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「問題ありません司祭様。私は古代文字が読めませんので。それに、解説して下さるのでしょう?」
「では」
 司祭様が、ボタンをガチッと勢いを付けて押す。僕にはディスプレイの変化は分からなかったけど、司祭様と奥様の表情が変わるのが分かった。
 ……ん? ディスプレイというのは、あの光る板のことなのね。
「確かにこれは第二級が必要だね。第一級でも良かったのかもしれない」
 司祭様の声はちょっとぼんやりしていた。
【タイトル】
005 過大な贈り物
【公開状態】
公開済
【作成日時】
2017-06-06 18:03:40(+09:00)
【公開日時】
2017-06-06 18:03:40(+09:00)
【更新日時】
2017-06-06 18:03:40(+09:00)
【文字数】
3,211文字
【本文(96行)】
 司祭様と奥様はしばらくじっとディスプレイを見ていた。一分? 二分?
「……状況を整理しましょうか、マリ。この鑑定結果は突っ込みどころが多すぎます」
「あたしゃ、見なきゃ良かったって思ってるよ」
「まぁまぁ私たちは夫婦ですし。病めるときも健やかなるときも、苦楽を共にしようじゃ有りませんか?」
 神官様がにっこり笑いかけると、奥様が顔を背けた。戦士様が何故か咳払いをする。
「名前欄の横。肖像の部分に既に絵が入ってますね。これ、鑑定機のオプションサービスのはずです。おまけにこの絵、食事とっているときです」
「念写の術はあるが、あれは割とぼんやりしている。こんなはっきりとは写らないね」
「身分等の欄に、前世とありますね。でも、誰の転生なのか不明、と」
「前世持ち自体は、ぼちぼち有る話さね。この世界では魂は輪廻して、神に近づくんだから。事情があれば前世のなにがしかを引き継ぐことはある。この村にも一人居たんじゃ無かったかい? 確か、前世が冒険者だったのが。だけど前世が誰か分からないというのは珍しいねぇ」
 神官様も奥様も、僕からは見えてないけど戦士様も、僕を見る。
『坊ちゃんにお任せしまさ』
 と、ロジャーおじさん。ひどい。
「……僕にも前世が誰かわかりません。名付けの儀で女の人の声が聞こえて、頭がくらっときて倒れました。起きてから、思考がはっきりして頭が良くなった感じはするんですけど、僕にも何が起きているのか分かりません」
 嘘は言ってない。ロジャーおじさんの事は聞かれてないし。
 神官様は首をかしげて、まぁいいでしょう、と。
 諸元は、地水風火空の五つに分かれる。それぞれの元素に対して、肉体、精神、霊性があり、それぞれ成人の値は5から10くらい……。あ、なんか違う。桁が一つ違うなぁ。
 風の精神は思考、理性などだけど、僕の値は85と書かれている。体格などを示す地の肉体は28。僕、同年代と比べて体小さいもんね。多分、一桁上げているんだろうな。もともと2D6用に作ったシステムだったし……。
 現在値、最大値は良いけど、成長限界なんてのもある。派手な数値になってるなぁ。
「名付けの儀が終わったばかりの子の精神とは言えない数値ですよね、これ」
「風の精神が飛び抜けて高いが、他もすごいよ。言っちゃ悪いが、地の精神は自我だけどさ。これが高い農村の住人なんて滅多にいない」
「それにマリ、成長限界が高い。100を超える諸元が幾つかある。天賦の才があるよ、この子には!」
「上手く育てれば、どの分野に行っても上手く行きそうだね」
「神官様奥様、引き取られますか?」
と、戦士様が声をかける。
「うーん、そうだね、マルコ。ちょっとこの子の親とも話をしたいところだね。まぁそれよりこの技能樹を見てご覧。すごいね。学会で報告したいと思わないか、マリ?」
「技能の可能性が全く無い奴も多い。持っていても下位技能。それだって数個有れば良いところ。中位技能の可能性が一つあれば御の字さ。上位技能を持ってる奴なんざ聞いたことも無いよ、あたしは」
「それがこの子は、全技能の封印が開いている。ほんと、この子の前世は誰だったんだろう。ここまでのギフトが得られるなんて」
「エネルギーも3000かい! 普通なら100も有れば将来が変わるほどの大騒ぎなんだよ! 300もあれば貴族に仕えることだって……」
「まったく! 腹が立つほどすごい! これだけあれば、闘気術も他の術の底上げもやりたい放題じゃ無いですか!」
 僕の頃は、技能の取得可能性なんて無かったんだけどな。《《経験値》》さえ有れば、なんだって取り放題。あ、神関係と他の術関係は同時取得できなかったけど。
 それと、闘気術という枝があるな。あれは見覚えない。
 確かに3000は多い。《《作りたて》》なら役割に合わせた初期技能パックに500程度だったような。ちょっと感覚が違う部分がありそう。気をつけなきゃ。
 ……また《《知らない知識》》が混じってる。気にしないようにした方が良いのかな? 気をつけた方が良いのかな? 何をどう気を付ければ良いのか分からないけど。
 まわりをきょろきょろ見ると、神官様も奥様も、ディスプレイを見て、油物を食べすぎた後のような顔をしていた。戦士様も渋い顔だ。
「んーーー。私は眼鏡を買わないといけないな。とびきり上等な奴が必要だと思う。旅に出るのも良い」
「セリオもかい? あたしも二つばかり買わなきゃいけないと思い始めたところさ」
「神官様、奥様いかがされました?」
「泡倉をこの子が持っているそうなんだけどね。大きさが《《酷い》》んだ」
「酷い?」
「泡倉の異能はありふれた物だけど、その分大した力は無いよね。大抵は財布代わりにしかならない。大きな泡倉でも|背《はい》|嚢《のう》二つがいいとこ」
「となると、神官様。荷車一つ分でも出ましたかな? そうなれば、コミエ村も助かりますな! はっはっは!」
 場を和ませようとした戦士様の笑いが、虚しく僕たちの間を通っていった。
 戦士様の健闘むなしく、大きなため息をつく神官様と奥様。その《《設定》》を聞けば、確かに僕もため息をつきたくなる。
 このギフトはやり過ぎだ!
「分からないよ。でかすぎんだ、この泡倉」
 忌ま忌ましそうに奥様が言う。僕は何故か申し訳なくなってきた。
「そうなんです。《《縦横高さ500km》》という空間は想像すらしたことがありませんので」
「……神官様、奥様。このマルコも、お買い物の際にはお付き合いしたいと思います。どうも耳の通りが悪いようでして」
「500kmか。あたしは地理に詳しくないけどさ。ひょっとすると、この辺りの国全部合わせたより広いかもしれないね」
「なんだか疲れました。夕食にしましょう。この情報は刺激的すぎます。報告書、は……。先ほど誓言を承認したばかりですから、書けませんね。さすがに死を賭して報告する程、上に忠誠はありませんし」
「確かに、あんなへなちょこ野郎ども、これっぽっちも教えてやる義理は無いよ! しかしまぁこれは、かなり刺激的だよ。この|贈り物《ギフト》は一人の人間が受けるには多すぎる。|贈り物《ギフト》に潰されなきゃ良いがね。さて、ちと汁を温め直すとするか。マルコも食べて行きな。どうせ準備してないんだろ?」
 何となく、流れで鑑定は終了した。