁でぎゅうぎゅう締め付けられて、もうイキそうだッ」\n\n 好きな子が俺のチンコを受け入れている。\n それどころか、膣壁を締め付けて射精を促してくる。\n 身体が俺の遺伝子を欲している。赤ちゃんを産む度の準備をしている。こんなのエロ過ぎる。もう辛抱堪らない。俺は避妊具越しに射精するのだった。\n\n ビュルッ!♡ びゅくくくくくッッ!!♡♡\n\n ビュブルルルルッッ♡♡ ブニュルルゥ!♡\n\n「ぐっ、うじょうッ。全部出るッ!」\n「はぁぁんッ。いいわよ、全部出してッ。私のナカにアナタの赤ちゃん汁全部全部ッ!!! 妊娠していいからッ、アナタの赤ちゃんなら産んでいいからぁッ」\n\n そんなエロ可愛いセリフを言われたら、もう辛抱堪らない。俺は正常位の体勢で雨城の手を握りながら射精をする。雨城も爪が食い込むほど強く握り締めてくる。初めて俺達の心が限りなく『ゼロ距離』に近付いた気がして、歓喜のあまり俺は口付けをするのだった。少し驚いた様子の雨城だったが、それが嫌じゃないと思ったのか自ら迎え舌をして俺の口腔内に遺伝子を混ぜてくる。\n\n「ちゅ、ちゅぅ、ふちゅっ。ちゅ──こづか、くん」\n「陽斗っ、陽斗って呼んで欲しい。俺も飛鳥って呼ぶから……」\n\n 一瞬目を丸くさせて、それからイタズラそうにクスクス笑う雨城。次に愛おしそうに俺の名前を呼ぶのだった。\n\n「陽斗……まだ、射精出来るわよね?」\n\n まだまだ二人きりの夜は終わらないらしい。\n\n※※※\n\n「はぁんッ。やんっ。ずぽずぽすごっ。これすごっ。あんっ♡あんあんっ♡」\n\n 立ちバックの体勢で、俺達はセックスをする。\n 雨城──いや、飛鳥は室内の壁を手をついて、白い背中を俺に向けている。下のクチで美味しそうに俺のペニスをしゃぶっている様子はあまりにも絶景だ。\n\n 改めて目の前に裸体の状態で立たれると、スタイルの良さが際立つ。スラリと長い脚、適度に引き締まった桃尻、白い肌を押し出すように肩甲骨は浮き出ている。その光景はまるで、背中の美しさに特化して芸能活動をするパーツモデルのように度を超えて美しい。いや、飛鳥は他の部分も一流なのだけど。\n\n「やぁんっ。後ろからずぽずぽっ。それ無理ッ。いっぱい奥にずぽずぽされてやぁんッ♡」\n\n 飛鳥のたわわな乳房が、その柔らかさをアピールするようにばるんばるんッとバウンドを繰り返す。形も綺麗なので、その揺れ方もどこか芸術的だ。\n 接合部が出入りする度に、飛鳥は魅惑的な低音ボイスで心底気持ち良さそうにアンアンと喘ぐ。\n 大人の女性をイメージさせる低い声が、今は心から男の肉棒を欲しがるように誘惑してくる。まるで自分よりウンと精神年齢も社会的身分も高いキャリアウーマンに心を許されたような感情になり、非常に生物としての優越感を感じる。\n\n「やんっ。おっぱい揉むのやぁッ♡後ろから突かれながら揉まれると、すごいのキちゃうからぁッ」\n「ぐっ、飛鳥……ッ」\n「はぁんっ。キたッ。本気ぴすとんキたぁッ。あっあっあっあっ。あんあんあんっ。それやっぱっ♡これクっ、るっ♡あっあっあんっあっあんあんッ♡♡」\n\n 何度もペニスを突き立てながら、飛鳥の乳房を揉みしだく。まるでマシュマロみたいに柔らかくて、若干汗ばんでいる。脂肪がたっぷり詰まっているのか重たくて、その重量感が乳房のデカさを表しているようで、非常に興奮した。\n\n「あっあっ。イクッ。ごめんなさいイクッ! 後ろからずぽずぽされてイクッ!!!♡♡ごめんなさいイクッ!」\n「出るぞッ。あすかッ」\n「イク?! いいわよイって陽斗! ナカでアナタの遺伝子全部出してッ! 白いオシッコでナカ埋め尽くしてッ!」\n\n\n こんなエロ可愛いセリフを言われたら、射精せざるを得ない。俺は立ちバックの体勢で初恋相手のナカに避妊具越しの精液を吐き出すのだった。\n\n びゅるるるるるるッッッ!!!♡♡\n ぶびゅるるるるるルルルッッッ!!!♡♡\n\n「ん、ぁぁッ。クるッ。ナカ締まるッ。精子欲しくてナカいっぱい締まるッ!!! ダメイクッ! 奥ずぽずぽでナカ締めてイクッ!!!♡♡」\n\n 迎え腰で桃尻をクネらせながら俺の精液を欲しがる飛鳥。\n こんなことされたらエロ過ぎる。俺はイってる真っ最中の敏感マンコに何度もペニスを刺突させて、より強いオーガズムを与えようとする。飛鳥はスラリとした長身を鯉の滝登りのように逸らして絶頂する。まるで一流の芸術品が擬人化したような光景で、今俺は上質な女の子を抱いているのだという優越感に浸る。\n\n「はぁ、ぁぁッ……も、脚がガクガクで……」\n「だ、大丈夫か……? 一回休憩しようか」\n「ええ、そうしてくれると助かるわ……」\n\n ベッドに隣り合って腰掛ける。\n どちらともなくお互いに見つめ合い、相手を労り隅々まで愛し合うような粘っこいグジュグジュとしたキスが始まった。\n 舌と舌が長い時間をかけて執拗に絡み合い、漏れ出る色っぽい吐息が俺達しかいない狭い室内に響き渡る。\n\n「ちゅ、ちゅうっ。ふ、ちゅ──はると」\n「あすか……っ」\n「ふふ、名前呼び……まだ少し慣れないわね」\n「ああ、けど……なんか、すごい嬉しい。飛鳥に、名前呼ばれるの」\n\n クスクスとリスが吹き出すように小さく微笑む飛鳥。\n それから俺の手を取って、真っ直ぐ透き通った瞳を向けてくる。\n\n「ハルト……好きよ。大切にしてね……?」\n「……ああ、大切にする。飛鳥のこと、これからもずっと」\n「うふふ、いいの? ずっとだなんて言って。私、自分の発言に責任持てない男は嫌いよ……?」\n「嘘なんか言ってない。俺は、飛鳥のことが本当に──」\n\n ぽすん、と。俺の胸に顔を埋めてくる飛鳥。\n そして消え入りそうな声で今が幸せであることを伝えてくる。\n\n「……馬鹿。一途過ぎるわよ」\n「っ、飛鳥……」\n「こういう時は万が一別れる可能性も考えて、逃げの道も確保しておくものなのよ? 本当に、アナタって馬鹿真面目で不器用な男なのね」\n\n 「けど」と、飛鳥は言葉を付け足す。\n\n「愚直な男は、嫌いじゃないわ。お姫様になった気分になれるから……」\n「飛鳥……」\n「ねぇ、ハルト……もう一回、しましょ? まだ出せるわよね?」\n\n 信頼のこもった口調で問いかけられれば、頷く以外の選択肢はなくなる。\n\n「ちゅ、ちゅぅ。ふ、ちゅ──ハルト、大好き」\n「俺も、飛鳥が好きだ……」\n\n 人生最大の幸せな夜は、日が明けるまで続いた。\n\n※※※\n\n 恋心というものは、自分では止められない本能的な感情だ。\n 理屈的ではなく、相手がどこの誰だとかは関係ない。\n\n ──例え、最初は好意を抱いていなかった相手だとしても……だ。\n\n「……陽斗」\n「すぅすぅ」\n「はーると」\n「すぅすぅ」\n\n 流石に日が明けるまで連続でセックスするのは、いささか淫ら過ぎただろうか。\n おかげで脚はガクガクで、私は隣で眠っている恋人の前で寝そべりながら彼の表情を眺めることしか出来ない。なんと自分の無力なことか。\n\n 随分と幸せそうな表情で寝るのね。あ、結構まつ毛は長いんだ。\n 一重だけど、なんだか無骨な男って感じの容姿をしている。不思議と可愛らしい思う。目の横にあるホクロさえも愛おしい。\n\n ねえ、陽斗。アナタには感謝しているの。\n 負けヒロインだった私を見つけてくれて、決して幸せになれないバズだった私の物語に光を照らしてくれて。\n どんな言葉でお礼を言っても、抱いている気持ちの百分の一も伝わらないような気がする。\n\n「……好きよ、陽斗」\n\n そんな陳腐な言葉でしか想いを伝えられない私を許して欲しい。けど、本当にアナタが好きだから。それだけは理解して頂戴ね。\n\n ──好きが、溢れ返る。\n 抱えきれない気持ちを、どうか受け止めて欲しい。\n 全部アナタに差し上げるから。他の男には、少しも分けたくないから。\n\n ……私も大概ね。十分重い女に仕上がってしまった。\n アナタのせいよ、責任取ってね。\n\n「おやすみ、陽斗……」\n\n 微睡みの中、クスリと私は笑う。\n キュッと目を細めると、幸せによりリラックスして分泌された涙が頬を伝った。\n\n 彼の隣が幸せで、安心出来る居場所だということを伝えるのが、今出来る最大限の愛情表現だ──。", "afterword": " 最後まで読んで下さりありがとうございました。\n このお話が少しでも面白ければ、☆評価やブックマーク、いいねや感想、レビューなどを頂けると助かります。\n\n X(旧Twitter)での拡散や感想などもお待ちしております。\n\n 少しずつ暖かい季節になって参りました。\n 街を散歩していると、桜の木々が咲き始めているのを見かけて、春の訪れを感じます。\n\n 春は出会いや、別れなどの多い季節です。\n 読者の皆様がこの春に良い出会いに恵まれますようにお祈り申し上げます。\n\n それでは、次回作でお会いしましょう。", "single_page": true} |
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