| {"novel_id": "n0011hp", "chapter": 9, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0011hp/9/", "title": "第八話 牢屋から地下牢へお引越し", "content": "「ヴァルター卿、どうかお引取りを……」\n「ヴァルター卿、かのサキュバスは生まれたばかりですが魅了を使います。どうか……」\n「ヴァルター卿、どうかお年を考えてください」\n「ヴァルター卿!」\n\n 急にたくさんの声が聞こえてきたので身を固くする。\n が、周りに何もないので何もすることができない。\n 檻の間から声がする方をそっと覗くとたくさんの人がこっちに向かってきているのが見えて、少し焦る。\n\n「うるさぁぁああああい!!」\n 俺が1人で焦ってると雷が落ちたかと思われるほどのデカい声が地下牢中に反響した。\n\n「ワシがぁ生まれたばかりのサキュバスに遅れを取るとでも思っとるのか!!」\n おじいちゃん……そんなデカい声を出さなくても聞こえます。\n\n 杖をついて現れたのは口髭と顎髭を豊富に蓄えている代わりに頭頂部がツルツルのジジイだった。\n 眉間にはペンで書いたのかと思われるほど深いシワが刻まれている。\n\n「ヴァルター卿、しかし」\n 大勢の従者をつけていたが、ギロリとしたひと睨みで黙らせて俺の方を見ると途端に朗らかな笑みとなった。\n その笑みが怖くて牢屋の隅まで下がる……が牢屋はそんなに広くはなく、すぐ壁にぶつかった。\n\n「おお、反抗的な目つきではないか! まだ男を知っておらんのだな!」\n 満足気に頷くおじいちゃんに従者が一歩進み出て頭を下げたまま、言葉を発する。\n\n「ヴァルター卿、いくら卿でもそれは許されません」\n「お前も忠臣ならば、主人と共に首を切られるぐらいは言わんかぁ!!」\n うるさいうるさい。\n この人、いちいち声がでかい。\n\n 俺のことでどうこう言っているみたいだが、もしかして俺に手を出したら首を切られるのか……?\n なら地下牢にいる間は、少しは安全なのかもしれない。\n それがわかって少し落ち着いた。\n\n 荒野から牢屋、棺、そして地下牢。\n 人間の最低辺を上手い具合に行き来してる感じだな。\n\n\n「目の前の! 誰にも手を出されていない! サキュバスを見て! お前は引き下がるのか!! お前はそれでも男か!!!! 尻尾を振ることしかできん去勢された駄犬共はここから消えろ! 去れぇぇ!!!!」\n ガチ恋距離であれ言われるのは耳がキツイだろうなぁと思う。\n ちょっと後ろから押されたらキスしちゃうじゃん。\n 怒られてる人を見ると、なんか見てる俺が辛くなってくる。\n\n そして俺はそれより気になることがあった。\n\n「あのぉ……」\n 俺が手を上げると皆の注目が自分に集まって、少し恥ずかしくなる。\n\n「おじいちゃん、もう枯れてない?」\n 従者の人たちが発情してないのはわかる。\n 自分の首がかかっててめちゃくちゃ怒鳴られてる状態で「このサキュバスえっろ」って思える男がいたら真の男だろう。\n だけどさっきから俺のことを色々言ってる。\n このおじいちゃんから全く匂いがしないのだ。\n 従者達の方からはかすかに男の匂いがする。\n それよりも近くのおじいちゃんからは全くしないのだ。\n\n 全くの無臭。\n サキュバス的に無臭なのは心が乱されないので安心できるが、言ってることと匂いが違いすぎる。\n\n\n あ、俺発言間違えたな。\n 松明の光の反射で元々オレンジ色だった顔が真っ赤になっていっているのがよくわかる。\n はははは、タコみたいだ。\n\n「あ、ごめんなさい」\n 爆発するのがわかったから両手で耳を塞ぐ。\n あー、耳閉じててもうるさいわ。\n 頭に血が上って脳卒中を起こすんじゃないかってくらい怒鳴り散らしてる。\n 多分牢屋に入ってなかったら俺殺されてたんじゃないかな。\n\n\n そしておじいちゃんがこちらを見た瞬間から、とある実験をしている。\n ずっと魅了の魔眼を発動させ続けているのだ。\n 全く効いていない。\n\n 魅了の魔眼に条件があるのか、どうか。\n だが、あるのだろう。\n 特に女神に条件はつけなかった。\n 誰にでも効くようにとは頼んだが、効いていない。\n\n つまり魅了の魔眼は既にある何かの流用であり、俺専用オリジナル能力ではないということだ。\n まだこの世界には俺の知らない法則がある。\n\n 今は空腹感もないし、興奮してる男もいない。\n あのおじいちゃんが怒鳴り散らしている間は頭が回る。\n\n 思い出した。\n 俺を運んできたあのゴーレム野郎にも魅了の魔眼は効かなかった。\n\n ゴーレムといえば勝手に動く岩とか石で出来たモンスターだが、あれはモンスター……というより遠隔で動かされているようだった。\n\n 今の所の情報をまとめてみると、既に生殖能力を失っている、ない相手には効かない。\n というのが魅了の魔眼の条件に思える。\n 魅了という名前がついているし。\n\n\n そういやドラゴンがいたな!\n あんな状況じゃなかったらもっとよく観察したかった。\n やっぱり本物のドラゴンがいるってファンタジーなんだなぁって感じがする。\n\n ゴーレムにドラゴン。なんか魔法っぽいこともされたし。\n 本当にここはファンタジーの世界なんだ……。\n\n 剣と魔法のファンタジーでも剣も持てるような身体じゃないし、魔法も誰からも教わることのできない。\n ただ魅了の魔眼とかいう肝心な時に役立たないものが使えるだけ……。\n\n 心の中でため息をついてしまう。\n もう少し俺に優しい異世界でも良かったんじゃない?", "afterword": "ありがとうございました。次回R18のつもりでしたが長くなったので次次回にします。"} |
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