| {"novel_id": "n0009fk", "chapter": 12, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0009fk/12/", "title": "決着", "content": "(危なかったですが……やはり私の勝ちは揺るぎませんね)\n キリエは慌てて右拳に繋がった鎖を引き寄せて回収しようとする赤に、その隙を与えないと言わんばかりに肉薄し足払いを仕掛ける。これを大仰な動きでかわして反撃に移る赤。だが、まだ拳を回収しきれていないため応戦の動きもどこかぎこちない。\n「このまま一気に決めますよ、リーシャさん!」\n\n ◆ ◆ ◆ ◆ ◆\n\n「……一体どういうことだ? あのパイロットが見事に同調していることは認めよう。だがそれにしても、リーシャの方が一日の長はあったはずだ。あそこまで一方的に押される事態になるはずはない」\n「私もそれが不思議だね、マイン軍曹。互いの訓練の様子を比較したところ、単純な機体の制御にかけては明らかにリーシャ伍長の方が上だった。それにあの飛び出す拳という隠し武器……キリエ少尉の勝ち目は薄いと考えていたのだがね」\n タークとバウゼンが共に疑問符を浮かべてマインに尋ねる。一方マインはキリエが見事にあの危機を乗り切り一方的に押す展開になっていることに心の中で安堵しつつ、自慢げに解説する。\n「……それは当然です。一月で単純な操縦技術で上回るのは困難であるということは既にわかっていました。ですから……キリエ少尉の『技』を駆動鎧に可能な限りフィードバックさせる。ただその一点だけに絞ってこの一月は訓練を行ってきましたから」\n「あぁ、なるほど!」\n「…………?」\n キリエの経歴を心得ているバウゼンはそれで得心が行ったようだったが、相変わらずタークは理解できない様子だった。バウゼンが補足するように続ける。\n「私もあくまで履歴書で伝え聞いているだけだが……士官学校出身とはいえ、あの体格だ。さぞかし舐められることも多かっただろう、だからキリエ少尉は技を磨いてきたのだ。自分よりも体格や腕力で優れている相手を無駄なく最小限の力で倒すための『技』を」\n「聞いて驚きましたが……軍内の格闘競技会の女性部門で準優勝した経験もあったそうです。そして私は確信しました。この技術を機体制御に完璧に反映させれば負けはない、と」\n「…………」\n タークは仏頂面をさらに不機嫌にした表情になる。\n「単純に歩かせたり走らせたりするだけならば、そちらが上でしょうが……駆動鎧を使った戦闘技術という一点においては間違いなくこちらが上ですよ」\n マインがそんなタークに勝ち誇るように宣言した。\n\n ◆ ◆ ◆ ◆ ◆\n\n「やはり戦闘は素人、素質があるだけの一般人を速成教育した口ですか!」\n キリエは近接戦に持ち込んで細かい打撃を繰り返しつつ、赤に拳を引き戻させる隙を与えないままそう呟く。\n リーシャの軍人らしからぬ言動からしてそれはわかっていた。そもそも軍内にろくに適合人物がいないからこそキリエにお鉢が回って来たのだ。となれば、リーシャは元から軍内部や士官学校にいた人物ではない。\n 駆動鎧を動かすための訓練は受けているが、ただそれだけの素人だ。格闘戦に持ち込めれば、操縦技術の差をひっくり返してキリエに分がある。\n そもそも先ほどの飛び出す拳の使い方からしてキリエの目からすると間違っている。あんな遠くから悠々と構えて打ち出すなど飛び道具が来ると予告しているようなものである。あれは試合開始後こちらの体勢が整う前に真っ先に使うか、さもなくば近接戦で不意を打って使うべきものだった。頭の良し悪しではなく、「戦闘に適した思考」というものができていないし、そういう訓練も受けていないことが一目瞭然だった。\n その意味では切り札として搭載されたのだろうこの「飛び出す拳」もかえってリーシャにとっては足枷になっていると言えた。戦闘の素人に無駄に多い選択肢を与えてしまうのはむしろ迷いを生んで行動を封じてしまうのだ。実際、現状リーシャは拳を引き戻すべきかそれとも何としてでも白を引きはがすべきか決断できないままジリジリとフィールドの端まで追い詰められている。\n だが、素人だからこそ、予想もつかない行動に打って出られる、ということをキリエも、マインも、すっかりと忘れていた。\n「なっ!」\n 赤が突然拳を飛ばしたままの右手を持ち上げると、接続された鎖をそのまま左手で持ってぶん回してきたのだった。\n「自分の手をそのまま武器にする」などという発想は人間相手の格闘戦では絶対に産まれない。だからキリエは右手は完全に回収しきるまでは警戒する対象ではないと思考から外していた。\n それが仇になって勢いよく振り回された鎖は白の胸部をしたたかに打ち付ける。\n「くぅっ!?」\n ダメージがコクピットのキリエにフィードバックし、腸内で暴れ回るディルドーからジリジリとした快楽が湧き上がる。\n それを精神力で強引に押し付け、二歩、三歩と下がって赤から距離を取る。\n 赤はようやく伸ばされたままの自分の手の有効な活用法に気付いたようで、左手でグルグルと鎖を回しながら機会をうかがっている。\n(……まずいかも)\n 単なる格闘戦同士ならばキリエの勝ちは揺るがなかった。しかし相手が自由に使える飛び道具を得てしまったことで状況はひっくり返ったと言える。例え素人だろうと、リーチの長さはそのまま強さに繋がるのだ。\n「……持久戦では勝ち目はなし。となれば勝負は一瞬」\n このまま消耗戦に持ち込まれたら距離を取ってダメージを稼げる赤の方が一方的に有利だ。ならばキリエは一瞬の勝機をつかむ以外に方法はない。\n キリエが覚悟を決めると同時に、焦れたように赤が動いた。\n 先ほどの反省からか、ほとんど狙いを定めずに勢いよく自分の右手を投げつけてくる。人間より遥かに膂力の強い駆動鎧が、人間よりも遥かに巨大な自分の右手を投げるのだ。恐らく生身の人間に直撃したらミンチで済めばいい方だろう。\n しかしキリエはそれを腰を沈めて回避する。今度は赤は慌てることなく伸ばされた鎖を左手で掴み強引に手元に引き戻す。\n そしてその瞬間がキリエが待っていた隙だった。グッと腰に力を込め、肛門括約筋でしっかりとディルドーを噛み締めて機体と完全に感覚を一体化させる。そして全身のバネを弾き上げて走り出した。\n 一歩踏みしめる度にディルドーがより強く腸内を突き上げて快楽神経が悲鳴を上げるが、構っている余裕はなかった。むしろ快楽と戦闘への高揚感を無理矢理混同させて、機体を動かす動力源にする。\n 目前に迫ったその時、赤は完全には鎖を戻しきれていなかった。だが、先ほどの苦い経験からか今度は早々に鎖を諦め、自由な左手を勢いよく突き出して疾走してくる白の姿勢を崩そうと狙ってくる。\n が、そこで突然白がキリエの意思に従い、赤の目前で180度体の向きを変え、赤に背中を向けた姿勢になる。\n 唐突に狙っていた体が反転したことで、的を失った赤の左腕が虚しく白の左肩を行き過ぎた。\n「そこだああぁぁぁぁぁっ!」\n 普段はほとんど叫ぶことのないキリエだが、この瞬間だけは喉も裂けよとばかりに絶叫する。\n ガシッと、両腕を狙い過たず肩を行き過ぎた赤の左腕に絡みつかせる。\n 赤はこれから逃れようとするが、当然伸ばしたままの右手は使えず、左手は拘束されている以上ろくな抵抗はできない。背後から虚しく二度三度と蹴りを入れられるがガッシリと地面を捉えた白の姿勢はその程度では揺るがない。\n そして完全に赤を拘束した白の出力が急激に上昇したかと思うと……\n「あ」\n それは見ていた誰の言葉だったか。\n 背中越しに左腕一本を頼りに赤の巨体を持ち上げ、地面に叩きつける白という信じがたい光景への驚きの声は場内全てに響き渡る轟音にかき消された。\n\n ◆ ◆ ◆ ◆ ◆\n\n「だ、大丈夫ですか、リーシャさん!?」\n 一瞬勝利の快感に酔いしれていたキリエだったが明らかにやり過ぎてしまったことに気付くと慌てて自分の駆動鎧を停止させ、ディルドーを引き抜くのももどかしくコクピットから飛び降りる。\n そして地面に仰向けに横たわる赤い駆動鎧に駆け寄った。そこには既にバウゼン達3人と整備班たちも集まって来ていた。\n「うーん……」\n 果たして開かれたコクピットから引きずり出されたリーシャは無事だった。どうやら目を回しているようだが、目立った外傷はなさそうでキリエはほっと胸をなでおろす。冷たいタオルを当てられるとすぐに目を覚ましたようだった。機体の方も、外装が一部壊れたぐらいでそう致命的な損傷はないようだった。もちろん詳細な検査は白の方も含めて必要だろうが、本当に頑丈な兵器だった。\n「いやはや、まさか一本背負いとはね。実に見事な勝利だったよ、キリエ少尉」\n「本当凄かったッスよ! 自分のこざかしい策略を全部真っ向から叩き潰すなんて……自分、まだまだ修行が足りなかったッス!」\n タークが皮肉気に、リーシャが心からの賛辞を込めてキリエを讃えると、彼女としても悪い気はしない。\n(本当に……勝ったんだ……)\n 格闘技の試合で勝った時に似た、だがそれよりもどこかフワフワしたような感覚を味わいながらも勝利を実感する。\n ともあれ、これで悪夢のタークによるアナル訓練からは逃れられることが確定したわけである。キリエとしては当初の目的を果たせて大変満足な気分だった。\n「では、以降訓練及び開発はマイン軍曹の主導で行う、ということで異存はないかね?」\n バウゼンが勝負の結果を清算すべく口を開く。\n「もちろんそれでいい……」\n タークもここまで来て結果に口を挟むつもりはないのか素直にそれを受け入れようとしたその時だった。\n「待ってください!」\n 思わぬ静止の声がマインからかかった。\n「……どうしたんですか、マインさん?」\n「……ターク軍曹、この勝ちはあくまでキリエ少尉の素質あってこその勝利。決してあなたの方針が間違っていたわけではないことは、この試合でのリーシャ伍長を見ていればわかります」\n「それがどうしたのかね? 結果が全てだ。君はキリエ少尉の可能性を引き出せた。私はリーシャ伍長の可能性を引き出しきれなかった。それだけの話だ」\n「いいえ、違います。どちらかだけが正しいという話ではなかったんです。それぞれのパイロットに適したやり方があり、異なるやり方で異なる可能性は引き出せる……私たちはそんな簡単なことにも気づけていなかったんです」\n そこでマインはガシリとタークの手を取る。\n「敗者が勝者に従うというならば……ターク軍曹、お願いします。あなたの思うやり方でキリエ少尉のさらなる可能性を引き出してあげてください。もちろん私も、今まであなたのやり方で足りなかった部分を補うことでリーシャ伍長の可能性を引き出してみせます!」\n「…………」\n タークはしばらく呆然としていたが……やがてフッと微笑むとマインの手を握り返す。\n「……君には負けたよ、マイン軍曹。君の言う通りだ。どちらかが正しいとこだわり続けることこそが悪……それだけの話だったのだな」\n「えぇ、これからは互いの良いところを引き出し合い、より充実した訓練を行っていきましょう!」\n「あぁ、そうだ! どちらも目的は同じなのにいがみ合っていることこそが間違いだった!」\n そして二人は感極まったように涙を流す。どちらも同じ目的に向けて邁進していたのに、どこかで歯車がずれていたためにいがみ合うことになった二人が和解し合う感動の場面であった。\n 見れば周囲の整備班や開発チームももらい泣きしながら抱き合ったり肩を叩き合ったりしている。キリエとリーシャの決闘が互いのささくれだった空気を根本から破壊しつくしてくれたのだった。\n そして目にうっすらとつられた涙を浮かべながらバウゼンが宣言する。\n「そうか、そうか……皆協力し合うことの大切さに気付いてくれたんだな! そうだ、これからは皆一つのチームだ! そのことさえわかってくれたならば、この勝負には多いなる意味があったと言えるだろう!」\n「良かったッスね、キリエ少尉! これからは一緒に訓練受けられるッスよ!」\n そして唯一この急転直下の事態についていけず呆然としているキリエの肩をおいおいと泣きながらリーシャが叩く。\n「……え? どういうこと? マジどういうこと?」\n「だから、これからはタークさんの訓練も、マインさんの訓練も一緒に受けられるってことっスよ! いやー、丸く収まってよかったッスね!」\n「え? 何、どういうこと? え、え?」\n「タークの訓練を受ける」の一事を避けるためだけにこの一月頑張って来たキリエの困惑など知る由もなく、盛り上がって来たその場は早くも宴会に突入しようとしていた。", "preface": "上手い切りどころが見つからず長くなりました", "afterword": "あと4〜5話ぐらい続きます。当初の予定より長くなりました。"} |
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