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『コミエ村のサウル。契約に基づき、扉の開放を行います。衝撃に備えてください』
 途端に視野が開けた。いや、目はつぶってるんだけど。頭の中のもやが晴れたような。司祭様が立つように言ったので立ち上がる。両隣のエミルとアニタが居るのが分かる。真正面の司祭様がこっちをじっと見ていた。
 自分の中身が変わった。そう感じた。語彙が違う。というか、さっきまで語彙などと言う単語は知らなかったはずだ。単語なんて言葉も。自分のことを自分、と認識することも無かった。
 おかしい、僕は誰だ? コミエ村のサウル、5歳。誕生日は分からないけど、夏だったはず。父はドミンゴ、母はイネス。3つ上に兄のブラス。すでに死んだ名前も知らない姉。
 こうして独白する間にも、違和感がどんどんと増していく。不快感が増す。頭痛がする。下腹部に火箸でも突っ込んだような熱さ。一つ考えれば二つ三つと違和感が増す。何が分からないかも分からない。頭がグルグルする。何も考えたくない。
 気がつけば、目の前に司祭様がいた。隣には村の戦士の人。抜き身の剣を持っていた。
「僕は誰ですか?」
 と、次の瞬間意識を手放していた。
 気がつくと周りは暗く、小さな灯りが一つついていた。
 かすかに見える天井は、見慣れた物では無い。寝床も違う。いつもの匂いは無い。家の寝床はあまり干さないので、湿っぽいし、獣の匂いがする。しかし、この寝床はどうしたことか、この辺りで嗅いだことの無い花の香りだ。多分薔薇だと思う。
 薔薇、か。
 僕は村から出たことが無い。薔薇なんて知らない。なのにこの香りが薔薇のものだと知っている。
 気味が悪い。
 自分自身が恐怖の対象になるなんて思ったことも無かった。まぁついさっきまで、自意識を持っているかすら怪しいただの子供だったわけだけど。
「僕に何があった?」
 寝床の縁に腰掛けてつぶやくと、目の前が陽炎のようにゆらりと揺れ、1人の大人の男が現れた。
 年は父と同じくらいか。細かいウェーブの掛かった黒髪で、細身。上等そうな服を着ている。顔は整っているが無精髭が生えていて、唇の片方だけをつり上げて笑みを浮かべている。
 そしてなんと、背後が透けている!
「坊っちゃんは、坊っちゃん。間違いなく、コミエ村のサウル様でさ」
 ぼくがしかめっ面をすると、
「おっと、お初にお目に掛かります。あっしはロジャーと申す者。坊っちゃんの《《魂倉》》管理人を任されました。ケチな小者でありますが、以後お見知りおきを」
 ロジャーと名乗る怪しいおじさんは、優雅に膝を曲げて礼をした。まるで僕が貴人か令嬢かのように。
 魂倉というのは、色んな生物が持っている大事な物で、下腹部にある。エーテルを貯めたり、術を使うときの要だったり、スキルを使うときにも使うらしい。後は、新しいスキルを取ったり、伸ばすときにも、魂倉の中に溜まってる何かを使うそうだ。
 無くなっても生きていけるらしいが、何もできなくなるし、病気にもかかりやすくなる。犯罪者への処罰の一つに、魂倉を抜くものがあるという。
 だが、魂倉に管理人がいるなんて聞いたことが無い。魂倉はうすぼんやりした返事を返すことがあるという。とは言っても言葉ではなく、はい、いいえ、といった雰囲気がぼんやりと持ち主に通じるだけらしい。
 まぁこの辺は神官様の受け売りなんだけど。
 ロジャーおじさんは、じっとこっちを見ている。何か言わなきゃ!
 僕は何故だか、ここは強気に行かないと駄目だと思った。
 大きく息を吸い込んで……。
「ロジャーおじさん、僕のこの状況の原因はなんでしょう? 教えてください。後、あなたを任命した人、誰ですか?」
 ……強気じゃない気がする。ま、まぁ僕はただの村人だし、子供だから大人怖いし、仕方ないじゃない! 多分、僕頑張ったと思う。
「坊っちゃん、おじさんはあんまりでさぁ……」
 ロジャーおじさんは意外とダメージ受けていた。僕は無言で促す。
「坊っちゃんは、《《前世》》と言う言葉ご存じで?」
「……何故だか知ってるね」
「坊っちゃんの前世は凄いお方でやした。神々の王とすら親しげに話せたほどで。その偉業を讃えられたそのお方は、次に生まれるとき、色々と便宜を図ると神々から約束された訳でさ。あっしもその便宜の一つってこってす。坊っちゃんをお助けするようにと言付かってるんでさ」
 神々の王が云々というのは話半分に聞いておく。魔族が僕をだますために演技している、という可能性はある。しかし、ロジャーおじさんは大丈夫だと思った。根拠は無い。
「いつまで?」
「坊っちゃんが死ぬまで」
「報酬は?」
「坊っちゃんのエーテルからほんのちょっと」
「副作用は?」
「無し」
「他の人から見える?」
「今は見えやせんが、お望みとあればいかようにも」
「何ができる?」
「それはまた追い追い」
「前世のことはどうすれば分かる?」
「今はまだ」
「ここはどこ?」
「すぐに分かりますぜ、坊っちゃん」
 途端、ロジャーおじさんは煙のように消え、ノックも無しに部屋の扉が開いた。
 そこには、村の神官様と戦士様が1人、険しい顔で立っていた。
【タイトル】
004 確認二つ
【公開状態】
公開済
【作成日時】
2017-05-31 20:33:43(+09:00)
【公開日時】
2017-05-31 20:33:43(+09:00)
【更新日時】
2017-05-31 20:33:43(+09:00)
【文字数】
3,415文字
【本文(112行)】
 神官様と戦士様は、扉を開けたところで寝床の縁に腰掛けた僕と目が合った。お二人は、険しい顔のままだ。朝までの僕が見たら泣いてたかも知れない。
「こ、こんにちは」