| {"novel_id": "n0012ga", "chapter": 1, "url": "https://novel18.syosetu.com/n0012ga/", "title": "自尊心", "content": "「はいっ! お尻上げてっ!」\n 女性看護師のぴしゃりとした言い方に、老学者は従うしかなかった。おずおずと腰を上げ、下半身を剥きだしにされた。\n「あらあら、いっぱい出てるわ」\n 言いながら、看護師は手際よく尻を拭い、汚れたおむつをビニール袋に押し込んだ。その手は男性器にも伸びたが、手の動きには何の感情も感じられなかった。\n 下半身を晒したまま、老学者は記憶の糸を手繰った。\n お尻を上げなさい――。どこかで聞いた言葉だった。\n ところが、手繰り寄せたことを老学者はすぐに後悔した。記憶が突然蘇った。教え子である女子大生の泣き顔が、目の前にまざまざと浮かんだ。\n 美咲はおずおずと腰を上げ、「もう、許してください」と、涙声で訴えていた。脳裏に浮かんだ美咲の、悲しげな瞳に見つめられ、老学者は顔を歪めた。\n その表情に気づいたのか、看護師が声をかけてきた。\n「もう少しですからね。はいはい、今すぐきれいなおむつに換えますからね」\n 看護師は、我慢してねえ、とあやすように言った。\n その物言いに、老学者は苛立ちを覚えた。以前からわだかまっていた感情が迸り出た。目の前の若い女性看護師に思い知らせてやりたい。彼は自分を抑えることができなくなった。\n 老学者は、今度は自ら、記憶の中に身を置いた。持ち上げた尻に、大量の白濁液を浴びせられた美咲を、目の前に蘇らせた。\n 後ろ手に縛られた美咲が、老学者を振り返り、瞳から涙を零れさせた。\n「どうして私を、こんな目に……」\n 私をもう家に帰してくださいと、女学生はすすり泣いた。\n そんな教え子に老学者は、\n「もう少しの辛抱だからね。ほらほら、君のお尻に、いっぱい出してあげたからね」\n いい子だねぇ、とあやすように言った。\n 記憶の中に浸かっているうち、そのときの情欲が、次第に身内に漲ってきた。これなら、久しぶりに男を取り戻せるに違いない。老学者は確信した。\n 奮い立った俺を見て、看護師はどんな表情をするだろう。その、驚き動揺する顔を想像し、彼はほくそ笑んだ。男をみせつけてやろうぞ。戸惑い、恥じらうがいい、この小娘め――。\n しかし、看護師は淡々と仕事を続けるばかりで、一向に彼の変化に気づかなかった。\n おかしい、そんなはずはない――。\n 老学者は訝しんだ。男性自身を見せつけられているのに、若い女性が動揺しないなどと、そんなことがあろうか。\n 彼は首を持ち上げ、股間の方へ目を向けた。\n その途端、老学者は愕然とした。そこには、小さくなってへたっている、男の残骸があった。\n 老学者が目を見開いたままでいると、看護師の声が降りかかってきた。\n「勝手に出歩いたら駄目ですよ」\n すると、その看護師の後ろから、年配の女性看護師が言った。\n「入口のマットを踏めば、ナースステーションで感知されるから、大丈夫よ」\n「そうですね」と若い看護師。「それに、お薬もすぐに効いて、眠ってしまいますもんね」\n 二人は声を立てて笑った。\n 老学者は二人を見つめながら、再び美咲のことを思った。\n 今の俺は、あの時の美咲と、同じ目をしているのだろうか――。", "single_page": true} |
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