| {"novel_id": "n0011mo", "chapter": 4, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0011mo/4/", "title": "第四章 静かなる違和感", "content": "学院中が、かつてないほどの騒然とした空気に包まれていた。\n私に続き、ノエルまでもが同じ症状に見舞われたという知らせは、瞬く間に貴族達の間を駆け巡った。\n二人連続。\nしかも、まったく同じ症状。\n膝から崩れ落ち、腰が抜け、涙を流しながら――そして、公衆の面前で、制御を失って失禁する。\n加えて、どちらもドレスや制服の胸部が突然裂け、乳房を完全に晒されたという点まで一致していた。\n\n「舞踏会のアイリス様も、中庭のノエル様も……同じようにびしょびしょになって……」\n「胸まで裂かれて、丸出しのまま漏らした……」\n「KカップもIカップも、みんなに見られながら……」\n「恐怖だけで、あそこまで完全に漏らすものかしら」\n「侯爵令嬢が床に水たまりを作るまでお漏らしするなんて、普通じゃあり得ないわ」\n\nそんな囁きが、廊下の至る所で聞こえた。\n私自身、あの夜の熱い染みの感触も、裂けた胸元から零れ出た自分のKカップも、ノエルが膝をついてIカップを晒しながら熱いものを零し続けた光景も、忘れることなどできなかった。\nただの羞恥や恐怖では、説明がつかない。\n体の芯まで支配され、意志とは無関係に全身の筋肉まで緩められ、さらには衣服の胸部だけを精密に破壊されるような、異様な力が働いていたとしか思えなかった。\nそんな中、一人だけ冷静さを失わない令嬢がいた。\n伯爵令嬢クラリーチェである。\n学院一の秀才と名高い彼女は、幼い頃から魔法理論を専門に学んでおり、その知識は教師陣すら舌を巻くほどだった。\n昼休み、図書室の片隅で、クラリーチェは眉をひそめながら私に言った。\n\n「威圧だけで説明できません」\n\nその声には、迷いのない確信が滲んでいた。\n\n「人は、どれほど恐ろしい相手を前にしても、あそこまで完全に身体の自由を奪われることはないのです。膝が崩れ、腰が抜け、呼吸すらままならなくなる……それだけでも異常です。しかし、さらに問題なのは――」\n\nクラリーチェは一瞬言葉を切り、周囲に誰もいないことを確認してから、静かに続けた。\n\n「失禁です。アイリス様も、ノエル様も、ただ『怖くて漏らしてしまった』という次元ではありません。最初はわずかに漏れる。プライドが傷つき、必死に締めようとする。それなのに、徐々に制御が利かなくなり、最終的には勢いよく、止められずに溢れ出す。しかも、意識ははっきりしている。自分が何をしているのか、どれほど惨めな姿を晒しているのか、すべてわかりながら、体が言うことを聞かない。そしてもう一つ。衣服の胸部だけが、まるで狙ったように破壊されている点です。アイリス様の舞踏会ドレスも、ノエル様の制服も、他の部分は無事なのに胸元だけが裂け、乳房を完全に露出させている。これは偶然ではあり得ない。相手の最も恥ずかしい部分を、視覚的にも、構造的にも、計算して晒させる力が働いている。あれは、明らかに何らかの力が、恐怖心を増幅させるだけでなく、下半身の制御――大事な神経や筋肉、内臓の機能そのものに直接干渉し、同時に『見せしめとしての露出』まで精密に行っているとしか考えられない」\n\n私は頷いた。\n自分の身に起きたことを思い返しても、彼女の言葉には納得せざるを得ない。\nあの舞踏会の夜、最初はほんの少しチビっただけだった。\nそれだけで強いショックを受け、プライドが砕けた。\nなのに、事の重大さに気づくにつれてパニックになり、最終的に完全に漏らしてしまった。\nしかもドレスの胸が裂け、Kカップを三千人に晒された。\nノエルも同じだった。\nミレイユに睨まれた瞬間に崩れ落ち、胸元を裂かれてIカップを露出し、熱いものが溢れ、床に水たまりを作り、手を差し伸べられただけでさらに怯えて何度も漏らしてしまった。\nどちらも、単なる「怖くて漏らした」では片付けられない。\n何かが、私たちの体と衣服を内側から支配していた。\n\n「……そうです。ただの恐怖なら、あんなふうに、段階を踏んで、確実に、すべてを奪われることはない。胸まで、狙ったように裂かれることも。不思議な力……何かが、確実に働いています」\n\nクラリーチェはその日から、独自に調査を始めた。\n学院の図書室に籠もり、古い文献を片っ端から読み漁る。\n精神魔法。\n禁呪。\n幻覚。\n催眠。\n衣服を選択的に破壊する術式。\n思いつく限りの分野を調べても、私達の症状に完全に一致するものは見つからなかった。\n\n「近いものはあります。けれど、決定的に違う点があるのです」\n\n放課後、クラリーチェは疲れた様子でそう教えてくれた。\n\n「催眠であれば、事前に対象へ働きかける時間が必要です。しかし、あなたもノエル様も、初めて目が合った瞬間に症状が出ています。威圧や恐怖投影系の術式でも、あそこまで精密に『段階的な失禁』と『胸部のみの破壊による強制露出』を同時に引き起こすものは記録にありません。普通の精神攻撃なら、失神や錯乱、単純な脱力はあっても……意識をはっきり保たせたまま、下半身の制御だけを徐々に、確実に奪い、公衆の面前で漏らさせ、なおかつ最も恥ずかしい部分を視覚的に晒させるような悪質で精密な干渉は、聞いたことがない。これは、これまで知られているどの術式とも一致しません。まるで、相手のプライドと羞恥心まで計算に入れて、最大限に屈辱を与えるために設計された力のように思えます」\n\nその言葉に、私の胸はますます重くなった。\n既知の魔法ではないということは、それだけ未知の脅威だということだ。\nしかも、ただ体を動かすだけでなく、私たちを「漏らさせる」ことと「胸を晒させる」ことまで含めて支配している。\nあの赤い瞳には、そんな恐ろしくも精密な力が宿っているのだ。\n\n一方、王宮でも異変が静かに広がりつつあった。\n父から伝え聞いた話によれば、国王ローランド六世は、執務中の殿下の様子がどこかおかしいと感じ始めているらしい。\n\n「カイゼルは昔と別人だ」\n\n国王が側近にそう漏らした、という話が、貴族達の間でひそかに囁かれていた。\nけれど、確たる証拠は何もない。\n王太子が突然人格を変えたなどと、誰が信じるだろうか。\n国王自身も、その疑念を口にすることを、慎重に避けているようだった。\nそんな折、王妃マルグリット様から、私のもとへ密かな使いが届いた。\n婚約破棄後、初めての知らせだった。\n使者に導かれるまま、私は目立たぬよう装いを変え、王宮の奥へと足を運んだ。\n案内された部屋で待っていたのは、王妃様お一人だった。\n\n「よく来てくれました」\n\n王妃様は、私の手を優しく取り、そう仰った。\nその瞳には、これまでと変わらない慈しみが宿っている。\n\n「婚約破棄当日の話を、聞かせてもらえますか。……そして、ノエルさんの件についても」\n\n私は、あの夜のことを、できる限り正確に語った。\n突然身体が動かなくなったこと。\n恐怖で立っていられなくなったこと。\n最初はわずかに漏れただけだったのに、徐々に制御を失い、最終的に完全に漏らしてしまったこと。\nドレスの胸が裂け、Kカップを完全に晒されたこと。\nそして、ミレイユと目が合った瞬間から、すべてが始まったこと。\nノエルもまた、同じように睨まれただけで崩れ落ち、胸を晒され、公衆の面前で失禁し、手を差し伸べられただけでさらに怯えて漏らしてしまったこと。\n王妃様は、静かに耳を傾けてくださった。\n話し終えた後、王妃様はしばらく黙り込み、それから小さく呟かれた。\n\n「何かが、おかしいのです。ただの噂や、ただの恐怖では説明がつかない。あなたとノエルさんの体に起きたこと……特にあのように、段階を踏んで自制を奪われ、漏らさせられ、胸まで晒されるようなことが、偶然起きるはずがない。何かの力が、確実に働いている」\n\nその声には、深い憂いが滲んでいた。\n\n「けれど、私にも証拠がありません。あなたを信じたい気持ちだけが、ここにあるのです」\n\nその言葉に、私は思わず涙がこぼれそうになった。\n誰もが私を疑い、遠ざけていく中で、王妃様だけは、変わらず私を娘のように案じてくださっている。\nそれがどれほど心強いことか、言葉では言い表せなかった。\n\n「あなたは決して間違っていません」\n\n王妃様はそう言って、私の手をもう一度強く握ってくださった。\nその温もりを胸に、私は王宮を後にした。\nその夜、公爵家とは別の場所――ベルクレスト男爵邸では、静かな時間が流れていた。\nミレイユは、自室でただ一人、鏡台の前に座っていた。\n蝋燭の灯りだけが、部屋を淡く照らしている。\n鏡に映る自分の姿を、彼女はじっと見つめていた。\nその瞳が、ゆっくりと赤く光り始める。\nまるで、内側から何かが滲み出るように。\n\n「もう二人」\n\n小さく、そう呟いた声には、感情らしい感情が一切乗っていなかった。\nまるで、数を数えるかのような、淡々とした響きだった。\nその様子を知る者は、誰もいない。\nけれど、この静かな一言こそが、これから起きる出来事の、確かな予兆だった。\n学院では、まだ誰も真実に辿り着けずにいる。\nただ、確実に何かが狂い始めているという違和感だけが、静かに、しかし着実に広がっていた。\n私自身もまた、あの赤い瞳の正体を突き止めなければならないという思いを、日に日に強くしていた。\nそれが、自分自身の名誉のためだけではなく、これから先、誰か別の誰かが同じ恐怖を味わい、同じように公衆の面前で制御を奪われ、胸を晒され、漏らさせられてしまうような惨めな目に遭わないためにも、必要なことだと感じていたからだ。\nあの不思議な力は、確かに存在する。\nそして、それは私たちの誇りも、体の自由も、静かに、確実に、蝕んでいるのだから。"} |
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