| {"novel_id": "n0011hp", "chapter": 12, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0011hp/12/", "title": "第十一話 ヒーロー", "content": " 俺の前に1人の長身の男がいた。\n まるで元からそこにいたかのように。\n 風のように現れ、首に巻いた赤いマフラーをたなびかせて、その場に降り立った。\n 全身には朱色の装束をまとい、顔には黒色の仮面をつけている。\n\n この部屋でその男に気づいたのは俺だけだった。\n まるで天使のように空中に現れたその男は音もたてずに床に着地した。\n\n「助けてという声が聞こえた……。心からの助けを求める声が……」\n「なんだぁ、お前!」\n ボソリと呟いた声に気づいて声を上げた2人の男は一瞬で無力化され、床に倒れ伏せる。\n 男達がうめき声をあげている中、こっちにも手をあげたので目をつぶると鈍い音と共に俺を拘束していた枷が破壊された。\n\n「あ……」\n「助けを求めたのは君か」\n 何も言えずにこくこくと頷く。\n 何が起きたのか、理解が追いついていなかった。\n\n「立てるか?」\n そう言われて手を差し伸べられる。\n その手を掴むと、俺はそのまま抱きかかえられた。\n「瞬身!」\n 男がそう叫ぶと2人は一瞬の空気のゆらぎと共に消えた。\n\n\n 2人が消えてから程なくして、地下牢の扉が荒々しく蹴破られ、全身を鎧甲冑に身を包んだ男が現れた。\n\n「ふははーははは。第六都市消滅事件の犯人を捕らえにきた! オレ!!」\n\n 金色の瞳は地下牢を歩きながら左右勝手な方向にギョロギョロと動いており、口元から見えるギザギザとした歯はその男が人間ではないことを示していた。\n 背中に大剣を携え、臨戦態勢を備えている男に比べ、それに付き従う女の服装はあまりにも軽装だった。\n 身にまとう藍色のスーツのポケットからハンカチを取り出し、顔をしかめながら鼻を覆う。\n 足元に転がる扉だったものの破片を拾ってシゲシゲに観察すると興味をなくしたように放り捨てた。\n「扉の修理費は軍曹の給料から天引きしますね」\n「あーあー、そーしろそーしろ」\n\n そんなことはどうでも良いとばかりに首をゴキゴキと鳴らす男。\n 地下牢の階段を下り終わったところで2人が見たのは地面に倒れ伏してうめいている2人の男と空っぽの牢屋だけだった。\n\n「んで、ここにいるって聞いたんだが犯人はどこにいるんだ?」\n「さあ……」\n\n 男が倒れている2人に話を聞き出すまで大した時間はかからなかった。\n\n\n 気づけばどこぞとも知らない街の路地裏に俺はいた。\n そして目の前にはどこからどう見てもヒーローにしか見えない存在が。\n いや、ヒーローだ。俺をあの窮地から助けてくれたヒーローだ。\n\n 仮面のデザインものっぺりとしていてあまりかっこよくないが、ヒーローはヒーローだ。\n「あの、ありがとうございました」\n「ヒーローにすべきことをしたまで……それでは」\n\n ヒーローはヒーローらしく、名乗りもせずに手をあげ、颯爽と去っていこうとしたので呼び止めようとしたら、間違えて謎にひらひらとたなびっているマフラーを掴んでしまった。\n「ぐえっ」\n ひどい声を上げてヒーローは喉を抑える。\n 表情はわからないが、恨めしい顔をしているのはわかる。\n\n だが俺は謝らない。\n 無責任なまま放置しようとしたヒーローが悪い。\n\n「助けるなら、最後まで助けてくれませんか?」\n\n\n\n\n 時刻は真っ昼間、カーテンが閉められ薄暗いアパートの部屋の中に俺はいた。\n 薄々気づいていたが、この世界は光についてはまだまだ火に頼っているようだ。\n 確か電球は電気抵抗の大きい素材……竹が使われていたはずだ。\n\n 磁石と銅線があれば電気は発生させられるし、この世界での電気の生みの親に……。\n 知識チートで大金持ちに……。\n\n\n とここまで妄想して肩を落とした。\n 俺はサキュバス。\n ヒーローによるとサキュバスを捕獲するための街の至るところに検問が設置されているらしい。\n サキュバスは精液で簡単に引っかかるし、目立つ角もあるのでさぞかし捕まえやすいだろう。\n こんな中で知識チートなんて許してくれないよなぁ……。\n「暇だ……」\n\n\n\n 助けられた後、俺は正体不明のヒーローにこう言った。\n「おれ、私はサキュバス。たぶん、またすぐ捕まる。捕まったらさっきみたいに拷問されて終わり。私は奴隷になりたくない。だから、ヒーローさんに助けてほしいなぁ……」\n 俺の咄嗟の萌え媚び声が決まったのか。\n それともヒーローだからか困っているサキュバスを見過ごせなかったのかはわからないが、俺はボロ布をかぶせられて、このアパートに連れてこられた。\n\n\n\n 必要最低限といったものしかない部屋。\n ベッドに机に椅子。風呂トイレキッチンなし。\n 不動産的価値は0といえるほど何もない部屋だが、今まで住んできたどの牢屋よりも住みやすそうではある。\n\n 1番最初の牢屋には寝台っぽい場所はあったが、地下牢にはガチで何もなかったからな……。\n 少し硬いがベッドがあるだけマシ。\n\n\n\n そして何よりも嬉しかったのは鏡があったことだ。\n 最初、鏡を見た時、天使がこの世に舞い降りたのかと思ってビックリした。\n 実際は悪魔《サキュバス》なわけだが。\n\n 小柄なのに巨乳。肩にかかるぐらいのサラサラとして綺麗なピンク髪。\n ボディラインがわかるピッチリとした扇情的なドレス。\n\n 心の中でこっそり心配していた俺の顔立ちだが……美少女だった。\n 少し幼い感じもあるが、ぱっちりとした目に整った顔のパーツ。\n 表参道を歩いていたら一瞬でモデルにスカウトされるレベルだ。\n しかも声もめちゃくちゃ可愛いから声優業もできるし、歌も歌える。\n モデル出身のマルチタレントになれる。\n\n そして頭にある羊みたいなくるりんとした角は本物だ。\n 引っ張っても取れない。\n 俺はサキュバスなんだなぁーってことがよくわかる角だ。\n\n そしてこの謎服は、謎のままだ。\n 都合よく現れたり消えたりする謎の服。\n 条件は何もわからない。いきなり全裸になることはないみたいだが……。\n\n\n 少なくとも、今の俺には居場所があり、あのヒーローがヒーローである限りそれが脅かされることはない。\n 軟禁状態みたいなものだが、自分の意志で身を隠しているのと、捕らえられているのとでは全くの別物だ。\n 今までで1番快適な状況だが。\n「腹が減った……」\n お腹をさすりながらベッドに倒れ込む。\n 食事面に関しては不自由しそうだ。\n 精液によって狂わせられないという点では良いが。\n\n だが、半分自由みたいになった今、この問題もなんとかして解決できるだろう。\n\n 最悪はあのヒーローから分けてもらうことになるだろう。\n そのことを想像し、背筋にゾクリと悪寒が走る。\n\n「暇だー」\n 俺は硬いベッドの上でバタバタと暴れるが、ただ埃が舞い上がるだけだった。", "afterword": "出てきたギザ歯金色の目の亜人軍曹は前回の話を書いていた時のプロットに存在していた竿役です。\nこんな馬鹿なやつに散らされなくて良かったね、エミリア。\nお読みいただきありがとうございました。"} |
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