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 もう一回撫でると、さらににへーっとしたので、ほんと可愛いなって思った。
 全員揃うと、神官様が話を始めた。どうやらお客様も含めて僕の鑑定を見て貰うらしい。誓言をするということだから大丈夫だと思うけど、どういう人達なんだろう?
 僕の考えが顔に出ていたのかな? 神官様が簡単に話してくれた。
 アラン様は、王都エスパにあるシンセロイ大学の教授。古代文明の発掘や当時の術や技術の復元が専門。とはいえ、一種の天才なんだそうで、何でも気になったものは手を出すのだそうだ。あのお話のされ方で天才、かー。なんか不思議な感じ。
 セレッサ様。顔に付いてるのは眼鏡と言うらしい。アラン様の秘書と言う仕事をしているのだそうだ。秘書というのは、偉い人に付き従い、事務などを行って仕事を助ける役なのだそうだ。確かにアラン様は細かいことは苦手そうだ。
 ハンナはアラン様が数年前に拾った子、なのだそうだ。普通の子に命の掛かった誓言をさせるのは難しいと思うけど、そこは大丈夫なのだそうだ。
 僕が持っていた黒いタブレットを、神官様に渡す。鑑定機の上にあるスロットにタブレットを入れると、ガリガリと大きな音がした。続いてディスプレイが出て、鑑定機からボクの方に光が伸びる。本人確認の合図が出て神官様が鑑定を開始する。
 続けて誓言を受けるかどうか書かれた小さなディスプレイが、まだ誓言をしてない人達の前に現れる。全員が承諾したところで、僕の鑑定結果が表示された。
 前回から諸元も技能も伸びている。風の精神が伸びている。90台だ。地の肉体も変化があるので、背が伸びたり体が丈夫になるかも知れないな。
 技能は術系が中心。基本となる下級技能のエーテル操作、エーテル感知などが軒並み2。
 神術は祈念が1で、四大術は無し。探索術も無し。闘気法は肉体強化が1になっていた。エネルギーはそれなりに減っている。計算してないけどちゃんと減っていると思う。
 
「ギャハハ! なんじゃこりゃこりゃすげーな、サウル! 500kmの泡倉ってなんだよそりゃ! おかしすぎんだろ! ちょっとお前大学来いよ。俺が面倒見てやるからよ」
「アラン様、社会経験の乏しい子供をあんな魔窟に放り込むなど正気ではありません」
「わりぃわりぃ、冗談だ冗談、はーおかしい。でもよ、実際どうするよ? サウルをこの村で匿い続けるのは難しいんじゃないか?」
 そこを神官様が引き取った。
「そうなんだよね。私も50を超えてる。数年は良いとしてその先、新しい司祭が来たりすれば対応が変わることもあるだろうね。その際にサウルの力が漏れる可能性がある。いや、高いと思うよ」
「あの、神官様、誓言で守られるのでは?」
「そうなんだけどね。あれは鑑定内容を話さないというものだから、見られてしまうとどうにもならないんだ。例えば、サウルの泡倉。井戸の水を運ぶとき、使ってたでしょ? あぁ言うの見られたら誓言に引っかからないんだ」
「え? あれ見られてたんですか?」
「うん。テオがたまに君を見てたんだよ。彼は偵察の専門家だから、君に気づかれず見張るなんて訳無いのさ。まぁそうじゃなくても何かの偶然で、ということは大いにあり得る」
「そうなるとよ、やっぱり王都にでも出て揉まれた方が早いんじゃ無ぇか? 適当に名前変えて冒険者にでもなればよ、やばくなったらトンズラで行けるんじゃね?」
「それは、逃げ出せるだけの力と判断力を持ってる場合だよアラン。サウルは賢いけど力も無く機微に疎い。騙されてしまえばおしまいだ」
「じゃぁどうすんだよ。このまま世捨て人になれってか? 5才でそりゃあんまりだぜ」
「そうだね。しばらくこの神殿で力を付けて貰おう。そうしたら何らかの方法でこっそり世に出して、判断力を付けて貰おう。後は本人の自由かな?」
「適当な案だな。まぁでもそれしか無いか。しかしよ、サウルはどうしたいんだ?」
 僕に視線が集まる。ほんとは、大人の言うこと、神官様達の言うことだから、どうなっても従おうと思ってた。僕よりえらい人や頭の良い人の決めることだし。僕には何も無い。お金も力も権力も。
 でも、その時、ハンナと目が合ったんだ。ハンナは、ただただ純粋に僕を見てた。打算も無く、ただ期待して僕を見てた。そしたら良い子にしてるのが恥ずかしくなった。そして、気がついたら声を出していた。そんなこと言うつもりは無かったのに。
「皆さん。何故、僕のことをそんなに考えてくれるんですか? 僕が|贈り物《ギフト》を持っているから? 僕は皆さんに何か返せるか分からないのに」
 食堂が《《しん》》と静まって、皆僕の顔をじっと見ていた。
【タイトル】
014 目的と方針2 彼の居場所
【公開状態】
公開済
【作成日時】
2017-07-02 18:10:46(+09:00)
【公開日時】
2017-07-02 18:10:46(+09:00)
【更新日時】
2017-07-02 18:10:46(+09:00)
【文字数】
3,654文字
【本文(104行)】
「確かに」
 5秒だろうか10秒だろうか、1分だろうか、たっぷり沈黙が続いた後、神官様が口を開いた。
「私たちは同じ村に住む仲間ではあるけど親しかったわけじゃないね。実際今回の騒動が無かったら接点らしい接点も無かったと思うよ」
「それに、このアラン様に至っては、ついさっき知り合ったばかりという有様だ。そりゃー、幾ら誓言があるとは言え純真なサウルちゃんは不安になっちまうわな! 悪い大人に利用されちまうんじゃねーか、ってよ? ウヒャヒャ!」
 アラン様がギャハハ! っとけたたましい笑い声を出してまた咳き込む。なんなんだろう、この人。僕は凄く勇気を振り絞ったのに! 馬鹿にしてるの?
 神官様はアラン様が咳き込んでいるのを見て、言葉を継いだ。
「まず、小さな子供を助けるのは大人の甲斐性だと思うんだ。あぁ、確かに君の家は君を抱えきれずに外に出した。でも、いや、むしろ、だからかな。私は君を助けたいんだ。哀れみ、同情、神官としての良識。色んな理由が有る。けど、そこに損得はあまりないかな」
 ようやく落ち着いたアラン様がニヤニヤ笑いながら
「おいおい、神官様よ、そうは言ってもサウルを養って行くにも色々物入りだろう? 食い物、服、家、教育を与えるにも色々かかるじゃねーか。その辺の収支はどうすんだ?」
「なんで良い話にまとめようとしてるのに、そういうこと言うかな? アランは」
 確かに底は気になっていたので、アラン様に素直に頷いて見せた。すると神官様は小さく首を振って
「……賢いのも考え物だね。まず、お金のことだけど。細かい金額は知らないけど、神殿にはサウルのような子供を引き取るための予算がある。まぁ申請してからになるから、しばらく掛かるかも知れないけど。そのお金は色んな所から集めた喜捨が元だから、それをサウルが気に病む必要はない。それに、この村がたまたま上手く行ってるだけで、普通は身寄りの無い子供が神殿預かりになってるものなんだよ。だから、私たちも別段サウルを受け入れるのが負担という事は無い。問題ないよ」
「おーおー! さすがセリオ様! 神官の鏡! ギャハハ!」
 そんなアラン様を神官様がまた嫌そうな顔をしながら
「あー、はいはい分かりました! サウルのギフトは魅力的だよ! あんな泡倉見て興奮しない研究者がいるわけない! 私も研究したい。そういう気持ちがあるのは確かだよ。あぁ、もう。なんてこと言わせるんだ。まったく……」
「けっけっけ。どうよサウル。合点がいったかよ?」
「はい。大体は。それでアラン様は?」
「え? 俺? 俺の事は良いじゃねぇか。俺様はアラン・マサース様だぜ? 俺様のような偉大な研究者は人格も完璧だからよ。お前みたいな弱者は救ってやるのが義務ってだけだ。気にすんな」
 あ、目をそらした。そこにセレッサ様が眼鏡をくいっとしながら
「こちらにいらっしゃいます世界有数の天才で有り高潔無双なアラン・マサース様にも、幼く力ない頃がございました。その頃支えて下さったとある高名な神官様に、アラン様はお尋ねになられたことがあったそうです。『自らは力なく、あなたに恩を返すこともままならない。どうすれば良いのか』と。神官様は答えました。『アラン、君は私に恩を返す必要は無い。私はそうしたいからそうするのだ。ただ、もし君が同じ境遇の子を見たなら助けてあげなさい』と」
 顔を真っ赤にさせるアラン様。何故か向こうを向いて赤い顔をする神官様と奥様。
「セ、セレッサ! お前その話どこで?!」
「アラン様。女性には様々な秘密がある物です。それを聞いてはなりません。……そういうわけですからサウル様。お気になさらず。皆様好きでされているのです」
「あ、そうそう。サウル、言っておくけどな。幾ら俺らが崇高な魂をしているとはいってもよ、無制限にお前を受け入れる訳じゃねぇぞ。お前が悪に落ちれば、このニュースフィアのどこに居たってぶん殴りに行くからな!」
 周りを見回してみた。神官様も奥様も戦士様も見張りの人偵察の人アラン様にセレッサ様、ハンナまで。
 みんな、僕のことを見ている。なんか変だな。目の奥が熱いし、鼻水が出てきちゃう。しばらく目をパチパチしていると、ハンナが近づいてきた。
「あのね、ハンナね。サウルのことすきだよ! いいにおいがする! ハンナね、おおきくなったらサウルとけいやくするよ。よげんなの」