【タイトル】 神様にスカウトされました 【作者名】 OTE(@OTE) 【連載状態】 連載中 【ジャンル】 異世界ファンタジー 【キャッチコピー】 アラフィフのオッサン異世界へ。神様から依頼を受けて頑張ります。 【紹介文(11行)】 冴えないおっさんは心臓発作で死んだ。 そして、神と定義される存在によってその魂の情報を異世界に移送された。 神から幾つかの手助けと例外措置を提供され、おっさんは異世界に降り立つ。 代わりにおっさんは神の依頼を受ける。 それはこの世界のシステムのデバッグと、改善案の提案。 果たしておっさんは、生きてるうちに依頼を果たせるのか? その前に、おっさんは前世を思い出せるのか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 ------ 異世界転生系が大好きな作者が、自分でも書いてみたくなって書いた小説です。 頻繁な更新ができるか分かりませんが、頑張ります。 【セルフレイティング】 - 残酷描写有り - 暴力描写有り - 性描写有り 【タグ】 - 異世界転生 - おっさん - 魔法 - シリアス - ファンタジー 【イメージカラー】 #76690D 【作成日時】 2017-04-05 18:13:14(+09:00) 【公開日時】 2017-04-05 18:20:45(+09:00) 【更新日時】 2019-05-27 08:49:54(+09:00) 【文字数】 - 公開済のみ: 221,863文字 - 下書き含む: 221,863文字 【目次】 § プロローグ 1. 000 プロローグ 2. 001 再会と依頼1 3. 002 再会と依頼2 § 01 コミエ村にて 4. 003 目覚めの日 5. 004 確認二つ 6. 005 過大な贈り物 7. 006 切り取られた空 8. 007 きしむ日常 9. 008 人別帳 10. 009 新しい家 11. 010 試し1 12. 011 試し2 13. 012 試し3 14. 013 目的と方針1 15. 014 目的と方針2 彼の居場所 16. 015 修行開始 17. 016 泡倉と修行1 18. 017 泡倉と修行2 四大術と神術の検証 19. 018 泡倉と修行3 質問と提案 20. 019 泡倉と修行4 海と管理人 21. 020 村人になる1 22. 021 村人になる2 術士の需用 23. 022 村人になる3 夢枕 24. 023 村人になる4 名も無き草 25. 024 村人になる5 お披露目 26. 025 珊瑚と真珠 27. 026 墓標 28. 027 企みの始まり 29. 028 場違いな品 30. 029 村と商人1 31. 030 村と商人2 § 02 開拓都市アレハンドロ 32. 031 道行きとスカウト1 33. 032 道行きとスカウト2 34. 033 道行きとスカウト3 35. 034 月夜の対話 36. 035 三々五々 37. 036 シティアドベンチャー 38. 037 試技 39. 038 6才になりました 40. 039 参入者へ1 41. 040 参入者へ2 42. 041 参入者へ3 43. 042 参入者へ4 44. 043 参入者へ5 45. 044 夏の夜の妖精 46. 045 寝坊と職人 47. 046 野生色の少女 48. 047 機人と前世 49. 048 二人と前世 50. 049 パーティ結成 51. 050 ポリシーと命名 52. 051 教育振興とドライブ 53. 052 戦闘開始 54. 053 守護者の情 55. 054 赤の乗り手 56. 055 夜闇に死人が起き上がる話 57. 056 状況整理 58. 057 転換 § 03 隠れ里 59. 058 出発準備 60. 059 秘密保持契約 61. 060 コミエ村へ 62. 061 コミエ村にて 63. 062 候補地への道 64. 063 候補地にて 65. 064 古代文明の遺産 66. 065 縄張りと村長 67. 066 土木工事 【タイトル】 000 プロローグ 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2017-04-05 18:16:17(+09:00) 【公開日時】 2017-04-05 18:20:45(+09:00) 【更新日時】 2017-04-05 18:20:45(+09:00) 【文字数】 1,836文字 【本文(44行)】  12月30日夜の10時を過ぎた所。  私は自宅マンション近くのコンビニにくたびれたスーツ姿で来ていた。今日の店員は東南アジア系のようだ。ちょっとたどたどしい日本語で挨拶してくる。  今は仕事帰りだ。  仕事納めは28日だったのだが、その朝一でプロジェクトにトラブルが発生。至急の対応が必要となった。  おまけにその影響が年末年始で行うはずだったサーバのメンテナンスにも影響することが判明し、大騒ぎ。  うちのチームの全員が休出し、やっとすべてが終わったのが先ほど8時過ぎ。  片づけをしてようやく会社を出たのは、9時過ぎだった。元気な若手は遅れた納会と称して繁華街に消えていったが、私はもう限界だった。  家に残した家族もいるので彼らの世話をしなければならない。そこでできるリーダーを称する私は、若手に数枚の諭吉さんを渡してあげた。若手達は大喜びで去って行った。これを機に私に対するハゲネタを止めてくれると良いのだが。あれ、地味に傷つくのだよね。  適当につまみとビール数本を買ってコンビニを出た。今日は疲れたから、ちゃんとしたビールだ。発泡酒ではない。  店員がコンビニらしからぬ威勢の良いあいさつで送ってくれる。  人気の減ってきた通りを家の方に向かってプラプラと歩く。  ふと見上げると下弦の細長い月。星はあまり見えないが仕方がない。  冷たい空気、冬特有の空気の匂い、冴え冴えとした月の光。いい物を見た気がした。  マンションに着いた。オートロックを開け、エレベータで5階へ。  なんてことのない賃貸4LDKだが、中はエアコンで暖かかった。明かりは消えている。  玄関で電気をつけると、早速家族の世話に向かう。居間を兼ねた9畳間だ。  120 cmの水槽が4つ。淡水水槽ばかりだ。何種類かの魚とエビが泳いでいる。  私は急な泊まりがあるときもある。だから基本的に水の汚れに強いものを飼うようにしている。お陰で地味な魚ばかりだ。だが、飼っていると結構可愛い。後、エビがツマツマしているのを見ると、時が経つのを忘れる。  彼らは急に明かりがついたので戸惑っているようだ。刺激しないように水槽をチェック。特に問題は無い。だが、明日は水替えをするべきだろう。  もう一人大事なペットがいる。さっきからケージをかじってアピールしているので構ってやらねば。  水槽から少し離れたところに、金網のケージがある。高さ80㎝幅80㎝奥行き50㎝の大型ケージだ。初めてみた人は必ず驚く大きさだ。  中には直径30㎝の回し車や様々なステージがしつらえていて、ジャングルジムのようになっていた。  その入り口付近の金網を握って金網をかじっているのが私の大事な相棒、ハンナ。  デグーというげっ歯類だ。年齢は3歳の雌。大きさは180gほど。掌にちょうど載るくらいの大きさだ。見た目は地味な茶色の毛玉だ。リスにも兎にもちょっと似ている。  デグーは人懐こく、孤独を嫌がる。だから私に構ってほしくてたまらないのだろう。  手早く着替えて、遅い晩飯の準備をする。とはいえ、つまみを皿にのせるだけなのだが。  食卓に座り、ケージからハンナを出す。  するとハンナはダッシュでケージを飛び出し、胡坐をかいた膝から肩に簡単に駆け上がってくる。そして耳たぶを甘噛みして構ってアピールだ。左手でハンナのあごの下を掻いてやりつつ、右手でビールを注ぎ、飲み干す。ついでにデグー用のオヤツを渡すのも忘れない。  何とも言えない充実のひと時だ。ついでにテレビをつけるが好みの番組がない。50近くになったメタボでバーコードハゲのおっさんには、年末特番のキラキラした雰囲気はきつかったのだ。  仕方がないのでAMラジオを付ける。懐メロが掛かっていた。もう私が20代の頃の歌は懐メロなんだ、ということをつくづくと感じてしまう。そりゃー四半世紀も前の歌は懐メロだよね。歌っている歌手、ほとんど居なくなっているし。  ビールを3本ほど飲んだところで、台所に行き、風呂の給湯ボタンを押す。43度。ちょっと熱めが好きだ。  お湯が溜まるのを待つために、冷蔵庫から冷や奴と日本酒を取り出した。給湯器から報せが来たところで、ハンナをケージに入れ、風呂に向かう。ほっとくと何か囓っちゃうかも知れないし。  脱衣所は冷えるが、酔った体には丁度良いくらいだ。脱いだ服を洗濯機に放り込むと浴室の扉を開けた。湯気がむわっとやってくる。  とりあえず体を洗おうと思い、プラスチックの椅子に腰掛け湯を被る。これはちと熱すぎた。立ち上がり、水で薄めようとした途端、私は意識を失った。 【タイトル】 001 再会と依頼1 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2017-05-08 09:40:56(+09:00) 【公開日時】 2017-05-08 09:40:56(+09:00) 【更新日時】 2017-06-18 22:58:52(+09:00) 【文字数】 2,708文字 【本文(63行)】  遅くなりました。所謂異世界転生になりますが、ちとプロローグが長そうです。  ----------------------------  ふと目が覚めた。  天井はどこかで見たような安い木の板。これまたチープな蛍光灯が光っている。  体に違和感はない。ちと饐えた匂いのする布団が掛けられていた。体を起こすと、そこは6畳の畳の部屋だった。壁際にブラウン管テレビ、骨董品級の古いパソコン。布団の隣には小さなコタツがあって、その上にはこれまた骨董品の家庭用ゲーム機に、古いTRPGのルールブックに、何か書き付けてあるルーズリーフ。申し訳程度の教科書。懐かしいバインダー。酒瓶も転がっている。 「思い出した。ここは私が大学時代に住んでいたアパート」  もちろん当時のアパートはとっくに引き払っていて、この状態で有るはずが無い。多分、見知らぬ誰かが住んでいるはずだ。ひょっとしたらもう無いかも知れない。  しかし、思い出の中の部屋と余りにも合致している。その証拠に、バインダーの中身は私が若い頃作った苦い思い出だったからだ。  コピー用紙を綴じたバインダーの表紙には、当時の彼女が描いた女神の絵。キャンペーンで何度も出てきたお節介な女神だ。彼女は女神が好きだった。演じてるのはGMである私だったのに。そして「ニュースフィア」と手書きの飾り文字。昔作った自作のTRPGのルールブックだ。  バインダーを開けると、何度も読み返した文章が顔を見せる。数値には手書きの修正、所々にメモが入ってるのも思い出のままだ。  高校の時から作り始め、大学のサークルで友人達を巻き込んで作り上げた「ニュースフィア」。卒業して社会人になっても、たまに集まってまた遊ぼうと約束したが、あの事件で皆バラバラになった。  嫌なことを思い出した。こういうのを黒歴史というのだろうか。  コタツから立ち上がり、窓辺に近づく。そしてカーテンを開けた。カーテンの向こうは真っ白で、思い出の風景を見ることはできない。  恐らく、霧だ。ミルク色の空気の5cm先も見通せない。  さて、どうしたものかと振り向くと。  コタツに見知らぬ男女が3人座ってた。全員私を見ている。その異様な様子に私は息を呑み、立ち尽くす。  真正面でこちらを見ているのは、どこかで見た老人だった。年は70近いか?白に近いプラチナブロンドの髪が肩まで伸びている。ひげはない。穏やかだが油断のない顔つきは、昔通った道場にいた師範のようだ。着ているのは青を基調とした司祭服のようなもの。ローマ法王が説法の時に着ているような感じの物だ。金糸銀糸の刺繍が施されていて非常に豪華だ。しかし、老人の顔が余りにも武芸者なので違和感がある。司祭服は老人の肉体で膨れていた。これ、絶対体はムキムキだ。少なくともコスプレには見えない。  左側にそわそわと落ち着かない様子でいるのは、黒髪の美女。エキゾチックな顔立ちは非常に整っていて、可愛いと言うより綺麗なタイプ。お目々ぱっちり。20代中盤。中東、インド系という感じなのだろう?服装はインドっぽい感じもするが良く分からない。彼女は私と老人を交互に見ている。おびえているようにも見えるが、どこからか取り出したミカンを食べている。  右側に座っているのは、でっかい男だった。ヒグマを人間にしたらこうなるのではないか、というような雰囲気。西洋系の顔立ちなので違うかも知れないが、40代中盤から50代。恐らく私と同年代だろう。つるっぱげだが、綺麗に整えられた黒髭が有った。男性ホルモンが濃いのだろうな。だが、私は同じ毛髪に不自由している男として親近感を持った。ヒグマのような男が、狭いコタツに申し訳なさそうに入っているのは何かユーモラスな絵面だった。 「まぁ座りなさい」  正面の老人が流ちょうな日本語を発した。確かに、この状況で私だけが立っている訳にもいかないだろう。話が進まない。 「では失礼して」  私はコタツに足を突っ込んだ。もちろん正座だ。状況が分からない以上、安全に行くのが処世術。ふと気づくと、コタツの上は綺麗になっていた。何も載っていない。私の思い出の数々はいずこ? 「おっさん、足崩せや」  と右のヒグマ。お前もおっさんだろうに、と思うが、 「ではお言葉に甘えて」  と足を崩す。体重92kg体脂肪率35%ウェスト115cm、おまけにすだれハゲで長年の不摂生を重ねている私に、正座は苦行だ。礼儀として正座して見せたのである。 「須田浩太郎、享年49歳。死因、心筋梗塞と脳梗塞による多臓器不全」  老人は名乗りもせずに言い放った。目つきは、大企業のえらい人や政治家と交渉する時と同じ。この無礼も計算のうちというわけなのだろう。 「なるほど。やはり死んでましたか」  私はとぼけみせるが、正直現実感が無い。状況が突飛すぎて判断できない。しばらく3人を見るが誰も言葉を発しない。まだ私のターンのようだ。 「……それで、私が死んでいると仮定しまして。ここはどこでしょう?私は仏教徒でしたから地獄の裁判所でしょうか?」  まぁ標準的な日本人なので、実家に帰ったときに墓参りするくらいだが。後、もし地獄の裁判所だったとして、彼らは仏教に帰依する十王には見えない。  十王というのは、地獄の裁判官だ。死んだ人間は七日毎に十王の裁判を受け、通常は7回、つまり49日後に沙汰が下る。これが所謂、初七日だの四十九日だのという風習の元になっている。  私はそれきり口をつぐんだ。そちらのターンだ。 「……ここはニュースフィアの神王城。その特別室だ」  ヒグマのおっさんが沈黙に耐えきれず口を開いた。  ニュースフィアは私はかつて作ったゲームの世界。神王城は、イモータルプレーンに存在する神々の城の一つだ。そこを治めるのは主神であるメトラル。 「……ということは。あなたはメトラル神?」  老人がうなづく。  この老人をどこかで見たことがあると思ったら、私が描いた似顔絵(?)か。リアルにするとこうなるのか。となると、右のヒグマのおっさんは獣の神ドラウグ。左の女性は誰だ?覚えがない。大量にいる戦神や土地神の一柱か? 「この場は誰が作ったのですか?何故ニュースフィアなのです?」  有名ゲームでも小説でも良かったはずだ。何故、世に出たことも無い同人TRPGで世界を作った?プレイ人数はとても少ない。設定を詳しく知るのはほぼ身内。私にとって愛着はあるが完全とは言えない作品だ。  やたらと威圧感の有る老人、メトラルが口を開く。 「お主はうすうす分かっておろう?ここは……」 「ぼくが作ったんだ」  同じ老人の口から若い男性の声が聞こえてきた。この声は…… 「久しぶりだね。須田ちゃん。ヤマシンだよ」  四半世紀以上前に死んだはずの友人の声だった。 【タイトル】 002 再会と依頼2 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2017-05-21 16:31:03(+09:00) 【公開日時】 2017-05-21 16:31:03(+09:00) 【更新日時】 2017-05-21 16:31:03(+09:00) 【文字数】 3,042文字 【本文(70行)】  四半世紀以上前、学生時代に住んでいたアパートの部屋には、厳めしい顔の老人、エスニックな美女、ヒグマのような大男。走馬灯にしても脈絡が無い。  そして老人の顔から、自称ヤマシンの柔らかな声。顔と声が釣り合わないことこの上ない。違和感がある。しかし、私に驚きは無かった。麻痺してしまっているのかも知れない。  老人の顔をしたヤマシンは語る。 「知っての通り、あの日ボクはテロで死んだ。それは間違いない事実だ。そしてボクの魂は散逸して無に帰るはずだった」 「ふむ、そこで何か起こったのか」  語りの邪魔をするつもりは無かったが、つい口から漏れる。 「そうだね。この宇宙は、地球のある宇宙の眷属にあたる。まぁ親戚のような物。で、その宇宙意識の一端が地球に出張中でね。あのテロ事件を見ていたんだ。そして、ボクの魂はサンプルデータとして持ってこられた」 「運は良いが夢の無い話だな。しかし、なんだかんだ言って今は主神なんだろ? 元々居た神とかはどうしたんだ? 追い出したのか?」  口調はいつの間にか学生の頃の物だ。 「んー。元々ボクは神になる予定では無かったんだけどね。なんだかんだあって、今はこの立場。元々居た神は、追い出したわけじゃないよ」 「言えないこともある、か」 「正面から言われると辛いけど、まぁ。そう」  老人の顔が苦笑する。私は自分の一人称が混乱するのを感じる。「俺」か「私」か。そういえば、いつから「私」が一人称になったんだったか? まぁいい。 「こっちとあっちは行き来できるのか?」 「できる。だけど、こちらとあちらは接続は不安定でね。接続できないときもあるし、時間の流れもすぐ変わる。向こうで1日過ごしたらこちらでは数百年経ってた、と言う事もあったし、その逆もあった。君を迎えに行ったときはたまたま落ち着いていたけどね。  そして、君の魂は生きたままの転送に耐えられない。死んでただの情報になれば別だけど、転送の度に死ぬのは嫌だろう? ボクのような立場になれば大丈夫だけど、お勧めできないね。主に自由度的に」 「ふむ。なかなか面倒な制約だな。で、俺は今後どうなる? 後、向こうはどうなった?」  古いSFで考えるなら神の一員となっての活動か。ライトノベル的な展開なら、様々なギフトを貰っての気ままな旅。さらにハードモードもあり得るが、こうして事前説明をするのだから考えづらい。  状況になれてくると、やはり家の様子が気になる。会社も実家や兄弟も。 「……元々、計画的な行動では無かったんだ。こっちの時間で数百年ぶりにあっちに繋がって、情報収集ついでに君の様子を見に行ったら死んでるんだ、驚いたよ! 死後二日目だったかな? 見た目といい、匂いといい、惨劇だったよ。多分一度停電したんだろうね。家の中は真っ暗だった」 「あぁ、それはお見苦しいところを。出迎えもできずにすまんかったな」  不可抗力である。なんとなく不快なニュアンスが声に出た。右隣のヒグマのおっさんがこちらを睨む。  ヤマシンは気にした風もなく。 「ボクは君の魂が回収できる事を確認すると、反射的に回収を実行した。計画外だったので、部下からかなり怒られたよ」 「実際には準備に半日ほどあったんだが、誰の言う事も聞かず大変だった」  ヤマシンが厳めしい老人の顔でウィンクする。一方、ヒグマのおっさんは人を殺しそうな目でこちらを見る。  その間も左のお姉さんは黙ってミカンを食べるだけだ。このお姉さんは何しに来たのだろう? 「まぁ色々有って蘇生に1週間ほど掛かったんだ。その間にボクも考えてね。須田ちゃんにはレビュアーになって貰おうと思う。神の使い、神使という奴。今、神界と地上は行き来しづらくて、あまり地上の様子が手に入らないんだ。亜神もほとんど居なくなったし。一応神殿経由で情報を得ているんだけど、どうにも偏っててね。須田ちゃんなら、原作者だし上手くやってくれるんじゃ無いかと」  しばらく考えたのち、了承した。  聞いた限り、もう俺は死んだのだ。だから日本に帰っても、もはや須田浩太郎ではない。もしもう一度死んで送り返されても、身分証が使えなければ現代日本ではまともに生きることはできないだろう。まさか別宇宙の存在が日本の身分証を偽造できるとも思えない。  そうなれば、受けざるを得ない。  そこから条件を詰めた。多少時間はかかったが。 ・地上の赤子に転生する(転生先はランダム) ・須田としての意識は5歳まで封印する ・幾らかのギフトを与える ・魔法と武術について研修してから転生を実行する ・死んだ場合、神になるか再び転生するか選べる などなど  一通り話し終えると、不具合に関してなどは、転生後に検討することになった。  基本的には現地民として好きに生き、いろいろなところを見て感じたところを報告する。神使として様々なところを見て歩くために必要な力は与えるが、それまでだ。バランスブレイカーではない。  その後、家のことなどを聞いた。停電後、家のペットは死んでしまったらしい。マンションとはいえ、停電でエアコンが切れれば冷えてしまう。再度エアコンを付ける人間がいなければ、温度は保たれない。そして熱帯魚は温度変化に弱い。デグーのハンナも会社の後輩が見に来た時には死んでいたそうだ。  葬儀は地元の兄が仕切ったらしい。罵りあって喧嘩別れした親父は、呆然としていたそうだ。  会社の方は、幸い仕事の仕切り直しの時期だったので、大きな混乱はなかったらしい。  どの話もつらかったが、一番心に来たのはデグーのハンナのことだった。我ながらおかしいと思ったが仕方がない。  親父や兄とは離れて長かった。母親が死んでからはほとんど会っていないし電話もしていない。色々有って、そりが合わなかった。俺にも悪いところは有ったがお互い様だったと思う。  会社は仕事上の関係だ。長く勤めて、仲良く食事をすることぐらいはあったが、それくらいのものである。プライベートの付き合いは無かった。  インターネット上の趣味友などに不義理を働くのは心苦しかったが仕方がない。  だがペット達は俺の庇護下だった。彼らの死は俺の責任だと思った。  俺が死んだのは不摂生を重ねていた俺の責任だ。誰のせいでもない。それに巻き込まれたペット達を思うと辛かった。  その後、ヤマシンはメトラル神の人格に戻った。  そして、ヒグマのおっさんと左のお姉さんの二人をしてくれた。ヒグマのおっさんは火の神ベスティアス。左のお姉さんは水の神ヤドゥ。  ベスティアスの名前には覚えがあった。火属性の神のうち、戦士や勇猛な獣を司る神だったはずだ。火属性の神のまとめ役なのだという。  ヤドゥについては覚えてない。三代目の魔術神なのだそうだ。  どうやら俺の知ってるニュースフィアと違う部分があるようだ。  で、ベスティアスとヤドゥが来たのは、俺へのギフトのためらしい。何かくれるのかと思ったら、訓練してくれるという。ただし、二人が認めるまで。 「ちょっと待ってくださいよ。私は見ての通りのおっさんですが大丈夫ですか? この体はもう50近いですし、そもそも死因が不摂生による物です。戦士の神や魔術の神の訓練をまともに受けられるとは思えません。何らかの処置が必要なのでは無いですか?」  思わず口調が戻っていた。まぁヤマシン相手ならともかく、神様達相手にため口もおかしい。 「大丈夫じゃ。どうせその体で下に行かせるわけにはいかん。免疫の事やら魔術絡みの事やら有るからな。修行用の仮初めの体に移ってもらう」  と、事も無げにメトラル神が言った瞬間、俺はどこか森の中に居た。 【タイトル】 003 目覚めの日 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2017-05-25 08:11:59(+09:00) 【公開日時】 2017-05-25 08:19:04(+09:00) 【更新日時】 2017-05-25 08:19:04(+09:00) 【文字数】 2,832文字 【本文(92行)】  ぼくはコミエ村のサウル。8月うまれで5つだよ。今日はお祭りだって、かあちゃんが言ってた。  司祭さまにスキルを見てもらうんだって。すごいスキルだったらいいな。食べ物がたくさんもらえるといいな。おなかいっぱい食べたい。いっつもブラス兄ちゃんにとられちゃうんだ。  お水を井戸から10回くんで、うしさんのわらをすてて、にわとりに草あげて。朝のお手伝いはおしまい。今日はこれだけでいいんだって。とうちゃん、うれしそうに言ってた。さいきん、こわかったからよかった。  ごはんのむぎがゆ、つぶつぶたくさんだった! はっぱも、お肉も入ってた! ブラス兄ちゃんも大喜びでおかわりしたよ。ぼくもおかわりしたんだ。二回もお代わりしたのにおこられなかったよ。毎日お祭りになるといいな。  おかたづけしたら、かあさんが着がえなさいっていうから、着がえたよ。でこぼこしてない服! いつもの服はいろんなところに四角い布がついててでこぼこしてるの。この服色が付いてる! はっぱの色だ! すごい! おきぞくさまみたい!  しんでんに行ったよ。エミルとアニタもいた。エミルとアニタは、いつもいっしょに遊んでるんだ。今日は川のひみつきちに行くんだ。お魚とるの。  たくさん大人がいて、みんなにこにこしてる。ぼくも良く分からないけど、良いことがある気がしてすごくうれしいの。お祭りがあるって聞いてから、おなかと頭がむずむずして、すごく元気なんだ。  ぼくと、エミルとアニタはしんでんの広いおへやで並んだんだ。いつもしさいさまがお話ししてくれるおへや。ぼくたちとしさいさまは、いちばん前の神様がいるところにいて、しさいさまがみんなにお話ししてくれたんだよ。でも、ぼくは神様が気になって聞いてなかった。神様、なんだか、とてもうれしそうに見えたんだ。  しさいさまがお祈りのポーズをして目をつぶりなさいって言ったから、そうしたの。そしたらピカッと光ってしらない女の人の声がしたんだ。 『コミエ村のサウル。契約に基づき、扉の開放を行います。衝撃に備えてください』  途端に視野が開けた。いや、目はつぶってるんだけど。頭の中のもやが晴れたような。司祭様が立つように言ったので立ち上がる。両隣のエミルとアニタが居るのが分かる。真正面の司祭様がこっちをじっと見ていた。  自分の中身が変わった。そう感じた。語彙が違う。というか、さっきまで語彙などと言う単語は知らなかったはずだ。単語なんて言葉も。自分のことを自分、と認識することも無かった。  おかしい、僕は誰だ? コミエ村のサウル、5歳。誕生日は分からないけど、夏だったはず。父はドミンゴ、母はイネス。3つ上に兄のブラス。すでに死んだ名前も知らない姉。  こうして独白する間にも、違和感がどんどんと増していく。不快感が増す。頭痛がする。下腹部に火箸でも突っ込んだような熱さ。一つ考えれば二つ三つと違和感が増す。何が分からないかも分からない。頭がグルグルする。何も考えたくない。  気がつけば、目の前に司祭様がいた。隣には村の戦士の人。抜き身の剣を持っていた。 「僕は誰ですか?」  と、次の瞬間意識を手放していた。  気がつくと周りは暗く、小さな灯りが一つついていた。  かすかに見える天井は、見慣れた物では無い。寝床も違う。いつもの匂いは無い。家の寝床はあまり干さないので、湿っぽいし、獣の匂いがする。しかし、この寝床はどうしたことか、この辺りで嗅いだことの無い花の香りだ。多分薔薇だと思う。  薔薇、か。  僕は村から出たことが無い。薔薇なんて知らない。なのにこの香りが薔薇のものだと知っている。  気味が悪い。  自分自身が恐怖の対象になるなんて思ったことも無かった。まぁついさっきまで、自意識を持っているかすら怪しいただの子供だったわけだけど。 「僕に何があった?」  寝床の縁に腰掛けてつぶやくと、目の前が陽炎のようにゆらりと揺れ、1人の大人の男が現れた。  年は父と同じくらいか。細かいウェーブの掛かった黒髪で、細身。上等そうな服を着ている。顔は整っているが無精髭が生えていて、唇の片方だけをつり上げて笑みを浮かべている。  そしてなんと、背後が透けている! 「坊っちゃんは、坊っちゃん。間違いなく、コミエ村のサウル様でさ」  ぼくがしかめっ面をすると、 「おっと、お初にお目に掛かります。あっしはロジャーと申す者。坊っちゃんの《《魂倉》》管理人を任されました。ケチな小者でありますが、以後お見知りおきを」  ロジャーと名乗る怪しいおじさんは、優雅に膝を曲げて礼をした。まるで僕が貴人か令嬢かのように。  魂倉というのは、色んな生物が持っている大事な物で、下腹部にある。エーテルを貯めたり、術を使うときの要だったり、スキルを使うときにも使うらしい。後は、新しいスキルを取ったり、伸ばすときにも、魂倉の中に溜まってる何かを使うそうだ。  無くなっても生きていけるらしいが、何もできなくなるし、病気にもかかりやすくなる。犯罪者への処罰の一つに、魂倉を抜くものがあるという。  だが、魂倉に管理人がいるなんて聞いたことが無い。魂倉はうすぼんやりした返事を返すことがあるという。とは言っても言葉ではなく、はい、いいえ、といった雰囲気がぼんやりと持ち主に通じるだけらしい。  まぁこの辺は神官様の受け売りなんだけど。  ロジャーおじさんは、じっとこっちを見ている。何か言わなきゃ!  僕は何故だか、ここは強気に行かないと駄目だと思った。  大きく息を吸い込んで……。 「ロジャーおじさん、僕のこの状況の原因はなんでしょう? 教えてください。後、あなたを任命した人、誰ですか?」  ……強気じゃない気がする。ま、まぁ僕はただの村人だし、子供だから大人怖いし、仕方ないじゃない! 多分、僕頑張ったと思う。 「坊っちゃん、おじさんはあんまりでさぁ……」  ロジャーおじさんは意外とダメージ受けていた。僕は無言で促す。 「坊っちゃんは、《《前世》》と言う言葉ご存じで?」 「……何故だか知ってるね」 「坊っちゃんの前世は凄いお方でやした。神々の王とすら親しげに話せたほどで。その偉業を讃えられたそのお方は、次に生まれるとき、色々と便宜を図ると神々から約束された訳でさ。あっしもその便宜の一つってこってす。坊っちゃんをお助けするようにと言付かってるんでさ」  神々の王が云々というのは話半分に聞いておく。魔族が僕をだますために演技している、という可能性はある。しかし、ロジャーおじさんは大丈夫だと思った。根拠は無い。 「いつまで?」 「坊っちゃんが死ぬまで」 「報酬は?」 「坊っちゃんのエーテルからほんのちょっと」 「副作用は?」 「無し」 「他の人から見える?」 「今は見えやせんが、お望みとあればいかようにも」 「何ができる?」 「それはまた追い追い」 「前世のことはどうすれば分かる?」 「今はまだ」 「ここはどこ?」 「すぐに分かりますぜ、坊っちゃん」  途端、ロジャーおじさんは煙のように消え、ノックも無しに部屋の扉が開いた。  そこには、村の神官様と戦士様が1人、険しい顔で立っていた。 【タイトル】 004 確認二つ 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2017-05-31 20:33:43(+09:00) 【公開日時】 2017-05-31 20:33:43(+09:00) 【更新日時】 2017-05-31 20:33:43(+09:00) 【文字数】 3,415文字 【本文(112行)】  神官様と戦士様は、扉を開けたところで寝床の縁に腰掛けた僕と目が合った。お二人は、険しい顔のままだ。朝までの僕が見たら泣いてたかも知れない。 「こ、こんにちは」  僕はなんとか笑顔を浮かべて挨拶してみた。しかし、お二人の顔は険しいままだ。名付けの儀を追えたばかりの貧農の小せがれに向ける顔じゃ無い。『児童虐待』という単語が不意に頭をよぎったけど、意味は分からない。 「もう夜の鐘もすぎましたよ。……ええと、あなたの名前はなんと言ったかな?」  神官様が、苦笑いのような顔で言った。神官様の見た目は五十代。遠くの街に子供が居ると聞いたことが有る。こんな開拓村には勿体ないほどできた方で、いろんな事にお詳しい。それに昔冒険者でもあったそうで、戦いでは普段の物腰とは打って変わり、苛烈な肉弾戦をするそうだ。  で、夜の鐘。コミエ村では一日三回、日が昇るとき、お昼、日が沈むとき。うちではご飯の目安にしている。  名付けの儀があったのが朝の鐘のしばらく後。夜の鐘が鳴ったのなら、もう日が落ちる頃。父も母も、ご飯に遅れるとすごく怒る。叩かれる。げんこつなら良いけど、火かき棒で叩かれたら大変だ! 一度ブラス兄が叩かれるのを見たけど、しばらくは倒れたままピクピクしてた。 「サウルです、司祭様。夜の鐘が鳴ったのなら、僕、もう帰らないと! 寝床を貸していただいて有り難うございました! それでは!」  しばらく固まってた僕は寝床から飛び降りて、扉に向かう。扉を抜けて、家に帰ろうとしたけど、部屋の中央で戦士様にがしっと止められた。戦士様ちょっと、いや半端なく匂う。多分、これ魔物除けの匂い? 『その通りですぜ、坊ちゃん』  頭の中にロジャーおじさんの声がする。魂倉の管理人なのだから、消えても僕とは繋がっているのだろうな。なんだか不思議と安心した。  戦士様は僕を抱えて移動をはじめた。袋のように肩に担いで。僕の頭は戦士様の背中だ。顔を上げると神官様と目が合った。 「心配しなくてよいですよ。ちょっと確認したいことがあるだけです。それにあなたのお父さんには、今夜あなたを預かることを話してます。気にしなくて大丈夫」  神官様がそう言うのならと、大人しく運ばれる。神殿の裏手なのかな? 入ったことが無いけど。僕のうちの居間より大きな部屋についた。  戦士様は肩から下ろしてくれた。  中は昼間のように明るくて、壁は棚ばかりで本が沢山。真ん中にテーブルがあって、大きな銀色の箱があった。字の書いてあるボタンが沢山付いた板がくっついてるし、良く分からないものがゴテゴテと付いている。  格好いい。  あのボタンとかどう使うんだろう? 『……鑑定機。坊っちゃん面倒な事になりやした』 『鑑定機っていうと、持っている技能やら状態やら分かる、あれ? 一回鑑定するのに凄くお金掛かるんでしょ?』 『鑑定対象次第ですがね。通常鑑定で銀貨3枚はかかるかと』 『そんなお金、僕見たこと無いよ!』  お金は、クレという単位で、 小鉄貨 =     1C(クレ) 鉄貨  =    10C 銅貨  =   100C 銀貨  =  1000C 金貨  =100000C  みたいな感じだ。あと、もっとすごいお金があるそうだけど良く分からない。母が前言ってたけど、うちで一食にかかるお金は鉄貨2枚くらいらしい。4人家族で。  一回鑑定するだけで……、ええと、150食分で、ざっと十五ヶ月分?! 『……坊っちゃん計算間違ってますぜ。150食を3で割るんですよ』 『あぁ。ごめん。なら一ヶ月は三十日だから、二ヶ月分くらいかー。それでも凄い金額だね』  と、僕がびっくりしていると、 「だから大丈夫だって、あたしは言ったんだ」  と壁の方から声がした。見ると、神官様の奥様がいらっしゃった。綺麗な深い緑のローブを着ていらっしゃる。いつもしかめっ面しててガミガミ怖いんだけど、ときどきオヤツをくださる良い人なんだ。 「私が名付けの儀で神に祈った途端、この子の魂が急激に変質して倒れたんです。魔に乗っ取られた可能性はあったでしょう?」 「部屋に連れてきたってことは大丈夫だったんだろ?」 「えぇ。念のため、本鑑定してみますよ」 「げ、本鑑定? 五年前やったのが最期だったね。あれの正規料金は銀貨10枚だったはずだけど、誰が出すんだい?」 「……私の蓄えから出しますよ。興味がありますし。そろそろ触媒足りなくなりそうなので取り寄せないといけませんね」  奥様はふんっ、と言うと、机の近くに椅子を置いて座った。神官様は鑑定機の前に。戦士様は扉の前に立った。  僕はどうしようと思っていると、神官様が鑑定機の前の椅子に座るように指し示した。銀貨10枚の本鑑定。どうなるんだろう。  神官様がガチッガチッガチッとボタンを押して行くと、僕の周りがうっすら光った。  途端、鑑定機の上に大きな四角い光る板が出てきた。A2サイズ? 縦40cm、横60cm位。  その板を見た途端、何かもやが晴れてくる気がした。  左半分の上の方に名前やら年齢、誕生日。僕の絵もある。凄い。水鏡に映した姿より綺麗。左下には、状態。力やら敏捷性、エーテルに関する諸元。現在値や将来伸びる可能性の値など。  右上には、変わった図が描かれてた。円周上に幾つかの樹上図が書かれて技能が段階的に描かれている。先端は下位だ。それを幾つか束ねる中位があり、関連技能全てを束ねる上位技能がある。僕の技能段階はまだ無いけど、全ての技能が取得可能になっている。  例えば剣を使うとき、片手剣や短剣など、個々の武器を操る技能や、なぎ払いや武器を使った特殊技能は下位技能だ。それを束ねた武器戦闘が中位となり、肉体戦闘が上位となる。上位技能を持っていると、それ以下の全ての技能を使用可能となる。中位、下位の技能があればそれらは累積する。  短剣を使うのに、短剣技能(下位)が三段階、武器戦闘技能(中位)が二段階となっていると、短剣を振るうのに五段階として使うことができる。長剣技能が無くても、武器先頭技能を代理にできる。つまり長剣を二段階として使うことができる。  作った当時は画期的だと思ったのだが、分かりづらいと不評だった。  樹上図の近くには、残エネルギーが五千と書かれている。これが多いのか少ないのか良く分からない。  ……いや、この数値はかなり多かったはず。必要エネルギーの表があったはず。  下位技能に関しては0から1にするのに1で済んだはず。  ……ん? 何かおかしい気がする。今の考えに《《僕じゃ無い人》》が混ざってるよね、これ?  と、光る板を見て考えていたのだけど、周りから見られていることに気がついた。神官様も奥様も怪訝な顔。 「《《読めている》》、ようですね。どう思います、マリ」 「鑑定結果は、鑑定者に伏せられていても、本人には読めるだろう?」 「この子は五歳ですよ、マリ。おまけに教育を受けた事は無い。古代文字を読めるのはおかしいでしょう?」  神官様が奥様に語りかけていた。ロジャーおじさんの舌打ちが聞こえる。 「……あ、承認画面が出ましたね。マルコもご覧なさい。第二級の誓言要求ですよ」 「司祭様、お戯れを。第二級は、王族や各宗派の枢機卿が機密保持に使う物ですよ?」 「おーおー、こりゃホントだわ。えらい事じゃ無いか? 受けるのかい? セリオ」  奥様の言葉を受けて、戦士様は苦い顔だ。  そして司祭様は、一瞬僕の顔を見ると、ほーーーーっと長いため息をつかれた。 「ここまで来て引き下がれないでしょう? もし嫌なら、マルコもマリも部屋を出てください。第二級の誓言に反する事を行えば、死か、もっと酷い目に遭います」  しばらく沈黙が広がると、奥様が口を開いた。 「セリオあんた、ここに来る羽目になった事件を忘れたのかい? いつか本当に好奇心で身を滅ぼすよ」  そういうと、奥様は、椅子に座り直した。続いて戦士様が、 「……これも任務上必要だと思いますので」  と、戦士様は部屋の隅に手近な椅子を引き寄せて、椅子をきしませて座った。戦士様、凄く体大きいから。多分、180cm100kg超。 「マルコ、そこでは字が読めませんよ?」 「問題ありません司祭様。私は古代文字が読めませんので。それに、解説して下さるのでしょう?」 「では」  司祭様が、ボタンをガチッと勢いを付けて押す。僕にはディスプレイの変化は分からなかったけど、司祭様と奥様の表情が変わるのが分かった。  ……ん? ディスプレイというのは、あの光る板のことなのね。 「確かにこれは第二級が必要だね。第一級でも良かったのかもしれない」  司祭様の声はちょっとぼんやりしていた。 【タイトル】 005 過大な贈り物 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2017-06-06 18:03:40(+09:00) 【公開日時】 2017-06-06 18:03:40(+09:00) 【更新日時】 2017-06-06 18:03:40(+09:00) 【文字数】 3,211文字 【本文(96行)】  司祭様と奥様はしばらくじっとディスプレイを見ていた。一分? 二分? 「……状況を整理しましょうか、マリ。この鑑定結果は突っ込みどころが多すぎます」 「あたしゃ、見なきゃ良かったって思ってるよ」 「まぁまぁ私たちは夫婦ですし。病めるときも健やかなるときも、苦楽を共にしようじゃ有りませんか?」  神官様がにっこり笑いかけると、奥様が顔を背けた。戦士様が何故か咳払いをする。 「名前欄の横。肖像の部分に既に絵が入ってますね。これ、鑑定機のオプションサービスのはずです。おまけにこの絵、食事とっているときです」 「念写の術はあるが、あれは割とぼんやりしている。こんなはっきりとは写らないね」 「身分等の欄に、前世とありますね。でも、誰の転生なのか不明、と」 「前世持ち自体は、ぼちぼち有る話さね。この世界では魂は輪廻して、神に近づくんだから。事情があれば前世のなにがしかを引き継ぐことはある。この村にも一人居たんじゃ無かったかい? 確か、前世が冒険者だったのが。だけど前世が誰か分からないというのは珍しいねぇ」  神官様も奥様も、僕からは見えてないけど戦士様も、僕を見る。 『坊ちゃんにお任せしまさ』  と、ロジャーおじさん。ひどい。 「……僕にも前世が誰かわかりません。名付けの儀で女の人の声が聞こえて、頭がくらっときて倒れました。起きてから、思考がはっきりして頭が良くなった感じはするんですけど、僕にも何が起きているのか分かりません」  嘘は言ってない。ロジャーおじさんの事は聞かれてないし。  神官様は首をかしげて、まぁいいでしょう、と。  諸元は、地水風火空の五つに分かれる。それぞれの元素に対して、肉体、精神、霊性があり、それぞれ成人の値は5から10くらい……。あ、なんか違う。桁が一つ違うなぁ。  風の精神は思考、理性などだけど、僕の値は85と書かれている。体格などを示す地の肉体は28。僕、同年代と比べて体小さいもんね。多分、一桁上げているんだろうな。もともと2D6用に作ったシステムだったし……。  現在値、最大値は良いけど、成長限界なんてのもある。派手な数値になってるなぁ。 「名付けの儀が終わったばかりの子の精神とは言えない数値ですよね、これ」 「風の精神が飛び抜けて高いが、他もすごいよ。言っちゃ悪いが、地の精神は自我だけどさ。これが高い農村の住人なんて滅多にいない」 「それにマリ、成長限界が高い。100を超える諸元が幾つかある。天賦の才があるよ、この子には!」 「上手く育てれば、どの分野に行っても上手く行きそうだね」 「神官様奥様、引き取られますか?」 と、戦士様が声をかける。 「うーん、そうだね、マルコ。ちょっとこの子の親とも話をしたいところだね。まぁそれよりこの技能樹を見てご覧。すごいね。学会で報告したいと思わないか、マリ?」 「技能の可能性が全く無い奴も多い。持っていても下位技能。それだって数個有れば良いところ。中位技能の可能性が一つあれば御の字さ。上位技能を持ってる奴なんざ聞いたことも無いよ、あたしは」 「それがこの子は、全技能の封印が開いている。ほんと、この子の前世は誰だったんだろう。ここまでのギフトが得られるなんて」 「エネルギーも3000かい! 普通なら100も有れば将来が変わるほどの大騒ぎなんだよ! 300もあれば貴族に仕えることだって……」 「まったく! 腹が立つほどすごい! これだけあれば、闘気術も他の術の底上げもやりたい放題じゃ無いですか!」  僕の頃は、技能の取得可能性なんて無かったんだけどな。《《経験値》》さえ有れば、なんだって取り放題。あ、神関係と他の術関係は同時取得できなかったけど。  それと、闘気術という枝があるな。あれは見覚えない。  確かに3000は多い。《《作りたて》》なら役割に合わせた初期技能パックに500程度だったような。ちょっと感覚が違う部分がありそう。気をつけなきゃ。  ……また《《知らない知識》》が混じってる。気にしないようにした方が良いのかな? 気をつけた方が良いのかな? 何をどう気を付ければ良いのか分からないけど。  まわりをきょろきょろ見ると、神官様も奥様も、ディスプレイを見て、油物を食べすぎた後のような顔をしていた。戦士様も渋い顔だ。 「んーーー。私は眼鏡を買わないといけないな。とびきり上等な奴が必要だと思う。旅に出るのも良い」 「セリオもかい? あたしも二つばかり買わなきゃいけないと思い始めたところさ」 「神官様、奥様いかがされました?」 「泡倉をこの子が持っているそうなんだけどね。大きさが《《酷い》》んだ」 「酷い?」 「泡倉の異能はありふれた物だけど、その分大した力は無いよね。大抵は財布代わりにしかならない。大きな泡倉でも|背《はい》|嚢《のう》二つがいいとこ」 「となると、神官様。荷車一つ分でも出ましたかな? そうなれば、コミエ村も助かりますな! はっはっは!」  場を和ませようとした戦士様の笑いが、虚しく僕たちの間を通っていった。  戦士様の健闘むなしく、大きなため息をつく神官様と奥様。その《《設定》》を聞けば、確かに僕もため息をつきたくなる。  このギフトはやり過ぎだ! 「分からないよ。でかすぎんだ、この泡倉」  忌ま忌ましそうに奥様が言う。僕は何故か申し訳なくなってきた。 「そうなんです。《《縦横高さ500km》》という空間は想像すらしたことがありませんので」 「……神官様、奥様。このマルコも、お買い物の際にはお付き合いしたいと思います。どうも耳の通りが悪いようでして」 「500kmか。あたしは地理に詳しくないけどさ。ひょっとすると、この辺りの国全部合わせたより広いかもしれないね」 「なんだか疲れました。夕食にしましょう。この情報は刺激的すぎます。報告書、は……。先ほど誓言を承認したばかりですから、書けませんね。さすがに死を賭して報告する程、上に忠誠はありませんし」 「確かに、あんなへなちょこ野郎ども、これっぽっちも教えてやる義理は無いよ! しかしまぁこれは、かなり刺激的だよ。この|贈り物《ギフト》は一人の人間が受けるには多すぎる。|贈り物《ギフト》に潰されなきゃ良いがね。さて、ちと汁を温め直すとするか。マルコも食べて行きな。どうせ準備してないんだろ?」  何となく、流れで鑑定は終了した。  鑑定結果が詰まった小さな黒いタブレットが鑑定機からべっと吐き出されて、僕はそれを受け取った。何かの際に本人証明に使えるってことで。  タブレットには簡易な情報しか無いので、問題がばれることは無いらしい。  折角貰ったタブレットだけど、僕の服はポケットも付いてない。どこに仕舞おうかと困っていると、奥様が黒いリボンを付けてくれた。タブレットの二カ所にちょうど良い穴が付いてて、そこにささっと通してくれた。リボンが上質なものだったので断ったんだけど、押し切られちゃった。  しかし、泡倉のインパクトで宙に浮いたけど、隅っこに管理人二人って書いてあったんだよね。あれってどういう事なんだろう。一人はロジャーおじさんのことだろうけど。  夕ご飯をご一緒させて貰い、そのまま神殿に泊まることになった。明日、泡倉について調べて、それからおうちに帰ることになりそう。  最初に起きた部屋は客室だったみたい。薔薇の香りがしていたのは、来客を予定していたからなんだそうだ。予定では数日前に来るはずだったそうなんだけど。  そんな事を話していたら、急に眠くなってきた。ずっと気絶していたのにもう眠いなんて変なの。  客室に通されて、寝床に入った。やっぱりフワフワ。灯りは無いけど、目が慣れると月光でぼんやり部屋の中が見えてきた。窓に透明な何かが嵌まっている。うちは、夜になって窓を閉じると真っ暗。  うーん、ガラスっぽいけど良く分からないな。  眠い。  凄く眠い。 「坊っちゃん、お疲れ様で」  ロジャーおじさんが寝床の脇に立っていた。 「何? 僕眠い」 「すいやせん。ちと周辺の偵察をしておきたいので、許可を」 「うん、いいよ。いってらっしゃい」  ロジャーおじさんの姿が見えなくなって、後のことは覚えてない。 【タイトル】 006 切り取られた空 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2017-06-07 17:45:09(+09:00) 【公開日時】 2017-06-07 17:45:09(+09:00) 【更新日時】 2017-06-07 17:45:09(+09:00) 【文字数】 4,239文字 【本文(129行)】  目を覚ますと部屋の中はほぼ真っ暗。二つある月の明かりも無くて、星明かりだけ。  僕はちょっと不安になる。朝までどれくらいだろう? と寝床にくるまりながら独り言。 『日の出まで、後2時間くらいでさ、坊っちゃん』  ロジャーおじさんの声にも慣れちゃったな。 『いつ戻ったの?』 『2時間ほど前ですかね。あんまり見所が無いんで、村の周りも見てきやした。平和そのものでさぁ』  身を起こしてみる。名付けの儀の服のままの僕には、今の気温はちょっと寒い。温かい白湯が欲しい所。  体を起こして、まわりを見ると、ゆうべ気づかなかった事も見えてきた。  木造の壁はかんなで削られただけで磨かれてもいない。辛うじて家具にはニスが塗られているけど。それに、室内だというのにちょっと空気が動いてる。どこか隙間があるんだろうね。  窓に嵌まっている《《何か》》は、微妙に歪んでいる。手延べの板ガラスとも質感が違う。もっと軽いなー。生物由来かも? 『へぃ。その窓の材料は、大きな芋虫の目玉でさ。大きく育つと、家より大きくなるらしいですぜ。それを術で柔らかくして、叩いて伸ばして窓に嵌めるそうで』 『うわ……、想像したら鳥肌立ったよ……。ええと、ちょっと僕の状態について聞きたいんだけど。鑑定機の内容、ロジャーおじさんは把握してるよね?』 『そりゃまあ、管理人の名を頂いてやすから』 『僕の前世が、鑑定機の内容に違和感あるみたいなんだ。諸元だと、数字の桁や成長限界という項目。技能だと、取得制限。必要なエネルギー量も違うんじゃ無いかって思ってる。その辺り、どうなの?』 『坊っちゃんの前世の頃とは大分違うとは聞いてやす。数年ごとに技能の数も変わっているとか。闘気法なんてのも、今の暦が始まってから生まれた物だそうですぜ。諸元や技能を上げるための必要エネルギーなんかも、地上と神界の関わりが変化する中で何度か手が入ってるそうで』  しばらくロジャーおじさんと話し合った。《《システム》》について話していると、唐突に前世の知識が入り込んでくるのが面白い。面白いけど、なんか慣れない。  ロジャーおじさんに頼むと、鑑定機で出る情報を目玉に出せると分かった。過去のデータの移り変わりも分かるそうで、かなり便利だと思う。肖像画は赤ん坊の頃から載っていた。しかし、この肖像、誰が撮ったんだろう。多分念写だと思うけど。  必要なエネルギー量の表を見て将来の計画を立てようと思ったんだけど、どうすればいいのか全然分からない。まだ《《目覚めたばかり》》で、何をしたいか決めるための情報がまるで足りない。  それに、計算するにしたって、紙とペンが無いと大変すぎる。 『とりあえず、まだ体もできてないし、肉体戦闘系は後回しにして、術系統から攻めてみるよ。とはいっても、誰にどうやって教わるか、だけどね』 『ここの神官と奥方ではいかんので?』 『多分それしか無いと思うけど、うちの両親がどう思うかなぁ』 『いい顔しそうにないのは確かですな。特に親父殿は面倒そうでさぁね』 『うーん。まぁいいや。それより、鑑定結果に管理人二名ってあったけど、あれは?』 『あっしも顔を合わせた事が無いんですがね。恐らく泡倉に管理人がいるはずでさぁ』 『……あぁ。縦横高さ500kmだもんね。管理人くらい居た方が良いよね』  後は、《《目覚めて》》からなんか見る物全てがはっきり見えたり、見慣れた物が色あせて見えたりする事や、名付けの儀の前と後の意識の変わり方。ロジャーおじさんが数ヶ月前から目を覚ましていたけど、僕が目覚めてなかったから声をかける事が出来なかったこと。そして外に出ることもできなかったこと、などなど話してた。  夜明けまで後一時間。午前四時頃。(時間はロジャーおじさんに聞くと正確な時間を教えて貰える事が分かった)うっすら外が白みはじめて、僕がそれを眺めて居ると、控えめに扉が叩かれた。  寝床から返事をすると、扉が開いて。法衣を着た神官様が立っていた。 「起きてたようだね。では早速おつとめをしようか、サウル君。朝食を摂ったら泡倉の調査にしようと思う」  神官様が僕の名前を初めて呼んでくれた。  昨日まで見えなかった神官様の顔もはっきり認識できる。神官様は身長160cm位。体格は普通。綺麗な金髪で、短めの髪を整髪料でなで付けている。ひげは無い。優しげな顔をしているけど、目元は渋い雰囲気がある。五十代だけど全身引き締まっていて、無駄な肉はどこにも無い、という感じ。多分、モテる。  神官様は別に背が低いわけじゃ無い。この辺りの人と比べると、高い方だと思う。父は多分150cm前後。身長180cmの戦士様が大きすぎるだけだ。ちなみに僕は100cm切っている。  しかしまぁ。目覚める前の僕は、何を見ていたんだろう。あんなぼんやりした世界には戻りたくないな。  神官様に生活区から本殿に連れて行ってもらう。薄明かりの中だけど、これで中の様子は大体分かった。生活区も本殿も木造だった。余り凝った作りではないみたい。基礎もあまり上等じゃ無いから、長くは持たないと思う。  開拓村の神殿だものね。村が大きくなったら、建て替えるんだと思う。  水くみや掃除はすでに終わってたので、僕はお祈りをするだけ。  お祈りの文句なんて知らないので、神像の前にひざまずいて目をつぶっただけなんだけどね。お祈りしている間、ずっと視線を感じてむずむずしてた。どこからか分かる?  神像。  この辺りを管轄する地の女神様の像から視線をはっきり感じてた。  神様に見てもらえるなんて光栄な筈なんだけど。すごく居心地悪かったな。  朝食は、家で食べる物と比べると良いものだった。汁は具だくさんだし、肉も入ってた。家だとパンはたまのご馳走。家はかまどのお金が滞ってるから割り当てがこないんだってさ。牛が五頭も居るのになんでなんだろう。  朝食を終え、片付けを手伝い。いよいよ泡倉の調査。本殿か、中庭でするのかなと思ったら、昨夜鑑定した書斎に移動した。人に見られるのを防ぐためだそうだ。  泡倉は馬鹿げた大きさなので、どう調べて良いか分からない。とりあえず何があっても良いように、神官様も奥様も戦士様も冒険に向かう格好で、背嚢も背負っている。  準備が整った神官様が僕に呼びかける。 「では、サウル君開けてみて。泡倉に開いて欲しいと願いながら、手を突き出すと開くはずだよ」 「は、はい」 『泡倉、開いて』  念じながら、手を伸ばすと、手首から先が不意に消えた! びっくりして手を引くと、そこに何か白いぼやっとしたものが浮かんでた。大きさは直径30cm程。  しばらく神官様達は、色々話してた。大きいとか、入り口がはっきりしている、とか。僕は初めて見るので、じっくり観察。でも全然わからない。何か懐かしい感じがするけど。  それから、色々確認した。大きさを変えること、出したり消したりすること。物を突っ込んでも大丈夫か、などなど。  結局入り口は、本殿の大きな扉くらい広げる事が出来たんだけど、どこまで広がるか沸かないので、一回止める事になった。そのうち再調査すると思う。んで、物を突っ込んでも問題なかった。  30分以上調査が続いて、僕はすっかり面倒になってきて。  扉ほどに広げた入り口に飛び込んだ。  明るい。  息もできる。  外は七時前。中も同じような明るさだ。  森林の香りがする。腐葉土の匂い。  ざっと見渡す。  ここは広場だ。直径100mほどの円形で、土が硬く踏みしめられている。周りには背の高いがっしりした大木がうっそうと茂っていて、遠くは見えない。  あ、後ろの方に、高い塀に囲まれた大きな館があった。村の神殿が幾つか入りそう。僕の背だと塀と館のてっぺんしか見えないな。  なんとなく危険はない気がする。  よし! 館の探索でもして見よう! 管理人がいるかも知れないし。 「こらっ!!」  唐突に頭にガツンと衝撃がしてびっくりした。  あ、戦士様だ。後を追ってきたんだ? ひょっとして、入り口って開きっぱなしなんだ?  だんだん痛くなってきた! すんごく痛い! 「中の様子も分からないのに、何を考えてる!」 「だって、僕の泡倉だし! 安全に決まってる! うー、痛い」 「まったく……。呼吸も問題ないからいいが。しかし、泡倉の中に森とはな。昔話にも聞いたことが無い。このマルコ、生きているうちにこんな面妖な経験ができるとは、思いもせんかった」  戦士様が、手に持っていたロープを引っ張ると、それを辿るように神官様と奥様もやってきた。 「二人とも生きてるようで何より」  神官様がとぼけた顔でやってきた。奥様もおっかなびっくり入ってくる。 『坊っちゃん。残念なお知らせでさ』 『なんだい?』 『泡倉の管理人が、坊っちゃん以外の人間にはしばらく顔を見せたくないと』 『んーー、事情があるのかな?』 『そのようで。それと併せて、館には立ち入りできないそうで』 『仕方ないね』  その後僕を放っておいたまま、神官様達は調査を開始した。  土も木も、凄くエーテルが濃いのだそうだ。  エーテルは、様々な生き物が利用するエネルギーの元。人間はそれを魂倉に貯めて生体エーテルとして用いている。エーテルの使い方を変えることで、四大術、神術、精霊術、闘気法の元となる、のだそうだ。僕はまだ使えないから感覚が分からないけど。それに、エーテルの濃い場に居る事で、体の弱い人間が復調することも多いんだそうだ。  なんか聞いた話ばかりだなぁ。  どんな生き物が居るのか、生態調査をするべきだ! って神官様がだだをこねてた。神官様は、初めての事例なんだから是非調べるべきだと強調したけど、戦士様も奥様も絶対反対で、結局また今度、となったみたい。  僕は暇だったので、ぼーっと空を見ていた。  調査の役には立たないし、泡倉の管理人と会えないし、館にも入れないんだから。  この空は《《僕のための空》》なのかな、とか考えながら、ぼーっとしてみた。  空は何故か普通に青かった。  どんな仕組みか分からないけど、雲も流れてる。  小鳥が鳴く声が聞こえる。  広場から見える空は、広場の形に合わせて丸く切り取られている。  切り取られた空の外にも空がある。  500km四方の空。四角い空が。  空の外、泡倉の外には何があるんだろう。  結構長く調査してたと思う。  僕は凄く退屈して、地面に絵を描いて遊んでた。亀の上に世界が載っている図を描いたら奥様が爆笑していた。そんなに笑わなくても良いと思うんだけど。  最期まで神官様は調査を続けるとだだをこねてたけど、奥様に怒られて諦めてた。やっと神殿に戻ったときには八時を過ぎてて、僕は父が怒らないか不安になってきた。 【タイトル】 007 きしむ日常 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2017-06-09 17:56:34(+09:00) 【公開日時】 2017-06-09 17:56:34(+09:00) 【更新日時】 2017-06-09 17:56:34(+09:00) 【文字数】 4,710文字 【本文(161行)】  僕は村を囲う柵を出て、畑から川に向かっていた。  あの後、戦士様が家に送ってくれた。  家の近くまで来てびっくりした。昨日まであんなに大きく頼りがいのある場所に見えていた家が、酷くみすぼらしく見えたんだ。  掘っ立て小屋、というのはさすがに酷いけど、オンボロの木造の家。柱も屋根も歪んでる。大きな嵐が来たら倒れると思う。多分、横に建っている牛小屋の方が頑丈だと思う。  中には母が待っていた。  母の姿も記憶と違っていた。  母の服装はみすぼらしい。服は継ぎ当てだらけだし、布地も薄汚れている。いつもあんなに「綺麗にしなさい!」って僕たちを怒ってたのに。母の顔の作りは整っている。けど、痩せこけて不健康な顔だ。二十代の筈だけど、ずっと年上に見える。そりゃ、いつもあんな粗食じゃしょうがない。  母は僕と一緒に戦士様が来たのでおどおどしている。元々人見知りで、父にも思ったことが言えない人。  戦士様から何か言付かった後は、這いつくばらんばかりだった。  とても悲しかった。  何が悲しいか僕にも分からないけど。  母に手伝いが無いことを確認すると、僕は家から逃げ出した。  五月の朝。ひんやりとした空気。綺麗に晴れた空では太陽がのんきに照っている。穏やかな風。  道沿いの秋まき麦はもう少ししたら収穫。麦の背は1mしかない僕とほとんど変わらない。ただ、僕の《《記憶にある麦》》と比べると随分《《実が多かったけど》》。  村の川は大きい。河原も広い。でも、底は浅かった。治水対策がされてないんだと思う。川岸から10mは離れた所から、立ったまま川を眺めて居ると、ロジャーおじさんの声がした。 『坊っちゃん、何をそんなに悩んでいらっしゃるんで? 普通、ギフトが有ったりあんなクソでかい泡倉なんて代物を眼にしたら、浮かれちまうもんじゃないですかい? あの神官みたいに』 『やっぱり、実感がわかないんだよ。僕は昨日《《目覚めた》》ばかりで、《《この世界の普通》》を全然知らない。自分の家がどんなご立派な物かもさっき知ったばかりだし。自分の母親が、自分の前であんなへーこらする人だってのもさっき知ったんだ。父親と兄がどんな風に《《見えてしまう》》のか、僕は怖いよ。  僕の泡倉は確かに凄いんだろうね。縦横500kmなんて想像も付かない。  鑑定結果も凄いんだろうね。《《普通を知ってる》》神官様達があんなに驚いてるんだもの。  でも僕にはそれがどれほどの物なのか、ちっとも心に響かないんだ。だって普通を知らないんだから。  だから僕は、なんか置いて行かれたような気分なのかもしれない』 『さようで。しかし、あっしは、もうちっとばかり五歳らしくはしゃいで欲しい気がしまさー。……あ』 『どうしたの?』  頭の中で何かがはまり、ロジャーおじさんが言いたい事が分かった。  何か近くに居る。  少し離れたところに、犬が三頭いる。野犬だ。大きい。四つ足の状態でも僕の肩くらい。のしかかられたら終わりだと思う。 「……」  にげよう、と、声に出したつもりだったが、喉の奥が張り付いたかのように動かない。そのまま後ろを向いて走り出そうとするが、足が動かない。動けば後ろから襲いかかられる。  後ろを向けない。  できない。  できなければ、襲われる。  おそわれればしぬ!  こわい!  さむい! 「すいやせん。坊っちゃんの戦闘能力を忘れておりやした。魔物だけ引っかかるようにしてたもんで、気がつきませんで」  ロジャーおじさんが隣に立っていた。暗い色の上等な服。右手に短剣。とは言っても刃渡り50cm程の物。左手は開いている。  体の力が抜けた。歯を凄い力で食いしばっていたみたい。意識してなかった。  もう大丈夫なんだと思った。 「あ、そーいや、あっしは人目がある所では基本出てこれないんで」  そう言うと、ロジャーおじさんは普通に野犬の方に歩いて行く。これから戦うという風じゃ無くて、ちょっと道ばたで知り合いに会ったような気安い感じ。  野犬は歯を剥いて唸っていたけど、尻尾がお尻の下だね。  ロジャーおじさんは、犬と数mのところまで近づいた所で、唐突に短剣を頭上に振りかぶり、地面に振り下ろした。途端、大きな音がして、地面が爆発したみたいに土砂が吹き上がった。  ほぼ同時に、ギャンッ! と野犬の悲鳴が聞こえる。  土砂が収まると、野犬は全部倒れてる。一瞬だ。すごい。どうやったんだろう? 短剣で切ったのかな?  野犬は数秒したところで立ち上がった。ロジャーおじさんを見ながら後ずさっている。そこに 「オラァ!」  と、ロジャーおじさんが怒鳴ると、野犬はひゃん! と情けない声を出しながら逃げていった。前から思ってたけど、ロジャーおじさん柄悪いよね。服は上等なのに。  しかし、こんなにびびってしまうとは思わなかった。もう少し冷静なものだと思ってたけど。なんでだろうなぁ。  等と考えていると、ロジャーおじさんが周りを見渡しながら戻って来た。  多分次は大丈夫。 「ねぇおじさん、なんで殺さなかったの?」 「死体を処理するのが面倒で。って坊っちゃん、さっきまであんな様子だったのに大胆なことを聞きやすね?」 「確かに僕もずーずーしいと思う」  つい苦笑いしてしまう。 「じゃぁ、戻ろう」 「へい。そりゃ構いやせんが、心の整理はついたんで?」 「うーん、全然整理ついてないね。でも、そろそろお昼の手伝いも有るだろうし」 「坊っちゃん、五つにしちゃ分別良すぎまさぁ」  ブツブツ言いながらロジャーおじさんが視界から消え、僕は川から家に帰った。  家に戻ると、母がパタパタ忙しそうにしていた。手伝うことを伝えると、優しい笑顔で喜んでくれた。水を運んだり、次に使うものを渡したり、火の調整をしたりしていると、母が褒めてくれた。 「あら、サウルちゃん今日は悪さもせずにお利口ね。お陰で早く準備が終わって、母さん助かったわ」  しばらくすると、不機嫌そうな父とへとへとになったブラス兄が帰ってきた。既に昼食が用意されていたのに驚いて、僕が手伝った事を知ると、二人とも顔をほころばせる。 「倒れたときにはびっくりしたぞ。神官様は何もおっしゃらなかったが、悪いもんでもついたんじゃないかって、言った奴がいたもんだから肝が冷えた。もう大丈夫なのか?」 「うん、もう大丈夫だよ。鑑定もしてもらったんだ」  渡された黒いタブレットをみんなに見せる。 「あ、サウルそれいいな! 俺にもくれよ」 「ブラス兄ちゃん、これは僕のだから上げられないよ! 欲しかったら神官様にお願いして!」  そこで、あぁ、と母が 「そうそうあなた、サウルが戻って来たときに戦士様も一緒にいらっしゃったのよ。それでサウルを本鑑定してくださったそうなんだけど、お代は要らないって」 「本鑑定といえば、相当高かったんじゃ無かったか? お前、ちゃんと何か渡したのか?」 「え? 戦士様はお代は要らないって……」  目をぱちくりさせる母。その様子にいらだったように父が言葉を重ねていく。  ガミガミ同じ事を繰り返す父と、おどおどしてしまって何も言えない母の様子を横目に急いで昼食をかき込む。  さっさと家を出て、牛小屋のそばに座り込む。そういえば僕、まだ名付けの儀の服のままだ。隣にブラス兄が座った。 「サウルにしちゃ上出来だな」  ブラス兄が、腕を組んで言うが、八歳じゃそれほど迫力は無い。 「何が?」 「いつもなら、父ちゃんの説教に巻き込まれちゃうじゃないか。今日は家を早く出た。サウルにしては上出来だ」 「あぁ、うん」  確かに。《《目覚める》》前の僕なら巻き添えを食らってただろうな。ブラス兄にしては的確だ。 「神殿の中ってどうだった?」 「たくさん本があったよ。あと……」  しばらく色々話しているうちに、両親が出てきて休憩が終わった。  別に手伝わなくても良さそうだったけど、いつものボロに着替え。しかし、このボロ、微妙に臭い。自分で洗濯しようかな。  そして、畑仕事も牛の世話も手伝う。まぁ五歳の体じゃ、大したことはできないんだけどね。  ただ、水を運ぶのは頑張った。桶に水を入れると十数キロ。これを頭に乗せて運ぶんだけど、僕はちょっとずるをした。誰も見てないところで泡倉にこっそり入れて運んだんだ。入り口を足元に作って、桶だけ入れて。大きな樽に登って桶の中身を入れるんだけど、上に登ってから桶を出して傾けるだけですんだ。  15時頃、エミルとアニタが様子を見に来てくれた。僕が元気そうだと分かると、ニコニコしてくれて、こっちもうれしくなったよ。母が、遊んでおいでと言ってくれたので、お手伝いから離脱。  エミルは「元気になるおまじない」といって蛇の抜け殻の尻尾をくれた。エミルは村長の孫で男の子。黒髪でしっかりした顔立ち。多分、良い男になると思う。抜け殻のおまじないは、村長が教えたのかも知れないな。蛇は、前世でも死と再生の象徴だったそうだ。抜け殻を残して新しくなる様子が、そう連想させたらしい。  アニタは、女の子らしく5mmほどの小さな紫の花をたくさん持ってきてくれた。アニタはいっつもニコニコしている。細い金髪でフワフワしていて、気がつくとエミルと一緒にいる。鋳掛のゴンザロさん所の娘。ん? なんだろ。胸が苦しいような。  花を生ける気の利いた容器なんて無いから、アニタの小さな両手に載せて。一本一本は茎を入れても2~3cm。でもたくさんあるから、アニタの小さな両手からはみ出しそうだ。花瓶なんてうちには無いから、押し花にでもしようか。  しばらく三人で追いかけっこしたり、土をひっくり返して山を作ったりして遊んでた。ミミズとゴミ虫で冒険者ごっこするとアニタが泣いちゃって、エミルと僕は宥めるのに一生懸命だった。  夕方になって、解散して夕ご飯のお手伝い。夕ご飯を食べた後は、直ぐ眠った。  次の日も次の日も、同じように手伝いをしたり、遊んだりしていた。  でも、だんだん父はイライラして怒鳴りつける事が増えていて。母は何か心配事があるような雰囲気。兄は我関せずで牛の世話。  父が僕を不機嫌そうに見ることが増えた。  怒鳴りつけられるけど心当たりが無い。  僕はいたたまれなくて、泡倉に入り浸るようになった。  まだ泡倉の管理人には会えてない。一人で行ってるのに。ロジャーおじさんに聞くと、近くに居ないらしい。  泡倉の広場で空を見上げると心が落ち着いた。  濃厚なエーテルが良かったのかも知れない。  村と泡倉の天気は別物で、村が晴れていても泡倉は雨ということもあった。  鳥や獣の声はしたけど、それを目にすることは無かった。  名付けの儀から十日。五月の中旬に入った日。お昼の手伝いをしようと家に向かうと、両親が話し合ってるのが聞こえた。  入り口の扉は閉まっているが、隙間だらけの我が家だ。ちょっと耳を澄ませれば、会話の中身はおおよそ分かる。まぁ最近は、わらと土を混ぜた物を隙間に詰め込んで、ちょっとマシになってるけど。 「俺は、サウルは変わったと思う」 「……はい」 「神官様達は大丈夫と言ったそうだが、なんか変だ」 「ええ、聞き分けが良くなって、お手伝いを進んでやって、いたずらもしなくなって。急にお兄ちゃんになったわね」 「牛の水な、樽一つ運ぶのが早くなった。終わっても疲れてない。あの年の子が出来る事じゃ無い」 「かまどの扱いが上手になって楽になったわ。もうブラスよりよっぽど賢くて」 「だが悪い。俺は、サウルが気持ち悪い」 「……あなた……」 「あれは、いつもニコニコして、頭がついてんだかついてないんだか分からなくて、はなたれだった俺たちのサウルじゃない」 「……あなた……」  両親は泣いているみたいで。僕は中に入ることができなかった。  どうすれば良いのか分からずにしばらくじっとしていると、ブラス兄が 「サウル、そんなとこで何やってんだ?」  と声をかけてきた。  家の中の気配が変わって、気づかれた事が分かった。 【タイトル】 008 人別帳 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2017-06-11 17:42:14(+09:00) 【公開日時】 2017-06-11 17:42:14(+09:00) 【更新日時】 2017-06-11 18:00:26(+09:00) 【文字数】 4,117文字 【本文(165行)】  雨が降っていた。  家の中も雨に濡れた土と草の匂いがする。  コミエ村は割と暖かい場所なのだとロジャーおじさんが言っていた。    暖かく、雨が多い。  6月に入ればしばらく雨が続く。  その前触れのようにしとしとと雨が降っていた。  両親と僕は、あれから一言も話していない。  父は目も合わせないし、母はこちらを見て悲しそうな顔をするだけ。  僕も何と言って良いか分からない。  上手くやっていたつもりだった。  お利口さんにしていれば大丈夫だと思ってた。  昼食の場は、真夜中のように静かだった。  ブラス兄は、場の雰囲気に耐えられず僕に事情を聞こうとするけど、僕から言えるはずが無い。  雨が降っていれば外に逃げることもできない。ブラス兄も引きつった顔をしていた。  沈黙が窓を閉めた暗い家の中を支配する。  母が食器を片付けようと立ち上がったとき、父が沈黙を破った。 「おい、イネス。神殿に行くぞ。準備しろ」 「え? 神殿?」 「二度言わせるな。ブラスも、……サウルもだ」  滅多に使わない革マントを両親が被り、僕とブラス兄は防水された厚めの布を被る。  雨なので誰も外に出ていない。  僕たちが神殿に向かうのを、不思議そうに家の中から見る人も居た。  ぬかるんだ地面を避けながら、神殿に着くと、見張りの方と父が話をした。  すぐに通されて、両親と僕たち兄弟は別の部屋に別れた。 「……どうなってんだよ。サウル、何かわかんない? お前最近頭良いし」  ブラス兄は日頃のふてぶてしさも無く、不安そうだ。僕だって不安だ。おまけにブラス兄も僕の変化に気づいてた。  ……上手くやってるつもりだったんだけどなぁ。 「おい、サウル起きろ」  気がついたら寝ていたみたい。《《目覚めて》》からこっち、眠くなることが増えているんだよね。  昆虫の目でできた窓の向こうは雨が止んでいた。 「村長さんの家に行くんだとさ。ちょっとは俺らにも説明しろよな。まったく」  ブラス兄は機嫌が悪そうだ。さっさと準備しなきゃ。  神殿の隣が村長の家。隣と言っても、家は20m程離れて建っている。  神殿ほどじゃないけど、割と大きな家。エミルは自分の部屋を持っているって言ってたっけ。家族皆で一緒に寝るうちとは大違い。  神官様と戦士様を加えた6名で向かうと、村長のヘクターさんが出てきた。エミルの父親なんだから、うちの父と似たような年かと思ったら、三十代半ばだった。エミルと同じ黒髪に、整った顔立ち。だけど、その表情は怒ってるみたいだった。  その矛先はうちの父。 「ドミンゴ! だから新しい野菜は止めとけって言ったろうが! もう少し蓄えを増やしてからにしろって!」  いきなり怒鳴りつけられた。これで黙ってるような父じゃ無い。すぐ怒鳴り返すか、手を出すか、と思いきや。 「……すまんかった」 「お、おう。分かりゃ良いんだ、分かりゃ」  村長さん、父の意外な反応にびっくり。僕もびっくりしたよ。でも良かった。いきなり乱闘が始まらなくて。  そういえば、畑に一つ、休耕地でも無いのに何も育ってない畑があったっけ。あれが?  とかなんとか思っていると、僕だけ客間に入れられて、みんなはどこかへ。  ……これ、僕来なくて良かったんじゃ無い? 暇すぎる。部屋の中のものを一つ一つ確認して暇つぶし。  家の作りはちょっと古い。だけど、ひょっとすると神殿より良い作りかも。窓も神殿より作りが良い気がするし。天井も高い。床板も綺麗に磨かれていて、僕の家とは大違い。椅子もしっかりできててグラグラしないし。  10分ほどそうしてたけど、どうしようもないので、ロジャーおじさんに話しかけてみた。最近おじさんは僕が話しかけないと、話しかけてこないんだ。情操教育がどうのとか言ってた。 『ロジャーおじさん』  最近は、心で思うだけと呼びかけが区別できるようになってきた。だからロジャーおじさんにダダ漏れになってないみたい。でもまぁ僕が見てる物聞いてる音なんかは共有しているみたいなので、暇じゃないそうだけど。 『へぃ。何か御用で?』 『ちょっとお話聞かせて』  この辺の地形と、魔物の分布などを聞く。  ロジャーおじさんは毎晩2時間ほど周囲を偵察している。どういう方法かは教えてくれないけど、道が無い所も見て来ている。  この辺には動物は多いけど、魔物は少ないらしい。魔人と呼ばれるような強い個体はいないみたい。  動物は魂倉を持ってない生き物。牛や兎なんかも動物。  魔物は魂倉を持ってるけど、中に《《魔素》》を貯めてしまってる生き物。魔素は昔襲来した「大魔」「幻魔」と呼ばれる存在が、その《《歪み》》と共にまき散らした《《元素》》。  今も魔素溜まりはぽこぽこ生まれる。魔素溜まりの魔素の影響を受けると魔物になる。影響を受けるのは生物もそうだけど、石ころだって影響受ける事があるのだそうだ。おまけに魔素溜まりからは、不思議な魔物が湧くこともある。  それだけだと良いけど、魔素溜まりが力を貯めると、ダンジョンになったり魔界になったりするのだそうだ。  ほんとは秘密基地を作る場所を知りたくて周辺のことを聞いたんだけど、ちょっと言い出せないな。  などと思っていると、扉がいきなり開いてブラス兄が立っていた。そして僕の手を取って部屋から連れ出す。横顔を見ると、ブラス兄は硬い表情で泣きそうになってた。  ちょっとした廊下の向こうにある応接間には、大人達が待ち受けていた。  一番の末席に用意された椅子に僕が腰掛けると、村長さんが、硬い表情で口を開いた。 「残念ではあるが、ドミンゴの息子サウルは、人別帳から外れる事になった。今後は神殿預かりとなる」  父、ドミンゴに視線を向けると下を向いて歯を食いしばってた。  母は服の裾で目を覆ってた。泣いてるのだろう。  人別帳と言えば、戸籍みたいなものだったかな? それを外れると言うことは捨て子ってこと?  僕が黙ってるのを確認した村長さんが、言葉を続ける。 「コミエ村は、100名を超えた、まぁまぁ大きな開拓村だ。色々と運が良かったことも有るが、疫病も大きな飢饉も無くやってきた。ドミンゴの所にも色々有ったようだが、このままでは税が納められないというのであれば仕方が無い。だが、村で神殿預かりが出るのは随分久しぶりのことになる。残念だ」 「何か聞きたいことは有るかい?」  神官様が僕に尋ねたので、思ったことを聞いてみる。 「僕の今後の扱いはどうなるのでしょう?」 「住まいは神殿だね。すぐに移ってもらうよ。後、身分については、ちょっと私に考えがある。それが落ち着くまでは小間使いかな。大丈夫、悪いようにはしないよ」  神官様が簡単に答えると、僕にはもう聞くことが無い。村長さんにもう聞くことは無いかと聞かれたので、無いと答える。  皆がなんか変な顔をしてるのが納得いかない。  ちょっと間を置いて村長さんが手を叩いた。 「ではだいぶ時間が経ってしまった。皆も疲れただろう。これで解散にする。あ、ドミンゴは残れ。もう少し話しを聞きたい。今日は飲むぞ」  と、村長が散会を伝えた。  父はずっと下を見たままだった。  母とブラス兄と僕で家に戻り、早速移動の準備。母は泣いてしまって駄目だったし、ブラス兄も心ここにあらず。仕方ないので一人でさっさと荷造りをする。  とはいえ、五歳児には大した荷物なんて無い。数点の服、サンダル、食器、スプーンとナイフ。スプーンとナイフは名付けの儀で貰ったので、まだ新しい。それを僕用のシーツで包んで、端を結んで持ち手を作る。  体が小さいから手も小さい。おまけにシーツは大きいし。誰も手伝ってくれないし。  さて、ではお暇しようかなと荷物を両手に抱えると、ブラス兄が目の前に立った。 「おい、サウル。どこに行く気だ」 「ええと。お母さんと兄ちゃんにさようならを言ったら、神殿に行くよ? お父さんが居ないのが残念だけど、同じ村だし、また会うことも有るよね」 「何平気そうな顔してやがんだ!」  理不尽に怒鳴られて頭を叩かれた。  僕はカッと頭が熱くなって、荷物を投げ捨て、ブラス兄につかみかかった。 「だってしょうが無いじゃ無いか! 税を払えなかったら村から出て行くしか無い。そうなったらどうやって生きていくのさ! 頭のおかしい僕が出て行けば収まるならそれが一番じゃ無いか!」 「最初からそう言え!!」  僕とブラス兄は取っ組み合いの喧嘩になった。いつも僕が一方的に叩かれるだけだったので初めての喧嘩かも。  でも五歳と八歳では話にならない。あっという間に組み伏せられた。  ブラス兄が僕を上から殴ろうとすると母が叫んだ。 「もう止めて! 兄弟の最期なんだから! もう止めて……」  ブラス兄が拳を振り上げたまま泣いてた。気がついたら三人でワンワン泣いてた。  でもなんだか、久しぶりにスッキリした気がした。  しばらくして、ブラス兄が僕の上から降りると、涙と鼻水でぐずぐずの顔をした母が、皮の小袋を持ってきた。 「何かの時に役立てなさい」  渡された皮の小袋を開けてみると、銅貨が3枚入っていた。家族4人で一食20Cだからおおよそ15食分だ。うちにとっては大金。 「母さん、これは?」 「いざって時のために、父さんにも内緒で貯めてたお金よ」 「でも……」 「いいから」  結局受け取ったよ。これは断れない。そろそろ行くかと荷物をとると、ブラス兄がふくれっ面でやってきて、僕の肩に手を置いた。どうでもいいけど、ブラス兄、鼻水垂れてるよ。 「俺は何も上げられない。だから、何か有ったら俺を頼れ。兄としての命令だぞ」 「……分かったよ」  いつもの腕組みポーズで威張ってたが、その顔じゃしまらないね。と僕が言うと、お前の顔も酷い。と言い返された。  見かねた母が布を水で濡らして持ってきて、僕の顔をゴシゴシと拭いてくれる。 「じゃぁ……。そろそろ行くね」 「またな、サウル」 「サウル、良い子にしてるんですよ」  二人の視線を振り払うように、僕は家を出た。  丁度夜の鐘が鳴る頃で、空は綺麗な夕日。  大きな荷物を持った僕は村の中を通る。村の人達が僕を見るけど、声をかけてこない。  この村では皆知り合いだ。だから何となく皆何が起こったか分かってるんだろう。  神殿に着くと、見張りの人が僕を迎えてくれた。まるでお客様を迎えるように敬礼してくれたんだ。 「ようこそサウル君。神殿と戦士団は君を歓迎する」  そうして僕は、新しい生活を送ることになったんだ。 【タイトル】 009 新しい家 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2017-06-18 13:12:26(+09:00) 【公開日時】 2017-06-18 13:12:26(+09:00) 【更新日時】 2017-06-18 13:47:40(+09:00) 【文字数】 4,290文字 【本文(122行)】  見張りの人と一緒に居住区に入る。見張りの人に、持ち場離れて良いのですか? と聞くと、今日は良いんだよ、と返された。  抱えてきた荷物は見張りの人が預かって、食堂に通される。両開きの扉を入るときは見張りの人がドアを開けてくれてなんかくすぐったかった。  割と大きな部屋。大きなテーブルが幾つかあって20人くらい一緒に食事が取れそう。今は目の前に4人いる。神官様と奥様と戦士様と見張りの人、偵察の人だ。テーブルの上には料理がたくさんある。美味しそうだなぁ。  壁にはタペストリーが掛けられてて華やかだ。それに、明るい。これ、四大術の灯りかな? 家の蝋燭は煙も多いし暗い。この光は太陽より白くて、太陽のように明るい。天井に近いところに何個か灯りを放つものがあった。  さすが神官様だなぁ。  でも、なんだかさっきまでの悲しくてやるせない気持ちが強制的に切り替えられたようで、ちょっと嫌だった。  でも、ここに居る事になったんだ。頑張らなきゃ。  と、突っ立っているように見えた僕に神官様が声をかけて下さる。  見張りの人もテーブルにつくように促してくれる。  でも、僕はその場から挨拶した。  最初が肝心。 「コミエ村のサウル、5歳です。この度はお助けいただき有り難うございました。まだ子供なので至らないところも多いと思いますが、よろしくご指導のほどお願いいたします」  そして頭を下げた。数秒、頭を下げ続けてみる。周囲に広がる戸惑いの気配。  頭を上げると、神官様も皆さんも苦笑いに近い笑顔。怒ってる人、蔑んでいる人はいない、かな?  すると神官様が 「参ったな。誰が仕込んだんだろうね?」  と苦笑していた。勘で言ってみました、とは言いづらいのでニコニコしてみる。  奥様が、「まぁいいじゃないか、さっさとお座り」と促してくれたのだけど、急に恥ずかしくなってきておどおどしてしまう。やっと前に進み席に着いた。  神々に祈りを捧げてから、夕食を食べる。僕はちゃんとしたお祈りは初めてなので、もごもご口の中で言って、最期に祈りの形を取るだけなんだけど。  パンはうちで食べるより美味しい気がした。一緒のかまどのはずなのに不思議。スープも肉も具もあって美味しいし。僕が食べたことの無い味がしたよ。それに魚。「海の魚」なんだって。塩辛かったけど美味しかった。塩漬け肉より好きかも。  すると神官様が 「食事中ではあるけど、ちょっと自己紹介してみようか。まずは私ね。私はセリオ・ロエラ。このコミエ村の神殿長をしている。と言っても神官は私一人なんだけどね。ここに来る前は王都エスパに居たんだ。その前は冒険者が長かったね。なのであまり堅苦しい事は嫌いなのさ。あー、後は王都に息子が二人。妻は一人、ここにいるマリーだ」  言いたい事だけつらつらと言っていくと、ワインを飲んだ。これでおしまい、次どうぞ、と言うわけだ。  奥様が立ち上がって肩をすくめる。奥様は今日もくすんだ赤い髪を頭上にまとめていた。焦げ茶色のローブもいつもの通り。身長は、155cmくらい。痩せ形でちょっときつい顔をされている。怒ると、とても怖い。でも、ときどきオヤツを下さるので、子供達には大人気だ。 「それじゃあたしだね。あたしはマリ・ロエラ。セリオの妻で四大術士だよ。家事はそれなりなんだが、手が足りなくてね。あんたがどういう扱いになるか分からないけど、手伝いをしてくれると助かるよ。あ、あたしも元冒険者さ」  軽い調子。多分家事のお手伝いなら《《最近急に上手になった》》し、大丈夫だと思う。なので僕は黙って頷いた。  次に戦士様だ。立ち上がると迫力がある。180cm100kg超、だと思う。さすがに今は鎧も剣も付けてないけど、肉の圧力みたいなものを感じる。太ってるという感じじゃ無いけどね。この村では戦士様より大きな人は居ない。次に大きいのは見張りの人かな。髪は黒に近い茶髪で髪型は短い。耳より短く刈っている。30代中盤だと思うけどお幾つだろう? 「……マルコだ。神殿付戦士団の長をしている。と言ってもたったの三人だがね。普段は神官様や奥様のお手伝いをしている。戦いの技なら教える事が出来るだろう」  言うなり座ってしまった。今後徐々に距離を測ってみるかなぁ。  見張りの人と偵察の人が、しばし言い争って。  見張りの人が立ち上がった。戦士様、えーと、マルコ様よりちょっと年下かな? 175cmくらいで体つきも程良く筋肉が付いている。服の胸の辺りはきつきつでズボンの太もももパンパンだ。  この人の素顔は初めて見た気がする。肌の色がかなり黒い。僕たちも日焼けしているけど、それとは異質の黒さ。髪の毛はかなり縮れていて細かく編んでいる。まるですだれが垂れているみたいで、その髪が肩まで垂れている。  にこりと微笑むと 「俺はパストル。みんなには見張りの人って呼ばれてる。戦士団の盾をしているよ。びっくりしたかい?」  僕は何とも言えず、ギクシャクと首を横に振った。 「そうかい、ありがとよ。まぁこんな肌の色なんで小さい頃から色々有ったのさ。だから極力鎧を脱がないようにしてるんだ。まぁよろしくな」  戦士様が後を継いで 「パストルの様な肌の人間は、王都では見かけるが、コミエ村ではパストルだけだな。海を渡った南の大陸はこういう人種ばかりらしい」  と仰った。そういえば、この村には人ばかりでドワーフもエルフもいない。鋳物屋のゴンザロさんも人だし。  最期に偵察の人。この人は余り見たことが無い。猟師の人達と一緒に行動しているのを見たことが有るくらい。ほとんど村の外にいると聞いた。大変だよね。  背は165cmくらい。ちょっと高め。体型は戦う人には見えないくらいの細身に見える。だらしない着こなしだけど、服自体は凄く綺麗にしているのが分かるし、動きを阻害しないようになっている。幾つかの場所には何か仕込んでそうだ。長い金髪は頭の後ろで縛って背中に垂らしている。無精ひげも生えているけど、見苦しい感じはしない。多分、これ、手入れしてるんじゃ無いかな? 「あんまりじろじろ見るなよ。恥ずかしいじゃねえか。あー、おいらはテオだ。普段は村の外で色々やったり、街にお使いに行くのが仕事。どういう事情かは知らんけど、セリオとマルコが決めたんなら歓迎するぜ」  見張りの人が席に着くと、僕に視線が集まった。これだけの大人に注目されるってだけでも結構なプレッシャー。おそるおそる立ち上がる。 「ドミンゴの子、サウルです。8月生まれの5歳です。先日名付けの儀で名乗りを許されるようになりました。……まだ何もできない子供ですが、よろしくお願いします」  僕が席に着くと同時に神官様がみんなに向かって 「サウルは、ドミンゴが税を払いきれないということで人別帳から外れたんだ。そこを私が引き取った形になる。今後対応を決めようと思っているけど、神殿付の孤児か、神官見習いか、戦士団見習い、うちの養子、まぁ色々先入観無しに決めようと思っているんでよろしくね」  戦士様は、呆れた様子。見張りの人、偵察の人は互いに顔を見合わせた。奥様は納得している顔。 「明日以降は、サウルの能力を見ていくから、皆都合を付けておいて」  神官様が付け足す。僕もびっくりだ。ギフトがあるとは言え、5歳の子供に何をさせるつもりなのだろう? 偵察の人も同じようで、口を開く。 「なぁセリオ、こいつまだ5歳なんだろ? 何かできるとは思えないんだけど」 「大丈夫きっとびっくりするよ」 「セリオがそう言うなら良いけどよ……」  渋々と言った様子。その後は雑談になった。  神官様のお子様が王都にいらっしゃるのは初めて聞いた。お二人とも男の方で、一人は冒険者、もう一人は城に勤めていると。  名付けの儀に来るはずだったお客様がようやくやってくることになったとか。  ここ数年、収穫が多くて助かっていること。それに伴って、もう少し人を増やして街にしてはどうか打診されていること。人口200人を超え、自衛能力ができあがったら街なのだそうだ。この国には城壁付きの都市は王都を含め3つしかない。  ただ、街にするなら神官が一人ではまずいとかで、神官を増やさないといけないのだが、それが嫌で神官様は街にしたくないらしい。戦士様も、馴染みの無い兵を増やすのが嫌なようだ。  元々、神官様も戦士様達も一緒にコミエ村にやってきたとかで、仲間意識が強いのだろうね。  たまに相づちを求められるので適当に答えていく。5才なんですけど。  なんだかんだと話しているうちに結構な時間になってたみたい。僕のグラスにはハーブティーが入ってたんだけど、大体無くなってた。  神官様が、さて、そろそろ締めようか、と仰った。 「で、皆、サウルのことどう思った?」  と聞くと、見張りの人が 「気が利く子だと思いました」 偵察の人は 「5才ってのは嘘でしょう? おいらは15才のエルフだと思いますがね」  とニヤニヤ笑い。戦士様は 「如才ない、ですね。これくらいの子供はもっと落ち着きが無い物ですが、大した物です」  妙に褒められて、むずむずしたよ。神官様は満足げに 「なるほどなるほど。さて、サウル。今日は戦士団の長屋に部屋を用意しているんだ。しばらくはそこに泊まっておくれ」  ということで解散になって、僕は荷物を持って部屋に向かった。一人じゃ無くて、戦士様が先導して下さったんだけどね。暗い外廊下では、戦士様が指先に四大術の灯りを灯してくれたので楽に歩けたよ。戦士様は術も使えるのですね、と感心すると、使えるのはこれくらいだ、と謙遜されちゃった。  木造の長屋は5つばかり部屋が有った。場所も余裕があるし、多分増築できると思う。通された部屋は一番端っこ。中は4m四方、かな。子供一人で寝るには広い部屋だと思う。  大きな寝床に大きな窓が一つ。窓枠には例の虫の目が嵌まってる。タンスが一つ。服を掛ける台が一つ。書き物机に椅子一つ。僕の家より。……僕の前の家より良い感じ……。  トイレは共同。体を拭くときには奥様がお湯を用意して下さるのだそうだ。お湯で体を拭くなんて、凄い贅沢。さすがだなぁと思った。普通はそういうことは下男がすることなので、ここが特別らしい。  一通り注意を言うと、戦士様は部屋に灯りを灯す。1時間ほどは光っているそうだ。そして戦士様が部屋を去ると、僕は部屋で一人になった。  いつもならこういうタイミングでロジャーおじさんに声をかけるんだけど、なんとなくそんな気分にならなかった。  布に包んだ荷物を取り出して、ゆっくりだらだらとタンスにしまう。  なんだか良く分からない気分だったので、さっさと寝ることにした。明日は早いらしい。 ---- 戦士様の体重がkmだったので修正しました。 【タイトル】 010 試し1 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2017-06-18 22:38:43(+09:00) 【公開日時】 2017-06-18 22:38:43(+09:00) 【更新日時】 2017-06-18 22:38:43(+09:00) 【文字数】 3,347文字 【本文(97行)】  夜中に一度起きてトイレに行ったんだけど、結構怖かった。暗いし。穴が見えないし。前の家は、夜はおまるだったから僕にも楽だったんだけど、神殿は、子供用便座も無いし、落ちたらどうしようかと思ってドキドキしたよ。  朝起きて、ロジャーおじさんにその事を話したら、すっごく笑われてなんか腹が立った。  今日は5月11日、薄曇りで気温は9度。起床したのは5時くらい。既に日は昇っていたみたい。寒いので服を重ね着。暖かい寝床が恋しい。  水瓶から柄杓で水をすくい大きめの器に入れる。簡単に顔を洗うと冷たさで目が覚める。手で適当に水を払って口をゆすぐ。井戸の水とちょっと味が違うのかな? 聞いてみよう。  外に出て僕の仕事を聞くことにする。大きな中庭を戦士様達が走っていた。話しかけづらかったので、台所へ。奥様が大きな水瓶に何か術を掛けていらっしゃった。終わったところで話しかけてみる。 「おはようございます。今日からよろしくお願いします!」  挨拶はこちらから先に元気良く。そんな声が聞こえた気がした。 「あぁ、ちゃんと起きれたのかい? えらいね」 「何かお手伝いすることはありますか?」 「そうさね。まずは井戸から水を汲んで貰おうか。ちょっとついておいで」  奥様の手近にあった桶を僕が手に取り、ついていく。  庭の直ぐ分かるところに井戸があった。共同井戸とは別らしい。 「神殿はね、いざという時の砦でもあるからさ、井戸は別なんだよ。もう一つ井戸があるけど、それはまた今度教えようか。じゃぁ、台所までその桶で10回くらいかね。頑張るんだよ」 「はい!」  前の家より多いなぁ、大変だなぁと思いながら井戸に張られた綱を引っ張るんだけど。距離が近いから前より楽。だけど、神殿の中だから前みたいにこっそり泡倉に入れてずるができない。3回くらいは良かったけど、全部終わる頃には息が上がっちゃった。  水汲みが終わると、料理の手伝い。神殿は大人の男性が多いから、量が多くて大変なんだって。僕も一生懸命手伝った。  お水のことをちょっと聞いてみた。 「あぁ、あたしも分からないんだけどね。井戸の違いかねぇ」  と、あっさりしたものだった。  6時過ぎに礼拝堂(名付けの儀をしたところ)に集合してお祈り。ぽつぽつと村の人達も参加してる。僕が神官様と一緒に居るのを見て、微妙な顔をする人も居た。ちょっと辛い。  そして例によって女神様からの強い視線。多分勘違いじゃ無いと思うので、後で神官様に相談しようと思う。  神官様がその後も色々されている中、他の皆は朝食の準備。僕も頑張ったけど、勝手が分からず右往左往。ちょっと邪魔だったかも知れないなぁ。反省。  朝食を摂りながら、神官様が 「朝食の片付けが終わったら、今日の予定を説明するよ」  と仰った。しかし、相変わらず綺麗な髪をしていらっしゃる。ひげも綺麗に剃ってるなぁ。どんな刃物を使っているんだろう。専用の刃物なんだろうか?  まぁそれはさておき、昨日の話の続きなんだろう。僕の色んな力を見る、「試し」という事みたいだね。そして僕の処遇が決まる、と。  ……捨てられなきゃ良いんだけど。  急に食事が味気なくなったよ。なんかお腹いっぱいになっちゃったけど、何とか割り当ては食べてみた。  お片付けして、もう一度皆が席に着くと神官様がお話をはじめられた。 「皆、サウルはちょっと曰く付きでね。先日、本鑑定したときに、その古代文字を読むことができたんだ。私は凄く驚いたよ。私が古代語を読めるようになったのは、13の時で、それでも天才だ、秀才だと結構持ち上がられたものだよ。ちょっと悔しかったね。折角なので、他にも何か無いか見て見ようと思う。まずは読み書きと計算、次に四大術と神術、その後は武器戦闘と探索術、闘気法をやってみようと思う。まあ見ての通りの子供だから、試しというよりは、初歩の指導になると思うけど。担当が終わったら、次に送って。まぁ食事の度に進捗を話し合おうか」  戦士様が、戦士団を代表するように、しかめっ面で 「こんな痩せた子供が武器戦闘や探索術、ましてや闘気法というのは、ちょっと無理があるのでは?」 「まぁそうかもしれないね。その時は、最初の指導をちょっと長めにとってもらえるかい?」 「んーーんむ。分かりました」 「あー、後は探索術なんだけど、さすがに山というのは駄目だろうから、近場でどうにかして。では読み書きに計算、行ってみようか」 「我々はどうしましょう?」 「良かったら見ていって」  戦士様達が口々に了承の返事をする。奥様が本を数冊と蝋板を僕の目の前に持ってきてくださった。奥さんが口を開く。 「まずはこの本を読んでみな」 「はい」  本を開くと、簡単な絵本。多分、買うと高いんだろうな。手書きで、色が付いてる。書いてる文字は簡易文字。2種類の表音文字と数字。どちらも、《《見たことが有る字にそっくり》》。なので、普通に読むことが出来た。  次は、農業の暦。天候や雨の量について、作物の病気について書かれている。問題なく読めた。皆さん感心した顔。  次は、分厚くて大きな本。革の装丁がされていて、すごい。偵察の人が、「本気かよ」とつぶやいて戦士様に叱られていた。  破れたら嫌だなと思いながらページをめくろうとすると、奥様が、「ここを読んでみな」と開けてくれた。  そこの内容は、四大術におけるエーテルの循環法について。魂倉と霊的センターの関連付けについて書かれていた。文字はところどころ古代文字が混じっている。古代文字も《《見たことが有る》》。《《熟語》》も問題ない。  数ページを読み終えると、奥様が内容について質問してくる。初見なので、自信が無いところも有る。霊的センターの相互作用なんかは分からないし、その《《象徴もあやふや》》だ。  質問を終えると奥様は肩をすくめながら 「テオ、あたしもあんたの意見に賛成だ。この子はエルフだと思うよ。ただし15歳じゃ無い。20歳だね」  と言って大笑いしてた。偵察の人も「そいつぁ良いや」と大笑い。他の方もびっくりされてるようだった。神官様が 「サウル、君の読んだ最後の本は王都の高等教育か、四大術士の教本で使う内容だよ。所々、古代文字が混じっているよね。古代文字は三千種類以上合って、その組み合わせで読みや意味が変わる難物だ。普通はこの本に載っている簡単なものでも、マリの言うとおり20歳というところだね。さて、これなら字を書くのは問題ないかな? 次は計算をしてみようか」  僕が蝋板を手にすると、神官様が計算問題を出してくださった。まずは一桁の加減乗除。繰り上げが入る問題が出て、大きな桁の計算も入ってきた。暗算というわけにも行かないので、筆算をすると、神官様も奥様も戦士様も興味深そう。見張りの人、偵察の人は困惑。  蝋板が埋まると、奥様が手をかざして綺麗にならして下さった。  小数の計算、面積の計算。円の面積では、定数は3.14だった。なんで僕、こんなのできちゃうんだろう。前世の影響なんだろうけど。なんか怖いなぁ。  最期に一次関数。これは口頭じゃ無くて、問題文を神官様が蝋板に示された。変数の表記の仕方に戸惑ったけど、問題自体は《《簡単だった》》。  問題を解き終わると、偵察の人は居眠りしていて、見張りの人はあくびをかみ殺していた。戦士様と奥様はびっくりした顔をして、神官様は呆れた顔をした。  なんだか申し訳ないなぁ。僕の能力じゃ無いと思うんだ。だって、《《目覚める前》》は簡易文字は読めなかったし、古代文字なんて知らなかったんだよね。数も5つまでしか数えられなかったし、小数なんて知らなかった。おかしいんだよね。もうなんだかだんだん慣れてきた気がするけど。 「字も読めて、計算もできる。小数も円の面積もできるなんて、できすぎだよ、びっくりだよ! 関数は大学だしね。これは、この段階で王都の役人を務められそうだ。学者の助手でも大丈夫だろう」 「でもセリオ、こんな小さな子をそんな所に放り込めないよ」 「分かってる、マリ。冗談だよ。マリは本当に優しいね」 「う、うるさい」 「はっはっは。さーてマルコの顔が怖いから次に行ってみよう。四大術だからマリの部屋だね。私とマリで見るから、皆はそれぞれの仕事をしていて」  というわけで、戦士様達は食堂から出て、 「さて、私たちも移動しようか」  と、神官様が仰って、僕たちは奥様の部屋へ移動した。   【タイトル】 011 試し2 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2017-06-21 18:27:11(+09:00) 【公開日時】 2017-06-21 18:27:11(+09:00) 【更新日時】 2017-06-21 18:28:58(+09:00) 【文字数】 3,525文字 【本文(93行)】  奥様の部屋は、神官様の部屋と同じく本がたくさんある部屋なんだけど、ちょっとほこりっぽい感じ。良く分からない道具が並んでいたり、薬草やら人形が無造作に机に置いてあったり。床に本が積まれてたり。窓には布が掛けられていて、日の光は入ってこない。ちょっと薄暗く、カビの匂いがして。でもなんかホッとする感じ。  僕がキョロキョロと見渡していると、神官様が 「マリ、また散らかってる」  とあきれ顔。奥様は 「研究に家事にと忙しいんだよ。それにいっつもあんたは手伝いから逃げるしさ。結婚するときには……」 「分かった分かった私が悪かった」 「分かりゃ良いんだよ。で、サウル。今は誓言を立てた人間から居ないから言うけどさ。あんたあれから数字増えてるんじゃ無いかと思うんだ。技能もね。農業の暦、四大術の古代文字とその読み取り能力。幾ら風の精神が高いとは言え、おかしいと思うんだ」 「確かにそれは私も考えた」 そう言われても、僕は鑑定機持ってないし……。あ、ロジャーおじさん、何か分かる? 『あー、はい。あっしの把握してる範囲では、坊っちゃんの諸元全体が上昇傾向ですな。知識技能も。古代語については、《《鑑定結果を見たときに》》技能が生えてるんでさ。あっしはあまり物を知らないただの管理人ですがね。こいつぁ、ちっと変わってるなんてもんじゃないですぜ』  普通魂倉に管理人居ないと思う。……しかし、これは言っちゃ駄目な気がする。黙っておこう。奥様が気楽な調子で仰るには、 「それでね、まずいきなり術をぶっ放そうというのは無理だろうからさ。エーテルを扱えるか見て見ようか」 「エーテルというと、色んな術を使うときの元ですよね? 僕、見たこと無いですけど」 「そりゃそうさ。エーテルは普通の人間には、見えるもんじゃないよ。ただ、感じることはできる。エーテルは、空間に溶け込んでいてどこにでもあるんだよ。ただ存在するプレーンがちっとずれているんじゃないかという説も有って、あたしはその説が好きなんだけど」 「マリ、マリ、戻って戻って」 「あー、ごめんよサウル。それで……。まぁとにかくあたしのやるのを見ててご覧」  そう言うと椅子に姿勢良く腰掛けて、目をつぶり、深呼吸をはじめた。一定のリズムで。胸と鼻、口の動きを見る。吸って止めて吐いて止めてと繰り返ししている。しばらくするうちに、周りの空気がちょっと変わったのを感じた。どうとは言えないのだけど……。 「こんな感じさ。吸って、止めて、吐いて、止めて。それぞれ四拍ずつ行うんだ。吸う時にエーテルを吸い、お腹の底に止めて、要らないもの汚れたものを吐いて、止める。四拍呼吸という基礎中の基礎。これだけで術が使えるわけじゃ無いんだけどね。まぁやってみな」  奥様に換わり椅子に腰掛ける。僕は小さいから、奥様のように足が着かずぶらぶらしちゃったけど。奥様が手近な箱を置いて下さったので、足が安定した。  姿勢良く座り、拳は膝の上。顎を引き、目をつぶり、静かに目を閉じる。何か酩酊したような感覚。  エーテルはどこにでもある。エーテルを取り込み、不要な物を外に返す。エーテルの循環。  鼻から息を吸う。黄金に輝くエーテルが、鼻を通り、気管を過ぎ、肺に。取り込まれたエーテルは魂倉をかすめる。息を軽く止め、エーテルを感じる。息を吐く。不要な物、汚れたものを吐き出す。ゆっくりと世界に返す。限界まで吐ききる前に息を止め、空虚な自分を感じる。  何度か繰り返すうちに、僕の中が高まってくるのを感じ始める。腹に貯める時に魂倉に繋げたらどうなるかと、言葉で無く思った。次のサイクルで試してみる。  魂倉は腰骨の辺りにある。息を止めるときにはその辺りにエーテルがある感覚だ。だから、そのエーテルを魂倉に浸透させれば何か有る、はず。  吸気と共に引き下ろしたエーテルをイメージした魂倉にまとわせる。息を止めると同時に、ぐいっと圧を掛けて染みこませる。  途端、魂倉の位置がポカポカと暖かくなってきた。息を吐き、次のサイクルでも同様に続けていくと、徐々に温度が高くなり、尾てい骨や背骨に沿って強い感覚が登ってきた。  これは面白いね。このままずっと続けていたいな、と思っていると、 「サウル、終わりだよ」  と。僕は奥様に声をかけられてビクリと震えた。  ふう、と大きく息を吐き、目を開ける。僕の周囲には黄金のエーテルが薄い霧のように立ちこめていた。 「なかなかやるじゃ無いか。初めての四拍呼吸でヒント無しに魂倉との接続に成功し、エーテルの意識的な変換まで。大したものだよ。普通はここまで綺麗にやるには早くて半年。下手すりゃ2年掛かる。それも、経験者の補助付きで、だよ。サウルみたいに一度見ただけでひょいとこなすのは聞いたこと無いね。サウルはどんな前世持ってたんだろうねぇ」  その声を聞きながら、僕はちょっと気になっていた。 『ねぇ、ロジャーおじさん、技能生えた?』 『へぇ、下級技能のエーテル操作、エーテル感知が2レベル』 『3レベルになれば、最下級の術士、だったっけ?』 『さいで』  古代語と言い、エーテル系の技能と言い、ちょっとした経験で技能が生えるというのは、どういう理屈なんだろう? 僕には良く分からない。でもそういうものだということにしておこう。 「ほんとです。僕にどんな前世があったのか、凄く興味有ります。有能な人だったのでしょうか? でも、初めてやることがすぐできちゃうのは、なんか気味が悪いです。あ、今の四拍呼吸? は楽しかったですけど」  楽しくて、ずっとやっていたかったのは本当だよ。 「エーテルを四大術にするには、もうちょっと段階を踏むんだけど。まぁ最初は四拍呼吸だけ見るつもりだったからね。あたしの用は終わりだよ」 「では次は神術だね。普通、四大術と神術は同時に使えないんだけど、サウル君は全ての術技能が開かれていたからね。ちょっと試してみようと思うんだ。これから私の部屋で試しを行おうと思うけど、疲れは?」 「いえ、無いです。どちらかと言えば、ワクワクというか、体から力が溢れる感じが」 「エーテルを魂倉に取り込んで力が溢れてる状態さ。そりゃそうもなる。大丈夫だよ」  神官様の部屋に行き、先日鑑定を受けたときと同じ位置に座る。 「四大術と同じく、まずは四拍呼吸をしてみよう。そしたら、今度は魂倉からあふれた力を《《頭上に抜く》》んだ。祈りと共にね。その時には具体的な神様を思い浮かべるようにしてご覧。本当は、思い浮かべるところに色々あるんだけど。まぁやってみて」 「セリオ、見本も無しにやらせるのかい?」 「私は何故か上手く行く気がするんだ、やらせてみようよ。もし上手く行かなかったら、見本を見せるから」  ということで、やってみることに。どうも腑に落ちないけど。まぁいいか。  先ほどと同じく四拍呼吸を開始する。先ほどより順調にイメージが浮かび、今度はお腹いっぱいになったような幸せな感じがきた。そして、魂倉にエーテルを染みこませると、反動のように何かがにじみ出してきた。それを上に上に。  頭の上からエーテルを吹き出す。  四拍呼吸を続けながら取り込んだエーテルを魂倉に、魂倉から背筋を超えて頭から吹き出す。この流れをしばらく続けるけど変化が無い。  神様……。そうだった。神様に届けるんだ。神殿で見る女神様の像を思い浮かべる。僕は他に神様を知らないし。その視線を思い浮かべて。エーテルをそこに届けるように頭から出ていって神様に届きますように……。  何か繋がった? 『コミエ村のサウル。あなたからの祈りは届きましたよ。今後はお話しするきか……』  急に女性の声が聞こえて、僕はびっくりした。そしたら繋がりはプツンと切れて、声も聞こえなくなっちゃった。  目を開く。周囲には四大術の時と違い、温かな白い光が広がっている。四大術の灯りとはまた違う感じ。神官様が優しい顔で 「どうだった?」  とお聞きになるので、僕は正直にお話しした。 「おお! この土地の女神様に祈りをね。で、びっくりして途中で切れちゃったと。良く有る話だ。ちょっと私は安心したよ」 「でもセリオ……」 「……あぁ、確かに神殿に入ってすぐの話じゃ無いね。下働きやらいろんな事を勉強してから、だねぇ。まぁいいさ。しかし、今後のために、パストルとテオにも誓言を受け入れさせて置いた方が良さそうだね。お昼に相談しよう」 「セリオ、それは構わないけど、あんたお金はどうするんだい?」 「……私が出すよ。経費じゃ落ちないしね。しかし、もっと時間が掛かると思ったんだけど、まだお昼には時間があるね。サウルも疲れただろうから、ちょっと部屋で休憩してくると良いよ」  と言うことで、解散になった。ちょっと部屋でも四拍呼吸してみたかったので、僕は素直に部屋に戻ることにした。 【タイトル】 012 試し3 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2017-06-23 13:41:30(+09:00) 【公開日時】 2017-06-23 13:41:30(+09:00) 【更新日時】 2017-06-23 13:41:30(+09:00) 【文字数】 3,691文字 【本文(98行)】  僕は部屋に戻って最初は四拍呼吸をする予定だったんだけど。それを変えて、椅子に座って考えごとをする。  エーテル操作の興奮が冷めると、疑問が浮かび上がったんだ。  一度、奥様の四拍呼吸を見ただけで、なんであんな事ができたの? 奥様が見せたのは、「外側」。心の中で呼気を視覚化すること、魂倉をイメージの中で把握すること。誰も話してない。  その方法は、僕の中から湧き上がってきたんだ。ごく普通に。まるで昔からそうすることを知っていたみたいに。  5歳だから昔なんて無いんだけど。  僕は5歳だけど、名付けの儀で目覚めてから、変わっちゃった。家を出る前、エミルも「サウルはお兄ちゃんみたい」って言ってたし。僕が変わったから家から出されちゃったんだよね。  前世のせい。  良く分からないけど、前世のせいなんだよなぁ。前世の誰かさんが神様に認められたので、次の僕がこうなっている。らしい。らしいけど。僕、そういうの頼んでない。嫌だなぁ。僕、この先どうなっちゃうんだろう。  そうそう。後は神様。神術の試しの時に呼びかけに応えて下さった女神様。お話しした方が良い気がするけど、なんだか、ちょっと怖い。  また、何か変わりそう。そんな気がする。  今、僕が色々考えてもどうにもならない。それは分かってる。理性という奴で。でも、この理性は僕のものなの? 前世の人の|贈り物《ギフト》なんじゃない? もしそうなら、僕って何なの? |贈り物《ギフト》のおまけ? 僕はどこに居るの?  じーっと考えていると、なんだか酷くお腹が重くなってきた。涙も鼻水も出てきたし。  気分転換に、四拍呼吸してみよう。あ、でも魂倉に繋がず、もちろん神様にも呼びかけないよ。  四拍呼吸を椅子に座ってひたすら続ける。深く深く、呼吸にだけ意識を残していく。  最初は魂倉に触らないつもりだったんだけど、結局触っちゃった。全身にエーテルを巡らしていくと、空でも飛べそうな気分になってくる。さっきまでの暗い気分はどこへやら。  そうやって四拍呼吸していると、奥様がお昼の手伝いが欲しいという事で僕を呼びにいらっしゃった。部屋中黄金の霧で、奥様は驚いていらっしゃった。  奥様は家事に四大術を使うので、それほど重労働じゃないけど、一人だと面倒みたい。いつもは戦士様達の誰かが手伝ってくださるそうなんだけど。僕がお手伝いすると奥様は段々楽しくなってきたのか、鼻歌を歌ってた。  朝の残り物と、暖めたパン。後はお茶。火をおこすのと、パンを温めるのは奥様が四大術でされた。僕に見本を見せるためみたい。    僕が初めて見た四大術は、やはり懐かしい感じがした。  お昼を皆で食べていると、神官様が試しが全て終わった後に、僕の鑑定をすることについて提案されてた。見張りの人偵察の人は特に文句も無く賛成。  午前中の僕の様子については特に話に登らなかった。  代わりに一つ、戦士様から。  村の井戸の水が変わったとのこと。濁ったとかじゃなくて、凄くきれいになったそうだ。村の井戸はちょっと匂いがしたけど、それが無くなって。それを飲んだ戦士様が言うには、神殿の井戸と同じなのだそうだ。  神官様が、頬をピクリとさせ 「マルコ、ひょっとしてそれは食事のしばらく後に起きたのかな?」 「細かい時間は分かりませんが、私が報告を受けたのは朝食の1時間ほど後でした。えらく泡食った様子でしたから、発見からそれほどの時間は経ってないかと」 「あー、そう。サウルはどう思う?」 「え? 僕です? すいません、分かりません」 「ならいい」  言うなり神官様は不機嫌そうに黙り込んでしまった。奥様は何か感づいたかのような顔をされたけど、黙ってる。戦士様達は困惑。僕も全然……、あ! ひょっとして、神術の試しと関係してるの?  僕がびっくりした顔をして神官様に目をやると、神官様が唇の片方をつり上げて笑った。 「その、司祭様、対応はどうしましょう?」  戦士様が恐る恐る話しかけると、 「私の想像が正しければ、問題は無いんだけど。それじゃ納得してもらえないから、マルコ達がサウルの試しをしている間に見てこよう」 「分かりました。有り難うございます」 「そういえばさ」  偵察の人が言う。 「この村に来た時って、神殿の井戸も臭かったよな。いつからか、神殿の水だけきれいになってびっくりしたもんだ。あれはでかい魔獣が出たときだったから、5年前だっけ? 討伐を終えて戻って来たら、水が旨くなってたから驚いたよなー」  僕と神官様は微妙な顔をしてたと思う。  食事が終わると、神官様と奥様は井戸の様子を見に行かれた。  僕は、戦士様見張りの人と一緒に中庭へ。偵察の人は、周辺の見回りなんだそうだ。  戦士様も見張りの人も、軽装だ。手には刃を潰した大小二つの剣とこれまた大小二つの鈍器。と、僕にも握れる太さの木の棒が幾つか。壁際には直径50cm程の丸い盾と、僕の小さな体だと完全に隠れそうな金属の盾。あれは、僕は持ち上げることも出来そうにない。  昨日とは打って変わって、きれいに晴れ上がった空。中庭は硬い土がほとんどだけど、周辺には何やら植物が植えてある。奥様のものなんだそうだ。薬草とかかな?  見張りの人に木の棒を渡されて、ちょっと振ってみるように言われる。冒険者ごっこみたいな感じなのかな? と、やってみたけど、違うみたい。エミルとなら良い勝負なんだけどな。  ちょっと試合やってみようと戦士様が言い出して130cmほどの大きな方の剣と丸い盾を取り、見張りの人が素振りじゃ無くて試合ですか? え? 鎧無しですか? 俺、不利じゃないですか? と、言いつつ80cmくらいの大きい方の鈍器と大きな盾を取った。  5m程の距離を取ったところでお二人が礼をして構える。  すると二人が紐で引き合うように近づき。戦士様は盾を掲げつつ下半身をなぎ払い、見張りの人が上から鈍器をたたき付けた。互いに正面で受け止めず。盾は多少音を立てるのみ。  体も大きく得物も長い戦士様は、見張りの人と比べ多少距離を取りたいようだが、見張りの人はそれを許さない。戦士様は窮屈そうに剣を振るっていたが、突然丸盾で見張りの人の盾の縁を殴りつけ、ついで鈍器も殴りつける。見張りの人の体が開き、動きが一瞬止まったところで試合が終わった。戦士様の勝ちだったみたい。  時間にして1分も経ってないと思うけど、凄い迫力。まぁ僕の倍は有る身長の二人がぶつかり合うんだから当たり前だけど。やっぱり本物の迫力は違うって思った。冒険者ごっことは違うんだ……。エミルとアニタに会ったら自慢しよう。  そう思ってるとお二人が寄ってきて、もう一回素振りをやってみることに。目の前に相手がいるつもりになって、だそうだ。見張りの人が、それって素振りじゃ無いと思うんですが、と言ってたけど戦士様は黙殺。  50cmくらいの棒を剣に見立てて右手に握る。盾は僕には大きすぎて持てないから真似だけ。  お二人が見る中、庭の真ん中に立つ。心が緊張でざわつくので四拍呼吸をする。目を開けたまま呼吸を繰り返すたびに心が、しん、となる。  僕の目の前に相手が居るつもりで。そう言われた通りにしてみるが、中々見えてこない。  相手が居る。そう思い直す。  そこにいて、僕を倒そうとしている。人か獣か、男か女か、片手武器か両手武器か。盾はあるのか、鎧はどうか……。  そう思うと何かぼんやりとした影が居る気がした。シルエットは戦士様に似ているけど、持っているのは竿状武器。盾は無し。野獣のような気配。僕は自然と棒を構え、前に突進した。  相手は竿状武器の柄で剣をいなし、絡め取り、僕の体ごと引き倒そうとする。思い通りに動かない体に焦りながらも、打ち合いを繰り返す。僕は相手より小さな体を活かしてでいりをくりかえ……  そうとしたところで、僕は体が全然思った通りに動かないことに気がついた。具体的に言えば、足が動かない。  その場に座り込んでしまう。  息が上がってる?  なんで?!  遊びの時はずっと走っていられるのに!  剣に見立てた棒を振ろうとしても、全く勢いが無い!  あれじゃ相手をたたきのめすなんて無理じゃないか! 数回思い切り棒を振っただけなのに、もう指がおかしいし!  まるで思い通りに動かず、イライラしていると、お二人が近づいてきた。 「最初動き始めたときはすごいもんだと思ったが。まぁ年相応の体力といったところだな。仕方ない」 「そうですね。誰を想定してたのか分かりませんが、竿状武器が相手だったようですね。ここにはない武器ですけど、どこで見たんだか」 「それにあの動きは、駆け引きを想定したものだ」  その後、色々と聞かれたが、僕にも良く分からない。相手が何となく見えて、それに対応する様な動きをした、としか言い様がない。戦いを見たのは今日が初めてだし、父はそういうのとは無縁だし。  多分、前世の人繋がりなんだと思うけど、見張りの人は誓言を受けてないのだから言わない方が良いんだろうと思い黙ってた。  その後、庭を走り回ったり、剣を実際に振ってみたりと色々した。鬼ごっこみたいに逃げ回るのは楽しかったけど、戦士様の顔がちょっと怖かった。  結果としては、体力不足みたい。今後鍛える、と言われたけど。僕戦う人になるのかな? 術も好きなんだけどな。 【タイトル】 013 目的と方針1 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2017-06-27 16:44:08(+09:00) 【公開日時】 2017-06-27 16:44:08(+09:00) 【更新日時】 2017-06-27 16:44:08(+09:00) 【文字数】 3,709文字 【本文(87行)】  武術と体力の測定が終わった後しばらく休憩して、闘気法と探索術の試しをしたんだ。闘気法は、エーテルを魂倉から全身に回して体を強くするのが基本なんだって。鋼のような体になって、鬼のような力を持ち、影のように走り回る事も出来るそうなんだけど、戦いながら使い続けるのはかなり難しいみたい。  僕は一応戦う構えをしたまま四拍呼吸をして魂倉からエーテルを動かそうとしたけど、止められた。既に魂倉にあるものを使うように、だそうだ。確かに武器で戦ってる最中に四拍呼吸をする間があることはないよね。  魂倉からあふれた黄金のエーテルが体の隅々に行き渡って、体が活性化するイメージ。そしてさっきと同じように相手を想定して動くと、かなり長く動くことができた。さっきよりヘトヘトになってない。これ便利だなぁ。 『ねぇロジャーおじさん、魂倉の残量は?』 『消費は全体の2%前後ですな。1分で1%の目安かと。まだ燃費の改善は可能だと思いやすぜ』 『分かった、ありがとう』  長いと思うか、短いと思うか。魔物相手の遭遇戦なら余裕があるけど、戦場に入ることを考えれば、短いのかも。  お二人の評価は、まぁまぁ。続いて探索術。これはあまり王都などでは評価が低いそうなんだって。下品とかで。でも、野外活動でもなんでも情報は必要だと思う。  これは四拍呼吸しながらで構わないそうで。ただ、体中の毛穴から、薄くエーテルを出して広げることと、相手に感づかれないように大気に溶け込ませるようにしなさいと言われた。  四拍呼吸からアレンジする。息を細く長く吐く。自分を中心に波が広がるようにエーテルを広げる。体にまとうようにエーテルを押し出そうとするけど上手く行かない。体から漏れるのだけど、それを広げることができないままだった。  しばらく続けたけど、埒が開かない感じだったので目を開けた。 「どうした、サウル」 「上手く行かないみたいで……あ」  お二人の向こう、神殿の方向に人が3人いる。大人の男女、僕と同じくらいの女の子が一人。 「よー! マルコもパストルも久々だな! 何やってんだ? いじめか? ギャハハハハハ!」  と、赤地に黄色のストライプのローブを着けた男性が大きな声を出す。大きな声で笑ったと思ったら、倒れ込んで咳き込んでる。ローブが真っ赤なのでまるで血の花が咲いているみたい。背の高い体に張り付くような黒服を着た大人の女性は、背後の荷物を開けて何かを探すようにしている。もう一人仕立ての良いふわっとした服を着た女の子が慌てた様子で男性の背をさすっている。  戦士様が早足で寄っていき、見張りの人が神官様と奥様を呼びに行く。  僕は、新しく来た人達の方に歩いて行った。戦士様も男性の腰に下がった水袋を出して飲ませようとしているが上手く行かないみたい。  そうしているうちに、大人の女性が何か細長い透明な入れ物を取り出して、栓を抜いて、男性に飲ませる。術が加わった薬なんだろうな。すぐに男性は調子を取り戻した。 「アラン、良く来た! しかし、相変わらずだなぁ。セレッサさんも相変わらずお美しい。そして、その小さな子は以前話してた子?」  神官様がやってきて呼びかけた。アランと呼ばれた赤いローブの男性は立ち上がり 「おう、セリオも相変わらずだな! 女と見りゃ声かけやがって、ジジイは自重しろよ!」 「アラン様」  黒服の女性が名前を口にした途端、アラン様? がシャキッとしたのは面白かったな。女性の両目に何かガラスの枠のような物が付いてるけど、あれなんだろう? 指でくいっと直す仕草がカッコイイ。  ともあれ、食堂に僕たちは場を移した。といっても僕と奥様と見張りの人はお茶の準備とかしてたけどね。  僕が食堂に戻ると、大きな机の上に鑑定機が載っていて、神官様とアラン様が何やら話していた。座ってなさいと言われたので、適当なとこに座ると、小さな女の子が近づいてきた。さっきの子だ。フワフワで、つややかな黒髪をおかっぱにしている。 「あ、あの! わたしはハンナです! よんさいです!」 「えと、僕はサウル。5才だよ」  ハンナ、ハンナ……。聞かない名前なのに、何か懐かしい。そして胸が痛む。申し訳ない気持ちがわき上がる。思わず頭を撫でた。  ハンナはちょっとビクビクしてたけど、僕が頭を撫でるとにへーーっとしてる。思わずあごの下を撫でたくなるけど、女の子にしちゃ駄目な気がする。 「ハンナちゃんはどこから来たの?」 「ハンナはおうとエスパのシンセロイ大学からきました! いつもはアラン様やセレッサ様達といっしょ! とおくにくるのははじめてだよ!」 「そうなんだ、えらいねぇ」  もう一回撫でると、さらににへーっとしたので、ほんと可愛いなって思った。  全員揃うと、神官様が話を始めた。どうやらお客様も含めて僕の鑑定を見て貰うらしい。誓言をするということだから大丈夫だと思うけど、どういう人達なんだろう?  僕の考えが顔に出ていたのかな? 神官様が簡単に話してくれた。  アラン様は、王都エスパにあるシンセロイ大学の教授。古代文明の発掘や当時の術や技術の復元が専門。とはいえ、一種の天才なんだそうで、何でも気になったものは手を出すのだそうだ。あのお話のされ方で天才、かー。なんか不思議な感じ。  セレッサ様。顔に付いてるのは眼鏡と言うらしい。アラン様の秘書と言う仕事をしているのだそうだ。秘書というのは、偉い人に付き従い、事務などを行って仕事を助ける役なのだそうだ。確かにアラン様は細かいことは苦手そうだ。  ハンナはアラン様が数年前に拾った子、なのだそうだ。普通の子に命の掛かった誓言をさせるのは難しいと思うけど、そこは大丈夫なのだそうだ。  僕が持っていた黒いタブレットを、神官様に渡す。鑑定機の上にあるスロットにタブレットを入れると、ガリガリと大きな音がした。続いてディスプレイが出て、鑑定機からボクの方に光が伸びる。本人確認の合図が出て神官様が鑑定を開始する。  続けて誓言を受けるかどうか書かれた小さなディスプレイが、まだ誓言をしてない人達の前に現れる。全員が承諾したところで、僕の鑑定結果が表示された。  前回から諸元も技能も伸びている。風の精神が伸びている。90台だ。地の肉体も変化があるので、背が伸びたり体が丈夫になるかも知れないな。  技能は術系が中心。基本となる下級技能のエーテル操作、エーテル感知などが軒並み2。  神術は祈念が1で、四大術は無し。探索術も無し。闘気法は肉体強化が1になっていた。エネルギーはそれなりに減っている。計算してないけどちゃんと減っていると思う。   「ギャハハ! なんじゃこりゃこりゃすげーな、サウル! 500kmの泡倉ってなんだよそりゃ! おかしすぎんだろ! ちょっとお前大学来いよ。俺が面倒見てやるからよ」 「アラン様、社会経験の乏しい子供をあんな魔窟に放り込むなど正気ではありません」 「わりぃわりぃ、冗談だ冗談、はーおかしい。でもよ、実際どうするよ? サウルをこの村で匿い続けるのは難しいんじゃないか?」  そこを神官様が引き取った。 「そうなんだよね。私も50を超えてる。数年は良いとしてその先、新しい司祭が来たりすれば対応が変わることもあるだろうね。その際にサウルの力が漏れる可能性がある。いや、高いと思うよ」 「あの、神官様、誓言で守られるのでは?」 「そうなんだけどね。あれは鑑定内容を話さないというものだから、見られてしまうとどうにもならないんだ。例えば、サウルの泡倉。井戸の水を運ぶとき、使ってたでしょ? あぁ言うの見られたら誓言に引っかからないんだ」 「え? あれ見られてたんですか?」 「うん。テオがたまに君を見てたんだよ。彼は偵察の専門家だから、君に気づかれず見張るなんて訳無いのさ。まぁそうじゃなくても何かの偶然で、ということは大いにあり得る」 「そうなるとよ、やっぱり王都にでも出て揉まれた方が早いんじゃ無ぇか? 適当に名前変えて冒険者にでもなればよ、やばくなったらトンズラで行けるんじゃね?」 「それは、逃げ出せるだけの力と判断力を持ってる場合だよアラン。サウルは賢いけど力も無く機微に疎い。騙されてしまえばおしまいだ」 「じゃぁどうすんだよ。このまま世捨て人になれってか? 5才でそりゃあんまりだぜ」 「そうだね。しばらくこの神殿で力を付けて貰おう。そうしたら何らかの方法でこっそり世に出して、判断力を付けて貰おう。後は本人の自由かな?」 「適当な案だな。まぁでもそれしか無いか。しかしよ、サウルはどうしたいんだ?」  僕に視線が集まる。ほんとは、大人の言うこと、神官様達の言うことだから、どうなっても従おうと思ってた。僕よりえらい人や頭の良い人の決めることだし。僕には何も無い。お金も力も権力も。  でも、その時、ハンナと目が合ったんだ。ハンナは、ただただ純粋に僕を見てた。打算も無く、ただ期待して僕を見てた。そしたら良い子にしてるのが恥ずかしくなった。そして、気がついたら声を出していた。そんなこと言うつもりは無かったのに。 「皆さん。何故、僕のことをそんなに考えてくれるんですか? 僕が|贈り物《ギフト》を持っているから? 僕は皆さんに何か返せるか分からないのに」  食堂が《《しん》》と静まって、皆僕の顔をじっと見ていた。 【タイトル】 014 目的と方針2 彼の居場所 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2017-07-02 18:10:46(+09:00) 【公開日時】 2017-07-02 18:10:46(+09:00) 【更新日時】 2017-07-02 18:10:46(+09:00) 【文字数】 3,654文字 【本文(104行)】 「確かに」  5秒だろうか10秒だろうか、1分だろうか、たっぷり沈黙が続いた後、神官様が口を開いた。 「私たちは同じ村に住む仲間ではあるけど親しかったわけじゃないね。実際今回の騒動が無かったら接点らしい接点も無かったと思うよ」 「それに、このアラン様に至っては、ついさっき知り合ったばかりという有様だ。そりゃー、幾ら誓言があるとは言え純真なサウルちゃんは不安になっちまうわな! 悪い大人に利用されちまうんじゃねーか、ってよ? ウヒャヒャ!」  アラン様がギャハハ! っとけたたましい笑い声を出してまた咳き込む。なんなんだろう、この人。僕は凄く勇気を振り絞ったのに! 馬鹿にしてるの?  神官様はアラン様が咳き込んでいるのを見て、言葉を継いだ。 「まず、小さな子供を助けるのは大人の甲斐性だと思うんだ。あぁ、確かに君の家は君を抱えきれずに外に出した。でも、いや、むしろ、だからかな。私は君を助けたいんだ。哀れみ、同情、神官としての良識。色んな理由が有る。けど、そこに損得はあまりないかな」  ようやく落ち着いたアラン様がニヤニヤ笑いながら 「おいおい、神官様よ、そうは言ってもサウルを養って行くにも色々物入りだろう? 食い物、服、家、教育を与えるにも色々かかるじゃねーか。その辺の収支はどうすんだ?」 「なんで良い話にまとめようとしてるのに、そういうこと言うかな? アランは」  確かに底は気になっていたので、アラン様に素直に頷いて見せた。すると神官様は小さく首を振って 「……賢いのも考え物だね。まず、お金のことだけど。細かい金額は知らないけど、神殿にはサウルのような子供を引き取るための予算がある。まぁ申請してからになるから、しばらく掛かるかも知れないけど。そのお金は色んな所から集めた喜捨が元だから、それをサウルが気に病む必要はない。それに、この村がたまたま上手く行ってるだけで、普通は身寄りの無い子供が神殿預かりになってるものなんだよ。だから、私たちも別段サウルを受け入れるのが負担という事は無い。問題ないよ」 「おーおー! さすがセリオ様! 神官の鏡! ギャハハ!」  そんなアラン様を神官様がまた嫌そうな顔をしながら 「あー、はいはい分かりました! サウルのギフトは魅力的だよ! あんな泡倉見て興奮しない研究者がいるわけない! 私も研究したい。そういう気持ちがあるのは確かだよ。あぁ、もう。なんてこと言わせるんだ。まったく……」 「けっけっけ。どうよサウル。合点がいったかよ?」 「はい。大体は。それでアラン様は?」 「え? 俺? 俺の事は良いじゃねぇか。俺様はアラン・マサース様だぜ? 俺様のような偉大な研究者は人格も完璧だからよ。お前みたいな弱者は救ってやるのが義務ってだけだ。気にすんな」  あ、目をそらした。そこにセレッサ様が眼鏡をくいっとしながら 「こちらにいらっしゃいます世界有数の天才で有り高潔無双なアラン・マサース様にも、幼く力ない頃がございました。その頃支えて下さったとある高名な神官様に、アラン様はお尋ねになられたことがあったそうです。『自らは力なく、あなたに恩を返すこともままならない。どうすれば良いのか』と。神官様は答えました。『アラン、君は私に恩を返す必要は無い。私はそうしたいからそうするのだ。ただ、もし君が同じ境遇の子を見たなら助けてあげなさい』と」  顔を真っ赤にさせるアラン様。何故か向こうを向いて赤い顔をする神官様と奥様。 「セ、セレッサ! お前その話どこで?!」 「アラン様。女性には様々な秘密がある物です。それを聞いてはなりません。……そういうわけですからサウル様。お気になさらず。皆様好きでされているのです」 「あ、そうそう。サウル、言っておくけどな。幾ら俺らが崇高な魂をしているとはいってもよ、無制限にお前を受け入れる訳じゃねぇぞ。お前が悪に落ちれば、このニュースフィアのどこに居たってぶん殴りに行くからな!」  周りを見回してみた。神官様も奥様も戦士様も見張りの人偵察の人アラン様にセレッサ様、ハンナまで。  みんな、僕のことを見ている。なんか変だな。目の奥が熱いし、鼻水が出てきちゃう。しばらく目をパチパチしていると、ハンナが近づいてきた。 「あのね、ハンナね。サウルのことすきだよ! いいにおいがする! ハンナね、おおきくなったらサウルとけいやくするよ。よげんなの」  そしてハンナは僕の右手を取って、人差し指の先をカリッと甘噛みした。それは凄く懐かしい、そう、懐かしい記憶。  細い灰色の金属の棒でできた檻。  そこに居るのは茶色、いやアグーチカラーのネズミのような動物。等身が低くて丸い顔が可愛らしい。  檻に指を入れると、その動物が寄ってきて、あごの下を掻けと催促する。小さな小さな小枝より細いその指で、生意気にも僕の指を掴んで誘導する。  その動きに逆らわず、僕があごの下を掻いてやると、いーーーーっとオレンジ色の前歯を見せ、片手を上げて、目をつぶり、気持ち良さそう。  しばらく掻くとお返しに僕の指を甘噛みして……  ……ハンナが僕をじっと見ている。唐突に映像が切り替わったことに気づく。  ハンナは僕の右手を持ったまま。  あぁ、あれは、《《前世》》《《の記憶》》?  僕は、一瞬《《前世の記憶》》に飲み込まれた?  ならば。  あぁ。  ハンナは……。  僕の前世と関係がある人なのだろうか?  右手を持ったまま上目遣いに僕を見るハンナ。思わず右手であごの下を掻いてしまう。すると、ハンナは《《記憶》》と同じような顔をした。気持ちよさそうな顔。  口は半開きで、眉根を寄せて、目を閉じて、まぁ女の子としてはどうかと思う顔だけど。  状況を思い出して周りを見ると、皆さんがじっと僕らを見ていて。アラン様は「預言かよ、やべぇ」とつぶやいてる。ハンナに何か他に秘密が? 「アラン様。サウル様も皆様も困惑されています。状況の説明をお願い致します」  アラン様の後ろに立っているセレッサ様が、前屈みになってアラン様に呼びかけられた。  何故か偵察の人が目を見開いてアラン様の方を見ている。ん? セレッサ様の方かな? 「……あぁ。だけどよ、お前らにはわりーが、今は言えねーんだわ。すまんが確証がない。サウルに秘密があるようにハンナにも秘密があるんだわ。サウルのを教えて貰っておいてハンナのを言わんのは、ほんとわりーんだが、ちと勘弁してくれ。そのうち言えるようにするからよ」  神官様は、良く分からない、という顔をして首を振る。しかし神官様は50を超えてる筈なのに、一つ一つの振る舞いが若いなぁ。 「アランがそう言うなら構わないよ。私にも言えないと言うことは、それなりの訳があるのだろうし。それはそれとして、サウル。少しは雰囲気もほぐれたようだが、これで納得いったかな?」 「はい、神官様。なんとなくですけど。でも多分、大丈夫です」  一度、周りを見渡してみた。皆さん、嫌な感じはしない。多分。大丈夫。  ハンナが僕を必死に見ていた。多分、勇気づけているんだと思う。僕より力が入っていてちょっとおかしい。 「僕は皆さんを信じますし、僕も皆さんから信じてもらえるように頑張ります。正直、納得のいかない部分もあります。前世のこととか。でも、今はどうにもならないんでしょうね。きっと」 「そうだね。前世持ちは大きな力を持つことも多いが、その前世故に様々な運命の渦を巻き起こす。前世持ち故に身を持ち崩すことも多いらしい。参考になるか分からないけど、前世持ちの話が載った説話集でも取り寄せて見ようと思ってる」 「ありがとうございます。頑張って御恩を返せるように努力します」 「んー、私はサウルの泡倉を研究させてもらえば十分だけどね。まぁそれはそれとして。サウルは一端神殿預かりの孤児ということにしようと思う。そして手の空いた人間で育成をしていこう。体が出来上がってないから、まずは術系からになると思うけど」 「へぇ、戦士団預かりじゃねーのか? あ、貧弱すぎて無理ってか?」  と、アラン様。確かに、将来的に神殿に仕えるならその方が良いよね。しかし神官様は首を振る。 「戦士団預かりも考えたんだけどね、試しの結果を見て、まずは神殿預かりが良いかな、と思ってね」 「なるほどな。てーことは、3年後が楽しみだなー?」 「そういうことになるね」  僕には良く分からなかったけど、僕とハンナ以外は意味が分かったみたいでニコニコしていた。ちょっと怖い。 「そういうわけで、サウルは明日から忙しくなるよ。コミエ村神殿の総力を挙げて訓練するからね」 「おいおい、子供だって事忘れるなよ。頭でっかちな奴は大人になってから苦労するぜ?」 「はっはっは、アランが言うと説得力があるね。分かった、ちゃんと気をつけるよ。ところで聞くのを忘れてたけどアランの予定は?」 「そうだな、しばらく厄介になるぜ。サウルを借りるかもしれん。あ、安心しろよ、ちゃんと返すからよ!」  アラン様、最期はまた大笑いして咳き込む。  僕の居場所はしばらくこの神殿。皆さん良い人達ばかり何だと思う。だから皆さんを失望させないようにしなきゃ。頑張る。  それに。  ハンナ。  ……、うん、頑張ろう。 【タイトル】 015 修行開始 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2017-07-06 17:12:21(+09:00) 【公開日時】 2017-07-06 17:12:21(+09:00) 【更新日時】 2017-07-06 17:12:21(+09:00) 【文字数】 3,947文字 【本文(94行)】  その後の話は僕の試しの様子になって、アラン様が実際に見て見たいとおっしゃって。その場で腰掛けたまま、四拍呼吸を少し行ってみた。さっきより、金の霧が明るくなってる気がする。探索の人は、試しの時には村の外に行ってたからびっくりしてた。  神官様と奥様は顔を見合わせていたから気づいているかも知れない。 「サウルのエーテル、明るさが増しているね。それと、目を開けてできている」 「セリオ、そりゃ術者なら当たり前だろ?」 「アラン、君、忘れてる。サウルが四拍呼吸をするのは今日が初めて」 「ギャハハ! さっきの今でもう進歩してるってか? たまらんな、おい」  その後、明日手空きの人で僕の泡倉に行こうという話になったんだ。泡倉の中はエーテルが濃かったので、修行が捗るとか何とかで。  そうこうしているうちに良い時間になったので、夕食とお風呂の準備にかかることに。今日は気温が28度だそうで。真夏に近い温度だってロジャーおじさんが言ってた。確かに戦士様は暑そうで、汗を拭いたりしていたよ。  水を汲むために井戸に向かうと、戦士様や見張りの人もついてきた。試しに闘気法使いながら作業しなさいと。体に負荷を与えるから成長にも役立つはず、と。これも修行の一環と言われたらやるしないよね。  四拍呼吸を一度回して魂倉からエーテルを回す。体の中に充填して……、とやっていると止められちゃった。もっと弱めで良いんだってさ。余りエーテルが濃いと長く続けられなかったり、体に悪い影響があるから、と。  となると、試しの時に使ったのは、1分で1%だったんだから、もうちょっと絞れば良いのかな? 1分で1%以下というのは実感がわきにくいから、3分で1%に刻んでみよう。その感覚が何故分かるのか。また嫌な気分が湧いてきそうになったけど、押さえた。  四拍呼吸すら回さずに、深呼吸一つ。呼吸をしながらほんの少しだけエーテルを取り込むようにしてみる。そしたら長く動いても魂倉が息切れしなくて済むんじゃない?  最初は息をするだけでエーテルを取り込むのが上手く行かなかったけど。しばらくすると上手く行くように。次に桶を持っての動作と魂倉管理とエーテルの循環と呼吸と行おうとしたらバランスが崩れて、エーテルの霧が全身から吹き出してしまった。  見張りの人が 「初日で呼吸法に気づくのは凄いな。でもさすがに使いこなせないようだから、最初はもっと組み合わせを減らしてご覧?」  とアドバイスを下さった。でも、ちょっと悔しかったので、魂倉の管理をロジャーおじさんに頼んでみる。 『ロジャーおじさん、闘気法使ってる時に魂倉のエーテル吸収と放出、お願いして良い?』 『もちろんでさ。それがあっしの役割ですから』  ついでに呼吸しながら吸収する時のコツについてちょっと教えて貰う。そして二回目の実行。  エーテルの取り込みは、体に勝手にやって貰う。魂倉はロジャーおじさんがやってくれる。そうなると僕が意識するのは水汲みの作業と、エーテルの循環。エーテルの放出はロジャーおじさんが適切にやってくれるから、僕は与えられたエーテルを回すだけだからやりすぎも無い。そうなると難易度は格段に下がる。  水を汲むのは、母も苦労していた。けど、今はさじの上げ下げのように簡単だ。片手でもできそう。今やると怒られそうだからやらないけどね。  僕が水を引き上げると、戦士様と見張りの人がそれぞれ持ってきた大きめの桶に水を入れて持っていく。お風呂に使うんだって。暖めるのはどうするのかなぁ思ったら、奥様が四大術でやるんだそうだ。おかげで神殿は薪代が大分助かってるんだってさ。風呂焚き場も痛まないし、掃除も楽だし。ただ、奥様がお風呂にかかりきりになってしまうので、最初に沸かした後は、薪も使うそうだけど。  神殿のお風呂はかなり大きいそうで、戦士様と見張りの人はずっと水を運んでた。なんだかんだで50~60回くらいかな? ちょっと適当だけど。もし闘気法無かったら無理だったね。30分くらいは水汲みしてたと思う。このスピードも闘気法様々。今朝の水汲みは1回引き上げるのに2分近く掛かってたから。  終わった時、ロジャーおじさんに収支を聞いたら微妙にプラス、とのことだった。余った分は、そのうち揮発するって言ってた。  戦士様も見張りの人も、まさか最後まで持つとは思ってなかったみたいで驚いてた。前世は古代文明時代の貴族じゃ無いか、英雄じゃ無いかと盛り上がってたよ。  お風呂を終えて、夕食終えての19時前。お日様は遠くの山の向こうに消えて。本格的に暗くなる前、神殿の鐘撞き堂の前でぼーっと座ってると、ハンナが来て隣に座る。 「サウル様、どうしました? おつかれ?」  ハンナは顔だけこっちに向けてそう聞いてきた。赤い残照がハンナを照らしてる。 「僕に様付けないでよ、恥ずかしいから。んー、えーと。このままでいいのかなぁって」「わかった。サウルってよぶよ。で、サウルはしゅぎょう、いや?」 「嫌じゃない。むしろ嬉しいんだけど。不安なんだ」 「みんな、良い人よ?」 「……うん」 「ハンナもいるよ?」 「……うん」 「じんせい、ままならない。にげたうまがさいわいをつれてくることもあるってアラン様言ってた」 「ハンナには敵わないね。ありがとう」 「どういたしまして! しゅくんを助けるのはきじんのほまれってアラン様言ってた!」 「僕、主君じゃないんだけど……」 「だいじょうぶ、よげんだから」  後、きじんって何のことだろ?  そのまましばらく、一緒に空を見て。  昼間の暑さがどこかに行って、涼しくなった空気の中、赤い空を見て。  僕たちは話をしてた。  ハンナはアラン様やセレッサ様のお子さんじゃ無いってこと。王都での生活のこととか、いい人の話、悪い人の話。  アラン様が嫌がらせをしてきた貴族を四大術でぶっ飛ばした話。ハンナが風邪を引いた時にアラン様が大騒ぎした話や、セレッサ様がきれい好きすぎてアラン様の研究室を爆破しそうになった話。  ハンナの訓練の話は、ハンナは凄く自慢げだった。ハンナは4才だけど、もう幾つかの術が使えて、魔物も倒したことがあるんだって。  僕は、野犬見ただけでびびったけどね。凄いなと、褒めたらまた嬉しそうだった。可愛いからあごの下、撫でて上げたよ。歯をむき出しにしてにへっと笑うのは、普段が整った顔をしてるだけにギャップが凄くて面白いなーと思った。  そうしてすっかり暗くなって星が瞬く頃、部屋に戻ったよ。  結局、しばらく四拍呼吸してエーテルの動きを色々試してたんだけど、早めに寝ることにしたよ。ちょっとだけ泡倉を覗いてきたけど、謎の屋敷以外真っ暗だったから。  不思議な夢を見たんだ。  手のひらサイズのハンナが出てきた夢。狭いけど、とても明るい部屋の中で遊ぶんだ。本棚がたくさんあって、凄く大きい鑑定機みたいな道具がある不思議な部屋。ハンナは僕の膝の上で遊んだり、肩の上ったり。僕は変わった木の実を上げようとするんだ。そしたらハンナはくるっと回っておねだりするの。木の実を貰ったハンナが嬉しそうで僕が笑うと、ハンナも一緒に笑ってた。  なんであんな夢を見たんだろう。分からない。でも、ハンナが楽しそうで良かったって思ったよ。  5時頃起きて、朝食の準備。水汲みは昨日より簡単にできたから、台所の仕事のお手伝いもたくさんしたよ。  朝食の前に礼拝堂でお祈り。皆で集まったときに、ハンナの方を見たら目が合った。夕べの夢のことを思い出して、思わずじっと見てしまうと、ハンナがにへっと笑って、くるっとその場で回ったんだ。ハンナも同じ夢を見たのかな? まさか?  祭壇の前にひざまずく。相変わらず女神様の視線を感じる。試しにちょっとだけ、エーテルを捧げてみよう。神様だから喜んでくれるかな? と思ってやってみた。お祈りは、2分くらいの時間があるから、四拍呼吸をじっくり回しても大丈夫なはず。  四拍呼吸に切り替え、世界からエーテルを貰う。エーテルは魂倉に行き、魂倉から変換されたエーテルが体に流れ。背筋を上らせるように頭から外へ。  目の前の女神像を思い浮かべつつ、エーテルを捧げます、と念じてみる。10秒、20秒、30秒。「ありがとう」と言う声と同時に、波動が女神像を中心に広がって行く……。祈りで静かなはずの場に神官様の声が聞こえた。 「……雰囲気が、まるで聖域のような」  目を開けて周りを見ると、皆も目を開けていた。探索の人が気味が悪そうに周りを見ている。神官様も奥様もアラン様も困惑した顔。 「サウル、何かした?」  と、神官様に聞かれたので 「女神様にエーテルを捧げました」  と素直に答える。神官様は 「多分、井戸の水のことも、この雰囲気のこともサウルが関わってるのだろうね。私も毎日お祈りしてるんだけど、何が違うんだろう?」  それは僕も知りたいよ。それにやっぱり井戸は僕のせいかー。ちょっと一回女神様とお話しした方が良いのかな。先延ばしにしたかったけど、良くない気がしてきた。  神官様にお話ししてみると、ちょっと待って欲しいと言われた。神官様は研究好きだから、今すぐに! って言うかと思ったんだけど。意外だなぁ。  朝食を摂り、神官様も奥様も神殿のお仕事。村人が相談に来たり村長様が相談に来たり。泡倉に向かうのはその後と言うことになったので、ちょっと暇。  ちょっと薪から適当な棒を拾って振り回してると、ハンナが飛びかかってきたので、二人で冒険者ごっこ。僕が剣士でハンナは魔物役。女の子がそれで良いのかと思ったけど、良いんだってさ。アニタは絶対しなかったんだけどなぁ。  しかし、ハンナは早い! 最初は遠慮して当てないようにしてたけど、本気で棒を振ってもかすりもしないんだよ。右に振った時にはもう違うところ、左に振ったらもう居ない! みたいな感じでホントにびっくりしたよ。 【タイトル】 016 泡倉と修行1 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2017-07-11 13:47:21(+09:00) 【公開日時】 2017-07-11 13:47:21(+09:00) 【更新日時】 2017-07-11 13:47:21(+09:00) 【文字数】 3,691文字 【本文(109行)】  時間が掛かったけど10時過ぎには出発することができた。メンバーは神官様、アラン様、戦士様、セレッサ様、ハンナに僕。奥様はすごく行きたかったみたいなんだけど、村長さんと何やら話し合いがあるとかで。  中庭でいつもより少し大きめの入り口を開けてみる。この入り口、色々な大きさにできるみたいなので、一応神官様に聞いてから大きく開けてみた。神殿の高さより大きくできそうだったのでびっくり。幅も中庭一杯にできたよ。 「ぎゃはは! おいセリオ! これ、とんでもねぇぞ! 悪用したら軍を隠せるじゃねーか! 中は500km四方なんだろ?」 「軍どころか、街も隠せそうだね。はっはっは」  その言葉に閃いた。地面に入り口を書くとどうなるか。多分、できる。扉じゃなくて、《《転送装置》》のようにすれば……。《《転送装置》》という言葉は無視。多分前世だろうし。それにもうイメージは頭にあるからね。  試しに、地面に入り口を書いてみる。今まで、扉のイメージだったから空中に縦に展開してたけど。直径5m程の円形に地面が光る。 「お、セリオ、こりゃなんだ? 入り口か? まるで転移門みてーだが……」 「新型の入り口です。この円も相当大きくできそうですよ。自分で動けないものを送り込む時に使えるかと思います。まぁそれはともかく、皆さん円に入ってください」  と、僕が告げると皆さん恐る恐る円に乗る。今までは扉をくぐるイメージだったけど、今度は「場所を入れ替える」イメージで。光が一際強くなったと思ったら、次の瞬間、いつもの広場に着いていた。  いつもの風景だ。直径100m程の広場に大きな屋敷。僕は水汲みの時にちょこっとずつ来てたけど、神官様と戦士様は2回目。アラン様、セレッサ様、ハンナは初めてだね。 「セリオ様、予定通りで?」  戦士のマルコ様が予定の確認をする。この場のリーダーは神官様。一応今回は、僕が泡倉のことをどれくらい掌握しているかの確認と、泡倉内で僕が術を使うとどうなるかの確認が主になるんだってさ。  神官様が前回来た時に、神官様と奥様はそれぞれの術を。アラン様は闘気法を試されたのだそうだけど、普段より反応が大きい以外は特に問題なかったとのこと。 「さて、サウル。この巨大泡倉の掌握を試してもらおうかな」  神官様は凄く楽しそうだ。 「普通泡倉は、中に入っているものを直感的に把握し、中のものを自分の意思通りに選んで取り出すことができる。例えば雑多な貨幣を泡倉に突っ込んで、鉄貨、銅貨、銀貨と分けて出すことができる。あれは非常に便利だ。同じ泡倉と名が付いているのだから、同じようなことはできるはず。この泡倉の中がどうなってるのか、そして中に有る物を取り出せるのか、試そう。そうそう、ここに生えている木なんだけどね。古代文明時代に滅んだと言われている貴重な木なんだ。ちょっと分けてもらえると財政が助かる」 「それだけじゃねぇぞ!」  と、アラン様。 「あの屋敷、中には入れないからはっきり言えねぇが、壁の材質がおかしい。多分遺跡で良く見る奴だ」 「ふむ。確かに古代遺跡に入り浸りの天才アランが言うんだ、確かなんだろうね」  ぱっと見ただけでそんな事が分かるなんて凄いな。ちょっとアラン様見直したよ。  で、その掌握。この場に泡倉持ちがいないので、なんとなく勘で行うことに。ほんとは管理人がいるからその人に聞けば良いんだろうけど……。しょうがない、ロジャーおじさんに聞いてみよう。 『ロジャーおじさん、泡倉の管理人さんとは話せないのかな?』 『へぇ。なんか気難しい奴のようで。ただ、コツは教えてくれやした』 『じゃぁそれを教えて』  しばらく沈黙した後、やってみることにした。  目を開けたまま。  雲のまばらな空を見上げ、四拍呼吸。  そして僕は《《空に飛ぶ》》。  今飛んでいるのは、僕の心。  体はそのままに、エーテル体だけが飛んでいく。  空を飛ぶ鳥の高さに自分が行ったら何が見えるだろう、と。  周りの木が見えなくなり、空が広くなった、ように思える。下を見れば《《僕がこちらを見上げている》》。  近くに飛ぶ鳥の背が見える。木々の先端が下に見える。  さぁ。高く飛ぼう。  高く高く。  雲を超え、更に高く。  寒い。空に昇れば、太陽に近くなるから暑くなるかと思ったんだけど、寒くなった。そして暗くなる。  もう真っ暗な空に、ギラギラと太陽が輝き、昼間だというのに星が見える。  ずっと上っていくと、壁があった。これが泡倉の限界。高さ500km。  僕は壁を抜けて更に上る。  ずっとずっとずっと。  そしていつしか、眼下に見える。白く輝く500kmの立方体。  それが《《僕の泡倉》》だ。  僕は外側から泡倉を見ていた。片方の僕は内側から泡倉の内側の空を見上げたまま。  手を差し伸べると、《《泡倉を片手に取る》》ことができた。そう、今の僕は、泡倉を片手に乗せるほど大きい。泡倉を手の内で転がし、そして僕は把握した。  《《今の僕》》に分かる範囲を識る事が出来た。  満足すると、《《僕一人に》》戻した。  この状態は長く続けると危ない。帰れなくなる。  一瞬、魂が不満を述べる。  くらっとしたけど、もう大丈夫。 「皆さん! ざっとしたところが分かりましたよー。ここは直径200kmの円形の島で、ここはその東側の海岸近く。周りは海です。お魚がいるそうです」  神官様もアラン様も興味深そう。 「分かりましたサウル。そのうち探索しましょう。地図を書いて貰っても良いですしね。では、この中の物はどの程度、君の思い通りになるのかな?」 「はい、神官様。視界に入る20m先までは自由に操れるようですよ」 「20mか、どんな事が出来るか、見せてくれるかい?」  これは、泡倉を掌握した時に分かったこと。僕が力を付けて、管理人に認められれば、更に様々な事が出来るはず。そう、泡倉の管理人は僕が力を付けるのを待っている。  今は限定的な支配だけど、そのうち泡倉を完全に自分のものにできるはず。そのために頑張らなきゃ。僕は、今、親切にしてくれる皆さんに何も返せない。将来誰かを助けられる保証もない。頑張って力を付けなきゃ。  横道に逸れた思考を戻して。まずは誰も居ない場所を見て、地面を盛り上げた。小山のように高くなる地面。高さは5m程。 「まずは地面の操作。元に戻すこともできます」  皆さんが小山に触れて、幻覚じゃないことを確認して貰ってから、元に戻しておく。次は、木々。広場の端に歩いて行き、僕が腕を回しても届かない太い木々を見る。正確には、その枝を。  次の瞬間、木々の枝がバサバサっと落ちてきて、僕の近くに一カ所に纏まった。ちゃんと葉っぱと枝は別になっているし、薪に使いやすいように適当な大きさに切断したんだ。生木のままだけどね。  枝と葉っぱの塊を皆さんの方に押しやってから、一本の木を見上げる。丁度高さ20m程。葉がたっぷりと生い茂り、枝振りも豊かな木だね。村の近所では見かけないと思う。  ずぼっと引き抜いて、根を切って。幹を適当な長さに切って枝を落とし、葉を分けて。付いてた虫や鳥の巣は別の木に移して完了。 「木もこんな感じで操作できますね」 「わー、サウルすごい、すごーーい!」 「うわっ、マジか! すげーな、おい」 「これなら道を簡単に作れますね。これを外でもできたら村の神殿としては非常に助かるんですけど」  そこでアラン様が、木を乾燥させて板材にできないかと仰るので試してみるとできた。枝も乾燥させて薪になりそうだ。 「いやまあ、泡倉ですから、持ち主の思ったとおりになるというのは当たり前でありますが。それにしても、なんというか出鱈目ですな……」 「そうですね。私も長年アラン様に仕えている間に色々な資料に目を通していますが、このような非常識な有様は初めてです。これを世に広めることができないのは残念です」 「わー、サウルすっごーーい!」  戦士様とセレッサ様がぼやいていると、ハンナが乾燥させた葉っぱの山に飛び込んで泳ぎ始めた。  まったくハンナは子供だなぁ、まぁ僕は5才だからあんなはしゃぎ方はしないけどね。とクールに眺めていると、ハンナが葉っぱを投げつけてきた。普通ならばさーっと広がって終わりの筈の葉っぱは、塊のまま僕の所まで飛んできた!  顔が葉っぱが当たる。え? 何? 四大術?  ハンナを見ると得意げな顔。僕が睨むとキャーー! と奇声を上げて逃げ出した。  くっそー!  夢中で追いかける。ハンナは広場を駆け回る。すばしっこくて追いかけるけど捕まらない。そうしているうちに息が切れそうになってきたので、ちょっとズルをする。  ハンナが広場の縁に来た時に、枝をぐいっと伸ばす。顔と足元と同時に塞ぐと、咄嗟のことで避けられず、ステンと転んだ。ハンナの顔に、手に持った葉っぱを投げつける! ハンナの顔も葉っぱまみれだ、やったね! と喜んでいると、ハンナが泣き出しちゃった。 「サウル! 泣かしちゃ駄目でしょ!」  皆に怒られちゃったよ。おかしい! ハンナが先に仕掛けてきたんじゃないか! 不公平だ! だけど、ハンナがぐすぐすしてると、なんか僕も悲しくなって来ちゃった。ハンナみたいに泣いたりしないけど、ちょっとだけ鼻がむずむずした。ずずっと鼻をすすると、皆がニヤニヤして腹が立ったよ。ほんと。僕はハンナみたいな泣き虫じゃないもん! 【タイトル】 017 泡倉と修行2 四大術と神術の検証 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2017-07-18 22:27:36(+09:00) 【公開日時】 2017-07-18 22:27:36(+09:00) 【更新日時】 2017-07-18 22:27:36(+09:00) 【文字数】 3,980文字 【本文(127行)】  しばらく休憩してもハンナの機嫌が直らなかったので、とりあえず四大術の練習をしようと言うことになったんだ。 「よーっし、この天才アラン様がしっかり教えてやるから、ありがたーーく聞けよ! 四大術の場合はよぅ! 参照、変化、創成、削除に術の機能を分類できんだよ。参照つーのは、相手の情報を読み取ること。これは基本中の基本な。まぁこれも奥深いんだけどよ。可愛い子とお話しするにも、相手の観察が重要だろ? そういうことだ」  セレッサ様がアラン様の後ろで笑ってる。なんでだろ? 「んで、変化は、対象の属性に変化を与える事だ。例えば、炎に更なる火属性や風を追加することででっかい炎にするってな具合よ。んで創成は物質や現象を生み出すことな。で、削除は対象を消す。まー、物質の削除ってのは基本的にできねぇからよー、霊的な構造をぶち抜いて結界壊すとかそういう感じで使うわけよ」  神官様が不思議そうに 「アラン? 私はそっちのほうは良く分からないんだけど、呪文の使い方とか霊的センターの使い方とかそういう話はしないのかい?」 「それも大事なんだけどな。まずは実例を、と思ってよ。そもそも、呪文なんざ象徴とイメージのリンクができてねぇとクソほど役に立たねぇからよ。霊的センターの話は今からだ」  アラン様は赤と黄色の派手派手マントを翻してこっちに向き直る。わざとバサーっと音を立ててるなぁ。どんな意味があるのか……。無駄に自慢げだし。 「おい、サウル。泡倉は把握できてると思うけどよー、霊的センターは幾つか分かるか?」 「えっと。仙骨の下に地が、泡倉のちょっと上に水、胃の背中側にある神経の塊の辺りに火。喉に風で、つむじの辺りに空、ですよね?」  僕が答えると、アラン様は一瞬目を見張り、上を見上げて笑い始めた。 「ギャハハ! おいおい、ホントかよ?! やるじゃねぇか! おいサウル、場所はともかく、属性までなんで分かった?」  あ、そういえば、何でかな? 四拍呼吸してエーテルを回してたら自然と……。《《誰か》》が教えてくれた感じ?  あ、四大術の出し方、《《思い出した》》気がする。  途端、体が? いや、心が勝手に動き出す。止まらない。止められない。目は見えているが見えず、音は聞こえているけど聞こえない……。  体内のエーテルを魂倉に。次はそれを引っ張り出して霊的センターを巡らせて《《属性の色で染める》》……。染めるために霊的センターの背後にある、膨大な観念の世界から諸力を降ろす。属性混合は後。《《こっちでは》》初めてだから簡単に。単純な創成にしよう。何を作る? ……そう、水にしよう。桶から台所の水瓶に注ぐイメージ。《《属性に染めた》》エーテルを僕のイメージで方向性を付ける。膨大な水のイメージに満たされたエーテルを僕のイメージに絞りきる。  《《僕の外》》では、体から溢れたエーテルが、周囲を透明な青く染める。28度ほどだった気温が25度に。視界の隅に表示されたのは、ロジャーおじさんが気を利かせてくれたのかな?  右腕を前に差し出して手のひらを下に向ける。ざばっと水がこぼれて、僕の足元に水たまりを作った。丁度、桶一つ分の水。成功だ。  そこで正気に返った僕は周りを見渡した。なんかやっちゃった気がする。 「す、すいません。なんかできるような気がして……」 「……おいおいおい、マジか、サウル!」 「ご、ごめんなさい!」 「ばっか、逆だ逆! お前すげーよ、マジすげー。きれーな発動だったわ。マジ。概念や象徴の事も知らねぇはずなのに、きれーにエーテルをイメージで制御しやがった。これが前世持ちってことなんかな? いや、マジスゲー」  神官様が言葉を挟む。 「アラン、次はどうする?」 「いやセリオ、もう説明すべき事はサウルの魂が《《分かってる》》みたいだからよ。後は簡単な術のバリエーションを見せてどれくらい再現できるか、現状を把握するくらいだわな。まぁ後は、漏れが無いかどうか、後で《《マリ婆さん》》に確認して貰えば良いさ」 「おい、アラン。死んでも知らんぞ」 「けっ、あんなロートルにこの天才が負けるかよ」  アラン様が、基礎的な術を見せてくれた。  火や水、土、風を出す術。火を変化させて矢にし、打ち込む術。土と水で泥沼を作る術。泥沼から、きれいな水だけを取り出す術。その水をお湯にして投げつける術。軽く投げたナイフをおそろしい速さで突き立てる術。 「よし、サウルやってみろ」 「え? いきなりですか?」 「けっけっけ、大丈夫だ。これくらいなら失敗してもヤベェことになんねぇからよ」 「で、できるだけやってみます」 「わーい、サウルがんばれー!」  あ、ハンナ機嫌直ったんだ。  よし、やってみよう。  魂倉はロジャーおじさんに任せて、エーテル管理に集中する。  それぞれの物質を出すのは、余り難しくない。火は竈で知ってる。水は井戸。土は畑で、風は……。風は……。《《台風?》》 家も壊れるなんてね。これは凄い。これを使おう。  ちょっと風が強すぎて、広場周辺の大木が何本か折れたけど、続けてみよう。大丈夫、みんなには被害はないようにしたから。  火を作って……。変化。矢、……を5本! と念じると、エーテルが多めに減ったけど、気にせずに! 《《雷のように》》早く飛べ! 本物の雷のような音がドカドカドカン!! として、目標にした岩は粉々に。岩の欠片がいくつも真っ赤になってるから、火の効果がちゃんとあったみたいだね。良かった良かった。  次は、泥。よし!  良い事思いついた!  ええっと、水を多めに出して、土をかき混ぜて泥沼に。ここまでは見本と同じで。ここからは僕のオリジナル!  泥沼に火を加えるよ。火を泥沼全体に加える。強烈に。全力で!  次の瞬間、凄い蒸気が泥沼から上がった! やったね! 昨日のお風呂みたい! よーし、もっと行くぞ! ハンナも大騒ぎだし!  ガンガン火を活性化していくと、沼が赤くなってきて、しばらくすると沼がボコボコ音を立て始めた。すんごい暑いよ。前、鍛冶屋のアニタの工房を見せて貰った時みたい!で、これをちょっと取り出して、投げれば……。 「お、おい、サウル! ちょっと待て! 止めるんだ! 周りを良く見ろ。火事になるぞ」 「え?」  ……。  確かにちょっとあぶないですね。火の沼は戻します。ごめんなさい。 「お、ちゃんと戻せたか。やるじゃねぇか! こういうのは出すより戻す方が難しいんだけどよ。ったく、このガキと来たら……。四大術の初歩教室はこれくらいにしとくぜ。まぁ……」  アラン様が僕の顔をじっと見て 「いやなんでもねぇよ。ガキはガキらしく精進しな。魂倉の消耗はどうよ?」 「え、えーと、大丈夫そうです」  ロジャーおじさんが8割残ってることを報告してくれたから嘘じゃ無いよ。 「ちっ、可愛くねぇガキだな」  周り中、色んな匂いがしてる。木を切った時の匂い、熱した土の匂い、焦げた草の匂い。見れば、ハンナはまだほかほかの沼の跡地を木の枝でツンツンして遊んでる。戦士様は、折れた大木の様子を見に行ってて、アラン様は壊れた岩の欠片をナイフでつついてる。  皆の様子を視ていると、神官様が気楽な調子で近づいてきた。 「じゃぁ、神術やってみようか? 基本は、こないだやった祈りだね。祈りに願いを乗せる。霊的センターのことは気にしないで良いよ。ひたすら対象の神に願いを届けるんだ。だからほんとは神についてよく勉強しなきゃ行けないんだけど……。まっ、サウルならできそうな気がするからやってみよう。今からちょっと治癒を試すから、真似して」 「あ、はい」  神官様は、そのままスタスタと戦士様のところに歩いて行って、斜めだけど、辛うじて立っている木に近づく。あ、僕もちゃんと付いていったよ。  そして、神官様がちょっと深呼吸をして、息を吐く。手のひらを木に向けると、手のひらと木が白く光る。エーテルの光だ。木が、ぐぐぐっとまっすぐに戻っていく。そして、枝が、葉がきれいに戻っていく。 「こんな感じだけど、どうかな?」 「ええと、はい。多分。あ、でも……」 「なんだい?」 「どの神様にお祈りすれば良いんでしょう? 僕、まだ特定の神様への信仰が……」 「あぁ、確かに神格についての勉強もまだだしね。それなら、コミエ村の辺りを管轄されている土地神様にしてみてはどうかな?」  あの女神様かぁ……。確かに生まれた時から見てくださってる神様なんだし。 「分かりました。この木のこと、お願いしてみます」  こういう形で神様にお願いして良いのかな? とかちょっと思いながらも、切り替える。  木が元通りになりますように。女神様のことを思い出しながら、祈りを捧げ、願いを乗せる。  そして《《神の力》》が還ってきて。聞こえ『サウル、コミエ村のサウル。あなたに力を貸しましょう』土の香りがする音が、その振動が僕を満たしていきあふれ『再生』の意思と共に力が僕を通る……。  白く光る木が再生していく。  《《逆回し》》のように欠けた幹が満たされ枝が生え、葉が茂る。  女神様の力と高揚感が僕から去ると、木は綺麗になって立っていた。元の姿なんて覚えてないけど、きっと元通りに違いない。 「ふむ。やはり」  神官様は満足そうに頷いてる。 「土地神様の力をここまで引き出すのは、サウルが神との縁が強いのか、土地神様が活性化しているのか。信仰心については、まだ浅いだろうしね」 「は、はぁ」  どう返事して良いのか分からなかったので、生返事。ハンナは向こうでピカピカの泥団子作って遊んでる。 「魂倉はどうかな? 他に身体に異常はあるかい?」 『調子はどう? ロジャーおじさん』 『残7割って所ですかね。しかし、坊っちゃん、これじゃまだ実践は難しいですぜ』 『良いんだよ、《《初めて》》だし』 「はい、神官様。まだ行けると思います」 「残り3割くらいになったら終わりにしよう。その辺りは魂倉に問いかければ、なんとなく雰囲気で答えてくれるはずだよ」  魂倉管理人は、普通居ないってロジャーおじさん言ってたっけ。しかし、なんで皆さん泡倉と魂倉の管理人について聞いてこないんだろう。不思議だな。 【タイトル】 018 泡倉と修行3 質問と提案 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2017-07-21 20:32:49(+09:00) 【公開日時】 2017-07-21 20:32:49(+09:00) 【更新日時】 2017-07-21 20:32:49(+09:00) 【文字数】 4,229文字 【本文(125行)】 「おい、クソガキ! 今日はこれくらいにしといてやるぜ! ギャハハ!」  へたり込んで座り込む僕に、アラン様が声をかけたのはお昼頃。泡倉に来てから2時間ほど経った頃。  涼しくて気持ちいい風が吹いている。風に乗ってくるのは木の焦げた匂い、泥の匂いに、折れた木の匂い。バタリと倒れ込むと、隣にはハンナが大の字になってる。  神術で木を再生させた後、一通り初歩的な術の使い方をやってみた。神官様とアラン様の実演付き。で、その後、乱取りをすることになった。乱取りというのは、自由に戦う事みたい。とりあえず、大きな怪我はしないように手加減すること、とだけ言われる。  その後は、ハンナとやり合ったり、戦士様に転がされたり。ハンナと僕で組んで戦士様とやったりした。戦士様は強かった。ハンナと二人がかりで、僕は隙を見て四大術を挟んだりしたのに、全然駄目。気がついたらハンナが飛んでて、僕も地面にキスしたりしてた。  色んな所がズキズキしてて、ハンナはグズグズといじけてる。素早い動きと四歳とは思えないスタミナに自信があったみたい。僕? 僕はまぁこういうの初めてだったから何とも言えないというか……。  あ、闘気法使っても、元の体力が増えるわけじゃ無いし、元が低いのに大きく増幅しようとすると『ビキッ』って来るから、鍛えないと駄目だって分かったよ。ほんと、すぐ息が切れちゃうから、ハンナみたいに動き回るのは無理っぽい。どうしたら良いのかなあと思っていると、セレッサ様がよく冷えた布を渡してくれた。 「簡易な冷却術を使ったものですよ」 「あ、セレッサ様、ありがとうございます」 「うふふ、どういたしまして」  ハンナが起き上がって、「ああああああ」と、子供らしからぬ声を上げている。冷たい布を顔に当てて喜んでる。確かにこれは気持ちいいなぁ。今度から訓練の後にやろうっと。これなら簡単だし。  セレッサ様とアラン様がいつの間にやらお昼ご飯を作ってくれていた。アラン様が意外と手際が良くて面白い。  大きめの竈を二つ作って、そこに平鍋と深鍋をかけて料理を作ってた。凄く良い匂いがする。今まで嗅いだことの無い香り。懐かしいような、物足りないような。  配膳だけ手伝って、皆で食べたよ。平鍋から出てきたのは、白い粒。麦とは違う。これが米なんだって。陸稲を作ってるのは良く見てたけど、食べるのは初めて。米と具材をスープで炊いて作った料理でピラフというんだってさ。なんか物足りないなぁ。 「あら? 石でも混じってた?」  とセレッサ様。 「ええと、そうじゃないんですけど。その、魚のアラとかで出汁を取って、塩を濃くするといいのになぁって……。生意気言ってすいません」 「ブヒャヒャ! サウル、おめぇこんな野外で何言ってんだよ! あ、そーいや、王都でよ、ギラソルんとこの親父のピラフがすげーうめーんだけど、出汁がどーのとか言ってやがったな。あー、あの子羊の骨付き肉、また食いてーな!」 「えと、ごめんなさい。出汁なんて取ってたら時間掛かりますしね」 「うふふ、ほんとねー。しかし、サウル君は出汁の事なんてよく知ってたわね」 「すごーい! サウルは頭良いね!」 「いや、ええと、僕の家は貧しかったので出汁とか知らなかったと思います。多分、前世知識かな?」  ピラフもスープも美味しかったのに、何を生意気なことを言ってるんだ僕は。恥ずかしい! とか、思ってるうちに凄く眠くなってきて、あっという間に寝ちゃった。  ざわざわっと、声が聞こえる。目は見えなくて真っ暗で。体はぴくとも動かないけど。 「サウル君、どんな感じなんです? 四大術が使えて、神術も、闘気法も使えて、私からすると末恐ろしい感じですけど」 「あー、まーよ。  四大術の実技に関しては駆け出しの域は超えてるな。魂倉のスタミナも大したもんだ。容量がでかいのか、効率が良いのかわからねぇけどよ。発動の早さも悪くねぇな。  ただ、術に意識を取られすぎるのが問題か」 「まぁ今日初めてですからね。神術に関しても同じです。  サウルが5才じゃ無くて15才なら、冒険者に放り込んでも大丈夫でしょうね」 「そうですな。何にしても、サウル君は体が小さい。  骨格もよろしくないし、肉付きも悪い。  だから、動かそうと言う意識はあっても体が付いてこないし、直ぐ息が切れるから隙ができる。  闘気法の使い方自体は憎らしいほどなんですがなぁ。私には昨日今日始めた初心者とは思えんですよ」 「すごいですね……。古代文字も読めるし、計算もできて。3つも術が使えるなんて」 「まーなー。確かによー。2つってーのはたまに聞くな。大体、何かと闘気法だ。3つってのは聞かねぇやな。  俺は四大術だけだが、そこの美人秘書様は四大術と闘気法だ。でもよ、四大術は長年やってもぱっとしねぇじゃねぇか。大体どいつもこいつもそんなもんだ。両方モノにした奴ってのは大体ハッタリだぜ? それがそこのクソガキは実践したてで駆け出し卒業ときたもんだ。それも全部だ。  ほんと、このクソガキはどーなってんだかよ?」 「すごい……。唾つけとこうかしら……」 「おいおい、止せよ。クソガキが大人になる頃は、おめー、ひ孫が居る年だ……! あ! イテテテ! くっそ、テメ、この、ご主人様に向かってなにしy! イタ! くっそ! 悪かったよ! お前らほんとめちゃめちゃおにあい! くっそ! いてー!」  楽しい人達だなぁ、と、何か他人事のように聞いてた。そっかー、僕、中々なんだ? 良く分からないけど。  ぼんやりしてると、目が醒めた。13時半くらい。 「お、起きたかクソガキ。おめーのせーでえらい目に遭ったぞ」  アラン様がブツブツ言いながら近づいてきた。あ、体の下に布が敷いてある。 「あ、すいません」  思わず謝ってしまうと、セレッサ様が凄く良い笑顔で 「いいんですよ、アラン様の自業自得なんですから」 「え? そうなんです?」  アラン様は渋い顔。 「まぁいいけどよ。初めてだし、魂倉の回復もあるだろうから、今日はここまでだ。まだ半分も戻ってねぇだろ?」  ホントはもう全快になってるんだけど、黙っておく。  ロジャーおじさんが、教えてくれた。あの状態からなら、普通は6時間の睡眠か、2時間の瞑想が必要だって言ってた。僕は1時間の仮眠でそれをやったわけで。 「そうそう、聞いておきたいことあるか?」 「えっと、術の発動って、もっと早くなりますか? 今回、僕の術は発動まで6秒から7秒掛かってました。命のやり取りする時なら大変だと思うんです」 「あー、そうだな。あんま変わんねぇ。慣れた術だと2秒以下ってのはあるけどよ。  あ、昔、早撃ちって言われた奴が1秒の半分以下でファイアボールぶっ放してたって言うけどなー。ほんとかどうかわかんね。  発動時間は手順的に画期的な手はねぇな。少なくとも俺は見つけてねぇ。だから、俺ら術者は前衛に発動時間を稼いで貰うって訳だ」 「それなんですけど。多分、良い手が有ると思うんです」 「けっ。んな、昨日今日始めたばかりのポッと出が、数百年の歴史をひっくり返せるかよ。……まぁいいや、論破してやるから言ってみ?」 「毎回毎回、新しく術を魂倉と一緒に中間物を構成しますよね。あれ、エーテル通して術にした後、捨ててるじゃ無いですか。あれ、どうにかなりませんか?」 「けっけっけ! 残念だったな! 俺も昔試したけどよ。1回エーテル通すとスカスカに劣化してよー? できた術は使いもんにならなかったぜ!」  アラン様すごくうれしそう。くそー。ここからなんだもんね。 「ええ、それはさっき試しました。でもですね。あの中間物、《《複製》》できますよね?」 「それもさっき試してたんか?」 「はい」 「よーし、良い度胸してやがんな、続けてみ?」 「複製した中間物で生成した術も原盤と変わらない術になります」 「まぁそうだけどよ、それは実戦じゃ使えねぇ。状況に合わせた術を使わなきゃならんし、結局切り替える度に中間物を一から作る羽目になるからな」 「中間物を永続的に保存し、かつ任意のタイミングで取り出せるとすれば?」  アラン様と脇に居たセレッサ様の顔が怖くなる。 「魂倉の中に潜ると、《《地の領域》》が有るじゃ無いですか。  あそこに《《部屋》》を作り、《《呪文書》》を置くんです。使う時には、適当な呪文の中間物を《《呪文書》》から喚起、複製します」 「でもサウル君、魂倉内の構成物は術者の干渉が無くなると、すぐに同化されてしまうわよ?」 「霊的センターと部屋にパスを結んでおくんです。地水火風空の五元素全てでパスを結ぶと魂倉は、術者と繋がったままと認識するので部屋は崩壊しません。さっきご飯を食べる前に作った部屋は、睡眠を挟みましたけど、まだ残ってますよ」 「おい、クソガキ。その部屋は、どれくらい持つんだ?」 「んー、時折手入れすればずっと、だと思うんですが。手入れの間隔は分かりません。ほら、今初めてやったばかりですから」 「ケッケッケ! 面白ぇ! 面白ぇじゃねーか、クソガキ!  くっそ、クソガキ! 俺様の先に行きやがって、お前気に入らねぇ!  でもよ!  危険性、難易度、どんな術でもいけんのか? どんだけ保管できるよ?  検証すべきことが色々有るじゃねぇかよ! たまんねーな! み・な・ぎってきたー! ギャハハ! ヒヒヒヒヒ!!」  そういうと、アラン様は広場の向こうに走っていった。入り口を開けた場所の方。すごい勢いで走って行って、直ぐ戻って来た。うん。まぁ入り口開けてないからね。 「おい、クソガキ! 入り口開けろ。んですぐ行くぞ!」 「どこにです?」 「大学だ! んで、実験して論文書くぞ! お前共著者な。古代文字いけるんだから大丈夫だろ?」 「え? あの、僕、ただの村人で5才の子供ですよ?」 「馬鹿か! 才能に年齢は関係ねーんだよ!」 「アラン様が良くても、周りの方が認めないんじゃ無いかと思うんです」 「そうですよ、アラン教授。ハンナちゃんのことでも、かなり色々言われてるんです。またここで騒ぎを起こすのは……。それに、この村で力を蓄えさせるんでしたよね? 落ち着いてください、教授」  セレッサ様がフォローしてくれた。すると、アラン様は落ち着いたけど、機嫌悪そうになった。 「ちっ、くっそつまんね。あの凡俗どもが、いつもいつもこの天才様の足引っ張りやがって……。まぁいい。王都行きはまた今度な! そんときゃよ、派手にやってやっからよ! ギャハハ!」  いえ、結構です。と思ったけど、懸命な僕は口に出さなかったよ。大人になったなぁ。5才だけど!  と思ってたら、アラン様が咳の発作を起こしてセレッサ様に介抱されていた。ホントこの人は……。 【タイトル】 019 泡倉と修行4 海と管理人 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2017-07-22 21:59:32(+09:00) 【公開日時】 2017-07-22 21:59:32(+09:00) 【更新日時】 2017-07-22 21:59:32(+09:00) 【文字数】 3,768文字 【本文(126行)】  セレッサ様とハンナがアラン様の介抱をしている間に、竈などの片付けを行っていく。最初は僕の権能で片付けようと思ったんだけど、それじゃ修行にならないと言うことで四大術を使っていく。  固定された術なら、単に《《呪文書》》から呼び出すだけでも良いけど……。こういう範囲が可変になる作業は、それじゃ駄目。範囲毎に術を作っていったんじゃ、前と変わらないよ。  んーーー。  あぁ、《《引数》》、つまり《《パラメータ》》を与えて呼び出す形にすれば良いんじゃ無いかな。例えば、今のこの「竈を土に戻す」という場合だと、竈の材質と範囲、実行速度辺りを引数にして術を設計すれば……。  受け口、についても、同じ術に幾つかあると楽だよね。見た目で指定する時と、長さを指定したい時、とにかくぶっ放したい時。同じ術で受け口があると楽。  ……となると……。 「サウル、難しいのかい?」  神官様が心配そうに話しかけて来た時には、おおよそできてた。 「いえ、ちょっと術の改良を……、あ、できました……『《《リターントゥザグラウンド》》』」 「おお、早い! そして綺麗だね。しかもちゃんと周りの地面と同じようになってる。昔、こういう術のお世話になってた頃があるけど、あんまり《《綺麗》》《《になりすぎる》》んで、探索役と一緒にカモフラージュしたもんだけどね」  慣れない術だったんで、術の名前を口に出してみたんだ。この方が、負荷が分散される感じがして楽だね。他の荒れた地面を均していく。 「神官様、この後はどうされますか?」 「そうだね、ちょっと付近を見てこようかと思ってる。  あ、そうそう、サウル。つい言いそびれていたんだけどね。私たちを呼ぶ時には名前で呼んでくれるとうれしい」 「しかし、身分が違いますし……」  そう、神官様は、本来は王都の貴族と聞いたことがあるんだよね。何か事情があってこの村に赴任されたけど、本当は王都で活躍される方、と、父と村長さんが話してたんだ。 「困ったね。どこで聞いたのか分からないけど、今はただの神官だよ。役職で呼ばれるとどうも他人行儀に感じちゃってね。仲間になってくれないかい?」 「は、はい」  そう言われると、仕方が無い。  その後、アラン様も交えて話をして、海に行く事になったんだ。まぁほとんどアラン様の我が儘みたいなもんだけど。ほんとアラン様って……。  海岸までは、1km弱。道は無いので、森を歩く。普通なら結構な時間が掛かるんだけど……。 「ヒャッヒャッヒャッ! おい、クソガキ! しっかり《《練習》》しろよ! 追いついちまうぞ!」  僕が先頭に立って、道を作りながら海岸に進んでいる。木を避けるのは泡倉の権能でやって、道を均すのは四大術。道の幅は4m程。無駄に広いし! しかも歩きながらなんて! 結構大変だよこれ!  僕はハンナと同じくらい体が小さくて、大人の人と一緒に歩くだけでちょっと駆け足になっちゃうのに。ほんとヒドい!  アラン様がヒドいことを言うのに、他の人は全然とがめない。大人としてどうなの?  白い砂浜が見えると、アラン様が僕を追い抜いていった。慌ててセレッサ様とハンナが追いかけていく。  後からゆっくり神官様、えっとセリオ様と、戦士のマルコ様が歩いて行った。僕もとぼとぼと後を追う。 「お、なんだこの枝みたいな奴? 緑に、赤に……? どっかで見たな、おい、セレッサ! これなんだっけ?」 「アラン様! これ、珊瑚ですよ。海から取れる宝石!」 「マジか! こりゃ一財産じゃねーか! おい、クソガキ! あ、いやサウル様! これくれ!」  なんというか、いっそ清々しいな、アラン様は……。 「ええ、いいですよ」 「だよなー、やっぱ駄目だよな。まぁ聞いてみ……?! え?! おい、正気か!」 「聞いたのはアラン様じゃないですか」 「いや、ええと。すまん。やっぱ止めとくわ。つーかな、お前、俺様が悪い奴だったらどうすんだよ」 「え? アラン様、こんなクソガキを搾取する悪い奴なんです?」 「くっそ、このクソガキ! まぁいい。ところでよ、この海、ちゃんと海なんだよな? 魚もはねてるしよー」 「ですね-。さっき見た時には結構見えましたよ」 「お。向こうには島か? 鳥も飛んでるしよ。不思議なもんだな、ここは。海は深いのか?」 「えーと」 『最深部は20kmでございます、サウル様』  知らない男性の声が頭にすっと入ってきた。渋くて低い。セリオ様よりお年かも。 『えっと、どなたです?』 『この様な形でお目に掛かること、お詫び申し上げます。私、泡倉管理人セニオリブスと申します。セニオとお呼びください』 『……分かりました。後でゆっくり話しましょう。何か有りましたら補足お願いします』 『はっ』 「どしたー?」 「あ、ええと、一番深いところは20kmですね」 「マジか! 落ちたら大変じゃねぇか」 「え? アラン様泳げないんですか?」 「ば、ばっか、おめー、この天才が泳げねぇわけねーだろ? ふざけんな」  あ、泳げないんですね。懸命な僕は黙っておく。処世術という奴だね。僕も多分泳げないし。  その後、程良く温まった砂浜で遊び回ったよ。  僕とハンナは、どっちが高い山を作れるか競争したり、海の深いところに歩いて行けるか競争したり。  釣りをしようという話もセリオ様から出たんだけど、網もモリも釣り竿もないから諦めようかと、一端まとまったんだよね。しょうがないよね、という感じで。ところがそこで、入り口開けて取ってくれば良いじゃ無いかとアラン様が言い出したんだよね。  こっそりセニオさんに聞いたら大丈夫というので、その場で開けると、マルコ様が神殿からモリを取ってきてくださった。  散々遊んで、魚や貝を捕ってお土産に。荷物は全部持ってきてたので、最初の広場には戻らず、神殿に帰ったよ。  捌いた魚やら貝は、夕食に出たよ。初めて食べる味の筈なのに、とても懐かしくて涙が止まらなかったんだ。  残った魚は桶に氷を一杯入れて、その中に突っ込んで保存。氷は僕が出したよ。  昼間提案した方法で、ひな形になる氷作成の術を作って、引数に氷の大きさと形と数を指定して起動すると、ざらざらざらーーーーーっと直径2cm程の氷が。普通は大きな氷が一個出るだけだって言うから、僕が奥様、じゃなかったええとマリ様に説明したんだ。マリ様は凄く驚いてたよ。そのマリ様の様子を視て、アラン様が余計なことを言って怒られてた。  そうそう。アラン様達は、明後日には村を出るのだそうだ。ほんとはもっとゆっくりするつもりだったけど、今日の術の話で気が変わったんだって。  セリオ様がやんわり引き留めるけど、アラン様の意思は固いみたい。ハンナが泣きそうになってた。僕? 僕は全然平気だよ。  食事が終わり、部屋に戻ると、僕はその場で入り口を作って泡倉の広場に移った。ロジャーおじさんにも出てきてもらう。  満月でほのかに明るい泡倉。広場に隣接した館を見ると、門前に一人佇んでいるのが見えた。  セリオ様より少し低いくらいかな? 銀髪のお爺さん。かっちりした仕立ての良さそうな服を着ている。僕たちが近づいていくと、お爺さんが丁寧なお辞儀をして名乗った。 「先ほどは失礼致しました。改めまして泡倉管理人セニオリブスでございます」 「魂倉管理人、ロジャーだ」 「コミエ村のサウルです。よろしくお願いします」 「それでは、サウル様。この泡倉の諸元と詳しい利用方法についてですが」  しれっとセニオさんが話を進めようとするので、ちょっと止める。無視された格好のロジャーおじさん、機嫌悪そう。 「待ってください。僕はまず泡倉管理人のセニオリブスさんに聞きたいことがあります」 「なんでございましょう?」 「何故、今日まで僕と接触しなかったのですか? 確か、最初僕以外とは会いたくない、とロジャーに連絡しましたよね。その後、何度か泡倉に僕が出入りしても何もありませんでした」 「確かに、その通りでございます」 「理由を教えてください。場合によっては、泡倉の閉鎖も検討します」  ロジャーおじさんがぎょっとした顔をする。うん。相談してなかったしね。セニオさんは、余り驚いてないのかな? 「……人は罪深きモノでございます。この泡倉には様々な物が蓄えられています。  鉱物、動植物、海産物、魔物に幻獣、聖獣に至るまで。  愚か者がこの泡倉を自ままにすれば……」  セニオさんはこっちをじっと見た後、にこりと微笑んだ。孫を見つめる老人のように。 「分かりました。僕を試したんですね。お眼鏡に適いましたか?」 「はい。当分は」 「おい、爺さん。坊っちゃんを導くのも俺らの使命だろ? おかしくねぇか?」  ロジャーおじさんは納得いかなかったみたい。 「腐った卵から雛は孵りません」 「ちっ、あっしはこの爺さん気に入らねぇな」 「私の使命には君との友情ごっこは無いようですよ」 「まぁまぁ」  なんで僕が仲裁してるんだろう? なんだか理不尽な気がする。  その後、泡倉の諸元と、細かい使い方、どういう物が入ってるのかを大ざっぱに聞いていった。細かいことはセニオさんに都度聞くことになった。  獣や魔獣などに関してはセニオさんとその眷属が管理しているけど、基本的には自然に任せているとのこと。だから、危険な生物にあったら戦わないと死ぬ事も有るそうだ。怖いね。  で、泡倉内の資源は僕の裁量で持ち出しても良い。家なんかも建てて良い。などなど。  夜も遅くなったので、続きはまた今度になった。最期までロジャーおじさんとセニオさんは仲が悪そうだった。困ったなぁ。 【タイトル】 020 村人になる1 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2017-07-29 15:59:05(+09:00) 【公開日時】 2017-07-29 15:59:05(+09:00) 【更新日時】 2017-07-30 09:42:06(+09:00) 【文字数】 3,852文字 【本文(100行)】  5月13日。3の闇の日。週の初めの日である闇の日はお休みなんだけど、皆余り休んでない。特に生き物を飼っているところは、休みようが無いみたい。  ふと思いついたので列挙してみる。  60秒で1分。  60分で1時間。  24時間で1日。  1週が6日。闇、地、水、火、風、光。  1ヶ月は30日で、1年は12ヶ月の360日。  1ヶ月が5週なのが勿体ないな。美しくない。6週なら良かったのに。闇の週の闇の日とか、水の週の風の日とか、綺麗に表現できそうだったのになぁ。でもそれじゃ、一年を表すのが面倒だね。仕方ないかな。  今朝はちょっと暖かい。12度。空は曇っている。こないだ読んだ暦の本、6月半ばから雨が多くなるのだそうだ。それまでは晴れが多い、らしいんだけど。そこにあったセリオ様とマリ様の書き込みからすると、この辺は余り当てにならない、とのこと。  冬小麦の収穫がそろそろなのだそうだ。かり集めて脱穀乾燥して、村に納める。僕も収穫を手伝ってたはずなんだけど、記憶に無い。  脱穀、乾燥。何か役に立たないかな。  脱穀は、《《うちの牛》》に踏ませたり、フレイルで叩いたり、一本一本棒で挟んで取ったりしてたんだっけ。んーー。思いつかないな。もっと間近で観察しないと駄目かも。  えっと。乾燥は確か、余り乾燥させるとひび割れてしまうとか。だから、上下から弱い熱線を加えて、穀物から出た湿気は、弱い風で飛ばせば良いと思う。でも、乾燥する間僕が付いてなきゃ駄目かな? 何時間くらいなんだろう? 水の術を逆に使えば、直接水分も抜けるかも知れない。でも、どの程度が良いのか分からないな。これも実験しないと分からないなぁ。  前世は万能じゃ無くて、使えない時もあるんだね。ちょっとホッとした。  と、そうそう。前世。昨日の料理に関する閃きはちょっとびっくり。最初の頃は、何か思い出そうとすると痛かったり気持ち悪かったりしたけど、凄く普通だった。これはちょっと相談した方が良いのかも知れない。  僕が僕でいるために。  水汲みは続行。僕は四大術で水を出すことが出来るようになって、量も質も思いのまま、なんだけど。闘気法の練習と、肉体を動かす訓練を兼ねてやるべきだという事らしい。夕方のお風呂は四大術で出すことに。その代わりお風呂は毎日になった。王都の貴族みたいだってアラン様がいつもの調子で笑ってた。  そんなわけで、ちょっと疲れた僕は水汲みを終えて、朝食の席についたとこ。 「昨日のことなんだけどよ、クソガキ。お前、あの出汁の話、《《誰に聞いた》》?」  アラン様が前触れ無しに突っ込んできた。重い話は食事の後が良いと思うんだけど、お構いなし。最初は戸惑ったり腹が立ったりしたけど、慣れて来ちゃった。 「誰にも聞いたことは無いです。なので前世なんだと思います」  ここなら普通に話して良い事だ。 「やっぱな。じゃぁ、お前自警団に参加しろ」 「え?」  唐突な話で繋がりが見えないんだけど。キョロキョロと大人達を見ると、セリオ様が説明してくれるみたい。 「昨夜、サウルが前世に飲み込まれないために、どうすれば良いかという話になってね。  術の空間に入り浸りすぎて帰って来れなくなる話や、魔性の物に魂を取られる話、古代遺跡でかけられる呪い。  前世の話を一緒にすると、前世の人が気を悪くするかも知れないけど、まぁ同じようなものだろうと言う話になったんだ。なら対抗するには、この世に|縁《えにし》を作る事、だろうと」 「それで何故自警団なんです?」 「神殿の中だけでは世界が狭いからね。積極的に色んな人間と関わって欲しいんだ」 「先日の話と繋がることですね」 「うん。そういうこと」 「……今の僕は、前世の比重が高い。なら今の僕が重くなれば良い、重くなるには異論無い経験でこの世に|縁《えにし》を作る、と」 「相変わらず、頭でっかちなクソガキだな! つべこべ言わずに、目の前のことに飛び込んでみろや」  ほんと、この人、天才なんだろうね? 疑問。  マルコ様が 「このマルコ。兵として生きてきた中で、身についた動きもまた人物であると信じるに至りました。剣の振り方、歩き方。体に刻んだ物は裏切りませぬ。間違いなくサウルを作ると確信しております」 「まぁそういうことでよ、クソガキは四の五の言わず体動かして村に馴染めや」 「言うことは乱暴ですけど、まぁそういうことですね。サウルがサウルであるために、まず村人になりましょうか」  食事を終えると、鍛錬のために泡倉の海岸へ。  エーテルが濃いので回復が早いし、怪我もしにくいから、ということで。戦士団の皆さんは僕を置いて砂浜で走り込みしたり、泳いだり、乱取りしたり。仕事とは思えないほど、楽しそうだった。ヒトデを投げつけ合ったりね。  それを横目に僕とハンナは走り込み。ただし、油断するとアラン様から空気の球が投げつけられる。怪我はしないけど痛い。  ハンナとの乱取りは大変だ。横の動きが激しくて、首を振って対応しようとするとあっという間に視野から外れる。引いて視野を広くするか、視野に頼らず捉えるか。どちらも上手く行かないので、僕は自分の周りに空気の壁を張る。ハンナが掛かると密度の高い壁に阻まれ一瞬動きが止まるからそれで対応する、という訳だ。  しかし、これはエーテルの消費が激しいし、神経が疲れる。後、ハンナが小さいから良いけど、体の大きな魔物なんかが突っかかってきたらどうすれば良いか、考えなきゃ。  アラン様は、昨日話した新しい四大術の話を試作型にしていた。僕のとはちょっと違う気もするけど。《《引数》》についてはまだ上手く行ってなかったようなので、数学を引き合いにして話して見た。後は、人に対して指示を出す場合のやり方や、書類で必要事項を埋めるやり方とか。  書類や人に対する指示の話を持ち出すと、アラン様よりセレッサ様の方が食い気味なのが面白かった。  鍛錬は2時間ほどだったけど、凄く疲れた。それになんだか全身が筋肉痛。戦士団の皆さんも同じみたい。エーテルが濃い場所では成長や回復が促進されるので、そのためだろう、とのこと。  でも、僕、これの弱い痛みなら、目覚めからずっとあるんだよね。なんだろう。  帰るまでにちょこっとだけ、ハンナと浜辺で遊ぶ。追いかけっこしてるうちに乱取りになってたのはご愛敬。後、ちょこっとだけ、単独行動。  夏のような日差しの海岸から、曇り空のコミエ村へ。気温も5度は違う。  軽い昼食をとって、マルコ様と一緒に訓練場へ。自警団の訓練は村外れの広場。柵の外だが、十分な広さがある。村の時計は1日3回鳴る鐘の音だ。昼食を取って、集合することになってるけど、食休みをする人も居て、中々集まらない。  自警団は現在、正団員15名、見習い4名。僕は5人目の見習いになるみたい。  僕たちが来て30分後、ようやく全員集まったところで、団長のイノセンシオさんが声をかけた。イノセンシオさんは、農夫だけど、兵役にも長く就いていたことがあるのだそうだ。見た目は堅気に見えない怖い顔。マルコ様は180cmの身長の威圧感が凄いけど、イノセンシオさんは身長160くらいでそれほどでもない。でも、顔に走る刀傷にスキンヘッド。右目のアイパッチとただの農夫には見えない。 「では、今日の訓練を始めるぞー! 今日の指導はマルコさんだ。全員、怪我のないようにな。  そうそう、今日から見習いが1名増える事になった。神殿の預かり子のサウルだ。サウルのことについては皆知ってると思うが、まぁよろしくやってくれ。では、班ごとに整列して素振りから!」 「団長! ちょっと待ってくれ」  声をかけたのは3班の班長、アリリオさん。この人も兵役経験者。今は木工職人。細身で一番上のお子さんは15才。2班の剣士パウリオさん。  この辺の情報は、マルコ様、じゃなくてロジャーおじさんから。実はロジャーおじさん、付近の地図を作ったりするのにあわせて、村人の情報も集めてたんだ。細かな機微は別として大まかなことは分かる。 「なんだ、パウリオ?」 「サウルは、こないだ名付けの儀を受けたばかりだろ? 見習いにしても早すぎるんじゃねーか?」 「あぁ。それなんだがな。サウルが、前世と素質持ちだって話しは聞いてるな?」  皆さん、正団員も見習いの子達も頷く。神殿からそういう説明があったと、聞いてる。でも、父と村長さんが話し合いをしたことは知られているし、実家の家計が火の車だったのは、村の皆の共通認識。なので、神殿がいうのは《《建前》》だと思っているみたいだった。  確かに、普通そうだよね。 「サウルは既に四大術と闘気法をちょっと使えるそうだ。ただ、体が小さいから大人と混ざっての乱取りは無理だろう。なので見習いで慣れてもらう」 「いや、団長、それ本当かい?」 「あ?」  イノセンシオ団長の隻眼がパウリオさんを貫く。パウリオさんが一瞬動きを止める。 「まぁ確かにパウリオが言うことも分かる。俺も実はそんな都合の良い話は信じてねぇ。  だってよ、ドミンゴが新種に手を出してやべーことになったのは村の人間なら皆知ってんだ。名付けの儀でこのサウルが痩せこけてろくに飯を食ってねぇのも見た。  それにこないだ血相変えてドミンゴと村長が話してるのも知ってる。まぁ経緯はともかく神殿の預かり子になったのはいいや。どんな村だって多かれ少なかれ有る話だ。  でも、前世有り、才能有りだってんで、ゴリ押しで自警団に話ってんなら話は別よ。幾ら神殿の皆さんが推しても俺らは納得いかねぇよ。  だからよ、ちょっと使えるところ見せてもらえるか? サウル?」  隣を見ると、マルコさんが無言で頷く。  まぁそんな事になる気がしました。 【タイトル】 021 村人になる2 術士の需用 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2017-07-31 12:04:38(+09:00) 【公開日時】 2017-07-31 12:04:38(+09:00) 【更新日時】 2017-07-31 12:04:38(+09:00) 【文字数】 4,393文字 【本文(157行)】  マルコ様に頂いたアドバイスは、『驚かせるべきだが、壁を作られては駄目』だ。  村の四大術士はマリ様だけ。過去、街で暮らしていた人は、ある程度四大術士を知っている。  適度に目を引き。でもやり過ぎない。  考えているうちに、やることは決まった。  広場の北の方を指しながら、団長のイノセンシオさんに声をかける。勿論、人が居ないのは確認済み。その辺りは、青々とした草が僕の背丈以上に伸びていて、ところどころ低い木も生えている。ちょっとした密林だ。 「では、あちらに術をかけます」  数回、四拍呼吸を行う。  今できる最高効率で魂倉にエーテルを入れ込む。  最初の時のようなエーテル漏れはしない、つもりで。僕は想定したエリアに両腕を突き出し、気合いを入れて叫び腕を頭の上に上げる。あー、ちょっと、いや、結構漏れてるかな? 金色の光が目に入る。僕もまだまだ。  最初は、闇。  僕が指さした辺りは、真っ暗闇に覆われた。  高さ5m一辺20mの四角い闇の箱。  最初に闇を使ったのは、今日は闇の日だからと言うわけじゃ無くって、闇の術が珍しいから。目論見通り、周りから「なんだありゃ!」だの「真っ黒になっちまったぞ!」「光ってる!」と大好評みたい。あ、闇だけだと地味なので、所々表面に光を這わせています。  しばらくすると、闇が晴れ中の様子が見える。やっぱり皆びっくりしてくれたようだ。  何故って?  だって、そこにあるのは立派な作りの舞台だから。草ぼうぼうだけどね。  周りの地面から50cmほど持ち上がった、一辺20m程の四角い舞台。闇で覆ってる間に地の術で整備したんだ。あ、さすがにこれは僕の力だけじゃ無理なんで、ロジャーおじさんにも手伝って貰ってます。  ここまでは従来式の四大術だったので、ちょっとスローペース。今、思いついただけの即興だからね。ただ、面白いから後で呪文書に書き加えておこうと思う。  そんな事を考えながら、次。  魂倉の方はまだ大丈夫。  呪文書から、火の呪文を喚起。  引数に「視線誘導、400、小規模、火柱」と放り込み発動。ごそっと魂倉からエーテルが抜け、立ちくらみのような感覚に耐えて20m四方の舞台に均等に火球を落とす。  同時に爆発音と3m程の火柱が立ち上る。  ちょっと音が大きすぎた。ロジャーおじさんから「坊っちゃん、やり過ぎでさぁ。若手が何人か座り込んでしまってますぜ?」とのこと。  火柱も派手だが直ぐ消える。  しかし、火勢は衰えない。何故なら一面に生えていた草木が轟々と燃えさかっているから。青いままの草木が、こんなに勢いよく燃えることは無い。術ならではの現象に、驚くのかと思いきや、火を消そうと血相変える人が居る。  その人の鼻先に、ふわりと白い物が舞い降りた。  雪だ。  舞台と、それを見る自警団の人の上にだけ降り積もる雪。  走り出そうとした団員も思わず足を止める。  しんと静まった中、火の燃える音と生木が爆ぜる音だけが聞こえる。  誰かがぼそりと「こんな雪じゃ、あの火は消えねえよ」とつぶやいた。  確かに雪は段々激しくなって、周囲の気温がちょっと下がる程。けど、火は消えそうにも無い。勿論、それは分かっていて。だから、僕は次の手を打つ。  呪文書から水の呪文を喚起。  引数に、火の呪文と同じく「視線誘導、400、小規模、水柱」と入れて発動。  火球が飛んだ軌道そのままに、白い氷球が飛び、舞台に突き刺さる。  音も無く400本の水柱が立ち、火が消えて、水も残らない。  残ったのは、草木の灰や燃え残り。  予告もなしに突風が吹き荒れ、埃を巻き上げる。  風が収まった後に残ったのは、黒曜石のように磨かれた舞台。 「どうでしょう?」  魂倉、ほとんど空っぽにしてやったんだから、上手く行ってくれよ、と皆さんの方を恐る恐る見て見る。  皆、口をポカーンと開けてびっくりしてる! やった! 上手く行った! と喜んでいると、頭をガツンと叩かれた。見ると、怖い顔のマルコ様。 「やり過ぎだ」  え? やり過ぎ? 駄目だった? 「見た目は派手ですけど、一つ一つの術はそんなに難しくないはずで……」 「イノさんが言ってたことを忘れたか? 『ちょっと使えるところを見たい』だったろう。これは、ちょっとか? ん? 火球か何かを数個で十分だったんだ。……どうもサウルは術のことになると我を忘れるようだな」  どーしよう? とキョロキョロするけど、誰も何も言わない。ロジャーおじさんからは笑いの気配だけで、助けてくれそうに無い。ええと、どーしよう? 「ギャハハハハハ! 馬鹿じゃねーの? 馬鹿じゃねーの? 馬鹿じゃねーの? も一つおまけに、馬鹿じゃねーの? ギャハハハハ!」  響き渡る馬鹿笑い。今一番聞きたくない声だーーーー。  声のした方を見れば、団員の皆さんの後ろに見える三つの人影。うち二つがこっちを指さして笑ってる。一つは当然アラン様。もう一つはハンナ! 「見て見ろクソガキ! 皆どん引きじゃねぇか!  誰がここまで気合い入れるって思うかよ、大学入試の実技だってここまで派手にカマス奴ぁいねぇぞ。  所詮は空気が読めねぇクソガキな!  時と場合に寄りけりってのが分かってねぇ! 所詮俺様には敵わねぇクソガキ様って事だ! ギャハハハハ! ぜーーっぜーーっ」  あ、アラン様息切れした。  団員の皆さんは何となく毒気を抜かれたような様子。息を整えたアラン様に団長のイノセンシオさんがノシノシと近づきつつ声をかける。しゃがれ声で威嚇してるみたいに。 「おお、こりゃ大学の先生様じゃねぇですか」 「おう、団長! 久しぶりじゃねぇか! つーか、いい加減俺様の名前覚えろよな。 それと、それ以上近づくな! お前顔こええんだから、夜中に便所行けなくなったらどーすんだよ!」 「この野郎、ぜってー名前で呼んでやらねぇ」 「なんか言ったか、ハゲ?」  団長がアラン様にズカズカと近づいていって、二人の距離は触れ合うほどに……。二人は鼻先まで触れそうになりつつ「あ?」とか、「やんのか?」とか言い合ってる。  これ、ヤバいんじゃ?  と、セレッサ様が無言でアラン様の頭をはたき、首根っこ掴んで引きずっていった。ハンナが団員の方にぴょこっと頭を下げて、二人の方に付いていく。  アラン様はイノセンシオさんになんか言ってる。イノセンシオさんは得意げに何か言い返す。  やがて訪れるきまずい沈黙。  そこにマルコ様が、咳払いをしながら口を開く。 「……これでサウルの能力については証明できたと思うが」 「お、おう。そうだな」  団長が頷き、なし崩しに訓練が始まった。た、助かったー。  僕は、見習いの子達と一緒に基本の素振り。一番小さい子でも8才だから、僕が最年少なんだけどね。  一番最初の型を、ひたすらに。  真上に振りかぶって振り下ろす。  たったそれだけなんだけど、他の子とは全然違う。  僕の棒切れだけ、描く軌道がガタガタだ。  頭はこうすればいいと分かってるけど、体が動かない。腕はよれるし、足腰も悲鳴を上げる。他の子は移動しながらの素振りでも軸がぶれないけど、僕だけこけそうだ。  僕は同じ年の子の中でも体が小さいし、よく病気もした、らしい。だから、他の見習いの子より早くバテる。今だって、女の子より細いし、あばらも出てるからね。それにしたって。  しばらくすると、僕はちょっと休んでも動けなくなった。他の皆が本格的に体を動かす中、僕だけが看取り稽古。そう、僕は準備だけで体力が尽きていたんだ。  ゆっくりとは動けるけど、全力の訓練は無理っぽくなったので、別の作業をする。  広場の隅に、大きな土の桶を10個作る。土から生やしただけなのでその場からは動かない。中に水。5つは温かい水。5つは冷たい水。温かい水の桶は赤く色を付け、冷たい水の桶には青く色を付ける。  温かい水に僕が持ってきた布を入れてゴシゴシ。綺麗になったところで冷たい水にさらして……。  顔に乗せる。 「あああああああああああ」  気持ちよさに思わず出る声。 「ねぇねぇ、サウルだっけ? なにやってんのさ?」  と、顔に乗せた布をどけると、見習い組最年少で8才のパシリオさんがこっちを見ていた。同じく休憩中みたい。あ、今は僕が最年少か。 「えっと、休憩?」 「そうじゃなくってさ、その桶、なんなの?」 「うん。温かい水と冷たい水が入ってて、これで布を濡らしてから体を拭いたりすると気持ちいいんだ」 「なんで先に温かいのでゴシゴシしてたの?」 「温かい水だと、汚れが落ちやすいの」 「へー」  パシリオさんと将来の夢とか話してると、ぽつりぽつりと人がやってきて桶の事を聞いてくれた。訓練が終わると、皆やってきて大盛況! 桶の中身の交換が大変だったよ。  布用の桶とは別に特大の桶と、使い捨てのコップを人数分。特大桶の中身は良く冷えたお水。これも大好評だった。誰かが、村で唯一の店(雑貨屋兼、食堂兼、宿屋)で酒を冷やして欲しいと言ってたけど、マルコ様に睨まれてた。  訓練が終わった後は、広場を整備するのかと思ったんだけど、そのまま解散かー。まぁいっか。  ちょっと地の術の練習を。ゆっくり、じわっと。きっちり。広場の地面を整える。水たまりになりそうな所を整えて、デコボコを無くして石を砕いて。真ん中の方をちょっと盛り上げて、周りに排水するように。  そのうち、村の中も整地した方が良いかも。排水の経路はどーすればいいのかな?  整備が終わってぼーっとしていると、団長のイノセンシオさんが離れたところに立っていたのに気がついた。 「あ、お疲れ様です団長さん」  スキンヘッドにアイパッチ、傷だらけの団長さんが腕を組んだまま無言で僕を見下ろす。逆光も相まって凄く怖い。  右腕を崩して、親指で今日作った舞台を指す。 「あれは、なかなか良かった。どれくらい持つ?」  しゃがれ声。乱取りにも使ってたもんね。好評で良かった。 「四大術士か、石工の人がメンテナンスすればかなり持ちますよ」 「四大術士に石工か。んでよ、この広場、良い具合じゃねぇか。誰に教わった?」 「誰にって訳じゃ無いんですよ。敢えて言えば前世の知識、ですね」 「鼻垂らして馬鹿みたいに笑うだけだったガキが、こんな口聞くたーな。前世ってのも罪なもんだ」 「ホントです。僕としても、戸惑うばかりで……」 「いや、そういうことじゃねぇんだが。まぁいい。マルコさんから話しは聞いてる。お前今度俺の所の畑手伝え。この四大術ならできることがある」 「はい。出来る事なら手伝います」 「じゃぁよ、明日の朝、お前の自分の仕事が終わったら畑に来い。場所は誰かに聞いてきな」 「……あの、僕、お役に立つでしょうか?」  思わず、口に出てしまった。イノセンシオさんは、僕をじっと見つめて 「ちっと調子に乗るところはあるようだが、術士としてはまぁまぁだ。村としての需用はある。それを活かして、立場を作れるかはお前次第だ。まぁやるだけやってみな」 「……はい」  それが不安だから聞いてみたんだけど。  はぁぁぁ。  仕方ない。  仕方ないね。  その後は夕食の準備まで手伝いが無かったので、農地を見て回ったよ。 【タイトル】 022 村人になる3 夢枕 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2017-08-10 11:57:06(+09:00) 【公開日時】 2017-08-10 11:57:06(+09:00) 【更新日時】 2017-08-10 11:57:06(+09:00) 【文字数】 3,586文字 【本文(110行)】  夜。ふと目が覚めた。  暗闇の筈の部屋なのに、うっすらと天井が見える。トイレかな? と思ったら視線を感じる。視線の方を見ると、青白く光る見知らぬおじさんが立ってた。  幽霊?  魔物?  僕は思わず叫ぼうとするけど、声が出ない! 『ロジャーおじさん! セニオさん!』  呼びかけるけど、応えが無いし、視界の端に見えていた情報が消えている?  起き上がって逃げ出そうとするけど、指一本動かない。  おじさんは動かない。僕は動けない。  沈黙が続き。  僕は多少余裕ができて、おじさんを観察する。  おじさんは大きい。扉と比べると、多分、戦士いやマルコ様と同じくらいの身長かな。でも体つきは全然違うんだ。マルコ様が全身を筋肉で覆われていて、鎧のように固く見えるけど、おじさんは肌が白くぶよんとしてる感じ。赤ちゃんの柔らかさと言うより、カエルのお腹みたいな。  うん。お腹は凄く大きい。樽がお腹に入ってるみたい。多分村で一番太ってる人より太ってる。僕が二人横に並ぶより大きいお腹だと思う。  着てる服は見たことが無い種類の服。でも凄く仕立ての良いのは分かる。綺麗な布地で、模様が付いてる。模様は糸が盛り上がって無くて、色もむらが無い。刺繍をした人は凄く腕が良いんだろうな。ツギも当たってないし。  顔はまん丸。セレッサ様がかけてた、眼鏡? をかけている。顔は村では見かけない感じの顔つきで、頭の毛は薄い。でも、人が良さそうな表情。  怖い感じはしない。  なんだろう、初めて会った感じがしない。  おじさんが一歩前に出てきて、 「すまなかったね。もう話せるよ」 「あ、あなたは?」 「君が前世の人と呼んでる人間だ。名前はスダ・コウタロウ、いや、こちら風に言えばコウタロウ・スダか」  と、首をひねると二重顎がぬるりと動く。 「コウタロウさん、何故、今なんですか? 僕はどうなるんです? あなたが僕になるんですか? 前世の人が今世の魂と入れ替わることがあると聞きました。折角前を向こうと決めたのに!」  僕が叫ぶと、コウタロウさんは、ぐらりと後ずさる。輪郭も一瞬ぶれた気がする。なんだろう、ひょっとしてコウタロウさんは不安定な存在なの?  そう思うと、ちょっと安心した。いざとなれば、何とかなりそう。  気がつけば、体の自由も利くようになってるし。  とりあえず寝床に腰掛ける。  コウタロウさんは、ちょっと縮んだように見えた。さみしそうに笑うと、どこからともなく見たことの無い作りの椅子を取り出して腰掛けた。  暗かったはずの部屋は昼間のように明るくなっている。  でももう不安には思わなかった。 「結論から言えば」  コウタロウさんは、ちょっとだけ縮んだお腹を撫でながら言った。 「私が、君と変わる事は無い。安心しなさい」 「じゃぁ、なんで?」 「今日、君が大きな魔法、いや、術を使っただろう?  あれで休眠状態だった私が目覚めたんだ。そして確認してみれば、本来私の仮面に過ぎないはずだった君が自我を持ち、既に私の魂のほとんどは君の物。私という人格は風前の灯火になっていた、というわけさ。  だったら消えてしまう前に一度くらいは顔を見て、アドバイスの一つでも、と思ったわけなんだ」 「どういう事なんです? 順序立てて教えてください」  何か、深い理由が有りそう。全部聞けるとは思わないけど。 「何故かは言えないが、私はこの世界の偉い神様と知り合いでね。死んだ時に力を与え、転生させる代わりにとある頼まれごとをされた。『世界を巡り、歪みがあれば正して欲しい』とね。  私は剣も術も縁が無い暮らしをしてたから、そんな事は無理だと思ったんだが、色々力をくれると言うし、時の果ての森で修行もさせてくれた。転生の時には色々条件も付けさせてくれるというし。  だから、受け入れたんだ。  もう死んじゃってたんだからね。今更失う物も無かった」  そのコウタロウさんの顔はうつむいていて見えなかった。 「今思えば、ちょっと条件を付けすぎたのかも知れない。メ、いや彼には『失敗はピンゾロのみだから安心して』とは言われたんだけどね。あれがフラグだったかもしれんが。  後はまぁ、私と君の生きる事への執着の差と、家族、だろう。言われるがままに頼みを聞いた私はあまり生きることに執着していない。そして君は家族に支えられてきた。君は覚えてないだろうが、君が2歳の時、風邪で死にかけている。その時、君の姉は同じ風邪で死んでいる」  隅っこにある土まんじゅうのことかな。たまに父と母が、残ったスープを供えていたりするんだ。 「貧しい中、体の弱い君を名付けの儀まで育てたのはなかなかの苦労だったはずだ。その家族の思いが、君の魂を確立したのかも知れない」 「放り出された身としては、あまり実感がわかないですけど」  コウタロウさんは、人の良さそうな顔を苦笑の形にゆがめた。 「まぁそれならそれでもいい。  とにかく、君は残り、私は去る。今回目覚めたのはたまたまだ。恐らく今後は、余程強く外部から干渉を受けなければ私が目覚めることは無いだろうし、君に完全に吸収される可能性も割とある。  君が私の使命を継ぐかどうかは、君の意思次第だ。もし決意したなら、神殿で神に告げなさい。  後、君は神々から注目されている。何かしらの干渉はあるだろう。それにどう対処するかも君が決めなさい。神は気まぐれだ。君に好意的とばかりは言えない。私のことは気にしないで良い。  それと、私のために用意された様々なギフト。これも不要と思えば退けたり譲ったりして良い。技能の封印などは魂倉の管理人が詳しいだろう。  私由来の知識。勝手ながら私と近しい神々で選別した。だから残ったものは気にせず使ってくれ。  最期に」  コウタロウさんは、僕の方に真剣な様子で顔を寄せた。いつの間にか、顔が透けて向こう側が見えている。 「好きに生きなさい。誰に遠慮も要らない。貴族にも、王にも、神々にも。全力で思い切りやりなさい。そして、精々この世界を引っかき回してやると良い」  気がつけば朝。  いつもの時間、いつもの部屋。視界の隅には時間と気温が映ってる。今の僕にはこれが強化現実を模したものだと分かってる。そしてそれに紐付いているコウタロウさんの感情が、人ごとのように流れていく。  ロジャーさんに呼びかけると、応えてくれた。セニオさんも。なので三者間の念話を開始する。  管理人の二人に対する感覚も変わったな。コウタロウさんが《《消えて》》、本格的な人格の統合になったんだと思う。二人とも、何かしら不審に思っているみたいだったので、簡単に告げる。二人は神々の命令? 依頼? で今の立場に居る。ある程度は事情を知っている。知らせないのも不自然だと思う。  ロジャーさんは思案顔。セニオさんは『コウタロウ殿が……』と落胆を隠そうとしない。で、そのセニオさんの様子にロジャーさんが腹を立て、口喧嘩するので、念話を切断する。  二人の気持ちは分からなくは無いけど、僕の見てないところでやって欲しいよ。ほんと。  さて、四拍呼吸を行って、瞑想するよ。僕がどうなってるかを詳しく見て見よう。  ……。  長い間潜っていたので、ちょっとフラフラする。盛大にエーテルが漏れてたみたいで、部屋の中は金色の霧でキラキラしてた。  僕は、僕、コミエ村のサウルで間違いないみたい。コウタロウさんがどこの生まれでどんな人なのか、神様と何故知り合いなのか。僕に分かるようなヒントは残っていない。  様々な知識の断片と、それにまつわるコウタロウさんの記憶が僕の中に《《色付き》》で大量に混ざっていたんだ。コウタロウさんの知識は面白い物も多かったけど、単体では使え無い物が多い。透明なガラスや安くて白い紙なんて、凄い財産になりそうな話は有るんだけど、それに必要な薬剤の調達法がさっぱり分からなかったりする。  術についても、コウタロウさんは凄く沢山知ってたけど。どういう術の構成になってるかなんて話は付いてない。削除されたのか、元から知らなかったのか僕には分からないけど。映像付きだったし、コウタロウさんの憧れのような物もくっついてたから、知らないのじゃ無くて、多分、今の僕には不要な知識なんだろうと思う。  ほんと、たくさんあって面白かった。活かせるかどうかは微妙だけどね。  異質な知識だから、僕とは混ざらないとは思うけど、色が付いてるから混同しないと思う。だから気がつけばコウタロウさんになっている、なんて事は無いはず。  まぁ僕も一生懸命、僕を確固たる者にしないといけないだろうね。  お手伝いの時間にちょっと遅れてしまい、叱られてしまったけど。その分頑張ってみた。闘気法もいつもより調子が良かったし。  アラン様が、目を細めてこっちを見ていたので、挨拶すると、 「おう、クソガキ。なんか有ったか?」  と聞いてくる。意外と鋭い! と思いながら 「夢枕に前世の人が出てきて。僕に頑張れって励ましてくれました」  と告げると、まぁなんか首をひねりながら食堂の方に行ってた。なんか有ったかな? 【タイトル】 023 村人になる4 名も無き草 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2017-08-13 21:47:25(+09:00) 【公開日時】 2017-08-13 21:47:25(+09:00) 【更新日時】 2017-08-13 21:47:25(+09:00) 【文字数】 4,686文字 【本文(159行)】  朝食を終えて、他の手伝いを終えると、僕はイノセンシオ団長の畑に向かう。昨日イノセンシオさんに頼まれたから。  昨日までは不安ばかりだったけど、今はそうでもない。自警団でなんとかなったんだからなんとかなる。それに、僕は5才だよ? そんな多くを望むわけが無いよね。 「「ぷぷぷっ」」  僕に付いてきたアラン様とハンナのわざとらしい笑い声。この人達暇なのかな? 「ハンナはサウルが心配なの」 「そうそう、俺も俺も。スゲー心配。次何やらかすか。見逃したらもったい、いや、いざという時には助け合いだろ?」 「ハンナはサウル助けるよ!」  有り難い声と有り難くない声だなー。 「ほんと、イノセンシオさんと喧嘩しないでくださいよ!」 「ばっか、俺様めっちゃ友好的だっての。正に平和の使者って奴だぜ! ギャハハハ!」  村は30戸ほど。木造の家の大きさはまちまち。家畜は少ない。ほとんどは農民。鍛冶屋が2家族、狩人兼革加工が2家族。雑貨屋兼宿屋兼食堂が1家族。  村の中央には、村長の家と神殿。政治権力と宗教権力でもあるけど、いざという時の避難先でもある。この世界には魔物がいるから。いざとなれば、逃げ込む必要がある。コミエ村は、街から西に延びる開拓村の先端。道の反対には何も無い。村を守るのは神殿戦士団と自警団だけなんだから。  村は直径150mほどのいびつな円形。と言っても、形はいい加減。計って作ったわけじゃ無いと思う。家と家の間はかなりすかすかで、空いている。壁はない。なんとなく土が盛り上がっててそこが家と共有区画の境目になってる感じ。あと、母屋にくっつくように小屋や鶏小屋がある家も多い。  村の周りには、一応木の柵はあるけど、村の全部を囲ってる訳じゃ無いし、全体的に古い。大きな猪がぶつかったら壊れちゃうんじゃないかな。もし、魔物の大発生のようなことが起きたら、神殿にこもるしか無いと思う。  人の家の間を抜けて、柵の無い所から村の外へ。村に道らしい道は一つだけ。街道と真ん中の広場を結ぶものだけなんだ。だから、外に行く時は、適当に人の家の庭を通ったりする。子供の僕が通るのは良いけど、アラン様が通ると皆びっくりする。マント派手だしね。  村の外には畑が広がってる。確か、1km四方以上広がってるとか、ロジャーさんが言ってた。柵が無いので、動物や魔物が来たら大変だ。半分は麦で半分は野菜やら薬草やら。麦畑は、今は冬小麦が穂を付け始めている。こないだ見た農業暦だと6月頭に収穫なのかな?  麦の背は80cm程。僕が1mくらいだから穂先が目の高さよりちょっと低いくらい。麦と麦の間は草ボウボウ。僕も実家では草取り手伝ってるんだけど、手で抜くだけだから追いつかないんだよね。大きく根を張ってると、僕にとっては大木のような物で、どうにもならなかった。だって雑草のくせに根元の大きさだけで直径20cmはあるし。5歳児の僕じゃ無理。今なら四大術使えるし、土と風の術使えばどーにか? いやいや、闘気法で引き抜くのもカッコイイかも。だって、あれ、父も一人じゃ無理だったもの。  畑の雑草を見て、思わずぼーっとしてると、遠くからイノセンシオさんが呼びかけてきた。慌てて小走りすると、背後から二人が付いてくる気配。畑仕事してる人がこっちを見てるのが気になる……。 「でだな」  涼やかな朝の空気の中、ぶっとい腕を組むイノセンシオさんの頭は光り輝いてた。丁度逆光なんだよね。 「畑をどうにかして貰おうと思ってる」 「漠然とした指示で動けるかよ、馬鹿じゃねーの?」 「うるせー、外野は黙ってろ! マントのストライプがチカチカするんだよ!」  さっきからこの調子で話が進まないので、どーにかしてほしい。 「あー、そうそう。雑草なんだがな。3年ほど前からきつい奴が増えて、手間ばかり増えてる。おまけに収量が予想より減ってる気がするんだ。お前なら術でどうにかならんか?」 「開拓村は、入植直後は普通の倍は獲れて、税金払う10年後くらいには普通になるっていうよな。それより減ってるのか、ハゲ?」 「ハゲはかんけーねーが、2割方減ってるな。これだと来年からの税がやべー」 「あ、だから父は、新しい野菜を?」 「……察しが良いな」  ふーんむ。それなら僕にも関係無い話じゃ無いんだね。村の畑にはびこる雑草が僕の運命を変えた、か。そう思うとただの草がすごく憎たらしく見えてきた。 「雑草は、うねの間のを取れば良いんですか? 後、範囲と期限、利用可能な機材を」 「お前は軍の役人みたいなこと言うのだな。……んーー。そうだな」  イノセンシオさんは背の高さは普通だけど、ごつい。片目は革の眼帯だし。今は鍬を傍らに置いてるけど、どう見ても山賊の親分……。 「草を取るのは、うねの間だけで良い。まずはうちの畑をどうにかしてくれ。期間は、そうだな……」  イノセンシオさんが、思案顔になると、横から 「天才サウル君なら、明日の昼までにできるっしょ!」 「ほう?」 「え? え?」  歪んだ形だからはっきりとは分からないけど、100m四方より大きいよ、この畑? そこに生えた質の悪い雑草を5才の子供が1日? ちょっと無理じゃ無い?  雑草って、手で抜くのは凄く大変。根を張った草一本抜くのに1分掛かることもだって当たり前。ベッド一つ分の作業だって結構掛かる。部屋一つ分となったら2時間掛かることも。  正攻法じゃ無理だね……。あー、でも待てよ。コウタロウさんの知識を借りれば……。 『遠慮無く借りちまいましょうぜ、坊っちゃん』  珍しく、ロジャーさんからの発言。 『……そうだね』  草は何故抜けないのか。根が問題。根が、地面に絡んでるから。根元を切っても一部残ればそこから生える事も有るらしい。だからなるべく根っ子ごと抜きたい。  鋤で掘り起こす? 僕の体力じゃ無理。草は直ぐ出てくる。その度に掘り起こすのは大人でも無理。  あー、でも。草が、地面から簡単に剥がれたら良いんだよね。それなら……。 「術を使うのは有りです?」 「良いよな、ハゲ?」 「ハゲ言うな、赤マント。術か、構わんよ」 「後、道具を作りたいので、村の外、森に行く許可をください。保護者は、そこの天才赤マント様が」 「くっそ、言うじゃねぇかクソガキ」 「あはははは、赤マント、赤マント!」  ハンナがミミズを両手に持ってはしゃいでる。何やってんだ、この子は。普通、女の子はこういうの苦手なんじゃないの? 「あぁ、分かった。村長に話してくる。ちょっと待ってろ」  コミエ村の様な辺境は、森に行くのも命がけ。勝手に行くと困るので、許可制になってる。まぁ、一声かけといてね、って感じみたいだけどね。申請する時に、情報交換もするみたい。  イノセンシオさんが、村長さんのところに行ってる間に、ちょっと実験。  畑の端っこに生えている背の低い木から、割とまっすぐの枝をもらう。鋭い針が付いてて痛い奴なんだけど、闘気法で無視。ポキポキ針を折って針はポケットに。持ちやすくした枝を持って元の場所に。  枝を両手で地面に突き刺そうとするけど固い。まぁ5才の力だし、仕方ない。 「何やってんだ?」 「前世の人の知識を使った実験です。これが上手く行くと楽なんですけど」  四大術を一つ作る。僕の知ってる理論と知識じゃ足りないので、コウタロウさんのを借りる。魂倉の中に作った部屋。その中央に安置された大きな本にページが追加される。調整入るかも知れないけど、多分大丈夫。引数を調整すれば良いはず。 「初めての術を使いますので、大丈夫だと思いますが、ちょっと離れててください」  術の名前は考えてない。ホントは考えて置いた方が安定するんだけど。なのでイメージのみで発動。  そっと地面に当てる、と。  地面が爆発した?! 大きな石に大きな石をぶつけたような大きな音にすごい土煙! 息ができないよ! 「うわっ! なんじゃこりゃ?!」 「うはっ、ぺっぺっ」  口の中が土まみれ。目にも砂が入って痛いし、辛い。水を術で出して顔を洗ってから、棒を当てたところを見ると、地面がすり鉢状に凹んでる。棒も先端がちぎれ飛んでるし。畑だから良かったけど、石が混じってたら怪我してる。土がぶつかっただけなのに、足がすごく痛い。 「おーい、何か有ったか?」  隣の畑の人が声をかけてくれるけど、術の実験してたら爆発したって言ったら怒るよね……。 「あー、すまんすまん! 蜘蛛がいきなり顔にくっついたもんで、ぶっ放しちまった!」 「おいおい! せんせー勘弁してくだせーよ!」 「わりーわりー!」  アラン様、フォロー有り難うございます。赤マントとか言って御免なさい。だから、ニヤニヤ顔で『貸しだからな』って言うの止めてください。 「……ええと、もっと低い出力から試してみますね」  術の継続時間を5秒間にセットして、他の引数を調整しながら固い地面を探して棒を突き立てる。  爆発はしなかったけど、思った効果が出ない。20回ほど調整して試したところで、見えた。引数は少ないので、推測しやすかったのもある。 「今度こそ……」 「今度こそ頼むぜ、クソガキ」 「サウル、頼むぜー!」  引数を調整した術が棒の先端で発動する。棒の先がゆらりと揺れたように見える。  棒を地面に突き刺すと、あっけなく地面に刺さっていく。よし! 第一段階成功! そこで術が切れたので、棒を抜く。 「おい、クソガキ。なんか、棒を刺した周りの土がもっこりしてるな」 「あ、ふかふかだぁ! わーい」  確かに棒を刺した穴の周辺10cmくらいが盛り上がってふかふかになっていた。ハンナはその柔らかくなった土を握りしめて団子を作り始めた。ミミズおにぎり、らしい。ハンナって結構野性的だよね……。 「天才であるアラン様はもうお分かりかと思いますが、棒に風に関係する術をまとわせてます。それを利用して草を取ろうという考えです」 「それは分かるんだがよ、術の元イメージはどーなってんのよ?」 「え? それ、5才の僕に聞くんです?」 「うっ」 「さっきの貸し一つでいいです」 「くそっ。まぁいいや。で?」 「あれは振動、物が震える|様《さま》です」 「震えるだけで、こんな風になるのか……」  アラン様、ちょっとびっくりしてるみたい。 「大きい話しをすれば、地震だって大地が震えるから起きるのです。小さい方で言えば、強い風が枝を揺らせば音が鳴ります。その音も振動です」  そこからしばらく何故振動で地面がこんな風になるのか、説明したんだ。霊的センターには様々なイメージがあるけど、それを使うには、自分の中で納得が無いといけないんだ。確信できないイメージは使いこなせない。だから、どんな術者もイメージの検証が必要なんだ。そのために、術者は良く実験や観察を行うし、仲間内で討論も行う。らしい。  ここまではコウタロウさんの受け売り。  最期に、初歩の分かりやすく納得しやすい実験を伝え終わると、イノセンシオさんが帰ってきた。  革の鎧に。……あれは、食料かな? それと大きな袋。 「良し行くぞ」  あ、イノセンシオさんも来るんですね。  というわけで、僕たち4人は北にある森に向かったんだ。僕の足で歩いて1時間。  お昼を軽く済ませた後に、木の枝やらツタやらを沢山手に入れる。アラン様もイノセンシオ様にもちょっと採取を手伝って貰った。  そして村に急いで戻り、僕は早速道具作りに取り掛かる。  イノセンシオさんとアラン様、ハンナには道具ができたら呼びに行くと伝えておく。  道具作成は、泡倉で行った。僕の手に余る部分がどうしても出てくるので、そこはロジャーさんとセニオさんに手伝って貰った。セニオさんが無言で作業するのはちょっと怖かったけど。  さーて、夕方になったけど出来上がったぞ。実験も上手く行ったし、お披露目だね! 【タイトル】 024 村人になる5 お披露目 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2017-08-17 20:40:31(+09:00) 【公開日時】 2017-08-17 20:40:31(+09:00) 【更新日時】 2017-08-17 20:40:31(+09:00) 【文字数】 4,489文字 【本文(151行)】  時間は16時過ぎ。日没は18時半くらいだから、まだまだ明るい。本当なら僕は夕食の手伝いの時間なんだけど、今日は免除して貰った。空は鉛色の曇天で、雨が降ってきそう。嫌な湿度。気温は妙に高い。  遠くでトビらしき鳥の鳴き声が聞こえて、僕はそっちの方を向くんだけど何も見えなかった。  3人で作った道具の数々を畑の側の道に置く。一人でもって歩くのには難しい量だったので、泡倉から取り出した。もちろん、周囲に人が居ないかどうかロジャーさんに確認して貰っといた。以前、ちょこっと水を運ぶのにズルしてたのがバレてたことがあったし。探索術は習得できていないから仕方がない。技能を得るためのエネルギーも技能取得の可能性もきちんとあるから、そのうちどうにかなると思う。  泡倉から道具を出し終わって、ちょっと試運転をして見る。泡倉の方で問題なかったけど、実地で確認するのは大事。  しばらくすると、人が来たってロジャーさんに言われたので、そっちを見てみたよ。予定より人数が多いような……? 「よー、クソガキ! 観客は多い方が燃えるだろ? 連れてきたぜー!」 「え、あ、まぁそうですね」  来たのは、アラン様、イノセンシオさん、ハンナ、それと神殿の皆様に村長さんもいる。まぁそのうち説明しなきゃって思ってたから良いけど、一言教えて欲しかったなー。 「アランが凄いものを見せてくれると言うから、来てみたんだ。私たちのことは気にしないでも大丈夫だよ」 「そうそう、アタシの事も気にしないで大丈夫。大体、術始めたばかりで大したことできる訳が無いんだし。あ、夕飯は食堂に行くからね。良い物見せてくれたら、肉付けてやるよ」  と、神官のセリオ様と奥様のマリ様。うう。村長さん、黙ってみてるし。目が怖い。あぁ、もう。肉が付くし! 頑張る! 「ええと、作ってきたのは草を楽に取る道具です」  まず見せたのは、1.5m程の長い木の棒。先には、一辺20cm程の三角形の板が付いてる。これも木製だ。普通は三角形の部分は金属製でもっと小さい。柄も20cmくらいが普通なんだそうだ。草かきと言う道具。  アラン様とマリ様だけが落胆せずに見ているが、木製と言うこともあり、皆さん、力が抜けているみたい。まぁしょうがないよね。 「これを手に持って『草取り実行』と言うと」 「あっ」 「術理具?」 「全部木じゃねぇのか?」 「魂倉はどこだ?」 「森から帰ってきて、ほんのちょっとしかたってねぇのに?!」  お、皆さん驚いてる! やったね!  板の部分が、青く光る。青は風の色だ。今回は移動、通信、音、という部分のイメージから風を使っている。音は割とうるさい。大きなハチの羽音みたいだ。これ、苦手な人いるよね、きっと。 「で、これを地面に押しつけます」  三角形の板の部分が、固い地面にずるっと入り込む。板が入ると、周囲の地面が柔らかくなって盛り上がる。羽音も消えた。  地面に触っただけで潜ると事故が起きそうだったので、力が必要にしてみたんだ。  そして。 「これを引っ張ります。もちろん、僕の素の力です」  木製草かきを引っ張る。  と、僕でも大した力も必要とせず、引きずることができた。固い地面に潜った草かきを5才の僕が闘気法も使わずに引きずるなんて、普通は出来ない。規模は小さいけど、普通はこれは大人数人がかりか、牛を使ってする作業だものね。 「あ、なんで子供があんなことできるんだ?」  とはイノセンシオさん。 「闘気法は使ってないな」 「草かきのところの地面がおかしいぞ」 「おかしいね、アタシは術理具の作り方は教えた覚えはないよ?」  しかも、この草かきだと、柔らかく粒状にした土を上に持ち上げているし、上手く角度を付けているから、草が根ごと浮き上がるようになっているんだ。  周囲10m程を草かきでひっかく。勿論、あのでっかい草もターゲットに入れる。これができないと売りにならない。  直径30cmにもなろうかという大物の草。さすがに一発では抜けないので、周囲を軽くひっかき、最期に下をすくうように引っ張る。さすがにここはちょっと力が必要だった。でも、普通は大人が時間を掛けてする作業。5才の僕が1分もかけずにやる事じゃ無い。  大体草かきをした後、作ってきた竹と木でできたクマデで軽く草を集める。これは普通の道具。  3分もしないうちに、付近の雑草は完全に無くなった。目覚める前の僕なら、この範囲の作業は2時間くらい掛かったと思う。 「こんな感じなんですけど、どうでしょう? 畑の手入れ、楽になると思うんです」 「こ、これがあれば作業が凄く楽になるな……」 「神殿の草抜きが楽に!」 「まーた、地味なもん作りやがって。畑ごと爆発させるとかよー、面白いもん作れや」 「どかーん!」 「ちょっと待ちな、サウル」  一部聞き捨てならない過激な意見が有ったけど、マリ様の鞭のような一言で静まった。 「なんでしょう、マリ様?」 「この術理具。幾らすると思う?」 「もしこれが普通の術理具でしたら、金貨2、3枚」  つまり、20万から30万クレ、ということになる。ちなみに実家の一食の食費は四人で20クレ、一人は5クレ。村の食堂でちゃんとした物を食べると、一人20クレ。僕が前受けた本鑑定は銀貨10枚の1万クレ。実家貧乏……。 「村には術理具を買うような金は無いよ」 「ですがこれ、銀貨5枚でできます」 「いくら木製だからって、それはないよ」 「まず、この草かきは、魔物などの魂倉を使いません。使う人のエーテルを使いますので、そこで安くできます。もちろん、使う人はちょっと疲れやすくなりますけど、訓練でどうにかできると思います。  材料の木材の初期化と回路の焼き付けにも楽にできるコツがあります。秘伝がありますが、誓言を受けてもらえば提供出来ます。  術の回路は高価な金属ではなく、焼き印と青銅、ニカワを使ってます。板の部分は始めから壊れたら交換する前提で簡単に作っています。回路の焼き付け以外は、普通の職人でも作る事が出来るはずです」 「実際作るところを見ないと、分からないけどさ。なんとなく行けそうだね」 「それと、僕、これは売りません。村に無償でお貸しします。いつか改良して色んな所に売りたいので、皆さんに意見を聞きたいんです」 「サウルは感想が欲しい。村は便利な道具が欲しい。それで交換ってことかい?」 「そんな感じです」  最初から欲張ると良くないしね。  そこで村長さんが口を開く。 「しかし、どうせなら普通に耕すのも欲しいもんだが」 「それも用意してます。こちらのでっかい奴です」  背後にある大きなものを指す。見よう見まねで作った|牛《ぎゆう》|鋤《すき》だ。牛で引っ張ると畑を耕すことができる道具。これも全部木でできている。普通なら、牛の力で引っ張れば簡単に壊れる様な作りだけど。一応、地の四大術で強化しているから大丈夫だと思う。 「ほう? これは|牛《ぎゆう》|鋤《すき》か?」 「はい! 見よう見まねの作りなので、ちょっと出来が悪いかも知れませんが。これは牛と作業をする人のエーテルで動きます。畑で上手く行ったら、開墾にも役立つんじゃ無いかと思ってます」 「なるほど、ドミンゴの所も儲かるだろうな」  村長さんがニコニコと笑う。他の皆さんも笑顔だ。実家が牛を使った労役で稼いでるのは皆知ってる。 「まぁいいんじゃないか。考えてたのとはちょっと違ったが」  イノセンシオさんが腕を組んだままにやりと笑う。どうしても山賊の親分にしか見えない。 「ありがとうございます。では、これで?」 「まぁ実際には草を取ってないが、こんだけ良い物貸してもらえればできたも同然だろう」 「よしっ!」  思わず万歳すると、他の皆さんも、なんか大喜びしてくれた。 「よーし、食堂行くぞ! クソガキ、今日はお前のおごりな」 「おごりおごりー!」 「な、なんで僕がおごるんです! 僕お金なんて持ってないですよ!」 「ったく、しょうがねぇガキだな。今日は俺が食わせてやるから、しっかり食えよ! 主に肉食え肉! 痩せすぎなんだよ、お前」  ぶらぶらと皆で村へ歩く。ハンナが軽業師のようにアラン様の肩に上ってた。  道具は神殿戦士団の人達が持ってくれている。  確かに、僕は村の他の子供と比べて痩せすぎみたい。目覚めの日から更に痩せて来た気がする。でも、背は伸びてる感じなんだよね。あれからたった半月しか経ってないはずなのに、前の服がきつくなってしまってるんだ。 「そういえば、確かにサウルは背が伸びた気がしますね。そう思いませんか、マリ?」 「あぁ。アタシもちょっと気になってたところさ。飯はちゃんと食わせてる筈なんだけどね。サウル、隠れて犬でも飼ってないよね?」 「いや、何も飼ってませんよ。でも、なんか最近やたらとお腹が減るんです」 「馬鹿だね。そういうことはちゃんと言わないと。神殿が飯食わせてないとか噂が立ったらどうするんだい」  怒られちゃった。 「あ、すいません」 「サウルのことは分かってないことも多いんだ。私やマリ、他の皆も協力するから遠慮せずに相談するんだよ」 「……はい」  でも話せない事も有るけど。神様関連とか。 「しかしよ、これ雨だよな。収穫どうなるかなぁ。普通に6月入ってからになるかね?」 「気候神様でも土地神様でも良いから、天気予報の神託くれないかね」  イノセンシオさんと村長の会話にセリオ様が混じる。 「さて。この辺りの土地神様はフラム様、らしいよ。復活歴になってから400年、目覚めてたことはないそうだけど」 「しかし、昔は神様達も俺たちみたいな体で地上に降りていたそうだが」 「子供作ったりな。半神様、だっけ? おとぎ話の世界だな」 「すげーエーテル余波が流れてるからよ。目を覚ましてサウルを見にやってきたりしてな! ギャハハハ!」 「……そんな事は無いだろう」  セリオ様、微妙に溜めないでください。僕は不安になってしまいますよ。だって、神殿で女神様の像が僕を凄く見ていたじゃ無いですか……。  微妙に不安に襲われつつ、村の食堂で宴会が始まった。途中からは僕そっちのけだったけど。  でも、久々にエミルやアニタ、後普段余り遊ばなかった子達も一緒に遅くまで食べたり飲んだりしてた。まるで村祭りみたいだったよ。  途中で気が大きくなったアラン様が、払いを全部持つ宣言とかして大変だった。  暇な人、皆来たんじゃ無いかな? それぞれ食べ物、飲み物を持ち寄って楽しそうだった。  アラン様と偵察のテオさんが、僕の草かきを持ってきて、みんなに見せてたよ。調子に乗った二人は、食堂の前の固い地面をあっけなくほぐして、皆をびっくりさせてた。技能を持ってない普通のおじさんや子供もおっかなびっくり使ってた。さすがに技能無しだと僕やアラン様が使うより効果が低かったけど。  あー、あと、やっぱり音が怖いって人居たので、なんか考えなきゃなぁ。  ふと見ると、ちょっと離れたところに実家の皆が居た。兄は他の子達と色々話してた。楽しそうにしててホッとした。両親は、誘ってくれたらしい人としばらく話してたけど、人の輪から離れていった。しばらくするとこっそり帰って行った。  最期にちょっと母と目が合った。声かければ良かったかな。でも、なんて話せば良いか分からなかった。|牛《ぎゆう》|鋤《すき》、喜んでくれると良いな。 【タイトル】 025 珊瑚と真珠 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2017-08-30 16:59:32(+09:00) 【公開日時】 2017-08-30 16:59:32(+09:00) 【更新日時】 2017-08-30 16:59:32(+09:00) 【文字数】 4,601文字 【本文(115行)】  5月15日は雨。昨夜遅くから降ってたみたい。ロジャーさん情報。  しとしと雨で、肌寒い。湿度も高いし気持ち悪い。肌に接した寝床の藁が匂うんだよね。ダニやら何やら居るので、朝はかゆい。何日も噛まれた跡が取れない時もあるし。これ、なんとかならないかな。コウタロウさんの知識によると、寝床の虫が原因で病気になることもあるそうだし。  雨なので訓練は中止。  なので気兼ねなく食事の手伝い。水汲みは井戸が外にあって濡れるので、マリ様が四大術の練習に変更してくれた。水瓶に直接水を生み出す。普通に出すと美味しくないので、かめに残ってた水を見本に。ついでにお風呂にも。四大術を使い始めて数日なのに、生まれる前から使ってた様に馴染んでる。お風呂をお湯にするのは夕方の仕事。  それだけでは訓練にならないということで、竈の火を薪を使わず全部僕の術で行うことに。マリ様が竈の前で作業をするので、僕はちょっと離れたところで制御する必要がある。今回操る竈は2つ。竈の火は単に強弱が有るだけじゃ無くて、料理の状況によって奥の方に持っていったり、手前に持ってきたりしないといけないんだ。マリ様の指示に従ってやっていくのは大変だったよ。片方だけ動かすように指示されたのに、気がつくと、両方動かしてたり。気が緩むと火の勢いが強くなって、スープを焦がしそうになったりね。  どうも気がつくと思い切りやってしまいそうになるのは僕の癖みたい。今後の課題だってマリ様にも言われたよ。  朝食の時に、アラン様達が今日の出発を延期することになった、と告げた。なんかうれしかった。雨が降ってることと、マリ様とセレッサ様の作業が遅れているというのが理由みたい。セレッサ様はとても眠そう。眼鏡がずれてるのを直そうともしない。  セリオ様とマリ様に、泡倉で作業をする許可を取る。当たり前だけど、お昼の手伝いには戻りますので、と伝えておく。そしてロジャーさんに、時間になったら教えて貰うようにしておく。そうじゃないとずっと作業してそうだし。  アラン様とハンナが付いてくると言うことだったので、今日は一人で作業になりそうだね。ロジャーさんもセニオさんも人に姿を見せちゃいけないのだそうだ。とほほ。  早速泡倉に移動することにする。今日は作りたい気分なんだ。アラン様もハンナももちろん付いてきてる。泡倉の方は晴れてた。泡倉は15度、涼しい感じだ。季節は同じくらいだと思うんだけど。設定されてる緯度が違うのかな?  念話でセニオさんに木を切る許可と、広場での作業許可を取る。僕が持ち主だけど、管理者はセニオさんだからね。あまり勝手をしたらセニオさんの立場が無いよね。しかし、屋敷には工房があるらしいんだけど、広場かその周辺にも簡単な作業小屋欲しいなぁ。  今日の予定としては、術理具の材料採取と作成。後、ちょっと昨夜考えついた術理具の試作。草かきは幾つか作っておかないと、多分大変だと思う。それと、収穫の時期が近いからそれに合わせた道具が欲しいな。  僕の作った草かきと|牛《うし》|鋤《すき》は実は正当な術理具じゃ無い。普通、エーテルの取り出し口と術の格納は魔物などから得た魂倉を加工して使ってる。でも、僕はそんなの持ってないので工夫した。  エーテルは使用者から緩やかに取り出すようにしたし、術は道具全体に分散して記述した。普通の術理具より出力は低いし、もろいけど、安く作れる。壊れても部品だけ交換できるようにしたのも自慢のところ。  武器に応用しようとしても難しいと思う。そこも自慢。材料の初期化(いわゆる聖別?)が難しいし、四大術だけじゃなくて闘気法や神術に対する理解も必要。必要な技能レベルはそれほどでも無いのだけど、複数の術を持てる人はまずいないそうなので、理解できている人も余り居ないのだそうだ。  さて、木を取りに行くよ。ハンナはいつも元気だなぁ。なるべくまっすぐな枝が欲しいな。多少なら火と水を使って修正できるけど。足りない物はセニオさんから貰おう。  泡倉の中ならセニオさんも入り口作れるそうなので、そこを通して渡して貰うつもり。それならセニオさんが見られる事は無いもんね。  広場周辺は、誰かの手が入っていて低い位置に枝が無い。なのでちょこっと奥に入る。ただ、気をつけないと管理されてない魔物が居るから危ないとのこと。そうアラン様とハンナに告げると、 「けっ! 俺様を誰だと思ってやがる。天才四大術師アラン・マサース様だぞ? 有象無象の魔物なんざ敵じゃねぇ!」 「ハンナも強いよ! もう4才だし!」  んー、探索術無いけど、気をつけて。駄目なら逃げよう。多分大丈夫。  アラン様が術を使って警戒してくれるとのこと。だけど、その間は動けない。だから僕とハンナだけで作業しなきゃね!  ナラやカエデの良さそうな枝を見つけては切っていく。ハンナの剣と、僕の四大術を併用して沢山切る。持ちきれない荷物は、さっさと元の作業場所に送ってしまう。泡倉だけで使える技だけど便利だなぁ。しかもこれ、『枝だけ』って指定すると葉っぱや付いてた虫が残るんだよ。ほんとすごい。  警戒に当たってくれていたアラン様がびっくりしてた。 「ほんと、クソガキ様はメチャクチャだな。まぁそもそもこの泡倉がおかしいぜ。神々だってこんな規格外なギフト持ってないかもな」 「神様なら持ってるんじゃ無いんです? 世の中広いんですから僕以外にも持ってて隠してる人が居るかも」  アラン様がちょっと真面目な顔で 「あのな、クソガキ。この天才にして古代文明研究家でもある俺に言わせて貰うとよ。神々の中でも大多数を占めてる戦神様や土地神様なんてのは、そんなすげーもんじゃねーんだ。いや確かに力はすげーんだけどよ。  戦神様は戦闘力で言えば一柱で千人の軍人にも匹敵するし、土地神様は担当の地域を幻魔から守護する力は一流だ。でもそれだけなんだよ。理を外すような神ではないんだ。当然こんな泡倉を持ってたという話もねーぜ」 「つまり、僕の泡倉は変わり種なんですね?」 「そーいうこった」  その後僕たちは、古代樹の枝や木の皮、丈夫な蔓などを手に入れて、広場に戻った。足りない動物の皮、布、紐、青銅なんかもある。これは泡倉管理人のセニオさんが届けてくれた物。 「あ、この布可愛い!」  布の中に結構凝った刺繍がされているモノがあったみたい。ハンナが大喜びしてる。 「気に入ったなら上げるよ」 「やったー! サウル大好き! いつかハンナのご主人様になってね!」 「え? う、うん」  でも僕村人だし家来は持てないと思うけど。 「で、この見慣れない布や紐はどっから出てきたんだ?」 「あぁ、あの……。泡倉の住人に届けて貰いました」  嘘は言ってないもんね。 「住人ね……。それ会えるのか?」 「すいません。持ち主にしか姿を見せられない誓言があるそうで」 「ったく、しゃーねーな」  誓言、便利な言い訳で助かるよ、ほんと。  その後、お昼の手伝いをして、お昼を食べて、昼寝もせずに作業開始。明日も雨とは限らないんだから、今日中にどうにかしたいんだ。  まずは素材の初期化。普通の《《モノ》》から術理具に使う素材へと存在の位相を変える処理。この処理の出来で、後の加工の難易度は大きく変わる。  マリ様から見せていただいた教本の処理方法は、ちと手順が多すぎたし、装飾も多かった。手順を複雑にすることで、術者の思い入れは強くなるけど、それも程度問題だと思う。僕はコウタロウさんの知識で無駄な部分や足りてない部分が分かってしまうので、そのまま使うのは嫌だった。だから、今やってる初期化処理は僕のオリジナル、かな。コウタロウさんの知識に僕の思い入れを混ぜたもの、か。 「お、また変わった初期化処理だな」  僕が初期化処理に使う術理円は単純な円形と三角形の組み合わせ。教本には神々への賛辞や幻魔払い、昔の王様を讃える文句なんかも混ざってたけど、僕は全部パス。この辺、飾り立てた難解な古代文字で書かれてて、無駄に初期化処理の難易度を上げていた。  僕が使うのは、四大元素と光と闇の元素記号。それに対応する神々のシジルだけ。あ、シジルというのは神様や王様が持っている特別なサインのこと。それ自体がちょっとした術の力を持っているんだ。  沢山の《《モノ》》を素材に変えるので、中央に術理円を描いて《《モノ》》を置き。周辺に元素記号やシジルを描いていく。 「随分シンプルだな。没薬や捧げ物は使わないのか?」 「そうですね。今回は僕のエーテルを捧げます。慣れない触媒を使っても無駄でしょうし、それに手持ちが無いですよ。僕、何を隠そう一文無しですからね! 銅貨1枚もってないのに触媒なんて無理です!」 「そりゃそうか、無い袖は振れないわな。んじゃ、ちょっくら俺とハンナは海行ってくるぜ! さぼんなよ、クソガキ!」  初期化の儀式を行っていく。  儀式自体は単純だ。術理円を含む場を清浄にして、失敗の要因になるものを取り除く。清浄な場を確保したら、全体に四拍呼吸で作り出した僕のエーテルを馴染ませる。捧げ物、象徴としての生け贄のとなる元素に関するものを作りだして適正な場所に設置する。  そして元素や神々の諸力の召喚。  召喚された力ある存在は、僕の体を通して素材を祝福する。  後は後始末だ。力ある存在に丁寧にお帰り頂き、場の終了を宣言する。残った力を悪用されないように丁寧に始末する。  初期化が終わった古代樹は、黒から白銀に色を変えていた。日の光を反射するのは中々きれいだと思う。  アラン様もハンナもいないし、管理人二人を呼んで作業を手伝ってもらうことにする。  15時を過ぎる辺りで作業終了。湿度は高くないが、温度は30度近い。うっすら汗が出ちゃう。  出来上がったのは、草かきが10個と、棒の先に丸い円盤が付いたものが10個。古代樹の棒と蔦や紐が複雑に絡まったものが5つ。  僕も頑張ったんだけど、やっぱり5才の体だと色々無理。セニオさんには「もっと鍛えて頂かないと困ります」とか言われちゃった。ロジャーさんもセニオさんも、手先が見えないほど作業が早くてびっくりする。  海にアラン様とハンナを迎えに行くと、岩場で貝を拾ってるところだった。今日は美味しい物、食べられそう……。  僕が思わずニコニコしてると、アラン様がやってきて何か渡してきた。  見ると、珊瑚と真珠? 「クソガキ。お前、金持ってないんだろ? この先、お前が何をするにしても金が要るんじゃねぇか? 特に術理具なんて、材料代がすげーしよ。全部、ここに有るモノって訳にもいかねぇだろ?」 「確かにそうですね……」 「これをよ、マリのババアに売って貰え。こんな高価なもん売りさばくには信用が必要だが、マリのババアなら大丈夫だ。あれでも薬の研究なんかじゃ名が通ってたババアだからよ」 「でも、ここのもの売って大丈夫なんでしょうか?」 「一応、俺様とハンナで確認してみたんだけどよ。多分大丈夫じゃねぇかな」 「ハンナも頑張ってみたよ! だいじょぶだよ!」 『セニオさん、海岸にあった珊瑚と真珠を外で売りたいのだけど、良い?』 『はい。ここはサウル様のものですから問題ありません。勿論、以前お話しした注意事項は守って頂きたいところですが』 『ええ、大丈夫です。必ず守ります!』 「じゃぁマリ様に処分をお頼みしてみます」 「おう。明日晴れたら行商人が来るはずだからよ、その時に間に合うようにしなきゃな。じゃ、帰ろうぜ」  その場に入り口を作って帰る。コミエ村は肌寒く、雨はまだ降っていた。 【タイトル】 026 墓標 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2017-10-08 10:50:08(+09:00) 【公開日時】 2017-10-08 10:50:08(+09:00) 【更新日時】 2017-10-08 10:50:08(+09:00) 【文字数】 3,334文字 【本文(90行)】  泡倉から戻った僕は、すぐにお手伝い。朝と同じ、いやそれ以上に忙しい。  あ、術理具は、セニオさんに預けてきたよ。僕の部屋に置いておくと、持ち歩くのが面倒なので。セニオさんはちょっと嫌な顔してたけどね。  今日はちょっと涼しすぎるので、温かいものが中心。貝が入った汁にとろみが付いてすごく美味しかった。もう実家のご飯には戻れない気がする。  それと、今日はお代わりを5回しちゃった。お腹いっぱい食べなさいというご命令だったので仕方ないんだけど。アラン様より食べちゃったので、皆さんびっくりしてた。  明日からは大人用の食器を使うことになっちゃったよ。僕の食器は実家から持ってきた物だけだったから、神殿にある予備の物になるみたい。僕のような立場の子に食器を分けるというのは通常無い事のようで、普段しきたりに五月蠅くないアラン様もかなり気にしてた。  夕食の後、僕はマリ様の作業部屋に向かい、アラン様から勧められた事を相談してみた。確かにお金は必要だと思う。僕は神殿預かりの孤児。三食と寝る場所以上に必要な事は自力で何とかした方が良いはず。ご飯も大人以上に食べるようになってしまったし。  するとマリ様は、僕を連れて夫であり神官のセリオ様のお部屋へと向かう。時刻は19時、外はうっすら物が見えるけど、廊下は真っ暗。でも、僕らの周りは白々と明るい。四大術士であるマリ様が手のひらに灯りを灯しているから。 「ふむ。自分でもお金を出したい、というのだね。大人の好意に甘えなさい、と言いたいところだけど、正直助かるね。この神殿は、半分私の私費で運営してるようなものですしね」  セリオ様は、口の片方だけをつり上げて苦笑いされた。上品に整った顔でする苦笑いはすごくカッコイイ。  目の前には、僕がマリ様にお渡しした珊瑚と真珠。  珊瑚は、真っ赤な色で大きさは30cmほど。綺麗に3つに枝分かれしているんだけど、どれくらいの値段になるのかは分からない。真珠の大きさは直径1cmくらい。乳白色でちょっと光ってる。 「ねぇ、マリ。私はあまりこういう物の値段には詳しくないんだけど、これどれくらいすると思う?」 「そうだね。珊瑚は根こそぎ指輪と触媒に変えたとして金貨1、2枚かねぇ。でも、この珊瑚はかなり品が良いからね。うまくすりゃ金貨5枚になるんじゃないかね」  金貨5枚。50万クレ。凄い金額だなぁ、と、思った。  僕が実家で食べてたご飯は1食50クレだった。つまり1万倍。1万食と考えると、ええと。 『大体28年、ってところですぜ、坊っちゃん』  と、ロジャーさんが助けてくれる。後、1、2個適当なものを売ったら、一生ゆっくりできそう……。ちょっとだけそう思った。 「足りないね、マリ」 「まったくだね。銀や鋼鉄、ミスリル、魂倉に本。触媒だってたっぷり欲しい」 「それに、だ。サウルの術理具がばれたら、面倒な奴らも寄ってくる」 「確実にバレるだろうさ。賭けたって良い」  お二人とも何言ってるんだろう? 「鼻薬も欲しいやね」 「鼻薬ってなんですか?」 「そうさね、5才の子供に話すのは早い気もするけど」 「まぁサウルなら飲み込めると思う」  その後しばらくお話をしたんだ。色々必要な物を決める。泡倉を探査したりセニオさんに聞いたりして、計画を修正していく。  色々と決めていったよ。神官のセリオ様も奥様のマリ様もすごく楽しそう。ちょっと悪い顔してた。村長さんも巻き込むんだって。アレハンドロの奴らにひと泡吹かせる、って。  正直、良く分からないところも沢山あるけど。  あ、アレハンドロというのは、この村から5日ほど行ったところにある都市のこと。ここコミエ村はアレハンドロの管理下にあるだってさ。 『まぁ良いんじゃないすかね』  って計画を聞いてたロジャーさんも言ってるし。 『ただの人間にしては、面白いことを考えていますな。私としては協力しても良いかと』  と、セニオさんも言ってるし。なるようになるか、な?  明けて5月16日。今日も雨。昨夜は遅くまで起きていたから自分で起きることが出来なかった。ロジャーさんが起こしてくれなかったら、お手伝い間に合わなかったと思う。危ない危ない。  僕は術理具造りに集中。ロジャーさんセニオさんには色々お願いした。  他の人は色々。雨の中、村長さんの家に色んな人が代わる代わる集まって僕の術理具の使い方を習っていく。ほんとは、雨具の発達してないこの世界で雨の日の外出は基本的に禁止。万が一風邪でも引けば、重症化の可能性は高いんだってさ。神術も薬草もただじゃ無い。助けたくても助けられないことはある。ってロジャーさんが言ってた。  でも、今日はどうしてもそうしなきゃいけないってことで、村長さんとセリオ様、戦士団の人達が協力して人集めをしているんだそうだ。  術理具の感想を聞きたいけど、明日まで我慢。明日は晴れるそうだから、皆さんが使ってる様子も見えるだろうし。  晩ご飯が終わった後、ロジャーさんが話しかけてきた。部屋には僕とロジャーさんの二人だけ。シンプルな僕の部屋には、術理具の灯りが一つ。これも預かりの孤児には過ぎた品らしい。術理具自体は金貨数枚でも、維持には魔物の加工済み魂倉が必要で。それは安くない。 「坊っちゃん、お疲れ様で。ちと、報告とお伺いしたいこととが一個ずつ」 「はい。ロジャーさんもお疲れ様。明日は多分ゆっくりできると思うよ」 「まず一つ報告ですがね。魔物をちょいちょい見かけるようになってきましたぜ。まぁ雑魚ですがね」  ロジャーさんやセニオさんの雑魚認定は当てにならないと思う。だって戦士長のマルコ様のことだって評価が高くないんだもの。 「んっと。どんな魔物なの?」 「あっしが確認したのは、コボルト、ゴブリン、狼ですな」 「……んーと、それぞれどんな魔物? 確認したいな」  僕の知識は、ほとんどがコウタロウさん由来だけど。なんかちょっとずれている気がするからね。新しい術理具も、きっと誰か作ってると思ったし。 「コボルトってーのは、犬頭の小さい人型の魔物でさ。いっちょ前に魂倉を持ってやすがね、大人が棒を持っていれば簡単に追い払えまさぁ。数が増えると面倒ですがね。こいつが50くらいの群れが一つ」 「……」 「ゴブリンは、コボルトより大きいですが、大人の男よりは小さい。潰れたエルフのような耳に猿のような顔してまさ。狼は、こないだ河原で見かけた野犬。あれの倍くらいの体高がありますな。坊っちゃんなら、首筋噛みついたまま山の奥まで走って持って行けるかと」 「うわっ。怖いね。自警団、対応出来るの?」 「余裕でしょう。コボルトの数が多いんで、ちと畑が荒らされる可能性がありますがね」 「僕はどうすれば良いと思う?」 「状況の把握だけで、良いんじゃ無いですかね。坊っちゃんが呼ばれる事も無いと思いますがね」 「分かった。まぁ僕が直接対応することは無いと思うけど、考えておく。で、聞きたいことってなんです?」 「……。小っさい話しなんすがね。あっしの呼び方、何故変わったんで?」  ロジャーさんが、ちょっとだけ間を置いて聞いた。 「……そうだね。意識してなかったよ。だけど、多分、こないだ前世の人、コウタロウさんと話をした結果、だと思う。前世の人は、僕と話して姿を消した。でも、あの人が持っていた物は、消えるどころか僕の深いところにもっと深く結びついた、そんな気がする。それが影響したんじゃないかな」 「あっしらの事もお分かりに?」 「多少、ね。コウタロウさんは多少の知識は残したけど、記憶のほとんどには鍵を掛けてる。なんでそんな事してるのか分からないけど。でも、ロジャーさんやセニオさんが、前世で関わりがあったというのは分かるよ。懐かしい感じがするんだ。あの泡倉もね」  ロジャーさんが僕から目をそらす。黒ずくめで黒髪のおじさんが目をそらす。僕はあの顔を、表情を何度か見たことが有る。  村の共同墓地。空き地に木の棒が立つだけの墓地。その下に死体は無い。遺灰があるだけ。形のある死体は不死者になることがある。なので、切り刻んで別の場所に埋めるか燃やすかする。余程のことが無ければ、燃やすという。セリオ様が司祭の顔をしてそう言ってた。  ロジャーさんは、逸らしていた顔を戻して僕を見る。僕を墓標のように見ていた。 【タイトル】 027 企みの始まり 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2017-11-08 11:28:12(+09:00) 【公開日時】 2017-11-08 11:28:12(+09:00) 【更新日時】 2017-11-09 16:03:05(+09:00) 【文字数】 3,400文字 【本文(75行)】  5月17日。ロジャーさん達が言うように晴れた。  きれいな空に、少し雲がかかる。太陽の光が雲に映って黄金のように見えた。まぁ、黄金の色は前世の知識で知っただけで、今回生まれてからは見たこと無いけどね。  午前5時の気温は10度。  風が少し吹いている。僕の服は薄手でごわごわで。つぎはぎもあって、風が通るんだよね。だから、寒い。でも、さわやかで草の匂いが混ざってて素敵な風。  ロジャーさんの報告によると、待ち人は10時くらいに来るみたい。どんな人たちなのか、村人総出の作戦は上手くいくのか。  みんなの作業が楽になれば、僕の食費が稼げれば、と、思って動いたことがいつの間にやら村全体を巻き込んだ話になっていて、ドキドキする。  神殿の皆さんは何かウキウキそわそわしている。今日、待ち人が来るだろうとは思っていても、確証はないはず。でも、祭りの前みたい。  朝食を終え、ちょっと村の様子を見に行ってみる。  街の側にある入り口。こないだ真っ黒の石舞台を建てた広場周辺では、術理具を持った人達がおっかなびっくり作業していた。  慣れない術理具を操って、草を抜き、細い木を切り倒し。木の根を起こして一所に集めている。  草を抜くのは草かきの術理具。土に先端を埋め込んで土を引っ張るだけで草が地面に浮き上がる。後はそれを熊手やほうきで集めるだけ。木を倒すにはちょっと足りないので、別の術理具を作ってみた。棒の先に回転する板を取り付けた術理具。板には刻み目を付け硬い刃にしている。板は高速回転して木を切り倒す。山に生えている太い木には通じないし、闘気法を十分に使える人の振るう斧にも敵わない。でも、農作業や村の整備には役立つと思う。  僕は様々な術が使えるけど、普通は2つの系統を使えるだけでも《《稀》》。全ての体系の道が開いているとなると、知識の神の神官であるセリオ様にも、四大術者のマリ様もアラン様にも覚えが無いとのこと。  逆に1つも使えない、という人がほとんどなのだそうだ。そういう人でも、霊的センターは存在するし、魂倉もある。だから、無意識に空気中のエーテルを呼吸しているし、体内に蓄積している。ただ、術に至る霊的な道が開けない。  古代文明の頃から様々な試みがされていたそうだけど、《《まもとに使える方法》》は生まれなかったんだって。何があったのか、ちょっと怖いね。  まぁとにかく、僕の術理具は、そういう『《《ほとんどの人達》》』が使えずに持っている体内のエーテルで使えるようにしたもの。色々改良点はあるようだけど、とっかかりにはなる、と思う。  今回の術理具は、そういう『《《ほとんどの人達》》』、特に肉体労働に従事している人にとっては、助かるものだと思う。その辺りは、今日の売り込み次第だけど……。元々は、イノセンシオさんの頼みで作った物だけど、折角なら色んな人に使って欲しい。  集めた草木は、僕が貰う事になっている。ちょっと試したいことがあるので、泡倉に持っていく。今、大量の草木を置くための倉庫をセニオさんとその部下の人達が作っているはず。  そう! 驚きの新事実! セニオさんには部下がいるんだってさ。しかも沢山みたい。具体的な人数は教えてくれなかったけど。屋敷だけじゃ無くて、泡倉の色んな所に住んでいるんだって。確かにあの屋敷を維持するにも人が要るだろうし、巨大な泡倉全体をセニオさん一人で管理できるわけも無く。セニオさんには部下が与えられているのだということ。ちなみに僕には会わせてくれないみたい。もっと僕が力を示さないと駄目なんだとか。  ロジャーさんにしてもセニオさんにしてもそうなんだけど、手伝いをするにはそれなりの制約があるみたい。条件が良く分からないけど。その条件自体も、僕が《《力》》を付けないと教えてくれない、みたい。  色々とギフトを与えたり、管理人を付けたりする割りには変な制約があったりするのはもやもやする。でもその辺りの条件を決めたのは、コウタロウさんとそのお友達の神様みたいで変更はできないみたい。神術を鍛えると、神界と交信できるってセリオ様に聞いたので、頑張ってみようかなぁ。  村の皆が術理具に慣れてきた。途中、エーテル使いすぎてバテてしまった人が何人か居たけど。僕はちょっとコツを教えたりした。最初は僕みたいな子供が本当に術理具を作ったのか疑問に思った人も居たみたいだけど。セリオ様やマリ様、という神殿関係者が僕を尊重してくれる様子を視て、納得いったみたい。  日が高くなって、奥さん達がそろそろ食事の準備をしようかとする頃、ロジャーさんから報告が来た。1km程先に商隊が来たと。  しばらくすると、狩人の格好をした人がやってきて商隊の到着を告げた。僕が、今の僕になってからは正体を見るのは初めてなので、すごくワクワクする。  騎馬に乗った冒険者とおぼしき人が二人。その後に馬車が見えてきた。御者台に人が見える。  道の一番西の端にあるコミエ村。この先には集落は無い。最寄りの村からは徒歩で二日かかるし、滅多に人も来ないので、商隊が来る道も獣道のようなもの。大きな岩や邪魔な木は払われているけど、草はぼうぼうと生えているし、舗装なんてされてない。だから、馬車は人が歩くのと同じか、下手をするともっとゆっくりだった。  僕や神殿のセリオ様やマリ様、それに戦士団の人達はちょっと離れたところから見ている。商隊の歓迎と交渉は村長さんの役目だからだ。村長さんの側には同じ年のエミルや先代の村長、下働きの人達が揃っている。 「おー、これはヘクターさん、わざわざお出迎え有り難うございます。お元気そうで何よりです」 「ははは、丈夫なだけが取り柄でね。シルビオさんも元気そうだ」  村長さんと、シルビオと呼ばれた四十絡みのおじさんが固い握手をする。柔和な表情をしているけど、あれは油断できないな、と、僕の中のコウタロウさんがいう。  シルビオさんの横に若い女性が立った。赤い髪に黒縁の眼鏡。くりっとした目にそばかすが可愛い顔立ち。美人というわけでも無いけど、明るい雰囲気を感じる人だ。着ているのは仕立ての良い服で赤と黒のチェック柄のワンピース。僕は生まれて初めて柄の付いた布地を見たよ。この世界では眼鏡は術理具のことが多いんだってさ。だからその値段はびっくりするくらい高い。おまけに見たことも無い布地の服! あの女性は疑いも無くお金持ち! 「おや、これはロージーちゃん、いや、もうお嬢様かな? 久しぶりだね。王都で勉強していたんじゃ無かったのかい?」 「んふふー、お久しぶりです。ヘクターおじさん。そろそろ母の手伝いをしたいと思って、帰ってきました」 「そうか。ロージーちゃんもそんな年か。月日が経つのは早いものだ」 「ところでヘクターおじさん、幾つか聞きたいことがあるんですけど」  ロージーさんは、眼鏡をくいっとすると周囲を見渡した。周囲の村人も神殿関係者も緊張の面持ち。 「……あのおっきな舞台、どうしたのですか? さっき馬車からも見えてたからシルビオに聞いたけど、前は無かったって。あれ、そんなにすぐできないですよね?」  村長、頑張れ! 「あれは、マリ様の弟子が作ったんですよ。四大術で」 「そうなんですか! お弟子さんって何人くらいいらっしゃるのですか? 一ヶ月で作られたと言うことは、5人くらいです?」  ん? 普通そんなに掛かるかな? ロジャーさんに聞いてみるけど答えてくれなかったので、マリ様に聞いてみる。 「あの石舞台なら、普通そんなもんだろうよ」 「僕、10分で作ったんですけど……」  なんか、悪い予感がする……。  村長さんが口を開いた。得意げに。 「いやいや、一人さ。しかもあっという間に作っちまったんだよ」 「えぇーーーーーーーーーーーーー!!」  ロージーさんが凄い声を上げる。隣のシルビオさんは、ロージーさんの様子に驚いてる様子。 「そ、そんなわけ無いでしょ。あの石舞台、ただの石じゃ無いんですよ? 私の眼鏡には凄い濃度のエーテルが見えてるんですから! あんな濃度の素材をあの量で生み出してたらあっという間に干からびてしまいます! 幾らマリ様のお弟子さんでも無理ですよ!」 「うむ。ロージーちゃんもそう思うわな。それが普通だ」 「そ、そのお弟子さんに会わせてください!」 「いや、その前に村の様子を見て見ないか? 弟子にはその後会わせるから」  ロージーさんとシルビオさんは、村長の様子に何か感じたのか、素直に着いていった。 --- 2017/11/09 探索者→冒険者 【タイトル】 028 場違いな品 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2017-11-15 12:06:48(+09:00) 【公開日時】 2017-11-15 12:06:48(+09:00) 【更新日時】 2017-11-15 12:06:48(+09:00) 【文字数】 3,219文字 【本文(82行)】  村の門に、村長さんと商隊の人達が向かおうとした時、冒険者の一人が声を上げたんだ。それは青い髪をした女性で革鎧を身につけている。剣士だと思う。しかし、《《青髪》》かー。初めて見たよ。 『ねぇ、ロジャーさん。青い髪って初めて見たんだけど、良く見るの?』 『いえ、坊っちゃん。今の世の中には青髪は居ない筈ですぜ。それに、あの女冒険者、あっしには栗色の髪に見えますな』 『分かった。気をつけてみてくれる?』 『分かりやした』  圧縮された時間の中でやり取りを終えると、僕の魂倉からロジャーさんの気配が消える。女冒険者は、黒い石舞台の側で作業している村人の方を指しながら、雇い主である商隊の長、ロージーさんとシルビオさんに呼びかけている。  草刈りの術理具に注目してくれたみたい。助かった。村長さんそこの説明抜きで村に行こうとしてたから。緊張してたのかも。  ふと、背中に物理的な重圧。気がつくとハンナがいつの間にやら寄ってきて、僕の背中によじ登ろうとしてる! 「ハンナ止めてよ! 背丈も変わらないんだから、乗ったら、僕潰れちゃうよ!」 「レディに体重のことをいうのはマナー違反」 「いや、レディは肩車ねだらないと思うよ?」 「良いから乗せる。もしくは撫でろ」 「なんだろう、この理不尽感」  仕方ないので、ハンナの頭を撫でてやると、ハンナはにへーっとご満悦。神殿勢はなんか良い物見たような表情してるけど、なんか僕は納得いかない。  撫でていると、ハンナが、んっ、と顎を上げた。どういう事? 「ここも」  言われるがまま、ハンナのあごの下を掻いてやる。ハンナは目を細め、にんまりする余り歯も見えた。仕舞いには、何故か右腕が上がっていく。さすがに脇の下はかけないよ、レディ......。  石舞台に皆寄っていくので、僕とハンナも付いていく。  周囲の草木が綺麗に刈られているのが分かる。青臭い草の匂い。細木の切り株はまだ樹液が出ていて、切られて時間が経っていないのが分かる。草も木も切り口が普通の鎌や鉈、斧のものではないと直ぐ分かる。  草刈りの術理具はほとんど音も立てず、淡々と草を刈っている。低木は周囲の枝から刈り、後始末をし易くして切り倒す。ある程度の太さなら斧を使うまでも無い。棒の先には円盤が付いていて回転する。円盤は回転数に伴った切断の場を作り出す。回転数は使い手が流し込むエーテルの量で変わる。材質は明るい色の木。ただの木にしか見えない術理具が草木をなぎ倒す様子に商隊の人達は目を見張っている。  術理具がユニット式で低価格だと知ったら驚くだろうな。  ある程度目安が付いたら草かきの術理具で掘り起こし、根を絶つ。整地用の術理具が無いので、今は放置。人力でやるにはちょっと大変なので。近いうちに作る積もり。  エーテルを使いすぎてバテてしまった人は、お茶を飲み休憩したら、瞑想する。  周囲に響くのは、草木が倒れる際の些細な音と、村人達の話し声くらいだ。  石舞台の周辺はすっかり切り開かれていた。  この辺の広場が今朝からの数時間で出来たと説明された商隊の人達は、ポカーンとしてた。この人数で人力なら数日かかるよね。  一応、アラン様達からは僕の術理具が今まで無かったものだと聞かされているけど、コウタロウさんの知識には、もっとすごい物も有るんだよね。僕はそれを真似しただけだし、四大術と闘気法の組み合わせについては、きっと誰かやってたと思ってる。  表沙汰になってないのは何か理由が有るんだろうけど。  村長さんと商隊の人達、そして神殿勢が村の中に向かう。ほんとなら荷下ろしを先にすべき所なんだけど、人足の人も代表の二人も魅入られたように動いていく。  途中、青髪の冒険者のお姉さんがこっちを見た。こちらの奥底までのぞき込むような強い圧力の視線。次の瞬間、髪をいじりながらにこりと微笑む。んー、どこかで……。 「あのお姉さん、知り合い?」  ハンナが聞くけど、知らない人だと思う、と答える。同時にロジャーさんが戻ってきた。 『離れて見る分には、人では無いだろう、としか分かりやせんでした。すんません』 『いや、大丈夫だよ。ありがとうロジャーさん。エルフ、精霊、ハイエルフ、とか?』 『はっきりとは。後で接触を図りやす。ご許可を』 『分かったよ。でも身の安全を最優先にね』  僕は探索術を使えない。特別な眼力も眼鏡も無い。ロジャーさんが分からないなら手は無いなー。  材木を建てただけの門から、一行が村に入る。代わり映えしない村の中を見て安心したような様子を見せる商隊の代表二人。  そこに村の井戸が見えた。水をくみ上げる線の細い女性。水の入った桶は相当に重いんだよね。でも女性は軽々と水をくみ上げて、自分の桶に水を移す。多分、20~30kgは入ると思う桶。女性はひょいと僕たちに挨拶すると、桶を抱え、恥ずかしそうに《《駆け足》》で去って行った。 「ね、シルビオ。この村こんな力持ちいた?」 「お嬢様、私が以前来た時には普通の村でしたが……」  ロージーさんは驚きっぱなしだ。先ほどまで渋い顔をしていたシルビオさんも、目を見開いている。良い感じだ。 「おや、シルビオさんじゃないかね。ロージーお嬢ちゃんも! 久しぶりだねぇ、長生きするもんだ」  声をかけて近づいてきたのは、小柄なお婆さん。ただし、その肩には穀物のたっぷり詰まった袋が載ってる。多分、お婆さん自身より大きいと思う。なかなかのインパクトだねー。それを見た二人は大慌て。 「お婆さん、こないだ来た時には腰を痛めて歩けなくなってたじゃないか、そんな重い物持って!」 「なんのこれしき、マリ様のお弟子さんが良いもの作ってくれたからね。腰も痛くないし、スキップだって出来るようになったんだ。めでたいことだよ」  お婆さんが袋を地面に置いて、体に付けてる物をロージーさんとシルビオさんに見せてくれた。体の要所要所に革と木で出来た輪がはまり、それを革紐が繋いでいる。 「ほれ、この倍力の術理具って奴でな。エーテルがあれば足腰を支えて、暮らしを助けてくれるって術理具さ。力も底上げしてくれる。まぁあたしも薬師の端くれだからね、多少の無理も利くってもんさ」  お婆さんは、腰を痛めて寝込む前はマリ様と一緒に村を支える薬師だったんだってさ。僕は名付けの儀より前のことは余り思い出せないのだけど、お婆さんが調合する様子をじっと見てたのは覚えている。  薬師はエーテルを使った錬金薬も使うから、当然エーテルの扱いにも慣れているよね。 「倍力の術理具……? 古代文明の秘宝の中に似た物があると聞いたことがあるけど。それを術理具で再現した、と言う話は王都でも聞いた事は……。でも確かに眼鏡はその術理具が最近作られた術理具だって言ってるし。どうなってるの……? 世に埋もれてた天才が突然世に出てきたの? ここに有るはずが無い品がここにある。まるでオーパーツのような……」  ロージーさんがちょっと呆然としている。横でベテランのシルビオさんが声をかけているけど、シルビオさんも村の意図を掴みかねているみたい。村長さんとマリ様をしきりに伺っている。  見ているとロージーさんはまだ10代半ば。術理具に興味津々で商人と言うよりは術者みたいだと思った。一方シルビオさんは40代。落ち着いた様子でロージーさんを諫め、こちらの意図を伺おうとしている。ただの自慢とは考えてないみたい。当たり前か。  その後、荷下ろしに商隊と村人の多くで取り掛かっていた。買い物をする人も居る。布地や塩、干物。コミエ村では手に入らないものばかり。こちらから提供出来るものは余り無いみたい。動物や魔物の皮、山菜、薬草。手元に残った穀物を差し出す人もいた。  実家の父が、少量のチーズを出したようだったけど、交渉は失敗だったみたい。売らずに戻ってた。声を荒げる様子に、周りの人はびっくりしてた。  その様子を見て、僕は商隊を離れ、人が見えなくなると泡倉に移った。ハンナが付いてきてくれた。ちょっと嬉しかった。撫でろって五月蠅かったけど。 【タイトル】 029 村と商人1 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2018-01-05 03:55:09(+09:00) 【公開日時】 2018-01-05 03:55:09(+09:00) 【更新日時】 2018-01-05 03:55:09(+09:00) 【文字数】 3,893文字 【本文(117行)】  泡倉に入った僕は、そのまま魂倉の中に入っていく。セニオさん達にも会いたくなかったから。  僕の体の中、おへその下に魂倉はある。色は黒く柔らかい。魔物や動物達から回収した魂倉を加工すると、周囲から自然のエーテルを取り込んで人や術理具が使えるエーテルを放出する「エーテル一次バッテリー」になる。  魂倉を持つ生物は、周囲から生のエーテルを取り込み魂倉で変換して蓄える。そして、術や固有の異能などを使う源泉とする。  魂倉の状態は、気配などに敏感な人だと何となく雰囲気で分かるとか。  でも、魂倉にお話の出来る管理人は居ないらしい。それに魂倉の中に入る事も無いらしい。王都の大学の先生であるアラン様が言ってた。多分本当だと思う。  でも、僕は魂倉の中に入っていく。さっきまでは目を開けて、泡倉の森の中から空を見上げていたはずなのに。今、《《僕の目》》に映るのは暗黒の宇宙だ。大きく口を開けたそれの中に僕は飛び込んで行く。  中に入ると、大きな部屋に居た。神殿の礼拝堂より大きな部屋。多分、一辺が50m以上。壁と床は綺麗な木目の板。天井は高くて見えない。  部屋の四分の一を占めるほどの沢山の書棚に、立派な応接セット。それと一辺が1m以上もある大きなディスプレイ。  別の壁には何か透明なガラスの機材と炉。他にもごちゃごちゃと色んな物がある。  管理人のロジャーさんは、ここを余り整理していなかったみたいだね。  そう、ここは魂倉の中。先日コウタロウさんと会った後、ロジャーさんに魂倉の変化について聞いていたんだ。なので驚かないつもりだったんだけど。 「思ったより変わったね」  広さも、物も。  とりあえず、書棚とディスプレイを見てみよう。本は貴重なんだ。セリオ様とマリ様併せても200冊も持ってない。  それがあの一角には、書棚だけでも100はある。書棚は横は1m、縦は2m程。縦横60cmと神殿の聖書程もある大型本もあれば、今の僕の手のひらほどの小さな本も乱雑に突っ込まれている。溢れた本は床に積み重ねられていて、これも整理整頓されてるよう巣は無い。  知識神の神官であるセリオ様がこの様を見たら怒りの余り叫ぶかも知れないなー。だって、本は凄く高い。セリオ様やマリ様が書いた小さな簡易綴じの薄い本でも高く売れるって仰ってた。それこそ金貨数枚に。  ここには、そんな本が軽く1000冊以上おいてある。勿論ここは魂倉の中で、物理的な世界じゃない。だから多生乱暴に積み重ねられて居ても、湿度や温度、光に気をつけて無くても大丈夫。でも、何となく落ち着かない。  ここにある本は、コウタロウさんの知識と経験なんだって、ロジャーさんが言ってた。それを上手に使うために用意されたのが、応接セットとディスプレイ。  僕は応接セットのソファに座りつぶやく。 「スタートアップ」  途端、「ブォン」と《《懐かしい音》》と共にディスプレイに光が灯る。  《《僕が》》これを使うのは初めてなんだけど、全く戸惑うこともなく使うことが出来る。これもコウタロウさんのお陰、かな? 「……検索。キーワードは重量操作。四大術の属性は非限定。実行」  書棚や床に積まれた本が淡い光を放ち、次の瞬間には僕の目の前に本と書類が置かれていた。事典のような大きな革装丁の本が一冊。表紙のない簡易閉じのメモのようなものが幾つか。  事典にはしおりが付いている。この辺りを見ろと言うことだと思う。  しばらくメモと事典を見て考えをまとめると、僕は応接セットの引き出しから紙と筆記用具を取り出し、メモを取る。  メモは持ち出せないけど、ここに来ればいつでも見直せるし、一度書いた物は記憶に定着しやすい、らしい。  魂倉の部屋から浮かび上がり、泡倉に帰った。魂倉と他は時間の流れが違うみたいなんだよね。魂倉の中では相当長い時間を過ごしたつもりなんだけど、泡倉の森は変わった様子無かったし。確認しようと思って視界の右下に情報を呼び出すけど、分からなかった。  だって、こっちに来た時間覚えてなかったし。  そう思ったらなんか力が抜けてきた。でも、折角思いついた企み、実行しないと面白くないよね。  魂倉の中で思いついた術理具を作り始める。材料は木と土と石。後若干の金属。エーテルバッテリーも幾つか。  二種類、いや、三種類かな。  大きいから皆びっくりすると思う。牛より大きいし。コウタロウさんの知識使いまくったし。多分皆見たこと無いはず。 「おい、クソガキ。ちょっといいか?」 「わわっ!」  僕は思わず声を上げて飛び上がってしまった。そういう反応があるというのは前世知識にあったけど、僕がそうなるとは思わなかった。  声はアラン様。朝から泡倉に入り込んで何やら調べ物とのこと。何か見つけたのかな? 「くはは! クソガキがそういう反応するとホントのガキみたいで笑えるな! ギャハハハ!」  アラン様がひとしきり笑った後、僕は続ける。 「何言ってるんですか、僕は本当に5才ですよ。タブレットにも書いてあるじゃないですか」 「あぁ、その必死な様子が笑えるけど、ちょっと頼みがあってな」  アラン様が僕に頼み?  「なんでしょう? 術理具かなにかですか?」 「いや、この泡倉の岩や土、水や木、色んな物のサンプルが欲しい」 「何に使うのです?」  聞かないといけない気がして、聞いてみた。  アラン様はちょっとひるんだような顔をした。アラン様のこういう表情を見るのは初めてかも。いつも笑うか馬鹿なことしてると思ってたんだけど。 「……俺はアラン様だぞ? クソガキに言う必要があるのか?」 「はい。アラン様にはこの短い間に色々学ばせていただきましたが。でも、僕はこの泡倉の、小世界の主です。皆さんには会わせることが出来ませんが住人もいます。きちんと聞かないといけません」  アラン様がすごく怖い顔をした。実家の父が怒鳴った時より怖い顔。  しばらく前に野良犬と出会ったときは、びびって尻餅付いてしまった僕だけど、今はアラン様の顔を、目をきちんと見ている。  今のアラン様の顔の方がよっぽど怖いのだけど。 「ちっ。これだからクソガキなんだよテメーは。可愛くねぇな。ここはこのアラン様の鋭い眼光にびびって、『わー、なんでも言うこと聞くからゆるしてくださーい』とか言うところじゃねぇか?」 「わー、なんでも言うこと聞くからゆるしてくださーい」 「じゃ! そういうことでな!」 「……そういえば、最近咳き込まれませんね」 「……」 「セレッサ様とマリ様はこの泡倉から持ち出された品で、何やら作られているようですが、思った様な成果が出ていない様子」  一応ね。僕もロジャーさん達からある程度のことは聞いてるから。どういうことか推測くらいはできるけど。やっぱり本人から聞きたいよね。  神殿のマリ様は有名な薬師で四大術士。アラン様お付きのセレッサ様もマリ様と薬品の話で盛り上がっていた様子だから、かなりお詳しいんだろう。  そしてアラン様の咳。最初は風邪か何かかと思ってたけど……。  アラン様は、赤地に黄色のローブをバサッとさせて、ため息をついた。 「……分かった分かった。正直に言う。経緯は省くが、俺様はエーテルがダダ漏れになってる。呼吸器にも異常がある。術の行使などは問題が無いんだが。徐々に体力も無くなりつつあってな。恐らくこのままじゃ半年持たんだろうと見ている。  勿論色々試してみたんだが、はかばかしくなくてな。俺自身は内心諦めていた。実際もうハンナとセレッサの引取先は内々に決めてたくらいでな……。  セレッサがあんなに一生懸命じゃ無かったら、どこかで野垂れ死んでたかも知れねぇ」  いつもの強気で陽気なアラン様は影を潜め、影のある表情をしていた。  僕は、軽い気持ちで触れては成らないところに触れてしまった気がして何も言えない。なんだか泣きたくなってしまったけど、ここで泣くといけないと思って我慢する。 「……おいおい、何涙目になってんだよ、クソガキ。てめーで振っといて。所が、この泡倉に来てから急に調子が良くなって来やがった。こないだ、海で魚や貝を取って食ったろ? あれがまたクソたけー回復薬並みに効きやがる。しかもエーテルの抜けも弱くなった。今まで頑張って薬開発したのは何だったんだ、ってセレッサが嘆いてたな。  しかし、そうなると現金なもんだが、俺様ももうちーっとだけ生きてみたくなってな。そう言ってみたらセレッサがすげー喜んでな。その夜はもう……。っといけね。子供に話すこっちゃねぇな。  そういう訳でここの素材を色々譲って欲しいと頼むことにした訳よ。わりーが、色々分けてくんねーか?  っておい、クソガキ、おめーヒデー面だぞ! ギャハハハハ!」  最期にアラン様はいつものように馬鹿笑いしてしんみりした空気を壊してくれた。  あ、あれ? なんか鼻水が。今の話そんな泣ける要素有った? でもなんか嬉しいような悲しいような。 「……わ、ばがりまじだ(わかりました)。ゐるだげもっでっでぐだざい(要るだけもってってください)。っぐ。えっぐ」  あーもー! なんで涙も鼻水も止まらないの?! うわー恥ずかしい! でも停まらない! 「……あ、あー。ありがとな? ところで、お前、これ何してたんだ?」  アラン様は僕の周りにあるオブジェ群を指さした。  直径150cm、幅200cmの金属と石材の円柱が10個、黒光りしながら転がっている。円の中央には貫通する穴が開いていて、穴の周辺には術式が刻める様になっている。結構な重量のため、若干地面にめり込んでいた。  他にも前世知識が無いと意味が分からないパーツが転がっている。 「……っぐ。え、えっと、目玉商品作ってみようと思って」 「……ほほう。よーし、クソガキ。このアラン様にちょっと説明してみろ」  アラン様の目が輝いた。 【タイトル】 030 村と商人2 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2018-04-22 15:50:43(+09:00) 【公開日時】 2018-04-22 15:50:43(+09:00) 【更新日時】 2018-04-22 15:50:43(+09:00) 【文字数】 3,984文字 【本文(109行)】  僕は何を作ろうとしてたのかアラン様に説明してみることにしたんだ。  初めて大がかりなものを作るんだし、ちょっと自慢したい。アラン様も期待してるみたいだし。 「えっと、道路敷設車、です。ここに有る、大きな円柱二つの上に車体を乗っける感じになるんですけど。御者が運転するだけで、草刈り、地ならし、圧縮、舗装まで完全にやってくれるんです! 確か聞いた話だとここコミエ村から、行商の人達がきたアレハンドロまでは80kmほど。ほんとは5日もかかる場所じゃ無いと思うんです。ちゃんとした道があれば、馬車なら2日、早馬なら1日で着くんじゃ無いですか?」 「ん? そりゃちゃんとした石畳とまでは行かなくとも、ある程度均した道ならそうなるな。つーか。アレハンドロの領主どもはよ、ちったーこっち方面の道の整備もしやがれってんだ。ほとんど獣道みたいな所ばっかりだしよ。あれじゃ馬車は通すだけでも一苦労で、歩く速さが出りゃ御の字だ。  で? どういう具合に道路を作るんだ? 他に何を使う?」 「理論的には、僕が発明した道路敷設車一台動くだけで、完全な道路を作る事が可能なんですよ!」  アラン様驚いたかな? むふっ! 「車両前方から、大出力の草刈り用円盤が突き出て、雑草は元より直径50cmまでの木も排除可能です。前方車輪は、重量増加術式により2tから20tまで可変可能、1分間3万回以上の高速振動、その他術式の組み合わせにより刈り取った草木を巻き込み何も無かったかのように粉砕、混合し、地ならしを行います」 「……お、おう」 「更に!」  僕は叫ぶ! ここが苦労したんだ! 「前輪でかさが減った部分には地属性の構成物を自動感知! そして充填! この地中感知と照準にはかなり苦労しました! 更に後輪では独立式高濃度大出力エーテルリアクターの馬力に物をいわせ、土層の表面から3cmを石化。継続的な道路運用をお約束します! ふんはっ!!」  思わず鼻息が漏れる。  同時に僕はいつの間にか振り上げていた手をビシッと振り下ろし、アラン様を指さしたんだけど、そこに特別意味は無い。コウタロウさんのライブラリによれば、ノリ、という奴らしい。  アラン様は右手でこめかみを揉みながら 「……色々突っ込みたいところはあるんだが。まぁ製造法というか何でそんな高度な知識を……」 「前世知識です」 「製造期間は?」 「何分初めてなことなので、部品製造に10日ほど見込んでます。後、組み立てと調整に10日、という感じです。ただ、テスト法が確立されていないし、何分初めての作品なので、予想確度が高くないのが残念なんですが、そこに今考えてい」 「あー、今はそれで良いとして」  折角、前世知識(コウタロウライブラリ)を利用したテストフレームワークについて話そうとしてたのに。 「で、これ、誰が運用するんだ?」 「え?」  何を当たり前のことを? 「もちろん、これは行商の人達へのプレゼントなので、そこの人なんじゃ無いですか?」 「なるほど。で、お前ならこれどれくらい連続で使える?」 「そうですねー、かなりすごい作りにしたので、大型のエーテルバッテリーを突っ込んでも3時間くらいですね。まぁ僕が直接エーテルを供給すれば、倍は持つと思いますけど?」  アラン様、何聞いてるんだろう? 僕の道路敷設車初号機、パヴィ君は最強ですよ? 「まず一つ。ロージーとシルビオ達、行商人がここを立ってアレハンドロに戻るのは明後日だ。プレゼントするには間に合わねぇよ、馬鹿。  それとな。普通の人足はクソガキの1割もエーテルを魂倉にため込めねぇ。お前に匹敵するようなエーテル容量のある術者を雇うくらいなら、人足を100人雇って人力で工事した方がマシだ。  後な、あんなデカ物、どうやってアレハンドロまで持っていくよ? この泡倉に隠したままか? 道路作りながらか? いつあっちに着くか分かったもんじゃねぇ」 「え? つまり、この僕のパヴィ君は?」 「無駄とまでは言えねぇが、今回は使えねぇな。ったく期待して損したぜ。ま、お前もまだまだ経験不足のガキってこったな! ギャハハハハ!  それによ、お前、こんな出鱈目な出力の術使って作る術理具、量産できねぇだろ。それとも国中の道路敷設車、お前一人で作るか? ばっかじゃねーの? ギャハハハハ!」  アラン様、凄く楽しそうに笑ってる。くっそう。でも、ほんと、咳出なくなったなー。ずっと元気で居て欲しいな、って思う。知り合ってまだそんなに経ってないけど、なんか好きなんだ。  それから、パヴィ君の他に作ろうと思っていた術理具のアイディアをアラン様に話し、幾つか一緒に作って貰った。  そうして、思ったのは、僕のやり方はまだまだってこと。  ギフトとコウタロウライブラリがあるから皆が驚くような事も出来るけど、それを形にするとなると無理、無駄、未熟。どうすれば良いかな……。  術理具を作って、後、幾つか泡倉で見つけた珊瑚やら珍しい石を直ぐ取り出せるようにして。僕は泡倉からコミエ村に戻った。  勝手に泡倉に籠もってたことを神殿の皆さんに叱られて。ついでに村の様子を聞き、お手伝いをして、と、慌ただしく過ごすうちに僕はセリオ様に呼ばれてセリオ様のお部屋に向かった。  ノックする。 「サウルです。お呼びでしょうか?」 「あぁ、サウル。はいって」  セリオ様の応えを待ってドアを開ける。いつも通りの執務室にいつも通りじゃない人達が居る。村長さん、ロージーさんとシルビオさんの商隊の二人、アラン様、セリオ様に奥様だ。 さすがにこの人数だと狭い。椅子も食堂から持ってきた幾つかある。すでに長いこと話し合いをしていたような疲労した空気。皆さん、それぞれ違う意図の目をしている。 「さて、サウル。そこに座って」  セリオ様に示された椅子に腰掛ける。大人用だけど、なんとか乗り込む。すると右手に影。ハンナだ。あれ? 居なかった気がするんだけど。まぁいいか。 「さて」  口火を切ったのは村長さん。僕をチラリと見てから 「サウルも来たようだし、現状を再確認だ。まず、コミエ村の税軽減措置期間がもうすぐ終わる。もう一つ。王城から押しつけられた開拓も行き詰まったままだ。ただでさえ資金不足だというのに、このままでは村は解散だな。そうなったら神殿はともかく我々はどうなるか分からん」 「ええと、すいません。村が解散とはどういうことでしょう?」  村長さんが凍り付く。まさか5才の僕がいきなり質問するとは思わなかったのかな? 「そうだな……」 「私が簡単に説明しましょう」  セリオ様が後を引取った。 「先代の村長さんと私は政争に負けて王都を追い出されました。本当は処刑の筈でしたが様々な要因が絡んで生き延びました。代わりにここに村を作り、開拓することを命じられたのですよ。  村人のほとんどは私たちの部下だったり身内です。後はすねに傷を持っていたり、詮索されたくない事情を持つ人達。サウルのご両親は後者ですね。ここまでは良いかな?」 「……分かりました。しかし解散というには条件が不足している気がしますね?」  僕が疑問を呈すると、村長さんやロージーさんとシルビオさんがびっくりしている。まぁこないだまでただのはなたれ小僧だったのだし、びっくりするよね。 「ここを開拓するに当たり、一つ条件がありました。開拓村は、開村から10年間、税の軽減措置があります。これが今年終わります。そして来年3倍の税を払う事になっています。もちろんここの産物だけでです。私やマリの力では駄目ですし、自警団を傭兵として出すことも禁じられています。そして、現在、通常の税を払う事は可能ですが、蓄えを使っても3倍は難しいでしょう」 「そこで僕、と言うわけですね」 「そうです。しかし、幾らこれまでの規格外を見たとは言え5才の子供をあてにするのは抵抗があります」 「このクソガキは確かに才能はあるが、まだガキだ。どこかでポカをするかもしれねぇ。見込みが甘いところもある。俺様はやっぱり反対だ」  ロージーさんが眼鏡をすちゃっとした。なんかキラーンと光った気がして、僕の中のコウタロウさんが大喜びしてる。 「アラン師。村で見た倍力の術理具にしても、さっき見せて貰ったマッサージ棒にしても、とんでもない価値があると思います。これをわずか5才の子が数日のうちに作ったというのは恐るべき事だと思います。  王都や一部の神殿勢力に取り上げられないように、我々の力を強めて保護すべきではないです?」  あぁ、マッサージ棒は、さっき泡倉で作った一つ。振動を使って全身をマッサージする術理具。神術ではままならない疲労感や凝りを簡単に癒せるんだ。神殿の皆さんも試用ということで暇さえ有れば使ってた。  むむっ、と、にらみ合うロージーさんとアラン様。そこで村長さんが 「まぁそこは繰り返さなくても良いだろう。コミエ村のヘクターの村長として決定するぞ。サウルを中心に様々な術理具を作って売って来年春の納税に備える。  作り手がサウル一人では無理があるだろうから、ロージー達バスカヴィル商会と大学の教授であるアラン様の伝手を借りて術理具職人を集める。サウルはしばらくアレハンドロに住んで、村以外の世間を見てこい。王都に比べれば小さいが、あれでも人口5千の大都市だ。色んな物を見て常識を養え」  んー、僕の意思は? って思ったけど、良く考えれば神殿付の預かり子。決定されれば従うしかないね。別にいやというわけじゃないんだけど。  そこからは実際の行動計画になった。  村長さんは村に残るけど、僕は当然行くとして、アラン様一行にセリオ様、戦士団の誰かも一緒みたい。アラン様一行は、アレハンドロまでは一緒だけど、そこで別れるみたい。大学に帰らないといけないんだってさ。  護衛は足りるのか? と言う話になったんだけど、ゴブリンの集団が来ているという話が出た。自警団から人を出すのは止めて代わりに神殿戦士団から二人人を出す事になったみたい。 【タイトル】 031 道行きとスカウト1 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2018-04-27 18:26:18(+09:00) 【公開日時】 2018-04-27 18:26:18(+09:00) 【更新日時】 2018-04-27 18:26:18(+09:00) 【文字数】 2,891文字 【本文(70行)】  出発は5月19日。冷たい小雨が降っている朝だった。  昨日は、泡倉でセニオさんとロジャーさんの力を借りながら資材を集めてた。セリオ様やロージーさんに頼まれた物もある。そんな物があるか僕には分からなかったんだけど、アラン様が絶対あると言い切って、場所の推測までしてくれたので何とか分かったんだ。いつの間にかアラン様偵察してたんだ。すごい。泡倉の守り役であるセニオさんも感心してたよ。  僕の視界の端には現在時刻、気温と湿度が表示されている。14度73%。馬車の中に居ても肌寒い。荷台の機密性は高くないし、服も余り良くない。壁際に座っていると、お尻が濡れて気持ち悪い。ハンナは髭の濡れた猫みたいに機嫌が悪くて大変だった。なので僕とハンナは同じ毛布にくるまって暖を取ってたよ。ちょっとは機嫌が良くなって良かった。  冒険者の人達は交代で馬車に入ったり出たりしていた。体力を温存するためみたい。  雨でぬかるんだ道なき道を進むのはとても大変。重い荷物を載せた馬車に荷車は容易に足を取られるし、馬も消耗する。ぬかるみから馬車を出す度に総出で掛からなきゃいけないし、歩いた方が余程早い気がする。四大術、せめて闘気法は使わせて欲しかったけど、セリオ様の許可は出なかったよ。残念。  昼食は煮炊きの出来ない馬車の中。さすがに冷えた食料じゃ元気が出ないということで。僕とアラン様でお湯を出した。皆喜んでくれてたので一安心。  その後は四大術の使える人で馬車の中を温めたり、|温《おん》|石《じやく》(温めた石を布などで包んだもの)を作って外担当の人に渡したり。服や布を乾かしたりね。僕の速乾の術は教えてくださったアラン様より評判が良かったよ。教わってからすぐだったので、アラン様が凄く機嫌悪かった。  もちろん馬も大事にしたよ。体を拭いたり、温めて上げたり。美味しいお水出して上げたり。ただ、僕は四大術しか使っちゃいけなかったんだ。神術で体力回復はできなかったのが残念。だって冒険者の人達は村の人というわけじゃないからね。どこから話が漏れるか分からない。ってセリオ様がこっそり耳打ちしてくださった。  夕方前には、雨も止んでホッと一息。野営できる場所に陣取る。  ここまでで、僕は色々と情報を耳にした。勿論ロジャーさんにも頑張って貰ったけど。冒険者の人達は全部で5人。以前僕が見た騎馬に乗った二人の他に、三人徒歩の人がいたみたい。  気になっている《《青髪》》のお姉さんはフラムさん。冒険者組合の募集で集まった一人。馬に乗れて剣が使え、斥候的な事も出来ることから採用されたそうだ。剣の腕も中々のものだとか。最近アレハンドロに来たばかりの人だそうで、最初は凄く古くさい言葉遣いだったそうだ。なので、どこか良いとこのお嬢さんだったのではないか、と。冒険者のおじさんが言ってた。  そのフラムさんも何度か馬車の中に入ったのだけど。当たり障りのない世間話だけだった。確かに人の居るところで込み入ったことを聞けるわけもないし。  ロジャーさんの見立ても商隊の副長であるシルビオさんも、また降るだろうと予想してた。気をつけて野営の準備。ぬかるんだ地面や布、草、様々な物を乾燥させ、竈を作りテントの設営を手伝う。  溝を掘って排水しやすくしたり、地面を盛り上げたり。ただ、コミエ村よりやりにくい。石舞台を作った時とはほど遠い。なので、自然と最小限の工事。  まぁでも預かり子だから当たり前だよね、と。ハンナと一緒に頑張ったんだ。人足のおじさんや冒険者のおじさん達はびっくりしてた。さすがアラン様の隠し子だ! って。ん? なんか誤解が?  そのアラン様は、ちょっと体調を崩し気味。たき火の側でセレッサさんが薬湯を作り飲ませている。咳は出てない……。でも、今後泡倉の影響が薄くなったら、また薬漬けになってしまうかも。人足の人達と冗談を言い合ったりしてるのが、無理してるみたいでいたたまれない。 『坊っちゃん』 『何か分かった?』 『ええ。そのフラム。恐らく力ある精霊か、下級の神ではないかと思いやす。ただ、この地上に肉体を持った神が居るという話は聞いたことがありやせんな。少なくとも、復活歴が始まってからは』 『そういう人が、このタイミングで僕の目の前に来る。偶然、じゃないですね?』 『でしょうな。で、どうされます?』  ちょっと沈黙。なんでロジャーさんがそういう事を知っているのか、というのはおいておく。  ロジャーさんが決めてくれないかと一瞬期待したんだけど。あぁ、そうか。僕が主人だものね。  さて、今の僕の手札で決めるなら……。 『タイミングが合えば、こちらから話しかけてみましょう』 『合わなければ?』 『向こうから来るのでは?』 『いいんですかい、坊っちゃん?』 『良いも何も……』  ちょっと僕はため息をついた。 『先日、《《目が覚めて》》、まだ19日なんですよ? 事態の動きが急すぎて……。これ以上変数を増やしたくない、というのが僕の率直な思いです』 『変数』 『そうです。変数が増えれば、問題が複雑化し、予想が付かなくなります。これから未知の土地に行くんです。なるべく余計な心配したく有りません』 『わかりやした』  夕食前にまた雨が降り出し、保存食と簡単なスープばかりになってしまった。折角竈作ったのに。パンも保存用ので酸っぱくて硬い。だけど、酢漬けの野菜はちょっと面白い味だったよ。  夕食後、僕は大人達の話し合いに巻き込まれてた。参加者は、セリオ様、アラン様、ロージーさんとシルビオさん。人足頭と冒険者の代表も同席した。会場の馬車の荷台はぎゅーぎゅー。おまけに湿っぽくて臭い。  今日の進行が余りに悪く、雨も降り続けそう。馬の体力も心配。勿論人間も。冒険者や人足は体力仕事とは言え、この状況はきつい。  次の村まで2日の予定だったけど、これでは4日かかるのでは、と。  僕は、アラン様と僕、アラン様の秘書のセレッサさんで手厚く支援すれば。特に僕が頑張れば、と思ったんだけど。どーも話し合いの方向を見ると、今日の支援でも滅多に無いものらしいです。金貨が出ていきそうなレベル、とのこと。  ……ええと、僕の食費、一食5|C《クレ》。金貨は10万C。話し半分で5万Cだったとして。1万食分かー。んーーー、全然分からないや。まぁ僕5才だし。仕方ないよね? 「けほっ。ん、んーー、あーあー。ちょっと良いか?」  あ、アラン様、咳き込んだ。セレッサさん、今居ないけど呼んだ方が良いのかな? 泡倉に連れて行きたい……。なんとか泡倉の物を渡せないかな。 「支援だが、金は要らんからもうちょっとやらせてくれ。このまま出し惜しみしてたら体が持たねぇ。こほっ」 「し、しかしアラン師。そのお体で術を使うのは大変なのでは?」 「そこはそれ、俺の弟子が、自重無くやってくれるはずだ」 「え? ぼ、僕ですか?」  聞いてないよ、と、アラン様を見ると、僕にぐっと親指を立てた。いい顔してる。嬉しそうだなぁ。控えるように言ってたのに。後で訳を聞こうっと。 「え? いいんですか? その子は……」  僕とセリオ様、アラン様の顔をキョロキョロ見るロージーさん。 「アラン様の命とあれば、不肖、コミエ村のサウル。全力を尽くします」  と、僕は答えた。 【タイトル】 032 道行きとスカウト2 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2018-04-28 18:12:55(+09:00) 【公開日時】 2018-04-28 18:12:55(+09:00) 【更新日時】 2018-04-28 18:12:55(+09:00) 【文字数】 3,235文字 【本文(76行)】  翌朝、5月20日。気温5度。天候雨。風有り。  馬車の中は、外に比べれば寒くない。でも臭い。慣れてきたけど、ふとした瞬間に、うっとなっちゃう。だってお風呂に入る習慣、普通はないんだってさ。確かに僕も実家で入った覚えない。神殿、というよりセリオ様が変わってるらしい。マリ様がいてお湯を沸かすのが楽というのもあるんだろうなぁ。ここの所は僕が毎日沸かしてたし。  とりあえず、夜のうちに用意は済ませてあるので僕には余裕がある。  全員が一所に集まるのは難しいので、荷馬車に主だった人だけ集めて説明することになった。泡倉から荷物を取り出していると、馬車の外から馬丁さんの叫び声が聞こえ、続けて入ってきた。 「お、おい、車輪と車軸がえらい事になってるぞ! あ、いや、なってます」  身分が上の人、セリオ様は貴族だし、アラン様も教授様。普段僕は養い子だからと言うことでとがめられないけど、商隊に雇われた人達からすれば、えらい人。自然と口調も改まる。 「どうなってるんだ?」  アラン様が素っ気なく返す。 「車輪ががっつりぶっとくなってまして、表面に模様の付いた鉄が嵌まってまして。んでんで、えーと。車軸と軸受けが新品になってまして、あ、油もなんか見たこと無いのが」 「けほっ。あぁ、なら問題ない。スポークも良く見ろ。材質が変わってるはずだぞ」  アラン様が何事も無かったかのように応えると、馬丁さんが雨の中に飛び出していった。勿論僕の仕業だ。見張りに気づかれず、中で眠ってた人に気づかれずに作業をしたのは、泡倉のセニオさんの部下3人だ。こっそりトイレと偽って泡倉に入り、顔合わせ。そのまま挨拶もそこそこ打ち合わせをして作業開始。  出力は僕より低いと思うけど、静粛性、精密性は上。作業場所に山を張って見てなかったら気づかないと思う。実際気づいた人は居なかったみたい。あ、僕は見てるだけ。  やって貰ったのは、馬車の改造。  車軸と軸受けを新品にして素材を変える。軸受けのベアリングも工作精度を上げた物を。見本は幾つか用意したので後で進呈する予定。サスペンションは変えなかった。知識は有るし、制作も出来るけど。代わりに車輪を環境に合わせて変更。幅を広げ、表面に履かせた鉄板に模様を刻む。立体的に刻んだそれは、グリップ力を増してくれるはず。悪路も進みやすくなった筈なんだ。スポークも木製から合金に。  後、車体には重量軽減の術を刻んでみたんだ。御者席当たりにエーテルバッテリーを置くように導線を仕込み、いざとなれば人力でブーストできるように。  馬丁さんが大騒ぎしてたので、僕とアラン様で落ち着かせる。サンプルも補修機材もあるし、マニュアルもある。え? 字が読めない? ま、まぁ何とかなるでしょ? 街に着くまでにイラストだけのマニュアル作ってみる。  ついでということで、馬丁さんに馬用の雨具と装具を渡す。これらは全部術理具。馬が見慣れぬ物で警戒しないように、元の装具の匂い等も付けてあるんだ。交換を頼むけど、馬丁さんはイヤイヤだ。馬はデリケートだから気持ちは分かる。そこを何とかと頼み込んで作業をしてもらう。人足さんの助けも借りるとするりと着てくれた。一安心だ。 「あ、え、えーとなんか術理具みたいですけど。あ、あの?」 「うん。あれは雨具は中を自然に乾燥してくれるんだ。保温もしてくれる。気持ち悪そうにしてたら教えてください。調整します。それと足元の装具は、不安定な足元が来た時にほんのちょっと助けてくれます。足のマッサージも自動でしてますから、多分楽に歩けるはずです」 「へ? そ、そりゃすげーですね」 「けほっけほっ。クソガキ、ほんと自重してねぇな!」 「ええ。これなら《《お眼鏡に適います》》?」 「お、気づいたか」 「ロージーさん達にもっとアピールしようってことですよね?」 「まぁそういうこった」 「大丈夫。まだありますよ」  朝食はやはり各馬車でバラバラ。メニューが貧弱……。せめてお湯だけは欲しいので、僕が四大術で出す。取りに来て貰うのも悪いので、ちゃっちゃと各所を渡り歩いたよ。  朝食後に主だった人に集まって貰い、説明開始。馬と馬車にやったことを軽く説明する。どっちも彼らの商売道具で財産なので、まずは勝手に触ったことを謝罪する。でも、やれっていったのは僕じゃないので、そこは責任転嫁。  馬車を術理具にしたところで皆さんびっくり。渡したエーテルバッテリーで二度びっくり。ちょっと良い物だったみたい。ちょっと価値観が分からない。ロージーさんに教えて貰おうっと。アラン様もセリオ様も今一世間と違うみたいだし。  後は、と。残りのものの説明をしなきゃね。 「おお、こりゃ楽だ」  人足さん達は大喜び。ブーツ一体型倍力の術理具への感想。足場が悪い時の足首アシスト、姿勢制御補助を中心に行うことで、乱れた足場でもすいすい歩ける。あ、水虫対策で蒸れないのも受けてます。結構面倒な術式だったんだけど。なんかね。コウタロウさんの記憶が絶対やってくれって訴えるから。 「おいおい、これすげーな! 売ってくれ!」  馬車の前方で叫びながら棒を振ってるのは、冒険者のリーダー。  馬上から空色の木の棒を進路上に指し示している。すると、指された場所の草木がざっくり折れていく。空色はヴァーユ、大気の象徴色だ。 「余り多用するとエーテル不足で倒れますよ! あ、あそこに大きな水たまり。……えいっ!」  《《冒険者のフラムさん》》がリーダーに声をかけながら、僕の渡した黄色の棒を水たまりに向ける。すると、水たまりに乾燥した土が出現して埋め立てる。そして、表面が大ざっぱながら平らに。普通なら土と水が落ち着くまで時間が掛かるはずだけど、一瞬で作業は終わった。術理具すごいね。あ、黄色は地のプリティヴィの象徴色ね。 「サウル君だっけ? 凄いね!」 「ありがとうございます。試作品なんで色々不具合も有ると思いますけどよろしくです!」 「農村の子とは思えないねぇ。やっぱりアラン様がお父さんなの?」 「い、いえ、違いますよ!」  フラムさんの視線に何か値踏みをする物を感じてちょっと怖くなる。  ふと視線を幌の中に向けると、丸くなって寝ているハンナの姿。ハンナは湿気が嫌みたいで幌の中でも雨具を被って丸くなっている。時々、顔をくしくしするのが小動物みたいで可愛い。  全員が雨具を装着し、倍力の術理具を付け、道の整備も簡単とはいえ行って。なおかつ複数の馬車全てに改造を行った訳で。これならさすがに進みも早い。ロジャーさんに聞くと、昨日進んだのは一日掛けてほんの数キロだったみたいだけど、今日はほぼノンストップ。進行速度もまるで道を歩くみたい。一回だけ車輪が嵌まったけど、倍力の術理具と重量軽減の術のお陰ですぐ出発できた。  後は、遠くに凄い遠吠えがしたんだけど、ロジャーさんに追い払って貰ったよ。皆、何故逃げたのか分からなくて不思議そうだったけど。  早朝から出発して、お昼頃には最初の村まであと少しの所まで近づいてた。折角だから安全なところで早く休もうと言うことになって、そのまま1時間。村に到着したんだ。  折角なので、村でゆっくりしていこうということになり、テント設営の許可を取ってゆっくりすることになったんだ。  辺境の村とはいえ、柵の中。見張りを立てずに休憩できるのは、冒険者や人足さん達には嬉しい話。開放された集会所で昼間っから酒を飲んでたよ。  僕は、ちょっと疲れたので休憩すると席を外して泡倉へ。  セニオさんと部下の人達に報告をしておいた。セニオさんはともかく部下の人達は大喜びだったので、こっちもうれしくなってきたよ。  大人達は、この村のまとめ役の人達とお話し合いと懇親会みたい。僕にも混ざって欲しい雰囲気だったけど遠慮したよ。さすがに半日以上、ぶっつけ本番の術理具の運用を見守ってたんだから疲れたのは本当だったんだ。  村の子供なんかが近づいてきたけど、構わずお昼寝。起き上がったら空き時間は術理具の調整と改良をして……。ハンナも構わないで居たら、指噛まれたよ。ヒドい! 【タイトル】 033 道行きとスカウト3 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2018-05-03 21:06:25(+09:00) 【公開日時】 2018-05-03 21:06:25(+09:00) 【更新日時】 2018-05-03 21:06:25(+09:00) 【文字数】 3,302文字 【本文(94行)】  コミエ村を出発して4日目。今日の夕方に最後の村。次はアレハンドロに到着の予定。  今は、初日と二日目のヒドい天気が嘘のように晴れてるんだ。朝は肌寒いけど、10時くらいには温かくなってて眠い。僕がうとうとしてると必ずハンナが重なってくる。起きるとちょっと汗ばんでるんだよね。でもハンナに文句言えない。  ぼーっと馬車の荷台から外を見ながら考え事。空には何か大きな鳥が飛んでる。ぴーよぴーよと鳴いてて、猛禽類だと人足の人に教えて貰ったよ。春先によく鳴くんだそう。 「……あ!」  そしたら、ふと閃いちゃった。なんで今まで気づかなかったんだろう? あーもう恥ずかしい。 『ねぇロジャーさん』 『へい。お呼びで?』  何か作業中だったかな? 何か気もそぞろなロジャーさん。ロジャーさんもセニオさんも、持ち場で待ってるだけじゃなくてそれぞれの思惑でも動いてるところ有るよね。 『青髪のフラムさん、コミエ村辺りの土地神様だったり?』 『恐らく。お気づきだとばかり』 『恥ずかしながら……』  と、魂倉の中に居たらしいロジャーさんと話をしていると、そのフラムさんがこっちを見た。うん。さっき僕が声を上げて、そこから虚空を見つめてじっとしてたわけで。そりゃ気にするよね。  狭い馬車の荷台には他の人も居るから、おおっぴらに話をするわけにも行かない。さてどうしよう。  とりあえず、にこっと笑ってみた。フラムさん、なんか動揺してる。面白いのでニコニコしたまま近づいてみた。 「ねぇねぇフラムさん」 「なんだい、坊や?」  ハスキーな声。きつめの目に高い鼻筋。厚ぼったい唇に蓮っ葉な言動。同じ冒険者仲間にも人足の人達にも人気が有る。カッコイイ女性だ。ドレスより男性用の礼服のようなシャープな服、コウタロウライブラリー的には、スーツ? あれが似合いそう。  さて、フラムさんが僕をじっと見つめる。あ、この視線、知ってる。村の神殿で感じたことあるよ。そっか。なら……。 「フラムさんは《《この辺の出身》》?」 「そうだ。長いこと離れてたけど、ついこないだ帰って来れたんだ。《《ある方のお陰》》でな」  そういうと、フラムさんは僕の目をのぞき込む。僕が5才の無垢な子供じゃなかったら顔が赤くなりそうな雰囲気。……じゃなくて、フラムさんが目覚めたのは、僕が関係しているみたいだね。 「そうなんですね。その方はどんな人なんです?」 「ふむ。そうだな。名前は《《ここで》》言うことは出来ないけどよ」  と、荷台を見渡した。 「見た目は可愛らしいんだけど、中身はエグいな。後、あれだ。腹にもう一人くらい飼ってそうだったな」 「へ、へぇ。腹黒ですか? なんか怖いですね」 「いや、んなことないさ。あの方は、自分のことが良く分かってないみたいで色々抜けてるところもあるんだ。見てると面白いぜ?」  バチーンとセクシーなウィンク。なんか僕、口説かれてる気分。あれ? おかしいな。僕がからかうつもりだったのに……。 『……』  ロジャーさんが何か言いたそうにしてるけど……。あ、後で聞くね! 「その方、今はどうされてるのです?」 「さぁてね。どこにいるのやら。案外近くに居るのかも。もしゆっくり話す事があるなら、あたいが居た場所にお連れしたいところさ。あそこじゃあたいは下っ端だったけど、あの方なら……」  土地神、というのは神のヒエラルキーの中では下位にあたる。自分の領域を持たず、守護を任された土地から余り離れることも出来ない。かつて、復活歴の前、神と人の世界が断絶していなかった時代には、年に一度神々の集会が神界で開かれていたと言う。  フラムさんが土地神なのだとしたら、この話には裏の意味が出てくる。  いつか神界に僕を連れて行く。そして神にしたい、ということ。  神官様が近くで聞いてるなら何か感じたかも知れないけど。今はこの荷台に居ない。だから大丈夫。 「その方、そこまでの方なのです?」 「あたいはそう思ってるよ。ところであの魔導具、じゃかなった術理具ってのは全部坊やの創作なのかい?」 「そうですね。ですけど、前世の記憶に似たモノがあったりしたのでそれは真似しました」 「へぇ。あたいは初めて見たよ」  さすがにコウタロウさんの話を深く突っ込まれるのはまずいと思う。全部話してフラムさんの考えも聞いてみたい気がするけど。あの夜、コウタロウさんは『この世界の神と知り合いで』と言ってた。多分特殊な例なんだと思う。ただの古代文明人とは思えない。  少なくとも、今、誤魔化しながら出来る話じゃない、と思う。  ちなみにその後、ロジャーさんにかなりの嫌みを言われたよ。急にあんな話に持っていくなんて聞いてないとか色々。ロジャーさんって、ワルっぽい雰囲気の大人なのに、どこか心配性というかお母さんぽいところある。  夕方、というのは早い時間。大小様々な集落を通った先に大きめの集落、いや町かな? それが見えてきた。アレハンドロに近づくにつれ、集落の密度が上がってきて、人の往来も増えてくる。  コミエ村から出たことの無い僕にとっては大変な人の数。  色んな人が人酔いしてないか、と心配してくれるけど、僕は全然平気だったんだ。何せコウタロウさんの記憶には、たった一つの広場で、十万を軽く超える人々が本を売り買いする催しが有ったんだよ。たった3日の祝祭に数十万の人が集まる様子は圧巻。まるで畑の砂がうごめくようだった。  それに比べればアレハンドロ市街の人口は公称五千。この辺りに広がる衛星集落全てを合わせても数万。今ここに見える人は千人を上回らない。  あれに比べちゃうとね。きっと王都を見ても驚けないと思う。  建物もほとんど平屋で道は土。道に直接敷物を敷いての露店が多い。店を構えてるのは小数。  確かに、コミエ村には商店と言えば宿屋兼雑貨屋しかなかったけど。驚きにはならないんだよね……。  しかし、横に立っているハンナは、何故か大興奮。いや、君、王都から渡ってきたんだし、こんな所沢山見たよね?  馬車は軽やかに進む。沢山の荷物に人を載せているのに、馬は疲れた様子もない。あ、馬に注目する人が居れば気がつくかも。馬には馬用の倍力の術理具が付いてる。だから何か革紐と輪っかがくっついてる。足元には保護具を付けてるし。  馬車全てに重量軽減がされてるし、足回りも改造してる。そうそう。途中でブレーキも付けたんだよ。馬丁さんが操作すると、車輪と地面の間の抵抗がぐっと増して速度を落とすという物。ちなみに車輪の抵抗は個別に操作できるから、カーブも楽々。  馬丁さんが言うには、路面が凍ってる時にちょこっとだけ抵抗を付ければ、滑らずに勧めるんじゃ無いかって言ってた。確かにねー。  そんなわけで、今日の宿の前に、割と速い速度で数台の馬車がやってきた。ブレーキで馬に負荷も掛けずピタッと止まってみせる。馬車のスピードに事故を予想してた野次馬達が、びっくりする。  そりゃそうだよね。馬車は、多少のつっかえ棒は有ってもこういうブレーキは無かったんだから、馬が速度を緩めても、こんな急速に停止できないのが常識。  そこをロージーさんが宣伝を兼ねてやって見せた。注目されるよね。  宿に馬車を預け、部屋を取る間にもロージーさんとシルビオさんが代わる代わる野次馬に馬車の話をしていた。もちろんロージーさん達の「バスカヴィル商会」の宣伝もばっちり。  僕? 僕はその間、大人のお話をニコニコと聞いてたよ。  ん? サボりじゃないよ? 市場調査、うん。いや、ほんとだよ?  お金の感覚とか、全然分かってなかったし。そりゃそうだよね。僕自分で買い物したことも無いんだもの。以前銀貨5枚で術理具作れるって言ったけど、あれ僕の手間賃とかかなり安く見てたみたい。  その夜、僕はちょっと窓から外を見てた。同じ部屋にはセリオ様。見上げる星の海に月が綺麗。あの月のどこかに神界への入り口が有るとか、月こそ神界そのものだとかそんな話が有ったっけ。昔は月は緑色だったそう。でも幻魔との戦いの中でいつの間にか、今の黄色になったとか。  ふと窓の側にフラムさんの気配。でも、本人の姿は見えない。んー? 探索術苦手だから見えないのかな? 『……聞こえるかな?』  恐る恐る、という感じでフラムさんの声なき声が頭の中に直接聞こえてきた。 【タイトル】 034 月夜の対話 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2018-05-05 16:31:10(+09:00) 【公開日時】 2018-05-05 16:31:10(+09:00) 【更新日時】 2018-05-05 16:31:10(+09:00) 【文字数】 3,259文字 【本文(107行)】  月がまぶしい夜。  僕にだけ見える時計は21時を回ったところ。泊まっている宿に併設された酒場から、ざわめきが聞こえる。遠く、聞こえる。 『……聞こえるかな?』  脳裏に響く声。コミエ村からの道行きで聞いた声。そして。あの日、目覚めた日聞こえたのと同じ声。  でも、明らかに違う声。  あの時の声は、人ではなかった。心の無い魂の無い、ガラスのように透明な声だった。それが故に繊細な楽器のようにも聞こえたけど、今は何かを悩み、ためらい、恐れる声。  僕は、自分が緊張するのを感じながら、《《声》》を発する。 『……聞こえます。フラム《《様》》、ですね?』 『そうさ。土地神が一柱、フラム、さ。……ふふ。坊やは緊張しないのかい? あたいは初心な小娘みたいになってるっていうのに』 『とんでもないです。僕もすごく緊張してます。だって、フラム様は本物の神様なんでしょ?』 『馬鹿にされてるわけじゃ無さそうだが、何か拍子抜けだよ。まぁいいさ。確かにあたいは本物さ。驚いたことにね』 『この今の暦。復活歴が始まって425年。全てのヒトが望みながらまだ叶わない望み。神の現身の復活。それがこの僕の目の前に御座す。有り難いことだと思います』  窓から身を乗り出したままで居た僕の前。宿の庭にフラム《《様》》が現れた。ロジャーさんが僕の中で身構える。 『……。あー、もういい。こういうややこしいやり取りはあたいは苦手だ。腹割って話そうじゃ無いか』 『はい』  神秘的な雰囲気が崩れると共に、周囲の音がはっきりとしてくる。気の早い虫の声、夜の鳥の声も聞こえはじめた。 『だいたいよ。この道中見ていたが、お前、全然驚かないじゃないか。あの村から一度だって出たこと無いくせに。  あたいが居るはずの無い神だと分かっても、凪いだ海のように飲み込みやがって。魔導具だって、そうだ。あたいが生きてた時代だって魔導具、いや今は術理具か。あれの開発は数年単位の仕事だった。  それをまるで最初から知ってるように作りやがって』 『……そんな風に見えました? 僕は僕なりに一杯一杯なんですけど』 『見えん』  フラム様にきっぱり言われてちょっと凹む。 『……で、どのようなご用件で? 子供は早く寝たいのです』  フラム様が、じろりと見る。こわい。 『まぁ昼間も話したが、お前、神に成らないか? お前の潜在能力ならあたい以上の神にだってなれる』 『んーー。僕、まだ目覚めてから一月も経ってませんよ? さすがに早すぎるのでは?』 『勿論、今すぐって訳じゃ無いさ。唾付けとくだけの話。お前を神にするにしても、今、あたいは神界と連絡取れないから無理だしな』  あはは、と、フラム様は無邪気に笑った。照れくさそうに笑う顔を月が照らして、中々綺麗で見とれてしまう。 『え? それ大丈夫なんですか?』 『全然駄目だな! どうも界の構造が変わっちまってるようでよ。半覚醒状態では上手く行ってたはずのやり取りが全然駄目だ。信仰の力を集めて、どこかの神殿の奥に入らないといけないみたいだ』 『神であると名乗るのです?』 『さっさとそうしたいのは山々なんだけどさ。もうちょっと何か力を表せるようにならないと、頭のおかしい奴として処分されちまう。今の時代のことも分からない。地図も変わってるし』 『地図、変わってるのですか?』 『あぁ、おおよそ一緒なんだけどな。都市遺跡の場所が転移でもしたみたいに吹っ飛んでる。鉱山なんかもだ。そうそう、アレハンドの近くの山。あれはずいぶん昔に枯れ果てた筈なんだ。それが復活してるし。大体、あたいが眠っちまった時代、鉱物資源の枯渇で色々厳しかったのに』 『……資源が復活している、と。面白いですね』 『全くだ。ただ、飯がまずくなっちまってる。肉は硬いし、調味料は少ないし、塩も砂糖もべらぼう高いし。まぁハーブが美味くなってるのは助かったけど……』  今の時代の飯が如何にまずいか、昔の行きつけの居酒屋が如何に美味かったか延々と愚痴を垂れ流すフラム様。多分、僕が大人だったら酒を出してると思う。  反射的に、コウタロウさんの記憶から幾つか料理を呼び出してみる。コウタロウさんも酒と料理が大好きだったみたいだねー。色々出てくる。焼き鳥? チキン南蛮? 酒盗? レアステーキとわさび? お酒の味も再現されちゃうけど、料理の味は濃すぎるし、お酒は苦かったり変な味。僕はちょっと苦手。 『そういや、お前にずっとくっついてるあの子供、あれ機人じゃないか? 何故居る?』 『ん? ハンナです? あー、そういえば自己紹介の時にそんな話が有ったような……』 『お前、機人だぞ? 騎士と術師からなる一個小隊を一機で相手できる最高級の自動人形だぞ? 流して良い話じゃないだろう。少なくともあたいなら問い詰める』 『ん、んーーー。でもまー。ハンナはハンナですし。保護者ちゃんと居ますし、込み入った事情ありそうですし……。僕が踏み入って良いかどうか……』 『……お前がそう言うなら良いけどよ。機会があれば聞いとけ』 『はぁ』 『やる気ねぇな、まぁいいけどさ。お前の人生だし』  その後は、腹の内の全てを晒すほどでは無いけど、味方だね、ということで意見の一致を見、互いの今後の予定などをすり合わせていった。  なんだろう、神様とお話ししてると言うより、提携先とお仕事の話をしてる気分。  フラム様は僕があまりに成り行き任せなので呆れてたけど、フラム様だってどっこいどっこいだと思う。だって、結局冒険者で頑張って、そのうち神術で目立って神殿に入り込む、以上! だもの。  後、古代文明時の料理を広めるとか。特に出汁については強く主張してた。僕もそれには強く賛成したよ。だって、コウタロウさんの記憶のお吸い物美味しすぎた物。  連絡方法を決めて、そろそろ解散しようかという緩んだ空気の中。  フラム様がポロリと。 『そうそう。コミエ村、まだ加護要る?』 『どういうことです?』  ヤバそうな気配! 僕、眠かったけどシャキッとしてきた! 『あぁ、お前が生まれてからこっち、お前から漏れるエーテルで権能が発現してな。農作物がよく育ったり、井戸の水の質が良くなったりしてるんだ。もうお前がいるから、あたいがやらなくてもいいかな、と思ったんだけど』 『え、いや。しれっと僕を神様にしないで下さいよ。さっき神界と連絡取れないから無理だって言ってたじゃないですか』 『ちっ。ひさびさに守護地を離れて遊びに行けるかと思ったんだがな。なんとかアレハンドロまで守護地を伸ばすか』  しかし、それでも来年の税金大変なんだよね……。 『フラム様、もっと加護を増やすことってできますか?』 『ん? できるけど、どうした?』 『村に事情があるみたいで……』  村の事情を簡単に話してみる。まぁ僕も詳しいことは知らないんだけど。 『んーー。来年いきなり3倍は無理だ。倍には出来る。お前から幾らか貰えば、だが。しかし、お前の体にも負担が掛かるかも知れないな』 『んーーー。こ、これとか役立ちます?』  その時、僕の頭の中に浮かんだのは、アラン様のことだった。泡倉の物品なら高濃度のエーテルが有るから、きっと? 手持ちの物品を一つ、泡倉から取り出し差し出す。 『こりゃ大した物だが。神の権能には、これじゃ駄目なんだ。一度ヒトの思いを通さないとな』 『そうですか……』 『そうしょんぼりするな。あたいが虐めてるみたいじゃないか。そうだな。一日一回以上、あたいか、村のことを考えて祈りを捧げな。捧げる場所は神殿で無くても構わないから。ただ……』  フラム様は、懐から布製の護符を取り出した。古代文字で『豊作祈願』と刺繍されている。 『これを身につけておきなさい。これと祈りがパスを繋げるから。そしたら同じ守護地に居る限り、あたいに力が来るし、あたいもお前と直に話が出来る。冒険者組合を通じた伝言で無しにね』 『ありがとうございます。しかし、これ、貴重な物では?』 『構わんよ。じゃぁ、またな』  フラム様が、現れた時と同じように姿を消し、ついで気配も消える。なんだかとても長い間話してたみたいだけど、念話だからか、それほど経ってない。  でも、とても疲れたよ。僕疲れた。  おやすみ。 【タイトル】 035 三々五々 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2018-05-06 18:03:57(+09:00) 【公開日時】 2018-05-06 18:03:57(+09:00) 【更新日時】 2018-05-07 16:10:48(+09:00) 【文字数】 3,376文字 【本文(126行)】  翌朝は5時起床。神殿よりはゆっくりな時間なんだけど。 「ふぁあぁぁ」 「サウル? 眠れなかった?」  あくびが止まらない僕に話しかけてくれるのは、ハンナ。機人、だっけ。最強の自動人形。訓練の時は僕と変わらない感じだったけど。これからもっと強くなるのかな? 「んー」 「そうか……。ハンナも分かるよ」 「ん? 何が?」  くぁぁぁ。あくびとまらない。 「今日は街に着くから、わくわくする。分かるよ。ハンナも眠い」 「……、うん」  ホントは違うんだけど、ホントのことを言うわけに行かないし。まぁそういうことにしておいた。お陰でアラン様にすごく笑われてしまったよ。それを見てハンナが怒って暴れるし、アラン様は発作を起こすし、それでセレッサさんが怒り出すし。もう大変だったよ……。  馬車の準備を終えて、7時頃には出発。  そんなに急ぐ道行きではないのだそうだけれど、できれば昼頃には着きたいということで、この時間。  朝ご飯は簡素なパンと具だくさんスープ、後、ちょっとだけヨーグルト。ねばっとしたタイプで、僕はちょっとびっくりしたけど、大丈夫だった。村じゃ見たこと無かったけど、ほら。僕には前世があるからね?  で、果物を入れると美味しくなりそう。と感想を話したら、一部のおじさん達がガッカリしていた。僕がびっくりするかどうかで賭をしてたみたい。酷い話だよ。  何も無ければ正午ちょっと過ぎにはアレハンドロ。  どこか皆ウキウキしてる。その雰囲気を感じるのか、馬達も足取りが軽くて、馬車も速い。途中、何度か歩きの旅人や普通の馬車とすれ違ったけど、皆びっくりしてた。多分、暴走馬車の群れに見えたんじゃ無いかな?  フラム様とは、簡単な意見交換を、護符越しにしたけど、それくらい。ちょっと素っ気ないくらい。まぁ何か有ったら直ぐ話せるのだから、今焦った話でもないか。  今日はちょっと暑い。現在気温24度。でも横にはハンナがべったりくっついてる。確かに、アレハンドロでお別れになるけど、くっつきすぎだと思う。暑い。 「そういえば、ハンナ。機人って何か知ってる?」 「知ってる」 「ちょっと聞かせてよ」  というと、顎を、斜めに持ち上げた。そこを撫でろ、と言うことらしい。もう。ついでに、人足の人に貰った乾燥果物をひとかけら、あんぐり開いた口に放り込んであげる。もぐもぐしながら、お風呂にゆったり入ってるみたいに目を閉じてうっとりしてる……。  しばらくそのままにしてると、うっとりと目を閉じたまま、ハンナが口を開いた。 「それは最高を望む召使い。主が月を切れと言えば月を切り。国を滅ぼせと言えば鏖殺する。主が強く望めば、自らを省みること無く全てを叶えようとする召使い。  かつて、古代文明では……」  口を開けたまま止まったので、乾燥果物を放り込んでやる。 「もぐもぐ。んぐ。……ええと、かつて古代文明では、もっとも標準的な機体でさえ、騎士と術師の一個小隊を相手にして勝った、らしい」 「機人、って戦闘用、なの?」  このちょろちょろ動いて昼寝好きなハンナが戦闘だけに血道を上げるのは嫌だな。 「主が望めば如何様にも。女中として過ごした機体も、研究者にも」 「主はどうやって決めるの?」 「今では、機人を製造する事は出来ないし、稼働する機人は無い、らしい。なので記録では、というかアランに聞いた話だと。教育期間が終わった時に、『お披露目』を行い」  顎はもう良いらしいので耳の後ろ。 「機人が主人を選ぶ。ちなみにハンナはサウルが良いと思ってる。懐かしい匂いがするから」 「え、あ、ありがとう?」 「何故疑問系なのか。ハンナは尽くす女」 「どこでそんな言葉覚えたんだ」 「セレッサが」  この状態で尽くす、とか言われてもなー。苦笑が浮かんでしまう。 「おい、クソガキ! アレハンドロの壁が見えてきたぞ」 「あ、ホントだ。結構高さあるんですね」 「8mだったか。落ちたら死ぬな!」  皆の力で予定よりずいぶん早くアレハンドロが見えてきた。正確にはその壁が。  このアガテ王国には幾つか「壁付」と呼ばれる都市がある。このアレハンドロもそう。古代文明期に作られたとおぼしき城壁をそのまま都市の壁として転用しているのだそうだ。これらの都市は、周辺の町の盟主として存在し、いざ魔物の災害などがあればそれらの住民を守り匿う。  ただ、壁の大きさと人口がかみ合わず、守備には苦労してるとも聞いたよ。そこを埋めるのに冒険者組合が食い込んでて、それなりの力関係があるとか。  しかし冒険者と聞くと荒くれ者で字も読めない、みたいなイメージがあるけど。そうでもないのだねー。  検査を受けて、入り口を通り過ぎる。結構並んでて、一組ずつ、何かやり取りしながら進んでたから時間が掛かったよ。一組、衛兵さんに取り押さえられて連れて行かれてた。  お腹空いた。なんか最近お腹やたら減るんだよね。アラン様より食べちゃうし。  服ももう駄目。鑑定結果のタブレットを見ると、この一月で身長10cm近く伸びてるし。そりゃ服もパツパツだよね。  アレハンドロに入ってからはさすがに速度は抑え気味。でも、周りの人がこっちをみる。しばらくすると大きな倉庫が併設された建物に着いた。ここは珍しい二階建てだ。  到着した商隊を、建物の人達が迎える。やっぱりここがバスカヴィル商会なんだね。預かり子としては仕事手伝わねば……。  で、でも何しよう? 「サウル、ちょっとこっちにおいで」  戸惑ってるとセリオ様が呼び寄せてくれた。助かったよ……。  呼ばれた方に行くと、アラン様もロージーさんとシルビオさんも一緒で、一人知らないおばさんがいた。赤毛の恰幅の良いおばさん。太ってると言うよりは骨格が太い感じ? いい顔で笑ってる。  セリオ様も、なんかリラックスした感じで笑ってる。 「コーディ! この子がサウルだよ」 「へぇ、この子がマリ様の秘蔵っ子かい? あたしがコーデリア・バスカヴィル。バスカビル商会の主人さ。当分うちであんたらを預かるよ。ゆっくりして行きな!」  声でかい! 「あ、ええと。コミエ村のサウルです。神殿の預かり子の5才です。何も分からない未熟者ですが、よろしくお願いします」 「あはは! なかなか殊勝じゃないか。まぁよろしく頼むよ」  その後はハンナと周辺をうろつきながら商店や街の様子を観察してた。  ここは比較的良い場所みたい。見えるところに大きな三階建ての屋敷があって。立派な身なりの門番が立ってる。多分、あそこ領主の館じゃ無いかな? 綺麗な鎧の兵士や官僚が行き来してた。  道は広い。幅は10m程もあって、僕たちの馬車が縦列駐車しても大丈夫みたい。歩いてる人の身なりは割と綺麗。護身用の武器を持ってる人も多い。  しかし、兵士の人達って、村の自警団とあまり腕は変わらない、かな?  店の中を見て回る。  沢山の台が有り、サンプルが置かれている。置かれているものは、幅広い。布や食料、武器に鉱石、薬品もある。あ、あの薬品はマリ様のだ。容器に見覚えがある。  そうして店員さんが忙しく立ち回り、お客さんがサンプルを手に店員さんと交渉してた。すごく活気があるなぁ。  あ、術理具もちょっとだけある。灯りの術理具か。ええと、値段は? お、おお。金貨四枚? 40万クレ、かー。確かに装飾とか綺麗だけど……。あっちのちっちゃい送風の術理具は金貨7枚?! うわーうわー。  どうしよう。僕の考えた術理具、安すぎる? 「サウル、ちょっと」  セリオ様が再び僕を呼ぶ。どうもこれから奥でお話し合い、みたい。 「なんでしょう? セリオ様」 「うん。ちょっとお話し合いに時間が掛かりそうなんだ。それに、お昼もまだだろう? 君が懐いてるフラムにお守りを頼んでおいたから、ちょっと暇を潰しておいで」  と、確かに僕の後ろの方にフラム様がいる。 「おう、クソガキ。うちのハンナも一緒に連れてけ」 「あ、はい。しかし、良いんですか?」  と、フラム様の方を向く。フラム様はニコニコしてた。 「勿論さ。お金を貰ってるから立派な依頼だ。それに君なら面倒は掛けないだろ?」 「え? まぁそうですね」  確かに、僕は普通の五歳児とは違うから、迷子になって泣きわめくなんて事も無い、と思う。いざとなればロジャーさんに探索して貰えば良いしね。 「では、セリオ様、アラン様、皆様。行ってきます」 「誘拐されんなよ! あ、されても良いけどハンナだけは傷一つ付けんなよ! ギャハハ!」  アラン様、フラグ立てるの止めてください! 【タイトル】 036 シティアドベンチャー 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2018-05-08 08:07:38(+09:00) 【公開日時】 2018-05-08 08:07:38(+09:00) 【更新日時】 2018-05-08 08:07:38(+09:00) 【文字数】 3,641文字 【本文(115行)】  アレハンドロの街中を、僕とハンナとフラム様の三人で歩く。考えようによっては両手に花。見方によっては保護者とガキ二人。  ご飯とお小遣いに銅貨2枚貰ったんだけど、すごくドキドキするよ。だって、僕のご飯は5クレだよ? 銅貨2枚だと200クレ。沢山食べても絶対余るよ……。怖いのでフラム様に預けておいた。うん。安心。  街の中心を外れていくと、急速に庶民の街に変わってきた。二階三階当たり前。隣の家の壁を自分の家の壁にして建ててる家も普通にあるし。すごく混沌としてるよ。火事起きたら大変だよね……。あ、四大術師が居れば大丈夫かな?  通り沿いは、屋台が有ったり露店が有ったり。屋台は、道の上にテーブルを置いて具入りスープや串焼きなんかを食べさせている。露店は、付近の村の農民が売ってるようなものから、抜け目の無い目をした商人が田舎者に何かを売りつけていたり。あ、僕も田舎者だった。 「……肉とピラフの匂い」  ハンナがつぶやきながら或る店に入ろうとしてた。店構えは気楽な飯屋といった風情。値段もそれほどでは無い、と思う。地域の住民や肉体労働系の労働者が楽しそうに席に着いている。  まぁいいか。僕はフラム様と顔を見合わせると、飯屋に入ってみた。  天井の高い飯屋は、肉とハーブを焼く匂い、パンの匂い、あと、あ、ピラフの匂い! 米を茹でる匂いがする。まだ色々と食材の匂いがする。わいわいと盛り上がる若者の声、昼間っから酒を飲んでいる労働者。  さて、と。周りを見渡していると、テーブルの間を縫うようにして若いウェイトレスがやってきてまくし立てた。 「今できるのは、鳥と豚。後はベーコンスープに、酸っぱくないパンよ。変わった物が食べてみたいなら王都からレシピを仕入れたピラフってのもあるわ。持ち込みならなんか一品は頼んでね。冷えた水は2クレ、エールは5クレね。よく冷えてるわよ」  え? 食べ物の値段言わないの? 「じゃぁさ」  フラム様が手慣れた様子で、小銭を取り出し、ウェイトレスの手を握って渡す。あ、顔近い、近いよ! ウェイトレスさんも、困って……? 「水二つにエール一つ。後はピラフにスープ。後は君に任せるよ。出来るだろ?」  フラム様がウェイトレスの手の甲にチュッとキスをする。そして、にやりと悪そうに笑うと、元気いっぱいだったウェイトレスさんが、しおらしく戻っていた。なんか、凄い物見ちゃった。 「あ、あの……」 「あぁ大丈夫、50クレしか渡してないから」 「え?! そ、そんなに?!」 「お酒とか頼むなら、安いくらいさ」 「そういう物なんです?」 「そういうのは昔も今も変わらない。サウルは覚えてないの?」  しばらくすると、頼んだ物がやってきた。何故かウェイトレスさんがフラム様にお酌をしているんだけど。いいの?  ハンナは我関せずと黙々と食べてる。ピラフは塩が強く、腸詰めも入ってて肉系。あぁ、普通の肉も欲しいな。と、気づけば3人前くらい食べてた。珍しい濃い味付けで、ついつい食が進んでしまった……。ハンナも満足の模様。  一方フラム様はウェイトレスさんと仲良くしつつ、上品にご飯を食べていた。エールがいつの間にやらワインになってるけど、支払い大丈夫なんでしょうね?  名残惜しそうなウェイトレスさんに《《不足分》》を払って、お店を出た。え? うっそ! 合計90クレ?! 普通に食べたら5クレなのになんでそんな……。ていうか、貰ったお金、半分近く使ってるし!  僕たち、というかフラム様を送って通りまで出てきたウェイトレスさんを振り返ると、片足が義足だった。とても動作がスムーズだったから、全然気づかなかったよ。  歩き出してしばらくして、フラム様が話しかけてきた。ちなみに今は目的地が無い。食後の散歩という感じ。 「どうした?」  微塵も酔いを見せず、フラム様が僕に尋ねる。 「義足でしたね。良く有るのです?」 「そうだな。良く有るようだ。冒険者には特にね。村人であっても魔物に襲われて、ということはある。彼女、ジーンは元冒険者。つい数ヶ月前まで現役だったそうだよ」  ここでお金のことを聞いたら負けだ。そんな気がしたので意地でも聞かないことにした。 「そうそう。あの店の食事は一品10クレからだ。余りビクビクするなよ。お前は神に成る男だぞ?」  と、フラム様がすごく楽しそうに笑うと、ハンナが対抗するように。 「うん。サウルはハンナの主になる男なので、頑張って欲しい。不労所得でうはうは」 「ハンナどこでそんな言葉覚えたのさ……」 「できる女には秘密があるの」  ハンナ、こんなに喋るキャラだったっけ?  武器防具を身につけてる人が増えてきた。兵士では無い。冒険者、だね。周辺の建物は、鍛冶屋だったり武器防具の店だったり。鍛冶屋は石造りの家が多くて、周囲が開けてるし、皮の店は臭い。なめしなんかの処理は街の外でやってるそうだけど、やっぱり独特の匂い。  つらつらっと店員と冒険者の会話を聞きながら歩く。安いスタッフなんかは銀貨数枚でも買えるけど、金属の物になれば銀貨数十枚は当たり前。金貨がお目見えだって珍しくないみたい。  術理の仕込まれたのもあるらしかったけど見なかった。店の奥に仕舞われてたのかなぁ。僕たちは冷やかしだし、それに幼い子供だし。中に入って価格交渉とはいかないもんね。  後はちょっと離れた所に、中古屋もあったよ。命を預ける武器に中古というのもなんだけど、背に腹はかえられない、のかな?  四大術師の書店兼アトリエや、闘気法の町道場、術理具と飾り職人の合同の店なんかもあって面白かった。まぁ全部冷やかし。だって、財布には銅貨1枚もないんだもん。何も買えないよ?  うろうろと歩き回ってると、冒険者組合の建物が見えてきた。大きい。村の神殿より大きいなー。バスカヴィル商会と同じかもっと大きい。しかも三階建て。しっかりした石造りで、石造りの地下へのスロープもある。  周辺には、ボロボロの荷車を引いた薄汚いポーターや、黒光りする美しい肌をした戦士、眼帯を両目に付けた小柄な男性? 十名くらいの人がたむろしてた。  ちょっと中を見て見たい。あの冒険者ギルドに! と、コウタロウさんの記憶が騒ぐが僕も同意。やっぱり見て見たい。ちょっと怖いけどフラム様もいるし? 「ねぇフラム様、さん? 中を見てみたいんだけど……」  僕がおずおずと言うと、フラムさんはウィンクをしながら 「ハハッ! なりは小さくてもやっぱり男の子なんだな。良いよ。中に入るくらい問題ないさ」 「ありがとうございます!」 「なに、お金は貰ってるしね」  と、眼帯の男性と遊んでいたハンナを引き剥がし、組合の中に入ってみる。  しかしあの眼帯男、すごく不気味な見た目してるのに、子供好きなのかぁ……。僕にも愛想良かったし。良い人なのかも。乾燥果物を袋一つくれたし。  今は、ええと、午後3時10分。室温は22度。外より涼しい。大きめのホールにはカウンターがあって、数人の男女が冒険者とやり取りしてる。なんか露店でやり取りしてるみたいな。砕けた雰囲気だ。カウンターの上には札が下がってる。字と絵で内容が分かるんだ。  奥の方には、机と椅子が幾つかあって、壁際には売店? 喫茶店? もある。商談にも使うのかな? 商人風の人と、ヒゲ面のおじさんがキスしそうな程顔を寄せて話してる。  鋼の匂い、触媒に使うだろう薬の匂い。酒とタバコの煙。いいね、すごく良い。雰囲気ある! 僕が興奮気味にキョロキョロしてると、奥のテーブルから神官服を身につけた女性がフラム様に飛びついてきた。 「あ! フラムさまぁ! お久しぶりですぅーーーーん」 「おっと、アマダじゃないか。もう帰ってきたのかい?」 「ええ、フラム様に会いたくて、急いじゃいましたの。でも遺産を幾つか見つけたので収支は黒ですわよ?」 「遺産か! そりゃすごいね」 「ええ、幾つもお話ししたいことがありますわ。もし良かったらこれから、お姉様と二人で……」  おいおい、ちょっと待って。 「あ、あのぉ」  無害な子供を装って、いちゃつきはじめた二人に声をかける。護衛なんだからしっかりしてよ。 「あ、あぁ。こちらはアレハンドロ冒険者組合、新進気鋭の中堅パーティ『キマイラの咆吼』の神官、アマダだ。で、こっちの二人が、コミエ村のサウルと、王都から来たハンナ・マサース」 「コミエ村のサウルです。よろしくお願いします」 「アラン・マサースの娘、ハンナ。よろしく」  なんか凄い目を向けてくるアマダ。そして一転にっこりと微笑み 「んふふぅ。『キマイラの咆吼』のアマダよ。神官戦士してるわ。よろしくねぇん?」  見た目はそこらの町娘のような体つき、だけど、さっきフラム様に抱きついた時の体裁きは半端じゃなかった。これに闘気法が加われば、十分に戦える筈。神官戦士は嘘じゃ無いと思う。 「サウルは、ちょっと用事があってバスカヴィル商会とお話ししに来たのさ。ハンナはマサース教授と同行してる」 「え? あのマサース教授?!」  声がしたのは、アマダの後ろ。前世の釣り野郎みたいに沢山ポケットの付いたベストを着た若い男性が大きな声を上げていた。 【タイトル】 037 試技 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2018-05-15 20:45:56(+09:00) 【公開日時】 2018-05-15 20:45:56(+09:00) 【更新日時】 2018-05-15 20:45:56(+09:00) 【文字数】 3,264文字 【本文(102行)】 「なるほど、そちらのお嬢さんはマサース教授のご息女でしたか」 「うん。養女」 「それで、そちらのお坊ちゃんは、マサース教授の教えを受けたと」  なんだろう。僕は坊っちゃん属性でもあるんだろうか? 良く言われるんだけど。育ちが良い、わけじゃないんだけど。だって、開拓村の農民の子で、預かり子だし。 「え、えぇ。その。多少エーテルの使い方などを」 「それは素晴らしい! 私など、王都の自宅前に何度も通ったのですが……」  ポケットだらけのジャケットの上にカーキグリーンのロングコートを身につけた若い男が、やや大げさに手を広げる。  彼、コンラッドさんは、四大術師としてアラン様を尊敬しているとのこと。  色々と話してて分かってきたのは、コンラッドさん自身もかなりの腕前の四大術師で有り、弓師であるということ。「伝説に歌われるエルフほどのことではありませんが」と謙遜するけど。  しかし、エルフって伝説なの? 泡倉管理人の部下ってエルフだった気がするんだよね。耳が長かったし。んーー。 『ロジャーさん? 泡倉の住人のことなんだけど』 『へい。彼らはエルフの中でも原種に近いハイエルフと呼ばれる者達でさ。あ、普通のエルフもいますぜ』 『コウタロウさんの記憶では、この世界には、人間、エルフ、ドワーフ、ミグ、プランツェル、ティターンがヒトとして居たはずだけど……』 『あー、それはまた大分古い話ですな。古代魔法文明の中期くらいまではそうでしたが。今、この近辺では人間とドワーフ、ミグだけです。後は不明です。滅んだとするのが通説でさー。泡倉のハイエルフは例外だと思ってくだせー』 『ミグ、か。小さい子供のような姿をし、精霊に近い種族。風のように動く彼らを誰も縛れない。彼らがそうと魂倉に刻まない限り。ただ、その筆はしばしば旅に出る、だったっけ。精霊術が苦手な僕としては一度会っておきたい、かな』  ロジャーさんとの会話は一瞬。周囲にはそうと知られない。  話は移り変わり、僕とハンナが主体になっていった。  確かに5才の元農民の預かり子が神官とやってきて、商会に用があると言えば何か有ると思うよね。神殿なら何か珍しい技能でもあったか、となるだろうし。それにアレン様と繋がってるし。神官様もコミエ村に隠遁する前は冒険者として有名だったみたいだね。  ハンナはハンナで、変わり者として有名なアレン・マサース教授の養女だし。  うん。知りたがるのも仕方ない。 「ええ、まぁその。ちょっとだけ。水を出したり火を出したりするくらいで。既存の術は使えないです」  オリジナルの四大術。そう、泡倉でアラン様達と開発した、あれ。あれは使えるけど、見せたら駄目な奴だよね。誰かに聞くまでも無い。そうなると、僕の手は大した物にならない。  ハンナが恨みがましく見て来るけど、ダメダメ。 「……ハンナは、ちょっとだけ四大術。後は闘気法。早さに自信あり」 「なるほど! ハンナちゃんとサウル君が組んだら良いパーティになるね!」 「うん。もう村で何度か組んだよ。ハンナとサウルは相性抜群なの」 「おお、それはすごい。未来の若きエースというわけだね。一度見て見たいものだ!」  コンラッドさんはお世辞見え見えの態度。まぁそりゃそうだ。僕が5才。ハンナに至っては4才だもの。幾ら子供も戦力に数える世界だとは言え、早すぎるよね。 「確かにそうだな」  と、フラム様が目の前のジョッキを見つめながら口を開いた。ちなみに中身は冷えていて、冷やし料は別。 「コンラッドもアマダも、ちょっと見て見たいよな? 《《あの》》マサース教授の秘蔵っ子達の腕前」 「あら? いいのです? こんな子達を味見しちゃって」  神官のアマダさんが好戦的に舌なめずりする。怖い! 一方コンラッドさんは苦笑い。だけど、その後あれよあれよと言う間にフラム様がアマダさんとコンラッドさんを焚き付けて、ちょこっとだけ僕たちの様子を見ることになってしまった……。  一応、僕たちが余りに未熟なら、対戦は無しということで。  でも、それで何故かハンナが燃え出しちゃって。すっかり本気出す気になってるし、僕のこと手を抜いたら、許さない。噛む! って脅すし。うえええ。僕泣きそうだよ。  あ、5才だからこういうとき、泣いて謝れば済むのでは? え? だめ?  組合の演習場の一部を借りることになり、対戦用の神術を組合の人にかけてもらい、逃げられない状況に。  とりあえず、体術からということで闘気法混じりで準備運動。でもほら、僕は自警団の訓練くらいしかやってない。前世の記憶はあるけど、今の体に合った物じゃ無いからどーもぎこちない。  一方ハンナは、ひゅんひゅんと動きまくって調子が良いみたい。前、僕と対戦した時より早い?  僕の動きにガッカリしてたキメラの咆吼の面々(結局全員来た)とフラム様だったけど、ハンナには興味津々。ほんとはミグで成人してるのでは? とか聞かれてた。でも、ハンナは精霊術は使えずに四大術なので違うの。ほんとは機人だしね。  次、四大術。これをどこまで見せるかか、だよね。あまり下手を打つとアラン様の顔を潰しかねないし、ハンナに噛まれる。でも余り圧倒的なのは、早すぎる。気がする。  いつもより、ちょっと力を抜くくらいが良いのかな?  流れ的にハンナから。  最初、ハンナはその場から小石を打ち出した。神術の壁から結構な音がする。アザじゃ済まない音。続いて、ハンナは壁に向かってゆっくり歩く。歩きながら四大術を練る。口がぶつぶつと動き、呪文を作ってる。そして火の玉を飛ばした。結構なスピード。これも壁にぶつかって大きな音がした。  僕の場合だと、気合いが入ると、魂倉と自分の世界に入り込んでしまい、動くどころか周囲の風景も目に入らなくなる。歩きながらはすごいと思う。 「ハンナちゃん。歩きながら術が使えるとは! 子供とは思えない。下手な私塾ではトップクラスかもしれません。さすがマサース教授が養女にされただけのことはある!」  ハンナが得意げにこっちを見た。ちゃんと周囲が分かってるんだなぁ。やるなぁ。ほんとはここから、闘気法による立体殺法プラス四大術の組み合わせがあるのだけど。それは無しにしたみたい。  じゃぁ、僕だ。ハンナくらいの感じで……。 『サウル。お前、あまりあたいをガッカリさせるなよ?』  と、フラム様から釘を刺される。ていうか、念話では一人称あたいなんですね。あーもーどうしろと……。  ええい。ちょっとだけ。 「火の矢!」  呪文書から一つ、火の矢を取り出して打ち出す。呪文名も叫ぶ。ホントはこれくらいなら言わなくても良いのだけど。 「え? 早い! いや、予め準備しておいた? エーテル見えたか? アマダ」 「んー、私は見えなかったわ。ちょっと油断してたかも」  よしよし。しかし、フラム様は……? 『おい、今のはなんだ? 瞬間的に術が形成されたぞ』 『秘匿事項です』  ご興味を引いたみたい。さて、もうちょっとだけ。  一応持った木刀で、えいやーと型をやって見せて5秒。  魂倉の呪文書から呪文を喚起、引数を与え現出させる。  すると僕の目の前には「弱め」の「火の玉」が「3つ」出てきた。大きさは僕の頭と同じくらい。一般的な火の玉の大きさの筈。それを別方向に同時射出。  ほんとはもっと出せるし、時間差の発射も可能だけど、そこまでやる事は無い。  多分…… 「え! 凄い! 数日しか習ってないなんて嘘だ! あれだけ動きながら術を準備して、しかも火の玉は3つじゃないか! 並みの制御力じゃ無いぞ!」 「サウルずるい! 自分で目立つなっていっといて!」 『サウル、あれも瞬間的に形成したな? しかも3つ!』  うん。十分だったね。  まぁ実際には動きながら術を準備したんじゃ無くて、最期の放つ瞬間に魂倉の呪文書から出しただけなんだけど。  皆驚いてくれてうれしいなー!  って、あ、みんな、そんな一度に来ないで! こらハンナ、頭に載らない! 鼻をつまむな! コンラッドさん、真剣勝負とか無理ですから!  その後、興奮したキメラの咆吼の面々というかコンラッドさんを宥め、コツは秘密と言うことで我慢して貰ったよ。あぁ、もうほんと。ついつい調子に乗ってしまう僕が憎い。ほんと。 【タイトル】 038 6才になりました 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2018-08-01 15:34:30(+09:00) 【公開日時】 2018-08-01 15:34:30(+09:00) 【更新日時】 2018-08-01 15:35:45(+09:00) 【文字数】 2,284文字 【本文(52行)】 お久しぶりです。仕事が空いてきたので再開です。なるべく続けていきたい物です。 今回から一話ごとの文字数を下げてみます。上手く行くと良いのですが。 ----------------  さて。今日も良い朝。  夏本番で日が昇るのも早いし。おまけに今日は良い事が二つもあるんだよね。  僕は相変わらずアレハンドロにいる。  神殿の皆さんはコミエ村に帰り、アラン様達は王都に。体のことを考えれば、アラン様は僕と一緒に居た方が良いんじゃ無いかということで何度か話し合いがあったけど、結局僕とアラン様は別々に動くことになったんだよね。秘書のセレッサさんは平然とした顔をしてたけど、すごく辛そうだった。ハンナも。普段あんなにアラン様のことからかってるのにね。不思議な物だね。  僕もアラン様にはお世話になったし。……クソガキ呼ばわりされるのは嫌だったけども。ハンナが泣きそうだし……。だから、ちょっとだけ。ちょっとだけ役立ちそうなベルト型の術理具をあげた。大した手間でもなかったし。三日くらいで作ったから大したもんじゃないよ。見た目は四角くて白い大きめのバックルの真ん中に赤いファンが付いてる感じ。アラン様の調子を見てファンが周囲のエーテルを吸収するようになってるんだ。これで一応アラン様の症状には対応出来ると思う。でも対処療法だからそのうち破綻すると思う。僕にもっと力があれば……。  セリオ様、アラン様、それにバスカヴィル商会の人達のお陰で、僕はひとまずアレハンドロで立場を得た。僕の用意した付け届けも役に立ったみたい。  まず僕はバスカヴィル商会の人達に術理具を見せた。馬車のもの、草刈り、草かき、倍力、マッサージ、土ならし。他にも需用があれば作りますよ、というと、商会主のコーデリアさんは大喜びした。ただ、幾つかの問題があって仕様の変更が必要だとも言われたよ。もっと構造を単純にしないと、僕以外には作成も手入れも難しいから。確かに、僕がずっと術理具作りしてるわけにも行かないものね。あ、後は見た目がシンプル過ぎるから装飾がないと売れない、とか。    そうしてセリオ様はアレハンドロの神殿を攻略。僕が上げたおっきな水晶と特大珊瑚が現金以上に効いたと、セリオ様悪い顔してたよ。占い好きの副神殿長が嵌まってしまって大変とか言ってた。  そうしてアラン様とセリオ様が組んで冒険者組合と領主一家の調略をしたみたい。  一応僕も顔見せ程度のことはしたんだけど、ほとんど中身は聞いてないんだ。追加で色々魂倉から持ち出したけど。良かったのかなぁ。  セリオ様は、アレハンドロが中立から味方よりになったと喜んでた。コミエ村が楽になるのならいいのかな。政治の話は分からないから、いっか。だって僕6才だしね。  そうそう。僕、今日から6才なのです。  8月10日は僕の誕生日。  体もおっきくなりました。おっきくなりすぎてるかな。  今、140cm、35kgなのです。  ちなみに3ヶ月前、名付けの儀の頃は98cm、14kg。おおよそ3ヶ月で《《40cm》》伸びたんだよね。周りも驚くけど、僕も驚いた。と言うか大変だったんだ。  お腹いっぱいに食べても直ぐお腹減るし。我慢すると直ぐ倒れそうになるし。ていうか、2回倒れたし。代謝も凄いから、出る物も凄くてね。酷いもんだったよ。筋肉痛、成長痛も! 僕が神術で痛み止めできなかったら大変だったと思う。  成長はまだ止まってないけど、やっと最近落ち着きつつある、かな? でも、服は直ぐ使えなくなるから、まるで犯罪奴隷のような粗末な貫頭衣が日常着。さすがにそれじゃ人と会えないから、外出する度に服を買い換えるものだから支出が凄いことになってた。最終的に、大きめの服を何通りも買っておいて、紐や布を巻いて調整する事にしたんだけど。でもこれ、脱ぎ着が面倒なんだよね。どうにかならないかな。  身長が伸びたので、周りに余り子供扱いされなくなったのは嬉しいのか嬉しくないのか良く分からないや。140cmというと、成人男性でも居ない訳じゃない。女性だと割と普通に居る。コウタロウさんの時代より大分平均が違うみたいだね。顔つきは十代前半みたいになったし。今の僕を見て6才だと当てられる人は居ないんじゃないかな? 『坊っちゃん。そろそろ』 『あぁ、うん。分かったよ、ロジャー』  僕の魂倉管理人は日に日に心配性になってきてる気がする。見た目はガラの悪い黒づくめなんだけどねぇ。まぁ何度か僕目当ての襲撃があれば仕方ないのかな?  僕はささっとベッドを降りる。神殿の養い子に過ぎない僕に個室を渡してくれたのは嬉しい。お陰で《《色々》》はかどってるし。  洗浄力を持たせた冷たい水を作って、ざっと顔を洗い。6才にして生えてきた髭を剃り。マッサージ器を改造して作った術理歯ブラシで口内を清潔に。最期に臭いを抑えるミストを体に吹き付ける。……体臭強いからね。  階下に降りると 「おう、サウル。もう姐さん来てるぜ」  店の人が指さしながら教えてくれた。  店の表には二人の女性。スラッと背の高い剣士と、ウェイトレスの女性。ウェイトレスの女性は剣士にしなだれかかってて、悔しいけど絵になる。 「おはようございます。フラムさん」 「あぁ、おはようサウル。寝坊するんじゃないかと心配したよ」  フラム様は、冒険者になった。アレハンドロに腰を据えて仕事をしている。今は、ジーンさんと一緒に暮らしてる。ジーンさんは、アレハンドロに来たときに最初に立ち寄った飯屋のウェイトレスさん。  二人は友達……、には見えないね。もっとこう親密な何かっぽいですね。  僕、子供だから分からないけど。 「さぁ行こうか、サウル。今日がお前のデビューになる」 【タイトル】 039 参入者へ1 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2018-08-01 20:34:27(+09:00) 【公開日時】 2018-08-01 20:34:27(+09:00) 【更新日時】 2018-08-01 20:34:27(+09:00) 【文字数】 2,536文字 【本文(80行)】  僕はフラム様達と一緒に冒険者組合に向かった。僕の右下には05:25の文字。そんな早朝なのに組合の側には屋台が幾つかあって、そこにたむろする人達がいた。  アレハンドロから離れた場所に行って依頼を果たす場合、泊まりがけか日帰りかになるけど、日帰りならなるべく早い時間に出かけたい。ちょっと予定外のことがあれば暗闇を歩かないといけないし、それは生存率を下げてしまう。  だからこんな時間でも組合の前には人が居て、屋台も有る、ってフラム様が言ってた。 「じゃあね、サウル君。お姉様また後で!」 「あぁ、ジーン。土産話でも楽しみにしててくれ」  フラム様とジーンさんが、今生の別れのような顔で見つめ合ってる。 「えっと、すいません。中に入りたいんですけど」 「あ、あぁ、すまん」 「ごめんね! じゃあまた!」  周囲の冒険者さん達の視線が痛いけど、僕はさっさと中に入りたいんで。  中に入ると結構な人が居て、カウンターも並んでる。僕とフラム様はその列の最後尾にならんだ。気づいたおじさん達が声をかけてくれる。 「お、いよいよ、今日だっけ?」 「死ぬなよ!」 「死ぬなら、最期にマッサージしてってくれ!」  冒険者組合はパーティを一つの単位とした工房の互助会という体を取っている。パーティは通常数人。ただ、王都などに行くと幾つかのパーティが団体を作る事も有るっていってた。  で、僕はソロを希望した。ソロというのは単独行動ということ。フラム様もいつもはソロで行動して、時々、他のパーティと組んで依頼を行ったりする。ただ、僕がソロで登録しようとしたときに問題発生。まぁ当たり前だよね。僕昨日まで5才だったんだし。  四大術の腕については、キマイラの咆吼の皆さんが保証してくれた。実践でも問題ないって。剣術の方も、一当てして逃げ出すくらいのことは出来るだろうと。でも、いかんせん体が子供。闘気法の心得があると言っても持久力の問題があるし、採取や討伐の荷物をどう持ち帰るかの問題もある。  幾ら命の安い時代と言っても、無駄に死なせるのは寝覚めが悪い。  そういう事で…… 「はーい、次の方!」 「おはようございます!」 「はい、おはようサウル君。いつも元気良いねぇ」 「ありがとうございます、パティさん。それで昇格の方なんですけど」 「ええ、今日の実地審査に合格すれば10級の見習いから9級の参入者になれるよ。怪我しないようにね」 「ええ。夕方には無傷で帰ってきます」 「はぁ。でも私はまだ心配だわ。幾ら体が大きくなったと言っても、まだ5才でしょ?」 「えっと、今日から6才です!」 「あぁ、うん。6才ね。お金に困ってるスラムの子だって、6才は街の中でお手伝いが精一杯なのに、なんでサウル君が……」  また長い話になりそうだと思ってると、呆れたようにフラム様が口を出す。 「パティその事は既に何度も話したではないか。サウルは力を示した。四大術、剣術、それに特大の泡倉。子供らしくない用心深い性格。探索術が無くてもソロでやっていける。その上で今日の審査だ」 「そうなんですけどねぇ。まぁいいです。タブレット出してください」  ガチガチガチーンと鑑定機みたいな音を立ててパティさんが、今日の審査をタブレットに打ち込む。一応、今日の審査は依頼扱い。付き添いとしてフラム様と黒剣団というパーティが付いてくるんだってさ。  ほんとはキマイラの咆吼の皆さんが希望してたんだけど、それだと公平にならないってことで。まぁ確かにあそこの皆さんとは仲も良いし、甘やかしてくるからね。  そうそう。しれっとフラム様話したけど、僕の泡倉、ちょこっとだけお知らせしたんだ。そうじゃないとさすがに今後支障を来すだろうって事で。ただ、これまで組合で確認されてる泡倉の最大量が《《1000リットル》》だったってことで、僕の泡倉は《《それくらい》》ってことにして貰ったんだ。持ち帰りの量は気をつけなきゃいけないなー。  あ、ちなみに1000リットルは、各辺1mの立方体だよ。  受付が終わって休憩コーナーに行くと黒剣団の皆さんが待ってたよ。ただ、ちょっと冷たい雰囲気、かな? 「おはようございます。今日はよろしくお願いします!」  こういう時は元気な挨拶が一番だよね。  じーっと僕を見つめる黒剣団の皆さん。えっと。  10秒ほど見つめ合った後、黒剣団のリーダーさんが口を開いた。 「……俺たちは、お前が参入者になることに反対だ。それは今でも変わってない。冒険者賄賂でどうにかなるほど甘くない」 「ゴードン……」  フラムさんが口を開こうとするけど、リーダーのゴードンさんは手で制止ながら続ける。 「だが、俺たちは公正に判断し報告しよう。黒剣団の名に賭けて。だからここからは居ない者として扱ってくれ」 「あ、分かりました。では、よろしく? お願いします」 「はぁ……、そう言われたら私もここからの接触は自粛しようか。公正な審査のために」  んー。まぁ公正にしてくれるというなら良いか。じっと見られてるのは気持ち悪いけど。 『そうは言ってもあたいはこうやって話しかけられるけどな』 『まぁそうですけどね。あ、僕、色々こっそりやりますけどばらさないでくださいね』 『あぁ、かまわんさ。好きにしな』  と、蓮っ葉な念話がフラム様から。表と裏で口調違いすぎる……。 「じゃぁ出発しますねー」  僕を先頭にフラム様と黒剣団の4人がついてくる。普通に見れば6人パーティなんだけど。無言。街の人もなんか変な顔して見てる。まだ涼しい時間なのに、なんか汗が出てくるのは何故だろうねー。  街の北門から外に出る。こちらは余り人里が無い。道を覆うように大きな枝が張りだしてるし、道の真ん中にも割と雑草が生えていて、腐葉土の匂いがぷんとする。もう少ししたら蝉もうるさいと思う。  僕に与えられた仕事はここから10kmほど行った集落で見つかったゴブリン退治。2体が確認されていて、多分追加はない、とのこと。余りに数に違いがあったら後ろの人が助けてくれるし、逃げても構わない。  体が急成長して良かったのは、野外活動の時だね。140cmなら歩幅もそこそこあるし、持久力もある。成長過程の体でも10kmなら余裕だ。まぁ途中で遭遇戦でもなければ、だけどね。  お腹が減ってきた僕は、泡倉からリンゴとチーズを取り出してかじりながら進み始めた。 【タイトル】 040 参入者へ2 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2018-08-03 08:51:59(+09:00) 【公開日時】 2018-08-03 08:51:59(+09:00) 【更新日時】 2018-08-03 08:51:59(+09:00) 【文字数】 2,422文字 【本文(64行)】  両手にリンゴとチーズを持って歩く僕。後ろの皆さんが呆れた目で僕を見てる。え? なんで分かるのかって? いつもなら気温や時間を表示してる右下に、後ろの様子が表示されてるから。正に後ろに目が付いてるようなものだよね。僕は探索術が使えないからすごく便利。拡大縮小に視点移動も出来るので、両手が塞がっていても警戒は出来るのです。うん。  あ、ちなみにロジャーさんは見守りモードです。ほんとに僕の手に負えないようなことでも無い限りは手出し無用と命令してるのです。そうじゃないと成長できないからね。  急に体が成長して一番困ったのは体の使い方。  もちろん日常動作くらいは問題ないんだけどね。戦闘行動なんかだとずれる。今も、とっさの動きはちょっとおかしい。成長が急すぎて脳がついていけないみたい。  コータローライブラリで何か参考できないかと探してみたら、成長時の動作についての考察が幾つかあった。すごく助かった。でも、不思議なんだよね。あの書き方だと、コータローさんはまるで《《何度か成長した》》、みたいなんだよね。転生なら名前が変わるし、インタビューとかそういう感じじゃなかったと思う。  まぁいいけど。  あ、あともう一つ変わったこと。  感情が落ち着いたんだ。時々、僕自身でも制御できない感情が溢れて泣き出したり笑ったり怒ったりしてたんだけど、大分落ち着いたんだ。  僕は同年代の子供と比べると大人びてるでしょ? 自分が妙な衝動に引きずられるのが嫌だったんだ。それが落ち着いてほっとしたよ。  さて。街を出て北に向かって1時間。  土埃を巻き上げる大きな街道から外れて行くと、あっというまに様子が変わってきた。人の手の入っていない森の中に辛うじて荷馬車が通れるだけの道がある。山の方に向かっているから緩やかな上り坂。  蝉が鳴き、虫はぶんぶん飛んでくるし。それでも道を歩けば木が生えてないから歩きやすい。  でも、もうちょっと、ちょっと楽をしたいな。だって上り坂疲れるもん。 「すいません、ペース上げますねー」  後ろに向かって叫ぶと、僕は一つの術を魂倉のライブラリから呼び出した。  途端に腰、太もも、すね、足の裏と、幾つもの円筒に包まれたファンが出現する。それが稼働すると、凄い勢いの空気の流れが生まれ、僕の体は1mほど宙に浮いた。ちなみにうるさい。しゅーしゅーとおっきな蛇が沢山いるみたい。それに、ちょっと高度を取らないと、土や石を巻き上げて面倒くさい。 「じゃ、行きますか」  僕は中腰になり前を向く。背中からもう一つ大きな音がして風がでる。それが推進力となって僕は進み始めた。  右下のモニターでは黒剣団の皆さんが慌てて追いかけてくるのが見える。フラム様も。僕のスピードは時速10km程度。ちょっとした駆け足程度だ。後ろの皆さんは装備を背負ってるし、緩やかとは言え上り坂で大変みたい。  あぁ、フラム様から護符越しにご連絡だ。もっとゆっくりにしないといけないか。置いてけぼりにして査定が悪くなるといけないしなぁ。  ま、いいや。 「じゃ、もうちょっとゆっくり行きますので、付いてきてくださいね!」  ホバリングの術はうるさいので、僕は大声で告げ発進した。今度は時速6km程度。皆さん軽装だし、問題ないはず。  村まで数百メートルと言うところで術を解除したんだけど。  黒剣団の皆さんはついて来れてないね。まぁ平地の街道を走るのとは訳が違うから仕方ないのかな。  当然のように付いてきたフラム様がホバリングについて聞いてきたので、大ざっぱなやり方と制御のコツを話してると、黒剣団の皆さんがやってきた。  さすがに平気な顔をしている。  ほぼ日の出と共に動き始めたから、まだ日差しも強くない。森と村の境目が良く分からないこの村には何度かお届け物もしてる。だから村人とも顔なじみなんだよね。道を歩く人と挨拶する。大きくなる度に別人に間違えられてめんどくさかったけど。普通の子供はちょっと見ない間に10cmも背が伸びないし、ね。  今日はみんな、僕より僕の後ろに付いてくる人達を見て驚いてる。その度に、説明するのがこれまた面倒だね。  ここは大した産品もなく、焼き物や山の幸、薬草を街に売り、後は自給自足で生活している。鍛冶屋も薬師も神官もいないし、何か有ると外に頼らざるを得ない弱い村だ。  でもさすがにゴブリン二体なら何とかなるのでは? 大人が数人武器を持って戦えば。  あぁ、やっぱり面倒ごとが。  僕は《《村長の娘さん》》から話を聞きながら、眉間にしわが寄ってきた。  先日、ゴブリンの小集団が村を襲い、村長を先頭に有志が対抗。何とか大部分を倒したけれど、村人にもけが人と死人がでたとのこと。村長も大けがで今も寝たきり。動かせないからまともな治療も出来ないとの事。  一昨日から残ったゴブリンらしきモノが現れ、畑に被害があるとのことで、それを退治して貰いたいというのが今回の依頼。  とりあえずゴブリンの脅威が無くなったら男手を集めてけが人をアレハンドロまで連れて行き、治療するのだという。 『ねぇロジャー』 『駄目ですぜ、坊っちゃん。あっしは認められませんな』 『まだ何も言ってないんだけど……』 『止めといた方が良いと思いますがね』 『んー……』 『神術は人前で使わないってのは、ご自分で決めたルールじゃなかったんですかい?』 『……んーー』 『……』 『ありがとうロジャー。整理が付いたよ』 『お役に立って何よりで』  自分で決めたルールなんだけど、実際に傷ついた人を治療しないというのはなんかもやっとするね。でも、四大術と神術を同時に使える人というのは今まで例が無いそうだからね。それに村長さんは、今治療しないと行けないわけでもないし……。  そこから、荒らされた畑を見せて貰ったよ。食べられない切れっ端なんかを溜める場所が荒らされて、畑に植わっている作物も根ごと掘り起こされていた。一見、犬か猪でも出たのかと思う様子だったのだけど、良く見ると確かに手と道具を使った形跡があるね。  じゃぁ、ゴブリンハントしましょうか。    【タイトル】 041 参入者へ3 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2018-08-04 09:50:47(+09:00) 【公開日時】 2018-08-04 09:50:47(+09:00) 【更新日時】 2018-08-04 09:50:47(+09:00) 【文字数】 2,348文字 【本文(104行)】  さて、ゴブリン達がどこに居るかは分からないんだよね。捜さなきゃ行けない。  でも、僕は探索術を使えない。スキルパスは開いてるんだけど、どーしても技能が生えないんだよね。まぁ目覚めてからまだ3ヶ月だし、焦るもんじゃないけど。  それ以外の、ええと、例えば狩人的な技能も僕には無いね。  でもまぁやりようはある。  まずは相手がゴブリンだということ。  ゴブリン。  いわゆる、魔物。小柄な人型をしていて、総じて知性は低い。変異体多数。  鳴き声でコミュニケーションをしてるようだけど、その言葉はまだ解析されていない。普通に生殖も行うが、エーテル淀みやダンジョンからスポーン(発生)することもある。  他にも修正についての話なんかもあるけど。重要なのは「魔物」って事。  魔物は、かつて妖精だったり霊的な要素に傾いた生き物が「幻魔」によってゆがめられた存在だと言われている。復活歴の前の大戦期の遥か昔、大魔法期にはまた違った存在だったと聞いているけども。  まぁそれは良いとして。  幻魔は世界をゆがめ、神を殺し世界を変えた。様々な理を変えたんだ。魔物もその一端。ゴブリンだってそう。もうほとんど生物として根付き始めているけどね。  つまり、幻魔の眷属であるゴブリンは、存在するだけで周囲を「歪める」んだ。一般では瘴気とも言う。  僕には微量な瘴気は見えないけど、四大術を使えば……。 「エーテルクリアリング」  僕を中心とした直径10mの半球。そこに薄く繊細にエーテルを広げる。まるで土地の標高を測るように均していって…… 「ステイニング」  半球の中が桃色になったのを確認し、エーテルが平らな部分だけ除いていく。魚の小骨を取るように慎重に進めると、ゴブリンの動いた後が奇怪な彫刻のように浮き出てきたよ。  あはは、黒剣団の皆さんぎょっとした顔してるね。特に術の使えるお二人が。クリアリングもステイニングも僕のオリジナルじゃないけど、この組み合わせ方はマイナーかも?  探索術ほど便利じゃないけど、今みたいな捜索だと役立つかもね。皆で一緒に見る事ができるし。  さて、もう一工夫。 「タイムスライス」  周囲にキュルキュルと張り詰めた皮をこするような音がすると、ピンク色のゴブリンが二体現れた。二体は僕に気づきもせずに畑にしゃがみ込むと、何も作物が無いところを一生懸命掘り出した。  二体は劇でもしてるかのように空中に何かを放り込み、袋を背負うかのような動作をすると森の方へ歩いていこうとして、消えた。 「消えた?!」  と叫んだのは僕じゃないよ、黒剣団のリーダーさん。ええと、ゴードンさんだった。  ヅカヅカヅカ! っと怒ったようにやってきて 「アレは何だ!」  と両手で胸ぐら掴んできたよ。え、ちょっと苦しい。 「ふつ、うの」  喉が閉まりそうだったので、何故か知ってる護身術で腕をこじ開けて脱出。ぽんと飛んで距離を取った。  後から他の黒剣団の人も来た。 「四大術ですよ。クリアリングとステイニング、タイムスライスというオリジナルの組み合わせです」 「邪法じゃないのか?」 「えーと」  参ったな、びっくりするだろうなと思ってやったけど、まさかこんな風になるとは思ってなかったよ。  ゴードンさんはまだ興奮してるみたいだったので、他の人に視線を向ける。 「あ、あのな、リーダー。俺はあんな組み合わせ方は初めて見たけどさ。あの術は普通の術だと思う。練習すれば俺もできる」 「……ほんとか? ロブ」 「う、うん」  あの気弱そうな四大術者の人はロブさんね。覚えたよ。 「済まなかった」  ゴードンさんはあっけなく僕に頭を下げた。 「お前には、色々と暗い噂がある。その中には邪法や魔物との取引を示唆する物もあった。お前は単に窓口で、大人数の犯罪組織が裏にいるという話もな」 「中々酷い話ですね」  僕は喉をわざとらしくさすりながら言ってみた。色々言われてるだろうなとは思ったけど、そこまでだったかー。 「それで僕が見慣れない事をしてるから、つい、と」 「すまん」 「そもそもあなた方は不正がないか見守るのが仕事の筈。糾弾は組合の仕事では?」 「すまん」 「悪気が有ったわけじゃ無いんだ。ただちょっとリーダーは正義感が強くって……」 「ロブさん、悪気がなければ良いという物じゃないでしょう?」  あぁもう。 「まぁいいですけど。採点は公平にお願いしますね? 後、今後もちょっと変わった事しますけど、後で解説しますから一々突っ込んでこないでくださいね?」 「分かった。気をつける」 『傑作だな! おい、サウル! お前の方が年上みたいじゃねぇかよ!』  と、クールに見守ってたように見えるフラム様。裏では大受けだった模様。  さて、森の奥に進んでいった事、とりあえず二体が動いてるのは間違いなさそうだ。じゃぁ、後は。ゴブリン達の進行方向に絞って術を掛ける。  するとゴブリンのすねから下だけが現れて、スタスタ歩き始めた。全身見る必要も無いだろうしね。  後ろがざわりとしてたけど、無視。もうめんどくさいから引き離そうかな。  そう思ってたら、さすがに気配が消えたよ。うん。  しばらく進むと、木の枝や下生えが雑に乱れている事が増えてきた。近い。  音を立てないように気をつけて移動する。物陰を選びながらね。  見つけてしまえばどうとでもなると思うけど、逃げられたら困る。 「ギギッ!!」「ギャギャッ!!」  鳥のような、猿のような声の方を見て見ると、2m程の崖というか段差に、穴があった。そこにゴブリンが、四体いた。元気で、何か武器を持っている2体と、穴の付近でぼーっと動きの鈍い二体。  鈍い方は、村での戦いを生き延びたのかな?  まぁあれなら行けるかな。  ただ、真っ正面から突っ込んでいけばさすがに怪我をしそうなので、ここでもう一工夫してみよう。  実戦投入は初めてだけど、魂倉でシミュレートして泡倉でも練習してる。問題は無い、はず。 【タイトル】 042 参入者へ4 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2018-08-04 16:33:47(+09:00) 【公開日時】 2018-08-04 16:33:47(+09:00) 【更新日時】 2018-08-04 16:33:47(+09:00) 【文字数】 2,345文字 【本文(103行)】  さて、えいやっ! と、飛び込んでバッタバッタと切り裂くことも可能だけど、それではもしかして、ということもあるわけで。  策を弄しましょうかね。 「クリエイトシャドウ。 1体 30m 匂い付き 音付き」  パラメータを付けて起動すると、僕とゴブリン達の間にある茂みに人の気配が生まれた。僕のエーテルを直接流し込んで、匂いと音も付けている。でも、見た目は何かぼんやりした影。  ようは囮だね。  じゃれ合ってた元気なゴブリン二体が、おっかなびっくり茂みに歩いて行く。手に持ってるのは柄の折れた槍とぼろい鉈、かな? 多分。  さて、次。  泡倉から20cm程の長さの妙に細い投げ矢を3本取り出す。鈍い色をした投げ矢は、金属製。矢羽根もね。普通なら投げられないから、注文したときは装飾品かと思われたみたいだね。  さてこれを僕の前に浮かべて、矢尻の後ろに思い切り圧縮した空気を置く。  ゴブリン二体は何も疑う事無く、茂みに近づく。足を止める。  風もないし、上手く行くはず。  二体は顔を見合わせ、茂みに折れた槍を……  上手く…… 「ギーー!!」 「い、いけ!」  一瞬ためらった僕は  ゴブリンが叫び  反射的に投げ矢を  ボリッと音が  ゴブリンの背中に噴水  赤い白い  ゴブリンはたおれ……  どうしよう、ぼくはぼくh 「ギーー!!!」  その声にはっとすると、崖の穴の二体が立ち上がってる。今準備の出来ている投げ矢は1本。咄嗟に発射すると、立ち上がりかけたゴブリンの一体の太ももに刺さった。  残った一体は僕の場所が分からず、その場でギーギーと叫ぶ。 「っ行くぞ! ホバリング!」  村に来るときの比じゃないスピードと爆音。僕は隠れ場所から飛び出すと泡倉から片手槍を取り出す。立ち上がり叫ぶゴブリンの元に一気に滑り込む! 反応できないゴブリンの胸に穂先を埋め込み、通り過ぎた。 「残り一体!」  生き残ったゴブリンは弱々しく声を上げ、うごめくばかり。僕と戦える状態じゃない。でも討伐しなきゃ。  ホバリングの状態からゴブリンを見下ろしていると、僕は両手両足共にガタガタと震えているのに気づいた。何時間も鍛錬した後みたいに震えてる。息も荒い。  白兵戦で格好良くって思ってたんだけど、無理だね。  酷く冷静に投げ矢を取り出すと、その場からたたき込んだ。近づきたくなかった。  ほんのちょっと、返り血が足に掛かった。  ホバリングを解除し、へたり込む。  初めて人型の何かを倒した。  人によっては吐いたり、異常な行動を起こしたりすると聞いたけど、僕はそうじゃなかったようだ。  それはそれで冷血なようで嫌なんだけど。  ただ、酷く消耗した。疲れたと言うより消耗したと言うのがぴったりくる。  コップを取り出し、冷えた水を出す。勿論四大術でね。甘いモノを持ってくれば良かったなぁ。  5分もすると一息ついた。  立ち上がろう。まだやらなきゃ行けない事がある。  魔物にも魂倉がある。肉体が死んでも魂倉が残っていると、復活する事もあるそうだ。肉体に依存していると滅多にそうならないそうだけど。  そして肉体から離された魂倉は、特殊な処理をされ、術理具の材料になる。残った肉体は魔物からただの肉になり、瘴気をまき散らす事はなくなる。  冒険者組合から討伐依頼を受けた場合には、魂倉がその証明になるし、分解しきる前に採取した特殊な部位は、魂倉と同じような加工をする事によって様々な物に使われる。  魂倉をかっさばかないといけないんだよね……。  腰に差した短剣を抜き、ゴブリンの下腹部に刃を刺す。 「くっ、臭い」  思わず吐きそうになったので、慌てて距離を取る。  僕からゴブリンの方へ強風を吹かせて、採取を再開。 「あー、これ、かな?」  内臓の中に埋まった魂倉を傷つけないように取り出す。 「……うえー、きたない……くさい……」  風を流しても多少は臭い。どんだけ臭いのゴブリン?  水をじょぼじょぼじょぼーーーーっと流し、手と短剣と魂倉を洗う。後三体有るのだから後でまとめて洗えば良かったんだろうけれど、だってやだもの。 「なんとか、遠隔で取り出せないかな……。うえええええ」  ブツブツ言いながら魂倉を取り出していったんだよね。最初にぶっ飛ばした二体も魂倉残ってて良かった。肉片と一緒にシャワーになってたら探すの大変だったよ……。  戦闘自体は1分もかからなかったのに、後始末は30分以上掛かった。うえええ。夏の暑苦しい空気、蝉の声、ゴブリンの血肉の匂い。もうほんとたまらないよ。助けて欲しい。誰だよ、ソロでやろうとか言ったの。  はぁ。  幸いなのは、ゴブリンには採取部位が無いところだね。もっとも。もし採取部位があっても放棄しただろうけど。  くさーい。  何かコータローライブラリに無いか探すよ。次の依頼までの課題だね。  周囲の土を集めて、ゴブリンの死体をざっくり隠す。2日もすれば死体は消えるんだけど。ちょっとだけ匂いを隠したかっただけで。気分の問題で余り意味は無い。野生生物が掘り返そうと思えばあっという間。まぁでもいいさ。その場に僕はいないだろうからね。  身を隠す必要も無くなったので、ホバリングでさくっと帰還するよ。  まだ手足の力がちゃんと入らないしね。これで襲われたら死んじゃう。  さっさと戻ろう。  なんか疲れたよ……。  村の周辺に到着したのはまだ11時前。ホバリングのままで帰るとびっくりされるだろうから、歩きに切り替える。まぁ狩人の人達にはバレてると思うけどね。  余りに早い帰りに、村の人達は不思議な顔をしてたよ。  僕が革袋から魂倉を取り出してみせると、大騒ぎになった。  黒剣団の皆さんとフラム様は遅れて到着し、僕がもみくちゃにされてるのを助けてくれた。  ホント助かったよ。うちの娘やるから、とか言われても僕6才だし。結婚無理なんですよ、といっても信じてくれないし。タブレット見せても字を読める人居ないし。  もうほんと大変だった。 【タイトル】 043 参入者へ5 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2018-08-05 15:50:08(+09:00) 【公開日時】 2018-08-05 15:50:08(+09:00) 【更新日時】 2018-08-05 15:50:08(+09:00) 【文字数】 2,948文字 【本文(90行)】  結局村を出たのは午後2時を過ぎていた。  泊まっていけとうるさい村の人を引き剥がして村を出るのは苦労したよ。ソロの僕が突発的に数の増えたゴブリンを難なく倒した事。その数が四体だった事。さほど時間も掛けず帰ってきた事が村の皆さんを興奮させたみたいだね。  普通は、突発的に数が増えたら、それも倍になったら作戦の組み直しに一時撤退するのが当たり前。ソロなら応援を呼ぶべき。たとえゴブリン相手でもね。  ゴブリン四体は、ソロに取っては致命的。黒剣団の皆さんは介入するつもりだったみたいだね。フラム様はオーガでも出なきゃほっとくつもりだったらしいけど。それはそれで酷い気がする。  それと時間。山歩きがさほど得意でも無さそうな僕が、巣穴までまっすぐ行ってさっと倒して帰ってきた。  まぁ確かに有望に見られるかなー。  帰りもホバリングでゆっくり進む。別に歩いても良いんだけど楽だし。  皆さん後ろで小さい声でお話ししてたので、僕はぼんやりと反省していた。  まずはびびった事。ソロでは致命的。たまたま正気を取り戻したから良かったけど。でもこればっかりは実戦をこなすしかないのかな?  次は投げ矢の精度。あれは四大術にも普通にあるボルトの術をアレンジした物。四大術は、純粋に思念だけで現象を起こすより、何か《《助け、触媒》》があると難易度が下がったり副次効果が付いたりする。難易度下がる分、威力を上げる事も出来る。そこで射出するものを投げ矢で代用したんだよね。  後、発射原理も念動のような物から空気圧に変えたんだ。そっちの方が物理法則に近いから、楽。  威力は凄かったね。申し分無いかな。当分挽き肉は見たくない。ただ、投げ矢を後ろから押すだけだと、ずれちゃうね。最初の二本は上手く行ったみたいだけど、三本目は胸じゃなくて太ももだった。あの辺りは無風だったんだけどね。何か誘導する物がいるかも……。  あ、ほほう。カタパルトってのがあるのかー。ありがとうコウタロウさん。  後は最期の《《ランスアタック》》(?)。ぶっつけ本番だったけど、上手く当たってよかったよ。コウタロウライブラリに、なんでランスアタックの動作が入ってたかは分からないけど。あのおデブのコウタロウさんが馬に乗ってる様子なんて想像付かないな。  そういえば、新しい知識を取得したときに頭痛がしてたけど、最近そうならないなぁ。痛くない方が助かるけどね。沢山知識を得て知能が上がったから、かな?  朱に交われば赤くなる、みたいな? まぁこれもコウタロウライブラリが元だけど。  一応おざなりに警戒しながら、軽食を食べながらアレハンドロに向かって帰る。  道の両脇には木の枝が張り出してて、そこから日差しがきらきらと入り込んでくる。風は吹いてるけど、ちょっと暑いね。30度近いのか。ホバリングの風をちょっと流用して涼しくなろう。  蝉が五月蠅いなぁ。あれって食べられるのかな?  お腹減った。おっと、今リンゴ囓ってたね。あっはっは。  なんかロジャーさんの冷たい視線を感じる。  一応、5時前には帰り着いたか。ふう。3時には帰っておきたかったんだけどな。見積甘かったね。  組合に戻ると窓口のパティさんがびっくりしてた。1日で戻るって言ってたのは冗談だと思ってたみたい。  確かに探索術無しのソロの場合、夜行性のゴブリンを倒すには、罠を仕掛けて待ち構えるのが普通だよね。  ちゃんと僕が未加工の新鮮な魂倉を4つ取り出すと、パティさんは僕の後ろを見た。 「本物だ。事前情報と違い、四体のゴブリンを発見しその全てを殲滅した。受領証のサインも正統に行ったのを確認している」  フラム様が何故か得意げに告げた。 「本当だ。俺たちもちゃんと見た。この子供、いや、サウルは使命を果たした」  と、黒剣団のゴードンさん。 「分かりました。ではサウル君、受領証の提出を。……確かに受け取りました。これから審査に入りますので、フラムさんと黒剣団の皆さんは会議室へどうぞ。サウル君は、組合内で待っててください」  僕が休憩スペースに入ると、依頼を終えて暇な大人達がわっと寄ってきた。だから早く帰りたかったんだよ……。  僕がかすり傷一つ負わずゴブリン四体を倒したのを知ると、大人達は大興奮。どうやって倒したんだ、とか、ホバリング見せてくれとか、投げ矢はどこで作ったんだ、とか。質問だらけだった。  投げ矢については色々アドバイスを貰って助かった、かな。  精霊術の使い手が似たような事をしてるとかで。精霊術の場合は、風の精霊に矢を飛ばしてもらう都合上、軽くしてるとか。そのためにどうしても使い捨てになって中々使えないとか。鳥の羽のように大きな矢羽根にしてる人も居るとか。見せて貰ったけど、ツバメみたいで格好良かったなー。  ワイワイ話してるうちに「サウルの昇格前祝い」の宴会になっちゃって、会議室からの迎えが来た時には、サウルコールが始まって恥ずかしかったよ……。  本来10級から9級への昇格なんて、窓口で済ませるそうなんだけど、僕の場合はちょっと特殊なので会議室に呼ばれる事に。  会議室にはパティさんが招き入れてくれた。見た目は少年だけど中身は6才だからね。中には中年の男性が正面に二人、黒剣団の皆さんとフラム様が左に。  僕が一番手前に腰掛けると、正面のおじさんが口を開いた。髭がダンディなだね。黒髪の中にアッシュが混じっていて中々モテそう。  同じ黒髪なのにロジャーとはずいぶん…… 『坊っちゃん、何を仰りたいんで?』 『なんでもないよ?』 「君がサウルか。私はドーソン。組合長だ。コミエ村のセリオ司祭には以前お世話になった事がある」 「はい。コミエ村のサウルです。今回は特別審査を行っていただき有り難うございました」 「ほう、殊勝な事を言うな。良い心がけだ。そのなりで6才。不思議な術の使い方からすると貴族か何かかと思えば、字も習った事のない貧農の出身。色々とアンバランスな子供だな」 「ありがとうございます」 「今のは褒めてないぞ」  ドーソンさんは顔をしかめた。 「まぁいい。結論を伝えると、君は9級に昇格だ。今後は普通の登録者と同じように昇格できる。ただ、君のタブレットは余り見せない方が良いだろう。ややこしい奴が興味を持ちそうだからな」 「ありがとうございます!」 「君はどこで活動する予定だ?」 「当分は、ここを拠点にします。コミエ村に定期的に通いますので」 「コミエ村はずいぶん遠いはずだが……。あぁ」 「はい。ホバリングがありますので」  さすがにその日のうちに往復可能とまでは言わないけどね。高度が出ないのが玉に瑕だけど、ホバリングは川の上も渡れるから、アレハンドロからコミエ村は一直線。寒さと顔に張り付いてくる羽虫にさえ目をつぶれば、バスカヴィル商会を出て2時間も有ればコミエ村に着くんだよね。  馬車でコミエ村からアレハンドロに来たときには5日掛かってる。泡倉の本当の大きさを言えなくてもこれは凄い事になると思う。  そこからは事務的な話が幾つかあり、解散となった。 「おい、サウル」  僕が会議室を出ようとしたとき、黒剣団のゴードンさんが声をかけてきた。 「はい?」 「今日は済まなかったな。だけど、今日からは同じ組合員だ。先輩として歓迎するよ。よろしくなサウル」 「こちらこそよろしくお願いします。先輩」  あれくらい、気を悪くする事じゃないからね。 【タイトル】 044 夏の夜の妖精 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2018-08-07 07:16:03(+09:00) 【公開日時】 2018-08-07 07:16:03(+09:00) 【更新日時】 2018-08-07 07:16:03(+09:00) 【文字数】 2,592文字 【本文(105行)】  冒険者組合には級があって、貢献度や実力によって10級から0級の11階級があるんだって。  僕がさっきまで入ってた10級は、見習いと呼ばれてる。非戦闘依頼だけが許可されてて、子供や街の徒弟が採取をするために入っていたり。怪我をして戦闘が出来なくなった人が席を残すために利用していたり。  9級は参入者、8級から7級は修行者と呼ばれ、6級から3級が冒険者と呼ばれる。つまり6級が一人前と認められる感じらしいね。でも小さい街とかだと7級でも当てにされるとか。  その上は、2級の到達者、1級の超越者、0級列神。ただ2級から上は実際にはいないんだって。一応、このアガテ王国の建国者である初代女王アガテは2級だったという話だけど。  それ、1級と0級作る意味あったのかな?  そんな感じの事を僕は聞いていた。  飲み屋のカウンターで、ゴードンさんから。  ゴードンさんは、僕の審査に来てくれた黒剣団のリーダーさん。ちょっと暴走気味だけど、正義感の強いまっすぐな人だと思う。詐欺とか直ぐだまされそうだけどね。  冒険者組合から出た後、フラム様やバスカヴィル商会の人達と誕生日と昇級を祝って食事会をしたんだ。街の居酒屋でね。まぁ夜に空いてる飯屋で粘れるところがないので仕方ない。見た目は僕も少年だしね。飲まなきゃいいでしょ。  その事もあって、早く帰りたかったんだよね。まぁ商会の人達は余り当てにしてなかったみたいだけど。  ちょっと遅い開始時間になったけど、居酒屋でワイワイ話してたら近くに黒剣団の皆さんもいて、一気に混沌としてきたんだ。ほんともう。これだから酔っ払いどもは。 「サウル、お前は中々見所がある」 「あ、はい」 「俺が絡んだ後、お前は『公平に』って言ったよな。あれは中々出来ない。普通はそこで何か要求を押し込む物だ」  ぐいっとグラスを空けるゴードンさん。次のエールが届くがぬるい奴だ。僕はそっと冷やしてあげた。  昼間は30度を超える位暑かったけど、今は23度。ひんやりとした空気の中虫の鳴き声と盛り場のざわめき。  なんかコウタロウさんの記憶の祭りみたいだなぁ。 「ん、んーーーそんなものですかね」  黒剣団を買収するのは失敗のリスクが高いし、その後脅される可能性もある。不正が発覚した場合、僕一人じゃなくてコミエ村にも確実に飛び火する。  そんなリスクは割に合わないよね。  でも、そんな事を言うよりも、ちょっと曖昧に笑顔をみせた。 「お。何だこのエール、すごく冷えてるな。山の湧き水みたいだ」 「えぇ。四大術でちょいと」 「……すごいな、お前」 「え、そうですか? 僕なんてまだひよっこで……」 「俺は四大術の事は分からないけど、うちのロブやサミーは仰天してた。ホバリングは絶対やってみるって息巻いてたぞ。  風を発生させる術はあったけど、組み合わせて人間が飛ぶなんて話は聞いた事が無いってな」 「そうだサウル。あのホバリングとやらは気に入ったぞ、私にも教えるのだ」 「え、いやフラムさん四大術使えないのでは?」 「何を言ってる! この私が使えない訳……が。うん使えなかったな」 『設定守ってくださいよフラム様』 『やー、すまんすまん。酒は飲んでも飲まれるなってな!』  その後は色んな人に絡まれながら食べたり飲んだりしてたけど、誰も僕の事構わなくなったので帰ることにしたよ。僕の誕生日だった筈なんだけど。まぁいいけどね。23時も近いし、いつもの時間に起きるのは難しい気がする……。  お酒を出す店の一角を抜けるとほとんど灯りは無い。僕はふらりと街を歩く。  まっすぐ部屋に帰ろうかと思ったけどなんか勿体なくて。  ほんとは。  こんな真夜中に、子供が一人街歩くのは危険なんだけど。  あ、ロジャー笑わないでくれる?  所々にある薄明かりだけを頼りに外壁へ。  アレハンドロの外壁と住宅の間は広い間が取られている。  演習用、防御用などの意味で。たまに冒険者や兵士が訓練しているね。  ここは、街中で見るより空が広く見えて僕は好きなんだ。  たまに来て、星や月を見ると落ち着く。  いつも僕が腰掛ける丸太の山に、先客がいる。  華奢なライン。女性だろう。僕は彼女の横顔をぼんやりと見る。  だって夜空を見上げる彼女のラインがとても美しかったから。  ほんの刹那か、それとも5分? 10分? ふと気づけば、彼女は僕を見ていた。  僕と彼女の視線が交差して、僕はふらりと彼女の方に歩んでいる。  もし《《魔物》》なら、何か得体の知れぬ《《何か》》なら、きっとロジャーが何か言うだろう。  でももしその《《何か》》であったとしても、僕は彼女に近づきたいと思った。  彼女に釣られ、丸太の山に登ると彼女の顔がよく見えた。  年の頃は13、14? そろそろお嫁に行く頃だ。  鎖骨まで掛かる黒髪。分けた前髪から彼女の笑みをたたえた瞳が見える。大きく丸い黒目がちの瞳。  暗い夜なのに彼女は太陽のように明るい。 「やっと会えたね」  弾むような声に、僕ははっとした。  僕は彼女を知っているのかな?  正気に返った?  いや、記憶にないなー。でもこういう時に迂闊なことを言うと修羅場になるってアラン様が言ってた。 「ぼ、僕も嬉しいよ」 「ふふ、ホントは誰か分かってないでしょ?」  ドキリとした。脳裏によぎるのはセレッサさんに折檻されるアラン様のお労しい姿。 「大丈夫。気にしないで」 「ありがとう。その、それで君は?」 「ふふ。また後でね」  そういうと、彼女はふわりと2m程も積み重なっている丸太の山から飛び降り、外壁へと走る。生身のスピードではない。  速度を落とさず外壁までたどり着くと、8mあると言われる外壁を一飛びで飛び越えていった。闘気法使ってもちょっと無理です。ええ。何あれ?  急展開に僕がポカーンとしていると、ガヤガヤと人の気配がしてきた。  あぁ、門番さんや衛兵さん達だ。 「おい、お前、冒険者か? 怪しい奴を見なかったか?」  知らない兵士が、僕に尋ねてきた。  んーーー、まさに見たばかりなんだけど。 「何か有ったんですか?」 「この真夜中にすさまじい早さで街を駆け回る奴がいるって事で通報があってな」 「んー、ちょっとわからないですね。ごめんなさい」 「お前もこんな所にいると、疑われても仕方ないぞ。さっさと宿に戻れ」 「あ、分かりました」  もう散歩する気分でもなくなったし、帰ろうか。  帰り道、ロジャーに聞いてみたんだけど教えてくれなかったよ。なんかニヤニヤしてるし感じ悪い。  部屋に戻ってさっさと休んだけど、あぁこんな時間か。明日は寝坊確定だなぁ。 【タイトル】 045 寝坊と職人 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2018-08-12 10:56:27(+09:00) 【公開日時】 2018-08-12 10:56:27(+09:00) 【更新日時】 2018-08-12 10:56:27(+09:00) 【文字数】 2,510文字 【本文(73行)】  8月11日。  僕が起きたのはもう日が昇った後だった。こんな遅くまで寝てたのは、村で風邪を引いたとき以来かな。あれは、ええと。今年の冬。まだ僕が目覚める前だね。  遅くまで、と言っても7時半なんだけど。  それでも商会の下働きの人は、慌ただしく動いてるし。行商に行く荷馬車を用意する声も聞こえる。多分、僕の分の朝ご飯はもう無いかな。  起き上がろうとすると、僕は僕の匂いに気づいた。みんなは気にしすぎだと言うけど。コミエ村の神殿では毎日お風呂に入っていたからね。実家では体を濡らしたわらで拭うくらいだったんだけど。 「なんかさっぱりする方法無いかな」 『精油などは?』 『そうだね、ロジャー。それも良いね』  でも、肌のぬめりがなぁ。んー。贅沢だとは思うけど。  などと考え事をしながら、着替えて階下へ。僕は商会の人間じゃなくてコミエ村の神殿から派遣されてる形。何をするかと言えば、術理具に関する相談役。  でも、僕の術理具はまだ僕にしか作れない。あ、アラン様はできるかも? でもアラン様はこの辺にいない。旅程2週間の王都の大学。  なので、術理具の制作者には僕が直接指導して。それがある程度形になったら売り物にするための改造をするんだってさ。そこで僕は色々相談に乗るから相談役、なんだけど……。  工房をちょっと覗いてみる。バスカヴィル商会の工房は本格的な物じゃなくて、修理や馬車の調整などのちょっとしたことが中心。その代わり色んな職人さんが働いてる。術理具の職人さんは2人。最近王都から来た人達でアラン様からのご紹介。  ……アラン様って、直接会うとありがたみがないよね。  周囲からの評判を聞くと凄い人だって分かるし、こうやって職人さんをさっと寄越す辺り、相当な人脈があるんだなって分かるけど。  赤と黄色のあのマントで、あの口の悪さだと、ね。  元々今日は冒険者組合に行くと伝えてある。でも、何か有るかも知れない。  僕は職人さん達に声をかけた。彼らのコーナーは高価な宝石、魂倉、金属などの素材が大小様々整然と並んでいる。コウタロウさんの記憶にある「ホムセン」みたい。  男性と女性の2人の他にお弟子さんというか下働きが3人。皆さん立ち上がって挨拶するので恐縮する。だって僕、ほんとは下働きみたいな物だし。頭下げられると……。  リーダーのブレンダンさんが話しかけてきた。隣には奥さんのユージェニーさん。  お二人とも二十代前半。お子さんは居ないと聞いてる。ブレンダンさんは細身で髭のダンディなお兄さん。ユージェニーさんはとても若い印象の女性。今の僕と並んでも違和感がない感じ。 「サウルさん、今日は冒険者組合だったんじゃ?」 「ええ、その予定だったんですが。昨日の宴会で……」 「お帰りも遅かったようですしね」 「面目ない。所で、何か問題などありませんか? 無かったら予定通り出立します」 「……そう、ですな」  ユージェニーさんが、ブレンダンさんのシャツの裾を引っ張るのがちょっと見えた。言いにくいこと? 「何でもお気軽に仰ってください。僕に出来る事ならできる限り要望に応えますよ」 「その、ですな……」 「あの!」 「なんですか? ジェニーさん」 「先日頂いた見本の術理具に使われた、木と石をもっといただけないか、と。あ、あとそれと、もっと他の素材があれば分けていただけません?」 「あぁ、あれですか」  僕の泡倉はとても濃い特徴的なエーテルを蓄えていて、そこに染まった素材はちょっと変わった性質を持つ。アラン様に分けた石や水なんかは、濃いエーテルを周囲にまき散らして、アラン様を癒やす助けになってるんだよね。きっと他にも性質が有ると思う。  最初の術理具には泡倉の木や金属を使ってる。ブレンダンさんに見本として渡したのもそれ。 「何故必要なんですか? 売り出す物はこの辺で採れるものを使うはずですよね?」 「ここのところ、ずっと見本と同じ物を作ろうとしてるんですが、上手く行かないんです。作り方はサウルさんから見せて貰ってます。最初は失敗続きでしたが、今では完璧に同じと思います。そうなるともう素材の違いしか……」  ん? 「売り出すのは、《《僕が渡したものの性能を落として適正価格にした物》》、ですよね。元の性能を目指す必要は有りませんし、元の術理具の素材は特別なものなので《《手元に無い》》、とお伝えしたはずです」  手元に無いというのは嘘だけどね。泡倉に山ほど有るけど。ていうか、泡倉中央のあの山、たった一つの山で、下から上まで辿ると暑いところの植物から寒いところの植物まで全部揃うのがおもしろい。  素材を余り分けたくないのは、別に意地悪じゃ無いんだよ。  泡倉の島は直径200km程度の島。ほとんど未開だけど、際限なく資源を提供すれば余り長持ちしないと思う。木は再生するにも時間も人でも掛かるし、石や金属は無くなればおしまいだし。  でも……。  僕が目を細めてお二人を見つめると、ちょっと居心地悪そうに目をそらした。  先に口を開いたのはユージェニーさん。 「んー、ごめんなさい。アラン、あ、ええとマサース教授からもロージーさんからも言われて納得したつもりだったけど。サウルさんはやっぱり6才には思えないわね。しっかりしてる」 「あ、ええと。どうも。確かに僕みたいな大きい6才児っていませんね」 「正直に言っても良い?」 「ええ。僕は正直な人は好きですよ」 「ありがと。アレに似た木と石、昔本で読んだと思うの。それを確かめたいし。あと、やっぱり凄い素材見たら、職人の血が騒ぐわよ! サウルさんも分かるでしょ? ね?」 「あっはっは。分かります。今度持ってきます。ただ……」 「な、なに? お金は無いわよ?」 「おい、ジェニー……。なんでしょうか、サウルさん。私たちに出来る事なら何でもおっしゃってください」 「いえ、ちょっと相談に乗って欲しいことがあるんです。僕が最近使うようになったホバリングという術があるんですが……」  そこから、お二人とお弟子さんも巻き込んで、議論が始まったんだ。気がつくと10時が近い。成長期の僕がお腹を鳴らしたところで、解散。  お二人には、専用装備の試作をお願いすることに。  しかし、10時過ぎかぁ。もうまともな仕事には取りかかれないかな。行くだけ行ってみよう。 【タイトル】 046 野生色の少女 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2018-08-23 18:56:34(+09:00) 【公開日時】 2018-08-23 18:56:34(+09:00) 【更新日時】 2018-08-23 18:56:34(+09:00) 【文字数】 2,388文字 【本文(95行)】  ブレンダンさん達と別れて、外に出る。向かうのは冒険者組合。  日も高く、気温も上がってきたね。28度を超えて湿度もそこそこ。  露店で果物とチーズと焼き串10本。水は飲み放題だから果物を半分食べて半分水袋に。チーズは保存食を兼ねて。焼き串は3本がお腹に収まり、残りは泡倉に。泡倉も暑いから悪くならないように気をつけないと……。  何度かコウタロウさんの記憶にある術理具を真似しようとしたんだけど、まだ上手く行かないんだよ。今は二重にした箱の間に氷を詰めて冷やしたい物を入れているんだ。  中身の管理は、手の空いたハイエルフさんに頼んでるんだ。今は術理具じゃなくて単に氷を詰めてるだけなので調整が出来ないのが悔しいなぁ。  ……おっとっと。今研究始めるわけにはいかないね。  しかし、僕の金銭感覚も変わってしまったよ。都会で僕、汚れちゃった……。果物もチーズも焼き串も、そこそこする。以前の僕の食費の基準は5クレ。今買ったのは120クレ。  歩きながら泡倉管理人のセニオとお話。木をそこそこの大きさのものを1本、術理具に利用しやすい石と水晶を一抱え。枝珊瑚を一本。渡したときに、新品に見えないようにお願いしておく。  そこは僕じゃ無くてセニオに指摘されてなんだけどね。また配慮が足りないってお説教されちゃった。ほんとセニオは口が悪い。わーっと罵倒するんじゃなくて、蛇が巻き付くようにチクチク言ってくる。セニオが僕に反対することは滅多に無い。無いんだけど、やっぱりちょっと苦手だな……。  セニオとのお話は時間が圧縮されるんだ。僕はずいぶん長く話してた様に感じてたけど、実際にはほんのちょっとしかかかってないよ。その証拠に、ほら。右下を見ればバスカヴィル商会の建物が見えるからね。  冒険者組合の近くに行くと、明るい茶色のマントを着けた人が建物の壁際に立っていた。フードを付けているのではっきりしないけど、多分女性だと思う。裾からのぞくブーツは女性物。  マントは、猪でも剥いで作ったのかすごく地味な色合いでアグーチ、いわゆる野生色というやつ。女性が身につけるには地味だと思うのだけど、とても丁寧に扱ってるんだろうね、ツヤツヤしてた。その色合いが何か僕の心の扉を開ける気がする。何か見覚えがあるような。  僕が話しかけようと一歩足を踏み出す前に、女性に声をかける人達がいた。 「おうおう、そこの地味マントねーちゃんよぉ、マブイ顔してんじゃんかよ。ちょっと俺たちと茶でもしばかんか? あ? お?」 「アニキ、マドモアゼルはフードを被ってるから顔見えないようですが?」 「うっせーぞ、俺様の心の目が見せてんのよ。こいつぁハクい! ってな!」  頭悪そうな色黒の兄ちゃんと、糸目ハンサムのお兄さん。冒険者かな? ならず者かな。どっちにしてもこの辺りじゃ見かけない人、だね。色黒さんはコミエ村の重戦士パストルさんと同じ、南の大陸から来た人だと思う。  僕もアレハンドロに来てからおおよそ2ヶ月。それなりには出歩いたんだ。だから自分のテリトリーでどんな人が居るかは見ておいたつもり。厄介そうな人は特に、ね。  さて、組合の中に誰か居たら、追っ払って貰おうかな。    野生色のフードを女性が取ると、中から現れたのは夕べ見た少女だった。少女は僕を見て輝くような笑顔をして、僕の方に走ってきた。  お兄さん達を居ないかのようにして。 「お久しぶり」 「え? ええと、夕べ会った人?」 「そう! 私のこと思い出した?」 「あ、いや、それは……」  ええ、どうしよう? 僕を助けてくれたのは、置いてけぼりになっていたお兄さん達だった。 「おうおうおう! そこの兄ちゃんよ。その姉ちゃんは今俺たちと楽しくお話ししてたんだ。ちっと引っ込んでてくれるか? お?」 「話し、ですか? あなたが一方的にまくし立てるのは会話じゃ無いですし、私は全く楽しくなかったですけど?」  あー、お兄さん方怒ってる! 怒ってるよ! ええと、どうしよう。四大術を市街地で使うのはまずかったよね。ええと。 「あぁ? 姉ちゃん、ちっと下手に出てりゃ調子に乗ってんじゃねぇぞ? あ?」  気がつけば、糸目のお兄さんは僕たちの後ろに回り込もうとしてる。  色黒兄さんが彼女に手を伸ばし……  彼女の肩を掴もうとしてる手を僕は掴んだ。彼の腕は僕より二回りは太い。もちろん腕力も全く違う。  が、僕は色黒兄さんの腕をしっかり握りしめ、止める。 「あーー?」 「や、やめてください。か、彼女嫌がってます」  威圧感たっぷりの大きな声に、思わずどもってしまう。  しかし、僕の周囲には黄金のエーテルがうっすらと漂う。加減無しの闘気法は《《色黒》》の腕を逃がさない。  怖い。  ゴブリンとは全く違った怖さ。  だけど、僕は引かない。  戦いの空気が鼻の奥をつんと刺す。  《《やるしかない》》。  僕が《《覚悟》》を決めたとき。 「おい、そこまでにしとけ」  黒剣団のゴードンさんが居た。その後ろには他のメンバーもいる。 「んだー? 田舎冒険者が俺たちにたてつくってーのかよ? あ? 俺たちはな!」 「アニキ、《《それ以上はいけない》》」 「ちっ」  糸目のお兄さんに引っ張られるようにして、二人は領主の館の方に去って行った。  途端に手足がブルブルと震え始める。息も荒く、エーテルは消し飛んだ。 「ふーーーふーーーー、ゴ、ゴードンさん、皆さん有り難うございました。助かりました」 「……ありがとうございました」  僕と少女が黒剣団の皆さんに礼を述べると、野次馬の人達も解散していく。 「組合にでも駆け込むかどうかすべきだったと思うぞ」 「す、すいません。気が動転してて」 「マスターがあんな奴らに負けるはず有りません!」  え?  僕は、彼女の強い勢いより、《《マスター》》という単語に驚く。  僕は思わず少女の顔を見つめる。  この顔は、ひょっとして? 「……事情があるようだな。新人、彼女を連れて組合の休憩所に行け。俺たちもすぐ行く」  良く分からないけど。  この野生色の少女は僕と深く関わりそう。  何故か確信していた。 【タイトル】 047 機人と前世 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2018-08-26 11:13:34(+09:00) 【公開日時】 2018-08-26 11:13:34(+09:00) 【更新日時】 2018-08-26 11:13:34(+09:00) 【文字数】 2,749文字 【本文(115行)】 「えっと、あの……」 「なんですか、マスター?」  僕と地味マントの彼女は組合の休憩所にいた。  休憩所は、夜は酒場で他は商談と打ち合わせの場所になる。今は正午前で、余り人は居なかった。  彼女は僕の前に座り、やたらニコニコしているんだけど、僕は彼女をどう扱えば良いのか全く分からなかった。  コウタロウさんの記憶に女性と記憶は無かったんだ。あ、いや有ったんだけど厳重に封印がされてる感じで。ロジャーはニヤニヤしながら姿を消した。なんだか黒猫みたいだった。最近、ロジャーは薄情だと思う。フラム様とばかり仕事してる。セニオは鼻を一つ鳴らしたかと思ったら接続を切った。呼びかけにも反応しない。緊急事態のベルを鳴らしても。セニオは僕の配下の筈だけど、忠誠心に大きな課題を持ってる気がしてならないんだよね。僕は。  ハイエルフ達は僕が何を戸惑っているのか理解できない様子。  仕方なくフラム様に聞こうとして、止めた。とても嫌な予感がしたんだ。コミエ村で目覚める前、色々いたずらされたけど、あの時みたいな感じ。 「あの、君は何か食べる?」  術理具の指南や組合の仕事、泡倉から無難そうな物を売ったりして、僕にはそこそこお金がある。彼女の支払いを持つくらいならできるし、その方が良い気がした。  あと、僕も何か食べたかった。成長期に入ってからは何か有ると直ぐお腹が減るんだよ。 「そうですね。その前に」  彼女がにこりと微笑んで 「名前で呼んでください、《《マスター》》」  とささやいたんだ。  いつの間にか増えていたギャラリー(天井からぶら下がってる探索者もいた)がざわりとして 「修羅場だ、修羅場」「名前くらい覚えておいてやれよ」「え? あいつ6才?」「マント、地味すぎ」「ホバリングの術、全然出来ねぇ」  と、好き勝手言ってる。  彼女の表情は、きっと僕が分からないと思ってる感じで。それを楽しんでる。  よーし。  やってやる。 「分かったよ《《ハンナ》》。名前を呼ぶよ。しかし、最近の女の子は急に大人になるんだね?」  よ、よし。ちょっとだけ、フラム様っぽくかっこつけてみたんだけど。  あ、ハンナ(?)がびっくりした顔をしてる!  外してたらホバリングで逃げよう。ええと、そう。コミエ村まで。そして一生村を出ない。 「さすがです、マスター!」  地味マントの彼女改めハンナはにっこりと笑った。  整ってるけど、綺麗すぎるわけでも可愛すぎるわけでもない顔。  でもそうして笑ってると僕は目をそらせない。 「……あと2日は遊べると思ったんだけど」 「今何か言った?」  僕は彼女のつぶやきが聞こえてたけど、聞かなかったことにした。  僕の周りって僕をいじるの好きな人多すぎない? 『さすが坊っちゃん、あっしは上手くやると信じてましたぜ! 後は押せ押せでさ!』 『おや。少しは推理の真似事が出来るようですな。そのクルミ並みの脳髄が重さに見合った働きをして何よりです』  ロジャーとセニオがすかさず祝辞を寄越してきたんだけど。セニオ、それ祝辞じゃ無くて皮肉じゃないかな? 「ちっ」「んだよ面白くねぇな」「爆ぜろ」「名前合ってたのかよ」「……おめでとうよ、クソ!」  という祝いの声も聞こえてきたけどシャットアウト。 「それでハンナ、どうしてアレハンドロに?」 「え? この姿の前に?」 「姿の前に」  ハンナはちょっと意表を突かれたみたい。良かったよ。多少は僕もやらないとね。 「もうすぐアランも来るの。ちょっと人と馬車を連れているから時間が掛かってるけど、今日の夕方には到着する」 「そうなんだ。アラン様が。また騒がしくなるね! で、ハンナが先行したのは何故?」「ん。この体に慣れておこうと思って」  ハンナは髪を弄りながら僕を見る。なんだろう? 僕の顔に何か? 「あぁ、そうなんだね。アラン様に危険が迫ってる、とかそういうことじゃないんだね」「う、うん」 「? ええと、で、その体は? そこは僕も人の事言えないんだけど」  僕は、5月に目覚めて3ヶ月で40cmも背が伸びて、体重は倍になってる。ハンナも多分同じくらい成長してる。  僕が大きくなったのは前世の、コータローさん絡みなんだと思う。ハンナは何故だろう? 彼女は機人とかいう自動人形の一種だと聞いたことがある。人形なのに大きくなってる? 「私は……」  ハンナは周囲を見渡す。もうギャラリーは居ない。けど、誰か探索者が聞き耳を立てている可能性はある。 『ロジャー、見張りと何か適切な処置を』 『分かりやした。ずいぶん久しぶりのまともな仕事ですな』  周囲に僕の知らない四大術が展開された。二層、いや三層かな? 僕たちを包んでいる。 『これは?』 『防音と偽装音でさ』 『なるほど』  僕が真似するには研究が必要かな? 多分、術自体も隠蔽できるような手段が取られている。 「もう大丈夫だよ。手は打ったから」 「え? ん。これはサウルが?」 「僕の部下みたいな人がね」 「どこにいるの?」 「それは秘密」  お腹の中とは言えないよね。 「私、以前、私が機人だということは話したよね。本来、機人は人工子宮の中で成人になるまで過ごすの。私も子宮の中でそれなりに育ってたみたい」 「でも、前回は子供だったね」 「うん。アランとセレッサに発見されたとき、私はほとんど死にかけてたみたい。肉も皮も骨もほとんど使い物にならなくなって、子宮は復元できない状態。  アランは他の発掘隊の反対を押し切って私の《《生きてる》》部分を取り出し持ち帰った。  王都の研究室では子宮の復元は出来なかったので、アランは非常手段を取ったの。私の生きてる部分、ほとんど脊髄と脳だけだったんだけど、それを定着できる体を作って動かした。  つまり前回会った私は、超未熟児だったの。本来子宮で行われる教育を間に合わせの体を使って、外で行ったってわけ」 「話が飛びすぎて良く分からないな。じゃぁ、今のハンナは本来の? それと肝心の話し、どうやってその体に?」 「あの体は成長できなかった。今のもそうだけど。そうね、それで前の体がぎゅうぎゅうになったから、王都でもう一回《《組み立てた》》の。《《色んな部分》》を取り出して。肉も骨も良くなった。だから《《今度》》はマスターの役に立てる」 「んーーー、ちょっと考えさせて……」  僕は魂倉のライブラリに降りたって、大急ぎで検索する。  コウタロウライブラリから幾つかの物語がピックアップされ、概要が知らされる。前世でも、心臓部を新しい体に移してパワーアップする思想はあったみたいだね。でも、それはもっぱらゴーレムなどの話。人間やそれに類するものの移植は禁忌に近いみたい。  肝心の機人については合致するものは無かった。  でも、手足が無くなったときに交換するという思想はあったようだね。 「何となく分かった。けど、なんで教えてくれたの? もちろん教えて貰ったのは嬉しいけど」 「だって私のマスターだから。前世もその前も。ずっと私のマスターだったから」 【タイトル】 048 二人と前世 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2018-08-29 16:51:37(+09:00) 【公開日時】 2018-08-29 16:51:37(+09:00) 【更新日時】 2018-08-29 16:51:37(+09:00) 【文字数】 2,390文字 【本文(76行)】  僕は、戸惑った。  ハンナと僕のテンションが大きく違う。  彼女は、ハンナは一世一代の告白をしている。でも僕はひどく冷静なんだ。ここは《《驚くべきなんだろうけど》》ついていけてない。  何がそうさせるんだろう。情報が足りない。 「前世、僕とハンナは一緒だったの? 古代文明の時代、どこにいたの? 僕の記憶にあった術理具、アラン様も土地神のフラム様は知らないと仰ってた」 「ん? マスターは覚えてないの?」  ハンナの口調が、ちょっとだけ以前の物に戻った。どっちも可愛い。 「そうだね。知識や技能は有っても記憶は無いんだ。お陰で折角のギフトも宝の持ち腐れ。コータローライブラリにはもっともっと凄い物が入ってるのは分かるんだけど失敗ばかりだよ」 「そんなことないとハンナは思うけど……」 「……いや、で、僕達の過去は?」 「ん。そうね……」  ハンナが居住まいを正す。 「ハンナが、一番最初に覚えているのは、大きな鉄の檻。私はそこで飼われている獣だった。後から聞けばデグーというネズミだったっていう話。マスターは私の飼い主だった。昼間ずっと私は一人だったし、マスターが帰ってくるのが遅くなったりして放っておかれた事も度々有ったけど、私はマスターが好きだった」  ハンナの顔が悲しそうに歪んでいく。 「でも、ある日。あなたはお風呂に行ってそこで死んだ。その事を理解したのはずっと後だったけど。だって、その頃私はただのデグーだったし。  灯りが消えて、部屋が冷え、餌も水も無くなって。それでもマスターは帰らなかった。だって死んでたから。  沢山の時間が過ぎた後、私も死んだ。飢えと寒さとマスターがいない寂しさで。  呼び鳴きをしても、おねだりのダンスをしても部屋は暗くて寒いままだったから」  僕の中を何とも言えない気持ちが渦巻いてるけど、ハンナの話は続いた。 「次に気がつくと、私は人の形をしていて、人としての能力を持っていて、そして再びマスターと共にいたの。マスターが神々に頼んで私を蘇らせてくれたと知った。当時、マスターは、マスターと私が別の世界から魂だけ取り出されたのだと仰ってた。  この世界はこれまで7回作られたと言われてるよね。これまで有ったと言われているのが、混沌生物の世界、巨人の世界、竜の世界、精霊の世界、水棲人の世界、石人の世界の六つ。そして今は100万年前に作られた七つ目の世界。  それぞれの世界はどこからか主神となる魂を導いてくる。そしてマスターとハンナは今の主神であるメトラル様と同じ世界から来たと聞かされた。  そして、私たちは管理する神の居ない領域、つまり地上ではない場所で暮らしたの。そして様々な事をした。剣も魔法も鍛冶も学問も思い付くことは全て。マスターは元の世界の全ての知恵を参照することが出来たし、何度死んでもやり直すことが出来たし、無限に鍛えることが出来た。ハンナは。私はできるだけ連れ添い、フォローしたの。  そしてある日、マスターは言ったわ。別の人間として転生するって。理由は教えてもらえなかったけど、きっと何か神々と取引したんだと思う。  ハンナは来るなって言われたんだけど。嫌だったから、仲の良かった女神様に頼んでこっそり転生した。でも、急いでたし魂が普通じゃ無いからかな。サウルと同じ所には行けなかった」  元々の世界で、僕は何か有って死んだ。ハンナも死んで、この世界にやってきた。主神メトラルと同じ世界から。そしてどこかの神の領域で過ごしてた? 何か有って転生して僕になった……。  んーー。  全然分からないよ……。 「知ってる限りで良いけど教えてくれる?」 「もちろん」 「主神メトラルと同じ世界から来たって事は、僕たちって神なの?」 「違うと聞いてる。ギフト大盛の人間。そのギフトも前世の頑張りで溜めたご褒美のような物と聞いてる」 「僕たち何か使命とか有るの? 以前コータロウさんの幻影が好きに生きろとは言ってたけど。なんだか、凄い話が沢山出てきて怖いよ」 「ハンナも怖いけど、何も聞いてない」 「中途半端だなぁ。コータローさんと神々は何をさせたいんだろう。物語の英雄のように、運命に翻弄されるのを見て見たいだけなのかな?」 「分からない。でもハンナはサウルと一緒に居る」 「でもハンナ。僕は転生して記憶も継続してないからコウタロウさんとは違うよ?」 「それでもハンナのマスターはサウルしかいない。それともサウルはハンナが嫌い?」  大きな黒目がちの目が、悲しそうに歪み、僕を見る。口調は昨夜の物と違い、コミエ村で会った頃の物にすっかり戻ってた。  僕はちょっと変わった術や術理具は知ってるけど、ただの参入者で、神殿の預かり子だ。一方ハンナはアラン様の養子でとんでもない力を持つ機人だ。僕がハンナのマスターになる自信が無いし、気後れがする。  でもだからってハンナのことは嫌いじゃ無い。  そう思ったとき、昨夜の彼女の様子が浮かんだ。  月光に照らされて浮かぶ美しいおとがいの線。 「嫌いじゃ無いけど。でも、僕は冒険者としてはただの参入者だし。  神殿の預かり子だよ? 将来的にはコミエ村の神殿で下男をするのが順当だし。自由になるにはそれなりのお金を積まなきゃいけない。もちろん神官のセリオ様はお優しい方だからすんなり通るとは思うけど」  ハンナが細く冷たい目で僕を見る。僕が思わずびくりとすると、椅子がガタっと音を立てた。 「つまり、サウルが冒険者の階梯を上がり、身分を買い戻せばハンナのマスターになってくれる?」  違う! そうじゃない! と反射的に叫びそうになったけど、それはまずいと僕は確信。 「う、うん。ハンナがそれまで待ってくれるなら」 「分かった。じゃぁハンナも冒険者になる。そしてサウルと組む」 「え、あー。うん」  僕にはそれ以外言えなかった。 『坊っちゃん、黒剣団が来ますぜ。五つ数えたら術を剥がしますんで、お気を付けて』 「ハンナ、術が剥がれるから、上手く合わせて」 「! ……ん。分かった」 【タイトル】 049 パーティ結成 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2018-09-01 18:40:47(+09:00) 【公開日時】 2018-09-01 18:40:47(+09:00) 【更新日時】 2018-09-01 18:40:47(+09:00) 【文字数】 3,064文字 【本文(100行)】 「サウル、彼女とは知り合いか?」  黒剣団のゴードンさんが、僕たちの掛けているテーブルに来て声をかけてきた。何か憑かれているような感じだけど、後ろにいる他のメンバーは僕に手を振ったりしているので多分大丈夫。 「はい。彼女、ハンナはアラン・マサース教授の養子で、以前僕と会ったことが有ります。ハンナ、こちらは冒険者の黒剣団の皆さん。昇格試験では僕がお世話になったんだ」  ハンナは立ち上がり、丁寧に頭を下げた。 「アラン・マサースの養子、ハンナ・マサースです。サウルとはコミエ村で親しくさせていただきました。今後《《サウルと共に》》ここで冒険者をしていきますので、ご指導よろしくお願いします」  あ。  僕がぎょっとしてハンナを見ると、こっちを見てドヤ顔する。適当に誤魔化して逃げようと思ってたんだけど、外堀埋まっちゃった……。  僕、預かり子の身分に不満は無いんだよね。だから僕が開放されるために必要な金額も知らない。村の人達も好きだし、兄も母も好き。父はちょっと……。……うん。ええと、だからずっと神殿でみんなの役立つように生きていければそれで良い。  どちらかと言えば、それ以外の選択肢がある事すら考えてなかった、のかなぁ。別に意地でもコミエ村に拘ってるわけでも無いし……。  しかし、ハンナとは前前世(もっと?)からの因縁かぁ。  ……おとぎ話みたい。でも信じてもいいかな。  ん? ゴードンさんがなんか挙動不審なような。ゴードンさんのこういう感じ、初めて見るかも? 「あの、ゴードンさん。ハンナはこう見えて4才ですよ。子供ですよ」 「え?! あ、あぁそうだったか。サウルと同じでちょっと変わった体質、なのか?」 「ええ」  僕のギフトや体質はちょっと変わった、で済むようなモノじゃ無いけど。今、アレハンドロではそういうことにしてる。  僕の急成長を見ても皆余り驚かない。前世が絡んでたりするとたまにおかしな事があるから。なのでおかしな事があれば前世絡みということで思考停止。お陰で助かってるんだけど。 「はい。恥ずかしながらまだ4つでございます」  誰? 僕と話すときと全然違う。と、ハンナを見るけど、ハンナは《《猫を被る》》ことにしたみたい。元デグーだけどね。  黒剣団の皆さんと僕とハンナが席に着く。ちょっと狭いので近くのテーブルを引き寄せて。人も少ないし問題ないと思う。 「参入者審査のことなんだが」 「はい。何か問題が?」 「今回9級となってるが、依頼全体の事と、ホバリング、他の貢献もあって8級でもよいのでは、と言う話が有った。しかし、戦闘経験の少なさで流れた。サウルは6級を目指すのか?」  ん? どういう意図だろう?  6級から3級の階梯名は文字通り『冒険者』で、そこから始めて一人前として扱われる事になる。ちなみに9級の僕は参入者。自衛以外の戦闘が認められる。8級、7級は修行者。黒剣団は6級。キマイラの咆吼は5級。アラン様セレッサさんは3級で、セリオ様、マリ様のコミエ村神殿の皆さんは4級。  ただ、人手不足だったり6級になるのが難しかったりで、最近は7級でも一人前と見なす事も多いみたい。  ちなみに2級は到達者で英雄。1級は超越者と呼ばれ、神々にスカウトされるんだってさ。最上位0級は列神。神様扱いだけど、名誉職らしく、たまに歩くだけでやっとのご老人がその地位に就くらしい。  このアガテ王国の建国王が2級から0級になってるとか。 「はい。まずはそこを目指します」 「お前は術理具や四大術での開発で名が知られつつある。わざわざ危険な冒険者をせずとも良いのではないか?」  馬車のことや、草刈り、マッサージの術理具はそろそろ名前が売れてきている。そこに僕とコミエ村が絡んでることも。四大術の方はちょっと言えないこともある。魂倉の部屋や呪文書はアラン様に口止めされてる。でも、術の改良や引数の考え方は応用できるところがある。  黒剣団の四大術師ロブさんも僕からヒントを得て助かったって言ってた。 「しかし、僕はコミエ村の神殿の預かり子です。いつかはコミエ村に帰りますし、あの辺りは物騒です。戦う力があるに超した事は無いです」 「そうか。しかし、ソロか。サウルは探索術やその系統のスキルは無いのだよな?」 「ええ」 「それでは上に上がるのは中々難しいぞ?」  ゴードンさんが言うのも分かる。いざとなればロジャーに頼む手も有るけど。それは違う気がするんだ。 「それなら私がお役に立てると思います」  野生色マントのハンナが口を開いた。 「スキルパスは開いてますし、エネルギーも。ますt、えっと、ですからサウルの助けにはなると思います」 「そうか、なら良いんだが。パーティ申請はしたのか?」  あぁ、組合に提出しておかないと。 「いえまだです」 「そうか。それで、さっきのならず者だが。領主の館に入ったのをサミーとロブが確認してる」  サミーさんは探索術と弓と罠。ロブさんは四大術だけど、山歩きなども得意。二人とも備考なんて朝飯前。 「領主様絡みですか? 王都の有力者の部下なんでしょうか? そう取れる発言もありましたし」 「そうかもしれない。だが俺たちでは王都の事は分からないからな。力になれず済まないな」 「いえ、とんでもないです。気を使って頂いて有り難うございます」  その後、キマイラの咆吼の皆さんの姿が見えないので聞いてみると、南方にダンジョンが出来たため、そこに向かっているとのこと。  ダンジョン……。  ダンジョンって『地下牢』という言葉が元だってコウタロウライブラリが言ってるけど、どこにでも《《生まれる》》。入り口は地下へ向かう階段だったり、宙に浮かぶドアノブだったり様々だけど、その中は地上とは別の場所。  迷宮だったり、平野だったり、森だったり。居るのは魔物。稀に幻魔。  集落の側に出現した場合、早めに手を打たないと集落が飲み込まれることもある。  ダンジョンは、一つ一つに個性があり、油断ならないもの。  こうだろう、という、思い込みや常識が罠になる恐ろしい場所だ。  だけど、そこを踏破するのが冒険者の花だ。生きて帰れば素晴らしい宝を手にすることもある。  そのダンジョンにキマイラの咆吼は向かった、と。街道から少しだけ離れた場所だったので、発見も早く、収束も早いだろうとのこと。  なんだかんだ言ってもキマイラの咆吼はアレハンドロの若手では一番と言われるパーティ。ゴードンさんは安心しているみたい。 「キマイラの咆吼は階梯こそ5級で俺たちの一つ上だが、実力は既に4級だと思っている。発生したばかりの物のようだし、数日で帰ってくると思うぞ」 「ちなみにどの辺りですか?」 「王都に向かう街道を10kmくらい行って、そこから森を1時間、だったか」  この国の集落は、森の中に浮かぶように出来ているのだそうだ。アレハンドロのような大都市でも、数キロも離れれば森林。  森林には魔物も動物も居る。戦う力に乏しい一般人にとっては森は恐ろしい場所なんだ。  開墾し、道と集落を作る事で森という化け物と闘う。  だから草原や畑は、人類の勝利の証し、みたいなところがある。畑は集落の外に作って、いざとなれば見捨てることになってるけど、それが出来ずに魔物に抵抗して殺される農民さんは多いのだそうだ。  森の中へ1時間ということは、狩人か冒険者くらいしか立ち入らない奥地ということになる。多分、猟師さんがみつけたんだろうね。  しばらく話しているとゴードンさんは僕が本気なのかどうか心配してたのだなぁと分かったよ。まぁそこは納得して貰って、解散した。  さて、組合には申請出さなきゃ。  ソロだと特に名前付けなくても良いけど、一応パーティになるからね。 【タイトル】 050 ポリシーと命名 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2018-09-05 19:35:19(+09:00) 【公開日時】 2018-09-05 19:35:19(+09:00) 【更新日時】 2018-09-05 19:35:19(+09:00) 【文字数】 3,021文字 【本文(126行)】  僕は名前を付けるのが苦手なんだ。  ホバリングについても1時間くらい悩んでる。フライ、フラップ、エアリアルなどなど。術自体の構築より苦労したくらい。  そして僕たちはパーティ名について、考えないといけない。  登録は早い方が良い。 「ハンナ、何か希望ある?」 「美味しいお肉一杯食べたい!はどう?」  近くのテーブルで果実水を飲んでたおじさんが霧を吹いた。僕もパーティの名前としては攻めすぎだと思う。 「それはパーティ名にはできないなぁ」 「じゃぁ肉盛りパスタ」 「肉から離れた方が良いと思うよ」  パーティ名は、お店の名前、村や町の名前のようなもの。僕たちへのイメージを決めるものだから。 「じゃぁサウルは?」  もうマスター呼びはしないのかな? と思いつつ。 「パーティのコンセプトを決めないといけないね。僕とハンナは前世持ちという共通項があるけど、それは冒険者のポリシーとは関係無いし」 「ポリシー……。ハンナはサウルに……。あ、う。ハンナは、機人は。マスターの望むとおりに頑張るから、ポリシーは思い付かない」  そのとき、チラリと護符が目に入った。  フラム様から貰ったもの。  フラム様が言ってた。神は今地上に居ないって。  僕は、前世でハンナと一緒に神域のような所にいた。そのままでも良かったはずなのに地上に降りた。けど生まれ変わった僕には特に使命は無い。コウタロウさんの記憶は僕に自由に生きろと言った。  コウタロウさんは別の所からきた。主神メトラルと同じ世界から。  でも僕は神じゃ無かったらしい……。  神ってなんだろうなぁ。  僕がコミエ村で生きているだけで、フラム様が活性化し、復活のきっかけになった。と言うことは、目覚める前の僕でも神を揺り起こせる。今だとどうなんだろう?  フラム様の力は凄い。ロジャーの事に直ぐ気づいたし。でもウェイトレスのジーンさんと同棲してる。すごく享楽的で、神殿で習った立派な人格者、というイメージは無いんだよね。  最下位の土地神があれだけ凄かったのに、古代文明は幻魔との戦いに負け、世界は法則を改変され、滅びかけた。けど、それをギリギリ最後のタイミングで復活王が振り払ったのだという。  人は幾つかの種族が欠けたけど生き残っている。  でも、神は去った。  神かぁ。  そもそもロジャーやセニオ、泡倉のハイエルフ、エルフ、その他の住人。  聞いても教えてくれないのは間違いない。  多分、僕には自分で考えて欲しいんだと思う。そうさせたいんだろうと気がついてきた。  僕に何かを期待している。そう思う。 「ねぇハンナ。僕たちの冒険は神様のことをテーマにするのはどうだろう?」 「神様? それは泡倉とかが関係してる?」 「あ、うん」 「ハンナは別に構わないと思う。でも、新しく仲間を入れる時には慎重にしないといけないかも」 「あー、うん」  ハンナの言うことももっともだ。もし僕とハンナ以外の誰かを仲間に入れるなら僕たちのややこしい事情を話さないといけない。かも。  テーマが別なら構わないだろうけど。  あ、でも、テーマに至った理由で本当のことを隠せば?  でもそれは嫌だなぁ。  じゃぁ、他にテーマを考える? 「ハンナ、テーマは神様にしよう。で、パーティの名前は『《《神々の夜明け》》』というのはどうかな? 色んな所を回って神様を覚醒して、世界を古代文明の前、理想郷の時代にするのを目標に」  まぁ僕も大きく出たなと思う。  ハンナは一瞬大きく目を見張ったが、すぐにくすぐったそうに笑った。  やっぱりハンナの笑顔は良いな。 「神々の復活は冒険者の夢の一つ。古代文明や神話の復活を目指す、今の世界の前の欠片を探すと頑張る学者もいる。サウルとハンナは前世という大きなヒントがある。きっとできる」  前世とライブラリは大きいね。  僕の潜在能力はほとんど制限無し。  ハンナも機人という伝説の存在。  普通の冒険者より、きっといける。  でも、さ。  僕の口から、ふふっと笑みが漏れた。  ついさっきまで、コミエ村で一生終えるつもりだったのが、神々の秘密を追う、なんて大それた事考えるなんて。  ほんと流されやすいな、僕って。  ハンナのことは今では大事な仲間、いや、相棒かな? そんな風に考えてる。  笑顔も可愛い。  ハンナが笑うと、照明が有っても暗い組合の中が明るくなったようになるし。  以前のコミエ村での様子を考えて、さらに探索術を身につけてるんなら、きっと僕と彼女は良いコンビになる。  ただ……。 「ねぇハンナ。これから冒険者活動を本格化させるなら、コミエ村に相談が必要だと思う。お金のこともあるし、バスカヴィル商会の事もあるし」 「ハンナもアランに相談する」 「え? 許可取ってなかったの?」 「うん」  ハンナは、当たり前のようにうなづいた。 「思いつきだったの?」 「違う、ずっと考えてたよ。でも言ってなかっただけ」 「アラン様は、夕方来る予定だったっけ?」 「うん。そう。コミエ村に送る職人なんかと一緒に来る」 「それなら、どうしようかな」  今、お昼くらい。右下は12時半前。ホバリングなら、馬車で半日の場所に行くのは簡単。でも、僕一人で行ってもしょうがないよね。ハンナをどうやって連れて行こうかな。 「ねぇハンナ。ハンナは四大術使えたよね?」 「うん。最後にあったときより上手になった」  うん。ホバリング教えてみよう。駄目なら、あの時の壁越えの身体能力ならきっと何とかなると思う。 「じゃぁ、僕の四大術の一つを教えるよ。ホバリングという移動用の術」 「それでアランを迎えに行くの?」 「うん。そうしようと思うんだ。ただ……」 「なに?」 「うん。ちょっと食べてからにしよう」  休憩所のウェイトレスさんに一品とお水を頼み、泡倉から肉串を取り出して。冷えてるけどさすがにここで火をおこすわけにも行かないもんね。我慢しよう。  あ、水も出せるけど。持ち込みばかりというのも、気が引けるし。  軽食(?)を取りながら情報交換。最後に会ってからの事を中心にね。  組合の職員さんが交代で食事を摂るのを横目に見ながら。  僕の方は、あまり変わったことが無いけど、ハンナの方は中々すごい。  大学での派閥争いや貴族の干渉でハンナの所有権が国に移りそうになった話は、すごく腹が立った。人を何だと思ってるんだ! って怒ったらハンナが「ハンナは機人」と突っ込んでくれて、なんだか怒りが醒めた。  改造も、肉体が狭くなったので、神経やらを取り出して植え替えると言う話で。今のボディの開きをアラン様、セレッサさん、ハンナの三人でチェックしたり修正したりしたそうなんだけど。  僕は怖いよ。自分をかっさばいて、自分の開きの中に詰め込んでいくんでしょ?  なんかぞわっとするよ。  食欲の出ない食事の後(お残しはしなかったよ?)、演習場でホバリングの教授を行ったんだけど、楽だった。  ここの冒険者の人達は、僕のやってるのを見て、説明を普通の口頭で聞いてやってた。だから、術の仕様とかが伝わらない。  でも、ハンナはアラン様から魂倉と呪文書の使い方を習ってたみたい。なので、呪文書に載せてる象徴の名前や式で話せた。  将来的には、口頭を通さず、呪文書の情報を直接渡せるようになりたいなぁ。  そんなこんなで、ハンナは僕のホバリングをあっけなく習得した。大体1時間くらいかな? 教授が10分で、後は実地の練習。  これで、ハンナが持ってる術を僕も直ぐ使えるし、お互い改良したらすぐ上書きできる。良い事尽くめ。  僕は嬉しくなって、思わずハンナのあごの下をなでた。ハンナは途端に目を細めてうれしそうな顔になり、何故か右腕を挙げた。 【タイトル】 051 教育振興とドライブ 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2018-09-08 17:22:15(+09:00) 【公開日時】 2018-09-08 17:22:15(+09:00) 【更新日時】 2018-09-08 17:22:15(+09:00) 【文字数】 3,339文字 【本文(127行)】  ハンナがあっという間にホバリングを習得すると、組合の人やたまたま居た冒険者の人達が寄ってきた。  とは言え、まだ姿勢制御が甘いし、制動が遅れる。機動性の高い魔物や馬などと渡り合うのは難しいかも。  ……。  僕の場合は度胸の面で難しいかも知れないけどね。  ハンナはその辺、僕より思い切りが良い。  幾つもの風の流れを出して浮かび、姿勢を制御する。強い風を背中から吹き出して帆船のように進む。  ホバリングは、それだけの術。とはいえ、僕とハンナ以外にはまだ成功してない。術者は身体感覚が弱い人が多いし、複数の流れを制御し続ける、という事に慣れてない。  もし、僕がホバリングを広めるつもりなら、ホバリングの前段階にあたる課題を出すべきかも知れない。  ふむ。なら。  皆が物珍しさも相まってハンナと騒いでる間に、僕はちょっとした物を作ろう。  四大術を使う前に、十分エーテルを呼吸する。  今回はひたすら地を使う。仙骨近くの霊的センターを十分に意識する。  さて、まずは大理石の机。  幅1.5m、奥行き3m。  ずずずずっと演習場の地面から沸いてくる。  台の周囲には高さ10cm程の壁。  これも大理石。  コミエ村で石舞台を作ったときは、簡単に作ってしまえたんだけど、ちょっと疲れたな。  次に、術理具の試作用に持っていた、ちょっと良い皮を取り出して、ちっさなクッションを作る。一辺5cm程の正方形高さは3cm程。転びやすいように丸みを付けておく。中にはボロ布を入れて型崩れしないように。  そうして、手前と奥の壁に30cmほどの穴を空け、代わりにゲートを付ける。ゲートの間には荒い丈夫な網も付けた。  コウタロウライブラリの卓球、サッカー、エアホッケーからアイディアを頂いてみた。で、このクッションを台に乗せ、エアで浮かせる。前後左右で自在に動くことを確認すると、こちらと向こうのゲートの前に、5個ずつ置く。  ふと気づくと、さっきまでハンナと騒いでた組合職員と冒険者達がじーっと台と僕を見つめてる。 「えーとホバリングの練習用にゲームを作ってみました」 「おお」「見事な台だな」「なんで大理石?」「皮のクッション?」 「二人で行う対戦のゲームです。まず、このクッション5つが一チーム。先に、全てのクッションを相手のゲートに入れた方の勝ちです。  ただし、台の中に手を入れてはいけません。棒なども無し。四大術だけで操ってください。それと、クッションが台についても構いませんが、移動するときは必ず浮上すること。後、この台の壁より上に行ったら反則ですし、相手のクッションに術を掛けても駄目です」 「つまり、四大術でクッションを一度に複数操作して、相手との駆け引きをさせようと?」  組合の事務方の人がそうまとめた。  確か、術関係の申請などを行ってる人。 「そういうことです。実戦でも使えるように、と考えると、中々良い訓練方法でしょ?」 「これは、サウルさんが考えたのですか?」 「ええ、まぁそうです。急ごしらえなので穴はあると思いますが」 「いやいや、中々これは面白そうです。ルールについては追い追い改良すれば良いでしょうし」  早速一つ大理石の台を誰かが作ってた。クッションを別な人が作ってる。  僕の方が上手だけどね。と、ちょっと鼻が高い。  ハンナも何故か威張ってた。可愛い。  そこから、僕とハンナが模範試合(?)を行う流れに。まぁしょうがないよね。  なんとか僕が勝ったのは良かった。  ……ちょっと練習しておこう。  模範試合が終わると、四大術を使える人達が早速練習を始めていた。周りもワイワイとあーでもないこーでもないと騒いでいる。  皆の注目が無くなったところで、僕とハンナは組合を離れた。  職員さんが見てた気がするけど、止められなかったから良いんだと思う。  しばらく歩いて、壁から出る。振り返れば、アレハンドロの壁はいつも通り分厚く信頼できそうだった。 「さて、ハンナ、もうちょっと先に行ったらホバリングを使おう。ここだと、砂をまき散らして迷惑をかけちゃうからね」 「分かった」  そういうと、ハンナは走り出した。あれは闘気法を使った走り。  僕も慌てて闘気法を使い、走った。  自分の中とエーテルと魂倉を使ってエネルギーを生み出し、循環させ、自分を思い通りに変える。  別な系統を起動するときには、切り替えに覚悟が要る。いきなりのことだったから、ちょっと出遅れてしまったよ。   しばらく走ると人が少なくなったので、ホバリングに切り替えた。  ホバリングは気は使うが、体は楽。  そのうち姿勢制御も術で補えるようにならないかと考えてる。  まだ上手く行ってないけど。  最初は人が走るほどのスピードから始め、馬の駆歩、闘気法での持久走のスピードへ。そして最終的には時速60km程になった。  ハンナは大喜びで、更にスピードを上げようとしたが止めておいた。  どうも細かい制御が怪しい感じがするんだよね。  なので、ちょっと追いかけっこしたり、じゃれ合ったりしながらホバリングの練習。一度転倒しそうになってヒヤリとした。  以前、試したんだ。  だって、落馬したら死んじゃうこともあるって聞いたし。猪が人にぶつかって死んだ話も聞いた。ならホバリングで転んだり何かとぶつかったら?  要らない革袋に泥を詰めたものを幾つか。泡倉のハイエルフの一人にお願いして。  泡倉の海岸で革袋を落としたり、立木に当てたり。  中の泥を赤く染めたいたずら者がいて、中々迫真に迫っちゃってたよ。  一応それを確認してから、手槍での突撃練習とかしたんだ。  今付けている防具は、要所を皮で守ってるだけの厚手の服。道で転ぶくらいなら何とかなるかも知れないけど、ぶつかったら死んじゃう。  ハンナは野生色マントに何か青い服。  うん。気をつけよう。  ハンナの顔に傷が付いたら大変だしね。 「サウル!」 「え? 何?」  アレハンドロを出て1時間くらい。ハンナに聞いたとおりならそろそろアラン様達と合流するはずだけど。  ん? ハンナが何かに気づいたみたい。だけど風が強くてよく聞こえない。  仕方が無いので、手を挙げて、徐々にスピードを緩めるように支持して停止する。  この辺も今後の課題だなぁ。  防具、通信手段、か。あ、あと、顔に虫が当たるのが嫌。地味に痛いんだよ。 「どうしたの?」 「このまま行くと戦いの気配に突っ込む」 「どれくらい先?」 「1km、くらい。どうする?」  アラン様達の可能性が高いけど、そうじゃない可能性も有る。 「戦ってるのは、誰?」 「分からない。けど、人と人が戦ってると思う。ハンナは探索術が3あるよ。偵察する?」 「探索術が3、か。それは中位技能の?」 「うん。下位技能もちゃんと幾つかあるよ」  技能は、上位、中位、下位の三段階がある。下位技能は個別の技のような物。四大術ならそれぞれの術。闘気法ならそれぞれの技。中位技能は、それを統合する物。中位技能が1レベルあれば、その下位の技能が全て底上げされる。  一般的には下位技能しか持ってない術者がほとんど。中位を1レベルでも持っていれば大騒ぎだ。  僕みたいな例外を除いて。  僕は、全ての技能パスが開いてるし、エネルギーも大量にある。  技能を上げるには通常神殿で喜捨をして、神術を使って儀式をして変更してもらうんだけど。  僕はなんと自分で神術を使える。泡倉で儀式をすれば人目に付く心配も無い訳で。  色々取らせて貰ってる。  ちなみに、下位技能1レベル有ればその技能をちゃんと使えると見なされ、3は大した物。4を超えれば達人。下位の最高レベルは10。  それなのに中位技能を1レベル持てば、その下位技能は全部1つ上がった物と見なされる。だから、中位技能はすごいんだよね。術の中位技能一つあれば、その術系統の術全部1レベルアップなんだもの。  上位技能は、術系統全て、とか。武器の技能全てとかそんな感じらしいんだよ。ホントにあるのかどうか分からない、と言われている。  僕は取れそうなんだけど取ってない。  だってなんか怖いよ。  もし取らなきゃいけないにしても、もうちょっと色々学んでからしたいな。  ハンナが探索術を持ってるのなら、お願いしよう。僕は探索術生えないし。エネルギー注いでも増えないんだ。 「じゃぁなるべく遠くから、気づかれないようにお願いね」 「任せて。マスター」  ハンナは道を外れるとあっという間に姿を消した。  すごい。 【タイトル】 052 戦闘開始 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2018-09-16 19:45:30(+09:00) 【公開日時】 2018-09-16 19:45:30(+09:00) 【更新日時】 2018-09-16 19:45:30(+09:00) 【文字数】 2,643文字 【本文(129行)】  ハンナが戻る前に、少し《《泡倉の三人》》に連絡。  僕の物資が置かれている倉庫近くに居たのは、生産系が得意なアーダという女性のハイエルフ。リーダーのイェニとマルックはいなかった。僕が頼んだものを作るための材料探しだとか。  僕が泡倉を使うとき、おおよそ望みの所に手を突っ込めるけど、細かい部分までは見えない。どうしても手探りになるんだよね。顔まで突っ込めば別だけど。  なので、戦闘時なんかで咄嗟にものを取り出したいときには、専用の場所を作ってるんだ。  倉庫の一部に区画を作り、そこを縦横4つづつに区切って16区画。そこに決まったものだけ置いておく。補充はハイエルフ三人衆にお願いしてる。もちろん、僕も手伝えるときには手伝うよ? コウタロウさんの記憶が「ブラックは駄目だ」ってささやくからね。なるべく働きやすい環境を作ってあげたい。  さて、今回はちょっと考えてる事があるので、区画の内4つに、とあるものを詰め込んで貰った。足りるかどうかは分からないので、アーダにいつでも補充できるように待機してもらう。……生産はさすがに間に合わないかな? いざとなれば三人に四大術使わせるか?  かなりの重量があるそれらを、アーダはあっという間に配置する。エルフは肉体を半ば捨てた種族だって聞いてたけど、ハイエルフは違うのかな? それともアーダが?  おっと何か寒気がするのは何故だろうね。  周囲に気を使いながら5分後、いきなり後ろから肩を叩かれた!  ビクッとすると同時に 「ハンナだよ」  と言われてほっとしたよ。やっぱり僕も探索術か、五感の強化が出来るようになりたいな。 「どうだった?」 「馬車が三台。守る人は少ない。アランいた。セレッサは見えなかった。魔物と人間の襲撃者。組んでいるわけじゃ無さそうだけど。良く分からなかった」  ざっくりと地図を書いて貰う。僕たちから見て手前に人間の襲撃者が5人ほど。馬車の向こうに魔物。魔物はゴブリンとゴブリンより強いホブゴブリン。半分以上は倒されてるけどまだ10体くらい。馬車は、周辺に炎の壁。戦えない人達は荷台で。前後に数名。アラン様は人間側。炎の壁はアラン様が出してるんだろう。  しかし。 「アラン様の様子は?」 「苦しそう。エーテル沢山漏れてる」  そう。  アラン様に送った術理具のベルトは、アラン様の魂倉や霊的センターから漏れるエーテルを強制的に供給するもの。  アラン様が普段以上に術を使えば、当然漏れる量も増える。そしたら供給が間に合わなくなって、苦しくなる。  一応の解決策は組み込んでるし、アラン様も知ってるけど、使ってないみたいだね。ほっとしたよ。 「僕たちが行けば助けになる?」 「なる」 「勝てる、かな?」 「勝てるけど。サウルは、まだ人を殺してないよね?」  そう。僕の実戦は、こないだのゴブリンだけ。いつかは人ともやり合うつもりだったけど。さっきのならず者相手にはびびってしまってた……。 「……でもやるよ。アラン様を助ける」 「分かった。ハンナはサウルを助ける」 「でも、なるべく遠距離で行くけど」 「良いと思う」  どう攻めるか。まずは人間の襲撃者からだね。上手く助けたいから。そうだな。 「よし、僕がホバリングで突っ込んで、一発大きいのでびっくりさせるよ。ハンナは僕がやってから突っ込んで。僕は後を追う。そしてアラン様を助けるよ」 「分かった」 「僕は全速を出すけど、ハンナは無理せずにね」  さて、やってみよう。  ホバリングの術式を魂倉に取りに行く。魂倉の呪文書から術を呼び出す。  呼び出された術は僕が与えたパラメータとエーテルを取り込んで具象化する。 「ホバリング、開始」  いつものパラメータセットとは違うホバリング。  野生動物などを追い払いながら進むために作ったセット。  いつもの倍以上の騒音と、砂埃。はっきり言って目立つはず。でもそれが目的だから問題ない。  ハンナはかなりびっくりして、僕から一歩離れてしまってる。 「ぼ!!! ……そ!!! …… !?」  術の音が大きすぎて、ハンナの声が聞こえない。でも、多分「暴走か?」みたいな事を言ってるんだと思う。  大丈夫という印に、僕は両腕で大きく丸を書いて、その後、進行方向を指した。 「行くよ!」  聞こえたかどうか分からないけど、発進だ。  さすがに人が居る近くで全速を出すと危ないので、最初はゆっくり。  しかし、すぐ急加速をかける。  ただしほんの数秒だけ!  練習でも出したことの無い加速に体がひっくり返りそうになる。  必死で前傾姿勢を保とうとする。  景色が流れる。  頬が引っ張られてよだれが垂れる!  前しか見えない!  ちらりと右下を見れば時速150km? 160?。  風が痛い。  目を開けられない。  でも、僅かな視界の先に、見える。あれだ!  そしてアラームが鳴り、急ブレーキ!  か、体が! 前に吹っ飛ぶ!  想定外!!  慌てて、というか何も考える前に反射的に5本の風の管が僕にぶち当てられる。  めっちゃ痛い!でも、無事に止まったんだよ。助かった。  視界が晴れ、全体が見える。  およそ100m程先には半壊した馬車と炎の壁、襲撃者に魔物、アラン様も。  皆こっちを見てる。  よし!  僕は名乗りもせずに、次の手を打つ。  頭上に輝く円が《《4つ》》。それぞれ泡倉の区画に繋がってる。  そこにあるのは、椎の実型の鉄片。一つ数グラムのそれだけど、音より早く打ち出せば、先日の手投げ矢どころの威力じゃ無い。  問題は…… 「ウワーーーーーーーーー!!」  僕の叫び声が、炎の壁が立てる音と混ざる。  《《まずは、100発》》!  4つの穴から弾が出る端から全力で撃つ!  恐ろしい雷のような音がドロドロと鳴る。  狙ったのは、真ん前の襲撃者の手前。  街道の地面をほじくり、弾丸は《《その辺》》に撃ち出される。  次の瞬間そこにあったのは赤い霧と襲撃者のすねから下。  余りの光景に、僕の心は凍ったままだ。  そして、僕は気づいた。  アラン様の体に無数の傷が有り、左手首の先が無い事を。  沸騰する。  沸騰する。  沸騰する!!  ゆるせない  ゆるせないぞ!!  あいつら  あいつら!  あいつら!!  ころす  ころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころ……  ガツン  唐突な衝撃に僕は冷えた  気づくと、僕の横にロジャーが居て僕をじっと見ていた。  その目の色は分からない。 「お目覚めですかい? 坊っちゃん?」  僕は、ぶるりと震えた。 【タイトル】 053 守護者の情 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2018-09-26 17:26:15(+09:00) 【公開日時】 2018-09-26 17:26:15(+09:00) 【更新日時】 2018-09-26 17:26:15(+09:00) 【文字数】 2,827文字 【本文(107行)】  しばらく、僕は呆然としていたみたい。  襲撃者の一人が血煙と化して、人形のように立っていた下半身が倒れた。  アラン様は黙ってこちらを見ていた。顔色が悪い、早く治療しないと……。  だけど、肉体の傷とエーテルの過供給が僕を痛めつけ、考えをまとめられない。  人と人の織りなす暴力の気配。  初めて間近で見る人の死、親しい人の傷つく姿。  僕の感情がまた沸き立ち始める。  体から金のエーテルが吹き出し、僕の目にもはっきり写っていた。  折角ロジャーが鎮めてくれたけど、やはり我慢できない。 「坊っちゃん、ちっと頭を冷やしなせ」  ズルリ。  何かがごっそり抜けるような音がして、視界が色を失った。  いつもの魂倉に似ている。  だが違う場所だろう、何故なら全ての風景が怒りに燃え立つように揺れている。  魂倉なら本棚と呪文書とリビングがある。ここに在るのは怒りだけだ。 「いや、ここは坊っちゃんの魂倉でさ」 「ロジャー! そんなことより僕をここから早く戻して! アラン様を助けなきゃ! それにセレッサさん達も!」 「そうはいきやせんよ。坊っちゃん、今あんたを戻したら、酷いことになりやすからね」 「《《いいから早く!》》」  その時、周囲が更に燃えさかり、凄い音を立てた。  その音が僕を更に駆り立てる。急がなきゃ。殺さなきゃ!  赤く、赤く、更に赤く! ぼくのこころはもえあがる 「坊っちゃん! いや、コミエ村のサウルよ、土地神フラムの加護受けし者よ! 神々の友コウタロウの前世持つ者よ! 汝が魂倉の守護者ロジャーの声を聞け!」  ロジャーの大声と、その思いが僕を貫き、頭が、冷えた。同時に周囲の火も、まるでロジャーを恐れるかのように視界から消えた。そうしてみると、確かに本棚が見えてきた。ただ、なんだか蜃気楼のように揺れているけど。リビングもとても遠くに見える。呪文書も。  ふと、目の前に立つロジャーの顔色がとても悪いことに気がついた。魂倉の中だというのにまるで幻のように存在感が無いんだ。  いつもの黒い貴族風の服、黒髪、無精髭。それが目の前にあるのに目を離せば消えそうに見える。  僕は、冬に水浴びしたみたいにゾッとした。背筋が凍り、魂倉の温度はあっという間に氷点下になる。本棚につららが下がった。 「ロ、ロジャー」 「これくらい、なんてことは、と言いたいところですがね。ちょっと頑張りすぎましたな」 「ぼ、僕のせいで」 「坊っちゃん、そういうのは後にしましょうぜ」 「で、でも」 「いいですか、坊っちゃん? 何となく分かったでしょうが、坊っちゃんは心を無くせばあっという間に力に飲み込まれちまいます。その力は膨大で、あっしもお助けはしますが、基本は坊っちゃんだよりでさ」 「うん」 「もし坊っちゃんが力に飲み込まれてしまえば、恐ろしいことになるでしょうよ。地上の誰も止められんかもしれませんぜ。ひょっとすると幻魔がそれを狙って唆すかも」 「それで、ロジャーは僕に仕えてたのかい? 僕が暴走しないように」 「いや、それが」  ロジャーはにやりと顔を歪め、鼻で笑った。 「誰も彼も『ほっとけ』と、『そうなったらその時のことだ』って言うんでさ。ひでー話でさ。『そうなったときは放っておけ。滅びるならそれも運命だ』とか言うんですぜ?」 「じゃぁ何故、今?」 「……情が移っちまったってことですかね。あのセニオの嫌みジジイが聞いたら大笑いするでしょうがね。  あっしはね。  坊っちゃんがお腹の中に居るときからずっとここに居て、ずっと坊っちゃんを見て来たんでさ。乳を飲み、床に落ちた虫を口に入ちゃ怒られ、そこら中鼻水まみれにしながら歩いてるのを見てた。姉が亡くなって遊び相手が居なくなってワンワン泣いてたのも見てたんでさ。三日でけろっとしてましたがね。すぐに風邪引くクソ弱っちい体が死なねぇように、怪しまれねぇよう、ちっとだけ助けながらね」  ロジャーは不意に、顔を逸らし苦笑いした。 「それがこんな所であっけなくって思ったら、言いつけなんざ吹き飛んじまったんでさ」  それから僕たちは少し話しあい、外で一秒の半分ほどが過ぎた所で僕は魂倉を出た。  さっきと変わらない風景が僕の目に映る。  いや、二つ違う。  一つはハンナ。左の林から飛び出した茶色のマント姿が弓を構えた襲撃者を倒していた。  もう一つはアラン様。ずいぶん顔色も悪いけど、僕を見て口元が緩んでいた。いつもの馬鹿笑いは無いけど。  そう、僕の視野は広がって、100m先のアラン様の表情もよく見える。  体だけで無く、心の視野も広がったみたい。  もう大丈夫。  魂倉にはロジャーが居るし、襲撃者の横からハンナが奇襲を掛けている。  僕よりハンナのほうが辛いに違いない。ハンナにとってアラン様は父親同然なんだもの。  普通に走りながら、距離を詰め、4つから1つに減らした穴から弾丸を射出。体を動かしながら複数の弾丸を上手く撃つのは無理。ホバリングしながらも。  ハンナが奇襲を掛けている相手の周囲に数発まとめて撃つ。ハンナに当たらないようにしながら撃つ。と、一発が体をかすめる。その途端、間合いの外から飛び込んだハンナが襲撃者を切り刻んだ。  次にアラン様を助ける。  アラン様は7名、いや今6名。から馬車を守ってる。  弾丸では角度が悪い。今の僕じゃ、狙ったところに確実には当てられない。アラン様も巻き込んでしまう。試すわけにもいかないよね。さすがにアラン様も笑って許してくれないと思う。  アラン様も多少動ける。ハンナほどでもないし、自警団の小隊長程じゃ無いけど。なんとか隙を見て近接で四大術を使おうとしているけど、負傷もあるし多対一だし上手く行ってない。  なら、僕がアラン様の壁になる。 「ホバリング、最高速、最高高度、最大出力! 自動航行だ!」  相変わらず金のエーテルが漏れている僕は、いつもより出力を出せる。  ここに来るときだって死ぬかと思ったのに、また同じ、いやもっと危ないことをしようとしてる。  ドンッと大きな音が鳴ったと思ったら、僕の体は森の木々より高く飛んでいた。  ふわりと浮遊感を感じた次の瞬間、もう一度大きな音を立て風の管は僕を地面にたたき落とす。  そのまま落ちれば僕は小鳥の卵のように潰れただろう。  だけど、ホバリングに続けて自動発動した風の繭は何とか僕を守り切った。  アラン様と馬車の間。無様に転がってるけど、問題ない! かなり痛いけど! 次はもっと良い術開発する!  襲撃者達が瞬間こっちに注意を向けた、その時。 「神聖光条」  天の神、主神メトラルが持つ陽の権能。その光をお借りして飛ばす。  本来、幻魔や不死の魔物を倒すのに使うが、今回は目くらまし。この術の一番良いところは、必ず狙ったところに当たる所。 「良くやった! 石弾!!」  アラン様が叫び、一時的に視力を失った相手を大量の石つぶてで吹き飛ばす。数m以上吹っ飛んだ襲撃者は倒れて動かない。落ちた拍子に首と胴が離れ死亡を確認。 「くそっ、ガキが一人増えたくらいなんだってんだ!」  襲撃者の一人が叫ぶ。そう、神聖光条の悪いのは、直接ダメージの無い所。  だけど、もう問題なかった。 【タイトル】 054 赤の乗り手 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2018-12-02 17:36:49(+09:00) 【公開日時】 2018-12-02 17:36:49(+09:00) 【更新日時】 2018-12-02 17:36:49(+09:00) 【文字数】 3,190文字 【本文(102行)】 「……無茶しやがって。ぼろ雑巾みてぇじゃねーか。  ちっとだけ。  取っておきを見せてやる」  アラン様がこっちを見てもいないのに酷いことを言う。 「そんな! 僕はまだ!」  体勢を立て直し、僕は起き上がろうとした。  しかし体が、動かない。そして動かないと言うことを認識した途端、筋という筋、肉という肉、骨という骨に殴られたような激痛が走る。え? なにこれ?! 「大人しくしてな。あんな動きをしたら熊に撥ねられたようになるのは当たり前だクソガキ。首の骨が折れてねぇのが不思議なくらいさ」  神聖光条の影響が無くなった襲撃者が4人、こちらを遠巻きにしている。右下のバックモニターからはハンナが近づくのが見え、同時に僕を支えてくれる。  とても痛い。  コータローライブラリには痛みに耐える方法もあるし、スキルもある。  でも、痛すぎてそれを実践出来ないし、スキルも取れない。  次はちゃんと対策する。僕は心に決めた。  4人の襲撃者の1人が口を開く。 「わざわざ有利な時間を潰してくれて有り難うよ。俺らも面子ってもんがある。冥土の土産にマサース教授あんたの命を頂いていく」 「けっ。わざわざ隙を晒してたのにご苦労なこった。冥土の土産は今から見せるもんで勘弁して貰おうか」 「何をする気だ」 「こうだ!見ろ! ……変身!」  アラン様のベルトがけたたましい金属音を奏でる。それは頭がずきり。あぁ。コータローさんの前世にあったバイクのような音。  赤と黄色のマントがぐるりと巻き付いたかと思うと、ミイラのように人型を取る。  それはまるで赤と黄色の怪人だ。顔は極度に抽象化された仮面のようになっている。目はあるが鼻も口もデザイン上あるだけだ。そこに穴は空いてないように見える。そして、角が、額から二本。そこだけ黒い。アラン様はまるで幻魔に魂を売り渡したかのような赤と黄色の怪人の姿になっていた。  次の瞬間、全身が一度青い炎を巻き起こし、陽炎が全身を覆ったかと思えば、赤い怪人から風が吹く。  そこでアラン様が、いや怪人が言葉を発した。 「変身。赤の乗り手(レッドライダー)。冥土の土産に十分なもんだろ?俺のエーテルと周辺のエーテルをガンガンに集積して鎧の姿を採ったもんだ。まぁ鎧と言うより搭乗型ゴーレムと言うべきだな」 「なるほど、それで乗り手(ライダー)、か」 「そうだ。……じゃぁ、来な」  言葉に合わせて乗り手(ライダー)が手招きし、戦闘が始まった。先ほどの僕の無茶な機動をアラン様、いや赤の乗り手はなんなくこなし。  あっという間に戦闘はおわった。  まるで劇場で見た殺陣のようだったよ。  戦闘が終わると、荷車を覆っていた炎の壁が消え、セレッサさんが姿を現した。沢山いた魔物どもは何とか撃退したらしい。そして、アラン様が元の姿に戻った途端、魂倉の不調で倒れた。  30分ほど休息を取り、なんとか神術を行使できそうになると、僕は隠すこと無く行使した。荷車に一緒にやってきた職人さんとご家族さんがいたけど仕方が無い。  神術の治癒の術は本来一つしかない。軽症の治療から復活まで全て一つ。しかし、実際には術者の認識が追いつかないため、用途と程度で術を細かく分けている。  僕は、診断と治癒の二つで大抵の事に対応可なんだ。これはもちろんコータローライブラリの医学知識の賜物なんだけどね。  まぁそれはそうと、僕自身とアラン様の治癒を行った。  とはいえ……。アラン様の左手は僕では無理だ。多分神じゃ無いと。  だから、魂倉と霊的センターの不調を整え、傷を塞ぐだけになってしまった。 「けっ。気にしてんじゃねぇよ。俺を誰だと思ってる? 天才様だぞ? 良く考えろクソガキ。ハンナのあの体を作ったのは誰だ? あ? オレサマだろうが。後は分かるな?」 「あぁ、とうとう自分自身の改造の道を歩むのですか? でも、魂倉は駄目ですよ。誰も開腹手術をしながらの霊的作業なんて出来ませんからね」  セレッサさん自身も酷い怪我なのに、いつものような軽口をたたけるの、凄いなぁ。  その後、職人さんや生き残った警備の人の治療を行ったんだ。彼ら全員がお腹を下しててたのが、襲われて余り抵抗できなかった理由とのこと。  どう考えても陰謀だよね。  ちなみに昨日の晩食事当番だった職人グループは、何故か戦闘の最初に殺されたそう。不思議だね。 「天耳天目……、普通に腐った物に、下剤が込められてますね」  吐瀉物などを確認して、治療。面倒な病気などは無いみたい。しかし、寄生虫なんかもある程度排除されたから、子供達は却って調子良くなるかも知れないね。  ……。まぁ僕も子供ですけどね。6才です。時々忘れるけど。  お腹の調子が良くなっても、失われた体力は戻らないよね。なので、一端ここで夜を明かすことになったんだ。だってもう15時過ぎてるし。夏とは言え、この距離を頑張っても門が閉まるまでには間に合わないよ。  とはいえ。食料が無い。水は僕出せるけど。食料買ってくるしか無いかな。  僕とハンナがアレハンドロまで飛ばして、買って戻ってくれば大丈夫じゃないかな。と移動しようとすると、アラン様に止められた。  僕とハンナが会った変なナンパ師に覚えがあるらしくて。  その状況なら戻らない方が良いだろうと。  食料については、周辺の村を回れば何とかならないか? とのことなんだけど……。 『セニオ、彼らを僕の泡倉に入れる。いつもの屋敷前を整備してくれ。後、食料を分けて欲しい』 『何故でございます? 彼らはただの人間では? 彼らの苦境は彼ら自身の物。私が分ける理由には無いかと』  カチンときた。 『……セニオ。いや、セニオリブス。僕、前々から思ってたんだけどね。君は何の管理人?』 『おや、お忘れですか? 私はこの泡倉を管理し保全するのが最大の役目の管理人でございます』 『そしてその泡倉は、僕の、だ。僕が僕のために与えられた物だ。今までは遠慮してくたけど、もう止める。僕の大事な人とその関わりを持った人のために。だから命令(オーダー)だセニオリブス。泡倉のオーナーであるサウル・コミエが命じる。僕の命令を全て確実にこなせ。分かった?』 『……了解致しました。サウル様の命令、しかと』  あーもー腹立った! 酷いよセニオ。もう遠慮せずにバンバン使っちゃうから。ちょっと怖いけど。  いつもだと、ここでロジャーの突っ込みが入るところだけど、今は無い。  彼は、ちょっとお疲れなんだ。しばらく静かだろう。3日か3ヶ月か、分からないけど……。それだけ主人に抵抗するのは大変なんだ、って言ってた。  ……? となるとセニオも大変なのかな? 何故そこまでして意地を張ってたのかな? そのうち聞いてみよう。  1時間後、準備を終えたセニオから連絡があったので、アラン様やみんなに話をした。  例の泡倉に皆を迎え入れると言う話。以前から知ってた人はともかく、職人さんや護衛の人なんかは、僕の頭がおかしくなったと言わんばかりの目で見てくる。  そりゃそうだよね。普通財布一つ分の大きさの泡倉が500km四方あって、中には古代文明時に滅んだとされたハイエルフが世話をしてくれるとか。まぁ確かに頭がおかしい。  ただ、僕が本気を見せるために三級の契約術を用意し始める、アラン様もセレッサさんも仕方が無いと言う顔を見せると、皆、動揺し始めた。  なんだかんだで更に1時間。やっと泡倉に入ったときには夕方。実は泡倉の光に馬がおびえて入れるのが大変だった。ハイエルフの中で一番馬の扱いに優れた者達を寄越して貰ってなんとかしたけどね。  屋敷に入れる事は出来ないけど、その門前で安全を保証され、食料もこの世界の中では抜群に美味い肉と魚とパンと米。香辛料もたっぷりあって皆大喜びだったよ。  夜のテントでは、蒸し暑かったので僕が冷たい風の術を作って皆を楽にした。アラン様にも手伝って貰おうと思ったけど、風と水の応用が上手く行かず駄目だった。残念。  明日お昼頃にアレハンドロにたどり着いて、そこからどうなるかなぁ。 【タイトル】 055 夜闇に死人が起き上がる話 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2018-12-02 18:16:14(+09:00) 【公開日時】 2018-12-02 18:16:14(+09:00) 【更新日時】 2018-12-02 18:16:14(+09:00) 【文字数】 1,007文字 【本文(35行)】  泡倉で寝るのは初めてだなぁ。  昔はよく中央山の中腹でキャンプを張ったもんだが。あの山2万メートルもあるから、山頂というわけにも行かなかったんだ。  と、自分の意識に気がついた私は身を起こした。  見慣れない少年の体。見慣れない粗末な天幕。  ハンナが何故か同じテントにいてびっくりする。キラキラと光る目は、私が誰か気がついているようだ。 「コタロ?」 「あぁ、私だよ。しかし私が出てくるとなると、幾つかの条件が有ったはずだが。どれだ?」「私めへの命令。泡倉への10名以上の招待。ご自身の初の大ダメージでございます。コータロー様。いえ、名も無き大神よ」 「セニオか。その名は止めてくれ。私は飽くまでアドバイザーでしかない。信仰を集めることも無いから大神どころか神ですら無い」 「だからこその此度の転生でありましょう?」 「私の出生は地球だし、色々と特殊だから、まともに下で転生できるか疑問だったが。上手く行って何よりだ。  しかし、なんだかこの彼も大変なようだね。サウル君、だったか?」 「うん。サウル頑張ってる。でも不安。自分が誰かいつも考えてる。コタロ、何とかしてあげて欲しい。」 「あー、アイディンティティなぁ」  幾ら私の知識や、あの頃のネットのアーカイブに、神界での研鑽した内容の一部があるとは言え、それは力でしか無いからなぁ。 「もうちょっと積極的に何か道筋を示してあげるべきなのだろうね。セニオ頼めるかい?」 「はっ。ではそのように。浩太郎様の教えに寄りますと、『デレ』ですな。よろしい。最高のデレを提供致しましょう。」 「そういえばロジャーはどうしたんだ? あのうるさい奴がいないのは変だな」 「そう。そしてあのやかましい下品な男は、昨日サウル様が陥った激情を醒ますために干渉致しまして。ダメージを癒すために休眠中でございます」 「無茶するなー、大丈夫か?」 「おそらくは大丈夫かと。幾らか激励と共に差し入れを致しましたので」 「それ、激励の方がダメージで掛かったりしないだろうな?」 「さぁ?」  私からは彼に干渉できないし、彼も私に干渉できない。  私は一度死んだ身で、この体に宿っている魂はサウル君のものだ。私はたまたまくっついてる寄生虫みたいなもの。サウル君が死なないようにある程度の干渉は出来るが、それまでだ。  私がこうして意識を取り戻すことはあと何度有るか。出来れば無い方が良いのだけど。  幾つか、最初に想定されてなかった事を相談すると私は眠りに就いた。 【タイトル】 056 状況整理 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2018-12-24 02:44:32(+09:00) 【公開日時】 2018-12-24 02:44:32(+09:00) 【更新日時】 2018-12-24 02:44:32(+09:00) 【文字数】 3,388文字 【本文(113行)】  テントで僕が目を覚ますと、泡倉管理人のセニオとハイエルフののアーダが居て。横にはハンナ。  ランプの灯りの外はほぼ真っ暗だけど、空気は涼しく、腐葉土の香り。土は硬いけどふかふかの寝袋。僕は快適に目を覚ました。確実に実家より良い寝具だったと思う。 「やぁおはよう皆。まだ暗いね……。寝ても良い?」  チラリと見る右下には3時50分の文字。日の出にはあと一時間ほどかな? いつも起きる時間より早い。  僕がぼんやりとしていると、セニオが 「そうも行きません、ご主人様。今後の方針や対応のことなどを決めておきませんと」 ん? ご主人様? 僕のことだよね? まぁスルーしよう。 「ん? セニオはサウルの呼び方変えた?」  と思ったらハンナが突っ込んでるし。いやまぁいいけど。 「はい、昨日のことがありましたので。私なりに考えました結果でございます」  昨日、ね。  本当に色々有ったけど、疲れてぼんやり見てるだけだったなぁ。  緊急で秘密保持契約を行って。泡倉屋敷に鑑定機が有って助かったんだけど。鑑定機って、世界を流れるエーテルストリームとの通信が出来るとか何とか。その仕組みを使って神界の契約担当から力を借りることが出来る、とか。  泡倉屋敷だと何故かお金が要らなかったのが嬉しかったよ。だって、全員分の契約金もお金代わりの触媒も持ち合わせてないもの。アレハンドロに帰ってしまえばお金は有ったと思うんだけど。  食事はハイエルフの住民が何人か手伝ってくれてた、と思う。知らない人居たし。出汁が利いてるスープは皆大喜びだったよ。僕は正直味が分からなかったけど……。でも肉が入ってるのに吐かなかったね。こういう時は吐いたりするのがお約束だってライブラリにあったんだけど。  そうしてぼんやりしてたら、寝かしつけられたんだよね。うん。で、今に至る、と。 「んー、セニオ、状況を整理して」  ハンナでも良いんだけど、こういう時はセニオだと思ったんだ。いわゆる適材適所。ハンナはこう口下手、無口だしね。  職人さん達の体調は、若干問題あるけど馬車に乗るには問題ないこと。アラン様の手は問題なく処置できたこと。手は無くなったままだけど。ただ、アラン様はエーテル枯渇がひどくって、その点ではハイエルフが治療を行ってること。  ……恐らくアレハンドロでは厄介ごとが待ってること。  王都を追い出されそうになってた職人さん達。それを拾った、これまた何か厄介ごとを抱えてそうなコミエ村とアラン様。その道中で職人さん達は毒を盛られ、動けなくなったところを過剰な追っ手が殺しに来たんだよね。もし僕とハンナが来なかったら、あのまま皆死んでたと思う。アラン様達全員。  僕はぶるりと身を震わせる。  そしてその追っ手が全員身を隠し、死んだはずのアラン様と職人さん達がアレハンドロにやってくるとしたら。  そりゃもう厄介ごとが発生する気がするよ。  セニオさんは僕を試すこと無く言う。--如何致しましょう?と。  泡倉に匿い続けることも可能。ハイエルフ達を派遣し追っ手を返り討ちにすることも可能。神殿の伝手を使い、搦め手を使うことも可能。他に僕の考えがあれば全力で応えます、と。  --如何致しましょう? こと、ここに至り、僕は気づいたんだ。これ、僕ひょっとするとちょっとした力があるね。ハイエルフ、一人だって結構大した力があるみたいなんだよね。  冒険者組合の気の良い冒険者達。半分が僕の配下の三人以下。  ……配下の一人と冒険者のパーティが、ね。  そりゃ実戦となればもしもがあるのは分かってる。だけど、組合で見ている限りは敵いそうに無いんだ。  それがハイエルフの戦える全員と。……いつも偉そうなセニオが加わったら?  あ、ちなみにアレハンドロの冒険者だって荒事には慣れてるからね。採取をメインにしてるパーティだって、そこらの獣やゴブリンなら蹴散らしちゃうよ? 弱っちい訳じゃ無いんだ。そこは彼らを見くびらないで欲しい。  で、そこでセニオさんの『如何致しましょう?』が効いてくるんだよね。さて、僕、どうしようかな。 「で、クソガキ、どうする?」 「質問に質問で返さないでくださいよ、アラン様」 「うるせーな。良いから答えろ」  僕はため息をついた。  午前5時。要約明るくなりかけた泡倉にある見通しの良い海辺の館。の前の広場。  赤々と照らされる立派なテントに立派な炊事道具。合間合間にハイエルフが優雅に立ち働き、職人さんやアラン様達が給仕を受けている。  ハイエルフ達は質素ながらすごく仕立てが良さそうな服で。偉い貴族様その人が給仕していると言われても頷いてしまいそうなほど。  そのハイエルフ達に給仕される職人さん達はおっかなびっくり。子供達も泣きそうな感じだよ。これ良いのかな? 「おい、クソガキ」  あ、うん。 「僕の答えは決まってますよ。コミエ村とアラン様に恩返しする、です。だからこれから起こる厄介ごとに積極的に手を貸します」 「よっしゃ分かった。何故そこに俺様の名前があるのか良く分からねぇが助かる。これで方針が決まった」 「そうそう。厄介ごとの原因、教えて頂けますか? それによって僕も振るまい方が変わると思うのです」 「まぁそりゃそうだな。そろそろお前も知っておく権利があるな。すげー単純に言うと、政争だ。コミエ村付の神官であるセリオ・ロエラ準男爵は政争に負けたんだ。で、勢力諸共王都を追い出され、コミエ村を作る事になった。お前の父親は政争に関係無い駆け落ちしたただの職人だ。安心して良い」 「ちょっとほっとしました。しかし神官様貴族だったのですね」 「継承権の無い準男爵だがな。だが、あいつの息子は王都でかなり偉い役人だ。色々と有る。コミエ村を作るときにも作ってからも様々な嫌がらせがあった。で、今年、いつもの三倍の税を納めろと言われたんだ。もちろんカツカツのコミエ村にそんな余裕は無い。だから皆色々と試した。お前の父親が慣れない野菜に手を出したのもそれだ。お前が養い子になった遠因だな」 「そんな事が……。三倍って無茶でしょう?」 「あぁ無茶だ。しかし、色々有ってセリオと息子の政敵の派閥はそれを通しちまった。無理ならコミエ村は解散し、敵対派閥に明け渡し。もうほとんどそれに決まりだった」 「そこに僕が現れた、と」 「そういう事だ。芽が出ちまった。希望が生まれちまった。だから」 「今がある」 「そういうこったな」  ……となると…… 「ねぇアラン様。アレハンドロはどうなります?」 「多分大丈夫だ。日和見気味だが。コミエ村建設を受け入れたのも領主一族がセリオ達の心情的な味方だからだ。今回も敵対には至るまいよ」 「とは言え、ちょっと不安要素に心当たりがあるんです。僕にできる手は打っておきます」 「あぁ、良く分からねぇが分かった」  そこでアラン様が周りの様子を見た。  薄明かりの中の木々のざわめき、蝉の声虫の声。たき火の音、炊事と食事の声。  キャンプだなぁ、とライブラリ該当する記憶を寄越した。夏の風物詩。 「しかし、あれハイエルフだろ? なんで復活歴が始まる前、幻魔大戦には消えたと言われる幻の種族がお前の部下なんだ?」 「僕にも色々あるらしいです。僕の前世の人よほど偉かったらしいんですよ。それで、らしいです」 「大恩があるが契約があるか、か」 「えぇ、そんな感じで」  その後、食事と準備を終えると、人目の付かないところに馬車と皆を出したんだ。返り血や色々な汚れも綺麗にして、食料も積み替えて。お風呂は入ってしまうとおかしな事になるから我慢したけど。  僕とハンナはこっそり付いていくことに。  昨日の戦いの後、僕の諸元はこっそり増えてたらしい。セニオが教えてくれた。  肉体精神霊性が五元素に別れた十五個の諸元。骨格体格を司る土の肉体は日に日に増えていて凄いことになってるし、術関連の精神霊性も凄い。  普通の人が40から60。以前、コミエ村で鑑定したときにもすでに80台なんかが有って中には100越えで凄かったのに。今、一部150越えがある。  アラン様に教えたら散々罵られた挙げ句に呆れてた。アラン様だって90越えが幾つかに100越え一つなんだそう。  周辺国で一番の大学で、第一の天才と言われるアラン様がそれ。  絶対に他人に言うなよ、と言われちゃったよ。  契約を結んだ人は勝手に言えないし、下手をすると契約の効果で死んでしまう。けど、僕がバラしちゃうのは問題ないんだそうだ。なんともおっきな穴のある制度だね……。 【タイトル】 057 転換 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2019-05-11 03:33:48(+09:00) 【公開日時】 2019-05-11 07:00:25(+09:00) 【更新日時】 2019-05-11 07:00:25(+09:00) 【文字数】 2,835文字 【本文(95行)】  時刻は10時過ぎ。8月ならではのうるさい蝉の声が鳴り響く。日差しは強いし風は吹いていないから蒸し暑いくらい。おかげで汗が服に張り付いて気持ち悪い。こんな日は水風呂か、川で水遊びがしたいなぁ。果物を井戸で冷やして食べるのも良いよね。僕とハンナはそんな事を話ながらアラン様達と一緒にアレハンドロの門に並んでいた。一応護衛と言うことで、荷馬車の外。  最初は荷馬車とは離れていたけど、結局襲撃は無かったので一緒に行動することにしたんだ。この暑い中衛兵の皆さんはテキパキと荷と人相を調べて税を取り、人々の列をアレハンドロの中に入れている。  いよいよ僕たちの番。アラン様と職人の親方さんが人数と積み荷の報告をし、税を払って中に入ろうとする。すると門番が決まり悪そうに 「すまんが、あんたらを通すわけには行かない」 と税の受け取りを拒否した。親方が理由を尋ねると 「実はあんたらに犯罪の容疑が掛かっていると報告があったんだ」 「殺人だって? 確かにここに来るまでに盗賊を駆除したのは確かだが、それは罪にはならんだろ?」 「それはそうだが、しかし我々の所に……」  と、押し問答……。暑いし、段々双方の声が大きくなってくるし蝉もうるさいしで、僕たちより後ろに並んでる人達がうんざりした顔をしている。  僕はあんまり暑いので微風を吐き出すチューブを作り、顔や背中に当ててみた。結構涼しい。これはホバーの魔法の応用だ。  しばらくすると、昨日見た色黒の兄さんと糸目の人が衛兵数人と一緒にやってきた。様子からすると二人が衛兵達を引き連れているようだけど……。チンピラ風の色黒が衛兵達を引き連れている様子を街の人達は遠巻きに見ている。  その一団が、門番とやりあってるアラン様達の間に割って入ってきた。 「おう、マサース教授さんよ。あんたらには首都で犯罪の容疑が掛かってる、アレハンドロに入れるわけにはいかんのよ」 「あ? お前誰だ?」 「あーーん? 俺か? 俺はビダルだ。首都のとある方から依頼されて犯罪者が街に入り込むのを防ぎに来たって訳よ」 「お前の顔の方がよっぽど悪党じゃねぇか。大体犯罪ってなんだよ」 「んだと、こら! この殺人鬼共! お前らにはとある貴族の子弟を殺した容疑が掛かっているんだよ!」 「そんなわけあるか! 証拠を出せ証拠を!」 「お前ら相手に証拠なんか見せるかよ。馬鹿じゃねぇのか? 司祭様が言ってたとおりだ」 「司祭様?! ひょっとしてそいつの名前は」 「おっといけねぇ口が滑った。まぁいい、そういう事だ」 「昨日の襲撃だけじゃ飽き足らず、こんなせこいことまでしてくるとはな」 「ふん。何とでも言えば良い。どちらにしてお前らは街には入れないぜ」 「そんな馬鹿な」 「おっと、先に言って置くがな」  色黒改めビダルがニヤニヤと笑いながら 「今日、領主のマカリオ様はご気分が悪いそうでな。例え親友のマサース教授が呼んだとしても来ない、と聞いてるぜ」 「用意周到なことだな。まさか分かった。そういう事なら別の所にでも行くさ」 「おっとそいつも駄目だ」 「あ?」 「近隣の町や村にはお触れが回ってる。もしお前らを村に入れれば犯罪者の仲間と見なすってな」 「つまり王都に戻れってことか?」 「それを決めるのは俺たちじゃないぜ。さぁ、そうと分かったらさっさとどっか行っちまえ。コミエ村なら匿ってくれるかも知れないぜ? まぁそん時はコミエ村も犯罪者の仲間入りってわけだがよ! ギャハハ!」  どうやら、昨日の襲撃との二段構えになってたみたいだね。今回の職人さん達は、コミエ村の特産物を作る大事な人だ。どうにかしないと……。  もし王都まで戻っても無事に済むとは思えないし、大体王都に居づらくなったらこっちに来た人達だ。きっと帰りたがらない。 「くそったれ、こうなったら……」  アラン様の目が殺気を帯びはじめたところで僕は割り込んだ。ここで手を出して本当の犯罪者になってしまっては困るからね。 「アラン様、行きましょう。ここで押し問答しても無駄ですよ。今はどうしようもありませんし、一端出直しましょう」 「お、昨日のガキじゃねぇか。出直しても無駄さ。あ、そうだ。昨日の姉ちゃんを寄越してくれたら、お前だけは中に入れてやっても良いぞ」 「いえ、結構です。僕たちは行きずりに警護を請け負っただけですので、普通に冒険者として出入り出来ますからね」  僕がそう言うと、門番も頷いた。さすがに冒険者組合までは抱き込んでないみたいだね。ちょっとほっとしたよ。 「じゃぁ、僕はもうしばらくこの人達と一緒に行きます。おかしな事をしないか見ておいた方が良いでしょう?」  と提案するとビダルがニヤニヤとして 「そういう事なら構わねぇさ。戻って来たら報告しろよ?」 「ええ」 「おい、クソガキ! おかしな事ってどういう事だ!」 「さぁ? とりあえず、後ろもつっかえてますし、動きましょう」  不機嫌なままのアラン様達を僕が引き連れる形になったんだ。行く方向は東。西に向かえばコミエ村だから、反対方向。  1時間ほど進んで、門からつけてきている人が居ない事を確認する。ロジャーはまだ動けないみたいなので、そこはハンナに頼んだ。こちらをずっと進めば他の町に着く。しかしそれにはまた時間が掛かる。そして僕はそこまで行くつもりはなかった。 「おい、クソガキ、どうすんだ。こっちはコミエ村と反対だぞ」 「ええ、ちょっと考えがありまして」  周辺の道にも人が居ない事を確認すると、僕たちは再び泡倉に入った。  すると早速アラン様が寄ってきた。 「なるほど考えたな」 「何をです?」 「とぼけるなよ。このお化け泡倉に俺たちを入れて置いて、お前だけでコミエ村に向かうって寸法だろ?」 「違いますよ」 「じゃぁどうするんだ」 「コミエ村の方に向かうのは確かですけど、コミエ村には入りません。多分見張り役がいると思うんです。だからそこを通り過ぎて海まで出ようと思います。海辺に僕の部下が見つけた良い場所があるんですよ。そこに村を作ったらどうかと思って」 「村、か。といっても一緒に来てるのは術理具なんかの職人だけだぞ。大工はいねぇんだ。そこはどうす……、あぁ、エルフに頼るのか?」 「えぇ、まぁそうしようと思います」 「お前の力があれば、魔物が入ってこない壁くらいは作れるか。しかしそれでも中心に神殿が必要だな。神殿がない村も有るには有るが、病気や怪我があったとき周りが助けてくれるからだ。自警団も必要だし、村を作るのは中々難しいんじゃねぇか?」 「神殿には僕が仮に入りますよ。一応神殿の預かり子ですし、神術も使えます。自警団についてはアラン様、誰かいませんか?」 「んーー、宛てが無いわけじゃ無いが、王都に戻ってみないと何とも言えんな」 「形が付くまでは、泡倉に住んでもらうようにしましょう。僕も大して詳しく考えてるわけじゃ有りませんし、皆で話しあえばもうちょっと良い考えが浮かぶかも知れません」  そうしてるとハンナが 「……皆待ってるよ」  と告げにきた。  その後、僕のたたき台を元に皆と話し合いをしたんだ。 【タイトル】 058 出発準備 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2019-05-11 17:34:43(+09:00) 【公開日時】 2019-05-12 07:00:07(+09:00) 【更新日時】 2019-05-12 07:00:07(+09:00) 【文字数】 3,080文字 【本文(122行)】  村を作るという案は、僕が発案だったけど、アラン様もセニオも賛成してくれた。お陰で職人さん達も説得に応じてくれたみたい。  何にしても今更王都に戻るのは無理だし、僕が作った倍力の術理具や草刈りの術理具などは役に立つと認めてくれた。  物資の補給については、泡倉からも出すけど、僕がアレハンドロや他の土地から買ってくることで何とかなりそうだ、と分かった。  家や壁が出来るまでは泡倉のテントを借りることが出来るようになったし。  しかしまぁ職人さん達、すごく楽しそうだった。僕の術理具を売ることでコミエ村の危機が去り、ひるがえってさっきの奴らにやり返せるんだから。 「さて」 「行こう、サウル」  職人さん達の乗ってきた3台の馬車と職人さん達は、泡倉でお留守番。  僕とハンナで村の候補地に向かう。ロジャーが道案内してくれると助かるんだけど……。制約とやらを踏み越えたダメージはまだ大きいらしく、僕の声には応えてくれない。  仕方ないので、僕とハンナで向かってみる。  予定地はコミエ村から数十キロ西。海辺の場所。川沿いだけど高台にあって安全な場所、と聞いてる。  これは、以前ロジャーがコミエ村周辺を偵察してきたときに聞いた話なんだ。だから周辺に盗賊が隠れているなんて事も無いだろうし、他の村も無いと思う。大体、コミエ村がアレハンドロから一番西の村のはずだしね。  でも、今でも時々幻魔大戦時にはぐれてしまった隠れ里が見つかることも有るそうだから油断為らないけど。多分大丈夫。  森の中にホバリングの爆音が響く。  アレハンドロから目標の地点は100キロ以上離れてる。けど、ホバリングで行けば夕方には着くはず。ホバリングの弱点は木より高いところを飛べないところ。でも、ホバリングは道の代わりに川の上を走ることも出来る。音が大きいからアレハンドロの近くでは倍力の術理具を使って走るとして。そこから先は海辺まで一直線。  ついでにちょっとコミエ村にも寄っていこうと思うんだ。  まさか、隊商が5日も掛かるコミエ村まで半日もしないうちに行けるとは思わないだろうしね。状況だけでも報告しなきゃ。  そうそう、それと。 『フラム様フラム様』 『やっと思い出したか』  フラム様の不機嫌そうな声が頭に響いた。ちょっと怖い。 『実は、この辺りに隠れ里を作る事になりました』  頭の中に地図を思い浮かべ、ピンを刺す。 『面白そうな話じゃないか』 『もし良かったら一口噛みませんか?』 『当たり前だ。こんな面白いことに参加出来なかったら女神がすたるってもんだ』  ホバリングしながらの会話はちょっと途切れがちではあるんだけど、前方をハンナに先導して貰い、後方からついて行くだけにすることで何とか事故を起こさずに済んでる。 『では、アレハンドロでの噂話をお願いしたいです』 『具体的には?』 『王都の政争をアレハンドロに持ち込んで憐れな職人達が虐げられている。身を粉にして頑張ってきたコミエ村も取り潰されようとしている。領主は何をしているのか、俺たちのアレハンドロをそんな汚い戦いの場としてけがして良いのか?! ここは俺たち開拓者の町だ! みたいな感じで』 『お、おう。なかなかやるじゃないか坊や』 『実際、開拓者の中には王都や他の町に居られなくなってやってきた人も多いと聞きますので』 『分かった。で、何か困ってることとか有るかい? 多少の融通ならきかせるぞ』 『では遠慮無く。今分かってるのは神殿に詰める神官さんをどうするかと言うことと、自警団。後は、毎回私とハンナが必要物資を運ぶのは大変なので、そこをどうするか、ですね。何せホバリングは音が目立つので……』 『分かったちょっと考えておく。あたいもここ数ヶ月の活動でできる事が増えたからな』  アレハンドロに突いたところで、一端休憩。  一度門から入る。門番さんがちょっと気まずそうにしてるけど、僕は気にせず通る。こうしておけば、僕とハンナがアラン様達と離れた証拠になる、はず。  バスカヴィル商会に戻ると、皆が手を止めて出てきてくれた。 「えらい目に遭ったって話だったが、大丈夫だったかい?」  商会長のコーデリアさんが心配そうに声をかけてくれた。 「ええ、何とか。ただ、アラン様達はしばらく身を隠す事になると思います」 「あぁ、やっぱりねぇ。変なお触れがさっき出たそうだから、このままだとコミエ村に匿うって訳にもいかないんだろ? どうするんだい?」  さすがにそれを天下の往来で言うわけには行かないよね。秘密保持契約結んでない人も沢山いるし。だから 「大丈夫です、きっと何とかなります」  としか言えなかった。  その様子を見て、コーデリアさんがやっとピンと来たみたいで 「よし、ちょっと上でお茶でも飲もうか。あ、そのお嬢さんはどなただい?」 「彼女の紹介も上でしますね」  二階の応接室に入ったのはコーデリアさん、娘のロージーさん、隊商のリーダーのシルビオさん。そして僕とハンナ。  お茶が出るのもそこそこに、口火を切ったのはロージーさんだった。 「ねぇサウル、その子誰?」 「あぁ、この子はアラン様の養子のハンナですよ。ちょっと大きくなっちゃいましたけど」 「普通、数ヶ月会わなかっただけでここまで大きくならないと思うけどね。でも、ここにサウルという実物を見てしまってるから信じるしかないか」 「ハンナは、今後サウルを主人として付き従うから。ずっと一緒」 「え? 何どういう事?」 「ええと、何というか……」  ハンナが機人という事を言わずに上手く取り繕えないかな? と思ってるうちに言葉に詰まってしまった。 「ハンナは機人。機人は主人に付き従う。前、こっちに来たのは主人のような気配がこっちにあったから」  あ、あっさりと……。 「機人と言いますと、自動人形の最上位、かつては星を切り大地を砕いたという」  シルビオさんが確認するようにつぶやく。 「そう、その機人。信じてくれなくても良い。ハンナはサウルと一緒だから」 「そう、ですか」  次に口火を切ったのはコーデリアさんだった。 「あのハンナちゃんがねぇ。確かに話す様子を聞いてるとそのままだけど。まぁそれはいいさ。今後はどうするんだい?」 「はい、隠れ里を作る積もりで居ます。倍力の術理具や草刈りの術理具なんかもありますし、ちょっとした里を作るだけなら何とかなるんじゃ無いかと」 「場所は?」 「コミエ村から西に数十キロ」 「海辺に作るのかい?」 「ええ、ちょうど良い場所を偶然知ってまして」 「コミエ村がアレハンドロの一番西で、そっから先には人間は住んでないはずだ。なのにそんな場所にあてがあるって? 馬鹿言っちゃいけないよ」  そこからしばらく押し問答が始まってしまった。  僕は泡倉のことを話したくない。巻き込む人を下手に増やして収集就かないようになるのが怖い。  コーデリアさんは今まで常識と比べて僕が馬鹿なことを言ってると信じている。  確かに隠れ里計画は僕の泡倉とハイエルフ達あっての計画。ここを信じてもらえないと話が進まない。 「分かりました。では僕の秘密を教えます」 『セニオ、秘密保持契約の準備を』 『ご主人様、いつでもどうぞ』 「すいませんが、この秘密を見てしまったら秘密保持契約を結んでもらいます。よろしいですね?」 「あぁ、構わないよ。どんな秘密だろうがびっくりするもんかね。あたしは仮にも商会長として色んなもんを見てるんだ」 「ロージーさんもシルビオさんもよろしいですね?」 「うんいいよ。サウルが良い子なのは分かってるし」 「私も構いません」  応接室の床に白い円が現れる。もちろん、泡倉との入り口の円だよ。 「さぁ、そこに足を踏み入れてください。そこに僕の秘密がありますよ」  と告げた。 【タイトル】 059 秘密保持契約 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2019-05-13 05:47:27(+09:00) 【公開日時】 2019-05-13 07:00:34(+09:00) 【更新日時】 2019-05-13 13:57:02(+09:00) 【文字数】 4,271文字 【本文(142行)】  僕が数瞬遅れて泡倉に入ると、目の前に三人が呆然としてるのが見えた。 「ここはどこ?」  ロージーさんが僕に気づいたのか聞いてくる。 「信じがたいかも知れませんが、ここは僕の泡倉の中です」 「泡倉? あれは精々変わった財布代わりにしか使えないものでしょ? ここは空まで高さがあるし、目の前にあるお屋敷にキャンプに……、広すぎるでしょ!」 「そうですね。確かに僕もそう思います。この泡倉は縦横が500kmあります。上下にも500km。全体は海で覆われていて、中央部には直径200km程の円形の島が有ります。僕たちがいるのはその島ですね」 「なんだか、昔の神話のような話ね……。聞いたことがあるわ。神様は自分の領域(ドメイン)を持っていて、そこには神様を表すような世界が広がってる、って。ここはまるでその領域みたい……」 「たしかにそうですね。僕もそう思います」 「じゃぁ、サウルは身分を隠した神様なの?」 「いえ、そんな事は無いです。僕は前世に恵まれただけのただの人間ですよ」  こないだフラム様に神様にならないかって言われたけど。 「じゃぁ、ここの支配者は誰なの?」 「一応僕なんです。前世でここを持っていた人が僕に譲ったそうで」  そこにセニオがやってきて 「ご主人様、秘密保持契約の準備ができました」  と告げてきた。  セニオの容姿にロージーさんがぽーっとした顔をしてるよ。確かにセニオはナイスミドルという感じの顔をしてるけど……。  さて、なし崩し的に三人を契約で縛る形になってしまったけど、大丈夫だろうか。でも、補給をするのに僕が町中を走り回って買いあさるのは無理だ。ハイエルフ達からも助けて貰うとは言え、十数名の人間の食料を毎度買いあさっていれば足が付く可能性は高い。  それならバスカヴィル商会を巻き込むのは正解なんだけど……。  そこで僕はちょっとセニオに待って貰い、泡倉の中を(と言っても僕が行ったことのある一部だけだけどね)案内したんだ。そうした方が納得して貰えると思ってね。  三人は泡倉の大きさに驚き、キャンプとテントの豪華さに驚き、ハイエルフに驚き、アラン様の片手がなくなってることに驚き怒り。キャンプで出された料理の美味しさに驚き、ついでに海を見せるとそれにも大変驚いていた。泡倉の中に海が! って。以前神官様が持ち込んだ珊瑚の出所はここだったのか! ってね。  そうして、しばらく相談する様子を見せた後は、疲れたように黙ってしまった。  一通り中を見せると三人とも僕の泡倉が一つの世界で有る事に納得してもらった様子。  そうしてから屋敷に入る。ここまで三人とも特に不満を口にすることなく付いてきてくれた。途中から一緒になったアラン様が片手はなくなってるけど元気そうなのも大きいと思う。  僕だけならともかく、長く付き合いのあるアラン様も一緒なら、と言うことなんだろうね。  屋敷に入るときにはハイエルフ達が畏まった様子で僕たちを迎えてくれた。お仕着せの服が非常に似合っている。メイド服、とか言うらしい。  鑑定機があるのは、この屋敷の二階。鑑定機用の部屋が一つ用意されている。プライベートを守ったりするための用心だという。  この鑑定機用の部屋にしてもここに来るまでの廊下も落ち着いた色合いながら非常に高そうな絨毯が敷かれていて三人は落ち着かない様子だった。 「まるで貴族様のお屋敷みたい」 「騎士伯や準男爵どころではない、高位の貴族のお屋敷みたいだよ。ロージー、見てご覧、窓を。とてもまっすぐな板を綺麗に嵌めている。ひょっとすると本物のガラスかもしれない」 「そんな、ガラスをあんな大きさにするのは無理よ、お母さん」 「何言ってるんだい、こんな常識外れな場所なんだ。何があってもおかしくないよ」 『セニオ、窓にはまってるのはガラス?』 『はいこれはコウタロウ様手ずから作られたガラスにございます』 『へー! コウタロウさんはこんなことまでしてたんだね』 「皆さん、この窓にはまってるのは魔獣ではなくてガラスだそうですよ。僕もびっくりしました。あ、ここが鑑定室になります」  中に入ると、既にセニオが鑑定機を操作する用意をしていた。シンプルな白で統一された綺麗な部屋。応接間のようにローテーブルとソファが準備され、ちょっと離れた所に鑑定機を載せた机があった。  アラン様はここで別れた。キャンプの方でやらないと行けない事があるらしい。    そこでセニオに促され、秘密保持契約を結ぶ。一応、三人にはもう一度同意を取ってから。  セニオが鑑定機を操作し、契約を発動させる。 「これで秘密保持契約は結ばれました。この泡倉にきてからのことと、ここで話した内容も全てが隊商になります。もし双方の合意無く契約違反すると最悪は死を招きます。お気を付けて」  セニオがそう言って鑑定機のある部屋から出て行った。 「秘密保持契約、結んでくれてありがとうございます。それでですね」  僕が口火を切った。 「僕たちは物資の調達をしたいんです。ここの海や山から取れるものやこれから作る村で出来るものを対価として。物を運ぶときにはこの泡倉を使います」 「ちょっと待っておくれよ」  とコーデリアさん。 「結局サウルは何者なんだい? 本当に神殿の養い子なのかい? 何か神(み)子(こ)様だったりするのかい?」 「僕はコミエ村で生まれました。両親も健在です。ただちょっと色々と有りまして両親は僕を手放しました。なので僕はコミエ村のサウルで神殿の養い子です。  ただ、僕の前世のコータローさんはかなりの功績を挙げた人のようです。神様だったのかは分かりませんが、この馬鹿げた大きさの泡倉を持ち、ハイエルフとその管理者-さっき鑑定機を操った彼がそうです-を僕に残し、沢山の不思議な知識を僕に残してくれました。意図は分かりませんけどね」 「前世からの贈り物の話は時々聞くけど、こんだけ大きな贈り物の話は聞いたことが無いね。術理具を貰った話や、隠し金庫を貰った話、あぁ、生まれ変わりとして貴族の養子になった話も有った。あれは最期どうなったのかねぇ。おとぎ話とばかり思ってたけど、こんなことがあったんじゃ信じてしまいそうだよ」 「確かに、僕の話に比べると小粒に思えますね。しかし皆さん案外冷静に受け止めて下さいましたね。助かります」 「冷静ってほどじゃないけどね。ここまで見せられちゃ信じないわけには行かないだろうさ。ガチョウに見えてガチョウと同じように振る舞うならそれはガチョウでいいじゃないかね」 「?」 「つまりサウルが何者であろうと、それを見破ることが出来ないのならついて行くってことさ。それはともかく、この屋敷持ちってことは、これからサウル様って呼んだ方が良いんですかね?」 「とんでもないですよ。沢山の贈り物(ギフト)を持ってますけど、僕自身はただのサウルに過ぎません。これまで通りで接してください」 「分かった助かるよ」 「こちらこそ助かります」  一段落付いたところで、ハイエルフメイドがお茶を持ってきてくれた。 「ではサウル君」  ここまでほとんど黙っていたシルビオさんが口を開く。 「この泡倉に物資を入れて、その新しい村に運び込む、そういうわけですね」 「はい。広場はまだまだ広げられますし」 「しかし最初はつけになるのでは無いですか? 回収の見込みはありますか?」 「現物になりますが、術理具が生産を開始するまではこの泡倉の物品を売ろうと思ってます」 「具体的には?」 「木材と海辺の珊瑚、後は水晶などの鉱物を考えてます」 「木材と言いますと、コミエ村でもちょっとお見かけした、あのやたらエーテルの溢れる木ですかな?」 「あれです」 「珊瑚と水晶は先日セリオ司祭が持ち込んだあれですか。まさかその出所がここだったとは……。珊瑚も水晶も大きなものであれば値は跳ね上がります。適当な大きさであれば程良く売れるでしょうね」 「良かった」 「ただあれらを売るのは慎重にしなければ出所を探られてしまうでしょう。現金化は時間が掛かるですから、ちょっと買値は下げる形になるかも知れません。よろしいですかな?」 「はい構いません」 「後は、サウル君が作る術理具を幾つか欲しい所です。今、非常に品薄でしてな。うちのブレンダン達も頑張ってるんですが、中々歩留まりが悪くて……」 「わかりました。急いで幾つか納品出来るようにしましょう。それでどれがご入り用です?」 「どれも、と言いたいところですが、草刈りの術理具と換えの部品ですな。あれがどこの村からも要求されてまして」 「分かりました」 「ちょっと待って! 商売の話はこの部屋を出てからも出来るでしょ?」  ロージーさんが眼鏡をきらんとさせながら口を挟んだ。この世界で眼鏡は何かしらの術が掛かった術理具で、扱うにも多少の四大術の素養が必要なもの。つまりロージーさんは商売人であると同時に四大術師でもあるんだよね。 「確かにそうですね」 と首をすくめてシルビオさんが引いた。 「結局その前世の人って誰なの? 有名な人?」  確かに。コウタロウさんについては僕は積極的に調べた事は無かった。聞いてみても良いだろう秘密保持契約があるんだし。 「コウタロウ、といいます。ご存じです? 僕もちょっとだけ調べましたけど見つかりませんでした」 「そうね、私も知らないわ」  ロージーさんはくりっとした目を更に丸くしてる。 「でも、王都の先生に聞けば何か分かるかも。ねぇ、ちょっと契約内容を変更してもらえない?」 『セニオ、どう思う?』 『失礼ながら、変えない方が良いかと。ご本人様以外にコウタロウ様の情報が漏れるのは……』 『しかし、コウタロウさんの情報が得られるとしたら大学か神殿でしょう? 場合によっては何を調べているのか聞かれるかも知れない』 『だからこその契約です。契約に縛られていると知ったならそれ以上の追求はしないでしょうから。契約が彼女の身を守ると言うことになります』 『分かった』  多分、時間にして1秒も経ってないと思う。みんなには僕がちょっとだけ考えたように見えたと思う。 「すいませんが、契約の内容はそのままで」 「そっか、残念。じゃぁいつか王都に行かないといけないね。どこかのサーガに歌われてるのかも知れないし、古代帝国の時代の貴族だったのかもしれないし」  一通り質問に答えた後、鑑定機の部屋から直接元の場所に戻ったよ。  その時コーデリアさんが 「これ、兵士を中に乗せて移動したらえらい事になるねぇ。いいかい、決してえらい人にバレないようにするんだよ?」  と忠告してくれたよ。ほんとだよね。そうなったら貴族達に良いように使われるのだろうね。こわいなぁ。 --- 5/13 誤字修正 【タイトル】 060 コミエ村へ 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2019-05-13 17:46:16(+09:00) 【公開日時】 2019-05-14 07:00:17(+09:00) 【更新日時】 2019-05-14 07:00:17(+09:00) 【文字数】 3,222文字 【本文(137行)】  お話が終わったところで、僕とハンナはアレハンドロを出る事にした。日はまだ高い。水上を移動すれば、コミエ村までは夕方になる前にたどり着くはず。コミエ村で神官様や村長さんに事情を説明しておかないと。  と思ってたんだけど。  冒険者組合の人に見つかった途端、組合まで連れて行かれてしまったんだ。僕悪いことしてないはずだけどなぁ。  中に入るといつもより雰囲気がとげとげしい。僕を連れてきた剣士のおじさんに尋ねてみようとすると、 「無事で良かった!」  と、受付のパティさんがカウンターを飛び越えて走ってきたんだ。避けるわけにも行かなくて受け止めると 「あぁ、無事で良かった」「けがはないか?」  などと他の冒険者の人達も声をかけてきた。 「はい、何とか大丈夫でした。しかし……」  アラン様達のことは当分秘密にしないといけないんだから……と、一瞬考え込んだとき、ハンナが声を上げた。 「アラン様達は途中で私たちとの同行を拒否しました。これ以上、私たちに迷惑はかけられないって。アラン父さん、セレッサ母さん……」  と泣き出した。恐らく演技だと思う、と、事情を知っている僕が考えるほどハンナの演技は完璧だった。  その声を聞いた冒険者達は、怒りに燃える。しかし、領主の決定には逆らえない。領主が何故親しい仲のはずのアラン様を陥れるような事をしたのか、理由が分からない。  ならば……、と、数人が姿を消した。多分、探索術で証拠か何かを探すんだと思う。 「で、サウルよ、お前はどうするんだ?」 「僕は僕に出来る事をしますよ。まずはコミエ村を助けます。僕とハンナのホバリングがあればきっと役に立つことも有ると思うんです」  ひょっとすると、ここにもスパイがいるかも知れないから、全部のことを言うわけには行かないよね。 「良かった、お前が短慮を起こして、あのいけ好かない兄弟に果たし合いを挑むんじゃないかって皆心配してたんだ」 「確かに、あのお二人が元凶なのは間違いないでしょうけど、殴って終わりという性質のものじゃないでしょう?」 「ホラ見ろ、やっぱりサウルは冷静じゃねぇか」「お前よりよっぽどな!」「わっはっは!」  いえ、僕だって怒ってますよ。なんというか、昨日今朝と色んな衝撃が続いたこともあって感情が動いてなかったけど、段々腹が立ってきたよ。ほんとに。  なんで政争に負けたとは言え、ここまでされなきゃいけないのか、分かんない。この国の王は何をしてるんだって思う。  でも僕はきっと見返してみせる。アラン様やコミエ村の皆を傷つけようとする奴らを打ち倒してみせる。  そのためにもまずはお金だ。税金を払えるようにしなきゃいけない。  僕にできる事は何でもやるぞ。  今日は八月十二日で光の日。税金の取り立てが来る来年の三月まであと半年くらい。これまでの三倍の税を払えるようにしなきゃ。  コミエ村の皆と離れたくないから。 「まぁサウルよ。余り思い詰めて無茶するなよ」「何か有ったら相談しろよ!」「そん時は冷えたエールも一緒にな!」  数人の先輩方が口々に励ましてくれる。なんだかとても嬉しい。嬉しいのに、なんだか涙が出てくるのは何故だろう……。 「サウル、これ」  ハンナがハンカチを渡してくれた。うう。良い匂いがする。ぐずっ。  ほんとは光の日は半休取る日だけど、事は一刻を争うんだ。そろそろ行かなきゃ。 「皆さん有り難うございます。僕たちは、出かけます。自棄を起こさないように落ち着いていきますから安心してくださいね。では!」  と、格好良く離れようとしたら、袖口をぐいっと引っ張られた。受付のパティさんが布袋を押しつけてきた。 「まだお昼食べてないでしょ。良かったらこれ二人で食べて」 「ありがとうございます。いただきます」 「ありがとうございます」  僕とハンナで礼を言うと、今度こそ冒険者組合の建物から出て、門の方に向かった。  今日は光の日だからか、通りに人が多い。  一週間は闇、地、水、火、風、光の六つで出来てる。そのうち光の日はコウタロウさんの知識にある「半ドン」の日だ。特に用事の無い日は午後はお休み。  なので、昼間っから屋台に繰り出す人もぼちぼちと見受けられた。  とはいえ、お店の人なんかは一斉に休むことも出来ず、交代制みたいだけど。  町中でホバリングするわけにも行かないからゆっくりと道を進む。その僕たちに後ろから声をかける人が居た。 「お、坊や、デートかい?」  振り返りながら 「フラムさん、そう思うなら邪魔しないでくださいよ」  と返事をする。  振り返るとやはり土地神のフラム様だった。今はソロの冒険者として頑張ってる。隣にはパートナーのジーンさん。 「まぁそう言うな。そうそう、坊やに一つ伝言だ。土地神様の領土を移動するときには神殿で声をかけて欲しい、ということだ」 「どなたからでしょうか?」 「それは秘密さ」  というと、人差し指を立てながらウィンクを飛ばす。まったく、この神様はほんとに軽い。僕の持っていた神様に対するイメージが大分崩れてしまった。 「分かりました。今からちょっと遠くに出かけますので、出先の神殿で声をかけてみます」  わざわざ念話じゃなくて声をかけてきたって事は、実際にその場になるまで教えてくれないってことなんだろうね。まぁいいさ。 「おや、今すぐじゃ無いのかい?」 「そうですね。ちょっと今はこの町に居たくないので」 「そうか、それは仕方ないな」  ともあれ、やっとアレハンドロの門を抜けると午後も三時頃になっていた。夏の日は中々落ちないとは言え、夜になるまでにはコミエ村に着いておきたい。 「じゃぁ、急ごうか、ハンナ」 「うん」  体内のエーテルを喉付近にある風の属性のセンターに集める。  風に染まったエーテルを作り替え、体に何本ものパイプを生やす。そこから強力に勢いよく大気を通過させると、ゴウゴウと音がし、僕とハンナの体は地面を押しつけるようにふわりと浮いた。  周囲に大量の砂埃が舞うけど、知ったことじゃない。  僕とハンナはホバリングでコミエ村を目指した。泡倉にアラン様達を載せたまま。  もしあの兄弟の手下達が後を付けていたとしても、まさか泡倉の中に居るとは思うまい。僕には付けているようには思えなかったし、探索術に優れたハンナも何も警告しなかったからね。きっとバレてない。  コミエ村まで80km。しかしそれは素直に道を進んだとき。川の上をホバリングで飛ばせば、障害物もなくあっという間だ。時速80km近くで吹っ飛ばすと1時間もしないうちにコミエ村にたどり着いた。  川岸にホバリングで登り、そのまま地上を進む。石なんかのデコボコを無視出来るので非常に楽なんだよね。  ホバリングの轟音に村の人達が集まってきている。 「止まれ! お前達は何者だ!」  前に出てきて誰何したのは自警団長のイノセンシオさんだ。久々の再会という雰囲気じゃないね? 「僕です。ドミンゴの息子で、神殿の養い子のサウルですよ! そしてこっちはアラン様の養女のハンナです!」 「馬鹿言え! あいつらはまだ5才とかそんなんだぞ、そんな図体がでかいはず有るか!」 「あれ? こないだの手紙で大きくなったって書いたはずですけど」 「それにしたってでかくなりすぎだろ!」 「じゃぁセリオ司祭に確認して貰いましょうよ! それで駄目なら諦めますから」  しばらくするとセリオ司祭が、神殿戦士の人達とやってきた。僕と村の境界までは30mほど。険しい顔でお互い叫ぶように言い合う。 「君がサウルかい?」 「はいそうです!」 「では私の質問に答えて貰おう!」 「何でも聞いて下さい!」 「では、君は空と海と大地を手に入れてるかね?」 「はい」 「その大きさは?」 「この国より大きいでしょう」 「そこに住まうのは?」 「失われし者達」  するとセリオ司祭が優しい顔になり言った。 「お帰りサウルにハンナ。二人とも予想以上に大きくなってびっくりだよ。さぁ中に入って。そろそろ風が冷えるからね」  村の境界に集まってた皆がわっと歓声を上げた! 「サウルが随分変わって帰ってきたぞ! 今日は宴会だ!」 【タイトル】 061 コミエ村にて 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2019-05-13 21:44:21(+09:00) 【公開日時】 2019-05-15 07:00:32(+09:00) 【更新日時】 2019-05-15 07:00:32(+09:00) 【文字数】 3,555文字 【本文(119行)】 「なるほど、事情は分かりました。それでしたらアラン達をコミエ村で匿うことは出来ませんね。サウルの泡倉が無かったらどうなっていたことやら」  外ではまだ宴会の騒ぎ声がする。松明まで掲げて賑やかにやっている。主役の僕たちがいないのに盛り上がってるのは、なんだかんだと口実を付けて騒ぎたいのだと思う。  それだけ鬱憤がたまってるのかな? そのはけ口になったのなら良いのだけれど。 「ええ、あのままですと、どこか別の都市へと放浪するしか無かったと思います」 「そうなったら、次の手の者がやってきて今度こそ死んでたかも知れませんね」  神官様がカップを手に持ち、ゆっくりとお茶を飲んだ。  あの宴席の中に父は居ない。ブラス兄さんと母さんは居るのに。やっぱり父は僕のことを嫌ってるのかな。  ブラス兄さんはとても驚いてた。こないだまでやせっぽちのちびっ子だった僕が、あっという間に自分より大きくなって、ホバリングというすごい術でアレハンドロからあっという間にやってくるようになってるんだから。  でも、兄さんは僕のことを気味悪がらずに受け入れてくれた。「だって、サウルはやっぱり泣き虫だから。俺がいないと駄目だからな」って。実際には、ゴブリンも倒せない兄さんが僕の手助けになるとは思えない。でも、そう言って貰って僕はすごく嬉しくて。泣いた。  母さんは何も言わず僕を抱きしめてくれた。ほんの二ヶ月しか経ってないのに大きくなってしまった僕をちゃんと受け止めてくれた。  やっぱり嬉しい。  この人達を守りたい。  だから父が来なかったのがすごく悲しかった。つい涙が出てしまう。 「これからどうします?」 「魂倉の管理人が、良さそうな場所を教えてくれました。そこに隠れ里を作ろうと思います。移動にはホバリングがありますし、資材は泡倉から調達できるでしょう。食料はバスカヴィル商会から」 「んー、そうですね。ただ私はその負荷が君にだけ掛かってくるのが心配です。君に何か有ったら直ぐ破綻しかねない、そんな危うさがありますね」 「それは確かにそうですね。泡倉の出入り口は僕の周辺にしか出せませんから、僕が倒れたら荷物の運送ができません。もし僕が死んでしまったら泡倉は消えてしまうかも知れません。でも今はこれしか無いと思っています」  と、そこでフラム様から念話。 『おーい、神殿に着いたら声かけるようにって言ってただろう? 今何してる?』 『あ、すいません。直ぐ行きます』  わずかに硬直した僕を見て神官様が苦笑いしながら 「何かお告げでもあったのかい?」 「えぇ。すいません。すぐに神殿でお祈りするようにと。すいませんが、ちょっと席を外します」  そこから神殿の広間に行く。そのいちばん前、神官様の説教をするところまで進み、跪いた。そのままでは真っ暗なので、広間に仕掛けられている灯りの術理具を使って明るくしている。  そして跪き、祈りをする体勢になると、呼吸を整え、エーテルを練る。呼吸に合わせ魂倉を通しながら全身を循環させる。  エーテルが僕の体の隅々を通りながら純度を高めていく。  各属性の霊的センターを通し、練ったエーテルを溜めて、それを更に純度高め、ある程度自分の中に高純度のエーテルが溜まったところで、頭頂部から神に捧げる。  特定の効果を願うわけではない、純粋にエーテルを捧げる行為。  この高純度のエーテルが神の糧になる。  さて、捧げ物をしたところで、念話をしようか、と思った途端。  僕の肩に手を置かれた。今まで人の気配なんてしなかったのに!  僕は頭を上げる事が出来なかった。  非常に高純度のエーテルを感じたから。 「ふふ。驚いたかい?」  その声は! 慌てて頭を上げると、そこに居たのは緩やかなローブを身につけたフラム様だった。いつもの冒険者スタイルとは違い神気に溢れていた。 「フラム様はアレハンドロにいたのでは? それにそのお姿は?」 「これはあたいのアヴァターさ。もう一人のあたいと言ってもいいかもな。坊やが隠れ里に神殿を建てたら、こいつを派遣してやるよ。まぁこれだと目立つから、もうちょっと姿をいじるがね」 「ありがとうございます」 「そうそう、移動のことなんだけどね。あたいは自分を信奉する者が居るエリアにはある程度自由に転移出来るんだよ。何か有ったら頼ってくれて良い。ただ、それ相応の代償が必要となるから、頻繁にと言うわけにも行かないがね」 「すると、隠れ里からアレハンドロまでも転移出来ると言うことですか?」 「あぁ、今のあたいの力では週に一回一往復がやっとだがね。もっとも、坊やが沢山のエーテルを捧げてくれるならもう少し頻度も高められるかも知れないが……」 「……あはは。ご期待に添えるよう努めます……。ちなみにその時にはどれくらい同伴出来るんですか?」 「今はあたいとその装備だけだな」 「なら」 「そう、残念ながらサウルを連れてアレハンドロに潜入する事はできない」 「でも、通信をお願いしたり出来そうです。それだけでも随分楽になると思います。しかし、『今は』ということは」 「将来的には人を連れて行けるようになる」 「夢が広がりますね」 「良質のエーテルを大量に頼むよ、坊や」 「頑張ります」  そうだ。もし、人工的にエーテルを高純度にする方法が出来たら神殿にお供えしよう。自動功徳器とか名前を付けて。うん。面白そう。出来るかどうかは分からないけど。 「じゃぁ、このアヴァターは適当に言い訳付けて同行させてくれよ」  そういうと、フラム様のアヴァターは容姿も服装も変わっていった。  特徴的な青髪が普通のくすんだ栗色に。表情も柔らかく慈悲溢れる優しいまなざしに。とてもじゃないけど、高位の剣士だとは思えない。  服装も純白のローブから生成りの質素な神官服に。 「それではサウル様。よろしくお願い致します。私のことはロベルタとお呼びください」  と、頭を下げてきた。 「ロベルタ様。アヴァターと言えば神も同然。そんな畏まられても困ります」 「いえ、これからは私は一介の神官です。ですからサウル様には相応の礼を取らせていただきます」 「サウル、祈りは終わりましたか?」  そこに神官様がきた。話がややこしくなるかも、というかまだどういう風に誤魔化すか考えてない! 「おや、そちらの方は……。ただの人では無さそうですね」 「はい。知識神の神官様、私はロベルタ。土地神フラムのアヴァターです。私はサウル様を見守るためにやって参りました。この事は内密に」 「ははっ」  神官様は跪いて言葉を続ける。 「普段の私は放浪の神官です。その様に扱ってください」 「わかりました。ではそのように」  幸い、コミエ村に来てから、用心のため誰も泡倉から出してなかった。なので「放浪の神官がサウルに神気と運命を感じ、同行することになった」という単純なカバーで押し通すことになったんだ。  それからロベルタ様を泡倉に案内し、僕とハンナはコミエ村に泊まることになった。  神官様も奥様も、実家で寝てきたらと勧められたんだけど断ったんだ。だって、父が僕を避けてるのに、すごく空気が悪くなりそうだし。そんな事になったら泣いちゃうよ。  だから僕は、神殿の僕の部屋で寝たんだ。ハンナは奥さんの部屋に行ったよ。さすがに寝室が別に出来るんだから、一緒に寝るのは良くないよね。  ハンナはご主人様のところに居るのは私の務めだ! って抵抗してたけど、僕がお願いしたら聞いてくれたよ。助かった。  明日は早い。  外の宴会の声と虫の音を聞きながら床に就く。結局宴会に参加したのは最初の挨拶から10分だけだったね。  ふと、ロジャーに声をかけてみた。声は聞こえなかったけど、魂倉にピクリと反応があった。  何か助けにならないかな、そう思って、その反応があった箇所に向かってエーテルを注ぎ込む。もちろん、純度を高めたものを。ただし、そっとゆっくりと。フラム様に捧げたときより、半分以下の流速で。だって、傷ついてるはずのロジャーに高圧のエーテルをぶつけたらより酷いことになりそうだもの。  ロジャーの姿を思い浮かべ、早く元気な姿を見せてください、と祈りを込めながら。  気がつけば朝になっていた。  どうやらロジャーにエーテルを送りながら寝てしまってたみたい。 『おはようございます。昨夜は有り難うございました』 『あ、ロジャー! 治ったんだね。よかったよ』 『いやまぁやっと声が出せるくらいでして。もうしばらくはお役目を果たせないようで。申し訳ありやせん』 『良いよ、元はと言えば僕がしっかりしなかったから、そうなったんだし。ゆっくり治して。僕もエーテルを送るから』 『……ありがとうございます』  そこから慌ただしく朝食を摂り僕とハンナは出発した。  ロベルタ様は泡倉の中。ロジャーは僕の中から外の様子を見てくれている。  ロジャーが目を覚ましたお陰で、場所を間違うことは無さそうだね。ほんと助かったよ。 【タイトル】 062 候補地への道 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2019-05-15 08:15:25(+09:00) 【公開日時】 2019-05-16 07:00:23(+09:00) 【更新日時】 2019-05-16 07:00:23(+09:00) 【文字数】 3,469文字 【本文(119行)】  ロジャーが言うには、候補地はコミエ村から約20kmとのこと。  川をホバリングで通ってしまえばあっという間なんだけど、ここは陸地を進もうと言うことになった。僕たち以外にも人が通る可能性を考えて。それに川も完全に安全では無いとロジャーに聞いたんだよね。たまに水棲の魔獣が襲ってくることもあるとか。  ロジャーはまだ姿を現すことが出来ないそうなので、僕とハンナとロジャーで念話を行いながらの道行き。  川岸からちょっと離れて道を作る場所を確認しながらホバリングで進む。だからあまりスピードは出さない。みっしり生えてる草や木をかき分けながら進むとなると大変だけど、ホバリングで避けながら進むので非常に楽だね。進むスピードも普通に走るより速いくらいにしているから、この調子だと1時間もすれば到着しそう。  まだ日が高く昇る前だからか、夏の朝は涼しい。川の方から涼しい風が吹くのもその一因かも知れないね。  そうしてしばらく進んでいくと 『サウル。この先にゴブリンが居る』 『ひのふの4体ですな』  と二人から念話がきた。 『向こうは気づいてる?』 『ホバリングの音に警戒はしてるようですぜ』 『あ、こっちに来る』 『よし、ホバリングを解除して迎え撃とう』  ホバリングを使っての戦いにはまだ慣れない。突撃するだけで何とかなる状況ならともかく、普通の戦いにも馴れた方が良いはず。ハンナと一緒に戦うのも試しておきたい。  こないだゴブリンを倒したときにはあんなに興奮してたのに、今日は妙に冷静で不思議な気分。まるで組合で戦いの訓練をしたときみたいな……。 「ハンナが前に出て攪乱するから、サウルは後ろから四大術でとどめを刺して」 「分かった」  多少見晴らしの良いところに移動してゴブリンを待ち構える。ハンナとロジャーの気配察知には待ち伏せは見あたらないけど、念のためだ。  馬鹿正直にまっすぐやってきた4体のゴブリン達が100m程先に見える。見た目には普通のゴブリンみたい。手にはそれぞれさびた剣や木製の槍をもっている。四大術や神術使いは居ないようだ。 「よし、行こう」  先手必勝。ハンナが膝まである草に隠れるように姿勢を低くして走って行った。地味な色の外套も相まってあっという間に姿が見えなくなる。  僕も追いかけるように走るけど、ハンナほどのスピードは出ない。  ゴブリン達は一人姿を見せている僕に向かって走ってくる。4体のゴブリンが走り込んでくる様子は、ちょっと怖い。  距離が20mを割り込んだときに、一番先頭を走っていたゴブリンが悲鳴を上げて倒れた。その場にハンナが立ち上がる。手には短剣。ハンナが不意打ちをしたようだ。残りのゴブリンが急停止してハンナに群がる。 「ファイアブレッド!」  素早く火の弾丸を3発作って、倒れたゴブリンに打ち込む。ファイアボルトの派生形の術だ。貫通力も高いから、これでとどめを刺したはずだ。頭と腹に火の弾丸を受けたゴブリンは一度ビクンとはねた後ピクリとも動かない。  ハンナは短剣と素早い動きでゴブリンの攻撃をかすらせもしない。そして的確に反撃し、動きを鈍らせる。そうなったら僕の仕事だ。風で撃ち込む鉄の弾丸はまっすぐにしか飛ばないけど、四大術の火の弾丸は味方を避け、敵を追いかける。乱戦にはもってこいだ。  2分もしないうちにゴブリン達は地に伏して動かなくなった。  ハンナが念入りにとどめを刺し、短剣で魂倉を取り出した。組合に提出してお金に換えても良いし、加工してエーテルバッテリーとして術理具に使っても良い。  ゴブリンの魂倉は余り質が良くないけど、ないよりマシだろう。  魂倉は、僕が預かった。泡倉に送り部下のハイエルフに頼んで保存してもらう。  僕とハンナで初めて一緒に戦った割には、良いコンビネーションだったんじゃ無いかと思う。  え? こないだの襲撃の時? あれは全くバラバラでパーティとしては機能してなかったからね。数に入れないよ。 「上手く行ったねハンナ」 「うん。多分これが私たちの定番になると思う」 「ハンナが回避型の盾で、僕が固定砲台と回復役だね。ただ僕はあまり近接戦闘が得意じゃないから、囲まれたらかなりまずいね」  組合の勉強会では、様々なパーティの在り方も学んだ。僕たちみたいなパターンも有るにはある。ただ、オールマイティとは言えない形だ。 「二人だから仕方ない。不利な状況にならないように探索術を磨くしかない」 「確かにそうだね。いつも真っ正直に戦わなきゃ行けないわけじゃない」 「いざとなればサウルの泡倉に立てこもる」 「その手も有るけど、ギフトのことが広まるのは困るから、最終手段だね」 「うん」 「ハイエルフ達に手伝ってもらうのも一つの手」 「そうだね。今回みたいに人の目がないときには手伝ってもらうのもいいね」 「人に見られても、エルフとハイエルフを区別付けられる人は少ない」 「とはいえ、ある程度の術者なら分かってしまうし。滅んだはずのハイエルフが何故?! となったら面倒な気がする。もっと情勢を整えてから、かな」 「実は隠れ里で生き延びてました、じゃ駄目?」 「その手はありだね」  ほんとはセニオから預かったイェニ、アーダ、マルックは連れて歩いても構わないのかもしれない。戦闘が苦手なアーダ以外は特に。  でも今彼らは泡倉の中での仕事を中心に任せている。  まだ僕の中に彼らを「借り物」という気がしていて気が進まない。  泡倉も魂倉もロジャーもセニオもハンナも、コウタロウさん有っての話で、なんか遠慮してしまう。もっと慣れたら感覚が変わるのかな?  そんな事をハンナに素直に言う訳にもいかない。どうしたらいいんだろうな。  ゴブリン達の死体はそのままにした。魂倉を取り出せば数時間で消え去ってしまうからだ。使える素材があるなら剥いで処理し、消えないようにするけど、ゴブリンにはそんなものは無い。だからそのまま放っておく。道沿いなら汚いし動物が集まってくるから埋めたりするけど、ここはそんなじゃないし。  ちょっと休憩を取る。四大術で冷たい水を作り出し、これまた作り出したコップに注ぐ。勿論二人分ね。美味しい。これに果汁でも搾って入れたら更に美味しいんだろうけど、そんな持ち合わせはない。  ふと、思い付いたことがあったので念話して見る。 『イェニ、今いいかい?』 『なんでしょう、サウル様』  呼びかけたのはセニオに借り受けた部下達のリーダー、イェニだ。優秀な術者だと聞いてる。 『酸味のある果実って無いかな。飲み物に絞って入れたいんだ』 『ありますよ。ちょっと屋敷の方に行って取ってきます』  しばらく待つ。風はまだ涼しいけど日が強い。日に当たった場所が焼けてしまいそう。気温も25度を超えている。この調子だとすぐに30度を超えそうだよ。どこか日陰に入りたいところだね。 「ハンナ、あの木陰に入ろう。ここは暑いよ」 「ん」  日陰に入ったところでイェニから念話がきた。  ちなみに、この念話、普通の人とは出来ないみたい。僕の前世に関係してる人だけみたいだね。土地神であるフラム様は例外のようだけど。 『幾つか果物を確保しました。いつもの倉庫の前に門を開けてください』 『分かった』  僕や部下達の荷物やらが仕舞ってある倉庫の前に、門を開けるとイェニが現れた。3つほど黄色い果実をもっている。あと、何か小さい壺。 「レモンと蜂蜜を持って参りました」 「おお、気が利くね。蜂蜜があれば良いものが出来そう」  四大術の土を使い、大きめのピッチャーと新たにコップを三つ作る。  ピッチャーは以前コミエ村でも作ったからお手の物。そこにこれまた四大術で作った冷たい水にレモンを搾り、蜂蜜を入れる。  おっと、マドラーを作ってなかった。これも土から作る。  材料はそこらの土だけど、ちゃんと神術で殺菌してるから汚くないよ。  あっという間にキンキンに冷えたレモネードが出来た。  ピッチャーから僕とハンナのコップに入れると、残ったレモネードの入ったピッチャーとコップ三つをイェニに渡す。 「イェニ、これ三人で分けて飲んでよ」 「よろしいので?」 「もちろんさ」 「しかしサウル様は、このような術を簡単になさるのですね。エーテル濃度の高い泡倉ならともかく、この地上でこの術。感服致しました」 「ありがとう。ハイエルフのイェニに褒められると嬉しいよ」 「世辞などではありませんよ」  僕の表情が微妙だったんだろうね。イェニはそう付け加えた。 「うん。じゃぁ予定地に着いたら、土木作業なんかで人手を借りるかも知れない。気に掛けておいて」 「わかりました。では」  再び泡倉への門を開け、イェニを送る。  さぁ、候補地までもう少し。油断せずに行こう。 【タイトル】 063 候補地にて 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2019-05-20 15:56:59(+09:00) 【公開日時】 2019-05-20 15:56:59(+09:00) 【更新日時】 2019-05-20 15:56:59(+09:00) 【文字数】 3,202文字 【本文(113行)】  しばらく川に沿って海を目指してみると、小高い土地を見つけた。ロジャーが言ってたのはここかな? 『へい。その通りでさ。この台地は水もありやすし、海も近い。木材をとるのに適した森もありやす。好条件かと』  川沿いから台地に上ってみると、まばらに木が生えた土地が広がっている。遠くに森が見えているし、西を向けば海が見える。  今世では初めての海。もちろん泡倉の中の海も見ているから本当に初めてというわけじゃないんだけど。こっちの方が海の色が暗い気がする。  さて、候補地についてちょっと見回ってみようかな。どこに家を建てるか井戸を掘るか。ゴミ捨て場をどうするか。考えなきゃ。  あ、その前に、候補地に着いたって泡倉のみんなに知らせなきゃね。  周囲に魔物やその巣が無いことを確認する。これは僕は苦手なのでハンナに全面的に頼る形になった。  そうして安全が確認出来たところで泡倉の中に入り、近くのハイエルフに皆を集めるようにお願いする。  しばらくするとアラン様にセレッサさん職人と家族の皆さん、計16人の人達が集まってきた。 「アラン様から聞いてると思いますが、隠れ里の候補地につきました。見て貰って明日から作業を開始しようと思います」  互いに見合う職人と家族の皆さん。すると、親方と呼ばれる三人の内一人が苦々しげな顔をして言い放った。 「俺たちは王都でやっていけなくなって出てきた。どうせあのままならスラムに落ちるか飢えて死ぬくらいのもんだったんだ。隠れ里に入るのは構わねぇ。でもよ、俺たちは力仕事に向いてねぇ。木工だって大工向きのことはやったことねぇぞ。その辺どうするんだ」  あぁそうだよね。皆さん術理具やらその飾りに関した職人さんだものね。 「大丈夫です。力については、倍力の術理具を人数分提供します」 「俺たちが作る予定だった一つだな。あれは王都でも噂になってた。それを使うと子供や腰の曲がった婆さんでも力仕事が出来るとか。本当なのかい?」 「本当ですよ。ちょっと持ってきて貰って試しましょう」  直属の部下として与えられた三人、イェニ、アーダ、マルックに人数分の倍力の術理具を持ってきてもらうよう。  それを全員に配り、付けてもらう。子供も交じってるけど、サイズ調整は革紐を調整するだけなので簡単だ。  サイズ調整が終わったら起動してもらう。倍率は最小に。 「どうですか? 使えると思うのですけど」 「あぁ、こりゃすげーな。自分のエーテルと魂倉を術理具に貸す形になってるのか。これなら安い魂倉だけでいけるわけか」 「わわ! こんな大きな石を持ち上げても辛くない!」 「歩くのも楽だし、荷物を背負っても動きやすいわね」  しばらく皆さんに使って貰う。荷物を持ち上げてみたり歩き回ったり。 「でもよ、ちょっとだけ反応が遅れるな。走るのにもちょっとコツが要る」 「戦いにも使えたらって思ったけど、かなり訓練が必要かもな」 「俺は戦いには使えないと思うがなぁ」  と言うような意見も有った。僕も戦いに使うにはちょっと難しい気がする。頑丈な鎧なんかと組み合わせたらひょっとしてって思うけど。  満足して貰ったところで、今付けている術理具は差し上げます、と告げた。修理や部品の交換は無償で行うけど、そのうち自分でやって貰います、とも告げる。  勿論皆さん術理具職人なのでその辺に文句はない。 「それで、家のことですけど、ここにいる部下達が皆さんを助けます。家の設計図なんかも出しますので、皆さんが主になって作業を進めていただけたらと思います」 「作って貰うってわけにはいかないのかい? 慣れない作業は正直気が重い」 「その気持ちも分かります。しかし、望まぬ形での事とはなりましたが、皆さんの村ですからね。みなさんが主になって作るべきかと思いました」  そこでアヴァターのロベルタさんが 「もし怪我や病気をしても私が居ますから安心してくださいね」  と、にっこり笑みを作った。するとほとんどの人が安心した顔を作ったのには驚いた。いつの間に信頼を勝ち取ったんだろう? 後でアラン様に聞いてみようかな? 「では実際に見て見ましょうか」  ということになり、候補地に移動する。  今回の入り口は門のような形を作ってみた。  出入り口は、二種類できる。今回のような門を作るときと地面に陣を作るとき。陣は動かせない物の下に作れるので重量物を動かすときに使いやすい。門は人などが通るときに使いやすい。  今回は沢山の人を通すので門の形にしたんだ。  入り口の門を僕が最初に通る。次にハンナ、アラン様セレッサさんと続く。そして職人の皆さんがやってきて、周辺を見渡した。 「草原だ」「海が見える」「木はまばらだな」「北は山、南は川、西が海で東は草原か」「土に石が少ない。畑も作れそうだ」「ちょっと風が強いか。冬は寒そうだ」  皆口々に感想を言ったり、話しあったりしているけど、不満なんかは聞こえてこない。とりあえずここを隠れ里にしても問題ないかな? え? 草原だから隠れてないって? まぁそれは言いっこなしで。 「しかしよ」  と親方の一人。 「俺たちコミエ村に厄介になるつもりだったから建物を建てる道具なんてねぇぞ。そのへんどうすんだ?」 「数は十分でないかも知れませんが、部下達に持ってこさせましょう」 「ずうずうしいが、テントも借りられると助かる」 「えぇこれだけ予定が狂ったんです、仕方ないですよ。まず仮の神殿を作りましょう」  神殿がないと魔物除けの結界が張れないからね。集落の周辺の柵が貧素な物でもある程度魔物を防げるのは神殿のお陰。だからまずは神殿を建てなきゃ。 「ロベルタさん、指図をお願いしても良いですか?」 「はーい、お任せ下さい。ではとりあえずの縄張りをしてしまいましょう。サウルさん、仮の村の境を決めますので、私の後を付いてきて分かりやすい目印を立ててもらえますか?」 「わかりました」  ロベルタさんはしばらくうろうろと歩き回り土地の高低や土の質を見ているようだった。そして、 「では、先ほどのあそこを神殿にしましょう」 とちょっと離れた所にある一本の木を指した。そして 「ここから柵を作りましょう」  と、足元を指したので 「はい」  と返事をし、魂倉のロジャーに指示を出す。魂倉が活性化し、金色のエーテルが吹き出さない程度の出力を確保する。  今回はとりあえずの柵だから土を固めた物で行こう。  中心から見て外側から土をすくい取り、ロベルタさんが歩いた場所に土を固めて作った柵を出す。高さは2m。柵の目は細やかで僕の握りこぶしを通さない。地面の下にも2m近く埋めている。土は僕の力の及ぶ限り固めて変質させたから普通に叩いたくらいじゃ壊れない。多分牛がぶつかっても大丈夫。これに土地神のアヴァターであるロベルタさんが加護を加えたら相当頑丈な物になるに違いない。  だって、土地神って元々魔物から人間を守護するために特化した神様だから。  ただ、さすがに頑丈すぎる柵を作ったお陰でロベルタさんから遅れがち。職人さん達はすごいすごいと大喜びだけど、アラン様は苦い顔だ。 「あんまり調子に乗って倒れるなよ!」  と注意されちゃった。でも多分大丈夫。僕も目覚めた頃からすれば結構成長したからね。コミエ村の石舞台を作ったときに比べたら。  ゆっくり歩いて行って30分ほどで高い柵に囲まれた集落予定地ができあがる。柵の外側は少し浅い堀が出来た。掘りとしては余り役に立たないかも知れないね。これはまた考えよう。  職人さんの荷馬車やテント、大工道具を出すために入り口を作り、皆さんに取りに行ってもらう。  もちろん泡倉の部下達には連絡済みなので、スムーズに受け渡しはできた。  荷馬車付の馬たちは早速そこらの草を食む。職人さん達は今日の休憩所を作るために動き始めた。部下達もそれを助けるけど、職人さん達が主になるように念話で言いつける。  僕はちょっと気になることがあったのでハンナとアラン様、セレッサさんを伴って集落予定地を見て回ることにした。 【タイトル】 064 古代文明の遺産 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2019-05-22 08:07:28(+09:00) 【公開日時】 2019-05-22 08:07:28(+09:00) 【更新日時】 2019-05-22 08:07:28(+09:00) 【文字数】 3,140文字 【本文(102行)】  気になる物は柵を作った後の堀にある。そのためには柵を乗り越えなきゃいけない。だってまだ柵に門を付けてないから。  ホバリングを起動して柵を乗り越えようと思ったとき、アラン様に呼び止められた。近くにはセレッサさんもいる。 「何か有ったのか?」 「実はさっき柵を作ったときに気になる物があって、確認しようかと」 「そっか、じゃぁ俺も一緒に行こう」  アラン様はキャンプ地設置を手伝わないのかな? と言おうとして思いだした。今アラン様は片手なんだった。  となると僕がホバリングして捕まってもらうというのも難しい。  それなら柵の一部を一回壊して作成しなおそう。 「分かりました、ではここを一回壊して」  鉄のように堅くなってる柵だけど、僕自身が壊す分には簡単。何せ作った本人だし、こんなこともあろうかと一定範囲毎にキーワードを設定してる。キーワードといっても呪文を唱える物では無くて、特定のイメージを流し込む形にしている。だから、キーワードというよりはキーイメージという方が正しいかも。もし誰かが壊そうとしても簡単にはいかない。僕のエーテルを真似た上で、キーイメージを流し込む必要がある。  キーイメージを流し込まれた柵の一部が、ドサリと音を立てて土の山に戻った。 「お、中々便利に作ってるじゃねぇか。キーイメージとお前自身のエーテル反応を利用してるのか」 「そうです。しかし、見ただけで分かるんですか?」  セキュリティを強化した方が良いんだろうか? 簡単に見破られちゃうのは想定外だなぁと思ってると、 「一応教授なんだぜ? 普通の術者じゃ分析出来ない事も俺様に掛かっちゃ朝飯前だ」 「なるほどー、ではキーイメージは分かりますか?」 「そいつは無理だな。出来ねぇわけじゃないんだが、お前がキーイメージを流し込むときにお前や柵に触れているとかしねぇと」 「じゃぁ滅多なことではやられないのですね」 「ま、そういうこったな」  ちょっと一安心 「ところで、この術はどこで学んだんだ?」 「前世の記憶と魂倉の管理人からです」 「ほんの少し会わない間にこんなのまで使えるようになるとはなぁ。大学の学生達がガックリきそうだな。くくく。まぁ最初に泡倉で術を使ったときも中々の物だったから、これくらい当たり前かもなぁ」  後は、魂倉の部屋で練習するときにはほとんど時間が経たないからね。魂倉の中でしっかり勉強して練習しても、外ではほんの数分という感じだし。 「では行きましょうか。こっちです」  柵を出て、堀の中に入り、皆を案内する。ほんのちょっとだけ歩くと、目指すポイントについた。  一見すると、周囲と何も変らないように見える堀だけど、この辺りで違和感があったんだよね。地のエーテルを練り、違和感があったところの土を掘る。掘ると言っても自分の手では無くて四大術でなんだけど。  避けた土を地上に放り出して行くと 「ん? なんだこりゃ、土の下から……。あれは……」  何やら円筒形の物が出てきた。直径は1.5m程。長さは5mほど。材質は……なんだろう? 木では無さそうだけど、土を固めて焼いた物? レンガじゃないね。 「土管だな。お、あそこから中を覗けそうだ。うまくすりゃ良いもんがあるかもしれん」 「いいもの? どういうことです? それにこれは誰が埋めたんでしょう?」 「ん? あぁ」  隙間の方に行こうとしてたアラン様。こっちを向いてこう言った。 「グレートリセットだ」 「グレートリセット……?」 「あぁ。幻魔大戦の最後、今は名を失った母神が起こしてしまった『|永遠の一日《エターナルワン》』。その永遠に繰り返す一日を英雄王ディーノが破壊した。その際に起きた現象だ」 「……」 「古代文明があった当時、地にはどこまでも都市が続き、人の居ない地はなかったという。しかしグレートリセットによりほとんど土地は原野に還った。それがグレートリセットだ。だけどな。不思議な事に、ときどき遺跡として当時の物が出てくることがある。この土管もそれだ。  俺の専門は一応古代文明の研究となってるんだが。こういう土管は都市の地下を走り汚物なんかを処理施設に流す為のものだったらしい。たまに中に当時の落とし物が残ってることがある」 「汚物、ですか?」 「あぁ。あ、大丈夫だ。もうグレートリセットから400年以上経ってるんだ。中の汚物はただの砂になってる」 「世界中にこんな遺物が残ってる可能性があるんですか?」 「あぁ、そうだな。色んな所を掘ったりすると出てくることがある。  そうそう。アレハンドロなんかのでかい街や王都なんかの壁は遺物だぜ。王都の壁はとても頑丈で、今の技術で作るとしたらとんでもない金が掛かる。  もちろん、この柵みたいにサクサク作るわけにもいかねぇ。あの壁一つ見ても古代文明ってのがどうして幻魔に対抗出来なかったのか分からん。もし今幻魔の大攻勢があったらあっという間に俺たちは滅んじまうだろうな」 「この土管もその遺物の一つ、ですか」 「そういうこった」  グレートリセットか。確かに古代文明は地を覆うくらいに栄えていたと聞いたことがある。でも今の僕たちの回りは森ばかりだ。森を通っても古代文明の跡地は見たことが無い。そういう現象が起きたのだったら納得いく。 「おい、クソガキ、面白そうなもんがあったぞ、ちょっと見て見ろ」  ぼーっと考えてた僕にアラン様が声をかける。いつの間にか隙間から奥をのぞき込んでた。そこを代わって貰い中を見る。中にはアラン様がつくった灯りがぷかぷか浮かんでた。土管の底にみえるのは、キラキラと輝くボール状のものが10個ほど? 「ガラスのボール?」 「いや、あれはスライムだな」 「スライム?」 「そうだ。古代文明では改良したスライムを使ってし尿処理をしてた。まぁ要は出た物をトイレから土管で処理施設に流し、そこをスライムが食って肥料に変えてたんだ。そのスライムの卵だな」 「卵、ですか?」 「そうだ。環境が厳しくなると、スライムはあーして卵になって耐える。また環境が良くなると卵からかえるんだ。王都でも一部で使われてるんだが。上手く世話をしないと死んじまうデリケートな奴でもある。コツがあるらしいが……」  ふーん。ちょっとずるいけど聞いてみようかな。 『ロジャー、セニオ、心当たりはある?』 『ちっと分かりませんな』 『泡倉の屋敷でもスライムは使っております。担当の者に聞いておきましょう』 『ありがとう。助かる』  やっぱり泡倉の方では使ってるんだ。僕の前世は古代文明の人なんだし、そうじゃないかと思ってたんだけど。しかし、コータローさんって何者だったんだろう。あんな大きな泡倉を持ってたんなら、きっと有名な人だったに違いないと思うんだけど。 「アラン様、泡倉の方で心当たりがありそうなので調べて貰います。なので、ちょっとこのスライムを使った村づくりを考えてみませんか?」 「おう。面白そうだな、やってみな。俺はこの手をどうにか出来ねぇか色々試したい」 「えぇ、なるべくお手を煩わせないように頑張ってみます」 「頑張れよ。あぁ、後、また泡倉の物をもらえるか? 鉱石なんか有ると良いんだが。もちろん金は払う」 「分かりました、後で泡倉の部下に聞いておきます」  土管の前後をより深く掘ってみる。土を避けていくと、中に入れるようになった。僕の身長だとまだ立って入れる。 「これが……」  土管の中に入り、手元に灯りを作る。ふわふわと鬼火がきらめく。灯りの術理具で使ってる冷たく青白い炎だ。  そうして土管の底を見ると、スライムの卵があった。  手に取る。表面はガラスのようだけど、それほど硬くない。ぐっと握るとむにゅっと形を変えた。下水処理のための改良されたスライムなんだから、水につければ戻るんじゃないかな。とりあえず、集めて泡倉に入る。僕のための倉庫というか小屋があるので底に放り込んでおいた。 【タイトル】 065 縄張りと村長 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2019-05-26 10:06:43(+09:00) 【公開日時】 2019-05-26 10:06:43(+09:00) 【更新日時】 2019-05-26 10:06:43(+09:00) 【文字数】 3,341文字 【本文(84行)】  真夏の夕方、皆汗だくで作業をしてる。いつも涼しげな顔をしているハイエルフ達も玉の汗をかいている。  海の方に日が沈む頃になると、ひとまずテントと術理具作成の作業をするだけの小屋が出来た。小屋と言ってもほんとうに屋根と壁があるだけの粗末な物で、いずれ作り直すことは間違いないとおもう。  当初神殿を優先に、という事だったんだけど、作業小屋がないと神殿に相応しい材料も確保出来ないということでそうなったみたい。  僕は、皆の意向を聞きながら集落の縄張りをしていたんだ。中心に神殿と井戸と広場。それを囲うようにそれぞれの家が建つ。開拓村では普通にあるレイアウト。  でも、下水を作るとなると中々そうはいかない。僕は皆を説得して四角形にブロックを作ってみた。  最初皆は不満そうだったけど、僕がスライムを確保して、世話の仕方も分かるということになると安心したみたい。  集落の家が建つ場所に沿って下水管を設置する。今の僕の腕では、直接土の中に土管は作れないので、一回掘ってそこに土管を埋め込むことになる。  簡単な縄張りをする。縄張りと言っても実際に縄を張るのではなくて、細くて浅い溝を掘る。間違えて足を引っかけても安全なように。  土管ができ次第、溝に沿って埋め込む予定。  土管はスライムが入ってた土管と同じサイズにする予定だ。今の人数では持て余すサイズだと思うけど、中に入るかも知れないし、この集落の人数が大幅に増えるかも知れないし。拡張しやすくしておきたいんだよね。  処理場は集落の柵の外に作る事になった。集落から出た土管と汚水は、スライムが待ち構える処理場にたどり着く。処理された水は川に帰る。  処理する中で生まれる汚泥は、肥料として優秀らしいので、集落で使ったり、コミエ村に持っていったりしよう。そう思って部下のイェニに話して見ると、ハイエルフ達も使ってるらしい。結構効果が高いようなので楽しみ。  それから残った時間で簡単なお風呂を作った。  屋根もないただ壁で囲ったスペースに浴槽と洗い場。中にはちょっと温めのお湯を沢山入れて置いた。コミエ村もそうだけど、湿度が高いから、ちゃんと体を拭かないと臭くて敵わない。やっぱりなるべく清潔にしたいよね。疫病なんか出たら嫌だし。  そうそう、不潔にしていると病気になりやすいというのは本当らしい。以前コミエ村の奥様からそう聞いた。王都でも薬師として有名だった奥様の話は中々広まらなかったらしいけど、疫病で半壊した村を助けるときに、清潔を心がけたらある程度二次被害を止めることが出来たんだって。  浴場から出た汚水は壁の外に溜めて、僕が焼却処分する。下水が出来るまでの間に合わせだけど、まぁ大丈夫でしょ。  井戸は後回し。一応僕が水を必要な分だけ作り出せるから。聞いてみると一人二人分ならともかく、十数人分の水と二つの風呂を用意するというのは、術者でも中々難しいことなんだって。これでもっと腕が上がったらとんでもない事になるかも知れないとアラン様は言ってた。僕の魂倉はかなりの高性能、ということなんだろうね。  まぁ守護者がいる魂倉なんてアラン様も聞いたことが無いというし、コウタロウさんの|贈り物《ギフト》だと思って割り切るしかないんだろうなぁ。  とにかく井戸は明日作成の予定。台所も明日。  今日はとりあえず無事を祝っての宴会になったみたい。  縄張りで広場とすることにした場所に皆集まり、たき火を囲む。  肉や魚、パン。これらは商隊の荷台に合った物や泡倉から持ちだした物。泡倉のセニオには、当分手厚く手助けするように命じている。  ここが順調に回るようになるまで、食料が足りないという事は無い、はず。ただ、同時に稼げるようになったらバスカヴィル商会から買い付けて持ってくるようにしないといけないだろうね。  そんな事をぼんやり考えていたら、親方のまとめ役になったカンデラリオさんが開会の挨拶をするところだった。 「なんだか良く分からんうちにあれよあれよと動いて、なんかこんなことになっちまったがよ、なんだか楽しそうじゃねぇか。貴族の横やりも、他の職人の嫌がらせもない自由な物造りが出来るなんてよ」  周囲の人々の顔は真剣だけど悲観している風には見えない。強いな、そう思った。 「俺たち全員でここに良い居場所を作ろう。なーに村長やアランの旦那にハイエルフの皆さんも助けてくれる。きっとどうにかなるな! さ、俺の方からはここまでだ。村長に一言挨拶もらおうじゃねぇか」  ん? 村長って誰? と思ったら皆僕の方を見てる。僕の後ろにはハンナが居るけど、ハンナも僕を見つめてる。 「ひょっとして、僕?」  皆が頷いた。アラン様もロベルタさんも親方3人も頷いてる。 「そんなの聞いてないですよ」 「そりゃそうだ! クソガキには黙って決めたからよ! ギャハハ!」  とアラン様は嬉しそう。でも 「ちょっと待って、僕、養い子だし、人をまとめる仕事なんてしたことないですよ」 「養い子になるときの借金なら俺が払っといた」 「えーーー! 金貨数枚分(数十万クレ)は有ったはずですよ。安い術理具なら買えちゃうじゃないですか!」 「ギャハハ! そのびっくりした顔が見たかったからよ」 「いたずらにしちゃやりすぎですよ。ほんとはどうしたんです?」 「そりゃよ、養い子のままだとお前は神殿の庇護を得られるが、同時に色々横やりを入れられることもあるはずなわけよ。今後お前がすげー成果をあげたときに神殿がまるごと奪いに来る可能性だってある。そう考えて、俺とセリオで決めたのさ」 「しかし、お金は……」 「ま、先行投資というか、命を助けて貰った礼みてーなもんだ。あんときお前とハンナが来なかったら俺たちは今頃こうしてないぜ。気にすんな」  みんなも同じ意見みたいだね。となると 「分かりました。ではそれは受け入れます。アラン様、養い子からの開放ありがとうございました。先行投資が無駄だったと言わせないようにします。  それで、あの、村長に、というのは? 正直言って僕じゃなくても著名な学者であるアラン様や神官のロベルタさんでも良いでしょうし、親方方のまとめ役であるカンデラリオさんでも良いはずです。多少術が得意とは言え、まだ6才の僕が村長というのは……」  周囲で「え? 6才? 12、3だとばかり」という声があがる。 「年より大きく見えるのは、前世の影響なんです。すごく背が伸びるのが早いんですよ」 「大人びて見えるのも前世の影響。ハンナはこう見えて4才。若い」  とハンナがフォローしてくれた。ちょっと笑いが起きる。前世の影響で普通と違ったことが起きるというのは、割と起きることなので、皆受け入れやすいみたい。  カンデラリオ親方がこっちを見て、しみじみと言った。 「俺たちを救ってくれたこと、泡倉に入れてくれたこと、ここまで連れてきてくれたこと。  手伝いを付けてくれたこと。しかもそれが電設のハイエルフと来たもんだ。おまけに村を立てるための素材まで提供してくれる。どれを取っても生中な恩じゃないぜ。だから俺たちはあんたを村長にするって事に決めたんだ。  何、難しいことを一人でさせるってわけじゃないさ。あんたをもり立てる為に俺たちだって相談に乗るさ。間違ってると思ったら意見もする。だからサウルさんよ、村長になってくれ」 「そうだぜ、俺たちの気持ち受けてくれ。それによ。貴族だって生まれたばかりの赤子が当主になることだってあるんだ。6才のクソガキが村長になっちゃいかんって事はねえだろ。それによ、ここまでのお前の采配、悪くねぇとおもったしな」  と、アラン様。村長になってもクソガキ呼ばわりは変らないのですね……。いやまぁいいですけど。 「ふう、分かりました。こんな小さな集落ですし、とりあえず僕が村長になります。でもむらが大きくなって僕が長ではまずいと言うことになったら誰かに代わって貰いますからね。それでも良いですか?」  皆が拍手をし、僕は立ち上がって礼をした。これで僕が村長ということになった。養い子だった僕が、村長かぁ。思いもしない展開だな。 「村長さんよ。村の名前はどうする?」 「そうですね。ただの隠れ里という訳にもいかないでしょうしねぇ。でもちょっと思い付かないので、皆で2、3日考えましょうか。  まぁそれはともかく、料理が冷めないうちに食べましょう!」 【タイトル】 066 土木工事 【公開状態】 公開済 【作成日時】 2019-05-27 08:49:54(+09:00) 【公開日時】 2019-05-27 08:49:54(+09:00) 【更新日時】 2019-05-27 08:49:54(+09:00) 【文字数】 3,411文字 【本文(64行)】  その夜は結構遅くまで起きていたので、翌朝起きたときには既に日が昇ろうとしていた。周囲の草むらから虫の声。河原の方からは蛙の鳴き声。ちゃんと確認して無かったけど、湿地が有るのかも知れない。  起きて、昨日の宴会の残り物で朝食を済ませる。  さて、どうしよう。  コミエ村やアレハンドロの皆さんにどのタイミングで知らせるか。  僕とハンナのホバリングなら、一日のうちに往復できる。今から出発してお昼に戻ることも可能だと思う。ただ、ちょっと早すぎて怖いけど。こないだの戦闘に突入するときに出した150kmくらいのスピードなら1時間もしないうちにアレハンドロに着く。あれは怖かったのでやりたくないなぁ。もし障害物にぶつかったら死んじゃうと思う。  僕はしばらく考えてたけど、どうしたら良いか分からない。こういう時には大人に頼ろう。  丁度アラン様とロベルタさんが話をしているところを見かけたので、話しかけてみる。 「今の状況を早めに知らせた方が良いかなぁと思うんですけど、どうしましょう?」 「ん? コミエ村まで2日くらいの距離だろ? アレハンドロまで行くとしたら10日は見た方がいいだろうし。  っと、待てよ。お前ここまでどうやって来た? アレハンドロを追い出されてからここに来るまで2日だったな。コミエ村にはその日のうちについてたし。あ、あれか。あの時の戦いに飛び込んできたときのあのクソでかい音を立てた術か?!」 「はい。ホバリングという遺失術をコウタロウライブラリから発掘しました。馬や鳥より早く地面を走ることが出来ます」 「ちょっとやって見ろ」  ということになり、その場でホバリングを披露することに。最高速度が時速100kmを超えること、出したことは無いが200kmも可能という話になると、アラン様は食い付いた。 「よし、その術すぐに教えろ、いや、後でもう少し詳しく見せろ。習うのはなんか抵抗がある」 「あの、マサース教授。今はその話でなく、いつコミエ村やアレハンドロに行くか、と言う話ですよ」  とロベルタさんが話を引き戻してくれる。 「あ、あぁ、後で必ず見せろよ。まぁともかく、そんな便利な術があるなら急いだ話じゃないな。とりあえず、お前、下水だけでも整えてしまえ。そしたらその上に建物を建てるようにするから。そしたらお前がしばらくいなくてもどーにかなるだろ」 「分かりました。急いで下水を整えますね。後、スライムを入れるための池と術理具を準備します」 「お、スライムのための術理具ってのはなんだ? どんなコツだったんだ?」 「スライムは改良された際に、水だけじゃなくて風のエーテルも必要になったそうなんです。なので、スライムを育てる場所には、風を含ませるために|曝《ばっ》|気《き》という処理が必要なんだと聞きました」 「具体的にはどうするんだ」 「簡単に言うと、水に空気を含ませれば良いとか。で、今回の場合だと、水底に小さい穴を沢山空けたチューブを用意して、そこから空気をぶくぶく吹き出させます」 「そんなんで大丈夫なのか?」 「まぁ実際にやってる部下達がいますので大丈夫だと思います」 「分かった。じゃぁちょっとホバリングを見せてくれ」  と言うことで簡単にホバリングのやり方をアラン様に見せる。初期の起動から浮上、それから背後のチューブから空気を吹き出すところまで。  さすが王都の大学で天才と言われたアラン様はコツを掴むのも早かった。  完全ではないが何とか浮かび上がり、前後左右に動けるようになるまで30分もかからなかった。アレハンドロの組合で教えたときには、浮かび上がることすらままならない人がほとんどだったのを考えると、凄い事だと思う。僕だって実は魂倉で散々練習したんだし。  あ、そういえばハンナは何でいきなり使えたんだろう? 前世でコウタロウさんと親交があったから、そこで経験があったのかな?  それから、昨日やった縄張りに従って穴を掘り始めた。  簡単に済むと思ってた穴掘りだったけど、作業を見ていたハイエルフの一人に駄目だしされた。水を流すための傾斜がちゃんと付いてないので、このままだと逆流したりゴミが留まったりして良くない、とのこと。  じゃぁ浄水場の方に向かって傾斜するようにしなきゃと思ったけど、どうすれば良いか思い浮かばない。その部下に聞いても良かったんだけど、魂倉のライブラリを頼ることにした。魂倉に入り、その中に浮かび上がる応接間のような空間に入る。テーブルに知りたいことを入力して待つと、術理具と術の合わせ技で水平を測る方法や、逆に角度を付ける方法を頭に入れ込む。また、土地の高低を図る方法も入れる。そうしてそれを便利に使うための術が無いか探す。  ある地点とある地点の高低を感じる術がある事が分かった。  作られた時期的に古代文明のものだと思う。非常に古くて、潤沢にエーテルを使う物。それにエーテルのことを魔素と書いている。幻魔大戦以降なら魔の文字を避けるはずなのだ。だからこの術が古いものだとわかった。  本来は対となる術理具を使って土地の状態を管理するのだけど、僕には残念ながらそれがない。なので、僕の脳裏と魂倉で管理できるように変更した。僕一人の能力では管理しきれないかも知れないけど、ロジャーもいるし魂倉もあるしなんとかなるだろう。  魂倉から浮かび上がると、適当な小石を100程度選び取り順番に術を掛ける。小石はオレンジの蛍光色で光り始めた。石には番号が刻み込まれてる。番号目録浮かび上がる。これなら、置き場を間違えることはない。  光る小石を地面に置くと、それが目印になって土地の高低などを僕に教えてくれる。ハンナとハイエルフ、手の空いた子供達にも手伝って貰って縄張りをした場所に石を置いていく。勿論番号順においてもらう。そうじゃないと僕の脳が混乱してしまうから。  そこから土管を作る事にしたんだけど、元となる土は掘り返した土を固めて作る事に。できれば数十年数百年持って欲しいから、ただの固めた土じゃなくて表面を焼き締めてざらざらのガラス質にするように。  ただ、そうすると一つ作るのに結構時間が掛かってしまう事が分かった。集落の規模だけど、ちょっと僕一人ではやってられないかも。  ハイエルフの部下のリーダーであるイェニに声をかけて、僕のやろうとしてることが手伝える人を数人派遣して貰う事にした。  職人さん達にも聞いてみたけど、こういうのは出来ないとのこと。職人さん達は家や神殿を作ってる。倍力の術理具を使ってるから、小さな子供も立派な手伝いになってる。小さな子供が丸太を軽々と運ぶ様子はなんだか面白い。僕も子供だけどね。  集まってきた5人のハイエルフ達にやりたいことを説明し、幾つか質問に答えると、早速仕事に取り掛かった。勿論僕も一緒だよ。  集落の北の方から南の川の方に向けて傾斜を付ける。傾斜の具合は急すぎず緩すぎず、なんだけど、正直自信は無い。まぁ失敗したら水を強制的に流してどうにかするしかないかな。  目印に沿って土を掘り、掘り返した土を土管にして再び埋める。微妙に傾斜を付けて。で、最初は僕も作業をしていたんだけど、傾斜の具合や穴の深さなんかで僕の指示がないと上手く回らないことが分かり、僕は皆の監督みたいな事になってた。  ハイエルフ達は10カ所も作業をするとへばってしまった。精度は問題ないけどスピードは遅い。  え? もう? と聞くとこんな大規模かつ精密な地の術を連続で使うことが無く、魂倉が目詰まりしてしまったんだという。そう言われては仕方が無いので、休憩を挟む。甘い物なんて気の利いたものは無いので、土で作ったコップにお湯を入れて差し入れた。今度アレハンドロに行ったらお茶でも買っておこう。でも、お湯でも結構喜んでもらえたのは良かったと思う。  ハイエルフが言うには、この集落を囲んだ柵は慣れた術者が数人がかりで数日掛けて作るレベルの物、らしい。地上の方に出してる分だけならともかく、あの柵は地下にも2mほど柱が埋め込まれている。そこまで行くと難しいのだそうだ。 「ただ、術そのものには粗も見えますな」「高出力の魂倉による力押しというか」「この土管の作業、失礼ながらサウル様の精度はギリギリ合格のレベル」「へばってる我らが威張って言う話じゃないですが」  なるほど。そういう事も有るのか。僕ももっと練習したりしないと行けないなぁ。コウタロウさんのアイディアと魂倉のゴリ押しで何とかやってる自覚はあるからどうにかしないと。